ワタルがエンジェモンと別れ、クネモンと二人旅を始めてから3日が経過していた。エンジェモンの言葉を信じるのであればどうやら他にもデジタルワールドに呼ばれた子供がいるそうだが、一向に合流できる気配はない。  おかげでワタルはP.D.A.の機能や使い方、相棒のクネモンの戦闘スタイルまで一通りを把握してしまった。いや、いいことなんだけどさあ。  とにかく、今日もワタルとクネモンはあてもなくデジタルワールドを彷徨っていた。 「……」 「ワタル、またそれいじってるネ。何か新しい機能あったネ?」  歩きながらP.D.A.の機能を試しているワタルに、足元のクネモンが話しかける。 「いや、そういうわけでもねえけどさ。近くにあるデジヴァイス? に向けて無差別に発信する機能があるみてーだから使ってみてる」 「フーン……」  あっそ、と言わんばかりにクネモンはワタルに背を向け、彼の2歩半分ほど前を歩き始めた。  別にクネモンとの二人旅に問題を感じているわけではない。だが、仲間が多いに越したことはない、とワタルは考えていた。だからこそ、とにかくP.D.A.で連絡を取ろうとし続けていたのだが…… 「ぎゃああああ!!」 「! 今のは……」 「ヒトの悲鳴ネ! 行ってみるネ!」  古びた街道の端っこ、小高い丘に差し掛かる手前。悲鳴の源に駆けつけた二人が目にしたのは、緑色をしたクネモンそっくりのデジモンが、自分より幾らか幼い少女の肩に張り付いている姿だった。 「ぎゃああああああああ!!!!」 「うわーーっ!? おい大丈夫か!?」 「わ、わぁ……」  流石のクネモンも引いている。  何とかして緑色のクネモンをひっぺがしてやると、反動で彼女は尻餅をつき、そして、 「やーびっくりしたネ。だいじょぶネ?」 「……どっ」 「ど?」 「どぎゃああああああああああああ!!!! 増えてるうううう!!」  クネモンとドクネモンを交互に見て、気絶してしまった。 「あれ……」 「おっ、起きた起きた。大丈夫かよ?」 「あたし、あれっ? あいつは?」 「あのデジモンのことなら一旦クネモンに面倒見てもらってんぜ。近くにいたら落ち着かねえだろ」 「……! よかった、えっとじゃあ……自己紹介しないと。あたしの名前はどく──」  そのとき、ワタルは見た。  開けた場所ではない。むしろ、閉鎖空間に近いこの天然塹壕とも言える洞窟の奥深くで。  そこそこ遠くで、クネモンと遊んでいたはずのそれが。  人智を超えた速度で洞窟に……むしろ、目の前のこの少女めがけて、突っ込んでくるのを。 「ら──」  苗字らしき言葉を言い終えた少女に、緑色の弾丸が食い込む。 「ぎゃあああああああああああ!!!!!」  その日一番の悲鳴が上がり、結局ワタルは彼女の名を最後まで聞くことができなかった。