オリキャラ雑談クロスSS_3_29

狭間の世界のゼノリス:第29回

3.狭間/決戦編

目次

3.11.ファイナル・ミッション
3.12.ホーミング・トウェルヴ・アンド・ファミリー

3.11.ファイナル・ミッション

 ナハヴェルトの通告から、少し時間を遡る。
 ゼノリスの仮拠点――陣地のようなものだが、そこでは霊子サイバネティクス手術装置へと収容されたアルダの手術――改造が進行していた。
――エナジークリスタルの補器となる霊電変換器の強化、及び機体各部への霊子キャパシタの追加。
 これによって、電力を霊子に変換し、体内に蓄積することが出来るようになる。
――電気回路と並行する霊子伝達系の追加。
 これによって、蓄積した霊子を機体各部に伝え、霊力を行使することが可能となる。
――装甲を兼ねる駆動系と、霊子伝達系との連動化。
 これによって、霊力や魔力への耐性も向上する。
 改造処置の目的は、重傷を負ったホロウの霊基質を収納し、治療する領域を新設すること。
 またアルダ自身の脳が生み出す霊力と、エナジークリスタルから生成される電力を霊子に変換し、ホロウの霊基質を修復する機能を追加すること。
 そして二人の霊子と意識とをやり取りし、霊的エネルギーを生み出すという動力源の多重化にあった。
 改造が進み、アルダの内部で霊基質の修復が進んでいくと、ホロウが意識を取り戻した。
 彼はまず、訝った。

「ん~? 何だココ」

 そこに、アルダが姿を現す。
 それはアルダの脳と、霊子キャパシタに収納されたホロウとが、霊子伝達系を通じて会話している状態と言えた。
 アルダは相棒に頭を下げ、謝罪する。

「ホロウ、すまぬ。拙者が不甲斐ないばかりに、お主に重傷を負わせてしまった」
「えっ。オレッチ今そんな状態なの……?」

 困惑するホロウに、アルダは説明を始めた。

「――そうした次第で、異世界人の助言で、お主を助けるために拙者の機体を改造中らしい」
「何でお前の体……?」
「お主の霊基質を収容して治療するためのようだ」
「何かうさんくせぇな……信用できるのかそれ?」
「時間が無く他の手が浮かばなくてな……改めてすまぬ」

 状況を理解し始めたか、ホロウは腰に両手を充ててぼやくように言う。

「周りの状況が分からん時に辛気臭いと気分が沈むからやめろよな……
 いやそこで開き直られてもよくないのかも知れねーけど……」
「そもそもお主をここまで巻き込んでしまったことを考えると、拙者にも顧みるべき点があるように思えてな」
「うーん……でもまぁそれは結果論っていうかさ。
 そりゃ死んだり死にかけたりは嫌だけど、危ないことに首突っ込むお前のお目付け役をやるって決めたのはオレッチではあるからなぁ。
 多少の危険は承知してたつもりっていうか」

 相棒がそう言うと、アルダは年少者に言い聞かせるように告げた。

「それで実際死にかけたのだ、今後は身の振り方を変えてもらう。
 生きて帰って分離する方法が見つかったなら、ということになってしまうが」
「お前の監視はやめねーぞ。騙されて何やらかすかわかったもんじゃねーし」
「いや拙者はそこまでお人好しでは――」
「お人好しだろーが!」

 反論しようとするアルダを、ホロウが遮る。

「死んで今の体になったり、サンタやったり、やべー怪人の親玉を説得しようとしたり!
 そもそもダッジャールの件があったのに、お前の身体を改造しようとするやつをあっさり信用してるじゃねーかよ!」
「それとこれとは事情が異なっていよう!?」

 アルダが再反論することで、応酬が始まった。

「同じだっつの! お前ホント、人が困ってると思ったら何も考えんとすぐ行動しようとしてさぁ!
 オレッチかサニーの名前で詐欺電話がかかってきたらすぐ引っ掛かっちまうぞ!」
「そんなことはない! そうして決めてかかるのがお主の――」
『アー。お取込み中申し訳ありません』

 そこに、姿なく割り込む声があった。
 二人は思わず喧嘩を中断し、尋ねる。

「えっ誰……?」
『お二人の処置を行っております、霊子サイバネティクス手術システムです。
 あと3分でアルダ様の機体改造が完了し、ホロウ様の霊基質も最低限の活動が可能な段階に回復したため、それを通知しに参りました』
「む、動けるのか!?」
『ハイ、ですが注意点がございます』
「何であろうか?」
『合体後、お二人は意識は独立したままですが、感覚を共有されます。
 お互いの思考の様子や感情などは、何もしなければ自分のことのように感じられるはずです。
 伝達を遮断することもできますが、お互いそのことは伝わります。
 また遮断が強まれば電力から霊力への変換効率が落ち、戦闘などにおいては不利になるでしょう。
 これは複座型霊子サイボーグにとって原理的に避けられないことであり――』
「おいアルダ、ちょっとこの説明切り上げられねーかな……」
「あと2分30秒ほどで活動できるようになる。それまでは聞いておこう」
「うぇ~」

