06:00 目が覚める。まだまだ寒くて布団とベッドが離してくれない。だけど、ほんのりと漂ってくるお味噌汁のいい匂いを動機にして、頑張って自分の身体を引きずり出す。 部屋を出て、前に一緒に買いに行ったホリゾンブルーのスリッパでパタパタと足音をさせながら階段を降りていく。降りていくほど、匂いだけじゃなく音も聞こえてくる。 階段を降り切って目の前、居間へのドアは開いている。普段はちゃんと閉めているけれど、こうして私が降りてこられるように朝だけは開けられている。 そんなドアを横目に洗面所に行く。鏡を見たら、半分くらい開いていない瞼と寝癖がついてハネた髪が映ってた。こんな格好じゃさすがに出ていけない。普段からちょっとだらしない姿を見られてるとは言っても、さすがにこれは。それにどうせなら可愛い私綺麗な私も見て欲しいし。 パシャパシャと顔を洗う。水が冷たくてちょっと後悔。だけどそのおかげで目は覚めたからきっとオッケー。 軽く寝癖と格闘して、ようやくいつもの私になる。鏡に映った私が少しニヤついて頷いたように見えた。 来た道を戻って、居間を通り過ぎて台所まで行くと「」くんがフライパンを片手に立っていた。 「ん、おはよう。みことちゃん」 「うん、おはよう」 こちらに気づいた彼が顔だけをこちらに向けたまま話してくる。 「ご飯、もう炊けてるからよそってくれる?」 そう言うと同時に彼は自分の視線で私の視線を誘導する。 見ればたしかに炊飯器は保温のランプがついていた。 頷いてから、しゃもじとお茶碗を持ってそれによそっていく。 二人分のお茶碗によそって、それを食卓に持っていくと、そこには既に朝食は並んでいた。 匂いのしてたお味噌汁にはワカメとお豆腐とネギが入ってる。昨日の晩御飯出てきたかぼちゃの煮物も湯気がもわもわ出てる。お魚も綺麗に焼けてて全体的にあったかいものばかりだった。 「ご飯、ありがとね。卵もいい感じに焼けたんじゃないかなあ」 美味しそうな朝食に惚けていたら、後ろからフライパンとお皿を持った「」くんが歩いてきていた。 急いでお茶碗を並べてスペースを譲る。 彼がフライパンからお皿へと滑らせたのは卵焼き。それも分厚くて潰れていない綺麗に焼けている。 流しにフライパンを置きに行った彼が戻ってくるのを、先に座って待つ。 「おまたせ。それじゃ」 「「いただきます」」 08:30 ご飯を食べて、片づけをしたらお掃除の時間。 一週間に一回のこの時間。私が担当するのは自分の部屋とお風呂掃除、それから洗濯。 洗濯はいつもやってるからいいとして、問題は自分の部屋。 昔住んでいた私の家とは比べ物にならないほど物がある。ベッドの上でお菓子を食べたりとかはしてないけど、シンプルに物が多いから掃除機をかけるのも大変。 その分収納も多いけれど、この多さはおばさんのせいだ。「」くんは「どちらかと言えば女の子が欲しかったって言ってたしテンション上がっちゃってるんだと思う。大目に見てあげて」って言ってたけれど。ちょっと悲しそうに言っていたっけ。 頭をフルフルと振って思考を切り替える。 ハンディタイプの掃除機をかけ終えて、出てきた洗濯物を抱えて階段を降りる。 ちゃんと下着はネットに入れてから、洗濯機に放り込んで洗剤と柔軟剤を投入口に注いで、ボタンを押せば後は待つだけ。とってもらくちんでいい。 お風呂掃除もバスタブと排水口にシュッシュってスプレーをやって流しておしまい。 待っている間はスマホを取り出して最近お気に入りの作者さんの作品を巡回する。新作が来れば通知を飛ばしてくれるように設定しているから、やるのはもっぱら過去作の読み返しついでの新規発掘とか。 みなせくんはみなせくんで家の掃除をしているし、私のやることはやったし、こういう一人の時間も大事にしてあげてねって彼も言ってたから何の問題もない。 