① 「クンニされてる…sumimiの初華にクンニされてるよ私…んっ…あっ、んっ…そこっいいっっ」 粗末なラブホのベッドが軋む。 そこらの平凡で変態な赤の他人。 その汚い秘部に私は舌を這わせる。 恍惚の表情を浮かべて嬌声をあげる。モブレズ。 「ハァ…ハァ…そろそろ時間ね。ねえ、私すごいおもしろい事思いついたの…ちょっと待っててね」 そう囁き私の顔に跨る変態は、自分のスマホと壁掛けのテレビのリモコンを操作し始める。 どうせクソくっだらない事、早く終わらせて金を貰って、ママと暮らす家に帰ろう。 そんなことを考えてると、スピーカーからベースの音が『チッ』流れる。 女性器から舌を抜いて、思わず横目でテレビを見る。 豪華できらびやかで、忌々しい舞台の映像。 あれは──「わたしの…顔…」 ② 『I am a pretender up, up, up, up, shake, sh, shake it up,後ろ姿 なじるあなた』 「このライブ、リアルタイムなんだぁ…はぁやっぱりムジカしてるときの初華かっこいい…んっ」 暗闇の中にいる。あいつは全てニセモノ。 『「The pretender」 up, up, up, up, shake, sh, shake it up, it up』 「いい…いいよ…あそこで歌ってる初華の顔が私の洗ってないアソコ舐めてる…すごい征服感…」 暗闇の中にいる。そして地獄が始まった。 『馬鹿ね サヨナラ loser, loser, loser (Bye-bye and bye)』 「ハァ…ハァ…今夜は初華が私のクンニ奴隷だなんて信じられないよ…あんっ、奥っ、もっとっ」 透明になった私。骨を盗んだ奴が高笑い。 『私 make up, make up, make up, babe あなたを渡る』 「またDMしていい?会ってクンニしてくれるよね?ねえ?ねえ?お金ならいくらでもあげるから」 私は埋葬された。墓を暴く準備はお終い。 ③ 『You're just a pretender up, up, up, up, shake, sh, shake it up, どこまでそう気取るのかしら』 「若いのに舐め慣れてるよね…どれだけ身体売ってきたの?」 覚悟はもうできているのかな。納得したフリはもうやめよう。 『Hate pretender up, up, up, up, shake, sh, shake it up, it up』 「ほんとうに顔似てるよねえ…そっくり…もっとクリ舐めて」 無知だったと言い訳するのも。あの自己防衛もなにもかもを。 『いつまで演るの?Shut pretender up, up, up, up, shake, shake, shake it up』 「もしかして初華に憧れて整形とかした?」 そのうち私も言われるのかな。魂を売り払ったやつだってね。 『ごまかさずにほら向き合えば Hate pretender up, up, up, up, shake, shake, shake it up』 「顔、絶景すぎ…動画撮っていい?」 ほら台本はそろそろ絶版だよ。私たちは仮初めの存在だから。 ④ 『こっちがホンモノ 勝者、勝者、勝者 (Bye-bye and bye)』 「スマホスマホ~、それじゃあ撮っちゃ…キャッ!?」 ずっと回っている。歯車が私を振り回す。長く続く長く続く。よくあるお話なんだ。 私は他の奴と違う。人形なんかじゃない。私はお前の心の声。お前が目を背けた音。 『I am a pretender hater, hater, hate the fake』 「やぁっ急に、激しっ…~~怒って…い゛ッッ、ごべんなさっ、ゆるしてぇ!」 向かい合わせの顔。