・01 駐車場 なんだか少し寒くなってきた季節の夕方五時くらい、寂れたショッピングモールは珍しく大騒ぎだった。 ストライクドラモンが素早く駐車場を駆け抜けると有象無象の成長期デジモンが吹き飛ばされる。 「おっ、おのれぇ!祭後終…貴様、我らの崇高な目的を邪魔するというのか!この愚か者めぇ!!」 「なーにが崇高な目的だよ。試食コーナーを食い荒らしてるだけじゃねぇかよ 」 祭後終と呼ばれた青年は「仕事帰りだぞこっちは…」と当然の悪態をつきながらネクタイを緩めてコートのボタンを外す。 「ほざけぇ!」と周囲のオアシス団を仕切るT-542号が叫ぶと、団員達が一斉に飛びかかった。 その隙間を潜り抜けるようにストライクドラモンが駆け回ると再びエアドラモンを始めとした彼等のデジモン達が一気に吹き飛ばされていく。 「アレが祭後終よ」 「わー!にっきにかかないと!『今日はオアシスだんのおしごとで…』」 「さ、それはお家でやりましょ。またお父さんとお母さんに怒られちゃうわ」 それを遠巻きに見つめていたのはオアシス団の新人研修に訪れていた女性と子供だった。 車に乗り込んだ新人・S-703号くんはしっかりとベルトをした事を仮面の女・AM-310号に報告すると、車はエンジンの音を立ててその場を去った。 誰もが激しいバトルに夢中でその車を誰も気にはとめなかった。 その頃、シュウ達の快進撃は一匹のデジモンに受け止められた事で阻まれていた。 ストライクドラモンがハッと顔を見上げるとそこには金の鱗を持つサイボーグドラゴンの成熟期・ラプタードラモンがいた。 「一人相手になに苦戦してんのよアンタたち…」 シュウはラプタードラモンのテイマーがシュウを一瞥すると「よ、オッサン。元気か?」と気さくな挨拶をする。 「ンだとぉ…?アタシはどこからどう見てもお姉さんだろがよぉ!」 オッサンと呼ばれて怒り狂うのはOT-507号。 彼…いや彼女もまたテイマーであり、オアシス団として日頃からシュウと敵対していた。 「はっはっは!相変わらずいいパンチではないか!」 「よ〜し!押し通るゼ!」 ストライクドラモンが足をジタバタさせて押し出し始めるとラプタードラモンはニヤリと笑った。 だが、その時どこからかドルガモンが現れて不意打ちをストライクドラモンにぶちかました。 「むむっ!MH-38号くん!俺の戦いを邪魔するか!」 「いや、邪魔とかじゃなくて早く倒しなさいよ…」 MH-38号と呼ばれた少女は少々イラついた様子でラプタードラモンに声をかける。 「そうだ。俺達の目的はユキアグモンをオアシス団の総統としてお迎えすること」 「んなコトなんかどーでもよくってぇ…バイトの先輩がキモくてむかついたからストレス発散させなさいよぉッ!」 駆け出そうとしたドルガモンは相棒のアレな発言に思わず足をもつれさせて転んでしまう。 「毬音、そういうのはあまりよくない…」 「アタシの邪魔をしたわね!若いからって調子乗るんじゃないわよ!!」 「なにやってんだあいつら…」 二人と二匹は喧嘩を始めてしまい、完全にシュウとストライクドラモンは蚊帳の外だった。 「おーーーっらァッ!!」 いきなり窓ガラスをぶち破って現れた赤い影がストライクドラモンを狙い爪を振り下ろす。 ストライクドラモンはそれを飛び退いて避けるが、割れたコンクリート片がぶつかって思わず顔をしかめた。 二匹のドラゴンデジモンが同時に着地すると、そこに軍服姿の少女が現れて拡声器を片手に騒ぎ出した。夜なのに。 「たった二十数人を潰しただけで調子に…」 レッドブイドラモンが放ったヒートブレスはストライクドラモンはブルーフレイムで相殺され、互いにニッと顔を歪める。 「ちょっとおお!二人でカッコよく登場しようって打ち合わせしたじゃああああん!!」 「ん…おぉマガネちゃん。おっす」 地団駄を踏み叫ぶ彼女はオアシス団幹部の一人・MKT-820号であった。 なお、シュウには普通に名前から登校先の大学までバレているため名前で呼ばれている。 「…私はMKT-820号ォ!今日こそ貴様を倒し、我等の因縁に決着をつけるゥ!」 「そういえば昨日一緒に行ったラーメン屋美味しかったじゃん。また行かない?」 「う、うん…。い、いやっ!この中で待つ…我が配下を倒してここまで来て見せろォ!!」 マガネがコートを靡かせながら振り向き、ショッピングモールの中へと姿を消した。 彼女のパートナー・レッドブイドラモンは目を煌々と輝かせ「楽しみにしてるぜーーー!!!!」とマイクも無しにマガネ以上の大声で言い放ち、後に続いて行った。 「おおーっ!行くゼぇーっ!」 それに釣られたストライクドラモンまでもが大声で返事を返すので、更に近所へ迷惑をかけた。 その時、突如UFOのような物体がそのステルスを解いて現れて不気味な音を周囲に響かせた。 「こいつは…オブリビモン!」 「アー、イイ。胡乱が、実ニイイ…」 なおその下では侍の様な格好をした男・U-60号が体をくねらせ、たまにビクビクと跳ねている。 シュウがつついても反応しないのでストライクドラモンが邪魔にならないようなはしっこに片付けた。 「オ゙ッ、アッ…イイ…」 「あれ?生旅ちゃんがいない…MKT-820号さんはここにいるって言ったのに…」 「騙されたんやなw残念やなw」 シュウが振り向くと誰かを探しているような青年・TM-086号と、その横にテントモンがいた。 テントモンがその一言を口にした瞬間、彼は破裂音と共にデジタマへと還っていた。 「うわーっ!またテントモンがデジタマに戻ってる!」 「こーんにちわ!」 シュウは背後から声をかけられ、思わず振り向いた。 妙に過激な服装をした銀髪の少女が立っており、少しだけ行方不明の異父妹・ミヨを思い出す。 彼女の横ではギリードゥモンが銃口の先端から煙の出た銃を構えており、どうやらこの子がテントモンを狙撃したらしい。 「貴方ってどんな終わりを…いや、もう終わってるんだね。ずっとずっと終わったまま」 少女はA-310R号を名乗り、シュウに昔の話を聞こうと辺りをぐるぐる回りだす。 「俺は普通の、どこにでもいるつまらない男だか…」 「その回答がつまらない」 A-310R号はシュウの発言に割り込むと、顎を持ち上げて上目遣いで覗き込む。 彼女の言葉からは仮面越しにも僅かな怒りが伝わった。 「本当につまらない男って、そんなに淀んだ目はしないの」 彼女はそう言うとそのまま振り返り、そのまま闇夜に消えた。 「…なんだアイツ」 謎の少女との出会いに困惑していると、また夜なのに大声を出す迷惑なオアシス団員がシュウの名前を呼んだ。 (他人のフリしてぇなぁ…) 「勝負だ祭後終…俺とのボクシングでなぁ!」 「勝負せよストライクドラモン…チェスでな!」 「うおーっ!頑張れーっ!」 外道ボクサー・KO-64号&キングチェスモンとその応援団たるオアシス団がシュウとストライクドラモンを囲んだ。 彼等の信条は自分が勝てる戦いをすること…そのためなら得意分野での決着を強制する。 「おらーーーーっ!」 ストライクドラモンが床に置かれたチェス盤を蹴り壊し、シュウはショックから動けなくなっているキングチェスモンを振り回してKO-64号の顔面を殴打した。 トドメとばかりにシュウはキングチェスモンの角を彼の尻に突き刺すと勝鬨を挙げる。 口先だけの強制に従う言われなどシュウたちには当然無かったのだ。 チャンピオンの敗退に周囲の応援団も散り散りになっていく。 