〔17〕「上野デート① ギャラン」 ーーーーーーーーーー 久々に予定の詰まっていない土曜日。 今日はすこし足を伸ばして、朝から上野でさきちゃんとデートすることになった。 上野には昔ながらの魅力的なカフェや喫茶店がいくつもあるらしいから、道中の電車で下調べしながら行くお店を決めようっと。さきちゃんもどこか行きたい場所があったら言ってね? 〜〜〜 上野駅を出て5分も歩かないうちに最初の目的地に到着。アメヤ横丁のほど近く、ビルの2階部分で営業している老舗の喫茶店。 その名も──“Coffee Shop ギャラン”。 かわいらしい食品サンプルたちが出迎えてくれる1階の入り口から階段を上って店内に入れば、そこは煌びやかでノスタルジックな昭和レトロの世界。立派なシャンデリアに革張りのソファ、タイル張りの壁に飾られた銅のレリーフ…まさに豪華絢爛、圧倒されるね。 まあ平成生まれの私にとっては“懐かしさ”という点ではピンとこないけど。なんだか実家(豊川家)とか島の別荘の応接室を思い出しちゃう。 それにしても、休日とはいえ朝からかなりの混雑ぶり。私とさきちゃんはギリギリ案内してもらえたけど、後から来た人たちは並んじゃってる。セーフだったね…さすがは喫茶店激戦区の有名店。 向かい合ったシングルソファのテーブル席に掛けてメニューを拝見。う〜んいいね!コーヒー、紅茶、ソーダ類にフレッシュジュース、軽食や甘味まで隙のない充実の内容。迷っちゃうなあ…フードメニューがあまりにも魅力的だから何か食べようかな? ねえさきちゃん、ミックスサンドとかふたりで分けて── 「いらっしゃいませ、お冷でございます。現在混み合っておりますのでお食事メニューは40分から50分ほどかかりますが…お決まりですか?」 わーお…ちょっと…考えさせてください。 〜〜〜 「ソーダが味ではなく色で選べるのが面白いですわね。潔いというか…わたくしはクリームソーダにいたしますわ。緑色で」 私もフードメニュー諦める代わりにフロート系に…ココアフロートにしようかな。 「あら珍しい。コーヒーではなくて?」 たまにはね?コーヒーなら家でも飲めるし、こういう喫茶店ならではのモノを頼んでみたいかなって。さて。 ぁっ…アノ…スミマセン… 「声小さすぎですわ。たぶん聞こえてないですわよ?」 うぁ…えっと… 「…仕方ないですわね。もし!失礼。注文を…クリームソーダとココアフロートですわ。ええ、緑でお願いします」 あ…さきちゃんありがと💛助かる〜。 「初華…わたくしと出掛ける時だけ急に人見知りになるのはなんなんですの?別に構いませんけど」 〜〜〜 「お待たせ致しました。ココアフロートとクリームソーダです」 わー!来たよさきちゃん!! ココアもフロートもなんだか久しぶり。さきちゃんのクリームメロンソーダ…じゃなくてクリームソーダ(緑)もさくらんぼが載っててカラフルで可愛いね。あっそうだ、上のソフトクリームを崩すときは先に少しドリンクを飲んでおかないと溢れるから注意してね? えっひと口くれるの?やったあ。どれどれ… うん、冷たくて甘くておいしい!それしか感想が出ないけどそれでいい、それがいい。 さきちゃんもココアフロートどうぞ💛 「ん…あら、結構本格派ですわね」 ほんとだ。しっかり濃度感があって、ココアのほのかな苦味がソフトクリームの甘さをうまく引き立ててくれる。そこそこ大きめのグラスだからゆったり楽しめそうだね。 そういえばさきちゃんはこの後行きたいとこ決まった? 「ええまあ…とりあえずアメ横の小島屋さんに…」 「ねえあれもしかしてAve Mujicaの…」 「やっぱり?片方だけだったらわかんなかったかも」 「えっうそ、sumimiの初華!?」 「一緒にいるのだれ?」 「オブリビオニス…だよね?キーボードの」 「お仕事かな?」 「いや〜あれはプライベートでしょ。このまえ週刊誌に熱愛報道が」 「いいなあ〜、いっしょに写真撮ってくれないかなあ」 「ダメだよ邪魔しちゃ」 「サイド三ツ編みのオブ様🖤」 「オフのオブ様…💜」 うーん…バレてるね。 やっぱりちょっと髪型いじっただけじゃダメかぁ〜。私はともかくさきちゃんはサングラスも掛けてないし。