お前を引きずり出す。捨てられた真実だ。私はお前らの敵対者。 断頭台を降ろす手。広場に跪かせてやる。降参なんかしない。お前は偽物なんだよ。 『鏡の中のお前を暴く』『チッ…ha haha ha』 「イグッ…!し、しんじゃッッ~~ああ゛ッッイッてるのにクンニとまッッらなっ~~こわれぇぅっぉ゛ぁ゛ッッ」 それでお前は誰だ?そう、そこのお前。 お前は一体誰だよ?名前、早く言えよ。 お前は誰なんだよ。 ⑤ 「おえっ…」 八つ当たりで何回イカせたのか。 私はいまラブホの便器に顔を突っ込んでる最中。 ママが作ったスパゲッティが渦を巻きながら流れていった。…少しセーターについた。 まるでママと故郷から逃げるように離れる途中、パパが死んだ瀬戸内の海峡、そこで見た渦潮みたいだ。 ああ、これが敗者の「顔」か。 バスルームの鏡に映る自分と、ふと「顔」を合わせた。 魂と身体を売って、二束三文の駄賃を貪る卑しいクンニ奴隷の「顔」が鏡の中。 「ひどい顔」 笑いが出た、思わず。──こんなところに長居は無用だ。金を抜いた財布を乱雑に投げ捨てた。 泡を噴いて、痙攣し、垂れ流しながら気絶中のモブレズ。興味なさげに一瞥して部屋から出た。 ⑥ 外に出ると、酷い雨が降っていた。 時間を確認する。終電には間に合うはず。 コンビニで黒いレインコートを買い、駅に走る。 傘って気分じゃない。この顔と汚れた身体を隠したい。 間に合った。ホームの屋根のない端っこで雨に打たれて終電を待つ。 面倒事を避けるため、人気のない所を探す癖ばかりついた。 電車が来る。ママが仕事から帰ってくる前に帰ろう。 最後尾車両。人影は二人組がひとつだけ。 『ドアが開きます。ご注意ください』 乗ろうとして────足を止めた。 「今日のマスカレードもなんとかなりましたわ~本っ当に大変でしたわ…」 「ふふっ、おつかれさま。でも楽しかったね、さきちゃん」 ⑦ 「初音、貴女ライブ中はしゃぎすぎで私ヒヤヒヤしてましたわ」 「え~?さきちゃんだって、ノリノリでお客さん煽ってたのに」 ざわめく雨音と、車内の二人の笑い声が私の鼓膜を突き刺した。 「帰ったらまずはお風呂ですわね。初音が先にお入りになって」 「私は後でいいよ。さきちゃんの方が…それとも一緒に入る?」 フードを目深に被る。電車とホームの境界線が私の侵入を阻む。 「…?あの方、乗らないのかしら?これって終電ですわよね?」 「う、うん。どうしたんだろうあの子…なんだか、こわい……」 『ドアが閉まります。ご注意ください』 レインコートの幽霊が、二人が乗る灯りが燈った電車を見送る。 暗闇の世界にただ一人、いる。 ⑧ 大雨の東京の夜道をクンニ奴隷がひたすら歩く。 惨めなレインコートのドッペルゲンガーが歩く。 先程から視界の中で変な歯車の幻覚がちらつく。 安いイヤホンから適当に再生した音楽が流れる。 怒れるブロンドの坊主頭の白人男が問いかける。 『──Look, if you had one shot or one opportunity』 『──To seize everything you ever wanted in one moment』 『──Would you capture it or just let it slip? Yo』 ⑨ 三叉路に突き当る。どちらに進んだら家に帰れるのか。 別れ道のその先が、どこに続いているかもわからない。 傍らで叫ぶ男性も、視界の歯車も何も教えてくれない。 dice1d1 1: 左に行こう。 ⇒ Route [“歯車”Ⅶ ] 『She's chokin', how? Everybody's jokin' now!!』 ⑩ 『You better lose yourself in the───z…ザザッ』 コーラスの入りのところで曲が途切れた。安物のイヤホンが浸水して故障したんだ。 私の耳につながっていた管を引きちぎる。苛立たしげにその残骸を道に投げ捨てた。 You better lose yourself in the…何? 意味は成し遂げるために何かに没頭しろ?こんな私に何に没頭しろって言うんだよ? テレビを点ければ同じ顔と名前のやつが、圧倒的実績と勝ち誇った表情で私を煽る。 お前にはこんなこと成し遂げられないと、お前は敗者敗者敗者と高らかに嘲り笑う。 そいつと同じ顔した私が家の外に出れば!モブレズが股を濡らして追い回してくる! ああなんて生きづらいセカイなんだろう!こんなにも惨めで情けない私にできる事? それは─── ⑪ ──それはクンニだった。 下卑たモブレズ共に身体と魂を売った。 下働きで日に日にやつれていくママを助けるため。 下水道から出る汚水を舐め取る。奴隷契約。欲望の捌け口となる性奴隷。 ──そして才能があった。 クンニ奴隷としての光り輝く天賦の才。 クンニすればモブレズ共は瞬く間にイキ死んでく。 クンニだけは結果を裏切らない。いらない。全然欲しくない才能すぎた。 ⑫ 姉の初音には表現者の王者としての才能。誰もが欲しがる才能。 妹の初華には浅ましい奴隷としての才能。誰もが拒絶する才能。 こんな残酷な鏡合わせ、神さまは絶対に性格が悪い厄介野郎だ。 さっき電車で見た、友人と笑い合う初音の顔がずっと反芻する。 初音だけずるい。 高望みなんかしない。 私も普通の生活がしたい。 マンコきたない舐めたくない。 だけど私の意思なんて、世界にとっては些末な物だったみたい。 気付けば私の周りには、眼を血走らせたモブレズが大挙してた。 今この瞬間にも───、クンニからは逃げられない。 ⑬ 「ホ別苺クンニ…うおっ!?この娘…顔が良すぎ」「えっ!?てかsumimiの初華じゃね!?アイドル!?」 「この時間にここうろついてるのって…クンニ奴隷希望?」『Step off bitches!』「レズ便器女だったのかよ…あっついなオイ」 「おやsumimi布教して徳積んだ甲斐あったわ」「あそこのヤリ部屋連れてこ!やべえ玩具もやべえ薬もいっぱいあんだわ!」 地獄の鬼達が騒ぎ囃す。 もうどうなってもいい。 歩くのも苦悩するのも。 疲れてすべて放り出す。 歯車の幻が視界を覆う。 ああもう逃げられない。 「全部、忘れさせて…」 狂った歓声があがる── ⑭ ───── 『ねえ知ってる?初華の……例の都市伝説?のこと』 『あ~…どうせしょうもないデタラメだろうけど、気の毒だよね初華』 『えーっと…そうそう、この記事』 ──衝撃!トップアイドル 兼 天才アーティストの三角初●!モブレズ達のク●二奴隷アイドルとしての顔! ──堕落の二面性!クン●も超絶技巧炸裂!?7万人のモブレズマンコ舐めた!? 『7万人て…え~なになに?黒のレインコートを着たsumimiの三角●華と同じ顔のクンニ奴隷が出没すると某ローカル口コミ掲示板サイトを中心に話題に?』 『うわっすごいこと書いてる…この子にクンニされたら気持ちよすぎて廃人になるモブレズが続出だって』 『廃人!?でもあたしレズじゃないけど初華にだったら舐められて廃人になってもいいかm』 「おはようございま~~す!!」 『『お、おはようございます!』』 「朝からういちゃんが聞いたら嫌な気持ちになる話するの、いい加減にやめてくださいね?」 『『は、はひぃ…ごめんなさい…』』 ⑮ ──暗闇の中にいる。 「1人」『あんっ』 「2人」『クンニイグッ!』 「4人」『やっ…クリばっかっ…オ゛ッ゛』 「8人」『おひぃぃっひんじゃう!死んじゃっ~~ッ!』 