###タイトル:プリズムは天上の蜜に濡れて (第一部) #パート1 扉の向こう側から聞こえてくる、鈴を転がすような笑い声。それは俺のよく知る、そしてここのところ少しだけ見失っていた、幼馴染の声だった。 白石ひなた。俺、佐伯奏と同じ年の春に生まれ、物心ついた頃にはいつも隣にいた女の子。太陽みたいな笑顔で笑う、少しだけおっとりした、けれど芯の強い、俺の大切な幼馴染。 彼女がアイドルを目指すと言い出した時、正直驚きはしたが、反対はしなかった。ひなたの輝きは、俺一人が知っているにはあまりにも眩しすぎたからだ。 そうして彼女は、三人組のアイドルグループ「Starlight Prism」の一員としてデビューした。 最初は小さなライブハウスから始まった活動だったが、グループの人気は瞬く間に上昇していった。特にここ一年ほどの勢いは異常とも言えるほどで、テレビの音楽番組で彼女たちの姿を見ない日はない。 ひなたは、黒瀬玲奈、橘瑠衣という二人の仲間と共に、ステージの上で輝いていた。だが、画面越しに見る彼女の笑顔には、昔の面影を残しながらも、どこか蠱惑的な、見る者を惹きつけてやまない妖しい光が宿っているように思えた。 そんな折だった。ネットの片隅で、俺は一つの噂を目にした。 「Starlight Prismが所属する芸能事務所『鳳凰プロダクション』は、スポンサーの製薬会社と組んで、所属タレントに違法な薬物を投与している」 最初はよくあるアイドルのゴシップだろうと、一笑に付そうとした。だが、噂は尾ひれをつけ、より具体的なディテールを伴って俺の目に飛び込んでくる。 人体実験。精神支配。薬物依存。 不穏な単語が、ひなたのあの妖しい輝きと結びついた時、俺の中で無視できない疑念が芽生えた。もし、あの輝きが薬によって作られたもので、ひなたが事務所の言いなりになっているのだとしたら。 居ても立ってもいられなくなった俺は、事務所のホームページを食い入るように見つめた。そして、一つの募集広告を見つけたのだ。 「Starlight Prism 担当マネージャー募集」 これしかない。危険な賭けであることは分かっていた。だが、ひなたを救うためなら、どんなリスクでも冒す覚悟はできていた。 そうして俺は今、鳳凰プロダクションの社長室の前に立っている。都心の一等地に聳え立つ、ガラス張りの瀟洒なビルの最上階。重厚なマホガニーの扉を前に、俺は一度、固く拳を握りしめた。 「佐伯奏です。本日はお時間をいただき、ありがとうございます」 通された社長室は、広大と言ってもいいほどの空間だった。床から天井まで続く窓の外には、東京の街並みがジオラマのように広がっている。部屋の中央に置かれた巨大なデスクの向こう側で、一人の女性が優雅に足を組んでいた。 「鳳翔子です。こちらへどうぞ」 彼女が、この事務所の社長。鳳翔子。 噂には聞いていたが、その若々しさは想像を絶していた。とても俺たちの親ほどの年齢とは思えない。艶やかな黒髪は光を弾き、陶器のように滑らかな肌には一点の曇りもない。だが、何よりも俺を圧倒したのは、その瞳の奥に宿る、底知れない生命力の輝きだった。まるで、熟した果実が放つ芳醇な香りのように、彼女の存在そのものが周囲の空気を支配している。 「どうぞ、お掛けになって。ハーブティーですわ」 勧められるままに革張りのソファに腰を下ろすと、目の前に透き通った琥珀色の液体が満たされたカップが置かれた。ふわりと、甘くもどこかスパイシーな香りが鼻腔をくすぐる。緊張で乾ききった喉を潤すため、俺は無意識にカップに口をつけた。ハーブの複雑な風味が、舌の上を滑っていく。 「さて、佐伯くん。履歴書は拝見しました。とても心のこもった、熱意の伝わる志望動機ね。ですが、なぜうちのような小さな事務所に?」 面接は、和やかな雰囲気で始まった。志望動機、マネージャーという仕事への熱意。俺は事前に準備してきた模範解答を、淀みなく口にした。翔子社長は時折、興味深そうに相槌を打ちながら、俺の話に耳を傾けている。その眼差しは、俺の魂の奥まで見透かしているかのようで、俺は背中に冷たい汗が流れるのを感じていた。 「……最後に、何か質問はありますか?」 一通りの質疑応答が終わり、ついにその時が来た。俺は一度深く息を吸い込み、覚悟を決めて口を開いた。 「はい。一つだけ、お伺いしたいことがあります。……実は、俺はStarlight Prismの白石ひなたと、幼馴染なんです」 その言葉を発した瞬間、翔子社長の纏う空気が微かに変わったのを、俺は肌で感じ取った。 「彼女がアイドルになって、遠い存在になってしまったのは嬉しい反面、少し寂しくもありました。ですが、最近の彼女を見ていると、少し心配になるんです。以前の彼女とは、どこか違うような気がして……」 俺は言葉を選びながら、核心に迫っていく。 「単刀直入にお伺いします。御社が、所属タレントに対して、スポンサーの製薬会社から提供された薬品を用いている、という噂は事実でしょうか」 室内に、沈黙が落ちる。窓の外を流れる雲の影が、社長の美しい顔に一瞬、翳りを落とした。やがて、彼女の紅い唇が、ゆっくりと弧を描いた。 「あら、そんな噂が流れているのね。……ええ、事実よ」 あまりにもあっさりと認められたことに、俺は息を呑んだ。翔子社長は優雅に立ち上がると、窓辺に歩み寄り、街を見下ろしながら言葉を続けた。 「でも、あなたが想像しているような、後ろ暗いものではないわ。あれは、彼女たちの魅力を最大限に引き出すための、特別なサプリメント。言うなれば、才能を開花させるための触媒のようなものよ」 彼女はくるりとこちらを振り返ると、妖艶な笑みを浮かべた。 「私自身も、常用しているの。だから、こうして若さと美しさを保っていられる」 そう言って、彼女は俺が先ほど口をつけたティーカップを、細くしなやかな指で、とん、と示した。 「あなたにも、ほんの少しだけ、おすそ分けしたわ」 その瞬間、全身の皮膚が粟立つような悪寒が走った。一服、盛られた。頭では理解しているのに、身体がついていかない。心臓が警鐘のように激しく脈打ち始め、全身の血液が沸騰するような熱を帯びて体内を駆け巡る。視界がぐらつき、ソファに座っていることすら困難になってきた。 「な……にを……」 掠れた声で問いかける俺を、翔子社長は愉悦に満ちた瞳で見つめている。戦慄で身体が震える。だが、その熱は次第に一つの場所へと収束していくのが分かった。下腹部。俺の股間が、まるでそこに第二の心臓が宿ったかのように、どく、どくと激しく脈動し始める。内側から突き上げるような圧力と共に、それは信じられないほどの硬さと大きさで膨張していく。ズボンの生地が悲鳴を上げ、その猛々しい輪郭をくっきりと浮かび上がらせた。 「ふふ……効果は覿面みたいね」 翔子社長は、俺の股間に釘付けになったまま、恍惚とした表情で赤い舌を覗かせ、ゆっくりと自身の唇を舐め上げた。彼女は悠然とこちらに歩み寄ると、目の前で立ち止まり、その指を自身のブラウスのボタンへと伸ばす。 一つ、また一つと純白のボタンが外されていく。シルクの生地が左右に開かれ、その隙間から、レースの施された豪奢なブラジャーに包まれた、豊かな胸の渓谷が姿を現す。そして、最後のボタンが外れた時、重力など存在しないかのように張り詰めた、圧倒的なボリュームを誇る乳房の双丘が、完全に露わになった。雪のように白い肌の上に、薄桃色の乳輪が浮かび上がり、その中心では熟れた果実のように硬くなった先端が、俺を挑発するように佇んでいる。 「さあ、採用試験の続きを始めましょうか、佐伯奏くん」 囁きと共に、彼女は俺の身体に覆いかぶさってきた。抗う術もなく、俺はソファの背もたれに深く沈み込む。甘く、むせ返るような香りが俺の意識を絡め取り、思考を麻痺させていく。彼女は俺の着ていたシャツの胸元を、ボタンを引き千切るようにして乱暴に引き裂いた。露わになった俺の胸に、翔子社長はしっとりとした頬をすり寄せ、そして、熱い吐息を吹きかける。 「んっ……!」 柔らかい指が片方の乳首を捕らえ、ちりちりと優しく、しかし執拗に捏ね上げる。同時に、湿り気を帯びた生温かい舌が、もう片方の乳首を舐め上げた。ざらりとした舌の感触が、乳輪をなぞり、先端を吸い上げる。脳天を直接突き抜けるような、未知の快感が全身を駆け巡った。身体の自由は完全に奪われ、ただ与えられる一方的な快楽に、俺は喘ぐことしかできない。 舌で乳首を転がされるたびに、背骨に稲妻が走るような鋭い快感が突き抜ける。指は粘り気のある動きで乳輪をなぞり、時折、くい、と先端を摘み上げる。その度に、俺の口からは「ぁ、ぅ……」と、情けない声が漏れた。翔子社長の唇は俺の胸から離れると、次は首筋を這い、耳朶を甘く食んだ。 「ふふ、可愛い声。もっと聞かせてちょうだい」 吐息と共に囁かれる言葉が、鼓膜を直接震わせる。熱い舌が耳の窪みを舐め上げ、内部へと侵入してくるかのように蠢いた。ぞわぞわとした悪寒にも似た快感が全身を支配し、俺は身を捩って逃れようとするが、彼女のしなやかな身体に押さえつけられ、びくともしない。彼女の指は俺の腹部を滑り、臍の周りをなぞり、そしてゆっくりと、熱の源へと降下していく。 ズボンの上からでも分かる、自身の異常な昂り。彼女の指がその硬い輪郭をなぞると、俺の身体は弓なりに跳ねた。 「まあ、こんなに……。とても元気なのね」 くすくすと喉を鳴らして笑うと、翔子社長は俺の身体から僅かに身を起こし、その華奢な手で俺のベルトのバックルに手をかけた。慣れた手つきでベルトが引き抜かれ、金属の擦れる冷たい音がやけに大きく響く。ジッパーが引き下ろされる音に続き、俺のズボンと下着がまとめて足元まで引きずり下ろされた。 解放された俺の分身は、それまで溜め込んでいた圧力を爆発させるように、バチン、と音を立てて勢いよく反り返った。薬品によって異常な量の血液を送り込まれたそれは、赤黒く変色し、血管を浮き上がらせ、まるで生き物のようにどくどくと脈打っている。普段の自分のものでは到底ありえない、凶器のような太さと長さに膨れ上がったそれを見て、俺自身が一番驚いていた。 「……素晴らしいわ」 翔子社長は、うっとりとしたため息を漏らし、その逸物に見入っている。彼女は自身のブラジャーのホックをこともなげに外し、その重そうな双丘を完全に解き放った。豊かな肉の塊が重力に従って揺れ、その先端の硬くなった突起が、俺の腹筋にこつりと触れる。そして、彼女は俺の身体に跨ると、自身のスカートをたくし上げた。露わになった彼女の足は、年齢を感じさせない引き締まった曲線を描いている。白いレースのショーツに包まれた豊満な臀部が、俺の眼前でゆっくりと上下した。 驚くべきことに、彼女のショーツのクロッチ部分は、すでにぐっしょりと濡れ、その奥にある秘裂の形をくっきりと浮かび上がらせていた。