これ飲んだらアメ横にさきちゃんのサングラス買いに行く? 「…そうですわね。他のお客様のご迷惑にもなってしまいますし」 顔と名前が売れるのは良いことだけど、ゆっくりデートもできないのは考えものだなあ。 とはいえ次の目的地は決まったし、ささっと片付けてアメ横に── あぁあさきちゃんそんなに一気に飲んだら…ほらキーンってなるじゃん。 ふふっ💛可愛いなあ。 ーーーーーーーーーー 〔17〕「上野デート② アメ横ショッピングと純喫茶」 ーーーーーーーーーー 上野デートはCoffee Shopギャランを出てアメ横商店街へ。まずはさきちゃんの変装用サングラスを買わなきゃね。 土曜昼前のアメ横周辺は観光客でごった返してる。パッと見た感じ外国からのお客様が6〜7割くらい…かな?ツアー組んで来てる人たちもいるみたい。賑やかだなあ。 おっ良さそうな雑貨屋さんを発見。これ見てさきちゃん、パンダのサングラス。可愛いよほら掛けてみて?…ンッフッフフフッあっごめん。 いいよいいよ似合ってるよ…ふふっ。 「あらそうですの?ではこれに決めましたわ」 えっ… 「初華もこれを掛けなさい」 ええっ!? 〜〜〜 うう…恥ずかしい。これじゃ完全におノボリさんのバカップルだよ。これならたぶんバレないだろうけど…万が一バレた時のダメージが倍になる気がする。 変装もバッチリ(?)キメたところでアメ横ショッピングといこうかさきちゃん。そういえば行きたいところがあるんだっけ? 「ええっと…そちらのお店ですわね。お紅茶と合わせるためのドライフルーツを見ようかと」 さきちゃんの視線の先にはドライフルーツやローストナッツが所狭しと並んだ青い看板のお店…“小島屋”さんがあった。 「わっすごいですわ!本当になんでもございますのね…えっとえっと、とりあえずアプリコット。あとは〜イチジクと、はつ…初華ご覧になって!砂糖漬けの生姜もありますわ!」 こんなにテンション上がってるさきちゃんひさびさに見た。浮かれたように見える格好も相まってすごく可愛いしお店の人もニコニコだよ。私もナッツとか買っちゃおうかな…うん? うわっさきちゃんあれ見て!あれ焙煎機だよ!ダイイチデンシのショップロースターNOVO!!ああGOTHOTのNOVAじゃないよ?名前似ててややこしいけどNOVAはドイツ製の大型高速熱風焙煎機でロータリーハウジングみたいな形の固定された釜の中で攪拌羽根を回転させる“パドル式”っていう珍しい方式の焙煎機でね?型によっては1バッチ100kgをなんと5分台で…まあその話は置いといて。 あそこに置いてあるNOVOは本来コーヒー豆用の焙煎機だけど、ひょっとしてあれでナッツを焙煎してるのかな?すごいや… あっさきちゃん私を無視してお会計してる。もういいの?ところで斜向いにコーヒー屋さんがあるんだけどさ、見るだけ見てもいいかなーって… 「もう冷凍庫にスペースはございませんわ」 うう…わかったよぅ、また来ようね。 じゃあ次はアーケードの方行ってみよっか。 〜〜〜 こっちは“アメ横プラザ”っていうんだね。服とか革製品とかジュエリーのお店が連なってる。なんとなく海鈴ちゃんとかにゃむちゃんが喜びそうな感じ。 あっさきちゃん!こっちのお店に魚のピンズが売ってるよ。七宝焼きだって…へぇ〜こんなに小さいのに鱗まで精細に描かれてる。可愛いから買っちゃおう。これ私からのプレゼント!さきちゃんどれがいい? 「うーん…このお魚が良いですわね。色も模様もとても綺麗ですわ」 ヤマメ…“渓流の女王”を選ぶなんてさすがはさきちゃん、ハイセンスだね。じゃあ私はイワナにしようかな?いやイサキでもいいなぁ。“さき”って入ってるから…えいどっちも買っちゃえ! はいさきちゃん、襟のところに着けてあげるね。うん似合ってる!小ぶりだし仕上げが綺麗だからアクセサリーとして違和感ないね。 私にもイワナの着けてくれるの?ありがと💛 じゃ帽子にイサキの着けちゃおっと。 似合う?えへへ〜。 〜〜〜 いろいろお買い物してたらもうお昼前だね。 混み始める前にどこか入っちゃおうか?そういえば朝は開いてなかったから諦めたけど気になるお店が…あっもう開いてる。 純喫茶…ねえさきちゃんどう読むんだと思う? お→か↘︎?