そこは、どこかに存在したかもしれない あるいは存在しなかったかもしれない 数多の”可能性”の時空のひとつ ここで語られるのは そんな“可能性”の時空の片隅に ひっそりと埋もれていた、ちいさな記憶… これは榊遊矢が舞網チャンピオンシップへの出場資格を得る為に方中ミエルとの決闘方中ミエル 終えた直後の出来事─── ────LDS社内 モニタールーム 瑠璃「……」 リン「瑠璃…大丈夫?顔色がすごく悪いわよ」 瑠璃「…ええ、大丈夫よ。体調は問題ないの……でも─────」 セレナ「…例の襲撃犯の事か?」 瑠璃「──────!」 セレナ「…どうやら図星だな」 瑠璃「…どうしても信じられないの。襲撃犯がわたしの兄さんかもしれないなんて…」 ひかる「で、でもまだそうと決まったワケじゃないっす!もしかしたら別人かもしれないじゃないす か!」 らんか「いや…この次元ではあり得ないエネルギーを発するエクシーズ使いでさらに瑠璃を探し てる…ほぼクロでしょ」 ひかる「うぅ…ゆ、結菜さん…」 結菜「…黒咲さんには気の毒だけれど、今までの証言と合致する箇所が出ている時点でその認 識で臨まざるを得ないわねぇ…」 瑠璃「……ッ」 樹里「どっちにしろとっ捕まえりゃ簡単な話だろ…つーかそれより!なんで樹里サマが相手しちゃ ダメなんだよ姉さん!こういう時のための樹里サマたちじゃねーのかよ!?」 結菜「落ち着きなさぁい…襲撃犯はLDSの講師やトップチームのエースを退けられる程の実力を 持っている。こちらとしても簡単に組み伏せられる様な相手ではないわぁ」 樹里「へッ、そんくれーのヤツだからこそ腕が鳴るってもんだ。樹里サマの炎をぶつける相手に もってこいじゃねーか!」 さくや「ちょっ、樹里!?黒咲さんの前だよ!」 樹里「あ?それがなんだよ?」 さくや「だーかーらー!襲撃犯の正体が黒咲さんのお兄さんかもしれないのに物騒な事言わない でよ!」 樹里「あぁ!?別にガチで燃やすつもりはこれっぽっちもねぇぞ!ただの言葉のアヤみたいなも んだろーが」 ひかる「イヤ絶対丸焦げにするやつっす!だって次女さん火加減出来るワケないんすもん!器 用とか冷静って言葉が辞書に載ってないような人間なんすもん!」 樹里「んだと馬ァ!てめぇそりゃどういう意味だコラァ!?」 ひかる「え、マジで知らないんすか!?」 樹里「そういう意味じゃねーっつーの!」 結菜「……頭が痛くなってきたわぁ」 らんか「あーもーうっさい!それより襲撃犯でしょ!」 赤馬「─────来たな」 赤馬がポツリと呟いたと同時に、モニターへと視線を向ける一同。 そこには…… 瑠璃「─────兄さん!」 襲撃者─────黒咲隼の姿があった。 そうして襲撃者である黒咲とそれを迎え撃つ北斗・真澄・刃達の決闘が始まった。 LDS3人組の連携により黒咲は徐々に追い詰められ、絶対絶命の局面を迎えていた。 黒咲『……やはり貴様らのデュエルには鉄の意志も鋼の強さも感じられない!』 刃『んだとォ!?』 北斗『崖っぷちまで追い込まれていながらよく言うよ!』 黒咲『そう、俺達はまさに絶対絶命の崖っぷちに追い込まれている……』 刃『俺達だぁ?』 北斗『なぁ〜に言ってんの?コイツ』 黒咲『だが────そこから必ず立ち上がる!そして最後には敵を圧倒し殲滅する!俺の タァァァァン!!』 セレナ「あの男、なんて凄まじい気迫だ……」 黒咲『俺は魔法カード逆境の宝札を発動!相手フィールド上に特殊召喚されたモンスターが存在 し自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、デッキからカードを2枚ドロー出来る!』手札 0→2 黒咲『さらに俺は魔法カードディメンション・エクシーズを発動!ライフが1000以下で場・手札・墓 地のいずれかに同名カードが揃っている時それを素材にエクシーズ召喚する!俺は墓地のバニ シング・レイニアス3体でオーバーレイ!』手札2→1 さくや「ぼ、墓地のモンスターを素材にエクシーズ!?」 ひかる「なんすかそのイカれた効果!」 黒咲『雌伏のハヤブサよ。逆境の中で研ぎ澄まされし爪を挙げ、反逆の翼翻せ!エクシーズ召 喚!現れろ!ランク4!RR-ライズ・ファルコン!』 北斗『…って、攻撃力100?』 刃『なにが殲滅だ!そんな攻撃力で俺達を倒せるハズねえじゃねぇか!』 結菜(…いや、この多勢に無勢の状況でたかだか攻撃力100のモンスターを出すとは思えない。 何かカラクリがあるハズ…) 黒咲『貴様らを葬るのは場に伏せてある2枚のカードだけで容易い。