「強いなお前…噂通りだ!」 その人の流れを無視して仁王立ちする一人の男がいた。 鎖帷子に身を包んだその姿を見たシュウは「侍の次は忍者かよ…」とため息をつく。 「俺はNJ-786号!エスピモンと俺の未来忍術を…」 「だめだ。門限を越えるぞ」 「えっ、あっ…やばい!余分に時間を取りすぎた!ああああっ!!」 そう叫ぶと彼は慌てながら滅茶苦茶なスピードで走り出すと散っていく応援団を追い越して木々の影へと消えた。 「なぁシュウ…アイツなんだったの?」 シュウとストライクドラモンはただ困惑しながら彼のいた場所を呆然と見つめていた。 次の瞬間、何かが軋む音と共になにか巨大なものが近づいてくることに気がついた。 「くそ…まだ来るのかよ!」 シュウ達が振り向くとそこには巨大な鳥帽子を被った時代錯誤な平安貴族そのままな出で立ちをした中年男性が現れた。 彼が「光たもれ〜」と騒ぎながら扇子を振るうと地面にデジタルゲートが開き、彼のパートナーであるポーラーベアモンが姿を現した。 「ほっほっほ…麿がいる間、デジモンは進化できないでおじゃるよ」 「ふっふっふ。私の計算によればストライクドラモンは成熟期、ポーラーベアモンは完全体!余裕の勝利ですな!」 なんとM-06号の巨大鳥帽子はダークタワーだった。 意味がわからないがとりあえずそういうことらしく、シュウ達は進化を封じられてしまった。 どうやら口ぶりからしてM-06号の横にいる紙袋を被った団員・DP-4725号が立案した作戦によるモノだと思われた。 「オレもう進化してるけど」 ストライクドラモンの一言に現場は凍りついた。 「な、なにを言っているのかね!?進化できないというコトは、進化できないというコトだろ!」 「う〜ん…もう進化してるヤツには意味ないんじゃないか?」 DP-4725号の顔色がみるみるうちに青ざめていくのが紙袋ごしでもシュウたちに伝わる。 「いけぇぇい!テリアモンッ!」 DP-4725号はやけくそにテリアモンをけしかけるが、ストライクドラモンは片足でそれを受け止める。 そのまま蹴り返されるとコロコロ転がった末、目を回して立ち上がれなくなっていた。 「むっ…かわいい!いや、役にたたないでおじゃる…麿が直々に成敗するでおじゃる!」 「ストライクドラモン、完全体相手は不利だ。一旦逃げて作戦会議するぞ!」 「作戦タ〜〜イム!」 「誰が認めるでおじゃるか!ここに上様はおらん!ルール無用!」 走って逃げ出すシュウとストライクドラモンを追跡するポーラーベアモンだったが、摺り足のM-06号に合わせているため中々シュウ達に追い付けない。 「おのれすばしっこいヤツでおじゃる…」 だがシュウも特段運動神経が良いわけでは無いので引き離す事もできずにいる。 「どーすンだよシュウ!」 「いや、コレでいい…」 ストライクドラモンがどうしてか聞き返そうとした時、M-06号は悲鳴を上げながら転倒してしまった。 ポーラーベアモンは慌てており、こちらを追う気はもう無いようだ。 その場を離れてショッピングモールを少し奥に進んだシュウはストライクドラモンにしたり顔で説明した。 「あの鳥帽子は大きすぎるんだよ。俺達はショッピングモールに普通に入れたけど、アイツは入り口に帽子を引っ掻けて転んでしまったワケさ」 「なるほどだゼ!さっすがシュウだ!」 ストライクドラモンは尊敬の眼差しでシュウを見つめるが、当の本人はその視線に少し怯えていた。 「…あっ、あれだな…頑張り過ぎたのか少し疲れたな。自販機でも探すか?」 シュウはこれ以上相棒から褒められないよう、無理矢理に話題を変える。 「お前の踏ん張りを見ていたんぬ」 突如現れたその男は全身から金色の光を放つ虎のマスクを被った変質者だった。 彼の名前はGT-400号。本来はオアシス団のスカウトマンであるが、マガネの無茶な作戦で前線に送り出されているようだ。 GT-400号の相棒・ミヒラモンがしょぼくれたままマスクの男に耳打ちする。 「…え?踏ん張ったじゃなくて頑張ったな?なんぬ…!?」 暫くの沈黙の後GT-400号はどこかへ歩いて去って行き、困惑したシュウとストライクドラモンがその場に残された。 「なんだったんだ…」 「わからないけど、もう走らなくていンだぬ?」 「伝染してるぞ」 ・02 一階 暫くショッピングモールを歩いたシュウは自販機を見つける。 「お。そこらへんに自生してるヤツより安いぜシュウ」 「自販機って別に自生はしてないんだわ」 シュウが百円を取り出して一番安いコーヒーを買おうとした時、一体のニセドリモゲモンが現れたて自販機を突き飛ばした。 「危なかったわね…恥ずかしながらコレは私のパートナーが勝手に設置したモノよ!」 シュウは吹き飛ばされてぐしゃぐしゃになった自販機を見て腰を抜かしており、ニセドリモゲモンの言葉は全く耳に入らない。 「貴方はどこのメーカーかもわからないただ安いだけのニセモノみたいなコーヒーを飲む所だったの…私は貴方を助けられてとても嬉しいわ」 「あっ、はい…どうも…」 凄まじい目力を持つニセドリモゲモンがその場を去ろうとした時、もう一匹のニセドリモゲモンが現れた。 「またふざけた事をやっているようだねFA-2008号のニセドリモゲモン…」 「あ、アナタはPL-89号のニセドリモゲモン!」 二匹のニセドリモゲモンはかわいらしい音を立てながら接近すると「ニセモノは結局ニセモノでしかない」とか「ニセモノにも美学はある」とか口論を始める。 「ここでは狭い…外で決着をつけるぞ!」 「望むところよ!!」 「うおおお!ライバル対決だゼ!どっちも負けるな!! 」 二匹のニセドリモゲモンはシュウとストライクドラモンを放置してショッピングモールの外へと飛び出していった。 ストライクドラモンも飛び出そうとするのでシュウはそれを必死に押さえ、逆方向に歩きだした 「俺達は上な、上」 シュウ達が去った後、ウィンプルはつけているのでシスターですよという顔をしているほぼ全裸の女が現れると監視カメラの前で様々なポーズを取り出す。 彼女は自称オアシス団・ハサトアイスストーム、パートナーは足元で死んだ顔をしているバブモンだ。 恍惚の顔をするハサトの横にどこからか筋骨隆々な全裸の男トニー・ロラーンが現れると、その金髪を揺らしながら様々なポーズを取りはじめる。 サイドチェスト、バックラットスプレッド、そしてモストマスキュラーが決まる。 二人は無言で向き合うと堅い握手を交わした。そこに言葉は不要。 その時、二人の手首に冷たい手錠が嵌められる。 「午後六時五十分。猥褻物陳列罪の現行犯だ」 ・03 二階 シュウはすっかり店仕舞いした寝具コーナーを歩いているとベッドの上で寝ている一人の男を見つけた。 「大丈夫ですか」 「問題ない。起きる気になったら起きるさ」 男はそう言うと起き上がる気は無さそうに枕の位置を整える。 実は彼もCAT-100号の名前を持つオアシス団の一人であるが、あまりにも現場に来ないためシュウから認識されていなかった。 珍しく現場に…それも集合時間より一時間早く来た彼は寝具コーナーの看板を見て丁度マットレスが薄くなってきた事を思い出す。 彼はこのベッドが気に入ったものの、中々の値段を見て数時間この上で躊躇い続けていた。 気がつくと集合時間になっていたが、まぁ「行けたら行く」とだけ言ってあるからいいだろう…と心地よい睡眠を取り今に至る。 「待てい!祭後終!」 