「16匹」『知りゃないっっこんなクンニ知らないよっ!い゛ぃッ!?』 「32匹」『やめっ!やめ、てっ!クンニ奴隷のくせにっ!あ゛、むり゛ッイ゛っ』 「64匹」『ク、クンニアクメ止まりゃないいい、んぉっッもっとぉ゛ッッそこ゛舐めてえッッ』 「128…」『ら゛めぇ…………ッッ゛いま、舐めるの、だめ…………ッ゛っ、ぇ、イ゛…………っイグッッ゛』 「256…」『お゛ぉおッッ!!ほ、んぉおッッ!やめ、やめぇ……っ、ぉっぉほ゜っーーーーーーーーーーーーー-っ!っ』 「512…」『おねが、しま、すぅ゛ッッっもうクンニ、アクメじだぐな゛い゛ッッ!どれいっッあ゛たじが奴隷になりましゅからあ゛ッ…っ!』 「1024…」『な゛んかキちゃうッッッ~~~!!……舌の動き、速すぎぅうゅぉぉぉッ!こ、こわいいいんッッ!こ、こんなの知、知らない~~ッッ…!?』 ⑯ 「2048」『舌っっ…ぉ゛ぉ゛人間が、んんんっッッやっていいやつじゃ……ば、化け物!やめてよっ!お゛お゛お゛ほお゛ッッッ…!』 「4096」『にゃむちゃんのよりすご…ほぉっいきな、りお゛っ!? この娘、女の子のことっ食べ物としかっ化け、物…!』 「8192」『ヒッ…!?怪物、やめ、来ないで…ヤダヤダ!舐めないで!そこおしっこが出る穴だよぉ!?』 「16384」『ダメだめ駄目ダめヤダやだ気持ちいいのもうヤダ消える消える消え…縺上s縺ォ』 「32768」『もういぃっあたしじゃなくなってもいいっ!気持ちっい…鬘斐鬘斐』 「65536」『死ぬ!死んじゃ…!繧ッ繝ウ繝句・エ髫キ縺ョ縺雁ォ√&繧薙?』 「…69995」『蛻晁庄縺ォ縺ェ繧画ョコ縺輔l縺ヲ繧ゅ>縺』 「…69996」『邇九r谿コ縺吶?蟶ク縺ォ螂エ髫キ縲』 「…69997」『縺雁燕縺ッ蛛ス迚ゥ縺?縲』 「…69998」『闃・蟾晞セ堺ケ倶サ九』 「繝槭う笆?笳鞘命縲ゅ◎繧薙↑縺薙→霎槭a縺ヲ?茨シ峨↓豐。鬆ュ縺吶k繧薙□縲!!!!!」 「……お姉ちゃんに、会いたい」 ⑰            ─── 「69999」「───────────────」            ─── ⑱ ─── 重い足取りで歩む、自宅マンションへの帰路 気晴らしに買った瓶のプリンが入った袋がカタカタ音を立てている。 はあ…コーヒーでも淹れてさきちゃんと一緒に食べよう。さきちゃん喜んでくれるかな…。 母から、警察と事務所を通して連絡が来た。 私の妹の初華が、長いこと母と共に住む家に帰っていないそうだ。 本土に来てからどこか様子がおかしくて、夜遅くまで出歩くのが増えていたみたい。 何か事件に巻き込まれたのか、何か知らないかと私の方に聞かれたけど、何も知らないと答えた。 でも初華がおかしくなった原因はわかる──確実に私だ。 私が初華の名前と顔と夢を盗んでしまった結果がこれだ。 最近よく耳にする悪い噂話と点と点が繋がる足音がした。 動悸がする。足早になる。忘れたい。さきちゃんに早く会いたい…。急いでカードキーで自宅のドアを開ける。早く彼女に── ⑲ 「ただいまさきちゃん……なにこれ?レインコート?雨降ってないのに…さきちゃんこんなの持ってたっけ…?」 コンビニで売ってるような、ボロボロの、見慣れない黒のレインコートが玄関に畳まれて置かれていた。 嫌な予感がした。都市伝説の怪談じみたくだらないゴシップが脳裏をよぎる。 「…っ!」 靴を揃えもせずに急いでリビングに駆け込む。 明かりの消えたリビングには誰もいなかった。 誰の返事もなく。私の焦燥に満ちた荒い息が空間に響いただけ。 薄暗い部屋を見渡す。何も不審な事はない。さきちゃんと私の二人の生活空間が広がるだけ。 よかった…。ホッと胸をなでおろす。