デジタルワールドを旅していた選ばれし子供たち一行。ある日彼らに突然、黒いアグニモンが襲いかかった。 ───────── 「ヴゥゥゥぉぉァァァ!!!」 咆哮のような叫び声と共に、黒い炎が放たれる。 「あぶない!!」 パンゴルモンはその硬い鱗で火球を防ぎ、子供達を守った。 「フォージビーモン!蜜着剤発射!」 「了解!」 霧生こはるとフォージビーモンは敵の足元を狙って蜜着剤を撃ち、身動きを取れなくする。 「うおーーーっっ!!くらえーーーっ!ばくれ──ぐわーーーーーっっっ!!!」 そこを狙い、火神焔が進化したアグニモンが黒いアグニモンに殴り掛かろうとしたが、彼は黒い炎をぶつけられ、あっさりと吹き飛ばされてしまった。 蜜着剤を焼き尽くして自由になった黒いアグニモンが足踏みをすると、一気に辺りに黒い炎が広がる。 「「チェストォォォォァァァ!!!」」 彼は奇声を上げながら斬りかかったジンバーアカトリモンの剣を片手で受けると、頭突きで相手を吹き飛ばした。 「これはもうダメであるな〜ハハハ。」 「お前…さっさと戻れって…!」 「ダメであるぞ〜…ワレらではアレに勝てぬ〜」 そんな戦いの中、弦巻昌宏とそのパートナーはそんなやりとりをしていた。 「昌宏…なにしてんの?」 そんな様子を見た武蔵野イブキは、困惑気味にそう聞いた。 「進化させようとしたらダメダモンになっちゃって…」 「あのようなやつにワレらの力で勝てるわけがなかろうが〜」 「やる気なくなるからそう言うこと言うのやめろっての!!」 昌宏はやぶれかぶれでダメダモンの脇腹に蹴りを入れる。 「はっ…!ワレは一体何を?」 「ようやく戻った…」 それがきっかけとなったのか、ダメダモンはソーラーモンリペアへと戻った。 「マサヒロ!ソーラーモン!ダブルクロスしようよ!」 「キャンドモンであるか、よし…やろうではないか!」 「日影、いくよ!」 「うん…!」 「「ダブルクロス!!」」 キャンドモンとソーラーモンリペアが融合し、ヒノクルモンが生み出される。 「「黒縄大火炎!」」 「ハァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!」 ヒノクルモンが吐き出す赤い火炎と黒いアグニモンが放つ黒い炎がぶつかり合い、辺りには熱気が満ちた。 黒い炎は勢いをさらに増し、相手を押し始める。 「ワレらの炎が押されておるだと…!?」 「だったら…!」 「「異異廻転処!!」」 ヒノクルモンは高速回転で勢いをつけながら突進し、敵に突撃した。 「グッッ…ウ゛ゥ゛ゥ゛!!!」 黒いアグニモンはそれを受け止めたが、ジリジリと押され始める。 「今だっ!!」 「せーのっ!」 「「ダブルトライデントテール!!!」」 押し留めるのにかかりきりになっている隙に、渚魎と町花ホシノのメイルバードラモンが黒いアグニモンを前後から刺し貫いた。 「バーストアップ!ガルゴモン、あの傷を狙って!」 「ガトリングアーム!」 「リボルモンモ、ウッテ!!」 「了解っ!撃ちまくるぜっ!!」 慧次仁亜がその傷に追撃で射撃したのを見て、スバルもそれに倣って銃撃し、 「俺たちも追撃だ!いくぞジオグレイモン!」 「メガバースト!」 「頑張って、ダークティラノモン!」 「ファイヤーブラスト!」 国原龍人と冴木莉乃もその傷に火球を叩き込んだ。 「ガッ…グオォ…!グアァァァァ!!!」 内部に多くのダメージを受けた黒いアグニモンは倒れ、消滅した。 ────────────────── 翌朝。 昨日の戦いによって焼けこげた草原に、紫咲シエルの姿があった。 「…戦いの犠牲となったデジモンたちに、祈りを捧げましょう。」 彼女の見つめる先には、多くのデジタマがあった。 黒いアグニモンとの戦いは、多くの被害を出していたのだ。 「…!?シエル!あっち!」 