「まだいるのか…はぁ…」 溜め息をつきながら顔を見上げるとそこにはババモン、麦わら帽子のブイモンとエプロンのガオモン、なんかエリスモンっぽいメカ、古典的なロボ、そして豚にしか見えないデビモンだった。 最後の三匹は本当にデジモンでいいのか?シュウは壮絶な光景に訝しんだ。 「俺はもう戦いなんか飽きたんだがな…」 「今はデジモンだが俺は戦闘部隊じゃないんだぞ…そもそも大勢で囲んで叩くというのが…」 「(なんか英語)」 「ウィーン。ガシャン」 「くくく。これだけの面子が揃えば貴様も…」 デビモンが横を見回すと彼我の戦力は戦いたくなさそうな老人・GG-88号、両手がエコバッグで塞がっているブイモン・RD-10号、日本語が通じなさそうなヤツ・SC-26号、そもそも会話能力があるのかすらわからないロボット・RK-800号…という状況だ。 次にデビモンが振り向くと、そこには筋骨隆々なストライクドラモンが階段の手すりを引っこ抜いて武器の調達中だった。 「…ストライクドラモン、私も力をかそう」 オアシス団の戦列からデビモンは前に出るとストライクドラモンの横につき構えると、向こうの面子から罵声が飛び出し始める。 「(英語)、(英語)!!」 「うるさい!私は強い方の味方…」 ストライクドラモンは丁度いいとばかりにデビモンを投げつけるとそれはロボに命中。 ロボは変な声を上げながら爆発すると全員は開いた穴から吹き飛ばされていった。 「流れ流され貴方と二人旅…私の人生はそれが一番よい…」 「あぁ〜!特売の野菜が焦げちゃったわ!」 「(英語)…」 「ビガビーッガ!」 「寝返っただけなのに血も涙もないではないか!」 夜空に輝く星となった彼等を見てストライクドラモンは「わりぃ〜!オレ、アメリカ語さっぱりなんだ!」と頭を掻いた。 ・04 三階 エスカレーターをしっかり二列で並んで三階まで到達したシュウとストライクドラモンを待っていたのは自称宿敵・UK-2号だった。 「もうそろそろお前の顔も…いや、顔は見たことなかったな…」 「来たな祭後終…だが今回は私だけではないぞ!」 ズシン、ズシンと重い音を立てて巨大な鉄球に手足が生えたような完全体デジモン・ビッグマメモンが現れた。 「は〜〜い。みんなしゅ〜ご〜」 ビッグマメモンの手の上に乗った幼女がマジックハンドを振ると机の下、柱の後ろ、試着室、下りエスカレーターから四人の少女がぞろぞろとやってきた。 「ケイコちゃんズか」 「よぉし!負けねぇぞ!」 「よし先ずは…誰が何ケイコちゃんだっけ…」 ストライクドラモンはスッ転んで「いやどうでもよくないか…?」と言うが「人の名前を忘れるのはよくないぞ。ちょっと思い出すから待ってろ!」と額に親指を当てて考え出す。 ケイコちゃんズはニヤリと笑うと縦一列に並び、やや時間をずらしつつ上半身を回して螺旋状にうねりだした。 「ふっふっふ…なやめ…なやめ…」 黄色いケイコちゃんはシュウを追い詰めようと見事な作戦を展開した。 「お前達やっとる場合かぁ!一気に責め立てろ!」 UK-2号の言葉に幼女のケイコはもう一度手に持ったマジックハンドを振る舞うと楽しそうに声を張り上げた。 「じゃ〜ごあいさつできるひと〜、は〜〜い!」 「AK-28号赤井鶏子ぉ!」 「ST-89号緑埜鮭子です」 「TO-50号は黄谷慧子だ」 「KB-98号、青葉、蛍子…」 「BM-10号の黒須契子〜」 四人のケイコちゃんズはよくわからない決めポーズと共に名乗り終えると、満足げに談笑しだした。 「そしてコレだけではないぞ…今回はさるお方から頂いたあるモノを使うのだ!」 無理矢理話を進める方向にシフトしたUK-2号がタイツの中から取り出したもの…それは薄黄緑色のガシャポンカプセルだった。 「驚くなかれコレはクォーツモンのデータを一部コピーした道具で、デジクロスを抑制するデジクォーツを展開する超スゴいカプセルなのだ!」 「体に悪そうだなぁ」と嫌がるストライクドラモンを尻目にUK-2号はカプセルを砕いて周囲に半透明なワイヤーフレーム空間を広げ、説明を終えると「のだのだのだ…」と自らセルフエコーを響かせた。 「ほわんほわんしたひかりがでててかっこいいー」 「ふふふ。だろう?これで貴様のデジクロスは封印した!!」 「…オレたち別にデジクロス使わないけど」 UK-2号の高笑いが止まった。 「というかよぉ…デジクロスするのってアタシたちなんじゃねぇか?」 AK-28号の言葉にUK-2号は逃げ出そうとするものの、ビッグマメモンに通せんぼされる。 「味方を邪魔してどうすんじゃこの(ブブブブブブブブ)」 KB-98の汚い言葉はパートナーのカブテリモンが滅茶苦茶に羽ばたいて掻き消した。 ケイコちゃんズはUK-2号を取り囲むとげしげしと足蹴にしだし、シュウたちはその隙に次の階に進んでいった。 「いやっ!シチューかけるのはだめだって!それマジでだめだから!あ゙ーーーーッ!!」 ・05 四階 「お待ちしていましたよ」 「しにたい…」 四階に到着したシュウたちを待ち伏せていたのは光を受けて透けるように輝く純白の服が映える色白の女性、オアシス団幹部・T-626号だった。 結ばれてもなお長い金髪は華やかだが、その横にいるユキアグモンは明らかに生気が薄かった。 そのユキアグモンは死んだ目で目の前に現れたシュウたちを見ると、目を逸らした。 「しにたい…」 「シュウ!ユキアグモンだゼ!」 手を振るストライクドラモンだが、ユキアグモンには無視される。 シュウはその様子を横にT-262号へ「自分達でユキアグモン持ってるなら俺達なんて放っておけばいいだろ…」と呆れた顔で話す。 T-262号は落ち着いた声でシュウに反論する。 「いいえ?貴方のユキアグモンは我々オアシス団の首領となり、世界を反転させるO.A.S.I.S.プログラムの鍵となっていただかなくてはなりません。これは決定事項なのですよ」 「オアシス団は訳わかんねぇ奴等だけどアンタは殊更訳わかんねぇな…」 「残念だったな!オレはシュウと離れるつもりはねぇゼ!」 「しにたい…」 「オレとオマエはユキアグモン仲間だけど容赦はしねぇゼ!」 「私が一人で現れると思いましたか?」 T-262号が空中で十字を切ると壁に魔方陣が現れ、その中から大量の団員が現れる。 その中にはシュウも以前戦った事のある口の悪い女・MG-21号、赤いコモンドモンを連れた少女・セラ、鋼のサイボーグ・GA-1004号、寿司屋のKA-8号といった面子も揃っていた。 「─魔法だとっ!?」 「では私はこれで。貴方達、やってしまいなさい」 「あいよッ!バトル一丁!!」 「しにたい…」 T-262と彼女のユキアグモンが光の中に消えると、彼等は戸惑うシュウを前に構えた。 シュウも焦りながらデジヴァイス01を構えてストライクドラモンに視線を送ったその時、開いた窓から土砂降りが流れ込んでくる。 「あっ、あの。ごめんなさい…たぶん、わたしです…」 これから大切そうな戦いが始まるというのに…と頭を下げるのは最強雨女・R-917号だ。 何度も頭を下げる彼女に対してMSO65号のテイマー・セラが「ほら、こういのって仕方ないわよ…」と励ましながら頭を上げるように促した。 「あたし萎えちゃったー。もうみんなで飲みに行かなーーい?」 「あ、ウチの所で取れたレモンとか取って来ますから基地で宅飲みしましょうよ」 MG-21号の提案にGA-1004号が乗ると彼等はわいわいと騒ぎながらもエスカレーターを下り、そのまま買い物に消えた。 