こんな感じの話 デジタルワールドの異変の中枢と思われるダークエリアで真っ先に僕たちを出迎えたのは、「ひと屋」の幹部を名乗る6体の究極体のデジモンだった。 まず最初に不意打ちで正木真也が消えた。1体倒した後に知念大地が消えた。風見愛為理と雷門友華の2人が犠牲になって一番強い1体を道連れにした。 「このままだとみんな死ぬ!いま必要なのは戦う勇気じゃない!!逃げる勇気だ!!」 【勇気】の紋章を持った少女、火置麗子はここで引けないと首を横に振った。 「っ!!2人とも頼む!彼女を連れてってくれ!!」 デジヴァイスに、残った力を流し込む。タンクドラモン……進化させたジャンクモンが傷を受けた痛みを咆哮で掻き消しながら、弾丸を全て……スイジンモンに叩き込み、更に1体倒す。 体が軋む。内臓が灼ける。声を出すたびに喉が裂けて血が噴き出そうになる。2人は?と首を動かした瞬間に兼光輝美と水嶋誠太郎の紋章が、自分の後ろに飛んでいったのが見えた。彼女は、火置麗子はまだそこにいる……逃げてと叫びたかったが、痛みに負けて何も言えなかった。 デジヴァイスを握る手がダラリと力なく垂れたことを感じ取り、まだ終わっていない!と自分を奮い立たせ、すぐに力を籠める。 「逃げてよ火置さん!時間なら僕が」 既にボロボロになっていた彼女のパートナーが、僕を突き飛ばした。その瞬間には真っ白になった頭が、尻もちをついた途端に、絶望の黒い色で一気に塗りつぶされた、 「やだよ、そんなの。僕は、君さえ」 全ての気持ちを伝える前に、【勇気】の紋章と彼女が使っていた真っ赤なデジヴァイスが、僕の目の前に飛んできた。絶望の色が、消えなくなる。震えた声で、恐怖を堪えた彼女が、笑顔で振り向いた。 「今必要なのはね、逃げるんじゃなくて託す勇気よ片桐君」 耳を、塞ぎたくなった。目を、閉じたかった。投げ返すべきだった。それなのに、僕は託されたデジヴァイスと紋章を急いでポケットにしまい込んだ。 「片桐篤人!君が【奇跡】起こすって……私は信じてるから!!」 「やめてよ!!そんなの僕は嫌だ!!」 「アツト!!お前が生き残るんだ!!!」 雄叫びを上げ土煙を巻き起こながら、残りの力を使い切るような速度で走ってきたタンクドラモンが僕の体を引き上げて、そのまま仲間達から離れていく。離せ!と動かない体で抵抗するが、そのまま遠くなる影と音を、感じ取るしか出来なかった。 やがて、大きく爆ぜた音がした。 僕が覚えているのはここまでだ。逃げ込んだ薄暗い森で僕を大木の根元に降ろした後、隣に移動したタンクドラモンは、ジャンクモンまで戻ってしまった。お互い動けず何も言わず、呼吸を整えるだけの時間だけが過ぎていく。 膝を抱えて、大木に体をもたれかけたまま、僕は自分の紫と黒のデジヴァイスと、首にぶら下げた紋章を見比べる。 【奇跡】……起きるんだったら、あの時になぜ起きなかった。何でみんな死ぬことになった。役立たずが。僕がこれまで生き残れた【奇跡】を証明するだけのものなんて必要ない!! 自分の首にぶらさげた役立たずの証を、力の入らない手で握り潰そうと必死になる。やめろ!!とパートナーの怒鳴り声で、向かわせるべきではない怒りの矛先を、何とか一度収めることが出来た。 「……ちったぁ落ち着いたか」 「全然だよ。少し、何も言わないで」 視線も合わせずにそうかい。とだけジャンクモンが言い切って話は途切れた、息を整えるだけの時間がまだ続く。 ようやく僕は周りを見た。暗い緑の葉に、得体のしれない暗色の花や果実。視界に入るだけで空腹を忘れさせてくれる代物だらけだ。 気が滅入るしかない空間を一通り見渡した後、ジャンクモンが、意を決したように僕の方に振り向いた。 「アツト。