【電子IRC学園 夏休みの補習教室:アイデアル、スイセン】 ジリジリッ、ジリジリッ、ヂヂヂヂヂヂ……ツッツクォーシ、ツッツクォーシ、ツッツクォーシ……ミ゛ョーン、ミ゛ョン、ミ゛ョン……ヂーー…… 「イッチ!イッチ!イッチー!」「「「ドッソイ!」」」「ニッ!ニッ!ニーニー!」「「「ハッキョイ!」」」「ウッチャルゾー!」…… 「アー……あつーい……」電子IRC学園は夏休み中、一部の部活を除いて校内はほぼ無人だ。特別補修の教室で一人机に突っ伏すチエリは、何度目かの 呻き声を漏らした。貧しい家計(と小遣い稼ぎ)のため、授業を休んではバイトに精を出しすぎた結果、一学期の出席が足りなくなってしまったのだ。 幸い事情を考慮され、態度はともかく成績も悪くないので、補修を受ける事でお咎めなしとされた。しかし今日は運悪く校内のエアコンが突如全館故障、 更に運悪く外は完全な無風。全開の窓も気休め程度、暑さを盛り立てるむさ苦しい運動部の掛け声と苛立たしいセミの合唱のボリュームが増しただけだ。 補修担当の筈のイワネ=センセイは、後で戻ると課題プリントをまとめて渡したきり、雲隠れだ。おおかたどこか涼しい場所を見つけてまた昼寝してい るのだろう。「もう無理……殺す気かっての」課題は既に終わっていたが、流石に補修を無断で抜け出すのはまずいと、待っていたチエリも限界だった。 そもそも肝心の教員が抜け出しサボっているのだ、自分もとやかく言われる謂れは無い筈だ。チエリは教卓の上にプリントを置いて退散しようとした、 その時である。「やっぱりサボろうとしてる。ダメじゃない、進級できなくなっちゃう」教室の戸を開け入ってきたのは、クラスメイトのナデシコだ。 「……なによ、わざわざ見張りに来たってワケ?内申点稼ぎ?大変だね優等生」暑さと水分不足でチエリはあからさまに不機嫌の半目。もとよりこの二人 は犬猿の仲としてクラスで有名だ。「はいこれ」やはり猛暑で額に汗を浮かべるナデシコが差し出したのは、よく冷えたムギチャのペットボトル。 ショドー部の活動中にエアコンが壊れ途中解散となったが、一人補修中のチエリの様子を心配し買ってきたのだ。「マ?あンた最高!」チエリは一転喜び、 受け取ると、ゴクゴクと喉を鳴らし一気に飲んだ。頬と首筋が動く度、玉のような汗が滴る様を、ナデシコは平静を装いつつチラチラと目で追っていた。 「いやあ、生き返ったわアリガト。あンたも飲む?」その視線に気づいたチエリは、おもむろに飲みかけのペットボトルをナデシコに向けた。「エッ、その」 バツが悪く目を逸らしたナデシコの顔は赤い。暑さのせいだけではない。悪戯げに微笑むチエリは、わざとらしく湿った制服のボタンに手をかけ外し始めた。 「……しっかしホント暑いわ。もう着てらンない」前を開けるに留まらず、完全にシャツを脱ぎ捨てると。ところどころに雫の伝う濡れた上半身が曝け出され た。もはや纏うのは標準的なバストを隠す、派手な赤の下着一枚のみだ。「なにしてるのチエリ=サン!?」驚くナデシコは更に顔を赤くし慌てふためいた。 「あンたも脱いじゃえば?アタシら以外誰もいないよ」「アッ!」チエリは倒れ掛かるようにゆらりとナデシコに寄ると、両手を掴み黒板に背中を押し付けた。 そして汗に湿った制服の平坦な胸に顔を埋めると、深く呼吸した。ナデシコは羞恥に悶える。「ちょっと……!ここ学校」「なにオボコぶってンの?今更」 上目遣いで答えたチエリは赤く長い舌を伸ばし、ナデシコの濡れた首筋に這わせた。「やっ……!」「……塩っぱい、あンたもベッタベタじゃん。無理すンな って」チエリの目つきは再び曖昧な半目、やがて舌は頬から耳元へ。そのまま全身を深く密着すると、給水で下がった体温が再び上昇していく。暫し無言。 夏の正午の高い日差しは室内に届かない。重くむせかえる暑い空気の満ちる影の中で、しだいに運動部とセミの合唱は遠く、朦朧とする互いの心音と荒い呼吸 は反比例して大きく。「……みーんなあンたのこと、アタシと真逆のカタブツのいい子ちゃんだと思ってる」耳元の囁きと吐息の熱さにナデシコは震えた。 「服の下は歩く校則違反なのにね」チエリの太腿がナデシコのスカートの中、脚の間、その付け根に押し当てられた。湿度と熱。「こんな日だって、どんな時 だって、いつも遠回しに期待して。今だって好き放題されるままのいい子みたいな顔して、ズルいわホント」「……」反論も抵抗もせず、ナデシコは俯いた。 「で?自分で脱ぐ?脱がしてほしい?ちゃんとあンたの口で言ってよ」両手が開放されると、ナデシコはゆっくりとチエリの濡れた背中と腰に深く手を回した。 「……してほしい」「いいよ」細い指が制服を脱がしていき、肩と下着が剥き出しになる。今度はナデシコがチエリの濡れた胸に顔を埋めた。その時である。 「いやあ悪い悪い!暑いのに随分待たせちまったね。もう帰ってい」「「あ」」「アァ?」補修の監督をサボタージュし、近場の喫茶店で涼んでうたた寝して いたイワネ=センセイを発見しシメ上げ、詫びの飲み物とアイスを土産に駆け込んできたアダチコ=センセイは眉をつり上げた。半裸の二人は硬直した。 「……なぁガキ共。そういう事ぁバレずに上手くやるもんだよ」「「アイエエエ……」」アダチコ=センセイの猫なで声とにこやかな笑顔の恐ろしさに、暑さ も吹き飛びチエリとナデシコは肩を抱き合い震え上がった。同時にエアコンも復旧した。「 お い で 」二人は生徒指導室へ連行されていった。 ……熱中症の応急処置だの塩分補給だの苦しく言い訳したものの当然通用せず、この一件はセンセイの胸先に留める代わり、二人揃ってこっぴどく絞られた。 そして充分な水分補給を挟みながら、長い長い反省文を書かされて解放された頃にはすっかり夕方。疲れ果てたチエリとナデシコはほうほうの体で下校した。