さきちゃんはまだ帰ってきてないのかな…? でもこの部屋から嗅ぎなれない…花のような香りがする。なんだろう? 照明のスイッチを押し、部屋の明かりを燈した。一瞬、視界に歯車?みたいなのが映り込んだ…?なんだろう…? ⑳ 暗闇の部屋に暖色の光が満ち、紫色の瞳孔が収縮する。 薄ぼんやりとしていた瞳の焦点が、世界に合ってくる。 ああ、そうだ、いつもと変わらない。 さきちゃんと私だけの── 「おかえりなさい。初音」 そう、私の本当の名前は初音。さきちゃんと私しか知らない秘密の名前。 ダイニング椅子に座り、出迎えの挨拶と私の本名を発した人物、それは。 ───私と同じ顔をしていた。 ㉑ 嘘、嘘嘘嘘嘘…だってさっきまで誰の気配も…。 驚きのあまり手に持っていたプリンの入った袋を落とす。ガラス瓶が割れる音。 「初、華…?」 「初華?今は初音が初華でしょ?私の名前は…まあ、もう名前なんかないか。久しぶりだねお姉ちゃん。ただいまは?」 「どうしてここに…」 ダイニングテーブルの上には飲みかけの紅茶。 座る初華の手には、さきちゃんの私物の文庫本が開かれていた。 「この小説面白いね。服毒自殺する間際の作者がドッペルゲンガー見たって話なんだって……私たちみたいだね」 故郷で人生の大半をずっと共にしていたはずの妹、そのままの姿…のはずなのに、なぜか別人のような印象を抱いた。 ㉒ 本が閉じられ、虚ろな双眸がこちらに向く。明らかに様子がおかしい。 「最近調子はどう?クローゼットを掃除するように、世界から私を除け者にしたお姉ちゃん」 怖い、怖い、初華の目を見られない。昔はあんなに表情豊かな子だったのに、今は仮面が貼り付いたような無表情。 「怖がらないでよ。ほら、いつもテレビの中から見せてくるみたいにさ、堂々と演りなよ、初華のものまね。とりあえずお手本が目の前にいるよ?」 「………ママが、初華のこと探してた。家に…全然帰ってないんでしょ?」 「…初音が私にそれを言うの?なんかもう他人事みたいだね。やっぱり家族を捨てるのに良心の呵責とか全然なかった感じ?そんなに腫物扱いだったあの家が嫌いだった?パパもママも初音のことあんなに愛してたのに?あれでもまだ足りなかった?」 「ち、違う!違うっ!そんなんじゃないっ!私もママも初華を心配して…」 「嘘つきのお姉ちゃんほんと大好き…こうやって言い合うやりとり前にもあったね。パパが死んだときの、デジャヴ。アンコール。私たちって争いから逃げられないおもちゃの兵隊みたい」 ㉓ 初華は幽霊のように静かに椅子から立ち上がり、ゆっくりと私に向かって歩み寄ってくる。 「今日「私のママ」に会ったんだよね?」「「冷たい風が吹く」家に住んで…毎日「午前3時」まで働いて…すごいやつれてたでしょ?」 「ママも私も「地獄行『き」、無』敵の「超人」になったあなたがそうした」「私の人生」「「破滅するまで」地獄が続く」 『ねえ、私の目を見てよ。「後ずさらないで」、「恐怖を乗り越える勇気」を持って』 「こんな「厄介」で「狂ってる」「化け物」なんかに言い負かされないで」 「東京で「水の上を歩く」みたいな奇跡を起こした「シンデレラ」に、そして「ビジネス」の王様になったんでしょ?「王様は負けない」よね?』 『繧カ繝サ繝ェ繧「繝ォ繧ケ繝ェ螟「繧キ繧ァ繧、縺ァ逡ー縲』 「私は毒。奴隷。王様を殺すための、何も持ってないクンニ奴隷」 ㉔ 「ひっ…いやっ…来ないでっ!なんで今更、仕返しでもするつもりなの!?」 「…仕返し?復讐…ってこと?」 急に、きょとんとした顔。 「ぷっ……ふふっ…あははっ!うそウソ嘘っ!じょーだんだって!私はただ、お姉ちゃんの顔を見にこの家まで来ただけだよっ!」 本来の初華の、太陽のような弾けた笑顔。 「ふふっ…びっくりさせてごめん。