「わぁ 美味しそうです…」スマホの画面に映されていたのは 多くの皿を並べたコース料理の写真であった。ハートを強調した セッティングから見て婚礼料理だろう。 「いいな~」しかし彼女の興味を引くのは料理自体である。 現代の生活でこの種の食事に与るのは慶弔の儀式ぐらいで あろうからむべなることである。 設えは無垢の白。潔癖なほどに他の色を排した礼服で身を固める。 設えは無垢の白と雪の膚。瀟洒なランジェリーにヴェールを纏った 貞淑な姿の私たちがその両脇を固める。 マンション内の宴会場は迎賓の刻であった。 つい先ほどこの誰の目にも恥晒しな姿でチャペルに入堂した時の 会場のざわめきは会場を移した今も残響のように漂っていた。 招待客の内心の如何なるかには実の所、興味はない。 現に私たちの間の彼女はこの状況が未だよく分かっていないらしく 曖昧に微笑んでいるが些末なことである。 特製の婚礼教理のサーブが始まった。この後の営みに備え、この上なく 精のつく料理を用意したつもりだ。常識を弁えたように振舞っている 皆さんにも今夜は眠れぬ夜を過ごしてもらおうという心尽くしでもある。 心ゆくまでごちそうを楽しんでね、おめでとう。