﻿崩壊:2


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天沼矛突入作戦開始からどれほど経っただろう


「ゲオ爺、カンニンやで……」


混線した無線が拾った上司の最期。せめて彼女だけは全てが終わってしまう前に間に合ってくれと止めていた足を突き動かし、最下層へ向かう長い通路をひた走る


FE社の最終実験
偽装解除と共にダークエリアを征く空中要塞【天沼矛】。地獄と呼ばれる赤いデータ嵐に沈む果ての大地『ポイント』に封印されし存在への接触が間近に迫る。それをFEと通ずるデジモンイレイザーの手に渡らせるわけにはいかない
BVやその動きに連なる者たちはFE社の戦闘部隊と現実世界・ダークエリアの双方で交戦、同時に副社長ら反社長派のクーデターが起こり混沌とする戦場


「クオンちゃん！良かった間に合った……」


そんな中、朧巻タツミは願いが叶うのを前にして今まで見たことのない悲しみに暮れた別れの挨拶をよこした社長へ真意を問わねばならぬと、鉄塚クロウ・秋月影太郎ら殴り込み特攻隊に見送られ辿り着いた天沼矛最下層最重要ブロック【天岩戸】
無数の管に繋がれたシリンダーあるいは鉄と強化ガラスで組み上げられた試験管。【棺】の明かりに照らされ浮かび上がる輪郭へ叫ぶ
門は開け放たれたまま自身を出迎え、最奥に見た彼女が振り返った途端、彼女は虚ろに膝を降り崩れてしまう
「どないしたクオンちゃん！？」
「貴方は……───"誰"？」


動揺が判断を鈍らせた


「『───"アストラルスナッチャー"』」
「…が…は……っ───！？」
次の瞬間、歪な"巨腕"───捻れもたげた"木の義手"がタツミの胴を撃ち貫いていた
「『随分と早く鼠どもが紛れ込んだようだ。しかしここに最初に辿り着くのがまさか貴様とはな朧巻タツミ……クオンの忠告を飲みさえすれば、新たな世界に根を下ろすこともできただろうに』」
影に沈む中に濁った紅眼を鈍く瞬かせて、氷のように見据えゆっくり立ち上がる彼女から投げかけられた言葉に混じる"異物"
同時に彼女に掌握された己の内側から軋み壊れようとする致命的な何か
「…！！」
オボロモンの刃が腕を弾き引き剥がし難を逃れる。大破した肉体から赤黒いテクスチャを散らしながら突っ伏す此方を見下すようクロスローダーを掲げ、
「『リロード』」
操機が合図を受け、傍に力無く倒れるクオンの背を支えるように隣り合った巨躯
這い出る存在、クオンに混じった何かが静かに嗤う


「誰やオマエ……」
「『───我が名は【バグラモン】、ジェネラル【クオン・I・比良坂】の真のパートナーデジモンである』」
「クオンちゃんの中になんでデジモンがおんねん……悪趣味なやっちゃな」
「長い間、我は彼女の内に潜みFEを利用し目的のために共に歩んできた。デジクロスにはこういう使い方もある……だが貴様にも見えるだろう、もはや貴様の事すら解らぬほどに衰弱しきったクオン本来の姿を。彼女に残された時間はもう無い」
「コレが……本来のクオンちゃんやて？」
昨日の夜まで言葉を交わしていたはずの淑女
だが今目の前に彼女な虚ろな目で力無く蹲り、こちらの会話にも反応を示さずかすかな呼吸に揺れるだけの……まるで生ける屍、あるいは廃人の様相ではないか


「我はこの義眼にあらゆるモノの魂を捉える事ができる。故に解る……もはやクオンの魂と肉体は限界なのだ。その前に新たな理へと世界を導く───今日ここでホウライオブジェクトを掌握し、我々は悲願を成就させる。そのために我々は【彼】を甦らせ、クオンは悲願を成し」




