俺は呆気なく、誓った目標も達成できずくたばるんじゃないか。 実のところ、そんな思考が頭の奥底で根を張っていた。 迫る死の恐怖から逃げるために、付きまとう寿命の二文字を振り払うために、俺は時間をかけて『追跡者』の兜を繕い、被った。 ニヒルな風来坊だが、話してみれば気のいい男。死を恐れながらも、その超克に邁進する傑物。 それを必死に、必死に演じた。 暗示をかけて、必ずやり遂げることができると己に信じこませた。 幾つもブラフを重ねて、『エヴィ』を『追跡者』で塗り固めた。 その果てにいつの間にか|こんなところ《赤い鴉》にまで来てしまったなと、今になっては思うが。 ……お前としっかり話したのはそんな『追跡者』が馴染んできた頃だった。 自分を欺き騙るのに精一杯だった俺にしては珍しく、以前から知ってはいたんだ。 “|蒐集家《コレクター》”のグラスランナー。 琴線の分からない強欲な趣味人。 そして、この組織じゃ珍しくもない自分を顧みない人族。 抱いたのは概ねそんな印象だった。 俺は自己紹介の代わりに“|追跡者《チェイサー》”の由来を説明する。 反応は決まっていた。 誰も彼もが奇異の眼を向けるか、できるわけがないと口を揃える。 親切なプリーストたちは【リィンカーネーション】かけてあげると言ってくれたが、俺には諦めろと暗に伝えられた気がしていた。 知っている。分かっている。 荒唐無稽でありもしないものを求めているだなんて、誰より理解している。 お前もどうせ、そう言うのだろう? できやしないと、馬鹿げた話と。 誰も俺を肯定しない。信じない。 家族ですら押さなかった俺の背中が触れられることなどないと。 そう信じて疑っていなかった俺に、彼女は言った。 『死ぬことがないなら今のうちに何か貰っておこうかな』 思わず聞き返した。 俺がそう時間もかからず死ぬとは思わないのかと。 エイドは首を傾げる。なにを不思議なことをと言いたげに。 『君が"死なない"と言うのならそうなんだろう?』 『じゃあその後の事を語ってもせんのないことじゃないかな』 視界が滲み、俺は顔を逸らした。 その日ほど兜を被っていて良かったと思った時はなかったし、これからもないだろう。 何でもないように。さも当然のように。 俺ですら無意識のうちに諦め、狂気の中へと逃避するしかなかったのに。 漏れ出そうになる嗚咽を堪え、吐いてしまいそうだった情けない言葉を飲み込んだ。 死にたくなかった。 まだ生きていたかった。 けれど、それを誰にも認められなかった。 お前だけだ。虚飾のない言葉で、憐れみの籠らない眼で、諦観を欠片も含まず、俺を信じてくれたのは。 思えば、そうだな。 『追跡者』はその時に、お前にごっそり奪われて、|蒐集《コレクト》されてしまったのかもしれない。