火置ちゃんにああ言われちゃ……俺様もお前も死んだらいけねぇと思っちまった……お前は、あの子のためならと思ったとしてもな」 ジャンクモンの声音からは悲しみと、僕に対しての申し訳なさを感じた。だとしても、まだ気持ちに整理のつかない僕は、目線も合わさずに分かってるよ。とだけ吐き捨てると、覚悟して振り向いたのジャンクモンが今度は腕を動かして使って背を向ける。 何故だろうか。もっと喚き散らしそうなのに、僕は何でこんなに落ち着いているんだろう。何故、涙すら出ないんだ。問いかけるだけで、胸が突き刺されるのような思いだけは感じるのに。 沈黙と無動の時間が続く中で息は落ち着いてきた。薄ら寒くなるような強風が吹く。気色悪い色の木の葉が目の前をひらひらと舞い、僕はそれを気色悪いなぁ!と声を張り上げ手で振り払う。 振り払った後にポケットの中に入った、大事なことを思いだす。ぼくがパートナーの名前を呼ぶと、気まずそうにジャンクモンがぼくの方を振り向いた。 「君を恨んでなんかいない。でもね」 ポケットの中身……彼女が持っていた、勇気の紋章と真っ赤なデジヴァイス……託す【勇気】と言われた遺品を、ジャンクモンに見せる。 「何をすればいいのか分からないんだ」 鮮やかな赤一色のデジヴァイスを見るたびに、その美しさよりも暗澹たる気持ちが胸から滲み出す。彼女の最後の顔と声が、脳にこびりついて引き剥がせない。 これを託して、彼女は何の【奇跡】を望んだのか分からない。でも、何も考えずの咄嗟の行動だと僕はどうしても思えない。 答えが、出ない。 デジヴァイス・紋章・人間・デジモン・テイマー……何も、浮かばない。何か一つカチリと嵌るモノが無く、同じ単語だけが延々と繰り返されていく。 「アツト、悪いがそろそろ現実の話だ。現状はどうにもならん、俺様はアヌビモンを頼って表に逃げるしかねぇと思うぜ」 アヌビモン。僕達をダークエリアまで送ってくれたデジモンで……監視者だ。本来ならばダークエリア到着後、合流する手筈であり、今もこれは変わらないだろう。 「一旦逃げるのは賛成。で問題は逃げた後」 選ばれし子供で生き残ったのは、僕だけ。何度も思い返すこの事実に切り裂かれるような痛みを感じる。もうこの世にはいない仲間達の顔が、一つ一つ脳裏に蘇っていく。でも、何も言ってくれない。 僕に、何が出来る。この託された紋章とデジヴァイスにどう応える。答えは自分で出すしかないと否が応でも理解している。でも、何も出ない。 「僕達だけじゃ勝てない。また選ばれし子供を呼んでもらう?相手はそんなの待ってくれる訳がない。もし待ったとしたら、その頃には今よりもっと強い組織になってるよ。」 ジャンクモンは少し考えた様子を見せたあと、否定できないと考えたのか俯いて黙ってしまった 「一番良いのはさ、今すぐ一緒に戦ってくれる仲間が出来ること……つまり、無理な話だよ」 体の力が、全て抜けていった。膝を抱えたままうずくまる。託された物を握る力も、失われていく。 デジヴァイス・紋章・人間・デジモン・テイマー……相変わらずどこにも繋がらない言葉が延々と繰り返される。 息はとっくに整った。僕もジャンクモンも動けるだろう。なのに、動けそうにない。意味もなく眼鏡を外して、涙も出ないのに左腕で顔を覆う。 「ごめんジャンクモン、ここから何が出来るのか、分からない」 「アツト……こうなりゃお前だけで……も……?」 空気が一瞬で張り詰めたものに変わった。何かが、いる。ジャンクモンが、視線だけを僕に向けると、動かけそうにも無かった足が勝手に立ち上がり、託された物を握る力も失せつつあった手は、自分のデジヴァイスを……戦う力を握りしめている。 ガサガサと茂みが揺れる。姿を現したのは赤い毛皮に細長い口の狼……ファングモンだった。僕はまず、相手が成熟期だということに安堵した。ジャンクモンの力も僕の力も消耗している。