 説明を聞くうちに二人の感情は平素の状態に戻り、喧嘩はそのままなかったことになった。
 そして、3分が経過する。


 指定の時間が過ぎて、ナハヴェルトがゼノリスに促した。

「時間ですよ、答えを聞きましょう」
「うん」

 前に進み出て答えるのは、ミリアだ。

「ボクたちは降伏はしない。最後まで戦うよ、ナハヴェルトちゃん!」
「そう答えるだろうと思っていました。残念ですが、滅びてもらいましょう」

 その言葉と共にゼノリスに向かって到来する、大規模攻撃。
 虚空から現れた光弾や熱線が群れを成して、彼らを滅ぼそうと豪雨のように殺到する。

「大黒・盾ッ!!」

 そこへ飛び出したのは、漆黒の巨大な球殻を前方に突き出した04だ。
 凄まじい衝撃の連続で勢いを殺されながらも、反逆者は突き進む。

(高めろ、想像力……!
 オレの波動が尽きねぇ限り、オレが想像する限り――)

 そして大黒の形状を反転させ、04が跳躍すると、ナハヴェルトに向かって被せるように漆黒の球殻が変形・巨大化し、ボウルのように広がった。
 彼は叫ぶ。

「――オレは負けねえェッ!!」
「世界樹の、大地の迸りよ!」

 そこにフィーネの魔法が発動し、ナハヴェルトの足元の大地が隆起する。
 隆起した大地と巨大ボウル状の「大黒」で上下から彼女を挟み込む形だが、何と彼女は祖霊板ごと全身を霊子変換することでこれを回避した。
 しかし、

「ざぁんねんっ♪ 紅蓮薔薇地獄(ディ・ローゼンヘーレ・イスト・ロッテンフォイヤ)ッ!!」

 挟み撃ちを逃れて実体化したナハヴェルトの背後にエリスが転移し、地獄の火を噴射する。
 実体化直後に浴びせられたことで、これは直撃した。

「むっ……!」
「メリーさん!」
「りょおっ! かいッ!!」

 そこに、メリーが旋回させたエウラリアの遠心力を受けて高速で飛来したヨーコが、斬撃を見舞う。

「効くものか!」

 それは祖霊板によって防がれるが、ヨーコの攻撃は一度では終わらない。

「ウィンドウォール!」

 シリルが作り出した濃密な空気流の渦で円筒状の壁が生じ、ヨーコはその内壁を蹴って跳弾のように暴れた。
 祖霊板の防御を掻い潜ってナハヴェルトに何度も斬り付け、傷を与えていく。

「鬱陶しい……!」

 魔力の爆発で吹き散らされる、空気の渦。
 それを察知して直前に離脱していたヨーコを撃ち落とそうと、ナハヴェルトが祖霊板にエネルギーを集中するが、

『飛行』――『蹴下』『火炎』『分身』!

 カウントスタッフを通して合成魔法を発動した佳直が空中で二人に分身し、ナハヴェルトの頭上から火炎をまとった蹴り下ろしを放つ。

「そこだぁッ!!」

 霊子変換による回避が間に合わない速度で、彼女は大地へと叩き付けられた。

「く……!?」

 そこに追撃を加えたのは、ミナだった。
 彼女が掲げたメイスから超重力が発生し、落下したナハヴェルトを押さえつけている。
 ミナはメイスを掲げつつ、半ば怯えていた。

「女王様、こんなことできるんですね……!?」
(飛んだ時の逆をすればよいのだ! 我を操った過ちを悔いるがいい!)

 更にそこへ、

「味方は退避してください!」

 高空から急降下してきたシルビアが、マジック地中貫通爆弾(M O P)を発射する。

爆弾投下(ボムズアウェイ)!!」

 巨大な爆発が巻き起こり、ナハヴェルトにさらにダメージが加わった。

「これで決める! ミリア!!」
「うん!!」

 ミリアの構えたミルフィストラッセが変形し、弓のような形状となる。
 グリュクの身に付けていた魔具が合体し、こちらも弓のように変形する。
 二人のつがえる矢は、虹色の粒子が収束して形になったものだ。
 強く引き絞って放たれた二条の矢は、風に流れることなくナハヴェルトへと命中する。
 煌めきと共に巻き起こる、虹色の爆轟。
 だが、ナハヴェルトはなおも倒れない。

「まだまだァッ!」

 彼女は破片同然の状態から再生し、魔力と霊力の衝撃波を巻き起こした。
 大地が捲れ上がり、ユカリタチバナの一部も巻き込まれる。
 それを見た04が、負けん気を刺激されたのか、大黒を構えて突撃した。

「ナメんじゃねぇえええッ!!!」
「あっ04!?」

 制止は間に合わない。
 彼は大黒をサーフボードのように変形させ、吹き上がる衝撃の津波を乗り越えようとしたようだが、

「ほげぁあああああ!?」
「おバカ!」

 ダメージこそ波動防御を全開にして防いだものの、反逆者は濃密な魔力と霊力の放射によって痛烈に弾き飛ばされる。
 エリスが瞬間移動で回収に向かうのを見たシリルが、虹色の粒子を通してゼノリスに伝える。