「近場の基地ってどこだっけ?」 「新人のフリしたスパイが一つぶっ壊しちゃったから確か〜」 「アレは大変でしたね…カイザーレオモンが大暴れして…」 「あ、そこ新しい基地ですよね。わたしも行ってみたいです!」 団員に囲まれながら会話を弾ませるR-917号には笑顔が戻っており、よかったなぁと思いつつシュウたちはまたその場に取り残された。 ・06 五階 エスカレーターの手すりをしっかり握りながら五階に到達したシュウとストライクドラモン。 そろそろ晩御飯にしたいなぁと思いつつ、案の定目の前に現れたオアシス団員と対峙する。 五階のパーティグッズコーナーの前に立つのは紳士風の高そうなスーツと上唇に蓄えたヒゲがダンディな雰囲気を醸し出すオアシス団幹部・Dr.B-2号。 その横にいるのは彼の助手であり、なんだか常にベタついている少女・ASTT-01号だ。 「こんばんは。寒い所ご苦労様ですねMr.サイゴ」 「労うくらいなら退いてくれやジェントルマン」 「申し訳ないMr.サイゴ…それはノーだ。さるお方から君の最新ステータスを測るように言われていてね」 Dr.B-2号はシルクハットを深く被ると「そして私も変異種(イリーガル)のソレにとてもとてもとてもとても興味がある」と口を大きく開いた。 指を弾くとシュウを左右から取り囲むように二人の女性が現れる。 軍服姿の女性はGL-96号、特徴的なゴーグルでなにかを常に計測しているPS-1999号が現れるとそれぞれの相棒をストライクドラモンにけしかけた。 「そういう事です。ゴーレモン、頼みましたよ」 「…」 「さぁ可愛がってやろう。行けブラックグラウモン!」 「応!仕事である!」 ブラックグラウモンとゴーレモンが前に出るとストライクドラモンは地面に爪をめり込ませてそれを同時に受け止めようとした時、その二匹は凄まじい勢いで転倒。 二匹分の重量級デジモンが全力で床に追突したその衝撃は床を砕き、パートナーごと下の階に消えて行った。 「わ。ボクから漏れ液体で滑ったみたいだねぇ。ははは」 「助手。もう少し申し訳なさそうにしたまえ」 Dr.B-2号とASTT-01号もその亀裂に飲まれながら反省会を開始し、姿を眩ました。 ・06 そのころ駐車場 「I am your father…」 「よし銃刀法の違反だ。助かるぞ」 追い詰められたOTO-3号が剣を引き抜くと、好機とばかりに手錠をかける。 日も暮れたのに拡声器で騒いでいるアホな女がいると通報を受け、近くを巡回していた警視庁電脳犯罪捜査課の若きエース・色井 恋夜は溜め息と共にショッピングモールに駆けつけた。 彼は既に駐車場内でバカ騒ぎする集団を厳重注意として交番に送り届けようとする所だった。 どうやらその一員である更に奇妙な黒ずくめの甲冑の男を逮捕すると「午後八時四十分…はぁ…」と今日32回目の溜め息をついた。 既にパトカーの中には同じ人間なのか怪しいほどに長身のほぼ全裸の女と凄まじい筋肉量で車内スペースを圧迫する全裸の男が既におり、そしてこの男でもうパトカーに人を詰め込む事はできなくなった。 それだけなら近くの交番から応援を呼べばいいのだが、駐車場の惨劇を見るにこれは電捜課(じぶんたち)の管轄だという事が問題だった。 通話を切った恋夜は今日は家に帰ることはできない事を確信し、既に白目を向きそうになっている。 応援にはなんだか顔が怖い先輩・ディンが犯人連行用のバスを運転して来るらしく、そこには頼れ過ぎる後輩・竜崎 大吾と片想いの先輩・鳥藤 すみれも同乗してくると聞いて安心することはできた。 だが、それまでこの不審極まる存在の面倒を見ないといけないのだ。 「I am your sister…」 「恋夜…たすけて…」 高位の究極体デジモン・オファニモンFMが現れた時は切り札を申請しなければならないか…?と思ったが、なぜか彼女は相棒のディアトリモンを抱き締めては姉を自称し続けている。 成熟期で究極体を機能停止させられるならこれ以上良いことは無いなと現状維持を決めると、ディアトリモンは涙目になった。 恋夜が再び溜め息をつく後ろでローターの高速回転する音が鳴り、突風を周囲にばら蒔きながらカーゴドラモンが着地した。 「アタシ馬鹿だけどよぉ…ちょうど良いところに来たみたんじゃねぇか?」 「(英語)〜」 どうやらシュウに負けた面々は合流してそのまま宅飲みに発展したらしく、楽しそうにAK-28号がカーゴドラモンに手を振る。 「ほら明陽。ここまで来たら参加していきましょ」 「わかったわかった。ちょっとだぞ?明日仕事だからな?」 「皆さんお待たせです!私も来ちゃいました!」 「いやいや。遅くなったかと思ったからよかったぜ」 カーゴドラモンの中から仮面の男・DJ-38号と帽子の少女・SCP-011号が顔を出すと、ぞろぞろとその中にオアシス団が入り込んで行く。 「そういえば何人かまだあの中にいるんじゃない?今日って大体のメンバーは集合してるんでしょ?」 「何人かは後から来るらしいですよ!」 「ならば後で俺が連絡しておこう。連絡先は大体知っているからな」 「更にできるようになったな。GG-88号」 セラがそう言うとSCP-011号はそう告げ、GG-88号はメモ帳を胸元から取り出して微笑む。 MSO65号がとても良い声で彼を褒めながら最後にカーゴドラモンへ乗り込んだ。 再びローターを素早く回転させて空へと舞い上がるカーゴドラモンを見送りながら、忘年会があるなんていいなぁと恋夜は一人腹の音を鳴らした。 ・07 六階 崩れる床から逃げ切ったシュウたちは階段で六階まで駆け上がった。 「なんで冬に汗をかかなきゃならねぇんだ…」 「運動不足だぞシュウ」 「うるせぇぞ大体お前はうごっ!?」 シュウは文句を言いつつフラフラと立ち上がるが、影から飛び出した何者かに背後から組みつかれる。 「お待ちしておりました救世主様…そしてその従者様」 フフ…と不適に笑うとチロッと軽く舌なめずりするのはオアシス団に潜むユキアグモン信仰団体の宣教師・KU-100号だ。 彼女の本名は浅村 ゆらぎ。シュウとは元同級生であり、当時は大人しくも儚げな姿から密かに人気のある少女だった。 そして数年前の同窓会に姿を現した彼女は美しく成長していたものの、新興宗教の信者へと堕ちていた事を知られるとのシュウ以外に会話する者はいなくなった。 「あぁっ、シュウがやばい女に捕まっ…」 背後からみょんみょんみょんと変な音波を浴びせられたストライクドラモンは倒れると頭から階段を滑り落ち、そのまま爆睡しだす。 これは羊が寝巻きを着込んだようなKU-100号のパートナーアプモン・スリープモンの仕業だ。 彼の得意技たるス〜パ〜スリ〜パ〜は受けた者を寝落ちさせる音波であり、単純なストライクドラモンに効果てきめんだった。 「うおこいつ簡単に寝やがった!あほ!」 シュウは抵抗しようとするが、昔からあまり体の強くない彼女に対して本気で暴れるのはとても躊躇われる。 そんな思考の隙にシュウもスリープモンから弱めのス〜パ〜スリ〜パ〜を受け、立っているのが漸くな状態に脱力させられる。 「じゃあボクは寝」 役目を終えたスリープモンは誰の返事も待たずに寝落ちすると、KU-100号はシュウに身体を密着させながら妙に湿度の籠もった言葉を耳元で囁き出す。 「大丈夫ですよ従者様。