完全体が出てきたら、死を覚悟した。 さっきまで延々に繰り返された単語を、消しゴムをかけるように頭から消していく。僕は、その言葉が消えていくことに安心感を感じた。でも、消しきれず薄っすらと残るそれが、自分を繋ぎ止めるもののように思えた。 僕とジャンクモンを値踏みするように交互に見た後、ファングモンが鼻を鳴らす。 「テイマー付きか……オイ。死にたくないなら有り金置いてきな。そうすりゃ見逃してやる」 獣の唸り声。という例えが真っ先にくるような声で要求されたのは金。ああ良かった。ただの追い…… ……そこまで思った瞬間に、消したはずの単語が、何故かまた浮かび上がった。 デジヴァイス・紋章・人間・デジモン……何故か、ピースが見つかったように、感じた。 デジヴァイス・紋章・人間・デジモン……金……続いたが、途切れた。 「おうアツト。出てきたのが追い剥ぎで良かったな……さっさと「待ったジャンクモン」 突然の制止に、ジャンクモンは驚きを隠せなかった。本来ならば僕も、やるよ!くらいの言葉を吐いて……この場で進化をさせたであろう。 また薄ら寒い風が吹く。飛んできて顔に張り付いた木の葉を払って、僕は追い剥ぎに向き合った。 「何のためにお金集めてるの君」 向けられた言葉に、ファングモンは一瞬目を細めたが、嘲笑ってその細長い口を開いた。 「冥土の土産話でも欲しいってか?……もう少し貯めればオークションにいけそうでな!!」 デジヴァイス・紋章・人間・デジモン・金……オークション……自分が、多分そのオークションに出されるために誘拐されたことに何故か繋がった。その直後に、自分が打ち倒すべき組織の名前が「ひと屋」だと思いだした。 支離滅裂、荒唐無稽。そんな言葉が出続ける。でも、いい。否定されたならば、間抜けな追い剥ぎを殺してこの話は終わるのだ 「そのオークション……人、買えるの?」 「……随分と勘の良いヤツだな。それとも何かで知ってたか?何考えてやがる?」 ああ、良かった。繋がった。 「おいアツトお前!何考えた!?俺様にも教えやがれ!!」 ジデジヴァイス・紋章・人間・デジモン・金・オークション・テイマー……パートナーデジモン……脱出。僕は託された物に対して、無茶苦茶な答えを出そうとしている。 「逃げる前に、オークションで人間を買う」 「全くさ、自分が売られるかもしれなかったオークションに可能性があるなんて、夢にも思わなかったよジャンクモン。」 「おいネズ公!!てめぇのテイマー正気か!?」 誰がネズ公だこの野郎!!と憤るジャンクモンを尻目に、僕は…正気ではなく無茶苦茶で、計画性もない流れを伝えることにした。 「最後まで言うよ、まず、ダークエリアから逃げる前に、ファングモンの言うオークションで人間を落札する」 ファングモンもジャンクモンも、何を言い出すんだバカ野郎と言いたげな顔で、その言葉を必死に堪えていた。僕も、腹の奥底から聞こえるバカな考えはやめろという声に聞こえないフリをし続ける。 「そして落札した人間に、この紋章とデジヴァイスを持たせる。パートナーデジモンはそこの追い剥ぎ。金は僕らと追い剥ぎの金を合わせた物」 何もかもが、間違っていると分かっている。でももし、僕が知っている限りのことで本当の意味で何かが出来るとしたら……ここまでやるしかない。 言い終わったと同時に、何故か疲れが湧いてきたように思えた。一瞬また大木によりかかろうとしたが、次また立てる保証がない気がして、そのまま立っていた。 「……聞きたいこと、他の考え……ある?」 「ファングモン。悪いが先に俺様に言わせてくれ」 ファングモンは、多分怒りを堪えた表情で勝手にしろとだけ吐き捨てて、すぐよそを見てしまった。 「アツト!なに正気でもないこと言ってんだこのバカ野郎!!」 その後に、ジャンクモンの口から飛び出してきたのは思った通り、怒号であった。 