お→か↗︎? 「あの字ならお→か↗︎ではなくて?」 そうなのかな。“純喫茶 丘”、入ってみる? ああっKEY COFFEEの青看板が!これは期待して良いんじゃないかな!? こっちは“ギャラン”とは対照的に階段で地下に潜っていくタイプの造りなんだね。吹抜けの階段に大きなシャンデリアが…向こうに負けず劣らず豪勢な内装だけど、こっちはなんだかよりオトナでレトロな雰囲気。店内照明は暗めで落ち着いて過ごせそうだし、AMラジオの天気予報がBGMなのも良い味出してるね。そんなに混みあってる感じじゃないのも今は助かる。 ステンドグラスが奢られた壁際のテーブル席に案内されて着席。さてさてメニューは… いやあこっちもいいね!ラミネート1ページにまとまった“理想の純喫茶”って感じの内容。飲み物はコーヒーとして何食べよう…“ギャラン”で食べ損なったミックスサンドにしようかな?コーヒーとのセットもあるし。さきちゃんはどうする? 「わたくしも同じもので。飲み物はアイスティーにいたしますわ」 おっけー…ちょうど店員さんがお冷を運んできたから注文するね。なんかこのお店の雰囲気だと緊張しないから…スゥー…フゥー… ミックスサンドのセットふたつ。ホットコーヒーとアイスティーで。 「あっフッすみません土日はミックスサンドやってないんですよ」 えっぁっ…どうしようぅ… 「ではハムサンドとタマゴサンドで。よろしいですわね?」 うん…いい。いいよ。 はぁ…また助けられちゃった。 「かしこまりました。お待ちください」 それにしても今日はミックスサンド運がないなあ。 あと店員さんちょっと笑ってたからパンダのサングラス外そっか。この暗さならバレないだろうし。 〜〜〜 「お待たせしました。セットふたつね、コーヒーと紅茶」 「ありがとうございます」 純喫茶のサンドイッチ!っとその前にコーヒーだよコーヒー。ではいただきます… アッツ…サイフォンかな?あちち…うん!なるほどね、おいしい。 サンドイッチはハムとタマゴをさきちゃんとはんぶんこ。ハムの方はオーソドックスなものだけどタマゴは…ん!これ薄焼きタマゴが挟んであるんだ。なんか意外な感じだけどおいしいよこれ。きゅうりとマヨネーズとの相性も良いし。 「これは…具が温かくておいしいですわね。家でも作ってみましょうか」 やったぁ!楽しみ💛 さてランチ休憩も済ませたところで次はどうしよっか?さきちゃんはまだ行きたいところある? 「御徒町と秋葉原の間の線路沿いに気になる場所がありますわ。鍵盤専門店…電子ピアノを専門に取り揃えたお店があるらしいのですけれど」 楽器屋さん!いいね。 じゃあ上野公園をすこし見て周ってからそっちに行ってみようか。 さきちゃんとの上野デート、もうちょっと続くよ! ーーーーーーーーーー 〔17〕「上野デート③ いま上野公園がアツい! 」 ーーーーーーーーーー “純喫茶 丘”でランチを済ませた私とさきちゃんは上野公園へ。緑のパンダ像の前でツーショットをキメてから細道を降りて園内に…うわー!!さきちゃんその映画館はダメっ!!! 休日の上野公園はまるでお祭りでもやっているかのような賑わい。ん?あぁ本当にお祭りやってるんだね。出店の屋台とか骨董市とかがひしめいててなんだかわくわくしちゃう。お昼は軽めだったしなにか食べようか。ほらたこ焼きとかあるよ?……さきちゃん? 「初華」 どうしたの?たい焼きにする? 「暑いですわ…」 ちょっとやめてよさきちゃん。いろいろ面倒があるからこの日記ではあんまり季節感出したくないのに。 「季節モノの商品が登場したりアイスコーヒーの出番が増えている時点で今更でしょう。さきほどのお店でも汗だくでホットコーヒーを召し上がる姿が滑稽を通り越して可哀想でしたわ」 あちゃ〜バレてた?まあ…そう言うなら今日は諦めて正直にいこうかな。 いや〜暑いね!はちゃめちゃに暑い。日本の四季からは逃れられないということでかき氷買って食べようね。さきちゃんはイチゴ練乳?じゃ私はブルーハワイにしようっと。 んー冷たい!おいしい!!夏最高!!! あれ?あそこに居る2人組…立希ちゃんと楽奈ちゃんだ!私たちと同じパンダのサングラス掛けてる。