(暖かい…) 心地よさを感じながら意識が浮上してくる。 この感覚はまるで私が幼いの時、母にしてもらった膝枕に似ていた。氷のように冷たい母上が私に甘えることを許してくれていた懐かしい記憶… (帰りたい…あの頃に…でももう私は…) 意識がはっきりするにつれ、頭に重く柔らかいものがずっしりと乗っており、それが視界を塞いでいることに気付いた。 「…どいてくれ。何も見えない」 「おっ起きたかぁ。お寝坊さんだなぁ~」 頭の上に乗っていたモノが退くとそこには最近寝泊まりしてる宿の天井…そして巨大な「双丘」があった。 私が慌てて上体を起こし振り返ると、長身の竜の角を生やした女性が薄ら笑いを浮かべている。 「いやぁ魔族のお坊ちゃんもお酒には弱いんだねぇ。カワイイ~」 そう言われて頭がズキズキ痛むことに気付く。 「確か貴女は…ウラヴレイ…殿」 私は昨日の晩の記憶を掘り起こす。 冒険者ギルドのクエストを終えた私は、ブラックライトと共に近くの酒場で夕食を済ました。 そこで知り合った…というか一方的に絡んできたのが彼女、ウラヴレイだった。 そして半ば強引な流れで私が酒を飲むこととなり…その後の記憶が全くない。 「不覚…」 この身体は大抵の毒なら無効にできるほど抵抗力が強い。 アルコールも解毒してくれるだろうと勝手に考えていたがどうやら「酔い」には弱いらしい。 …どういう線引きなんだ。意味が分からん。忌器なんて真面目に考えても仕方がないものという事は重々承知ではあるのだが。 「というわけで飲み代は全額そっち持ちー勝手に財布から拝借させて頂きましたよっと。しかし坊ちゃんら稼いでるねぇ~お姉さんびっくり」 「そういえば酒飲み勝負をしていたんだった…勝手に私の財布から金を出したのか!?」 ハッと懐の財布を取り出して中身をざっと確認してみる。 「そりゃそういう勝負だからね。それどころか意識を失ったんだ。有り金全部貰ってもよかったんだけどお姉さんは優しいからねぇ~武士ならぬ騎士の情けでおごりの分以外はもらってないよ」 …多少軽くなっているが、まぁちゃんとある…か? 「むしろここまで運んできて、介抱もしてやったんだ。感謝してほしいくらいだね」 彼女は手をひらひらさせると私のベッドの上にあった瓶のふたを開け中身を飲む。この匂いは…酒か。 思えば財布を盗んでそのまま逃げることも出来たのだ。なのにわざわざ私が起きるまで待っていたというのは、義理堅いというべきか世話焼きというべきか… そこまで思考し、「ある可能性」が頭の中に不意に浮かんでくる。 「確かに…礼を言う…前に確認なのだが」 「ん? にゃに?」 「…酔ってる間に…私と貴女でその…シタ…という事はないか…?」 「ブッフォ!?」 ウラヴレイが含んでいた酒を吹き出す。そこは私のベッドなのだが…宿主にクリーニングを頼むか? 「っふ…流石に人を見くびり過ぎたよ。アンタ結構イケメンだけどお姉さんに魔族と寝る趣味はないね。それに酷くうなされてる相手に無理やり乗っかるなんて鬼畜さ鬼畜」 「…そうか。すまない、変なことを聞いてしまって」 今の体で子を成せるのかはわからないが、万が一出来てしまったら一大事である。体質的にも、血筋的にも。 とはいえこの様子だと本当にそういった行為はなさそうだ…と自身の体のとある部分をさりげなく確認しながら安心する。 とすると酔いで弱った私を世話するだけのために見ず知らずの、しかも得体のしれない魔族の男に付き添ったというのだろうか。 「…改めて礼を言おう。すまない」 「いいってことよ。魔族のイケメンに膝枕するなんて機会まぁないからね」 ウラブヴレイは胸を張り満足げに鼻を鳴らす。 「…やはり撤回していいか? そもそも意識を失ったのはそちらの仕掛けた酒の飲み合いがきっかけじゃないか」 「えー。なんかお礼とか期待してたのにー」 「もう飲み代くれてやったろうが…」 「ケチーいけずー」 「そんなどうでもいいことよりブラックライト…私の連れはどうしたんだ?」 彼はウラヴレイと私を運んだ後、隣の部屋で休んだらしい。 いや、会ったばかりの他人に私を預けて寝るなよ… 「あの子も結構イケメンだったなー、イケメンコンビで眼福眼福」 前言撤回。逃げて正解だぞライトよ。 「しかしアンタ達、どうして旅をしてんの? ワケありでしょ?」 「…ワケありだとわかっているなら皆まで言わなくてもわかるだろ」 話せない…とそう続けて言おうとした時、隣の部屋でガシャン! と窓ガラスが割れる音がした。 「…ライト!」 これが私「コージン」と「ブラックライト」、「ウラヴレイ」、そして「シロ」との出会いの話なのだが、続きはまたの機会に。