「滅茶苦茶言うのはいつものことだ!だがな……今回の度が過ぎてるぞ!!」 今すぐにでも飛びかかって噛みついてきそうな剣幕を一度収めてから、ジャンクモンは話を続ける 「さっき言いそびれた話なんだが……一旦表に逃げたらお前だけでも元の世界に戻る方法探さねぇか!?俺様はそのためな「ごめんジャンクモン。それだけは絶対に聞けない」 割って入った僕の拒絶に、わかっていたような顔を見せてジャンクモンが、言葉を止めた。 「戦いから逃げたら……みんなと過ごしてきた時間と意志が、火置さんに託されたこの紋章とデジヴァイスが無駄になる。それだけは、嫌だ」 「死ぬよりもか!?」 「っ!……ああ!絶対に嫌だ!!」 死。という言葉に小さく心臓が飛び跳ねたような気がした。いざ言われたら、死ぬのが怖くなった。体が震える、冷たくなる。だとしても、心臓よりもっと深いところにある何かが僕を、乱暴に突き動かしてくる。 ジャンクモンは、自分の気持ちを諦められない様子だった……無理はない、多分、僕が彼の立場でも近いことは考えた。そして多分、自分を犠牲にしてでも何とかしようとしたかもしれない。 でも、それだって嫌だ。 「僕はみんなのためにも、あいつらを倒したい。世界を救いたい……そのためなら、何でもする……うん。【奇跡】を起こす」 「……わぁーった!それなら俺様も起こしてやろうじゃねぇか!アツトの言う【奇跡】をよ!!」 ジャンクモンが、両腕のパーツをバシバシ叩いて覚悟を決めたような仕草で見せる。 「……ありがとう。ジャンク「何を抜かしてやがんだこのクソバカ野郎共が!!」 話の終わりをわざわざ待っていたファングモンは、青筋を立ててツバを吐き散らし、怒りと……まだなにか違う気持ちがあるような表情を向けていた。 「てめぇらまさか【ひと屋】に歯向かうのか!?冗談じゃねぇ!!」 「歯向かうんじゃねぇ。打ち倒す。」 「……選ばれし子供とか言ってたなお前!!」 「うん。僕は片桐篤人。選ばれし子供の最後の一人だ」 「……だったら!てめぇらを始末するか取っ捕まえて連れて行けば【ひと屋】の連中はオレを「別にさ」 自分でもちょっと驚くような冷たい声に、感情に任せて捲し立てていたファングモンは、一瞬で怯むも、首を振ってから後肢に力を溜め始める。 「間抜けな追い剥ぎを始末して、溜め込んだ金だけ貰って別のデジモンに落札させても良い。力が欲しい、テイマーが欲しいデジモンはどこにでもいる。オークションに行くデジモンも、大体それが理由でしょ?」 「っ……おい!オレを殺そうってのか!?」 「さっきジャンクモンに言った何でもするってのは、こういう事だよ。今更追い剥ぎ殺して金を奪っても、呵責なんてありはしないよ」 自分のデジヴァイスに少しずつ力を流し込む。 「間抜けな追い剥ぎのまま死ぬか、世界を救った子のパートナーデジモンになるか……選びなよ」 自分の紫と黒のデジヴァイスから放たれている光は、少し暗い色に見えた。 「……檻!?」 目を覚ました犬童三幸の目に飛び込んできたのは、鉄格子であった。 自分の記憶をひたすら探る。少し前に先輩と揉めたが喧嘩はしていない。手も出していない。万引きだのも一切やっていない……不審者を鉄パイプで殴ったが、刃物を持った相手への咄嗟の対応だ。そして、皮肉なことにその時右頬ついた切り傷の痛みが、夢ではないことを教えてくれる。 まず体を見回す。服は学校の制服のまま、鞄はどこにもない。スマホは……寮に置きっぱなし。どのみちこんな状況なら取り上げられていると少ししてから思いつく。体は自由に動かせるが、手首と足首には枷が嵌められている。 続いて辺りを見回す。灰色に覆われた冷たい空間。小さな窓からは光ではなく暗い空しか見えない、他には、簡易な寝床とトイレがあるだけ、まさしく牢屋であった。 