触れてもいないというのに、彼女は俺の昂りを見ただけで、これほどまでに欲情しているのだ。 彼女は俺の分身の先端に、自身の濡れた秘部をゆっくりと擦り付ける。 「んぅ……っ」 ねっとりとした粘液が先端に絡みつき、ぬるりとした感触が腰から脳天までを駆け上る。彼女はショーツを穿いたまま、その上から俺の屹立を自身の肉の谷間に挟み込み、くねくねと腰をくねらせた。布越しに伝わる柔らかな肉の感触と、その奥にある硬い芯のようなものの存在が、俺の理性をさらに焼き切っていく。 「さあ、ご挨拶しましょうか」 翔子社長は囁くと、ショーツの脇に指をかけ、ゆっくりと、見せつけるようにそれを下ろしていく。現れたのは、しっとりと濡れそぼり、花弁のようにぷっくりと膨らんだ、魅惑の丘だった。短く整えられた黒い茂みの奥で、割れ目がぬらぬらと光り、蜜の雫を滴らせている。 彼女はその蜜で濡れた指で俺の先端をなぞると、自身の一番奥にある入り口へと導いた。そして、ゆっくりと腰を下ろしていく。 「あ……ぁっ……!」 信じられないほどの熱と、柔らかさ。そして、全てを吸い尽くすかのような強烈な締め付けが、俺の巨根を呑み込んでいく。彼女の内壁は滑らかなビロードのようで、無数の襞が俺の竿を絡め取り、絞り上げてくる。ゆっくりと、しかし確実に、俺の全てが彼女の身体の奥深くへと埋められていった。根元まで完全に結合した時、俺の腰と彼女の尻が密着し、むちり、と湿った音が響いた。 「ふぅ……っ、ふぅ……」 翔子社長は、俺の全てをその内に収めると、恍惚の吐息を漏らした。俺の剛直な熱を、彼女の奥深くで生命を宿す器が、まるで待ち侘びていたかのように脈動しながら受け入れている。頭をぐらりと後ろに反らし、長い黒髪がソファの背に垂れた。閉じられた瞼が微かに震え、その表情は苦痛と快楽の狭間で揺れている。 「すごい……熱くて、硬い……。こんなの、初めて……」 囁くような声と共に、彼女の腰が、最初の動きを開始した。それは上下のピストンではなく、まるで石臼が穀物を挽くかのように、ゆっくりと、しかし確かな圧力を伴って円を描く動きだった。 「ん、ぅ……っく……」 ねっとりとした動きが、俺の竿に絡みつく。内壁の無数の柔らかな襞が、俺の膨張した亀頭から根元まで、順番に、そして執拗に擦り上げられていく。その度に、背筋にぞくりとした甘い痺れが走り抜けた。彼女は目を閉じたまま、俺の内部の形状を確かめるように、腰の回転に僅かな角度をつけていく。俺の竿の裏筋が、ざらりとした壁の一点に押し付けられるたびに、彼女の喉から「くふっ」と、押し殺したような甘い声が漏れた。その官能的な響きは、俺の昂りをさらに増大させる。 重力に引かれて揺れる豊かな乳房は、それ自体が生命を持っているかのように、たゆん、と官能的な曲線を描いていた。白磁の肌の上で、硬く尖ったままの乳首が、左右にゆっくりと揺れている。その光景だけで、下腹部の熱は危険な領域へと達しようとしていた。 やがて、その円運動は唐突に終わりを告げた。次に始まったのは、深く、そして的を絞った、より意図的な動きだった。 「ひっ……!」 翔子社長は、俺の身体に両手をつくと、ゆっくりと腰を浮かせ、そして、ずぶり、と一気に最奥までその身を沈めてきた。俺の身体の芯を貫く一点を、彼女の子宮の入り口が的確に、そして力強く圧迫する。脳が真っ白に染まるような、鋭い快感が突き抜けた。 「どう……?ここ、気持ちいいでしょう……?」 汗で額に張り付いた髪を乱しながら、彼女は妖艶に微笑む。その瞳は潤み、熱に浮かされている。彼女は一度浅く腰を浮かせると、再び、同じ場所を狙って深く腰を落とした。 ぱしん、と湿った音が、静かな社長室に響き渡る。肌と肌がぶつかり合う生々しい音。肉が肉を貪る音。 彼女は一定のリズムを保ちながら、執拗に、繰り返し、俺の一番弱い場所を碾き潰すように圧し続けた。俺は与えられる快感に耐えきれず、思わず腰を浮かせてしまう。だが、彼女はそれを許さない。俺の腰骨を両手で掴んで固定すると、より深く、より強く、その一点を打ち据え続けた。 「あ、ぁ……っ、や……そこは……!」 「嫌じゃないでしょう?こんなに、硬くして……。正直になっていいのよ」 彼女の動きは、次第に熱を帯び、速度を増していく。ゆっくりとした愛撫から、貪欲なまでの抽挿へ。もはや彼女に、先程までの余裕はない。乱れる呼吸、上気した頬、焦点の定まらない瞳。全てが、彼女が快感の渦に飲まれつつあることを示していた。 やがて、それまでの計算された動きは鳴りを潜め、本能の衝動だけが彼女を支配し始めた。 「んんっ……!も、もう……だめ……っ!」 理性の箍が外れたように、彼女は狂ったような速さで腰を上下させ始めた。長い髪が激しく乱れ、汗が煌めきながら宙を舞う。ソファがぎしり、ぎしりと悲鳴を上げた。 俺の巨躯を、彼女の濡れそぼった灼熱の膣が、何度も何度も締め付け、扱き上げる。子宮の入り口が俺の亀頭を激しく打ち付け、その度に脳が灼けるような、それでいて甘美な衝撃が全身を貫いた。 もはや、どちらがどちらを求めているのか分からない。ただ、本能のままに、互いの肉体を貪り合っていた。 「あぁっ、ん、ああぁんっ……!そこ、そこぉっ!もっと、強く、ついてぇっ……!」 下腹部の奥深くで、灼熱のマグマが渦を巻くような感覚が膨れ上がっていく。もう、止められない。放出の予感が、全身の神経を支配する。必死に腰を引いて堪えようとするが、翔子社長はそれを許さず、俺の身体を強く抱きしめて動きを封じた。 そして、俺の耳元で、彼女は蕩けるように甘い声で囁いた。 「妊娠の心配はないわ。だから……このまま、中にいらっしゃい」 その言葉が、俺の理性の最後の糸を、ぷつりと断ち切った。 「う、おおぉぉぉぉぉっ……!」 獣のような咆哮と共に、俺の腰が大きく跳ねた。下腹部の奥で、溜め込まれていた熱い奔流が、堰を切ったように解き放たれる。どく、どくん、と自身の脈動に合わせて、信じられないほどの量の精液が、彼女の子宮の最奥へと激しく注ぎ込まれていった。 「い"ぃぃぃぃぃぃっくぅぅぅぅぅぅ……!」 俺の射精と同時に、翔子社長もまた甲高い絶叫を上げて絶頂を迎えた。彼女の身体が大きく痙攣し、内壁がこれまで以上の力で俺の竿を締め上げる。まるで最後の一滴まで絞り尽くすかのように、その締め付けは執拗に続き、俺は意識が遠のくほどの快感の中で、白濁した生命の奔流を彼女の身体の奥深くに放出し続けた。 長い、長い絶頂の嵐が過ぎ去り、翔子社長はぐったりと俺の胸の上に倒れ込んだ。荒い呼吸を繰り返す彼女の身体は、まだ微かに痙攣している。俺の分身は、信じられないほどの量を放出したはずなのに、未だに少しも勢いを失うことなく、彼女の体内で硬く、熱く、脈打ち続けていた。薬品の効果は、常軌を逸している。 「はぁ……はぁ……すごい、わ……。全部、お腹の中が、あなたの……もので……」 掠れた声で呟くと、翔子社長はゆっくりと身体を起こし、俺の上から降りた。二人の身体を繋いでいた部分が離れると、結合部から、俺が注ぎ込んだばかりの白い液体と、彼女の愛液が混じり合ったものが、とろり、と溢れ出し、彼女の白い太腿を伝っていく。その光景は、背徳的でありながら、神々しいほどに美しかった。 彼女はソファの上に仰向けになると、乱れた髪をかき上げながら、濡れた瞳で俺を見つめた。両足は力なく開かれ、その間にある秘裂は、先程の交合で赤く腫れ上がり、白濁した液体でぬらぬらと光っている。 「まだ……終わりじゃないわよ。今度は、あなたの番」 挑発的な笑みを浮かべる彼女に、俺の中で何かが目覚めるのを感じた。これが初体験だというのに、恐怖や戸惑いはない。あるのは、目の前の熟れた果実を、心ゆくまで味わい尽くしたいという、純粋な欲望だけだった。 俺はソファから立ち上がると、彼女の上に覆いかぶさるようにして、再び自身の昂りを彼女の入り口へと導いた。先程までの彼女の動きが、脳裏に焼き付いている。どこを、どのようにすれば彼女が感じるのか、まるで最初から知っていたかのように、俺の身体は理解していた。 一度達したことで、彼女の身体はより敏感になっている。俺がゆっくりと腰を動かし、先程彼女が執拗に攻めてきた場所を、今度は俺が的確に突き上げると、彼女の身体はビクン、と大きく跳ねた。 「ひゃっ……!あ、だめ、そこは……!」 一度絶頂を迎えた余裕からか、先程とは逆に、俺は冷静に彼女の反応を観察していた。弱々しく抵抗する彼女の言葉は、しかし俺の耳には届かなかった。いや、届いてはいたが、それは俺の欲望を煽るための燃料にしかならない。これが初体験にも関わらず、経験豊富な年上の女性を組み敷き、意のままにしているという事実が、俺の頭を痺れさせるほどの興奮をもたらしていた。 「さっき、俺に教えてくれたじゃないですか。ここが気持ちいいんだって」 俺は悪戯っぽく笑いかけると、わざと浅く引き抜き、先端だけを入り口付近でくすぐるように動かした。 「ひぅっ……!い、意地悪……っ」 「どっちがです?俺は、あなたが一番喜ぶ場所を知りたいだけですよ」 言葉とは裏腹に、俺は彼女の反応をじっくりと観察していた。内腿がぷるぷると震え、足の指が固く丸められている。俺の動きに合わせて、彼女の秘裂がきゅ、きゅ、と健気に収縮し、俺のものを引き込もうとしているのが分かった。 俺はもう一度、狙いを定めて深く突き込む。今度は、先程よりも少しだけ角度を変えて。 「あぁんっ……!そ、こ……っ、も、やぁっ……!」 先程とは違う、甲高い悲鳴。見つけた。ここが、彼女のもう一つの弱い場所。俺は逃すまいと、その一点だけを執拗に、ねちっこく抉るように突き始めた。 ずぷ、ずぷ、と粘着質な水音が部屋に響き渡る。翔子社長の身体は俺の腰の動きに翻弄され、大きく揺さぶられる。豊かな乳房が上下に、左右に激しく跳ね、その先端は硬く尖ったままだった。 「だめ、だめぇ……!いっちゃ、う……!また、いかされちゃう……っ!」 涙声で懇願する彼女の姿は、先程までの余裕に満ちた社長の姿とは似ても似つかない。完全に快楽に支配され、俺に身を委ねるしかない、ただの女の顔をしていた。その無防備な表情が、俺のサディスティックな欲求をさらに掻き立てる。 「いいじゃないですか。気持ちいいんでしょう?」 俺は彼女の耳元に唇を寄せ、囁いた。 「もっと、乱れた姿を見せてくださいよ、社長」 その言葉が引き金になった。彼女の身体が、びく、びくん、と大きく痙攣を始める。 「い"っ……!いぃぃぃぃぃっくぅぅぅぅぅ……!」 二度目の絶頂。膣の奥が熱く脈打ち、内壁が痙攣し、俺の竿をぎゅう、と強く締め付けた。その締め付けは一度目の比ではない。まるで俺の精を根こそぎ絞り取ろうとするかのような、貪欲なまでの収縮だった。 だが、俺はまだ終わらない。彼女が絶頂の余韻に浸る間も与えず、腰の動きを再開させた。 「ひっ……!?ま、待って……!