ボキン ガリガリ…咀嚼する音に気が付いた時、彼女は窓枠に浅く腰かけて 脚を組み、緩い夜風に吹かれながら何かを齧っていました。 重く怠い体を持ち上げ目を凝らし、それがニンジンであると分かった瞬間の 気持ちはまさしく「顔から火が出る」以外にありえません。 なんということでしょう。いま彼女が平然と口にしているあれはさっきまで 私が食べさせられていたニンジンじゃないですか! …そうです。私の2つの口は片や「喘ぎが煩い」と玉口枷を噛まされて 片や彼女の手でニンジンを「食べさせられて」いたんです。 それにしても彼女に手加減というものは無いんでしょうか? 削岩機のような激しさであらゆる体位から数時間はほじくり倒された挙句に 汗と涙と鼻水とよだれ等の海に沈んで私は気を失ったのでした。 わずかに差す灯りが青い髪に影を落とした顔は確かにその血の面影を 持ちながら、そこから甘やかさを差し引いた怜悧な印象を与えます。 私を見る目はいっそ冷酷と言ったほうが良いかもしれません。 腹立たしいことに私が目を覚まして視線を合わせているのに彼女は何の 感慨も無さそうに食を進めています。負けじと頬をぶぅと膨らませましたが やっぱり何の反応も帰ってきません。 古く狭い部屋に満ちた私達の体臭を吸って吐き、少しの時間が過ぎます。 ガリガリ ボリボリ…ごくん。ニンジンの残りをほおばると指をしゃぶり 彼女は立ち上がりました。そして私の横で布団に横たわると何も言わず 長い息を1つつきました。言いたいことは分かります。 「ほら、好きにしろ」と来ましたか。─高くつきますよ? 決めました。今夜は道具も何もなしで彼女を屈服させます。 さしあたっては私の目の前でおもらししてもらいましょう。 薄黄に汚した布団で大の字になる彼女の姿を想像するとやや残忍な興奮が 吹きあがり腹立たしさを曖昧にしていきます。 2人で仲良く布団を洗う楽しさを想いながら私は彼女に覆いかぶさりました。