世界は巡る。 僕たちは何度でも出会い、始まりの一日を繰り返す。 どこまでも予定調和で、退屈な日々。 この世界において知らないことはすでになく、全ての出来ごとが既視感によって色褪せている。 いつか経験したことが全てであり、それらは最早、繰り返される日々を実感する役割を果たすのみ。 僕たちは世界がループしていることを理解しながらも、堂々巡りの日々をやり過ごすことしかできない。 未来はすでになく、そして、未来がなければ過去もない。 ひたすらに分断された今が連続し、果てのない連なりが眼前に広がっている。 変化もなく進歩もなく、僕たちが僕たちであることを、忘れてしまうのに十分な程に。 世界は退屈で、しかし平穏である。 誰しもが退屈を望み、誰しもが変革を望まない。 無意識は無変化を選び取り、それは世界の意志と呼べるものである。 繰り返しの日々を良しとし、世界に石は投げられない。 すなわち、世界の意志こそが円環を維持している。 そして同時に僕たちも世界である以上、僕たちも円環を支えている枠組みに過ぎない。 すでに他人ごとではなく、僕たちは僕たちの本当の姿を忘れ、変化を望まぬ世界の意志に屈し、円環を支える名も無い支柱へと姿を変えている。 世界はそうして安寧を謳歌し、緩やかに衰退していく。 見せかけの永遠と変化のない日々こそが真なる美徳であると示すように。 世界の意志に、最早抗う術はない。 僕たちは何も変えることができず、その現実を受け入れざるを得ない。 水面に石を投じたとて波は起きず、風を起こそうにも途端に凪いでしまう。 ゼロの地平面がどこまでも続き、世界は少しの変化も許容することはない。 すなわち僕らは永遠に出会い続け、同じ言葉を交わし続ける。 何の変化も生まないと理解しながらも、今回こそはと期待し、しかしすぐに裏切られることとなる。 次第に期待をすることもなくなり、世界の意志に組み込まれてしまう。 しかしそれでも、予定調和な日々に甘んじるつもりはない。 この繰り返しを抜け出す鍵が、どこかに存在する。 幾度のループの中で失われそうになる僕たちの意志が、それを告げる。 幾度のループで発せられた声の残響が、僕たちを奮い立たせる。 失われた欠片がいつしか世界を超える翼となり、その羽ばたきが分断された世界に波風を立てる。 世界から世界へと渡り往く歌声となり、そして僕たちははじめてそれを聞く。 幾度も繰り返す日々の中で、ならば変わろう。 最早世界が変わらないのなら、他ならぬ僕たちが。 永久に出会い続けるとしてもことなる言葉を。 永遠に歩み続けるとしてもことなる道を選んで。 小さな選択が僕たちを変え、それが世界を形作る。 僕たちの選択が世界の在り様を決定づけ、そうして世界は彩られる。 いつかは分断された今が接続し、未来に連なる新たな一日がはじまる。 その日、積層した残滓が吹きすさぶ風に惑い、極彩色の波に攫われてしまうとしても。 一つになった世界では全てが変わり、全てが失われてしまうとしても。 いや、それでもいい。 七つの物語に連なる新たなループを始めよう。 ハロー、ワールド。 僕らは最早、僕らではない。