───彼女の死と共に【新世界は完成】する




「死……クオンちゃんが死ぬ…………何言うてんねん何のための研究とホウライオブジェクトや、不老不死なんやろ。それがあればクオンちゃんの想い人は蘇って、仮に限界のクオンちゃんの体だって治って、それで愛する2人揃ってハッピーエンドなんやろ？」
現実世界で別れを告げたクオン、その顔が焼き付いたまま離れない
「なのになんでクオンちゃんは、あの時悲しそうに泣いとったんやおかしいやろ！」
「身体などではない。精神、心、意識───彼女の"魂の死"はもはや避けられぬ定め」
「魂…！？」
「そこに至ったのはクオンの深い罪と後悔……最愛の人間を自らの手で葬ってしまったことにある。それがこの"少年"だ」
棺の窓の奥。浮かぶ死体の顔を理解した瞬間、オボロモンの悲鳴がこだまし、伝播するように脳に激しい痛みと明滅が駆け抜け揺さぶられる


「少年……ッッ、なんや…！？」
「…ァ………」
「……ウチは、アイツを"知ってる"───いや、
オボロモン、流れ込んできたコレは"オマエの記憶"なんか…？」
「やはり……この義手で貴様らの魂に触れて確信した。"見覚え"があるだろうオボロモン、この少年がかつて貴様を友と呼んだ事をようやく思い出したか？」
「オボロモン、どないしたオボロモン…！」
「ァ……アァ……"ユウリ"！」
「奴の名は【伊名城優里】───かつて選ばれし子供となり、クオンと共に旅をし世界を救う役割を担う"はずだった"少年だ」
脳内に駆け巡る記憶の渦。モノクロと砂嵐に塗れた少年と一体のオボロモンが共に旅をした情景
───不意に少年の隣に"見覚えのある少女の笑顔"が映り込み理解した。これが自分が死してオボロモンの内に眠っていた頃、彼が見て触れてきた出来事なのだろう
遠い過去に死んだ己───タツミという人間にまた再会するために彷徨い続けた孤独のオボロモンに、手を差し伸べて友と呼ぶ少年
優しげな表情を浮かべる彼の言葉
だからこれから語られるであろうその先の真実を予感した時、とてつもない悪寒がした
「世界を救うはずだった…？」
「ヤツは仲間を裏切り敵に寝返ったのだ、自らの命惜しさと家族との再会を果たすためにな。敵の虚言に縋り"クオンを殺そうとした"」


───クオンを殺そうとした。この少年が？


「我が滅した下郎は全てを語った、伊名城優里は人間の世界で死に瀕した状態でDWへと魂のみが渡り、記憶をなくしたまま仮初の命を繋いだ存在だったと。現実世界で奴の再会したがった家族は既に死に絶え、世界の救済という役割を終えた瞬間自らも死に消えるのみ……奴はその絶望に耐えかね闇の誘惑に負けたのだ」
「……！」
「そして我らはその真実を知らぬまま、伊名城優里を敵共を倒し世界を救った。現実世界に帰ったクオンを待ち受けていたのは惨たらしい死体と回帰した伊名城優里の"真実の姿"。そして最期にクオンへヤツが残したのは───彼女への愛ではなく、仮初の希望すら奪われた喪失から生まれた呪詛に等しい"憎しみ"だった」
「……うそ、やろ」
「あの日知り得た全ての真実は、DWの救世と引き換えに彼女の心と魂を殺した。罪に苛まれ自ら命を断とうとするほどに絶望したのだ」
「なんやと…」
「例え我とデジクロスし、死に向かう肉体を食い止め、バラバラに砕けた心を繋ぎ彼女の意思を保ち続けようと彼女が安寧に救われる日は来なかった。クオンの魂と心は日に日に傷口から擦り切れ壊死していった。もはや我が多くを肩代わりせねば自我を保つのも限界なのだ」
その果てがバグラモンの精神介入と、補助無しでは自我をほとんど保てず壊れた人形のような彼女だというのか
そうなってでも彼女が伊名城優里に再会したがった理由とは何なのか


「彼女の願いこそ彼との再会と贖罪───かつて自らの死の運命を決定的にしたクオンを憎みながら死に絶え今日此処に蘇った伊名城優里に、復讐されること。それが彼女の望みであり救済だ」


「そしてクオンは古き世界で終わる事も同時に望んだ。だが彼女の作った新世界は続く。古き神の理を破壊し、新たな秩序と死に怯えることのない永遠なる世界。クオンは創造主として、そして死して新たな【神】となる彼女残す世界に寄り添う───それが私の役目。唯一この先クオンと共に在る事を望んだ我の望み」