私は貴方のお力になりたいだけ…まずは私の愛の言葉に耳を傾けて…」 「あ、浅村さんこういうのよくない!よくないよ!」 その時、二人の前にとてつもない金切り声を上げる者が現れた。 「さ、さ、祭後君何をやってるの!?!?」 「いやこれは…助けて…助けて警察のひと〜!!」 「というかゆらぎさん!?」 現れた女性はシュウの元クラスメイトにして現職警察官・鳥藤すみれだ。 彼女は恋夜と合流し、先行してショッピングモールに駆け込むとそこでは元クラスメイト同士が公然の場で思い切り密着しているのだ。 顔を真っ青にしてわなわなと震え出すすみれを前にKU-100号は余裕そうにフフンと鼻を鳴らすと、シュウに組み付いたまますみれに語りかけた。 「あら?お久しぶりね鳥藤さん…同窓会以来かしら?でも今は貴女に用は無いの」 「あな、あなた…貴方たち…!」 「貴女はそこでシュウ様が真の目的に気付き、世界を救うための光と昇化する姿を見ていなさい」 「ゆらぎさん…その、私ね、貴女が何を言ってるか全くわからないわ…ごめんなさい…」 KU-100号はすみれを一瞥するとシュウの腰に手を回して更に挑発するが、その意味不明な言動に逆に冷静さを取り戻した。 「あらやだ三角関係ね三角関係!オバチャンも若い頃なったワ!オバチャンの頃はSNSなんて便利なモンないから手紙で恋の駆け引きをするのヨ?毎日ポストを開けるのが楽しみだったワ…でもね、ある日開けたポストには二枚の手紙が届いていたノ。宛名を見たオバチャンもうデジコアが飛び出しそうになったワ。なんでかって言うとね、それはいつもよく一緒に遊んだ男子からだったノ。でもオバチャンには心に決めたヒトがもういたから!いつまでも一緒にいることはできない…大人になるってそういうコトなのかもネ。なんていうか…オバチャンはスパイ映画のヒロインになった気分だったワ。今考えると映画みたいで面白いように思えるけど、当事オバチャンはとても辛かったワ。でもね、時間が解決してくれることもたくさんあるのよ。今はわからなくても、きっと将来は良い答えが見つかるわ。すみれも焦らずゆっくりと自分の気持ちを大切にするのヨ」 すみれのパートナーデジモン・シンドゥーラモンの意味不明な言動に思わずその場の全員が固まるが、一番先に再起動したKU-100号はやれやれと首を振る。 「ふふ。いいのよ鳥藤さん…わからなくても…」 「えっなんで今私貶されたの」 「─そうです。貴女にはわかりません」 音も無く現れた女が思い切りKU-100に向かってバットを振り、脇腹に叩きつけた。 床に倒れ込んだ彼女の腹にそのままバットをぐりぐりと捩じ込み、KU-100が悶絶させる。 「ごっ…あ゙っ…貴女は…!?」 「私は○トリックの祭後終です」 突如として自分の名前を名乗る全身タイツの女が現れると元クラスメイトに向かって揺るぎない暴力を振るっていた。 「吐きそう」 シュウは色々と限界だった。 「ね、ねぇ祭後くん?何やってるの?」 再び冷静さを欠いたすみれが恐る恐ると偽祭後終へ疑問を尋ねる姿にシュウは当惑した。 「どう見ても俺じゃないだろ」 「あああ!?祭後くんが…祭後くんが二人いるわ!!」 「普段ツッコミのすみれお姉さんまでソッチに行ったらもう収集つかないんだよ!!」 すみれはなぜか白タイツの女と同級生の男を同一人物だと思い込んでいる。 「うおおおッ!シュウが二人いるぞ!」 ストライクドラモンが起き上るとシュウと偽祭後終の間に駆け寄ると楽しそうにガッツポーズを連発する。 「バカ野郎!お前はバカ野郎だと思ってたけどマジ…このバカ野郎!」 シュウはストライクドラモンに向かって叫ぶ。 「祭後くんやめなさい…いくら酷いことをされたってゆらぎさんは私達の学友だったのよ!」 「その人は浅村さんと同級生だった事はないんだ姉さん」 「あ゙っ、貴女みたいな人が祭後終様なワケ無いでしょう…!ぐぼっ!」 すみれはKU-100号にバットで暴行を加え続ける偽祭後終を説得しようと、震えた手で拳銃を取り出す。 「同級生!オバチャン同級生との思い出も沢山あるワ〜オバチャンはいつもお昼休みに手作りのお弁当を交換しあったコがいたのヨ。あのコの作ったカレーピラフがとっても美味しくて今でも忘れられないワ。体育祭、文化祭…なにかあるとそれにかこつけてリクエストしちゃうノ。文化祭といえばクラスのみんなで作った手作りのピザも美味しかったワ!あの子たち、今どうしてるのかナ…みんな大人になったけど、またみんなで集まってあの頃みたいに笑いたいわネ!すみれもたまには同級生と会うのヨ」 「俺ね。それ俺なの」 「いやああーーーっ!」 すみれは叫びながら発砲するとそれは偽祭後終の額に直撃すると彼女のゴーグルを破壊した。 「あれ祭後くん…?どこ?」 「姉さん俺はここだよ。具体的にはずっと隣にいるよ?」 「シュウが…一人に…!」 「お前はもういいや」 ゴーグルが砕けるとようやく一人と一匹は彼女がシュウでないことを認識し、驚愕の表情を浮かべる。 そしてすみれはシュウの肩を掴み、そのまま泣き出してしまう。 「よかった…!私、祭後くんがいつかはやるんじゃないかと…!」 「マジか」 「バレては仕方ないですね…」と言いながら偽祭後終はそのタイツをバッと脱ぎ捨てると、そこにはシュウの知り合いである澄んだ青い瞳と美しい銀髪を輝かせるシスター・アリエノールが姿を現した。 「よくも○トリックのシマで信徒の子ども達を訳の分からない宗教にハマらせてくれましたね」 「凄いぞッ!シュウッ!バッて変わったぞ!バッて!」 「変装!変装はできるオンナの嗜みよね〜オバチャンは新聞紙でドレス作ったりしてたワ!帽子に羽根飾りをつけて、お面をかぶって、ハロウィンの街に出かけるのが最高にワクワクしたワ!誰にも気づかれないように、こっそり違う自分になれるのが嬉しくてね。またスパイ映画のハナシになっちゃうんだけど…ほら、あの、パスポートをスッとすり替えるヤツ!仲良しの男子と何回もやったワ。秘密の共有みたいでもうドキドキが止まらなかったワ…あれが恋だったのか違ったのか…オバチャンにはまだ答えが出せないワ…。すみれも秘密を共有できる大切なオトコを見つけるのヨ」 すみれは呆れながらシンドゥーラモンの話を聞いており、アリエノールとKU-100号の口喧嘩は耳に入っていない。 ストライクドラモンはとりあえずうんうん頷いてわかったフリをしている。 「ともかく異教徒なんて2人死のうが2兆人死のうが同じですから、あなたも改心させてやりますよ」 アリエノールがバットを引きずりながらKU-100号へ接近しだす所を隠れて見ていたのは元サンドヤンマモン信仰団体のYNM-310号。 完全に出ていくタイミングを見失っていたが、ちょっと怖い人ばかりなので止めておいて正解だったなぁと安心するのだった。 ・08 また三階 「逃げれそうだから逃げてきちゃったけどよかったのか…?」 「んんん!愛の逃避行ね!オバチャンも」 階段を駆け下りた二人は三階の休憩コーナーで疲れはてていた。 すみれはシンドゥーラモンをデジヴァイスの中に収納するとだらんと椅子に座り込み、外套を脱ぎ捨てる。 「なんで冬に汗かかないといけないのよ…ん?」 物陰から現れたモルフォモンがすみれを見て目を輝かせると、スケッチブックに素早く何かを描き始めた。 モルフォモンがそのスケッチブックをすみれたちに向けると、そこにはすみれの絵が見事な画力で描かれていた。 