いい感じがする人をブックマークしたりしていたら、洗濯機がピーピー音を鳴らす。 隣に置いてある乾燥機に移して稼働させたらまたスマホに戻る。これが終わるころには彼も終わらせているはず。いつも通りに。 10:00 洗濯物を干して居間に戻れば「」くんがソファに座ってテレビを流していた。 いそいそと隣のスペースに腰掛ける。スペースを作るように彼が少し動くのも、それ以外に動じるような反応がないのもいつも通りで、嬉しかったりちょっと悔しかったり。 「なんか観る?」 テレビの音はぼんやりとしたニュースの声。事件でもスポーツでもない、地方の朝の情報番組らしく、今は新しくできた道の駅の紹介をしていた。特産の桃ジャムをパンに塗って試食しているアナウンサーの口元がアップで映っていたけど、私はみなせくんの横顔を見ていた。 「ううん、別に……これでもいいよ」 言いながら、自然と座る位置を近づけてみる。近い。ほんのちょっと手を伸ばせば、彼の掌に自分の指先が触れる距離。けれど彼はあいかわらずの反応で、テレビに集中しているようでその実思考は別のところに走っているようだった。 私の心臓だけが、ちょっと騒がしかった。 「うーん…正直面白くはないから、別のに変えようかと思ってたんだけど。どうするかな」 「あ、それなら映画見たい。この前気になったのあったから」 「へえ、それってどんな?」 「」くんがリモコンを手に取りながら私を見た。私は頷きつつ、スマホを開いて、スクショしていた映画のタイトルを探す。たしか……あった。画面を見せるようにして、彼の肩のほうに寄りかかる。 「これ。なんかね、最近話題になってるみたいなんだけどね」 「ん、ああ、たしかに。割と前の映画だけど最近ネットで見かけるようになったやつだ」 彼は身を乗り出して、私のスマホを覗きこむ。距離がさらに縮まって、髪が触れ合いそうになる。その瞬間だけ、私は息を止めるような感覚になる。すぐに目をそらしたくなって、それでもそらせない。彼は、そんな私の内心なんて気づいていない風に、普通にテレビの操作を進めていた。 「これ、配信来てるっぽいよ」 「っじゃあ、ちょっと電気消そっか。明るいと雰囲気でないし」 ごまかすように立ち上がってカーテンを少し引き、照明をリモコンで暗めに調整する。ちょっとしたシアターモード、というほどでもないけれど、居間の空気が一気に映画館みたいに変わる。 「ポップコーンはないけどいい?」 「うん、ありがと」 リビングの小さなテーブルに湯気の立つカップを並べて、ソファに戻る。今度は少し遠慮せずに隣へ、くっつかないぎりぎりの距離感で腰を下ろした。彼が再生ボタンを押すと、映像がゆっくりと始まり、静かな音楽と共に画面が夜の街を映し出す。 13:00 映画を見終わった後、「」くんが作ったチャーハンを食べて、それからさらに少し経った頃。 食器を片付けたテーブルの上で私たちは教科書とノートを広げていた。 彼が学校の宿題をやる向かいの席で、私は彼の教科書を片手に問題集を解いている。 この家に来て少し落ち着いた頃、「この先、高校に行くにしても行かないにしても、勉強するって経験はきっと大事だから」って彼が言うので始めてみたこの勉強。もともと学校には通ってはいたけれど、その時はあまり感じていなかったものがある。ちょっと難しくて、でも解けたら嬉しくて。きっとやりごたえがあるってこういうことを言うんだと思う。 勉強している範囲は中学生から高校生にかけて。見滝原中学校のレベルは正直高い。でも、二人でやればなんとか理解できる部分が増えている………気がする。 「………そう言えばさ」 数学の問題に頭を抱えていると、「」くんがポツリと呟く。 顔を上げると、それを見てから彼もペンを置いてくれた。 「午前中に見た映画さ。あれ今度続きをやるらしいんだって」 「そうなの?あ、だから話題になってたんだ」 「うん。