「後退する! 下手に防ごうとすれば削り取られるぞ!」
「でも、私たちの後ろにはアルダくんとホロウくんが……!」

 手術システムの入ったコンテナを指して、フィーネが訴えた――その時だった。

 ピーッピーッピーッピーッピーッピーッ

 電子音が鳴り、それまで沈黙していたコンテナのハッチが静かに開く。
 そしてそこから、薄紫色に輝くマフラーをまとったサイボーグが姿を現した。
 彼は手刀を胸元に構え、陳謝する。

「すまぬ、待たせた」「心配かけちまったな!」

 やや面影に変化こそあるが、その姿はサムライ・アルダ。
 そして聞こえてきた声は、彼と相棒のホロウに相違なかった。

「ホントに合体しちゃったのねあなたたち……!」

 両手で頬を押さえて赤面するエリスに対し、アルダの鋭角の額飾りの下にある目が動いて抗議した。

「したけど、変な意味じゃねーからな!?」
「問答は後だ、行くぞホロウ!」
「応ッ! 行くぜ行くぜ行くぜェッ!!」

 エナジークリスタルがホロウの霊力を高め、ホロウの霊力がエナジークリスタルの出力を高める。
 紫色に変化したマフラーから霊力が噴射され、フレキシブルなスラスターとなってアルダに推力を与えていた。
 二人は正に一体となって、ナハヴェルトの繰り出した霊魔の衝撃波へと突っ込み――

「おぉおおおおおッ!!」

 そして蹴散らした。
 その霊力の一部を吸収さえして、アルダとホロウは飛翔し、ナハヴェルトへと迫る。

「ナハヴェルトよ! いざ尋常に勝負――む!?」

 アルダが腰から得物を抜くと、それは以前と同じスタン・カタナではなくなっていた。
 霊力を帯びて、妖しく紫電の色に輝いている。
 ホロウがそれを見て、声を上げた。

「オーラ・カタナ、でどうよ!」「うむ、それで良かろう!」

 アルダはそれを構え、ナハヴェルトに向かって振るう。
 一方で彼女も魔力を纏った袖でそれを受け止め、呻いた。

「運命崩壊者! あなたも特異点同様、生きているだけで私の理想の邪魔をするようですね……消え去りなさい!」
「言われて消えるほど、出来た性格ではなくてな!
 なので相棒に傷を負わされたこと、未だ根に持っているぞ!」
「何を言うかと思えば、器量の小さい……!」
「だがお陰を以て、拙者たちはこの境地に至ってもいる」「そこは一応、礼を言っとくぜ?」
「この新たなアーク・サムライ・モードにて、お主の相手、仕るぞ!」

 アルダが気合を込めると、オーラ・カタナの輻射が強まる。

「――!!」

 刀身から生じた霊波が、ナハヴェルトの肉体ではなく、魔力を大きく吹き飛ばした。

「これは……!?」

 彼女は動揺しつつも距離を取り、ユカリタチバナから魔力を補充する。
 ナハヴェルトは隙なく構えるアーク・サムライ・アルダを睨み、忌まわしげに口にした。

「あぁ、鬱陶しい……!
 ならばあなたの肉体を復活させて、その運命を復旧します!」

 ナハヴェルトの周囲に祖霊板が浮かび上がり、アルダの脳へと、治癒蘇生の魔法を施した。
 しかし、

「させぬ!」「どりゃあああ!」
「く……!」

 アルダとホロウは機体から強烈な妨害霊波を発振して、祖霊板の霊的結合を阻害した。
 これ以上祖霊板を失うのは避けたいのだろう、ナハヴェルトは強制再生を停止して、祖霊板と共にアルダたちから更に距離を取る。
 それを見るや彼らも霊波の発信を停止し、オーラ・カタナで再び斬りかかった。

「お主の父も同じことをしようとした。
 だが今はまだ、その時ではない!」

 その一撃を今度は、どこからか取り出した光の剣で受け止めて、ナハヴェルトが彼を詰る。

「死して脳しか残らなかった、哀れなサイボーグ! 
 私が与えた運命の下で、大人しくしていればいいのに!」
「たとえお主が、全ての運命を定める天の神であったとしても!
 生きる者ならば誰しも、天命を待つ前に全うすべき行いがある!
 それが人事を尽くすということだ!!」
「うるさい、黙れ!!」