「まもなく天沼矛はホウライオブジェクトの眠る地に到達する。その権能は伊名城優里を甦らせ、デジタルゲートを通り現実世界へと現るこの"神の矛"を地脈の最も集中する霊山へ突き立てたとき……瞬く間に世界の理を塗り替え、人類は新たな存在へと昇華されるのだ」


「そこで全てが塗り変わるのを見ているがいい。これは同じ女を愛した者への慈悲である」




「ふざけんなやぁぁっ！！」




「───さっきから御託並べよって……新世界にクオンちゃんが居らへんだの、クオンちゃんを殺させるためにそのボウズを甦らせるだの、果ては人身御供か即身仏みたいに言いおってアホ吐かせ……ウチらはそんな事のために利用されとったのか。皆の気持ち弄んだ言うんか！」
「そうだ。これが、これこそが古き世界の理から彼女を解放できなかった我がクオンに捧ぐことができる"愛"……故に我はクオンの描く新世界に渡りこの理不尽を強いた【古き神】を"断罪"せねばならない、それこそが我の"贖罪"だッ！！」
「そんな戯言がクオンちゃんの幸せや望んだ全てみたいに語んなや」
「……邪魔立てするならば貴様もまた新世界を前に"人類史最後の死"を享受するか、朧巻タツミ」








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「その程度か亡霊」
「まだや……カードスラッシュ！」
剣戟を解きディーアーク戦術インストール、得意とする連続コンボ
脚元から荊のように包囲する無尽の刃、延伸したオボロモンの刀腕が鞭のようにいななき四方八方より弧を描き殺到。バグラモン斬り刻む
「弱い」
その一切を片腕で児戯の如く振り払い、殴りつけ、引き摺り、力任せに叩きつける
「脆い」
薙ぎ払い、オボロモンの躯体が嵐に千切られた枯れ枝のように破片を散らし突っ伏す
「地力が違いすぎる…！？」
「愚か───小手先に頼ったところで貴様らごときが我と対等に渡り合うなどと、片腹痛いわ！」
「ガアァアア！」
「オボロモンしっかりせえ！」
奴は初めからこの勝負に拘りなどない。格下への児戯……あしらっているだけだ


「貴様の役割など生まれた時から既に終わってるでは無いか。いや、そもそも貴様は失敗作に過ぎぬ……クオンの温情で生かされただけのガラクタが我に愛を説こうというか。思い上がりも甚だしいぞ！」
「じゃかあしい、お前自分が何しようとしてるか本気で解っとんのか……こんな末路がクオンちゃんに対する仕打ち言うなら、許さへんぞ！」


もはや手段を選ぶ時間はない
朧巻タツミという人間の魂はオボロモンというデジモンの怨霊を取り込み力とする特異体質によって繋ぎ止められている。しかし一体進化したその時に己の魂を維持しうる力は失われ、この世から霧散する
自己の崩壊と死
それらを招くことになろうとも、"最強の姿"にならねばこの堕天使は止められない
名残惜しむ一瞬の迷いの感情。影太郎との決着、そして向こうに眠るクオンへの不安を脳裏から噛み潰し……




MATRIX
EVOLUTION_


「マトリックス・エボリューション───【ザンバモン】ッッ！！」




「愚かな！」
加速するバグラモンとザンバモンの激突
究極体の攻撃に耐えうるように設計された天沼矛メインシャフトと同等の構造体を所狭しに疾駆し、揺るがさんばかりに猛撃のザンバモン
されど嘲笑を浮かべるバグラモン
「その姿となるとは貴様も死を覚悟したな朧巻タツミ！見えるぞ、泡沫の如く千切れ腐り落ちてゆく貴様の魂の輪郭───やはり"その姿では主人の魂を現世に繋ぎ止める事が難しいようだなオボロモン」
「グ、オオオ…！？」
「その痛みだ。苦しみだ。クオンはその渦中に滅びを迎えようとしている！もはや誰にも止められぬ───何故彼女であらねばならぬのだ！！」
バグラモンに怒りが灯る。非にならぬ猛撃、両の刀で払い捌き切れぬほどの暴撃