あの映画自体10年以上前の作品だけど、それより前にアニメとして放送してたんだって」 そうだったんだ。見たこと聞いたことがあったような気がしたのは、誰かの記憶の中でだったのかな。 「へえ…そうなんだ……アニメ、かあ……」 なんとなく口に出して繰り返してみたけれど、正直その言葉の響きなんかどうでもよくて。ほんの少しだけ、なんだか悲しい。ほんの少し、苦しい。なぜかそんな気持ちがでてきた。 「じゃあ今度はアニメの方も観てみる?」 そう提案してみると、彼は「ああ、いいね一緒に見よう」とあっさりと笑ってくれた。 それだけのことなのに、さっきまでの小さな不安がふわっと消えるような気がした。 17:10 あっという間に陽が傾きはじめて、リビングのカーテンを引く時間になった。空は薄青から濃いオレンジ色に変わっていて、どこかしんとした気配が漂いはじめてる。まるで一日が静かに終わるのを誰もが見守っているような、そんな空気だった。 「今日は……寒くなるかな」 私がぽつりと呟くと、彼はソファに座ったまま「うん、夜から冷えるらしいよ」と答えた。 「じゃあ、お鍋にしようよ。今日の晩御飯」 「いいね。具材は……確か豚肉と白菜残ってたし、春菊も冷蔵庫にあったような」 すぐに立ち上がってキッチンへ向かおうとする彼の袖を、思わず私は指先で引いた。 「一緒に、作ろ?」 彼は少し目を瞬かせたけれど、すぐに「もちろん」と返してくれた。 キッチンで、ふたりで並んで野菜を切る時間。白菜を一枚一枚剥がしてトレーに移していくだけの作業が、どうしてこんなに楽しいのか。 「長ネギはななめ切りでいい?」 「うん。あとお豆腐は一口大で」 「分かってるよ」 私も彼もそんなに大食いじゃない、むしろ食が細い方だから、二人分になっても用意する食材はそんなに多くない。 このお豆腐だって私基準の一口大でお互いぴったりなくらい。 鍋が煮立ち始める頃には、外の空もすっかり藍に染まり、キッチンの窓ガラスにはお隣さんの家の灯りがほのかに映っていた。静かに湯気を立てる鍋の中で、豚肉の薄切りが濃い赤に変わっていく。白菜の葉っぱが汁を吸って透け始め、ネギの香りがふんわりと立ち上がる。春菊はまだ投入前。 「そういえば、明日遊びに行くんだっけ?」 その春菊を鍋に入れながら「」くんが聞いてきた。 たしかに明日私は遊ぶ予定を入れている。そしてそれを彼にも伝えてはあるので確認されるのは不思議なことではない。ないのだけれど、覚えていてくれたのがなんだか嬉しくて。 「うん。まどかちゃんたちとお出かけしてくる」 自分の言葉が、ごまかすように早口にそっけなくなった気がした。 「そっか。朝起こそうか?」 「…今日は起きれたもん」 「昨日も一昨日もオレが家出るまで寝てたじゃん」 「その前は起きれたでしょ」 「………土日だけ早く起きれてもねぇ」 「もー!」 なにも言い返せなかった。 20:45 「お風呂あがったよ」 「はいはい」 タオルで髪の水気を取りながら声をかけ、お風呂に入るために居間を出て行った彼が座っていた場所にそのまま腰かけてしまう。 そしてその体勢のまま、テレビ台の下からケア用品の入ったカーゴを腕を伸ばして取り出す。 タオルを首にかけて空いた手に化粧水を取ってぴたぴたと顔につけていく。目を閉じちゃったから、手触りで軽い乳液の瓶を探し出してそれでフタをしてあげてスキンケアはおしまい。 髪はトリートメントをかけてから乾かす。小さなボトルを取って毛先になじませるイメージでもみ込んでいく。 最後は櫛を通しながらドライヤーをかけておしまい。 今では自分一人で最後までやれているけれど、この家に来たばかりの頃は彼にやってもらっていた。 あまりにも慣れた手つきで、あまりにも手際がよくて、少しもやっとしたのを覚えている。 