うそ、でしょ……?」 痙攣する身体の奥を、俺の硬い熱が再び抉り始める。信じられない、といった表情で俺を見上げる彼女の瞳から、生理的な涙が止めどなく溢れ、こめかみを伝っていく。 「さっき、中にいらっしゃいって言いましたよね。その言葉、まだ有効ですか?」 「あ、ぁ……う、ぅ……」 もはや彼女は、まともな言葉を発することもできない。ただ、こくこくと頷くことしかできなかった。俺はその反応に満足すると、動きをさらに激しく、荒々しいものへと変えていく。 ソファが壊れてしまうのではないかと思うほどの勢いで、俺は腰を打ち付け続けた。彼女の喘ぎ声は悲鳴に変わり、その悲鳴すらも、俺たちの肉体がぶつかり合う生々しい音に掻き消されていく。 「ああああぁぁぁんっ!こわれ、る……!あたし、おかしくなっちゃうぅぅぅぅっ……!」 三度目、四度目の絶頂が、間断なく彼女を襲う。その度に彼女の身体は大きく弓なりに反り、白い肌は快感のあまり真っ赤に染まっていた。内壁は痙攣を繰り返し、俺が注ぎ込んだものと、彼女自身から溢れ出る愛液で、結合部はぐちゃぐちゃに濡れそぼっている。 そして、連続する絶頂の波に耐えきれなくなったのか、彼女の身体から、ふっと力が抜けた。焦点の合わなかった瞳は虚空を彷徨い、やがて白目を剥いて完全に意識を手放した。口元からは涎が糸を引き、その表情は蕩けきっている。 それでも、俺の身体は止まることを知らなかった。意識を失った彼女の身体を抱きしめ、俺は最後の猛りをぶつける。下腹部の奥で、一度目とは比較にならないほどの巨大な熱量が渦を巻いていた。 俺の腰が、限界を超えて大きくしなる。 「う、おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ……!」 二度目の迸り。それは、もはや奔流という言葉すら生温い、灼熱のマグマの噴出だった。一度目に放出した量を遥かに凌駕する、濃厚で粘り気の強い精液が、彼女の子宮の最奥、そのさらに奥へと、叩きつけるように注ぎ込まれていく。 どっ、どっ、どっくん、と。俺の心臓の脈動と完全にシンクロし、熱い生命の雫が、彼女の身体を満たしていく。一度目の射精で満たされていたはずの器は、新たな濁流によってさらに押し広げられ、ついにはその許容量を超えた。溢れ出した白い液体が、彼女の秘裂から決壊したように流れ出し、大きく開かれた太腿の内側を伝い、高級な革張りのソファに、じわりと染みを作っていった。 俺は射精の快感に身を震わせながら、最後の最後まで絞り尽くし、やがて、意識を失った彼女の身体の上に、ぐったりと倒れ込んだ。 どれくらいの時間が経っただろうか。 荒い呼吸を整え、ゆっくりと身体を起こすと、翔子社長はまだ失神したまま、穏やかな寝息を立てていた。その表情は安らかで、先程までの狂乱が嘘のようだ。 俺はソファから立ち上がると、自分の惨状、そして彼女の身体とソファに広がる白い染みを見下ろした。初体験で、年上の、しかもこれからお世話になるかもしれない事務所の社長を相手に、あんな狼藉を働いてしまった。冷静に考えれば、即刻警察を呼ばれてもおかしくない状況だ。だが、不思議と後悔や罪悪感はなかった。むしろ、身体の奥底から湧き上がってくるのは、途方もない達成感と、世界を手に入れたかのような全能感だった。薬品の効果がまだ残っているのか、下腹部の熱は完全には冷めておらず、微かな疼きが続いていた。 まずは、この惨状をどうにかしなければならない。 俺は社長室を見回し、部屋の隅にあるサイドボードの上に、ミネラルウォーターのボトルと清潔そうなタオルが数枚置かれているのを見つけた。それを手に取ると、眠り続ける翔子社長の元へ戻る。 まずは彼女の身体からだ。俺の精液と彼女自身の愛液でべっとりと汚れた太腿の内側、そして下腹部を、水で湿らせたタオルで優しく、しかし丹念に拭き清めていく。眠りに落ちた彼女の顔はどこか幼く見え、先程まで俺の上で狂おしく腰を振っていた妖艶な女と、とても同一人物とは思えなかった。彼女の乱れた服を整え、引き千切られるようにして外れたブラウスのボタンを、一つ一つ丁寧に留めてやる。その指先に触れるシルクの感触と、その下にある柔らかな胸の膨らみが、まだ俺の目に、手のひらに、焼き付いて離れない。 次に、ソファに広がる白い染みを拭き取った。高級そうな黒革は、幸いにも液体を弾いており、丹念に拭き上げると、おぞましい痕跡は綺麗に消え去った。最後に自分自身の身体を清め、乱れた衣服を整える。引き千切れてしまったシャツのボタンはどうしようもなかったが、ジャケットの前を閉めればなんとか隠せるだろう。 全ての処理を終え、俺が再びソファに腰を下ろし、息をついた、その時だった。 「……ん……」 翔子社長が、小さく身じろぎした。絹糸のように長い睫毛が微かに震え、ゆっくりと瞼が開かれていく。最初はぼんやりと虚空を見つめていたその瞳が、やがて俺の姿を捉え、徐々に焦点を結んでいった。 「……佐伯、くん……?」 掠れた、それでいて蜜のように甘い声だった。彼女はゆっくりと上半身を起こすと、周囲を見回し、そして自分の身体に目を落とした。全てを思い出したのだろう、陶器のように白い彼女の頬が、ぽっ、と淡い朱に染まる。 「あ……私、は……」 「お目覚めですか、社長」 俺は努めて平静を装い、声をかけた。彼女は気まずそうに視線を逸らすと、乱れた艶やかな黒髪を手櫛で整えながら、か細い声で呟いた。 「……ごめんなさい。少し、取り乱してしまったわ」 「いえ……俺の方こそ、すみませんでした。あまりに乱暴なことを……」 気まずい沈黙が、二人を包む。窓の外では陽が大きく傾き始め、高層ビル群が織りなす摩天楼のシルエットを、美しい茜色が染め上げていた。 やがて、翔子社長は一つ、深く息を吸い込むと、意を決したように俺の顔をまっすぐに見つめ返した。その瞳には、もう先程までの蕩けたような甘さはない。幾多の修羅場を乗り越えてきたであろう、経営者としての鋭い光が宿っていた。 「佐伯奏くん」 改まった硬質な口調に、俺は思わず背筋を伸ばした。 「採用試験、合格よ。明日から、Starlight Prismのマネージャーとして働いてもらうわ」 「……え?」 予想だにしていなかった言葉に、俺は間の抜けた声を上げた。合格。つまり、俺は採用されたということか。 「よ、よろしいのですか?俺は、社長に対してあんな、無礼な……」 「ええ。むしろ、あれくらいでなければ務まらないわ。この仕事はね」 翔子社長は、ふ、と唇の端を上げて悪戯っぽく微笑んだ。その笑みは、先程の妖艶さとはまた違う、年下の男をからかう姉のような、蠱惑的な魅力を放っている。彼女はソファから立ち上がると、デスクに戻り、重厚な引き出しの中から一枚の書類を取り出し、俺の前に差し出した。それは、雇用契約書だった。 「あなたが気にしていた、薬品について、改めて説明しておくわ」 彼女はデスクチェアに深く腰掛け、足を組み直し、話を始めた。 「あの子たち……そして私も使っているのは、『セレスティアル・ネクター』と呼ばれるもの。スポンサーである天道製薬が、極秘に開発した新薬よ」 セレスティアル・ネクター。天上の霊薬、か。大仰な名前だが、その効果を考えれば言い過ぎではないのかもしれない。 「その効果は、あなた自身が身をもって体験した通り。服用者の生命力を極限まで高め、内分泌系に作用してフェロモンを増幅させる。結果として、性的魅力が飛躍的に向上し、見る者すべてを虜にする抗いがたいオーラを放つようになるの。Starlight Prismの、この事務所の規模からすれば不自然なほどの人気は、これによってもたらされている」 なるほど。ひなたのあの妖しいほどの輝き、画面越しにすら伝わってきた蠱惑的な雰囲気の正体は、これだったのか。 「ですが、当然、代償もあるわ」 翔子社長の表情が、わずかに曇る。 「強すぎる生命力は、肉体を常に興奮状態に置いてしまう。特に、性欲に関しては、もはや異常と呼べるレベルまで増大させてしまうの。定期的にその溜まりすぎた欲求を適切な形で解放してあげなければ、パフォーマンスに深刻な影響が出てしまう。精神的に不安定になり、ステージに立つことさえ困難になることもあるわ」 俺は息を呑んだ。つまり、ひなたたちは、常に強烈な性欲に苛まれ続けているというのか。華やかなステージの裏で、そんな苦しみを抱えていたとは。 「……それが、マネージャーの、本当の役割、ということですか」 俺の問いに、翔子社長は静かに頷いた。 「ええ。前任者は、あの子たち三人の要求に応えきれなくなって、心身ともに限界を迎えて辞めてしまった。だからこそ、あなたには期待しているのよ。あの三人分の、常軌を逸した欲求を、たった一人で受け止め、そして満たしてあげることが、あなたの最も重要な仕事になる」 担当アイドルの性欲処理。それが、マネージャーの本当の業務内容。あまりにも荒唐無稽で、背徳的な話に、頭がくらくらする。だが、あの薬の凄まじい効果を、この身で体験してしまった今、それを単なる作り話や冗談だとは思えなかった。 「……分かりました。その仕事、お引き受けします」 俺は、ほとんど迷いなく答えていた。ひなたを守るためなら、どんなことでもする。その覚悟は、ここに来る前からとっくに決まっていたことだ。それに、心のどこかで、この異常な状況に興奮し、歓喜している自分もいる。ひなたと、そして他の二人と、これからどんな関係が待っているのだろうか。 「ありがとう。助かるわ」 翔子社長は、心から安堵したように、ふわりと微笑んだ。 「ひなたちゃんのこと、よろしくお願いね。あの子、あなたのことをずっと……」 言いかけて、彼女は意味深に口を噤んだ。その言葉の続きが、俺の胸に小さな、しかし無視できない波紋を広げる。 契約書にサインを済ませ、俺は社長室を後にした。エレベーターが滑るように下降していく間、ガラス張りの窓の外に広がる夕暮れの街を眺めながら、俺はこれからの日々に思いを馳せていた。 大切な幼馴染のアイドル、白石ひなた。クールな印象とは裏腹に、どこか脆さを感じさせる、黒瀬玲奈。何を考えているのか読めない、ミステリアスな、橘瑠衣。 そして、彼女たちを支配する、若く美しい女社長、鳳翔子。 渦巻く欲望と甘い秘密に満ちたこの場所で、俺の新しい生活が、今、始まろうとしていた。きっと一筋縄ではいかないであろう、甘く、そして危険な日々が。 #パート2 鳳翔子社長との、嵐のような一夜が明けた。 俺、佐伯奏は今日から正式に、アイドルグループ「Starlight Prism」の担当マネージャーとして、この鳳凰プロダクションで働くことになった。 社長室での出来事は、まるで現実感のない悪夢のようでもあり、同時に、抗いがたいほど甘美な夢のようでもあった。薬品によって無理矢理覚醒させられた肉体の熱は、一夜明けた今も、下腹部の奥で微かに燻り続けている。 