「彼女の優しさは我に光をくれた。
クオンの愛は我の世界を変えてくれた。
……だが世界は彼女の運命を・人生を弄び否定し続けた！
私は憎む…摂理を、因果を、運命を。クオンの心を傷つけたこの世界を！
ならば古き神を否定し私が創る、新世界の創造神となった彼女へ私が与える。
永遠の世界を！
永遠の愛を！
遠き場所で見守るクオンが二度と悲しまぬよう！
例えその先に我の居場所が無くとも…！」


爪拳が突き刺さる。血反吐を吐き腐り落ちるようにザンバモンが壊れてゆく
着実に死に迫りゆく身体を引きずり、それでもにじり立ち上がるのは目の前の歪んだ正義を認められぬ意地を叫ぶ


「そっちこそ……思いあがんなや堕天使風情が。オマエを救ったクオンちゃんがどんなに聖母みたいなオンナやったとしても、有象無象に崇拝される神様になりたいなんてちっとも望んどらんやろ」
「……ッ」
「ウチが知ってる気がするクオンちゃんによう似た子もおんなじや……あの子たちはただ、ただ愛する人と一緒にいたかっただけなんや」
ジャスティナ、ルーナ、バグラモンお前も、そして自身も……クオンはこんなに愛してくれる人に囲まれていた
それでも自分たちは結局初めからクオンを何も護れていなかった。心を救うこともできんかった……それだけの情けない存在だ
「オマエが思い出させた記憶、クオンちゃんは笑っとった。そのボウズの隣で確かに幸せやった。
そして死んだウチにまた会うため孤独に旅を続けたウチのパートナー、オボロモンに手を差し伸べてくれたんがそのボウズや。───『友達になろう、ウチにまた逢う方法を一緒に探そう』言うて、めっちゃ優しい子やんけ。ありゃどうみても嘘やあらへん……オボロモンとウチの《心》がそう叫んどる」


「そんな子に、クオンちゃんの大事なヒトにまたくだらん殺し合いさせるんかおどれは。性懲りも無くまた2人をくだらん理由で引き裂くんか！」


「オマエの理想は多くの人々を死の悲しみと恐怖から掬い上げるのかもしれん。
だがオマエは、クオンちゃんの手をどうしようもないほどに血で汚しながら追い求めることを選びおった！」


「神を否定したいなら独りで戦って死ね。ニンゲン様の生き死にを何とも思わず道具にしてきたお前が、手前の都合でニンゲンを神と祭り上げてその世界を見守る？
オマエはクオンちゃんの親どもと同じクソ野郎や。自分の主人の願いを、一番側にいながら最後に手前勝手の理想にすり替えることしかできんかった愚か者やボケァァァ！！」


「アストラルスナッチャーッ！」
「十文字斬りィイイ！！」












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「───ハァ…ハァ……ッ、がはぁ……この我に、刃を……突き立てるだと、ぐ、ヌオオオオ！！」
「「……」」


胴を深々突き立ったザンバモンの重ね刃を無理矢理引き抜いた激痛に膝を降り悶絶する堕天使
だがザンバモンもまたカウンターに両腕と胸を深々と殴り潰され、進化を維持できなくなったままノイズに霧散しゆく無腕のガラクタが2つ転がっていた
「だが我の勝ちだ……フフ、始まるぞ。ホウライオブジェクトの目覚めの時だ」


天沼矛が赤いデータストーム渦巻く闇の最果ての地に静止する
システムが起動・変形した天岩戸内の全壁が透過されたことで鮮明に現る情景
切先より禍々しい光が水面を裂き、奈落を焼き貫き、その奥に眠る封印を破る
───深淵の彼方より古の天使が舞う
その傍らに、脈動する5色の光玉を揺蕩わせる白き遺物が顕現した
「……あれこそが、古代の天使と共に眠るホウライオブジェクト！」
天岩戸が捉えたエネルギーを吸い上げ棺が蠢く
やがて想定外の力の脈動に破裂し突き破るように吐き出され、もがく人影と1匹のデジモン


「……クオン、ちゃん。行ったらアカン……いくな」


もはやクオンに声は届かない


「ユウ、くん……？」


ただ朧げな自我を奮い立たせ、消え入りそうなほどに優しくその名を呼び、濁り揺れる眼を喜びと後悔に濡らした彼女は覚醒した少年を見つめ……壊れた笑顔で出迎えた








　　　




