「誰か!!誰かいませんの!?私、犬童三幸は罪になることはやっていませんわ!!」 力いっぱい鉄格子を揺らす。手足についた枷を打ち付ける。とにかく必死だった。 それからしばらくして、固く乾いた足音が聞こえてきた。三幸は僅かに助けを期待したが、それは足音の主がすぐに否定した。 足音の主は、三叉の槍を持った真っ赤な体に入れ墨を書き込んだ悪魔のような姿をしていた。三幸は、心臓が飛び跳ねるような感覚を堪えられず小さく悲鳴を漏らす。それでも、その怪物に言葉が通じることを僅かに願った。 「あの!たくさん聞きたいことがありますの!!」 悪魔は、三幸に目線もくれずそのまま通り過ぎた、お待ち下さい!と声を張り上げるが、そのまま足音は遠ざかる。 ……少しして、また足音が戻ってきた。いや、今度は増えている。後ろに……人間が3人いた。背丈と年齢も、多分人種も皆バラバラ。男が2人に女が1人。みな三幸と同じようにの手枷をつけられている。 やがて、悪魔が牢の前に立ち止まり、三幸のほうを見て牙の生えた口を開いた 「犬童三幸。お前も出な」 「出してくれますの……?で、どちらまで?」 「答える義務はねぇ。いいからこい」 三幸は言われるがまま立ち上がり、開けられた扉から出る。だが、出られたことに希望は感じていなかった。それどころか、絶望を感じていた。 「一応名乗っとくぜ。俺はブギーモン……おっと!下手に逃げたらこの槍でグサリだからな!!」 「っ……」 言葉に詰まった三幸は素早く辺りを見渡す。使えるものは……無い。この手枷で殴ろうが蹴ろうがきっと無意味だ。その瞬間に自分の体は、ブギーモンの槍で貫かれ、自分は死ぬだろう。 「さぁ来い……お前もオークション組だからな、いい客に買われることを精々祈るんだな!」 「選ばれし子供は一人逃して……生き残ったのは君と、フウジンモンだけか……」 簡素な事務机と事務椅子に座った黒いスーツ姿の黒髪の女性が、苦虫を噛みつぶしたような顔で【ひと屋】の幹部であるライジンモンから、ダークエリアに突入した選ばれし子供達についての報告を受けていた。少しだけ拳を震わせると、その傍らに控えていたシスタモン・ノワールが落ち着いて。と小声で女性の肩に手を乗せる。女は渋面を戻し、そのまま報告を続けさせた。 「フウジンモンはマシな状態じゃけん…最後の一人を探しとります。じゃけど……他の三人にスイジンモンの奴まで殺られちまってワシもこのザマでフウジンモンに任せて逃げてきた始末…面目ねぇ姉御!!」 淡い金色をベースにした分厚い装甲は傷付きへこみ、削り落とされた痕跡が見える。コネクタは引きちぎられ、両肩の電力ユニットには大穴、右腕も右足も失っていた。 別のデジモンに肩を貸され、ノイズ混ざりの声でまだ動く左腕を、後悔に任せて何度も何も敷かれていない床に叩きつけた。 「……フウジンモンの援軍には【テイマー付】を送る。君は休めライジンモン。君の力はこれからも私に必要だ」 「なんと勿体無いお言葉で!!このライジンモン!!これからも姉御と【ひと屋】のため……」 「……もういい、休むんだ」 一礼をしたライジンモンは、近くにいた別のデジモンに半壊した体を支えさせながら、そのまま下がって行った。 「真優美が動かなくていいの?」 真優美と呼ばれたその女性の傍に控えていたシスタモンが、無感情に口を開いた。 「任せておこう。もしどんな手段を使ってでも乗り越えるようなら……次は私が動く」 「そう」 シスタモンは、不満を隠そうともしない様子で再び控えた。 「逃げたのは片桐篤人……紋章は【奇跡】か……まずはその奇跡が続くか、見せてもらおうか」 首から下げた【デジタルハザード】が刻まれたタグを見つめ、【ひと屋】の創業者、愛甲真優美は何処か嬉しそうに口元を緩ませた。