 ナハヴェルトの一撃をオーラ・カタナでいなし、回避するアルダ。
 それを見て、シリルが虹色の粒子を通じ、ゼノリスに呼びかける。

「彼が食い止めてる今の内だ、フィーネさん、メリーさん! 行けそうかい?」
「いつでも行けるわ!」
「……やってみます!」

 二人が応じると、そこにナハヴェルトと交戦中のアルダが尋ねる。

「皆、頼みがある。一つ、試みたいのだが――」

 その申し出の内容を聞いて、少年は頷いた。

「……いいね、やってみよう」
「かたじけない。だが急いでくれ!
 拙者も長くは持たぬ!」

 アルダは礼を言うと、ナハヴェルトとの戦いに意識を集中した。
 彼女は苛立ちを隠さず、口の端を吊り上げる。

「あなた方がこの面妖な粒子を使って内緒話をしているのは分かっていますよ……
 後ろのお仲間ごと吹き飛びなさい!!」
「それもまた、させぬ!」

 マフラーの噴射で一気に距離を詰め、アルダはオーラ・カタナでナハヴェルトの右手を打つ。

「く……!?」

 彼女の右手に集中していた膨大な魔力は、それによって雲散霧消していた。

「いかなる魔力の術も、術者の身体から離れた場所を直接操ることはできぬ……
 手を使わねば触れえぬように、必ず魔力や霊力が対象へと伸びているのだ!
 拙者はそこを打てばよい!」
「理屈を……!」

 ナハヴェルトが呻く。
 理論の上では確かに正しいが、ナハヴェルトの攻撃の出がかりを抑えるという行為は、実践する上では困難極まる。
 アルダの動力源であるエナジークリスタルの出力が飛躍的に高まっていること、それに伴い霊波出力も強化されていること。
 そして彼が魔力や霊力の波長を正確に検出し、その逆位相となる霊波をオーラ・カタナに載せていること。
 またアルダの技量が常軌を逸しており、サイボーグとなったことで得た超人的な動体視力と併せ、的確な箇所に的確なタイミングで攻撃を命中させていること。
 これら全ての条件が揃っていなければ、できないことなのだ。
 ナハヴェルトを守る祖霊板が半減している点を加味する必要はあるが、今のアルダたちは彼女に対して、いわば特効となっていた。
 彼は改めて、敵を説得にかかる。

「悪いことは言わぬ、戦いをやめよ!
 そうするならば、拙者たちも矛を収めよう!」
「どこまでも人の神経を逆なでする……!」

 アルダたちが気を引いている――無論、彼らだけで制圧できるに越したことはないのだが――その間に、残るゼノリスの面々は準備を進めていた。

「世界樹の、祝福の息吹よ!」

 フィーネが世界樹の力を借りて、強化の魔法を施す。
 対象は、メリーだ。
 強化を得た彼女は、エウラリアを抱えつつ両手を組んで、祈った。

「天の父よ、子よ、聖霊よ、日々の糧に感謝します――
 空には日と月と星々が、海には幸が、地には豊穣が、人には福音が来たるように――
 聖霊よ、切に願います!
 どうか天地と人の世を救う一筋のお恵みを、我らにお与えください!」

 その祈りに応えたか、聖霊が形而下に顕現し、白い雪か、羽のような発光体となって彼女の周囲へと浮遊する。
 本来であればそれは彼女のごく近くで動き回るだけなのだが、今回は世界樹の力が加わっているためか、様子が違った。
 発光体はゼノリスの全員に向かって飛び、襲いかかるように接触する。

「――ッ!?」

 そこには、奇跡が展開されようとしていた。


 アルダとホロウは、ナハヴェルトと単身、戦い続けていた。
 アルダの体内のエナジークリスタルからは、合体の恩恵で膨大な電力が発生している。
 霊子系統を増設された機体は良く動き、フレキシブル・ソウル・メタルは攻守に優れた効果を発揮した。
 そして、魔力を吹き飛ばすその特性。
 しかしそれらを併せても、ナハヴェルトは直径200kmの小天体全土に広がるユカリタチバナの森から魔力の供給を受けている。
 単体であるアルダたちは徐々に、不利になっていった。
 ナハヴェルトが、せせら笑う。

「限界が見えてきましたね、あなたの……!」
「む……!」

 飛躍的に増大したエナジークリスタルからの供給ですら、ナハヴェルトの出力に追い付かなくなりつつあった。
 彼女は見通したように、口にする。

「その動力源……超々高密度の集積回路を通して、微小次元から真空のエネルギーを取り出して電力にしていますね?
 真空のエネルギーとは無尽蔵でありながら、実質としては薄いものです」
「く――!」「悪りぃアルダ、霊力が足りねえ!」

 攻撃の連続に、それを打ち消すためのカウンターが間に合わない。
 ナハヴェルトが、魔力を込めた光の剣を突き出しながら言う。

「力とは量ではなく、密度こそが肝要なのですよ!!」
「――ッ!!」

 アルダたちのあらゆる防御を貫通する威力。
 しかし、その時被弾を覚悟した彼らを、守る者がいた。

「ッ!!」
「大丈夫かい、二人とも!」

 それは、奇跡の影響か、すっかり容貌の変わり果てたグリュクだった。
 衣服を含めた全身が金属色めいた銀色に輝いており、手にはミリアから返却されたのか、霊剣ミルフィストラッセを持っていた。
 それで以て、ナハヴェルトの一撃を受け止めたのだ。
 アルダが思わず、尋ねる。