だがその胸がかなり大きくされており、それを見たシュウは思わず目線を本人に向けると吹き出してしまう。 直後、モルフォモンの頭には煙が浮かんでいた。 「国家権力舐めるんじゃないわよ」 拳銃を下ろしたすみれの後ろで震えるシュウは「祭後くん何か言いたげじゃない?」と睨まれ、即座に平伏した。 その時ドタドタと大きな足音を立てて現れたのは銃声を聞き付けた恋夜であり、彼はシュウを見ると大声を上げた。 「祭後終!またお前の仕業かぁ!」 「恋夜くんちょうどよかった…今すみれお姉さんに殺されそうで…」 「当然でしょ!あんな…もう!」 恋夜は汗だらけのすみれと脱ぎ捨てられた彼女の上着を交互に見て、何かを察したように頷いた。 「もう殺すしかなくなっちゃったよ…」 「んんーーっ!?なんで恋夜くんも銃を向けるんです!?」 「許されるわけないだろ!その…すみれさんに、あんなことを…」 「誤解だ!というかあんなことって恋夜くんはわかってるのかよ!?」 「そりゃ…いや、本人の前で言わせるつもりかぁ!お前は!」 二人の警察官に挟まれ、拳銃を向けられているこの状況をどうやって乗り越えるか…シュウの脳はフル回転を開始した。 (ストライクドラモンなら…)そう思ったシュウが左右を見渡した時、彼を六階に置いてけぼりにしていた事に気づいた。 彼は現在、六階にて行われるシスター同士の血生臭いデスマッチを観戦中だ。 さようなら我が愛しき妹ミヨ…シュウの脳裏には彼女との楽しい思い出が走馬灯のように広がる。 「大家さんに彼女って嘘ついたらね、凄い顔してたよ」 「お兄ちゃんの作る料理って味が濃すぎてなんかキモい」 「ねぇそろそろ結婚とかしないの?あっ、相手がいないのか…」 「新しい服買ってよー!けちんぼ!はげ!」 「お兄ちゃんが寝てる間にゲーム攻略しちゃった〜へへ〜」 「ごめん今レイド始まっちゃった!そこで漏らしてて!」 (んんーん…あいつわりとロクでもないな?) 「ふおおおお!ラブ!ラブの匂い!挟まらざる終えないわあああああ!!」 シュウがやっぱり妹を一発ビンタしてから死にたいなと思い始めた辺りで、天井を物凄い勢いで這って接近した人影が三人の間に着地する。 彼女は友達以上恋人未満の人間を見つけては間に挟まることでその空気を吸い、彼等をなんか変な空気にすることを至上の喜びとするMX-35号だ。 「スーッ!ハーッ!いい空気!ここはいい所よ!」 「あ、あなた何してるの……」 すみれがドン引きしながらMX-35号に声をかけると「あらああああ!あなたたちまだ付き合ってないの!?それは勿体ないわ!!!」と叫び、シュウか恋夜にぶつけようとすみれの背後に回り込んだ。 だが、その時MX-35号の動きが止まる。 (んんんんん!?やっべえええ!兄さんじゃんんん!) なぜなら彼女の正体は色井 美光、恋夜の異父妹であったからだ。 「はは、はは…その、失礼!」 MX-35号は少しずつ後退ると再び天井に張り付き、凄まじい速度でカサカサと這いながら何処かへと姿を消した。 「あの女の子…どこかで…」 恋夜がそう思いながら顔を上げた時、既にシュウの姿はなかった。 ・09 また一階 「いやぁ白熱のバトルだったゼ。シュウも最後まで見ていけばよかったのによ〜」 「結果だけ教えろ」 「スリープモンが二人とも眠らせたゼ!レフェリー判断による試合中止、ドロー!」 二人の元から逃げ出し、一階に戻ってきたシュウはなぜか迷子センターに送り届けられていたストライクドラモンを回収した。 ストライクドラモンはストーカー同士の醜い争いを熱い試合だと認識しているらしく、とてもはしゃぎながら解説を繰り広げている。 そんな一人と一匹の前に今度は白いスーツの中年男性とパーカーの少女が立ちふさがった。 男性は小太りだが運動ができなさそうという感じではなく、眼鏡や高めの鼻から頭が回りそうな人物というのがシュウの第一印象だった。 逆に紫色のパーカーに身を包んだ黒髪の少女は一見少年とも思えるような中性的な顔立ちの美少女であり、男とは対照的な存在に見えた。 そしていつの間にかもう一人、長身で仮面を被った不気味な男…まるでマネキンかのように微動だにもしない男が現れていた。 「こんにちわ祭後終…私はSS-88号、こちらは佐伯 晶、そして彼がAR-254号君だ。以後宜しく頼む」 「オアシス団って何人いるんだ…今日はもうさっさと帰りたいぞ」 「それは同意。私はうるさいのが嫌い…私の思い通りにならない事も嫌い…」 「まぁそう言わないでくれ佐伯君。本部の奴等に大きい顔をさせ続けたく無いのはわかるだろう?」 佐伯から横目で睨まれたSS-88号と名乗る男性はそう言うとやれやれといった顔になり、ため息をついた。 「本部…お前達は違うって事か?」 「あぁそうだとも。我々は削除部隊del…君を倒すという本部の仕事を奪えば奴等は悔しがり、机を叩き、自分達の立場を理解するだろう」 「…なにオジサン?ここで祭後終を倒しちゃうの?」 晶がスマホを取り出して相棒であるドットファルコモンをリアライズすると、SS-88も不敵に笑って背後から数体の爬虫類型デジモンをリアライズする。 先程から一言も喋らないAR-254号も少し遅れて複数のアルゴモン幼年期をどこからかリアライズさせていた。 「南野君が不在だがまぁ仕方ない。”ご挨拶”を始めたまえ」 「…知らないデジモンだぞストライクドラモン。注意しろ」 「彼等はヴァンプコマンドラモンさ。戦いに飢えた我が同士だ」 その声を皮切りに互いに突撃を開始、ストライクドラモンは加速をつけて跳躍すると円柱に手をかける。 柱を中心にその勢いを利用して自身を回転させながら数体のヴァンプコマンドラモンやアルゴモン幼年期に蹴りを加えていく。 一周して着地するとそのままシュウと共にその場を逃げ出した。 シュウに向かって駆け寄ったヴァンプコマンドラモンはその銃を大きく振りかぶって殴りかかろうとする。 それを見たストライクドラモンは売り物の服が飾られたハンガーラックを素早く転がし、一人と一匹の間に割り込ませる。 銃の一撃を受け止められた驚きから怯んだヴァンプコマンドラモンに掴みかかったストライクドラモンは、ガラス作りの雛壇に向かって彼を巴投げでぶつける。 崩れるガラスを前に動きを止めるアルゴモンたちの前に、シュウは壁へ隣接した展示棚を横に倒して更に道を塞ぐ。 晶はスマホを素早く操作すると、提示された迂回ルートに合わせてドットファルコモン達は追跡を開始した。 テイマーたちも歩いてパートナーの後を追い始める。 「しつこいんじゃないかお前達!」 「…」 シュウの問い掛けにヴァンプコマンドラモンは言葉を返さず、その態度から戦闘以外を無意味と判断しているようだった。 「なるほどよくわかったよ!」 歯を食い縛りながら走るシュウはストライクドラモンと共に走る道を次々と細めていく。 ストライクドラモンはシュウから視線を向けられると「へっへ。アレだな!」と笑顔で答えた。 そのシュウは消火器を蹴りつけてヴァンプコマンドラモンの方へ転がすが、一心不乱の前進を続ける彼等は迫り来るソレに気付かない。 先頭のヴァンプコマンドラモンは消火器に蹴躓くとそのまま思い切り転倒してしまう。 ドンドンと倒れていく彼等は雪崩のように重なっていき、やがては完全に道を塞いでしまった。 ストライクドラモンは振り向いて壁に向き合い、シュウはそれを無視して階段を下りる。 壁に…いや、キーボックスに拳を突き刺したストライクドラモンはそのままシャッターの開閉ボタンを起動。 