だが、そんなものでは生温 い!この手札のカードを全て使い貴様らの身に刻み込んでやる!過酷な戦場を生き残ってきた 俺の力を!我らの故郷を踏み躙った仇敵への怒りを!!』 真澄『なんですって…!』 刃『ハン、どうせただのハッタリだろ!』 北斗『つーか意味わかんないコト言ってんじゃないよ!』 黒咲『俺はライズ・ファルコンを対象に魔法カードエクシーズの宝札を発動!対象のエクシーズモ ンスターのランクの数だけデッキからドローする!ライズ・ファルコンのランクは4!よって4枚ド ロー!』手札0→4 リン「一気に4枚も手札が増えた!」 黒咲『俺は装備魔法進化する人類をライズ・ファルコンに装備!自身のライフが相手より少ない 場合、 装備モンスターの元々の攻撃力は2400になる!』手札4→3 ATK100→2400 セレナ「だが、これでもまだ届かないぞ…」 黒咲『さらに俺は装備魔法巨大化をXX-セイバー ガトムズに装備!自身のライフが相手より少 ない場合、装備モンスターの元々の攻撃力は倍になる!』手札3→2 ATK3100→6200 刃『なっ!?』 黒咲『俺はガトムズを対象に罠カード肥大化を発動!そのモンスターの攻撃力と守備力は倍にな り、直接攻撃出来なくなる!』ATK6200→12400 DEF2600→5200 樹里「オイオイ、ガトムズの攻撃力が1万超えたじゃねぇか!」 らんか「一体何考えてんのよ…?」 黒咲『さらに手札の装備魔法エクシーズ・ユニットを2枚発動しライズ・ファルコンに装備!装備モ ンスターの攻撃力はそのランクの数×200ポイントアップする!』手札2→0 ATK2400→4000 ひかる「攻撃力が4000までアップしたっすけど、これでどうやって対抗するんすか…?」 瑠璃「……出来るわ」 ひかる「え?」 瑠璃「ライズ・ファルコンならここから逆転出来る…!」 黒咲『俺は最後の伏せカードジャンク・アタックを発動しライズ・ファルコンに装備!装備モンス ターが戦闘でモンスターを破壊し墓地へ送った時、破壊したモンスターの攻撃力の半分のダメー ジを相手に与える!』 赤馬「……どうやらお膳立ては完了したようだな」 黒咲『ガトムズを対象にライズ・ファルコンの効果発動!オーバーレイ・ユニットを1つ取り除き相 手モンスター1体の攻撃力を自らの攻撃力に加える!』ATK4000→16400 北斗『い…16400!?』 真澄『そんな…!』 刃『マジかよ…!?』 黒咲『───バトルだ!RR-ライズ・ファルコン!全ての敵を引き裂け!ブレイブクロー・レボリュー ション!!』 『『『ぐああああああっ!!』』』 北斗 LP4000→0 真澄 LP4000→0 刃 LP4000→0 さくや「す、すごい……」 リン「たった1ターンで3人をワンキルするなんて……」 セレナ「これが、エクシーズ次元の決闘者の実力……!」 ひかる「こ…攻撃力1万超えってほとんど見たことないっす…」 結菜「……おそらくだけど、あの莫大な攻撃力はこちらへの見せしめも含まれているわねぇ」 ひかる「えっ、どういうことなんすか結菜さん?」 結菜「本人の宣言通り、襲撃犯は伏せていた2枚のカード…肥大化とジャンク・アタックを使うだけ で勝てていた。でも、それだけでは済まさず火力を上げていく戦術を見せていった…ねぇ、黒咲さ ん」 瑠璃「え…?」 結菜「妹のあなたなら知ってるでしょぅ?普段の彼ならあんな過激なプレイングはしない…違うか しら?」 瑠璃「…その通りよ。エクシーズ次元でも兄さんはライズ・ファルコンと魔法罠を組み合わせた戦 術で相手の協力なモンスターを打ち破ってた。でも、あそこまで相手を過剰に痛め付ける様な事 はしなかったわ…!」 さくや「じゃ、じゃあやっぱり…」 結菜「ええ…今の彼はあらゆる敵を滅ぼさんとせん獰猛な隼。近付こうとする者がいるならば一 人残らず肉片に変えてやると言う宣戦布告ねぇ…そう受け取れるくらいとてつもない執念と怒りを 感じたわぁ…」 セレナ(……ッ!執念と怒り…やはり、アカデミアへの────) 瑠璃「─────っ!」 リン「ちょっと、瑠璃!?」 瑠璃は兄である黒咲の変貌に耐えきれずモニタールームの外へと飛び出してゆく。 そんな瑠璃の後を追うようにリンも飛び出していった。 さくや「結菜…」 結菜「…ここはリンさんに任せましょう。下手に複数で構うよりかは彼女が傍にいる方が黒咲さん も安心出来ると思うわ」 ひかる「で、でも…」 結菜「…今の黒咲さんには整理する時間が必要なのよぉ。