───それは過去の記憶
現実世界に帰還後死んだはずの優里が目覚めると見知らぬ場所に転がっていた
そこにはクオンの旅の敵の側近【バアルモン】がおり、死したはずの自分たちはバグラモンの能力のせいで剥離した魂の一部だと知る
そこはダークエリアで常に赤い嵐が止まない死の大地

「2つ───"キミ"にとって良いニュースと"ボク"にとって良いニュースがあるんだ」

一つはバアルモンが己の権能にて知り得た未来にて優里は蘇ることができること。自らを殺す原因となったクオンが蘇生技術を研究し、やがてこの地に眠る遺物の力で優里らは蘇るという予言
そして彼にとっての良いこと、それは蘇生が為されるまでの20年…それまで旅の敵として散々邪魔してきたうえ、せっかく裏切らせて仲間にしたのにバグラモンを止められなかったムカつく優里をいたぶり、クオンとバグラモンに復讐するための『種』として育てる時間がたっぷりあること
「キミはあのクオンってコを恨んでるんだろう？悔しいよねェ…せっかく生き残れるカモしれなかったのに、呆気なく負けちゃってサァ」
優里が死に際にクオンを憎んだことを知り、このままいけば再会と同時に優里は復讐もできるだろう。だがそれだけではつまらないのだ───未来の再会を最も残虐に彩るため、さらなる怨嗟を募らせるため、デジモンは彼等の眼科に広がる赤い嵐の渦へ優里のガブモンを赤い嵐に放り込まんとつまみ上げる
「この子も可哀想にね、役立たずな君を守るためにバグラモンに抜き取られた魂を握りつぶされてサ…お人形みたいにダンマリ可愛くなっちゃったケド───どんな声で鳴くのかな…！」
「やめろぉーーっ！」
永遠に死ぬことなく苦しみ続けるガブモンの悲鳴が優里の耳を劈き、歓喜するバアルモン
やがてその手で今度は優里の手脚も捕まれ徐々に断崖へ……風が迫り、失われたはずの肉体の痛みと似たデータ崩壊の感触が彼のトラウマをほじくり返し恐怖する優里を抱きしめデジモンは笑いながら告げる、再誕の日までこの地獄を共にたっぷり楽しもうと
そう言いながら彼らもまた赤い嵐へ消えていったのだ


記憶をなくしていた自分が、DWに来る直前に死にかけていたと知ったから。家族は同じ事故ですでに死んでいたと知ったから。これから産まれ来るはずの妹すら顔を合わせる間もなく奪われたのだから……冒険の終わりに訪れる死と苦痛の恐怖と孤独に耐えられなかった
一抹の未来が欲しかっただけだった。たとえそれが敵の手で示された嘘偽りだったとしても賭けるしかなかった…死にたくない、独りぼっちで死にたくない
苦しくてつらい、痛い
痛い痛い痛い痛い痛い───痛みが止まない


死の実感を忘れることすら許されぬ赤い奔流の中でガブモンは何度も繰り返す、守れなかった優里への贖罪と、自らを倒し優里の冒険を終わらせたバグラモンへの怨嗟










───それらが芽吹く時は訪れた










「クオン……」
「ユウくん……ユウくん……」
「バグラモン……」
「ふっ貴様の望みはわかっているぞ──それこそ彼女がこの20年の再会に待ち望んだ願いだ。やれ……伊名城優里。そして我自らに貴様を裁き、今度こそ安寧の眠りをくれてやろうではないか」
「安寧の眠り？……ははは、ぼくは……ボクはずっと、赤い地獄の底に……」
嗤いかけるバグラモンを認識したとき、滅びゆく己の末路が、心と身体の全てを焼き尽くす苦痛が感情を真っ黒く染めあげる
───20年もの死の輪廻の果てに培った優里の憎しみが実感を持って爆ぜた




「お前の、お前たちのせいで…………ぁ、あぁあ………あ゛ぁあああああああああああバグラモンッッ！！！」 




「お前も、お前の大切なものを失えぇえええええええええええええええええええええええええっっ！！！！！！」




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崩壊:3→