出社して早々、俺は翔子社長に連れられて、レッスンスタジオへと向かった。分厚い防音扉の向こうから、リズミカルな音楽と、シューズが床を擦る鋭い音が漏れ聞こえてくる。 「さあ、入って。あの子たちに、あなたのことを紹介するわ」 社長に促され、深呼吸を一つして扉を開ける。 広大なスタジオは、壁一面が鏡張りになっていた。その中央で、三人の少女が汗を流しながら、寸分の狂いもない完璧なフォーメーションでダンスレッスンに打ち込んでいる。 その一人が、こちらに気づいて動きを止めた。 「ひな……白石さん」 思わず昔の呼び名で呼びかけそうになり、慌てて言い直す。 ポニーテールにした栗色の髪を揺らし、大きな瞳を驚きに見開いているのは、俺の幼馴染、白石ひなただった。練習着のTシャツは汗で肌に張り付き、その下にある柔らかな胸の膨らみを強調している。ステージの上とは違う、素顔に近い彼女の姿に、胸が小さく高鳴った。 「かな……え?奏……くん?」 ひなたは信じられないといった表情で、自分の目を何度も瞬かせている。音楽が止まり、他の二人の少女も、訝しげな顔でこちらに視線を向けた。 「みんな、手を止めてちょうだい。今日から新しく、あなたたちのマネージャーを担当してくれる、佐伯奏くんです」 翔子社長の紹介の言葉に、ひなたの顔がぱあっと輝いた。 「ほんとに奏くんなの!?なんでここに!?え、マネージャーって……!」 彼女は弾かれたようにこちらへ駆け寄ってくると、俺の腕を掴んでぶんぶんと揺さぶった。昔と少しも変わらない、天真爛漫なリアクション。汗と、甘い柔軟剤の香りがふわりと鼻をかすめる。 「久しぶり、ひなた。今日からよろしくな」 俺がそう言って微笑みかけると、彼女は「うんっ!」と、満面の笑みで頷いた。その太陽のような笑顔は、俺の知っているひなたのままだ。しかし、その瞳の奥には、以前にはなかった妖しいまでの光が宿っている。セレスティアル・ネクター。あの薬が、彼女にこの輝きを与えているのだ。 「……ひなた。馴れ馴れしいわよ」 冷ややかな声が、俺たちの間に割り込んだ。 声の主は、腰まで届くほどの長い黒髪をストレートに下ろした、人形のように整った顔立ちの少女だった。切れ長の瞳が、俺とひなたの姿を射抜くように見つめている。黒瀬玲奈。グループの中ではクールビューティーなキャラクターで通っているが、その瞳の奥には、見た目の印象とは裏腹な、不安定で感情的な光が揺らめいていた。特に、ひなたに向けられる視線には、どこか依存にも似た執着が感じられる。 「ご、ごめん、玲奈ちゃん……。だって、奏くんは、その……昔からのお友達で……」 しゅん、と萎縮するひなたを見て、玲奈はふい、と顔を背けた。 「……黒瀬玲奈です。よろしくお願いします」 短く、刺々しい挨拶。彼女は明らかに、ひなたと親しげな俺を警戒している。 「あはは、玲奈ちゃんは人見知りだから、気にしないでくださいねー。あたしは橘瑠衣。よろしく、佐伯マネージャー」 玲奈とは対照的に、人懐っこい笑顔で話しかけてきたのは、三人目のメンバー、橘瑠衣だった。ふわふわとした金色のショートカットが、彼女の小悪魔的な魅力を引き立てている。小柄で、手足も胴も驚くほどほっそりとしているが、その身体のどこに、あれほど激しいダンスをこなすスタミナが秘められているのだろうか。彼女は友好的に見える。だが、その笑顔の裏には分厚い仮面が貼り付けられているようで、その本心は全く窺い知ることができなかった。 こうして、三者三様の歓迎を受け、俺のマネージャーとしての日々が始まった。 それは、想像を絶するほど過酷なものだった。 前任者からの引き継ぎは一切なく、俺は手探りの状態で、膨大な業務をこなさなければならなかった。メンバーのスケジュール管理、テレビ局や雑誌社との打ち合わせ、ライブの段取り、ファンクラブの運営、そして現場での送迎や身の回りの世話まで。芸能界の右も左も分からない俺にとって、その全てが未知との遭遇だった。 「佐伯さん、この資料、明日の朝までに五十部コピーしておいて」 「次の雑誌のインタビュー、掲載ページの確認とゲラチェック、お願いね」 「来月の歌番組の収録、香盤表が出てるから、メンバーに共有しといて」 業界用語の一つ一つをネットで調べながら、鳴り止まない電話に対応し、山のような書類と格闘する。睡眠時間は日に日に削られていき、目の下には濃い隈が刻まれていった。 そんな俺を、ひなたはいつも心配そうに見守ってくれていた。 「奏くん、大丈夫?無理しちゃだめだよ」 移動中の車内で、彼女は助手席の俺の顔をバックミラー越しに覗き込みながら、優しい声をかけてくれる。後部座席では、玲奈が窓の外を眺め、瑠衣はヘッドフォンで音楽を聴いていた。 「平気だよ。少し慣れないだけだから」 強がってはみるものの、疲労は隠せない。そんな俺の様子を見て、ひなたは少し寂しそうな表情を浮かべた。 「……前のマネージャーさんもね、すごくいい人だったんだ。真面目で、一生懸命で。でも、私たちのパワーについてこれなくなっちゃったみたいで……」 パワー、という言葉に、俺は翔子社長の話を思い出していた。 「パワーって、体力的なことか?」 俺が尋ねると、ひなたは一瞬言葉に詰まった後、「うーん、まあ、気力とか、そういうのも含めて、かな?」と、曖昧に笑って誤魔化した。その笑顔はどこかぎこちなく、俺はそれ以上、踏み込んで尋ねることができなかった。彼女と前任者の間に、どんな関係があったのか。そして、これから俺と彼女たちの間に、何が起ころうとしているのか。その答えを、俺はまだ知らない。 疲労がピークに達していたある日のことだ。俺は些細なミスで、収録時間を間違えてメンバーに伝えてしまうという失態を犯してしまった。幸い、すぐに気づいて事なきを得たが、俺は自分の不甲斐なさに落ち込んでいた。 「……ごめん。俺が、もっとしっかりしていれば」 楽屋で頭を下げる俺に、玲奈は冷たく言い放った。 「マネージャー失格ね」 その言葉が、ぐさりと胸に突き刺さる。だが、その時、ひなたが俺と玲奈の間に割って入った。 「玲奈ちゃん、言い過ぎだよ。奏くんは、来てくれたばっかりなんだから」 「でも、ひなた……」 「奏くん」 ひなたは真っ直ぐな瞳で俺を見つめると、俺の手を、その両手でぎゅっと握りしめた。 「マニュアル通りに仕事をこなすことだけが、マネージャーの仕事じゃないと思うんだ。もっと、私たちのことを見てほしい。私たちの歌を、ダンスを、ちゃんと感じてほしい。そして、一緒にこのステージを作っていくんだっていう、その気持ちを、私たちと一つにしてほしいな」 彼女の真剣な眼差しと、手のひらから伝わってくる温もりに、俺はハッとさせられた。そうだ。俺は、何のためにここに来たんだ。ひなたを守るためじゃなかったのか。日々の業務に追われ、俺は一番大切なことを見失っていたのかもしれない。 「……ありがとう、ひなた。目が覚めたよ」 俺がそう言うと、彼女はふわりと、安心したように微笑んだ。 その日から、俺は意識を変えた。ただ業務をこなすのではなく、彼女たちのパフォーマンスを、その輝きを、一番近くで支える存在になろうと決めた。レッスンにも積極的に顔を出し、彼女たちの努力を目の当たりにした。ステージの構成や演出についても、自分なりに意見を出すようにした。 最初は訝しげだった玲奈も、俺の熱意が伝わったのか、少しずつだが心を開いてくれるようになった。瑠衣は相変わらず掴みどころがなかったが、時折見せる的確なアドバイスは、俺にとって大きな助けとなった。 そして、ひなたは、いつも俺の隣で笑っていてくれた。 そうして、俺がマネージャーを担当して、初めての大きなライブの日がやってきた。 会場は、数千人を収容する巨大なホール。開演前から、客席はファンの熱気で埋め尽くされている。俺は舞台袖のモニターで、その光景を見つめながら、ごくりと唾を飲み込んだ。 円陣を組んだ三人が、力強く掛け声を合わせる。 「みんなに届け、私たちのキラめき!Starlight Prism、いくよー!」 ひなたの澄んだ声が、バックステージに響き渡る。 そして、眩いスポットライトの中へ、三人は飛び出していった。 割れんばかりの歓声。色とりどりのペンライトが、波のように揺れている。 ステージの上で歌い、踊るひなたは、俺の知っている幼馴染とはまるで別人だった。その全身から放たれるオーラは、観客すべてを魅了し、熱狂の渦に巻き込んでいく。あれが、セレスティアル・ネクターの力。そして、彼女自身の、努力の賜物。 俺はただ、その神々しいまでの輝きに圧倒され、立ち尽くすことしかできなかった。 ライブは大成功のうちに幕を閉じた。 鳴り止まないアンコールに応え、三人がステージから戻ってきた時、その顔は汗と、そして達成感に満ちた笑顔で輝いていた。 「奏くん!見てくれた!?今日のライブ、最高だったよ!」 ひなたが、興奮冷めやらぬ様子で俺に抱きついてくる。 「ああ、すごかった。本当に、すごかったよ、ひなた」 俺は彼女の背中をポンポンと叩きながら、心からの賛辞を贈った。 玲奈と瑠衣がシャワーを浴びるために楽屋を出ていき、広い部屋に、俺とひなたの二人だけが残された。 「……ふぅ。ちょっと、疲れちゃったな」 ひなたはソファにどさりと腰を下ろすと、大きく息を吐いた。ステージ衣装のフリルが、彼女の呼吸に合わせて小さく揺れている。ライブの熱気で上気した頬、汗で首筋に張り付いた髪、そして潤んだ瞳。その全てが、恐ろしいほどに扇情的だった。 「奏くんも、お疲れ様。今日のライブが成功したのは、奏くんがいてくれたおかげだよ」 彼女はそう言うと、ソファの上で僅かに身じろぎし、自分の隣のスペースをぽんぽんと叩いた。 「こっち、来て?」 誘われるままに隣に腰を下ろすと、ひなたは俺の肩に、こてん、と頭を預けてきた。汗の匂いに混じって、彼女自身の、蜜のように甘い香りが俺の理性を優しく侵食してくる。 「ねえ、奏くん。頑張った奏くんに、私から、ご褒美」 耳元で、蕩けるように甘い声が囁かれる。 「私たちの『パワー』、奏くんにも、ちゃんとおすそ分けしてあげるね」 彼女はゆっくりと身体を起こすと、俺の正面に回り込み、そして、すとん、と床に膝をついた。 その瞳は、ライブの熱をそのまま宿したかのように、潤み、揺らめいている。 「え……ひなた、何を……」 俺が戸惑いの声を上げるより早く、彼女の小さな手が、俺のズボンのベルトに伸びた。慣れた手つきでバックルが外され、ジッパーが引き下ろされる。下着ごとずり下げられたそこから、すでに熱く膨張していた俺の分身が、弾けるように姿を現した。あの日、社長室で覚醒させられたそれは、薬の効果か、以前よりもさらに硬く、大きく、その存在を主張している。 「わ……すごい……奏くん、こんなに……」 ひなたは、うっとりとした表情で、俺の昂りを見つめている。