「お主、その姿は――」
(説明は後!)「作戦通り行くよ、アルダ!」
「承知した!」

 霊剣とグリュクに頷くと、彼らは離脱した。

「逃がしませ――」
「君の相手は、俺たちがする!」

 それを追おうとするナハヴェルトだが、グリュクが霊剣を強く押し出してその体勢を崩す。

「やるんだ、今を生きる、俺たちがッ!」

 短距離空間転移で跳躍したグリュクが、弓状に変形したミルフィストラッセを引き絞り、極太の光の矢を放つ。

「そのあなた方を、統べると言っているのです!」

 最大出力で防御するナハヴェルトだが、その横合いから、今度は魔法少女の一撃が飛来した。

「が――!?」

 奇跡によって全身の装備に紅玉色のパーツが追加されたシルヴィアによる、人造神格砲とでも呼ぶべき特別兵装だ。
 そして、紅玉色のパーツが分離し、ナハヴェルトの周囲へと躍り出ると、

「機動砲台システム、威力行使!」

 六基の機動砲台から照射される魔力線、しかしナハヴェルトは祖霊板を展開させて防ぐ。

「羽虫が!」
「今です!」

 機動砲台を撃墜しようと祖霊板にエネルギーが集中した隙を突き、黒い影が跳ねた。
 影は機動砲台に交じってナハヴェルトに接近し、何度も彼女を切り裂く。

「ぐっ!?」
「…………」

 無言で空中を飛び回っているのは、ヨーコだった。
 今の彼女は、右側頭部にも翼が生え、更には背中からも巨大な翼が生えている。
 本人は語りたがらないが、ヨーコの中に混じっていた悪魔の血が、奇跡の作用で力を増したものだ。
 その目は全てを見通し、耳は全てを聞き分け、そして。

「こういうの、キャラじゃないんですけどねッ……!」

 ヨーコの全身から強大な熱線が放射され、ナハヴェルトに降り注ぐ。

「く……!?」

 彼女はこれも防御するが、そこから離れ、封印解除の詠唱をしている怪異にまでは意識が及ばない。

「ならば汝を裁くは私の炎
 焦がれし私の
 灼熱の靴より熱き坩堝の炎
 だから、故に――
 汝此処に入る者、(Abandon all hope,)一切の望みを捨てよ(ye who enter here.)――」

 転移によってナハヴェルトの背後に出現したエリスが、詠唱を結ぶ。

「開門――燃えて! 紅蓮薔薇地獄(ディ・ローゼンヘーレ・イスト・ロッテンフォイヤ)!!」

 地獄から、最後の火が解放された。
 夜だったコングロメレートが朝になったかと錯覚するほどの明るい光が爆発し、敵を包み込む。
 本来であれば反動で人形であるエリスの肉体は破壊されるはずだったが、今の彼女は奇跡の作用で遠慮なく封印を解放できる。
 更にそこへ、シリルが呪文を唱える。

十日(とおつび)よ! 蘇り現れて、悪しきを照らし、(はげ)しく(さいな)め!!」

 彼の掲げる『魔女の嘆き』の宝玉部分から、やはり朝日を思わせるまばゆい光が照射された。
 地獄の火に包まれたナハヴェルトを、十の太陽に匹敵する輝きが蝕む。

「この……!」

 霊子変換でそれを逃れようとするナハヴェルトに対し、

「極刑再現・磔刑!!」

 メリーが変形させたエウラリアから放射された光線が、それを阻んだ。
 この形態は本来であれば周囲の聖性を激増させるに留まるが、今は奇跡によって、相手の動きを磔刑のごとくに封じる効果を発揮していた。
 霊子変換による回避も、移動も出来なくなり、ナハヴェルトと祖霊板は空中に釘付けになってしまう。

「――!?」

 その隙を逃さず、虚空に渦巻く心臓の形をしたエネルギー体がミナに呼びかける。

(やるぞ、我が友よ! これで終いである!!)
「はい! 心臓!」
(女王!)
「電影弾ぁぁぁぁぁんッ!!!」

 ミナがメイスを振り抜くと、その頭に打ち抜かれたエネルギー体は凄まじい勢いでナハヴェルトに向かって飛び、命中した。
 大爆発が生じ、空中に固定されていた彼女は祖霊板から引き離され、吹き飛ぶ。
 攻撃は、なおも終わらない。

『時間停止』『融合』『吸収』『進化』『変身』――!

 カウントスタッフに5枚のエレメント・チップを読み込ませると、佳直の前に大きな加速場が五つ、整然と並ぶ。
 そしてカウントスタッフを小剣・赤輪(せきりん)に変形させて構えた彼は走り出し、加速場の中を通って急加速し、雄叫びと共に斬り付けた。

「でぇえええぃッ!」
「させるか!」

 光の剣で赤輪を受け止めるナハヴェルト。
 しかし佳直は、赤輪の柄尻にE-ギア:ファスト・ブースターを接続していた。
 E-ギアの作用で増幅された小剣は出力を増し、その峰から爆裂的に炎を噴き出す。
 噴射炎で佳直の肉体も炎上するが、彼は構わず赤輪のハンドルレバーを握り込み、更に出力を上げた。

