「あれ、お前って神様信じてないんじゃなかったっけ?」 「ん〜?…もう信じてないけど、身に付いた癖っていうか…この構えするだけで落ち着けるんだよね」 見回りから戻った少年望月純は、焚き火の前で手を組んで祈る姿をとる少女、江上真理愛に声を掛けながら隣に腰を下ろす。 共に火を囲むのは彼女のパートナーデジモンのサンゴモン、イギリスから来たというスバルとリボルモン。 皆で集めたキノコを木の枝で作った即席の串に刺して炙り、昼食をとっていた。 こうしてる内は余計なこと考えなくて済むし、頭の中スッキリするっていうか」 「そういうもんなのか…」 「そ、こっち来てからワケ分かんない事ばかりだから、少しくらい頭を休ませないと…はい、焼けたよ」 「どうも…うまっ!?」 焼きたてのキノコをかじると溢れる旨味が脳内をを支配する、なるほどこれが何も考えずに頭を休ませるという事か。 食事にありつく少年を見守る真理愛に、リボルモンは「鼻が良いんだな、嬢ちゃん」と声をかける。 「えっ?」キョトンとしながら振り向いた彼女に、リボルモンは続ける。 「ああ、別に変な意味じゃない。さっきもだけど食い物の焼き上がりの見極めてるというより、嗅ぎ分けてるって感じだからさ。  料理が上手い奴ってのは同時に鼻が良い奴だって聞いた気もするしな」 「褒めてくれるのはありがたいけど、もう少し可愛い感じが良かったなぁ…」 「オレはマリアがパートナーで良かったと思ってるぞ?海の中じゃ食えるモノも限られてるし、この旅は毎日が楽しい」 「ソレ アンマリ ホメテナイ」 「だよねぇ!?サンゴモン、やり直し!」 「やり直し!?」 スバルの片言ながら鋭く遠慮の無いツッコミで盛り上がり、その日の昼休憩も賑やかに過ぎた。 ――― 「ふう…ごちそうさん」 「ゴチソウサマ」 「はい、お粗末様でした。今から行けば次の集落まで日が暮れる前に着きそうかな?」 「貰った地図が間違ってなければ大丈夫なはず、後は…変なデジモンに襲われないことを願おう」 「ソレ、Flagッテイウ」 食事を終え、後始末をしながら目的地を確認する。 一日に何度も野営する余裕は流石に無い、間に合うかどうかというより、間に合わせなければ。 とりあえずコーラでも飲んで落ち着こうとしたその瞬間、真理愛の一言で空気が一変する。 「ねぇ純、そのコーラどこで買ってきたの?」 「えっ、これお前が用意して…くれ…た…?」 いや、いつだ?俺はいつコーラなんて手にした? 少年の思考回路がそう動くより早く、デジモン達は一斉に振り向き、中でもリボルモンは銃に手をかけながら優しく語りかける。 「ジュン、良い子だから俺の言う事を聞いてくれ。  手を大きく開いて上げるんだ、そしてカップの底をこっちに見せてくれ、間違ってもカップを見るんじゃないぞ」 少年は言われるがまま手を上げる、が、駄目と言われるとやりたくなるのが人間というもの。 ジュンが恐る恐る目線を向けると『ソレ』と目が合ってしまい「ヒッ!?」と短い悲鳴が漏れる。 その動揺でバランスを崩してしまい、倒れそうになる純を駆け寄った真理愛が後ろから支え、手で目を覆う。 「深呼吸!アタシに合わせて!」 耳元から聞こえる息遣い、背から伝わる起伏、それに合わせて二度三度と呼吸すると異形の存在感が意識から薄れて少年の震えがピタリと泊まる。 その瞬間―― 「ナイスだ、マリア!」 放たれた弾丸が偽装した異形を貫いた。 ――― 「ウオノエみたいなデジモンもいるんだねぇ…気をつけんと…」 「…何だそれ?」 「魚の舌に寄生して栄養を奪う寄生虫、聞いたこと無い?」 「初めて聞いた…多分、一生忘れねぇ」 言葉を交わしながら少年少女は旅路を急ぐ。 チューチューモンが事のあらましを英文で記してスバルに説明し、そのやり取り左右を純と真理愛で挟んで守りながら歩を進める。 「次の所は食堂とか有ると良いな、そろそろ米が食いてえ…」 「アタシもそろそろお味噌汁が飲みたい…」 「Tea time please...」 「無かったら作らせりゃあ良いんだよ、ほら、前向いてないと危ないぞ」 「オレはマリアの作ったものなら喜んで食うぞ?」 泣き言を言いそうになる子供達をデジモン達は自分なりの言葉で励まし、次なる目的地が見えてきたと書き記してチューチューモンもそれに加わった。 ――― デジタルワールドを往く彼等の旅路はまだ始まったばかりだ。 その行方は誰も知らない。 願わくば彼等の旅に幸多からんことを。 <終わり>