ひぇ〜。 ほら見てごらんさきちゃん、かき氷食べさせあってるよ。うわっあんな事まで…なんて大胆な。アツアツカップルだねぇ。 「よしなさいな…わたくしたちも側から見れば大差ありませんわ。とはいえ鉢合わせてもアレですし、早めに退散しましょうか」 うーん賛成。これ食べたら行こっか。 あぁっさきちゃんかき込んだらまたキーンてなるじゃん…わざとやってない? 〜〜〜 上野公園を出て山手線の線路沿いを秋葉原方面にてくてく歩く私たち。 さきちゃんあんなところにやなか珈琲店があるよ!ねえ豆は買わないからいいでしょ…?今日はまだアイスコーヒー飲んでないし。いいの?ありがと💛じゃあブレンドアイスとオレンジジュース、買ってくるね! ── おいしい!私好みのキレのある苦味とカラメル香を感じる余韻…ブラジルベースだね。淹れたてのアイスコーヒーってどうしてこんなにおいしいんだろう。 あ、さきちゃんの行きたいお店そろそろじゃない? 「……初音。帰りましょう」 えっ…ええっ!?なんで!?? 「あなたのシャツが!汗で透けているからですわ!!」 うそっ…うわほんとだ!お恥ずかしい。 でもいいの?もうすぐそこなのに… 「別にキーボードを買い換えようと思っていたわけではありませんし、わたくしも限界ですわ…この気温は人が死にます」 そう…だね。朝はともかく昼過ぎてから歩いてる人も減ったし、セミも死んでるし(?) じゃ秋葉原から電車乗って帰ろっか。 「そんな格好のあなたを衆目に晒せるわけないでしょう?車は手配済です。ああちょうど来ましたわね」 車?タクシー呼んだの? ひぃッ!実家(豊川家)の車!? 「お待たせ致しましたお嬢様。初音様も」 「助かりますわ」 「いえとんでも…ンフッ失礼。どちらまで?」 「初音の家までお願いできます?」 「かしこまりました」 「ほら初音。何をボーッとしてますの?早くお乗りなさいな」 えっえっえぇ〜???こんな気軽に使っていいものなの…? 「以前言ったでしょう?使えるものはなんでも使います。それに豊川の家の車にわたくしが乗るのはごく自然な事ですわ」 はぁ〜やっぱりさきちゃんはすごい。 じゃ今回はお言葉に甘えまして。 「ふふん。わたくしが豊川ですわ」 キメてるところ申し訳ないんだけどそろそろパンダのサングラス外そっか…さっき運転手さん笑ってたから。 夏は昼間のお外デートは厳しいね。こんどは次は水族館とか行こうね、さきちゃん💛 ーーーーーーーーーー 「【続・熱愛報道!!】 〜真夏の上野でお忍びセッション♡熱暑(アツアツ)なデートの終点はふたりだけの“愛の巣”へ!?〜  某月某日土曜日。人気沸騰中のガールズメタルバンド『Ave Mujica』のVo.&Gt.ドロリス(三角初華)と同バンドのKey.オブリビオニス(豊川祥子)が仲睦まじそうに上野散策を楽しむ様子を芸能担当記者が偶然目撃した。 「Ave Mujicaのライブ…『マスカレード』と称されるのですが、その中でのドロリス・オブリビオニスの濃厚な絡みがファンの間で好評です。最近ではプライベートでのつながりの強さも噂されていた両者ですが、それを裏付けるかのような場面に出くわしてしまいました(担当記者)」  この二人に関しては先月、本誌のスクープ班が都内某所のマンションに揃って入る様子を激写しており、熱愛さなかとの噂が絶えなかった。 「彼女たちは上野駅からほど近い老舗のカフェで一服したのち、アメ横商店街の雑貨店で個性的な形のサングラスを揃って購入。観光客に紛れようとしたのかもしれませんが、あれは…(笑)。その後はお揃いのそれを身に着けたままショッピングを楽しんでいましたね(担当記者)」  以降の足取りは掴み損ねてしまったようだが、話題のガールズバンド内で繰り広げられる恋愛模様に本誌は今後も注目していきたい。 ──とのことですが。最近のお二人は脇が甘いのでは?」 海鈴ちゃん、学校に週刊誌持ってくるのってどうなの?っていうか記事全文読み上げなくていいよぅ。 いや〜しかし…まさか抜かれるとはね!困ったもんだよハハハ…はいごめんなさい。 「ところで先ほど立希さんにこんなものを頂いたのですが。流行ってるんですか?このサングラス」