前みたいに仲良くしようよ。初音ったら、相変わらず怖がりなんだから」 やっと知っている顔を向けられて、思わず安堵を浮かべてしまう。 ㉕   だけど何かが引っかかった──この"家"まで来た?初華は、この家に、どうやって、入ったの?         「復讐なら、もう、全部済ませちゃったし」         初華の視線が、ロフトに注がれる。     ㉖ 影が縋ってくる、それを振り払う。 駆け巡るのは、最低最悪の想像。 駆けあがる、ロフトへの階段。 「さきちゃんっ!?───っ!?」 息は、呼吸はある。 でも、 服が、乱れている。 最愛の彼女が無残な姿で横たわっている。 さきちゃんのあられもない姿に息を呑む。 熱を帯びた音、吐息となって。 弄られた形跡、垂れ流す愛液。 ㉗ 「────……ッ…っ…っ……ぁっ…初、音…?いや………いや……こないでっ…さわらないでぇっバケモノッッ!…縺溘☆縺鯛?ヲ辯遺?ヲ!」 「…え?」 「かわいい同居人さんだよね。小さい頃もそうだったけど、綺麗になって魅力的。初音が狂うのもわかっちゃった」 階段を私に続いてゆっくりと上ってきた幽霊が、戸惑う私の背後に立ち、耳元でささやく。 「えっ?」 「ああ今は身体には触れない方がいいよ。下手したら元に戻らないから。知り合いだし、初音の大事な人だから手加減したけど」 わななく手を、さきちゃんに伸ばそうと、───背後の亡霊が制するように私の手を取る。 「え?」 「初音のこと、さきちゃんは理解してくれたんだね。念願の、神様の、さきちゃんの本物になれてよかったね、お姉ちゃん。でも──」 そう、さきちゃんは私を見つけてくれた。故郷の島まで追いかけて私を救い上げてくれた。それなのに── ㉘ 「──でも、さきちゃん、今日ずっと私のこと、"初音じゃない"って、気付かなかったんだよね」 「……えっ?」 何を言ってるの。そんなこと、あるわけない。 初華は、まあ、まあ、まあ、と落ち着かせるように、狼狽する私の首に冷たい手を這わせ、 「私を玄関で出迎えてくれたときも、  一緒にティータイム楽しんだときも、  ロフトに上がってイチャついたときも、  さきちゃんのことクンニで壊したときも、  私のことをずーーっと初音って呼んでたよ。」 絶望に叩き落とした。 ㉙ 「あっそうだお姉ちゃん、知ってる?さきちゃんとお茶するときは紅茶出してあげないとダメだよ?」 どうして……。 「紅茶淹れたら『やっとわかってくれましたのね…』って、さきちゃんすごい喜んでたんだから」 「………」 「コーヒー苦手なんだって」 もうダメ。何も考えられない。 「どうせ初音のことだから、人の気持ちとか好きとか嫌いとか、聞こうともしない、知ろうともしなかったんでしょ?」 頭の中がぐちゃぐちゃで。 「…あの後から今まで私が、どういう気分で生きてきたかわかった?」 何も、言い返せない。 ㉚ 「それにしてもあんなにしたのに気付かれないって…さきちゃんが鈍いのかそれとも──」 やめて。 言わないで。 「初音、愛されてなかったんじゃない?」 ㉛ 「────っ」 声にならない声。後ろの幽霊へ振り向く。 歓喜に満ちた顔、私と同じ瞳と目が合う。 「お姉ちゃんっ!やっと、やっと見てくれたっ!」 「私から…ッ!私からさきちゃん取らないでよお…ッ!!」 私と同じ顔をしたそれの肩を掴んで、階段下の奈落へ突き飛ばした。 鈍い落下音が響く。フローリングに落ちた金色から、赤い華が咲いていく。 「っ…ふっ、ふふっ、お姉ちゃん来て。もっと、もっと近くで、お顔、見せて」 何もかも正しくなくていい。この怒りに、嫌悪に、悲しみに、激情に身を任せる。 色が流れ出しているそれに馬乗りになり、私より幼くて、細い首に、手をかけた。 ㉜ ─── 私を絞め殺す顔。 この顔をずっと、見たかった。 鏡の顔とは別の、同じだけど違う顔。 やっぱりこの顔、ビジュが良すぎる。クンニさせたい。 この偽る日々と、ああやっとこれで、サヨナラできるんだね。 首を掴む手から、お姉ちゃんの重さと体温と、愛情が伝わってくる。 綺麗に消えるよ、何も残さずに綺麗さっぱり。だから泣かないでよ。ひとつになろう。 ㉝ …………………、あっ!ロフトの天窓から月が見える! パパとママと私、初音と見た夜空を思い出すなあ。 今夜は満月かあ、故郷の空とは全然違うけど。 月がきれいだね。 ………。 …。 。 ㉞ 「おえっ…」 実の妹を殺した。 今は家の便器に顔を突っ込んでる最中。 さきちゃんが作った昼ごはんのお弁当の残骸が流れていった。 リビングでは、頭から大量の血を流した、初華だった物が転がっている。 ああ、これが人殺しの「顔」か。 トイレの水面に映る自分と、ふと「顔」を合わせた。 妹の顔と名前と、命を奪って、一人だけ生を貪る卑しい勝者の「顔」が水の中。 「ひどい、顔」 涙が出た、思わず。──震える手を見つめる。消えていく脈動の感触が手のひらから離れてくれない。 泡噴いて、痙攣し、血を垂れ流して、笑いながら死んだ初華の顔から逃げるようにここに駆け込んだ。 ㉟ 「もう、死んでいい…」 妹を手にかけた鬼畜が、さきちゃんの傍にいていい訳がない。 ふらふらと立ち上がり、月明かりが照らすベランダへ向かう。 リビングの戸を開けて、まだ温かい肉親の死骸の脇を抜ける。 視界にまた歯車の幻覚。月の青白い光が一瞬だけ強く瞬いた。 ─── ㊱ 「初音?……何してるんですの?」 急に後ろから、この世界で一番安心する声に呼び止められる。 「…さき、ちゃん?」 「顔色が良くないですわよ?…帰ってたんですのね。ごめんなさいわたくしったら、ロフトでうたた寝を…」 「さきちゃ……良かった…っ!元に戻ってるっ!」 「元にって…何のことですの?何があったんですのよ…」 「っ…わた、わたし私、初華を、ころ、殺…っ!」 「いいから落ち着きなさい。ほら、深呼吸なさって」 取り乱す私を、さきちゃんはそっと抱きしめてくれる。いい匂いがする。 ㊲ 「そ、そこに、初華の死た、………あれ?」 さっきまでそこにあったはずなのに。 フローリングの上に横たわっていた、血を分けた妹の亡骸は忽然と消えていた。 死体も血の一滴すらも見当たらない。 なんで?どうして? 「さっきから一体どういうことなの…まったく、困った初音ですわね」 さきちゃんの口から信じられない言葉を聞いた。 「"初華"って…どなたの名前ですの?」 ㊳ 『ねえ知ってる?例の都市伝説のこと』 『またかよ。懲りないよねお前。私もう怒られたくないんだけど…聞くけど』 『雨が降る満月の日だけ、めっちゃカワイイ顔したJCクンニ奴隷が街に出没するんだって』 『クンニ奴隷』 『黒のボロボロのレインコートと金髪が目印で、なんでもしばらく廃人になるほどハチャメチャにクンニがうまいらしいよ』 『最悪のレズの会話』 『爆サイの口コミで、実際クンニしてもらった人曰く、うちの会社所属のさ、初音に顔そっくりなんだって~』 『なんそれアっっツ』 『初音といえばさ~、最近なんかアレだよね。いやムジカの歌すごいし顔とかめちゃシコイケメスすぎてメロつきたまらんけど…』 『あ~それ私も思ってた。なんかカリスマ性?みたいなのが前よりなくなったっていうか…なんていうかスランプ?みたいn──』 「おはようございま~~す!!」 『『お、おはようございます!』』 「また朝から事務所で"ういちゃん"の下品な陰口言ってる~。まな、そういうの許さないって言いましたよね。」 『『は、はひぃ…ごめんなさい…』』