これはifのまたifの物語…。 レンハートへ密かに帰郷したコージン=ミレーンとブラックライト。メロ王女襲撃や魔獣テロを阻止すべく、頑張り過ぎて大分やっちゃった感のある姿を晒したけど、意外とみんなに温かく受け入れてもらえました。今回はそんなif世界のお話です…。 ◇ ◇   ◇   ◇   ◇  レンハート勇者学園・勇者コース教室、担当講師のイタムナーが教壇で二人の人間を紹介する。 「えー皆さんに今日一日一緒に学ぶ、一日講師の先生と体験入学のお友達を紹介します。レンハートマンホーリーナイト先生とブラックライトくんです…」 「「よろしくお願いします」」 二人は軽く挨拶を済ませると、ライトは空いてる席に移動した。 「報道などでも知っているかと思いますが、お二人は先の魔獣テロ事件で目覚ましい活躍をしました。今日は二人に色んな話を聞いて、皆さんが立派な勇者へなれるための糧としてください…」 朝礼が終わるとイタムナーは色んな意味で大丈夫かこれ?という顔をしながら教室を出て行った。 席に座ったライトが教室を見回す。 「(プレハブ小屋?! 勇者学園って名前で勇者コースなら花形コースじゃないの?)」 ともっともらしい疑問を抱く。 ミレーンことレンハートマンホーリーナイト先生が教壇で語り始める。 「この勇者コースに在籍しているということは皆勇者を目指す者ということであろう。知っての通り勇者への道のりは辛く遠く果てしない…特にこのレンハートではな」 「だが神託や国家に選ばれた者だけが!魔王と呼ばれる存在を倒した者だけが勇者なのか? いや違う! 志を持ち弱い者のために力を持った強者へと立ち向かう、そして勇気を持ってそれを実行できる者、それこそが勇者であり誰しも勇者になれる可能性はある。と、これは俺が旅で出会ったある人の言葉だがな…」 他国では当たり前かもしれない考え方ではあるが、この勇者信仰がひと際強いレンハート人にとっては目からウロコというか寝耳に水だったかもしれない…。 「何か感動したっす! この学校来て初めてまともな言葉聞いた気がします」 生徒の一人ボリックが熱っぽく感想を言う。お前プロロ人だよな? ◇ ◇   ◇   ◇   ◇  「では授業まで少し間があるから雑談の時間にでもするか。何か質問がある者?」 「はい!先生、レンハートマンってことはレンハート出身なんですか? 「ノーコメントだ!」 「じゃあ、ホーリーナイトってことは聖騎士だったんですか?」 「ノーコメントだ!」 「先生、恋人いるんですか?」 「ノーコメントだ!」 …………… 「これで質問は終了か?」 「全部ノーコメントじゃねぇかよ!」 「質問して損したわ!」 ◇ ◇   ◇   ◇   ◇  「では授業を開始しよう。私が君たちに教えるのは勇者にとって必須の要素、格闘術だ!」 「聖剣を巧みに扱う剣術、戦闘の局面を自在に変動させる魔法、どちらも重要ではあるが、しかし剣折れ魔力尽きたが敵はまだ生きている…。そんな時にできる最後の手段は?! そう徒手空拳で相手の息の根を止めることだ! つまりこの肉体こそが最後に生き残れるかの切り札となるのだ!(ヒーラーコースのシゴ…授業風景を指さしながら)」 一部の脳筋を除けば皆不満そうな顔をしている…。 「ならば体術の必要性を身をもってわからせてやろう。諸君、私に隙があればいつでもかかってきなさい!」 「本当ですか?!」 「おいやめろマオ…」 隣の生徒が言い終える前に、生徒の一人マオカが無詠唱の爆裂呪文を放つ。 プレハブ小屋の教室が半分吹き飛ぶ。 「タァー!」 呪文が着弾する前にレンハートマンホーリーナイト先生は中空に飛んでいた。 「レンハートストレッチ!!!!!」 生徒一同「「「「「ゲェーーーッ!!!!!」」」」」 …………… 「これで体術の必要性というものがわかってもらえたようだな。安心しろ峰打ちだ。じきに目を覚ます」 「プロレス技に峰打ちってあるのかよ…?」 生徒の一人がごもっともなツッコミを入れる。 「(何でプレハブ小屋なのか分かった気がする…)」 半壊した教室の中を何事もなかったかのように机を戻して授業を再開する生徒たち。 ライトは驚きと呆れを隠せなかった。 ◇ ◇   ◇   ◇   ◇  休憩時間になる。物珍しい訪問者ともあってライトの周りに生徒たちが集まって来る。 「ブラックライトくんてどこから来たの?」「空飛べるって本当?」「意外と可愛い顔してるね」 普段人目を避ける生活+思春期+女子率の高さでライトの情緒は混乱寸前となり「ノーコメントで…」と返すのが精いっぱいだった。 「ちょっといいか…」 一人の男子生徒がライトの前にやってくる。プロロからの留学生ボリックだ。 「(えっ?!これひょっとしてヤンキーに便所裏でシメられるってやつ? それともちょっと飛んでみろでカツアゲされるやつ?)」 「あの…どうか…されましたでしょうか…」 ライトが心細さげに答えると、ボリックはライトの机に右ひじを突き「腕相撲しようぜ」と言った。 「いいけど、どうせやるなら左腕の方がいいんじゃないのかなぁって…」 「俺はな…お前の本気が見たいんだよ…」 ボリックの顔は真剣だった。ライトもそれに応え右腕で勝負する。 結果はライトの瞬殺での圧勝だった。 「(当たり前だよね…この手だもん…)」 竜化した腕を見つめる。 「ちっくしょー! やっぱすげーな! 俺も地元じゃ魔猪とか魔熊ぐらいは狩ってたからひょっとしたら勝てるんじゃねぇのかって思ったけど、もっと鍛えねぇとダメだな…」 「この腕は色々あって僕の力ってわけじゃないから…ズルみたいなもんだから気にしなくていいよ…。今度は公平に左で勝負しようよ」(※左腕ではいい勝負でした) ライトの竜化した右手を掌を合わせるようにしてタッチする者がいる。彼の右手と似たような質感の肌を持つ竜人の少女だった。彼女は左手でライトの閉じている羽を広げてもいる。 「わかった。ラネットちゃん、お揃いだって言いたいのね」 女生徒の一人マキが彼女の意図を読み解くと、竜人の少女ラネットはうれしそうにライトとハイタッチをした。 「(女の子の手に触れたなんていつぶりだろう? いや、ひょっとしたら初めてか…?!)」 実に思春期の少年らしい動揺であった。 ◇ ◇   ◇   ◇   ◇  とある一室、モニターには勇者コースを捉えた隠しカメラの映像が映る。 そこには仮面で目元を隠す5人の男女がいた。 4号「くそぉー!甘酸えじゃねぇか! ボーイミーツガールの匂いがプンプンするぜ!」 5号「待っとくれやす。今のムーブは確かにキテましたが、ラネットちゃんにはユッキーくんというええお相手がおるのでは? それにブラックライトくんにも好きな女の子がおると聞きましたが?」 1号「その件に関してだが、彼の思い人だったサキちゃんは先の事件の際、腰が抜けて動けなくなったところを救助し、不安な状態を親身になってケアしてくれたジミーダ=ハンパー衛兵隊員をロックオンしたという情報が入った」 4号「ちくしょー!なんてこった!これだからレンハートの女ってやつは!」 レンハートの女、頼りがいのある(異常に)離れた年上男性に惹かれるレンハート王国の女性の気質である。ボーイミーツガールを至上とする4号にとっては鬼門のような言葉であった(類義語:うさぎドロップ)。 2号「確かにラネットちゃんにはユッキーくんがいるが、現状お友達というかそこにも達していないまるで小学生のような距離感なのは否めない。まるでどっかの次男坊のようだ…」 5号「でもブラックライトくんは今日でさよならなんやろ。