「――!?」

 するとナハヴェルトの光の剣は砕け、佳直の一撃が彼女を大きく切り裂いた。
 赤輪を振り抜いた彼が勢いのままそこを離脱すると、今度はナハヴェルトに、鮮血のような色の熱線が直撃する。

「大黒・顎ッ!」

 No.04の顎に取り付いた“大黒”から迸る、奇跡によって強化された赤色の波動熱線だった。
 それを防ぐべき祖霊板は、メリーによって拘束されたままだった。
 今のナハヴェルトは大量の魔力を集めて熱線を防御しているが、それを以てもなお防ぎきれない膨大な輻射熱が、彼女の周囲の大気をプラズマ化させてすらいた。
 そして。

「世界樹の……祝福の剣よ!」

 フィーネの呪文と世界樹の加護に応えて、ルセルナの甲板に移植されていた世界樹から、一振りの剣が生えてきた。
 質素だが力強い造形のそれが、持ち主を待っている。
 フィーネは、その相手を呼んだ。

「ミリアさん、これを使って!」
「ありがとう、フィーネさん!」

 ミリアは世界樹から生えた剣の柄を掴み、引き抜いた。
 そして甲板から飛び出して、ナハヴェルトへと駆ける。
 04の熱線でプラズマ化していた彼女は、祖霊板の加護とユカリタチバナからの魔力で再び再生していた。
 ミリアは世界樹の剣を、ナハヴェルトは光の大剣を握り。
 二人は切り結び、呼び合った。

「ナハヴェルトちゃんっ!」
「特異点ッ!!」

 世界樹の剣に力を込めて、ミリアが語りかける。

「これだけボコボコにされても、まだ諦めないなら――」

 ナハヴェルトは感情を剥き出しにして、それを押し返した。

「ボコボコ言うな!! これは余裕というものです!!」
「とにかくまだ諦めないなら、ボクも覚悟を決めるよ!」
「まだ迷っていたと? それが勇者の態度ですか!」
「まだ一人前じゃないよ? でもこれから、なるんだ!
 ボクたちに阻止されたなら野望を諦めようと、キミが思えるくらい、立派な勇者にッ!」

 ミリアはそう言うと力強く剣を振り抜き、光の大剣を打ち砕く。

「えぇいっ!!」

 そして彼女は剣を擲ってナハヴェルトに組み付き、抱きしめた。

「……!?
 何のつもりですか!? 気持ち悪い、死になさいッ!!」

 ミリアを粉々に吹き飛ばそうと、ナハヴェルトが全身に魔力を込めた、その時。
 彼女の背後で、巨大なエネルギーが噴き上がる気配がした。

「ッ!?」

 見れば、アーク・サムライ・アルダが、そこに構えているではないか。
 仲間たちに攻撃を任せ、その間にエネルギーを蓄積し続けていたのだ。
 必殺の一撃が、来る。
 霊子変換で回避しようとするが、出来なかった。
 特異点である今の彼女が、もう一人の特異点であるミリア・ビヨンドの至近距離にいるせいか。
 ナハヴェルトは戦慄した。

(まさか、私の行為が世界法則に抵触している!?
 誤って彼女も霊子変換したら、元に戻った時に特異点同士が混ざり合う危険があるから……!?)

 本当のところは、分からなかった。
 その間にもサイボーグの侍が、鞘の中で霊力と電力を蓄えていた刀を抜き放つ。

「やめなさい、ミリアさんまで斬るつもり――」

 その名も。

「オーラ・カタナ――
 斬魔大抜刀ッ!!」

 その瞬間、地上に星が流れた。
 莫大な霊力の奔流とアーク放電が、ナハヴェルトに宿っていた魔力・霊力を全て吹き飛ばす。
 同時、彼女の意識は失われた。

3.12.ホーミング・トウェルヴ・アンド・ファミリー

 ミリアが意識を取り戻すと、そこは夜のコングロメレートではなく、茫洋たる透明な空間だった。

「え……あれ、ここは?」
「プナルジャンマン・サンサーラの中です」

 誰にでもなく問うと、返事が返ってきた。
 ナハヴェルトだ。
 彼女はミリア同様に、曖昧な何もない空間に浮かんでいる。
 ナハヴェルトが、言葉を続ける。

「ミリアさん」
「え、何……?」

 特異点、とではなく改めて名を呼ばれ、彼女は一瞬たじろいでしまった。
 が、ナハヴェルトにそれを気にする様子はない。
 彼女は自嘲するように、語る。

「あなたと仲間たちに、私は敗れました。
 全知全能に近しい力を得ておきながら、たった十三人の戦士たちに、理想を挫かれた」
「……?
 もしかして、歴史の支配はやめてくれるの……?」

 彼女がこの程度で諦めるはずがない。何か裏がある。
 その程度のことを疑う心はミリアにもあったが、それでもナハヴェルトの翻意を信じたい気持ちで、彼女は尋ねていた。
 ナハヴェルトは答えて、

「私は失敗しました。
 ですので、次の適任者に託そうかと思っているんですよ」
「えっ」

 ミリアは、それを聞いて思い浮かんだことを口にした。

「まさかナハヴェルトちゃん、その歳で赤ちゃん産む気なの!?」
「いきなり何を言い出しますかねこの人は!?」
「いやでもほら、ナハヴェルトちゃんの祖霊板はお母さんから引き継いだものだしさ?」
「産みませんッ!! 話の腰を盛大に破壊しないでください!!」