そんな懐かしいことを思い出しながら、ドライヤーと化粧品をカーゴにしまってもとの場所に戻す。 「ふぅ……」 彼が上がってくるまでテレビでもつけていようかなと思ってリモコンをポチポチといじくる。 だけどバラエティもニュースも特に興味はひかれなくて、結局消してしまった。 「まあ、お風呂短い方だし待ってればいっか…」 あの人はお風呂にあまり時間をかけない。 臭いとかはないからちゃんと洗っているのはたしかだけれど、多分、ゆっくり浸かって時間を過ごすって部分が短いんだろう。 なんて、どうでもいいようなことを考えて時間を潰すことにした。 そうして、それから数分後。 「…ん、起きてたんだ」 彼が居間に戻ってきた。髪は洗面所のドライヤーで乾かしていたから濡れてはいない。パジャマの隙間、首筋の辺りからぽわぽわと湯気が出ている。 ほんのりと柑橘系の香りが漂ってきて、それが私の鼻腔をくすぐった。清潔で、落ち着く香り。なんだか心がすーっと落ち着いていく。 「なんか観てた?」 彼の問いかけに、私は首を小さく振る。 「ううん、なんかどれもピンとこなくて、でも、おやすみって言いたかったし待ってた」 「そっか。待たせちゃってごめんね」 私はまた首を振る。 「待つくらい、全然……えっと、じゃあその、おやすみ?」 気恥ずかしさと気まずさで何を言っていいかわかんなくなって、変に聞くみたいな感じになっちゃった。逃げるみたいに立ち上がって階段の方へ、ドアの方へと向かう。 特に気にせず手を振りながら「うん、おやすみ」って言ってくれたのを聞きながら、部屋に逃げ帰ることになった。 「……っ……!」 ばさり、と音を立ててベッドから起き上がる。 「ハァっ………ハァっ………」 心臓がバクバクと音を立てて、呼吸が上手くできない。 おでこに手を当てるとべっとりとした汗がてのひらについた。 首だけ動かして壁にかかった時計を見る。 00:15 深夜。エアコンも止まって時計の針の音だけが聞こえている。 「………………」 しばらくそのままでいてようやく心臓と肺が落ち着く。 そうすると、今度は考えが走ってしまう。 何を悔やんでいるんだろう。何を嫌だと思っているんだろう。何を悪夢だと思って飛び起きているんだろう。 「私が望んでやったことでしょ。私がやろうとしてたことでしょ」 口をついて出た言葉にまた自分の胸のあたりが重くなる気がして。 無意識のうちに、ベッドを抜けて部屋のドアを開けていた。 多分、会いたかった。何か言ってほしかった。 廊下の向かいの部屋じゃなくて、階段を降りる方を選んでいたのも無意識だった。そっちにいる気がしていた。 居間の扉にはめ込まれてるすりガラスに小さな光が当たっていた。 「………………あれ、どうしたの」 扉を開けた私に、気づいて声をかけてくれる。 彼はテーブルに肘をついていたけれど、こっちに来てくれた。 「………そっちは、どうしたの」 「ん…なんか目が覚めてね。だからぼーっとしてた」 質問に質問で返した私に、なんてことなく返してくる。 「……取り敢えずシャワー浴びてきなよ。汗びっしょりだし。着替えとかは用意しとくから」 「…………うん」 促されるまま、私は洗面所に足を向けた。床はひんやりしていて、夜の冷え込みがジンと足元から這い上がってくる。そこでようやく私はスリッパも履かずにいたのに気がついた。 シャワーを浴びて、額の汗も、胸の中のもやもやも、一緒に流してしまおうと思った。蛇口を捻ると、温かいお湯がすぐに出てきて、体のラインをなぞっていく。それが心地よかった。 水音が落ち着きをくれる。心臓の鼓動が次第に静まって、ようやく、目を閉じられるようになった。 シャワーから上がると、脱衣所の棚の上に私の着替えが置かれていた。部屋着の上下に、ふわふわのタオル。全部そろってる。 置きに来ていたことにすら、気づいていなかった。 