身内であるからこそ、ね…」 赤馬「…黒咲瑠璃のケアについては考慮しなければならない事ではあるが、現在最優先すべき 事は目の前の事件への対処だ。中島、車の用意をしろ。彼のもとへ向かうぞ」 中島「はっ!準備はすでに完了しております!」 樹里「お、とうとう樹里サマたちの出番だな!?ニヒッ、アイツの決闘見てからウズウズしっぱなし で仕方ねぇ!暴れまくってやるぜ!」 赤馬「いや…キミ達プロミストブラッドはこのまま待機だ」 樹里「な!?テメー、ここで肩透かしとかフザけんじゃねぇぞオイ!」 赤馬「ふざけてなどいない。そもそも我々の目的はアカデミアへと対抗する為の戦力のスカウトで あり敵対行動ではない。今の状態の彼をこれ以上刺激させる様な真似を避けるのは当然だろう」 樹里「ケッ、んな簡単にあっちが乗ると思うか!?」 赤馬「そうさせるのが私の仕事だ」 結菜「…樹里、赤馬くんの言う通りよ」 樹里「チッ…」 赤馬「紅晴結菜。万が一の事態に備え不在の笠音アオとリコリス達にもコンタクトを頼む」 結菜「了解したわぁ」 赤馬「さあ、ヘッドハンティングの時間だ」 モニタールームから飛び出して行った瑠璃を追うリンは、息を切らしながら彼女の姿を探してい た。 そうして数分ののち、少し離れた通路で膝を抱え座り込む瑠璃を見つけたリンは安堵の表情で彼 女の傍へと向かってゆく。 「───瑠璃!よかった、ここにいたのね…」 「リン…」 「みんなのところには…流石に今は難しいか」 「……ごめんなさい」 「いいわよ。落ち着くまでここでゆっくりしましょ」 「ありがとう…」 やがて瑠璃はポツポツと兄について語り出す。 「……わたしの知っている兄さんは、厳しいところや少し過保護なところもあったけど穏やかな人 だったの。デュエルだってあんな風に誰かを傷付けるプレイングはしなかった」 「でも……アカデミアがエクシーズ次元に侵略してきてから兄さんは少しずつ変化していったわ。 敵を倒すために性格もデュエルもどんどん苛烈になって…以前の様な温かみは消えていった」 「……っ」 「リン…わたしは今の兄さんが怖い…!」 「えっ……!?」 「わたしがアカデミアに攫われてから兄さんはこのスタンダードに住む無関係な人達を襲うまで残 酷になってしまったわ…!」 「一緒に行動してるユートだってそう…もし兄さんと同じ様になってたらわたしはどうすれば…」 「大好きな人たちがこれ以上恐ろしくなっていく姿を見たくない……!」 「わたしが好きな2人は、笑顔の2人なのに…っ」 「瑠璃……」 嗚咽を漏らしながらリンへと縋り付く瑠璃。 そんな彼女たちを物陰から見守る一人の少女の姿がそこにはあった。 「…………」 「……盗み聞きとかシュミ悪いんじゃない?セレナ」 「────!らんか……何故ここに?」 「いつの間にか姿見えなくなってるからそりゃ探すわよ。まぁ、どこ行ってるかは大体察しはつい てたけど」 「…そうか。世話をかけたな…」 「護衛してる時点で世話かかりっぱなしだっつーの」 「……」 「……何考えてんのかは知らないけどさ。今あの2人に何か話すつもりならやめときな」 「……ッ」 「アンタが言えるコトはなんもないよ。特に瑠璃には」 「…だが、我々アカデミアにより瑠璃や瑠璃の兄もあんな目に……」 「…あれはアンタの組織がやった事でアンタ自体がやったワケじゃないじゃん。アンタは幽閉され ててハンティングゲームなんて知らなかったんだし」 「違う!そんな事は被害にあった者達からすれば 関係ない!同じ組織に属す人間である時点で変わらないのだ!」 「……!」 「……それに私は信じていた。アカデミアは世界をひとつにする崇高な理想を持ち他次元の決闘 者達と戦っていると。ハンティングゲームと称してカード化している他の生徒も同じだ。その理想 が正しいと疑っていない」 「…………」 「例え善意であろうとも、知らなかったとしても理不尽に巻き込まれた者達に対しては免罪符には ならない……あちらからすればどちらも残虐な悪魔にしか見えないのだから」 「……それ、は」 「……急に怒鳴ってすまない、らんか。モニタールームに戻ろう」 (────もしアタシがエクシーズ次元の人達の立場なら…理不尽な目に合わせたヤツらは絶対に 許せない。同じ様な目に合わせてやると思う) (でも、いくら復讐の為だと言っても瑠璃の兄貴の様に無関係な人間を巻き込んでもいいワケじゃ ない……) (そしていくら憎い相手の仲間だとしてもセレナの様に何も知らない人間がいたとしたら…?ソイ ツが自らの罪を認めて謝ってきたりしたら…?) ────アタシは、どうするんだろう……?