そして、まるで聖なるものに触れるかのように、そっと両手でそれを包み込んだ。ひんやりとした彼女の指先の感触に、俺の身体がびくりと震える。 彼女は顔を寄せると、赤い舌をちろりと覗かせ、先端の傘の部分を、ぺろり、と舐め上げた。 「んっ……!」 生温かく、ざらりとした舌の感触が、亀頭の敏感な部分を直接刺激する。脳天を貫くような快感に、思わず腰が浮き上がった。 ひなたはくすくすと悪戯っぽく笑うと、今度はより大胆に、先端をぱくりと口に含んだ。柔らかな唇と、湿った舌が、俺の亀頭を優しく、しかし執拗に嬲り始める。舌先でカリの部分をなぞり、裏筋を弾くように刺激する。その度に、俺の口からは「ぁ、ぅ……」と、情けない声が漏れた。 やがて彼女は、意を決したように、さらに深く、俺の分身をその喉の奥へと呑み込んでいった。 「んぐ……っ、ぉ……」 小さな口には収まりきらないほどの太さが、彼女の喉を押し広げていく。苦しそうな表情を浮かべながらも、彼女は決してそれを吐き出そうとはしない。むしろ、もっと奥まで受け入れようとするかのように、こく、こくと喉を鳴らしている。 そして、彼女の頭が、ゆっくりと上下に動き始めた。 真空状態になった口内が、俺の竿を根元から扱き上げる。その吸い付きは驚くほど強く、まるで身体中の血液が、下半身の一点に吸い寄せられていくような錯覚に陥った。 「ひなた……っ、も、やめ……」 快感が強すぎて、俺は思わず彼女の頭を押し返そうとした。だが、彼女はそれを許さない。俺の腰が引けると、それを追いかけるようにソファに身を乗り出し、両腕で俺の腰にしがみついてきた。その瞳は涙で潤み、頬は興奮で赤く染まっている。その表情は、まるで懇願しているかのようだった。もっと欲しいのだと、その全身で訴えかけてくる。 逃げ場を失った俺の巨躯は、彼女の喉の奥深くを、何度も何度も貫いた。ごぷ、ごぷ、と生々しい水音が、静かになった楽屋に響き渡る。彼女の唇の端からは、俺の昂りから滲み出た雫と彼女自身の唾液が混じり合った透明な糸が、きらきらと光りながら顎を伝っていた。 その背徳的な光景に、俺の理性の箍は弾け飛んだ。下腹部の奥で、灼熱のマグマが急速に膨れ上がっていくのが分かる。 「ひなた……っ、だめだ、出る……!」 俺が叫ぶと、ひなたは一瞬だけ動きを止め、俺の顔を見上げた。そして、こくりと頷くと、これまで以上の力で、強く、深く、俺のものを吸い上げた。 その瞬間、俺の腰が大きく痙攣した。 「う、おおぉぉぉぉっ……!」 熱い奔流が、堰を切ったように彼女の喉の奥へと注ぎ込まれていく。ごくん、ごくん、と彼女がそれを嚥下する音が、俺の耳に直接響いてきた。彼女は一滴たりとも零すまいと、必死にそれを飲み下していく。その貪欲なまでの姿は、俺の射精の快感を、さらに増幅させた。 長い射精が終わり、俺がぐったりとソファの背もたれに身体を預けると、ひなたはようやく俺のものから唇を離した。彼女の口元は白濁した液体で濡れそぼり、その瞳は蕩けるように潤んでいる。 「……ふふ。奏くんの、いっぱい飲んじゃった」 ぺろり、と唇に残ったそれを舐め取りながら、彼女は悪戯っぽく笑った。その無邪気な笑顔と、行いの淫靡さのギャップに、俺の頭はくらくらしそうになる。 だが、俺の身体は、まだ終わっていなかった。一度射精したにも関わらず、俺の分身は少しも萎えることなく、未だに戦意を漲らせたまま、硬く屹立している。 「……まだ、こんなに元気なんだね」 ひなたは、まるで愛しいものを見るかのように、俺の昂りにそっと触れた。 「大丈夫だよ、奏くん。私も、まだ全然足りないから」 そう言うと、彼女はゆっくりと立ち上がった。そして、ステージ衣装のスカートの裾を、両手でつまみ上げる。ひらひらとしたフリルの下に重ねられた、ボリュームのあるパニエ。彼女はその純白のレース生地を、一枚、また一枚と、ゆっくりとめくり上げていった。 そして、最後のパニエがたくし上げられた時、俺は息を呑んだ。 その下には、何もなかった。 ショーツどころか、肌着の一枚すら身に着けていない。汗でしっとりと湿った、柔らかな丸みを帯びた臀部。その中央には、魅惑的な深い谷間が刻まれている。そして、そのさらに奥、両脚の付け根に隠れるようにして存在する、神秘の場所。短く整えられた柔らかな茂みの奥で、二枚の花弁が固く閉じられている。だが、その先端はすでに蜜の雫で濡れそぼり、きらりと妖しい光を放っていた。 「……ステージの上でも、ずっとこうしてたの?」 俺が掠れた声で尋ねると、ひなたはこくりと頷いた。 「うん。だって、いつ奏くんに求められてもいいように、準備しておかないと、って思って」 彼女は恥ずかしそうに頬を染めながらも、その視線は熱っぽく俺を捉えて離さない。 「さあ、奏くん。もっと、私の中に、奏くんの『パワー』をちょうだい?」 ひなたはソファに両手をつくと、豊かな尻を高く突き出し、俺に無防備な後ろ姿を晒した。その誘うような姿態に、俺の中の最後の理性が焼き切れる。 俺はソファから身を乗り出すと、その柔らかく、そして弾力のある尻の肉を両手で鷲掴みにした。 「んっ……!」 甘い声が、彼女の唇から漏れる。俺は指でその肉の谷間をなぞり、湿り気を帯びた入り口へと導いた。すでにそこは潤沢な蜜で溢れかえり、俺の指をぬるりと受け入れる。指先で軽く入り口を押し広げると、ひなたは「ひゃっ」と声を上げ、腰を震わせた。 準備は、もう十分すぎるほどに整っている。 俺は自身の硬く熱い先端を、その濡れた入り口に押し当てた。 「ひなた……いくぞ」 「……うん。優しく、してね?」 その言葉を合図に、俺はゆっくりと腰を前に突き出した。 熱く、湿った粘膜が、俺の亀頭をじわりと包み込む。信じられないほどの熱と、吸い付くような柔らかさ。翔子社長のそれとはまた違う、若々しく、それでいて弾けるような生命力に満ちた感触が、俺の全身を駆け巡った。 「ぁ……っ、ふ……ぅ……」 ひなたの背中が、しなやかな弧を描く。俺は一度動きを止め、彼女が俺の大きさを受け入れるのを待った。彼女の内部が、きゅう、と健気に収縮し、俺の存在を確かめるように脈打っているのが分かる。 やがて、ひなたが小さく頷いたのを見て、俺はさらに深く、腰を沈めていった。ずぶり、と湿った音と共に、俺の全てが彼女の身体の奥深くへと埋められていく。 「んんっ……!かな、たくん……おっきい……」 根元まで完全に結合した時、ひなたの身体が大きく震えた。俺の剛直な熱が、彼女の一番奥にある、柔らかく敏感な場所を抉るように圧迫する。 「はぁ……っ、はぁ……」 ひなたの荒い息遣いが、俺の欲望をさらに煽る。俺は彼女の腰を掴む両手に力を込め、ゆっくりと、しかし確かなリズムで腰を動かし始めた。 最初は、浅く、優しく。彼女の身体を慣らすように。 ずぷ、ずぷ、と粘着質な水音が、二人の間に響き渡る。その度に、ひなたの口から「ん、ぅ……」と、甘い吐息が漏れた。 俺の動きに合わせて、彼女の豊かな尻がむちり、と揺れる。その光景は、俺の視覚を強烈に刺激し、下腹部の熱をさらに増大させていく。 次第に、俺の動きは速度と深さを増していった。 「あっ……!ん、ぁ……っ!そこ……きもち、ぃ……」 俺の亀頭が、彼女の内部の敏感な一点を擦り上げるたびに、ひなたの身体がビクン、と大きく跳ねる。俺は、まるで獲物を見つけた獣のように、その一点だけを執拗に、繰り返し突き始めた。 ソファのレザーが、俺たちの汗で湿り、肌に張り付く。ひなたは快感に耐えきれないのか、ソファに突っ伏したまま、シーツをぎゅっと握りしめていた。 「かなたくん……!かなたくん、の……!あっついの、いっぱい……!」 途切れ途切れの喘ぎ声が、俺のサディスティックな欲求を掻き立てる。もっと、この可愛い幼馴染を、快楽でめちゃくちゃにしてやりたい。そんな黒い衝動が、身体の奥底から湧き上がってくる。 俺の腰の動きは、もはや理性の制御を離れ、本能の赴くままに、荒々しく、貪欲になっていた。 「あぁっ、あぁんっ……!だめ、もう、いっちゃう、から……!」 ひなたの身体が、限界が近いことを告げるように、ぷるぷると小刻みに震え始める。俺もまた、放出の予感に全身が支配されていた。 「ひなた……っ、一緒に行くぞ……!」 「うん……っ!でも、衣装、汚しちゃだめだから……!お腹の中に、いっぱい、出して……?」 涙声で、しかしはっきりと、彼女はそう懇願した。その言葉が、最後の引き金となった。 「うおおぉぉぉぉぉぉっ……!」 「い"ぃぃぃぃぃぃぃっくぅぅぅぅぅぅ……!」 俺の咆哮と、ひなたの甲高い絶叫が、楽屋に響き渡った。 俺の腰が大きくしなり、灼熱の精液が彼女の子宮の最奥へと激しく注ぎ込まれる。それと同時に、ひなたの身体が大きく弓なりに反り、彼女の内壁が、俺の竿を痙攣しながら締め上げた。 互いの絶頂が重なり合い、溶け合う。意識が真っ白に染まるほどの、強烈な快感の奔流。俺はひなたの身体の上に覆いかぶさるようにして倒れ込み、荒い呼吸を繰り返した。 「はぁ……はぁ……っ、すごい、奏くん……。お腹の中、あったかい……」 ぐったりとしながらも、ひなたは幸せそうに微笑んだ。彼女の体内では、俺の分身がまだ熱く脈打ち、射精の余韻に浸っている。 しばらくの間、俺たちは互いの体温を感じながら、静かに息を整えていた。 だが、セレスティアル・ネクターの力は、まだ俺たちを解放してはくれなかった。 一度絶頂を迎えたはずの俺の分身は、萎えるどころか、再びゆっくりと熱を帯び、硬さを増していく。 「……うそ。奏くん、まだ……?」 その変化に気づいたひなたが、驚きの声を上げた。 「ごめん……俺も、どうしようもなくて……」 俺が謝ると、ひなたはくすくすと楽しそうに笑った。 「ううん、嬉しいよ。奏くんが、それだけ私を求めてくれてるってことだもんね」 彼女は身体の向きを変え、今度は俺と向かい合うようにして、俺の身体に足を絡めてきた。 「もっと、ちょうだい?私、まだまだ、足りないんだ」 その潤んだ瞳に見つめられ、俺は抗うことができなかった。 再び始まった二人の交合は、一度目よりもさらに深く、情熱的なものになっていた。一度達したことで、互いの身体はより敏感になり、僅かな刺激にも敏感に反応する。 ひなたは、今度は自分から積極的に腰を動かし、俺のものを深く、奥深くまで迎え入れた。 「あぁんっ……!奏くんの、そこ……好きぃ……」 甘く蕩けるような声で囁きながら、彼女は俺の一番感じる場所を、的確に、そして執拗に擦り付けてくる。その巧みな腰つきは、とてもこれが初めての関係だとは思えないほどだった。 俺もまた、彼女の敏感な場所を探り当て、そこを優しく、しかし確実に突き続けた。 「ひゃっ……!だめ、そこは、反則、だよぉ……」 ひなたの身体が、再び快感に震え始める。