爪から放つブルーフレイムをおまけにぶつけるとそのまま逃げ出した。 後から追い付いたSS-88号と晶が見たのは山積みになったアルゴモンとヴァンプコマンドラモンとそれを前に困っているドットファルコモンだった。 「おい逃げられてんじゃん…」 「蹴らないでくれたまえ佐伯君」 「入る入る。今ならシャッターが閉まるのに間に合うよ」 「ダメだって!私は人間だからこの隙間は無理だって!」 「入る入る!」 キレた晶はAR-254号がいなくなっている事にも気付かず、ひたすらにSS-88号を足蹴にしていた。 ・10 地下一階 シュウは地下一階にてようやくMKT-820号と再開し、既にストライクドラモンとレッドブイドラモンによる格闘戦を開始していた。 「はーはっはァ!待っていたぞ26歳・無職!…まさか屋上ではなく地下にいるとは思うまいてェ!」 「こ、こいつ…。いつも仕事終わりを狙って呼びつけるのはお前達だろ…いい加減名前覚えろぉ!」 シュウは手をワナワナと震わせ、戦いの中でボロボロにされた通勤用のカバンを地面に叩きつける。 「ってか俺が最初から地下に来たらどうするつもりだったんだよ…」 「それは無い。なにせ貴様は無職のバカァ!つまり高いところに昇るのだァ!!」 「それに、貴様なんぞO.A.S.I.S.プラグラムに関わるとリサに言われなければ相手なぞしてやらん!」 「だからそのナントカプログラムってなんなんだよ」 「…貴様は26歳・無職で充分なのだぁーっはっはっは!!」 MKT-820号はO.A.S.I.S.プラグラムについて問われると一瞬真顔になるが、すぐにシュウへの罵声を再開する。 ひたすらに大声で騒いだ事に乾燥した季節も重なったのか彼女は思いっきり咳き込んでしまった。 「ゔえ゙っ…お゙っ…!」 「あー、マガネちゃん大丈夫?ほらまだ口つけてないから…」 シュウが鞄から取り出したミネラルウォーターをMKT-820号に渡すと、彼女はソレを思いっきり飲み干す。 大きく溜め息をついてから咳払いをすると、腕を振り上げつつレッドブイドラモンへ大声で「ぶっつぶせー!」と命令を始めた。 「そらよぉ!足元がお留守なんだぜぇっ!」 レッドブイドラモンは爪で上手くストライクドラモンを掬い上げて彼を縦回転させると、背中からガラスのケースにブチ当てる。 けたたましいガラスの割れる音、背中に刺さるガラス片…ストライクドラモンは「やったなこの野郎!」と叫びながらガラス片の一つをレッドブイドラモンの太股に突き刺した。 起き上がったストライクドラモンは思わず怯んだレッドブイドラモンを蹴り飛ばすとそのまま思い切り顎にアッパーをぶちこむ。 口を無理矢理閉めさせられた形になったレッドブイドラモンに向かってカラーコーンを叩き付けて強制的に封をすると、今度は踵落としをそのまま打ち込んだ。 地面に突っ伏したレッドブイドラモンを前に柱へよじ登ったストライクドラモンは雄叫びを上げてからフライングボディプレスを放つものの、レッドブイドラモンは転がってなんとか回避する。 固い床に自ら全身を打ち付けたストライクドラモンは甲高い声で悶えることになってしまった。 「はーっはぁ!ほら見たか!バカは高いところに昇るんだよォ〜ッ!バカに似てバカはバカだなぁ!」 「お前それ現役大学生の語彙力じゃねーんだよバカ!」 ストライクドラモンとレッドブイドラモンが戦闘を再開する横でシュウとMKT-820号は口喧嘩を始める。 ついにキレた彼女は怒りながらシュウに向かってズンズンと早歩きで寄っていくが、ちょっとした段差に躓くとシュウの目の前で派手に頭からすっ転んだ。 「ぶっふっ!!」 シュウは痛そうだなぁと思いながら覗き込むと、彼女は素早く顔を上げて「貴様ァ!そこはちゃんと受け止めろォ!?」と抗議しだす。 「なんで俺は怒られているんだろう…ほれ」 そう言いながらシュウから差し出された右手をきょとんとした目で見つめたMKT-820号は、恥ずかしそうにその手を掴んだ。 「じゃあさっさと立てよ」 「その…えと…」 MKT-820号は両手でシュウの手をしっかりと握るが、そのまま起き上がろうとしない。 「もう少しこのままじゃ…だめか?貴様の手の暖かさを…」 その直後シュウの体はそのままMKT-820号に引き寄せられ、手を抱き締められたような状態になる。 「えっ…」 シュウが言葉を続けようとした時、かちゃりという音と共に彼のデジヴァイス01は手首から外されていた。 MKT-820号は四つん這いになると急いで後に下がり、自分の前にレッドブイドラモンを呼び寄せてシュウの前に立ち塞がらせた。 「きも…」 「はーっはっはぁ!かかったなこの勘違い男!この私のォ…今キモいって言った????」 MKT-820号は作戦の成功に一人でお祭り騒ぎだが、シュウの予想外の反応に再びキレ始める。 「いやぁ…だってアレは無いわ…レッドブイドラモンはどう思う?」 「ぷっ… だぁーっはっはっは!!無い無い絶対無え!!!似合わな過ぎだろいくら何でも!!!!は、腹痛え……!」 「なんで意気投合してるんだ貴様らァ!…そうだストライクドラモンくん、君はどうかねぇ!」 「オレ詳しくないけど、そういうのフクジンヅケが無いって言うらしいゼ!」 「伏線な」 「くそう!くそう!」 MKT-820号は作戦が成功しているのに何故か涙目で机を叩き始めた。 「だがまだ作戦はある!BO-4653号、貴様の出番だぞォ!」 彼女にそう呼ばれて現れたのはスーツに身を包んだ褐色の老人・BO-4653号だ。 彼は震えながら「わ、私の娘を紹介していいのか…?」とMKT-820号に話すと「あぁ!!存分に紹介してしまえぇ!!」と大声で返事をする。 そう言われたBO-4653号はパッと笑顔になり、「これが私の娘だ!」と急に大声で叫びだしてシュウをびっくりさせた。 するとブロッサモンらしきデジモンが地面を突き破って現れ、触手が次々と地面から生え続ける。 「…まだ全部でてこないのか」 「シュウ!これめっちゃデカいぞ!」 「んんんーっ!?そんなにデカいなんて私聞いてないぞぉ!!!」 未だに延び続けるソレはやがて天井とショッピングモールの壁を突き破り、高さ8m程になると漸くその成長を止めた。 ブロッサモンはその巨体を大きく揺らして無数の触手から光線を噴出させると無差別にデジモン達を撃ち落とそうとしだす。 「あ〜れ〜!」 上の階でつっかえていたSS-88号や何体かのヴァンプコマンドラモンが触手に捕らえられている。 「ちょっと待ってよ〜とっつぁ〜ん!今日はまだ盗んでないって〜!」 「これからするつもりなら十分逮捕だ!!」 困惑しているシュウたちの前に今度現れたのは自分を有名な怪盗の子孫と思い込む狂人・WP-38号が竜崎に追いかけられてシュウ達の前に現れた。 「あんれま。な〜にやってるの皆様」 「WP-38号、作戦はどうした!」 「そりゃあバッチグ〜よ。俺は狙った獲物は逃さないからねぇ!RGB-256ちゃんもよろしく言ってたよ」 「ふふ…これで監視カメラの問題はクリアだ。いや、よくやったァ!」 「祭後終!鳥藤さんや色井さんと連絡がつかないと思ったら貴様もいるのか〜ッ!」 「竜崎さん今はそれどころじゃないんだって!アレ見てアレ!」 WP-38号と竜崎はシュウとMKT-820号の回りをグルグルしながら会話を続ける。 