 ナハヴェルトは多少疲れたように肩を落とし、ミリアを睨みつけた。

「……何だか少し不安になってきましたが……まぁいいでしょう。
 あとは任せましたよミリアさん」
「何を……?」
「察しの悪い人ですね……!」

 額に青筋を浮かべながら、ナハヴェルトは説明する。

「歴史の支配をですよ!
 あなたはもう一つの特異点として私の後継者となり、未来と過去を正しく導くのです」
「ボクそんなことしないよ!?」
「拒んでももう遅い。あなたは私が生み出した『継承』のE-ギア、プナルジャンマン・サンサーラに取り込まれていますからね。
 すぐにあなたも私たちの意思を受け継いで、歴史を正しく導きたくなってきますよ……!」
「嘘ぉ!?」

 彼女がそういうと、ミリアの周囲から大きな腕が何本も飛び出してきて、彼女の手足や肩、頭を押さえつけた。
 ナハヴェルトは動けないミリアに詰め寄り、注射器の形をした道具――それがE-ギアなのかは不明だったが――を刺そうとしてくる。

「さぁ、私の神格を受け継ぎなさい、ミリア・ビヨンド!」
「嫌だ! ボクは勇者だ! 勇者になるんだぁぁぁぁぁッ!!!」

 全身全霊を込めてそれを拒否したその時、ミリアの左肩に激痛が走り、彼女は目を覚ました。


「痛ったぁぁぁぁぁ!?」

 ミリアが意識を取り戻すと、そこは紫の森が遠くに霞む、コングロメレートの大地だった。
 何があったのかと上体を起こしつつ左肩を見ると、そこには銃のような物体が刺さり、どくどくと血が流れている。

「!?」
「ミリアさん、大丈夫ですか!?」

 声の主は、佳直だ。彼女を案じているのか、不安げな表情だ。
 ゼノリスの仲間たちも、彼女たちを取り巻きつつ見ている。
 ミリアは左肩に刺さった物体の素性に気づき、抗議した。

「痛い……ていうかこれ、カナオくんの武器でしょ!? 何で刺してんの!?」
「あ、それはすみません……ていうか、あなたミリアさんですよね?
 ナハヴェルトに乗っ取られたりはしてませんよね……?」
「乗っ取り……あ!」

 そこで、ミリアは思い出した。
 彼女は意識を失っており、E-ギアの中でナハヴェルトに『継承』をさせられそうになったことを。
 その内容を話すと、佳直は安堵したように微笑む。

「良かった……彼女も神格能力者なので、もしかしたらミリアさんに、と思ったんです。
 なのでこうして僕のファスト・ブースターを刺して、ミリアさんと僕の神格を繋いで……
 ナハヴェルトに神格を移されても、僕の記憶の神格で復旧できるようにしたんです」
「それで刺さってるわけね……
 あのこれ、まだ刺してなきゃダメ……?」
「あ、抜きますね」
「ぅあ痛ぁッ!?」

 急にファスト・ブースターを左肩から引き抜かれ、ミリアは再び悲鳴を上げた。

「世界樹の……樹液の癒しよ」
「あたた……フィーネさんありがとうございます……
 カナオくんもまぁ……ありがとうね」

 フィーネの魔法でそこそこに深かった傷跡は跡形もなく消え、礼を言うミリア。
 そして、周囲を見渡して訊ねる。

「みんな、無事なんだよね?」
「無事よ。あなたがナハヴェルトと一緒に意識を失っていた以外はね」
「そうだ、ナハヴェルトちゃんは……?」
「う……!」

 ミリアが思い至ると、やや離れた所からうめき声が聞こえてきた。
 ナハヴェルトの声だ。
 彼女は一人で起き上がり、ミリアを鋭く睨んでいる。

「ミリアさん……あなたは何ということを……!」
「よかった、生きてたんだね」
「あなたは! 私の神格継承を拒否したのですよ!?」

 安堵するミリアに対し、彼女は食ってかかる。

「正確には、受け取ったのちに巻き戻したせいで、消滅させた!
 その証拠に、あなたに渡した神格能力が、私の中に返ってきていません!」
「多分、宇宙に――クリプト・スランプの中に帰っていったんだろうね。
 でもその方が――」

 佳直が分析すると、ナハヴェルトは立ち上がり、激昂した。

「ふざけるな……千年……ッ! 千年受け継いだ神格がッ!
 こんな……こんなことで消え去ってしまうなんて……!!」
「もういいのよ、ナハヴェルト」
「お母様……!?」

 いつの間にか意識を取り戻していたリカーシャが、娘に歩み寄って言う。

「一度祖霊板になった時、思ったのです。
 まだ生きていたい、娘の成長を見届けたい、と。
 死ぬ前までは、あんなにも理想の実現に対して冷徹に臨んでいたつもりだったのに、です」
「諦めるのですか、お母様!?」
「……あなたまで失いたくはないのです」