俺は彼女の反応を楽しみながら、さらに深く、強く、腰を打ち付けた。 二度目の絶頂は、ひなただけに訪れた。 甲高い悲鳴と共に、彼女の身体が大きく痙攣し、内壁がびくびくと脈動する。その痙攣は、俺の竿に直接伝わり、俺の理性を焼き切るには十分すぎた。 「ひなた……っ、もう、我慢できない……!」 「うん……!私も、奏くんと、もう一回、一緒になりたい……!」 俺たちは互いの名前を呼び合いながら、狂ったように腰をぶつけ合った。汗と、愛液と、そして互いの唾液が混じり合い、部屋中に甘く背徳的な香りが満ちていく。 そして、ついに三度目の、そしてこの日最後の絶頂が、二人同時に訪れた。 「「い"ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっくぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ……!」」 一度目、二度目を遥かに凌駕する、圧倒的な快感の津波。俺の精液が、再び彼女の身体の奥深くを満たしていく。もう、彼女の子宮は、俺のもので溢れかえっているだろう。 「……ふふ。現役アイドルの中に、こんなに出しちゃって……。いけないんだぁ、奏くんは」 俺の胸の上で、ぐったりとしながら、ひなたは揶揄うように言った。 「赤ちゃん、できちゃうかも、しれないね?」 その言葉に、俺の心臓がどきりと跳ねる。だが、彼女の表情は、どこまでも幸せそうだった。 「ひなた……」 俺は彼女の柔らかな髪を撫でながら、その名前を呼んだ。 「これからも、よろしくね。私の、専属マネージャーさん」 ひなたはそう言うと、俺の唇に、そっと自分の唇を重ねた。それは、甘く、そしてどこまでも深い、誓いの口づけだった。 こうして、俺とひなたの、新しくて、そして秘密に満ちた関係が、本当の意味で始まったのだった。 #パート3 ひなたとの、あの甘く濃密な夜から数日が過ぎた。 俺と彼女の関係は、表面的には何も変わらない。俺はマネージャーで、彼女は担当アイドル。だが、二人きりになった瞬間に交わされる視線や、ふとした瞬間に触れ合う指先には、以前とは明らかに違う熱が、そして秘密の香りが含まれていた。 ひなたは、まるで渇いた花が水を得たかのように、日に日にその輝きを増していった。ステージの上でのパフォーマンスはさらにキレを増し、オフの時の笑顔は、以前にも増して柔らかく、そして俺に対してはどこか甘えるような色を帯びるようになった。それは、満たされている者の、余裕の表れだったのかもしれない。 そして、その微細な、しかし確実な変化を、見逃さない瞳があった。 黒瀬玲奈。 彼女の、俺とひなたに向ける視線は、日を追うごとに鋭さと冷たさを増していった。特に、ひなたが俺に無邪気に笑いかけたり、軽いボディタッチをしたりする度に、彼女の纏う空気は氷点下まで下がる。それは嫉妬、という単純な感情だけではない。自分が守るべき聖域に、得体の知れない異物が侵入してきたことに対する、強い警戒心と拒絶。そんな、刺々しい感情の棘が、常に俺の背中に向けられているのを感じていた。 その日、俺たちは深夜まで、来たるべき新曲のプロモーションに関する打ち合わせを事務所で行っていた。ひなたと瑠衣は先に帰り、資料の片付けをしていた俺と、最後まで残ってダンスの個人練習をしていた玲奈が、事務所に二人きりで残された。 「……佐伯さん」 静寂を破ったのは、彼女の、鈴を鳴らすように凛とした、しかしどこか温度のない声だった。 振り向くと、玲奈がスタジオの出口に佇み、まっすぐに俺を見つめていた。レッスンウェア姿の彼女の身体は、汗でしっとりと濡れている。細いウエスト、しなやかに伸びる手足。クールな印象とは裏腹に、その身体のラインは驚くほど女性的で、特に薄いウェア越しに輪郭を主張する胸の膨らみは、控えめながらも完璧な半球を描いていた。 「少し、お話があります」 彼女に導かれるまま、俺たちは誰もいないラウンジのソファに向かい合って座った。窓の外に広がる、宝石を散りばめたような夜景が、二人の間の重い沈黙を照らし出している。 「単刀直入に伺います。あなた、ひなたとどういう関係なの」 その問いは、刃のように鋭く、俺の核心を突いてきた。 「どういう、とは?俺は彼女のマネージャーで、それ以上でも以下でもないが」 しらを切る俺の言葉に、玲奈は鼻で笑った。 「とぼけないで。あのひなたの顔を見れば分かるわ。……あなたと何かあったのでしょう」 彼女の目は、嘘を許さないとでも言うように、俺の魂の奥底まで見透かそうとしていた。 「いいえ、何もかもお見通しよ。あなたは、ひなたがどういう存在か、本当に理解しているの?彼女は、ファンの夢そのもの。何万人もの人々の祈りを一身に背負って輝く、聖なる偶像なのよ。一個人の、それもマネージャーという立場の男が、安易な欲望で汚していい存在ではないわ」 その言葉は、正論だった。だが、彼女の口から語られると、それはひなたへの純粋な想いというよりも、独占欲にも似た、歪んだ執着のように聞こえた。 「俺は、ひなたを汚したつもりはない。むしろ、彼女が最高の輝きを放てるように、支えているだけだ」 「支えるですって?……笑わせないで。あなたのその目は、いつもいやらしい熱を帯びてひなたを見ているわ。あのライブの後から、特にね。まるで、獲物を品定めする雄の目よ。その視線で、その手で、ひなたの神聖な身体に触れたというのなら、私はあなたを……」 玲奈の言葉が、ふと途切れた。彼女の白い頬が、微かに赤く染まっている。その瞳には、俺への怒りと軽蔑の色と共に、もう一つ、別の感情が揺らめいていた。それは、好奇心。あるいは、羨望、とでも言うべきものか。 俺は、そこで確信した。彼女の本心は、ひなたを心配する気持ちなどではない。俺とひなたの関係に対する、嫉妬だ。だがそれは、ひなたを奪われたことに対する嫉妬ではなく、ひなたが手に入れた『何か』に対する、焦燥と渇望に近い。 俺は、あえて挑発的な笑みを浮かべ、会話の主導権を奪い返すことにした。 「ああ、触れたさ。ひなたの、神聖で、柔らかくて、熱い身体に。隅々までな」 「なっ……!」 玲奈の顔が、驚きと怒りでさらに赤く染まる。俺は、追い打ちをかけるように続けた。 「君が言う通り、ライブの後のひなたは少し疲れていた。溜まっていたんだよ、色々なものが。俺はただ、それを解放してやっただけだ。マネージャーとして、彼女のコンディションを最高の状態に保つためにね」 俺は、あの夜の出来事を、あえて赤裸々に語り始めた。ステージ衣装の下には何も身に着けていなかったこと。俺のものを、どんな風に口で奉仕してくれたか。そして、彼女の熱い身体の中に、俺がどれだけのものを注ぎ込んだか。 「ひ、卑劣よ……!そんなこと、聞きたくもないわ……!」 玲奈は耳を塞ぐようにして、震える声で俺を非難する。だが、その指の隙間から覗く瞳は、爛々と輝き、俺の言葉の一言一句を聞き逃すまいとしているのが分かった。彼女の身体は、俺の淫らな言葉を拒絶しながらも、正直に反応していた。呼吸は浅く速くなり、固く結ばれていた唇は、いつの間にか僅かに開かれている。 「ひなたは、悦んでいたよ。心も、身体も。あれは、彼女にとって必要なことなんだ。君たちが最高のパフォーマンスをするために、あの薬──セレスティアル・ネクターの力を最大限に引き出すために、欠かせないことなんだよ」 俺はソファから立ち上がると、彼女の隣に腰を下ろした。玲奈の身体がびくりと硬直する。 「君も、同じものを味わえば、きっと理解できる。ひなたの気持ちが、そして、俺がしていることの意味が」 そう言って、俺は彼女の汗で湿った肩に、そっと手を置いた。 「……正気なの、あなた」 玲奈は、絞り出すような声で言った。だが、その声に、本気の拒絶の色はない。むしろ、どこか縋るような、か細い響きがあった。 「拒まないんだな」 「……っ」 「本当は、期待してたんだろ?俺と二人きりになった時から、こうなることを」 俺が彼女の耳元で囁くと、玲奈は何も答えなかった。それは、肯定と同じ意味だった。長い睫毛が伏せられ、その下の瞳が不安と期待の入り混じった色で揺れている。 俺の指が、彼女の肩から首筋を滑り、そして華奢な顎を捉えて、上を向かせた。 「綺麗な顔だ。ステージの上より、今の方がずっといい」 指先で、彼女の震える唇をなぞる。 「ん……っ」 小さく、甘い声が漏れた。それが、合図だった。 俺はもう片方の手で、彼女の細い腰を抱き寄せた。レッスンウェアの薄い生地越しに、引き締まった腹筋の感触と、その奥にある柔らかな肉の感触が伝わってくる。俺の指が、臍の周りをゆっくりと円を描くように撫でると、彼女の身体はビクン、と大きく跳ねた。 「ひぅ……っ、や……やめ……」 抵抗の言葉とは裏腹に、彼女の身体は徐々に力を失い、俺に体重を預けてくる。俺は彼女の耳朶を軽く食むと、熱い吐息を吹きかけた。 「声、もっと聞かせて。玲奈」 「ぁ……ぅ……」 ぞくぞくとした快感が背筋を駆け上ったのだろう、彼女の喉から、声にならない吐息が漏れた。俺はその隙を見逃さず、ウェアの裾から手を滑り込ませ、汗で湿った滑らかな素肌に直接触れた。ひんやりとした俺の手のひらが触れた瞬間、彼女の身体が再び大きく震える。指先は、彼女の背骨を一本一本確かめるように下り、そして、スポーツブラのホックへと到達した。 ぷちり、と小さな音を立ててホックが外れる。締め付けから解放された彼女の胸が、ふわりと自由を取り戻した。俺は手を前に回し、その柔らかく、しかし弾力のある膨らみを、服の上から優しく揉みしだいた。 「んんっ……!だめ、そこは……っ」 彼女の胸は、見た目の印象よりもずっと豊かで、俺の手に心地よく収まった。中心にある突起は、すでに硬く尖り、布地の上からでもその存在を主張している。指先でその先端を摘まみ、くりくりと弄ぶと、玲奈の口から「くふっ」と、押し殺したような甘い喘ぎが漏れ出た。 「可愛い声だ。もっと乱れていいんだよ」 俺は彼女の身体を抱きかかえるようにして、ソファの上にゆっくりと押し倒した。そして、彼女の着ていたウェアの裾を掴み、一気に頭上へと引き抜いていく。露わになったのは、雪のように白い肌と、黒いスポーツブラに包まれた、形の良い双丘だった。汗で煌めく肌が、ラウンジの淡い照明を反射して、妖しく輝いている。 俺はそのブラジャーも乱暴に取り去ると、完全に解き放たれた彼女の胸に顔を埋めた。 「ひゃっ……!」 熱い舌が、薄桃色の乳輪をぐるりとなぞり、硬くなった先端をぱくりと口に含む。ちゅ、ちゅ、と音を立てて吸い上げると、玲奈の身体が弓なりに反った。 「あ、ぁん……っ!だめ、そんなとこ、舐め……ちゃ……っ」 片方の胸を口で愛撫しながら、もう片方の胸には指を伸ばし、その先端を執拗にこね上げる。左右から同時に与えられる強烈な快感に、彼女のクールな仮面は、もう完全に剥がれ落ちていた。