二人ともええ思い出で終わるだけちゃいます」 3号「いや、たった一度の出会いだからこそ強烈なインパクトが残るということもある! 毎日会っている幼馴染や同級生よりも一度出会っただけの思い出の人! 娘の読んでいた少女魔ンガだと大体そういうパターンの方が勝利していた!」 1号「それでは評決を取ります。とりあえずは様子見。ユッキーくんはもっとグイグイ行け、じゃないとブラックライトくんに取られちゃうぞ!ということで決めたいと思います」 ◇ ◇   ◇   ◇   ◇  昼休み中庭をレンハートマンホーリーナイト先生ことコージン=ミレーンはあれこれ思考を巡らせながら歩いていた…。 「ボリックという生徒、フィジカルの高さだけでなくコツをすぐに飲み込むセンスの高さも申し分ない。戦士コースが欲しがるという逸材だけはあるな…」 「アリエナは使えるのは水魔法だけだが、無尽蔵にも近い豊富な魔力量は特筆すべきものがある。マオカも攻撃呪文の属性の多彩さには目を見張るものがある。この二人には戦闘の駆け引きが身に付けば伸びしろはかなりあるぞ…」 そんな彼に声をかける者がいた。 「先日は大変ご迷惑をおかけしました。またお会いできてうれしいです…」 勇者学園アイドルコース主任講師も兼任している王女メロであった。 「これはご機嫌よう、メロ王女。あれから調子はいかがですか」 「そんなにかしこまらなくてもいいですわ。今日は学園の一講師として来てますので、メロ先生で構いませんよ。レンハートマ…えぇっと…」 「レンハートマンホーリーナイトです。呼びにくかったらホーリー先生でもハートマン先生でも好きに呼んでください」 「後の方だととんでもないスパルタ指導しそうだから、とりあえず先生とだけでお呼びしていいですか…。ところで先生、そのお名前は本名なのですか?」 「いいえ、リングネームです!」 「えっ?!リングネーム?! ご職業はプロレスラーをされてるのですか?」 「いいえ、ただの趣味です」 「趣味ってもちろん見る方ですよね…?」 「いいえ、出る方です」 「あの…趣味で出られるようなプロレスの試合とかあるんですか…?」 「ウチの近所では町内対抗でトリプルタッグマッチの試合を週末よく行っておりました」 「それって魔メヒコとかの話ですか?!」 「(すまぬメロよ。俺とてお前とゆっくり話はしたいが、俺の行った所業を考えると家族には会わせる顔はないのだ…。このまま支離滅裂な問答を返せば、呆れてどっか行くはず…)」 「それはとりあえず置いときまして、こんなところで立ち話でもなんですから、ご一緒にランチでもしながらお話でもと…」 「申し訳ありません。宗教上の理由で女性と一緒に食事は取れないのです…」 「えっ宗教上の理由? でも聖騎士って女性の方も沢山いらっしゃいますよね?」 「はい。しかし以前とある聖女が『男の人は男の人と女の人は女の人とご飯は一緒に食べるべきだと思うの💛』とねっとりした笑顔を浮かべながらこう言い出しまして…」 「だったら!お茶!お茶はいいですよね! 食事ではないですから!!!!」 「(なんだか妙にグイグイ来るな…。ひょっとして俺の正体に感づいてる? 仕方がない…許せ妹よ!)」 『認識阻害!』 「それではじゃあ行きましょうか! あれ?先生! 先生どこ行ったんですか?」 ◇   ◇   ◇   ◇   ◇  4号「クソボケがーっ!」 5号「ほんまクソボケやわ…」 2号「ウチの国だったらクソボケ罪で死刑だな」 3号「お父さん、絶対許しませんよー!!!! コイツは俺が討ち取る!!!!!」 1号「それでは評決を取ります。クソボケ罪で死刑ということで決めたいと思います」 ―――――自分の全く預かり知らぬところで死刑判決を受けていたコージン=ミレーンであった…。