正直なところ、いつ死んでもいいなと思っていた。 今にして思えば、だけどね。 "蒐集家"。その僕の呼び名の由来たる蒐集癖は、実のところ僕の死に対する価値観から来ている。 死ねば何も残らない。 才能も、知識も、記憶も。すべては失われて消えていく。 残るのは、持っていた宝と死体だけ。 そして、グラスランナーの僕には何もない。 かろうじて残るのは骨くらいのものだろう。 ティエンスやフロウライトのような宝石も、リルドラケンのような鱗も、ナイトメアのような角も、リカントのような牙も。 僕の身体には、何の綺麗さも詰まっちゃいない。 だからこそ、僕は他を求めた。 死んだ時何かを残せるように。 死後失われる僕のすべては無価値だ。だから、失われない何かを得たかった。 だけど。 そのうち、"もういいんじゃないか"、って思うようになっていた。 今なら、死んでも何かは残る。何も残らないのが嫌というだけなら、もうとっくのとうに用は済んでいる。 そう理解してなお、僕は蒐集を続けていた。 ただ、惰性で。死んでいない、というだけで。 だから、 「何も為せずに死ぬのが嫌でね。延命の術を追い求めている」 「この生を続けられる余地があるなら、まだまだ足掻きたいんだよ。俺は」 ――彼のその言葉は、記憶に鮮烈に残っている。 ハイマン。かつて人の傲慢が生んだ、造られた種の一つ。 その深き叡智の代償として、三十年という短い時しか生きられない種。 彼は、それを覆すと言った。 後から冷静に考えれば、荒唐無稽のことに違いない。 天が定めた宿命に逆らうというのは、天に弓引くに等しい愚行だから。 ――だけど。ああ、だけど。 その時の僕には、そうは思えなかった。 だって、それが……その声音に含まれた、眩しいまでの強欲が。 死にたくないと思えるのが。生きねばならないと信じれるのが。 きっと僕は、ひどく羨ましかったから。 疑う余地もなく、腑に落ちていた。 だから、彼から何かを欲しがった。 死ぬことがないのなら、今にでも。そう思った。 ――君が"死なない"と言うのなら、そうなんだろう? ――じゃあ、その後の事を語っても。せんのないことじゃないかな そう告げると、彼は不意に顔を逸らして。 しっかりと顔を覆い隠した兜の、アイスリットの隙間から。ほんの一瞬、僕の視点からだけ。 君の瞳が見えたんだ。 不死を追う、狂気を帯びた瞳……それを涙に滲ませて、底から湧き出る安堵を彩って。言葉にするとほつれていきそうな想いが散乱して、いくつも瞬いて。 その色彩は、僕の人生の中で見た何より綺麗で。 僕は君が、たまらなく欲しくなったんだ。 ……その時からだよ。 僕が無意識に、君の姿を追うようになったのは。