彼女のパートナーであるパルスモンが、肩を叩きながらうるさく騒ぎ立てる。 「まぁ…!あれは…人間…?」 シエルは彼が指す先に、白い服を着た少年が倒れているのを見つけた。 「大変…パルスモン、力くんを呼んできてくれる?」 ───────── 「たぶん…怪我はしてないみたい。ちょっと熱があるみたいなのが心配だけど…」 「そっか…流石に冷えピタは持ってないや…」 雨代こよみとパートナーのキュートモンが、寝かされた白い服を着た少年の体を一通り診察していた。 「あの戦いに巻き込まれたかもしれないのに怪我一つなかったの?それってちょっと不自然じゃない?」 「そういうこと言わないの!きっとこの子だって必死で逃げたのよ。」 三石円が疑問を呈すと、彼のパートナーのブイモンがそれを諌める。 「こいつもディースキャナか!俺と同じだな!」 そう叫んだのは火神焔だった。 「そろそろ朝ごはんできるけど…その子も食べるかな?」 兄と共に朝食の用意をしていた望月マサトが、様子を見にやってくる。 「──────!!!ごはん!今ごはんって言った!?」 するとそれを聞きつけたのか、白い服を着た少年は突然飛び起きた。 「言った…けど……食べる?」 マサトの問いに、少年は勢いよく首を縦に振った。 ───────── 「んっ、がっ…!ごく…」 彼はおにぎりを両手で掴むと、ものすごい勢いでそれにがっつき始める。 「お前…よく食うな…」 それを見て、望月ジュンは思わずそう溢した。 「こんなに美味しいの…久しぶりに食べた…!」 「あ…ありがとう…。…それでお前、なんて名前なんだ?どうしてあそこに?」 「やっぱりわかんないか。ぼくは…「きゃぁっっ!!」 彼が名前を言おうとしたところで、悲鳴がそれを遮った。 「ララ、一体どうしたんですか?」 「だ…だって…あの…ひと…!」 その悲鳴を上げたのは、起きてきた奈々井桜々だった。 「へぇー…もしかしてきみ、わかるの?」 少年は立ち上がると、桜々に近づき始める。 「こ…こないで…!」 彼女は恐怖のあまり腰を抜かしながらも、必死に後ずさる。 「やっぱりわかってるんだ…!」 「やめろ!よくわかりませんが…ララが嫌がってます!」 「邪魔だよ!…きみ、ララって言うんだ。」 桜々との間に割って入ったチビカメモンを蹴り飛ばすと、少年はさらに近付き、彼女に触れようとした。 「おい、いい加減にしろ。」 近一ゲキが彼の腕をつかみ、その隙にムーチョモンとチビカメモンが協力して桜々をその場から下がらせた。 「誰かと思ったら…昨日のアカトリモンのテイマーか。邪魔しないでよ」 「なら力ずくで!」 ゲキは正拳突きを打ち込む。 「……なにっ!?」 しかし、それは片手で受け止められ、振り払おうにもびくともしない。 「やっぱり…人間って弱いね。」 彼はゲキの手を離して人差し指を伸ばすと、そこに黒い火を灯らせた。 「てめーーっ!まさか!!?」 「そう、ぼくがブラックアグニモンだよ。きみが昨日のアグニモンだよね?きみはスピリットを使いこなせてないよ。ぼくみたいに全部をスピリットにささげて一つになれば、もっと強くなれる。」 驚愕する焔に、彼は誘うように語りかける。 「みんなデジモンになるべきなんだよ。デジモンになれば殴られたって痛くない。大人だって怖くないんだ!」 彼は目を見開いてそう語った。 「お前…昨日はどうしてあんなことを…」 ジュンがそう聞くと、彼は笑いながら答えた。 「昨日のはゲームと同じだよ。昨日はきみたちがぼくを殺せたから、ぼくの負け。様子見も終わったし、今度のゲームは負けないよ。」 その言葉を聞いて皆はデジヴァイスを構え、デジモンたちは戦闘に備えた。 「でも、ごはんが美味しかったから今日はいいや。また戦おうね。」 彼は両手に滾らせた黒い炎を地面に叩きつけて土煙を巻き上げる。 煙が晴れると、そこには何もいなかった。