焦点の合わない瞳は潤み、その口からは、絶え間なく甘い喘ぎ声が漏れ続けている。 俺の唇は、彼女の胸から腹部へと降りていき、そして、レッスン用のタイツのウエスト部分に到達した。そのゴムに指をかけ、ゆっくりと引き下げていく。 「い、いやっ……!そこから下は……見ないで……!」 玲奈は最後の抵抗とばかりに、両手で俺の手を掴もうとする。だが、その力は弱々しく、俺はやすやすとその抵抗を振り払うと、タイツと、その下に穿かれていた黒いレースのショーツを、まとめて足元まで引きずり下ろした。 現れたのは、息を呑むほどに美しい、完璧な造形だった。 恥ずかしそうに固く閉じられた両脚の付け根。そこに、濃密な黒い茂みが、神秘の場所を隠すように生い茂っている。しかし、その茂みは、すでにたっぷりと分泌された愛液で湿り気を帯び、その奥にある秘裂の入り口からは、透明な蜜の雫が、ぽたり、ぽたりと滴り落ちていた。 「……すごいな。こんなに濡らして」 俺が囁くと、玲奈は顔を真っ赤にして、両手で顔を覆ってしまった。その無防備な姿が、俺の庇護欲と、そして加虐心を同時に掻き立てる。 俺は指先に彼女の蜜を絡め取ると、ぷっくりと膨らんだ肉の丘を、優しくなぞった。 「んんっ……!」 指の動きに合わせて、彼女の腰がびくん、と震える。俺は二本の指をゆっくりと、その濡れた入り口へと沈めていった。 「ひっ……!な、に……?はいって、くる……っ」 彼女の内側は、信じられないほど熱く、そして柔らかかった。壁面は滑らかなビロードのようで、無数の襞が俺の指に絡みつき、きゅう、きゅうと締め付けてくる。まるで、もっと奥へ、もっと深くへと誘うように。 俺は指をゆっくりと動かし、彼女の内部の形状を確かめるように探った。そして、指の腹が、ざらりとした壁の一点に触れた、その瞬間。 「あぁっ……!そこ、だめ……っ!へん、になっちゃう……!」 玲奈の身体が、これまでで一番大きく跳ねた。見つけた。ここが、彼女の一番弱い場所。 俺は指の動きを止め、その一点だけを、ぐりぐりと執拗に押し付けた。 「いやぁぁっ!やめて、やめてぇっ……!いっちゃう、から……!いきたく、ないぃぃぃぃっ……!」 涙声で懇願する彼女の姿は、サディスティックな興奮を俺に与えた。クールな仮面の下に隠されていたのは、これほどまでに淫らで、感じる身体だったのか。 俺は指の動きをさらに速く、激しくしていく。 「あ、あ、ああああぁぁぁぁんっ……!も、むりぃぃぃぃぃ……!」 甲高い絶叫と共に、玲奈の身体が大きく痙攣を始めた。内壁がびく、びくん、と激しく脈動し、俺の指を締め上げる。そして、その奥から、熱い愛液が、じゅわ、と溢れ出してきた。指だけで、彼女は最初の絶頂を迎えたのだ。 「はぁっ……はぁっ……ぅ……」 ぐったりと脱力し、荒い呼吸を繰り返す玲奈。その瞳は虚ろで、頬は興奮で上気している。顔を覆っていた手は力なくソファに投げ出され、その表情は完全に蕩けきっていた。 俺は彼女の身体から指を引き抜くと、自分のズボンのジッパーを引き下ろし、すでに限界まで膨張していた自身の分身を解放した。 「……玲奈。見てみろ」 俺の声に、彼女はゆっくりと虚ろな瞳を上げた。そして、俺の股間にそびえ立つ、赤黒い巨躯をその目に映した瞬間、彼女の瞳が驚きに見開かれた。 「……な、に……これ……。前の、人より……ずっと、おっきい……」 掠れた声で呟かれる、前任者との比較。その言葉は、俺の自尊心をくすぐり、昂りをさらに増大させた。 「欲しいんだろ?こいつが」 俺は彼女の顔のすぐそばに、自身の先端を突きつけた。熱く脈打つそこからは、我慢できずに溢れ出した先走りの液体が、きらりと光っている。 玲奈は、まるで催眠術にでもかかったかのように、ゆっくりと顔を近づけ、そして、恐る恐る、その赤い舌を伸ばした。 ぺろり、と亀頭の先端が舐め上げられる。その瞬間、ぞくりとした快感が背筋を駆け上った。 彼女は、どこかぎこちない動きで、俺のものを口に含み始めた。小さな口には、その太すぎる巨躯はすぐには収まらない。それでも彼女は、必死に喉を開き、少しずつ、少しずつ、俺の存在を受け入れていく。そのたどたどしい動きが、逆に俺の興奮を煽った。 やがて、彼女の奉仕に満足した俺は、その身体から顔を離させると、彼女の両脚を大きく開かせた。そして、俺の熱く硬い先端を、先程俺が絶頂に導いたばかりの、濡れそぼった入り口へと押し当てる。 「……いれるぞ、玲奈」 こくり、と彼女が小さく頷く。それを合図に、俺は一気に腰を突き出した。 「い"っ……!」 悲鳴にも似た、甲高い声。彼女の内側は、ひなたの時とはまた違う、 処女にも似た強い抵抗と、それでいて全てを吸い尽くすかのような強烈な吸い付きで、俺の巨根を迎え入れた。あまりの締め付けの強さに、俺は思わず歯を食いしばる。 「は……っ、ぁ……!お、奥まで……全部……はいってる……!」 根元まで完全に結合すると、玲奈は信じられないといった表情で、自身の腹部と俺の腰が繋がっている部分を見つめている。 俺がゆっくりと腰を動かし始めると、その度に彼女の身体がびくん、びくんと跳ねた。 「ひゃっ……!だ、だめ……!うごかさないで……!さっき、いったばっかり、だから……!」 指だけであれほど感じた彼女の身体は、本物の男根の刺激には、もはや耐えられなかった。俺が数回、腰を揺さぶっただけで、彼女の身体は再び痙攣を始める。 「あ、ああぁぁぁぁぁんっ!また、いっちゃうぅぅぅぅぅ……!」 いとも容易く、彼女は二度目の絶頂を迎えた。内壁が激しく収縮し、俺の竿を締め上げる。 その瞬間、それまでのクールな彼女が嘘のように、その態度が豹変した。 「……もっと」 「え?」 「もっと、動いて……!玲奈のこと、めちゃくちゃにして……!」 絶頂の快感が、彼女の中に眠っていたマゾヒスティックな本能を完全に目覚めさせたのだ。潤んだ瞳で俺を見上げ、自ら腰をくねらせて、俺のものを奥深くまで引き込もうとしてくる。 「ははっ、いいぜ。望み通り、壊れるまで可愛がってやるよ」 俺は彼女の腰を掴むと、狂ったように激しいピストンを繰り返した。 ぱん、ぱん、と湿った肉がぶつかり合う音が、ラウンジに響き渡る。ソファがぎしぎしと悲鳴を上げ、二人の身体は汗で滑り、熱く燃え上がっていた。 「あぁんっ!そこ、好きぃっ!もっと、強く、ついてぇっ……!」 玲奈は完全に理性を失い、ただ快感を求めるだけの雌と化していた。俺もまた、放出の予感に全身を支配され、最後の瞬間が近いことを悟る。 「玲奈っ!出すぞ……!中に、欲しいんだろ……!」 「うんっ!玲奈のお腹の中に、佐伯さんの、いっぱい……いっぱい注ぎ込んでぇぇぇぇぇっ……!」 その言葉を合図に、俺たちの絶頂が重なり合った。 「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉっ……!」 「い"ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっくぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……!」 俺の灼熱の精子が、彼女の子宮の最奥へと激しく叩きつけられる。それと同時に、玲奈もまた甲高い絶叫を上げて、三度目の絶頂を迎えた。内壁が痙攣しながら俺の竿を締め上げ、最後の最後まで、俺の精液を絞り尽くそうとする。 長い絶頂の嵐が過ぎ去り、俺は彼女の身体の中に、全てを注ぎ込んだ。 だが、俺はまだ終わらなかった。 「はぁ……はぁ……す、ごい……。玲奈、もう、だめ……」 ぐったりと呼吸を整えようとする玲奈。だが、俺はその喘ぎが収まるよりも早く、ゆっくりと腰を動かし始めた。 「ひっ……!?う、そ……まだ、うごく、の……?」 信じられない、といった表情で俺を見上げる彼女の瞳に、絶望と、そして抗いがたい快楽への期待が入り混じる。 「言っただろ。壊れるまで、ってな」 俺は悪魔のように微笑むと、再び激しい抽挿を再開させた。 もはや彼女に、抵抗する力は残っていなかった。ただ俺の腰の動きに翻弄され、されるがままに、何度も何度も絶頂の波に襲われる。 「あ、ああぁぁぁぁっ……!」 「い、い"っ……!」 「こ、こわれ……る……」 四度、五度、六度と、間断なく続く快感の嵐に、ついに彼女の意識が限界を迎えた。白目を剥き、口から小さく泡を吹きながら、彼女は俺の腕の中で、完全に意識を手放した。 失神した彼女の身体は、それでも快感に痙攣を続け、その内側は俺のものをまだ締め付け続けている。その淫らな反応に、俺は最後の理性を失った。 俺は、意識のない彼女の身体から、ずぶり、と自身の分身を引き抜いた。結合部からは、俺が注ぎ込んだ白濁液と、彼女の愛液が混じり合ったものが、とろり、と溢れ出してくる。 そして、まだ硬く屹立したままのそれを、彼女の無防備な身体に狙いを定めた。 「玲奈……お前の全部、俺のものだ」 下腹部に最後の力を込める。 迸った白濁の奔流は、放物線を描き、彼女のしなやかな下腹部、形の良い胸、そして、意識を失って蕩けきった、美しい顔へと、降り注いでいった。 べちゃ、べちゃ、と粘着質な音を立てて、俺の精液が彼女の白い肌を汚していく。それは、所有の証。俺が彼女を完全に屈服させた、勝利の印だった。 全てを出し尽くした俺は、その場に崩れ落ちるようにして、玲奈の隣に倒れ込んだ。 翌日。 事務所に現れた玲奈は、まるで別人のように、俺に対して恭順した態度を見せた。その瞳には、以前のような刺々しさはなく、どこか怯えと、そして熱っぽい光が宿っている。俺が何かを指示すれば、黙って頷き、忠実な犬のように従った。 ひなたは、そんな玲奈の変化を、どこか嬉しそうに、そして満足げに受け入れていた。まるで、自分の仲間が増えたことを喜ぶかのように。 そして、そんな俺たち三人の様子を、橘瑠衣が、何を考えているのか全く読み取れない、ガラス玉のような瞳で、じっと見つめていたのだった。 #パート4 玲奈が俺に屈してから、グループ内の空気は奇妙な安定を見せていた。ひなたは玲奈との間にあった見えない壁がなくなったことを素直に喜び、玲奈は甲斐甲斐しくひなたの世話を焼きながらも、その視線は常に俺を追い、主の命令を待つ忠犬のように潤んでいた。 三人の間に流れる、歪ではあるが穏やかでさえある調和。 だが、その輪の中心にいながら、ただ一人、橘瑠衣だけがその奇妙な均衡を、感情の読み取れないガラス玉のような瞳で見つめ続けていた。彼女の笑顔の仮面の奥で、一体何を考えているのか。俺には、それが不気味でならなかった。 そんなある日の午後、俺は鳳翔子社長に呼び出され、再びあの社長室の重厚な扉を叩いていた。 「失礼します」 「いらっしゃい、奏くん。待っていたわ」 窓を背にしたデスクの向こうで、翔子社長は優雅に微笑んでいた。