──某日 ウァリトヒロイ国 王都サカエトル サカエトル城会議室にて 「えーっと、それじゃあ先日のカンラーク陥落の事後について我が国の状況を説明頼むんじゃよ、ええか?イーンボウちゃん」 「はい、それでは」 王都サカエトルにそびえるサカエトル城の会議室、現在ここには政治家や軍人といったウァリトヒロイの中枢に携わる者たちが集まっている。 普段は頻繁に冒険に抜け出し、不在も多い女王シュティアイセですら議題が議題故に参加しているようだ。 (どう見ても早く外に出たそうな、そわそわした顔をしてはいるが) 悪人面をしかめながら、話を引き継いだイーンボウが一同の前に出てきた。 「お集りの諸君もご存じのように聖都カンラークが魔王軍四天王により陥落、聖騎士は壊滅状態」 「現在聖都からは瘴気が噴出しているなど、大惨事となっている」 「聖都の一般市民については勇者が撤退戦を成功させ、多くが避難を完了させた…までは良い」 「ここからが問題だが、その避難先が我がウァリトヒロイなのだ」 「すでに王都を含め国内各地で受け入れを進めている、しかし今後のことは考えねばならない、という状況ですな陛下」 シュティアイセが眉を八の字、口をへの字にしてうなり始めた。 「んむむむ、マジ急すぎるんじゃよ、魔王軍四天王の剣士っちゅうのはどえらい剣豪じゃの、わし世刃持って立ち合いに行ってもええ?」 「「「「「やめろ」」」」」 会議室の全員が息を合わせ、諫めた。 「はっ!私めに考えがあります陛下!」 「おおコシーちゃん、なんか思いついたんか?」 発言者は意外な人物だった。コシー・ギンチャック、先王セージリョーク時代からの古参である。 と言えば聞こえはいいが、当時は奸臣逆臣たちが跋扈する時代であり、彼らの好き勝手で先王は暗殺され、国は混乱した。 即位したシュティアイセの後ろ盾を得たイーンボウが台頭し、混乱が収まった現在、それらはほとんど一掃されている。 コシーは利益や立場を考えながら周囲の顔色を窺っていたものの、周りに媚を売るばかりで相手にされず 結局何もしていないことが幸いして処分も受けずに済んだ、という程度の政治家である。 「魔族との融和、和平も昨今の勘案事項でありましょう!そして和平派の魔貴族にオンケーン伯がおられます」 「彼は一日100人の人間を食料としているとの噂、そこで今回の難民を送ればよろしいのです」 「魔族との和平に有効な関係強化と難民処理、これぞ一石二魔鷹で…」 コシーの発言は続かなかった。 「二度と言うな」 言い終わる前にシュティアイセが話を切る。コシーはびくりと固まり、一拍おいて、もごもごと不明瞭に謝りながら着席する。 この女王は鷹揚で気さくだが少々、いやかなり昼行燈、ちゃらんぽらんと見られることも多い。痴女のような格好もよくしている。 しかし時折、今のようにモードというべきか、雰囲気が変化することがある、画風も心なしか変わっている気がする。 「んもー我が君…」 イーンボウは話の方向性が無駄にあくらつになる前に終わったことに満足しつつ、あえて聞く。 コシーは先王時代媚を売った臣たちが既におらず、今はとりあえずいるだけのような立場に収まっている。 存在を示そうと焦り、かつての逆臣たちに媚を売ったのと同じ感覚で、いまの発言をしてきたのだろう。 その案は論外だが、難民の処遇案はこれからいくらでも要るのは事実。 「人道を捨てる必要はありませんが、難民たちの処遇はまだまだこれからです」 「魔王軍に陥とされ、瘴気も発生しているカンラークに送り返すわけにもいきません、ククク…いかがしますかな陛下?」 シュティアイセは画風を戻し、いつもの朗らかな顔で話に戻った。 「んもーコシーちゃん、悪どいのはイーンボウちゃんのツラだけで十分なんじゃよ?」「ククク…陛下?」 「政治家ちゅうのも成果や存在感が欲しいんじゃろ、魔族との和平の実現も国の願いに違いない」 「それは分かるが非道ムーブまでせんでええんじゃよ、身の丈以上の結果を急に出そうとせんでええ」 「ただ国のことを考えるのと一緒に、人のことも考えとってくれ」 「それさえ前提においてくれとったら、むやみに立場を奪ったりまではせんよ、追い詰めた臣下が暴走とか嫌じゃし」 「あと人手は多い方がわしがめんどくさいことマルナゲする先が増えるし」「ククク…それ言わずに終わっとけば大物ムーブだったんじゃないですかね…」 緊迫したコシーの顔に若干安堵が戻る、ひとまずこれでまた議題に戻れるだろう。 「ちゅうても行き場のない大量の難民なんて、少しずつ土地に根付いてもらうしかないじゃろ、絶対あれこれ起こるんじゃろけど」 「今このサカエトル城は老朽化が進んどるじゃろ?改築の話も出とる、わしに新しい城の案があるんじゃよ」 「それには人員が多く要る、技術者もおったらありがたい…こんな感じでちょっとずつ、定着化を試していくしかなくない?」 「わしだけじゃこんくらいしか思いつかん、みんな頼むんじゃよ」 イーンボウは多少の驚きを以て、話を聞いていた。 コシーの非道案後の空気を変えるために話を振ったが、本当に雇用拡大からのアプローチを考えているとは。 (陛下のサカエトル城改築案…?)というところに一抹の不安を感じはしたが、方向性としては概ね見解が一致する。 「そうですな…各自の分野で受け入れ体制からその後の自立まで立案し、進めていくのが基本でしょう」 「まずは衣食住からですが、専門家も呼ばねばなりますまい、ククク…私の方でも進めておきます」 かくしてこの日の会議は終わり、諸問題を抱えながらウァリトヒロイはまた次の日を迎えていく。 そして現在── 王都大臣イーンボウは、魔導変形機構を起動し超巨大MS(モビルサカエトル)と化したサカエトル城「サカエトロイ」の前にいた。点検中のようだ。 「イーンボウ大臣、ドウ?ボクノ変形しーくえんす、バッチリ安定、しすてむおーるぐりーん」 「ククク…うん…そうだね…」 イーンボウは顔を覆った。 「ボクノびーむ砲ノ多ク、かんらーくノ光魔法術式、組ミ込マレテル」 「魔電子りふれくたーハ、聖都ノ結界術モ使ッテル、ボク…高性能!ミンナ守レル!」 「ククク…うん…そうだね…」 イーンボウは頭を抱えた。 「旅ノ清浄ナル世界ノタメニ!」「それはやめろ!!」