 食い下がる娘に、母親は目を伏せて説く。
 そこに、新たに声をかける者がいた。

「そうだ、私もリカーシャに賛成する」

 それは、中年の男だった。
 スーツを身にまとってはいるが、右目には眼帯、左目には視覚補助装置をかけた、異様な風体の男。
 リカーシャがその姿を見て、名を呼んだ。

「マシーフ!」
「ダッジャールさん……!? どうやってここに!?」

 驚く佳直に、ダッジャールは短く説明する。

「コングロメレートが消えて宇宙が戻ってきたのでね。
 ならばゲートを使えると考えたのだが、思いのほか上手く行った。
 神世に向かって開く方法については、空閑くんから教わってね」
「空閑……?」
「それはともかく――」

 その名を聞いて佳直が怪訝な顔をするが、ダッジャールは素知らぬ顔で娘へと声をかけた。

「初めまして。我が娘、ナハヴェルト」
「今更あなたが何の用です……!」

 彼は視覚補助装置を外し、生身の目でナハヴェルトを見つめ、謝罪する。

「すまなかった。だが許されるならば、やり直したいのだ。家族で。
 彼女の望みだったとはいえ、子育てをリカーシャに任せきりにしてしまった」

 それを聞いた彼女は表情を変え、リカーシャへと縋りついた。

「……! そうです、やり直せばいいのですよ!
 私のような失敗作ではなく、お母様が改めて次の継承者を産んでくだされば……!」
「いいえ。わたくしにももう、過去からの声は聞こえなくなってしまいました。
 あなたの神格能力が失われたのに合わせて、それに連なっていた全ての『継承』の神格は宇宙に還ったようです」

 母の言葉を聞き、ナハヴェルトは青ざめて首を横に振る。

「そんな……そんな!?」

 彼女を憐れんでか、両親が言う。

「君は失敗作などではない。
 一度は討滅を望みもしたが、こうして過ぎた力を失った今、見捨てることはないと思っている」
「そうです。私と……マシーフの娘ですからね。
 ここまで敗北してしまったのなら、私はマシーフと共に首を差し出し、あなたの助命を願うのみ」
「それは――それは……!」
「首はともかくとして、とりあえずさ……」

 ナハヴェルトが言葉を失っている間に声を上げたのは、シリルだった。
 彼はにこやかに天を指さして、言う。

「どうにかしてここから出ない?」
「そうね、親子で話すにしても、落ち着ける場所で話した方がいいわ」
「神世に取り残されたということは、神々がここに攻め寄せてくる可能性もあります」

 フィーネとシルビアが、同意する。
 だがそれを聞いた04はガッツポーズを取って、

「っしゃぁッ! んじゃあオレの出番だな!?」
「マジかよこのバトルジャンキー……」
「お主、ここで死ぬまで戦い続けるつもりか? 拙者たちは退去したいぞ」

 それをアルダとホロウは合体したまま、冷めた目で見ていた。
 メリーは顎に手を当て、

「ていうか、ダッジャールさんがゲートで来たってことは……」
「地球に帰れるってことよね! おっ先ぃ~♪ って、あら?」

 地球にいる縁者知人の背後に転移しようと試みたらしいエリスだが、失敗したらしかった。
 それを見たか、ダッジャールが説明する。

「電力の消費量が凄まじいのでね。ゲートは私が使ってすぐに、一度消した。
 私が持ってきた道具で合図をすれば、もう一度開く手はずになっている」
「早く言いなさいよ焼くわよ!?」

 顔を赤くして怒るエリスの後ろで、04が彼女を嘲った。

「プププ……ダッセ」
「キー!!」

 二人の漫才を他所に、ミナが訴える。

「私も帰りたいんですけど……」
「ひとまずは地球に戻り、それからゲートでキョウカイの面々を送り届けるとしよう」
「良かった……みんなのこと巻き込んじゃって、どうしようかと」

 ダッジャールの言葉に、ミリアが再び安堵した。
 一方で、そうしたことはどうでもいいといった風情でヨーコが、手首から伸びる鎖をじゃらりと鳴らす。

「ここまで来たら、お手当てが楽しみですね」
「…………」

 シリルが冷や汗を流すのに気づきつつ、それには言及せずにグリュクが言った。

「血管鉄道とも合流しないとね。巻き込まれてはいないみたいだけど、イノリさんたちが心配だ」
「では改めてゲートを開こう。地球の文明保護財団の上空に開くゲートだ。
 空を飛べない者は飛べる者と帯同して、ゲートに入ってもらいたい」

 ダッジャールがそう言うと、彼の指し示した方向に直径10メートルほどの巨大な黒い円が出現する。
 そして、彼らは地球、キョウカイと、それぞれの世界へと帰っていった。

なかがき

 お読みいただきありがとうございます。
 第29回終了です。第30回、エピローグに続きます。
 以下、注釈です。

【主な捏造点・疑問点・解説など】

 以上となります。ご意見などありましたら、可能な範囲で対応したいと思います。
 次回もよろしくお願いいたします。