夜の居間は電気が消されていて、代わりにキッチンカウンターの上にだけ小さなスタンドライトが灯っていた。ぽつりとした暖色の光の中、みなせくんはソファの端に座って、手元のマグカップに視線を落としていた。 私が戻ってきたことに気づくと、彼はそっと目を上げて、小さく微笑んだ。 「おかえり。あったかいの飲む?」 「……うん」 私がうなずくと、彼は立ち上がってキッチンへ向かい、湯気を立てるポットからマグカップにお湯を注いで戻ってきた。中身はハーブティーだった。カモミールのやさしい香りが立ち上る。 「……ありがと」 「どういたしまして」 マグカップを両手で包むと、その温もりが掌から、胸の奥までじわりと広がっていく。目を伏せたまま、一口すすった。熱すぎず、ぬるすぎず。絶妙にちょうどよくて、また胸が苦しくなった。 「なんかあった?」 不意に聞かれた言葉に、私は驚いて顔を上げた。彼は、まっすぐに私を見ていた。けれど、その眼差しに強さはなくて、ただ静かに、私の言葉を待ってくれているような優しさがあった。 「……ううん、何もない。……ううん。やっぱりあった。ちょっと、夢を見たの」 「そっか」 それ以上追及することもなく、彼はまたゆっくりと座り直した。そして、私の隣のスペースをぽん、と軽く叩いた。 私はためらいながらも、そこに腰を下ろした。 「………………何も分からないから、適当で的外れかもしれないことを言うんだけどさ」 お互いに黙っていると、彼が口を開く。 正面から見られないから、横目で見るだけになっちゃう。 彼はまっすぐに前を見ていた。 「後悔していいと思うよ」 「……っ」 「本当はやりたくなかったって後悔はちょっとあれだけど、やったことを後悔することを奪うのは誰にも許されない、と思う」 あまりにも的確に私の現状を読み取ってくれる。もともと人の顔から色々読み取るのが上手いのは知っていたけれど。 自分の顔にそんなに出ていたのかな。そんなにひどい顔をしていたのかな。 彼は変わらず前を向いている。 「自分が望んでやったことなんだから、自分で選んだことだからってよく聞くけど、自分のやりたいことやったって後悔する時は後悔するもんだよ」 そう言って軽く笑う。その顔はなんだか少し悲しさがあった、ようにも見えた。 「だから、嫌な気持ちになった時は嫌な気持ちになったっていいんだ。そして、そういう時は教えてくれると嬉しいかな」 「…………うん。ありがと」 なんとかそれだけ返す。 マグカップをぎゅっと握った指先が、少し震えているのを自分でもわかっていた。でも、今だけは、隠そうともしなかった。 何を言われても、何を聞かれても、このままなら、全部受け入れてしまいそうな気がした。 「あの、ね」 「うん」 「その、今日、そっちの部屋で寝てもいい?」 ■■:■■ ────うん。 大丈夫。もう大丈夫。 もう、私そんな顔してる? ……たしかに嫌な夢見ちゃったし。すごく苦しかったけど。これからの私はきっとそれも受け止めてくから。 んふふ、置いてかれたのは正直今でもちょっと怒ってるよ。でも、私は置いてかないよ。思い出しかなくても一緒に歩くもん。そう決めたの。 だから、いつか会える時がきたら、その時は。 私の話をいっぱい聞いてね、帆奈ちゃん 06:00 「──ちゃん、みことちゃん」 「……ん、んぅ」 肩を軽く揺すられる感覚と聞こえてきた声で目を覚ます。 ベッドの近くに置かれた椅子に腰かけたままの姿が目に映る。 結局、昨日はベッドに寝かせてもらったらそのまま眠ってしまった。 あわよくば彼の寝顔、というか寝ている姿を見れるかもなんて思っていたけれど、どうやらうまくいかなかったみたい。 「ん……おはよ……」 「うん、おはよう。朝ごはん軽いの用意してくるから、ゆっくり降りてきな」 「んー……」 そうして自身の部屋を出ていく背中を見送って、また私の一日が始まる。