ラセリア [酒場[メイン]]
「………………………………」
改めて名無しのエルフはアンジェという目の前の人間を観察した。
たぶん、善人なのだろう。善人だったのだろう。|そういう目《・・・・・》に合うまでは。
こうして酒場でたまたま対面の席に座って、たまたま似たような経験をしていた人間のことを少し想像しただけで分かったふうなことを言って。
勝手に救おうとしている。自分が救われたいために。
けれどお前に何が分かる、とラセリアは怒らなかった。彼女が言うようにそこまで自分のことは大事じゃなかったし、それに比べれば今目の前の女のほうが大切に思えた。
この女は、今必死だ。救われたなんて大嘘だ。
自分の大切なものが踏み躙られ、泥に塗れ、力に屈したことに対して、きっと今でも戦っているのだろう。
心が壊れて何も感じなくなってしまったことで戦いさえ終わってしまった自分とは違う。
だから。
「私はいいと思う」
「自己満足でも、自分が救われるために必死であることは正しい」
「お前の身勝手な振る舞いに怒る者もいるかもしれない。だが私は呆れはしても、怒りはしない。お前は救われたいと願っている」
「それは悪いことじゃない」