竜崎はシュウにそう言われるとショッピングモールを滅茶苦茶にして暴れまわる巨大な植物怪獣・ブロッサモンを認識する。 「なっ、なんだこれは!?」 「そういうこった。力を貸してくれ!」 「あ〜らら。こりゃ大変そうね竜崎のとっつぁん」 竜崎は仕方ない…と走るのを止めるとスマホを操作し、思い切り空中にかざした。 するとその画面が光り、空間をガラスのように破裂はさせながら巨大な赤い羅刹龍・ダイナモンがショッピングモールの外に現れた。 ブロッサモンは無数の触手でダイナモンを絡め取ると一度宙に持ち上げてから地面に叩き付けてしまった。 竜崎は舌打ちをしてスマホに文字を叩き付けて指示を送り出す。 ダイナモンは触手の一つに噛みつくとそのまま口内から炎を発射し、焼き切ってしまう。 「竜崎さん、俺たちは下の駐車場に逃げ送れた人がいないか観てくる!」 「ちっ…任せたぞ」 ブロッサモンの叫びが響くショッピングモールの中でシュウはMKT-820号の手を握ると下り階段へと駆け降る。 WP-38号もこれ幸いといつの間にかその姿を竜崎の前から消していた。 ・12 地下二階 地下二階・駐車場に到着した二人と二匹は逃げ送れた人や従業員たちがいないかを探そうとする。 その時MKT-820号は「ええい離せっ!」と言いながらシュウの手を無理矢理離振りほどくと、目を逸らしながらデジヴァイス01を返す。 「悪かったよ…あ、いや。地下駐車場は既に我々が人捌けをしてある!」 「そうか…ありがとな」 「いやまさか私も宿敵である貴様に助けられとはな…だが次はこうはいかんぞ、覚悟して待っていろ26歳・無職・彼女いない歴=年齢・ハゲ!!」 「はいはい…ってオイなんか聞き捨てならない文言が追加されてるぞ」 シュウは手首に装着しようとしたデジヴァイス01を思わず落とす。 「五月蝿いわ!!華のJDが色仕掛けしてやったのにあんな反応しか返せない男なぞ、女とマトモに付き合った事が無いとしか考えられんわバーカバーカ!!!」 「んなことじゃねぇ!ハゲを撤回しろ!」 シュウは自分の髪の毛を触りながら「まだハゲてない!」と何度も叫びながらMKT-820号に頭を突き出す。 「ええい鬱陶しいっ!用意周到な私は脱出の準備もしてあるのだ!」 彼女がシュウを押し退けると懐から取り出した電話で誰かに連絡する。 すぐに遠くから「ほっほっほっ…」という笑い声に加え、シャンシャンと鈴の音が聞こえてくる。 「今から来る乗り物は狭いぞ。デジモンをデジヴァイスに収納しろ!」 「それはいいんだけどこの声はなんなんだよ…?」 二人の前に現れた人物、それは赤い服・楽しそうな笑い声・ふくよかな体・そして立派なヒゲというサンタクロースそのものの姿形をした老人であった。 「ほっほっほ」 「サンタじゃねーか!!」 「いや、彼は私の優秀な部下の一人、オアシス団員03-TX号だ!」 「ほっほっほ」 「因みに彼の乗っているソリがデジヴァイスだ」 「だからサンタじゃねーか!」 「ほっほっほ」 「いや、これを引いているのはムースモンだ」 「わかった。もう突っ込まんぞ」 03-TX号は懐から小さな箱を取り出すとそれをシュウに手渡した。 「おじいちゃんこれは?」 「プレゼントじゃよ」 「03-TX号が喋っている所…初めて見た…」 「流石に嘘であってくれ?」 シュウは仕方なくその箱を受けとりながらソリに乗り込み、MKT-820号も続くとかなりぎゅうぎゅう詰めになった。 「ほっほ!」 二人の準備完了の合図よりも早くムースモンはソリを力強く引き、グングンと加速していく。 やがて駐車場の坂を駆け上がっていくと鈴の音を鳴らしながら大きく空へ舞い上がった。 脱出した三人が真上を見上げるとそこでは未だにダイナモンとブロッサモンが熾烈な争いを繰り広げており、その様相は正に勝った方が人類最大の敵になるのでは?と思えるような光景であった。 「イーッ!サァッ!」 突如として独特な叫びが辺りに響くと、光が地面に追突する。 それはなんだか無愛想な顔をした銀色の巨人であり、彼の介入によって二匹の巨獣は撤退することとなった。 無事に夜を越した廃墟を見てオーナー一家の一人・大聖寺 奏恵は白目を向くことになる。 ひっくり返った彼女を後ろから見ていたのは最早特殊能力レベルに存在感の薄い少女・SL‐691号であり、相棒のマクラモンから慰められながら廃墟を見つめていた。 「誰も私に気がつかなかったな…」 ・13 ラーメン屋の帰り 本屋で参考書選びに時間がかかり過ぎてしまい、思ったよりも遅い時間になってしまった。 少し大きな場所が良いと思ってショッピングモールまで足を伸ばしたことが間違いだったのだ。 少女は住宅街を目指して急ぎ足で進んでいるが、その後ろにはつけ回す影がある。 最初は偶然が生んだ勘違いだと考えていたのだが、毎日のようにその男は自分の後をつけてくるのだ。 少女は毎日仕事に追われて家に殆どいることのない両親に相談する事ができないまま数ヶ月もの間、彼に怯えていた。 耐えきれなくなった少女が走りだそうとした時、ストーカー男は少女に追い付いて彼女の肩を思い切り掴んだ。 「ひっ!」 思わず上擦った悲鳴を上げた少女はストーカー男の方へ振り返ると、その手に握られていた電灯に反射して光る物体…包丁に気付く。 「ぼ、ぼ、僕は君と話したいだけなんだよおぉ…」 ストーカー男に包丁を向けられたことでパニックになる少女の姿を見て、ストーカー男も挙動不審に声を上げる。 少女はそんなストーカー男の言葉を聞いて逃げようと腰を抜かしながらも後退るが、ストーカー男はそれを追って距離を縮めてくる。 やがて壁際まで追い込まれてしまった少女がぎゅっと目を瞑った時、爆発音が響いた。 「ぐぼっ!?」 目の前で派手に吹き飛んだコンクリートのブロックが白い弾丸のとなってストーカー男に激突し、更には巨大なオニヤンマが追突してきた。 それらが飛んできた先から走ってきた二人の男が、ストーカー音を挟んで対峙する。 「やっべ〜強くブッ飛ばし過ぎちゃったゼ!」 「おっ、なんか巻き込んでるではないか!やーい犯罪モン!」 それは全身オレンジタイツの奇妙な男性と仕事帰りといったコートの青年、筋肉質な青い竜だった。 「そもそもお前がラーメン食ってる所に突然乱入してくるのが悪いんだろ!」 「悪いのはウチの幹部たぶらかしてる貴様だろ!未成年に手を出すつもりかこの野郎!」 「してねーって!飯くらいお前とも行ったことあるだろ!」 「…まさか彼女いない歴=年齢だから必死になってるなぁ!?諦めろ!!」 「ばっ…それよりコレ洒落にならねぇぞこれ…ん?」 コートの青年は踞っているストーカー男が包丁を持っており、目の前で少女が泣きながら怯えているのを見つける。 すると彼は即座に片手に持った細いプラスチックパイプを股間に向かってスイングして追撃を放った。 「っし…コレで正当防衛完了だな。じゃなくてソコの君、大丈夫か?」 ストーカーに悩まされていた少女・面乗 跳雨はそれまでのやり取りは全く聞いていなかった。 ただ、自分の前にいたオレンジタイツの男を自身の救世主だと勘違いしたのである。 「あ、あの!わた…」 オレンジタイツの男はこちらを向かないまま手でしっしと逃げるようにジェスチャーするので、彼女はその場を素直に走り去った。 家に向かって走り行くハウはもう泣いておらず、新たな決意と笑顔に溢れていた。 ちなみに03-TX号のくれたプレゼントの中身はちょっといいハンドクリームだった。 おわり