あの日、この場所で彼女にすべてを奪われ、そして与えられた記憶が、鮮やかに蘇る。彼女の纏う芳醇な香りは、俺の身体の奥底に眠る獣を、いとも容易く呼び覚まそうとする。 「本日は、何か……」 「ええ。あなたに、そろそろ知っておいてもらわなければならないことがあるの。……瑠衣のことよ」 その名が出た瞬間、俺の背筋に微かな緊張が走った。やはり、彼女のことか。 「橘は、何か問題を?」 俺の問いに、翔子社長はふふ、と意味深に笑みを深めただけだった。そして、デスクの内線電話のボタンを一つ押す。 「入ってきてちょうだい」 短い言葉と共に、社長室の奥、来客からは見えない位置にあるプライベートな空間へと続く扉が、静かに開かれた。 そこに立っていたのは、橘瑠衣だった。 だが、その姿は、俺の知っている彼女とは全く異なっていた。 いつも着ているような、フリルやレースの施されたガーリーな服装ではない。身体のラインにぴったりとフィットした黒いスキニーパンツに、シンプルな白いVネックのTシャツ。短く整えられた金色の髪は、軽くワックスで立てられ、より活動的な印象を与えている。 それは、いわゆる「男装」というやつだろうか。いや、違う。纏う雰囲気が、根本から異なっている。華奢な骨格、しなやかな筋肉の付き方。いつもは必ずその首を飾っているチョーカーがなく、すっきりと開いた喉元。そこに、小さく、しかしはっきりと存在する、隆起。 アダムの林檎。それは、男性にしか存在しない、身体的特徴。 まさか。 そんな、ありえない。 俺の思考が、驚愕で完全に停止する。 橘瑠衣の性別は、女ではなかった。 彼は──男だったのだ。 「……どう?驚いた、マネージャー」 悪戯が成功した子供のように、瑠衣はにやりと笑った。その声は、いつも俺たちが聞いている、アニメ声優のように高く甘い声ではない。僅かに低く、それでいてよく通る、少年特有の響きを持っていた。 「な……ぜ……。だって、白石や黒瀬と、同じ部屋で……」 「ああ、ひなたちゃんも玲奈ちゃんも、僕が『こっち』だってことは知ってるよ。その上で受け入れてくれてるから、問題ないんだ。でしょ、社長?」 瑠衣が同意を求めると、翔子社長はこくりと頷いた。 「事務所の公式プロフィールにも、性別の欄は設けていないわ。まあ、熱心なファンの中には、薄々気づいている子も少なくないみたいだけれど。そこにはあえて触れないのが、暗黙の了解になっているのよ。瑠衣は、瑠衣という偶像である、ただそれだけのこと」 男の娘アイドル。 その存在は知識としては知っていた。だが、まさか自分が担当するグループに、そしてこれほど完璧な形で女性を演じきっているメンバーがいるとは、夢にも思わなかった。 「さて、私の役目はここまで。あとは、二人でゆっくり話すといいわ」 翔子社長はそう言うと、席を立ち、俺たちの横を通り過ぎて部屋を出て行った。残されたのは、俺と、男としての姿を現した橘瑠衣の二人だけだった。 重い沈黙が、部屋を支配する。先にそれを破ったのは、瑠衣の方だった。 「まあ、そんなに固くならないでよ。さ、こっち座って」 彼はひらひらと手を振り、俺をソファへと促した。その仕草の一つ一つが、性別を超越した、中性的な色香を放っている。俺は言われるがままにソファに腰を下ろすと、瑠衣もその隣に、軽やかに腰掛けた。 「マネージャーはさ、僕と社長がどういう関係か、知ってる?」 唐突な問いに、俺は言葉に詰まる。 「どういう、とは……」 「ふふん。まあ、知らないよね」 瑠衣は、どこか自慢げに胸を張った。薄いTシャツの生地が、その下に僅かに存在する膨らみを強調する。それは、脂肪によるものではない。筋肉の上に、ほんの少しだけ乗った、柔らかな肉。 「社長はね、僕の『女』なんだよ」 「……は?」 「言葉通りの意味さ。あの人は、僕に抱かれてる。まあ、最初は逆だったんだけどね。社長が僕の身体を『開発』して、より女性的な魅力を引き出す、とか言ってさ。乳首とか、後ろの穴とか、色々弄られて……それはそれで、気持ちよかったけど」 彼は、まるで他人事のように、淡々と衝撃的な事実を語っていく。 「でも、いつまでもされるがままじゃ、僕のプライドが許さない。だから、今度は僕が、あの人を堕としてやったんだ。僕のこの『男』の部分でね。あの気高くてプライドの高い女が、僕の腕の中で、僕のモノを欲しがって乱れる姿は、最高にそそる光景だったよ」 その言葉は、彼の本性が、ただの中性的な美少年などではなく、底知れない支配欲とナルシシズムを抱えた、危険な存在であることを物語っていた。 「あの面接の日、社長がマネージャーに言ったらしいね。『妊娠の心配はない』って」 俺は、息を呑んだ。なぜ、彼がその言葉を知っている。 「どうして、それを……」 「僕が教えたからさ。あの台詞を言うようにってね」 瑠衣の唇が、残酷なまでに美しい弧を描いた。 「あの人が妊娠の心配をしなくていいのは、もうとっくに、僕の子がお腹の中にいるからだよ。どう?すごくない?この僕が、あの鳳翔子を孕ませたんだ。ははっ、傑作だろ」 脳天を殴られたような衝撃。あの日の翔子社長の言葉の、本当の意味。それが、目の前のこの小柄な少年によって仕組まれていたという事実。俺は、自分がとてつもなく大きな掌の上で転がされていたことを、今更ながらに理解した。 「僕はね、誰よりも優れているんだ。女としての魅力も、男としての力も、その両方を完璧に兼ね備えている。ひなたちゃんや玲奈ちゃんみたいな、不完全な『女』とは違う。そして……」 瑠衣の瞳が、初めて剥き出しの敵意を帯びて、俺を射抜いた。 「マネージャーみたいな、ただの『オス』とも違う」 彼はゆっくりと立ち上がると、俺の目の前に立ち、その顎に指をかけて、くい、と上を向かせた。 「ひなたちゃんと玲奈ちゃんを堕としたんだって?大したもんだよ。でもね、キミと僕とじゃ、オスとしての『格』が違うんだ。それを、今から教えてあげる」 彼の指が、俺のシャツのボタンへと伸びる。抗えない。異性愛者であるはずの俺が、目の前の『男』が放つ、性別を超越した、抗いがたい魔力に完全に当てられていた。その瞳に見つめられると、身体の自由が利かなくなり、思考が麻痺していく。 背徳。その甘美な響きが、俺の脳を支配し始めていた。 瑠衣の細くしなやかな指が、俺の衣服を一枚、また一枚と剥ぎ取っていく。俺はされるがままに、あっという間に上半身を裸にされた。彼の冷たい指先が、俺の胸を、腹を、ゆっくりと這い回る。その度に、ぞくりとした悪寒にも似た快感が、背筋を駆け上った。 「……いい身体してるじゃん。鍛えてるんだね」 彼は感心したように呟くと、今度は自身のTシャツの裾を掴み、一気にそれを脱ぎ去った。 露わになった上半身は、驚くほどに引き締まっていた。無駄な脂肪は一切なく、しなやかな筋肉が薄い皮膚の下で躍動している。そして、その胸には、翔子社長によって開発されたという、小さな、しかしはっきりと膨らんだ乳房が存在していた。その先端は、すでに硬く尖り、俺を挑発するように佇んでいる。 「さあ、始めようか。男同士の、秘密の遊びを」 瑠衣は俺の上に跨ると、自身のスキニーパンツのジッパーを、じ、と音を立てて引き下ろした。そして、解放された自身の分身を、俺の裸の腹部に擦り付けてくる。 それは、彼の華奢な身体には不釣り合いなほど、堂々とした大きさを持っていた。俺が薬品の力で覚醒させられる前の、通常時のものよりも、明らかに大きい。 「どう?僕の方が、大きいみたいだね」 優越感に満ちた笑みを浮かべ、瑠衣は自身の昂りを、俺のものと擦り合わせるように腰をくねらせた。互いの裏筋同士が、じゅるり、と粘液を介して絡み合う。それは、女性との交合では決して味わうことのできない、直接的で、生々しい刺激だった。 だが、その刺激は、俺の中に眠っていた獣を、完全に目覚めさせてしまった。 最初は瑠衣のものより小さかった俺の分身が、彼の動きに合わせて、急速に熱を帯び、血液を吸い上げていく。どく、どくん、と脈打ちながら、それは見る見るうちに膨張し、硬度を増し、そして、瑠衣のものを遥かに凌駕する、凶器のような太さと長さに変貌を遂げた。 「……なっ!?」 その変化に、瑠衣の顔から余裕の笑みが消えた。彼は信じられないといった表情で、俺と自分のものを見比べている。 「う、そだろ……。なんだよ、それ……。僕のより、でかい、じゃん……」 驚愕に染まった彼の声は、もはや少年のものではなく、か細い少女のように震えていた。立場は、完全に入れ替わった。 瑠衣は、まるで聖遺物にでも触れるかのように、恐る恐る、俺の巨躯に手を伸ばした。そして、その熱と硬さを確かめるように、優しく、しかし執拗に扱き始める。 「……すごい。熱くて、硬い……。こんなの、初めて見た……」 恍惚とした表情で呟きながら、彼の指の動きは次第に熱を帯びていく。その姿は、もはや俺に格の違いを見せつけようとしていた自信家の少年ではなく、未知の快楽に身を委ねようとする、無垢な少女のようだった。 俺は身体を起こすと、彼の細い腰を抱き寄せ、その開発されたという胸の膨らみに、唇を寄せた。 「ひゃっ……!」 舌先で、硬くなった突起を転がすように刺激する。その瞬間、瑠衣の身体が、まるで感電したかのように、びくん、と大きく跳ねた。 「あ、ぁんっ……!だめ、そこ……社長にしか、さわらせたこと、ない……のにぃ……っ」 女性のように甘く、甲高い喘ぎ声。彼の身体は、脂肪が少ない分、全身が性感帯になっているようだった。俺の指が、背筋を、内腿を、脇腹をなぞるだけで、その度に彼の身体は敏感に震え、甘い声を漏らす。 先程までの自信に満ちた態度は見る影もなく、彼は完全に俺に身を委ね、ただ与えられる快楽に翻弄されていた。 「あ、あ、ああぁぁぁぁっ……!」 やがて、俺の指が、彼の両脚の付け根にある、柔らかい会陰部をぐり、と圧迫した瞬間。瑠衣の身体が、大きく弓なりに反った。 「い"っ……!いっちゃ、う……!あたし、もう、だめぇぇぇぇっ……!」 一人称が、「僕」から「あたし」に変わっている。完全に、雌としての意識に支配されている証拠だ。 彼の身体が、くくん、と小刻みに痙攣を始める。そして、彼の昂りの先端から、白濁した液体が、勢いを伴うことなく、とろり、とろとろと溢れ出した。それは、男性的な射精というよりも、女性が俗に言う「潮吹き」に近い、力のない放出だった。 俺が会陰部への刺激を続けると、その放出は長く、長く続き、力ない射精とは裏腹に、一回分とは思えないほどの大量の粘液が、ソファのレザーの上に、じわりと白い染みを作っていった。 「はぁ……はぁ……ぅ、ぁ……」 女性的な絶頂の嵐が過ぎ去り、瑠衣はうつ伏せのまま、ぐったりとソファに倒れ込んだ。その表情は満足げに蕩けきっている。 だが、俺は、まったく満たされていなかった。むしろ、彼の淫らな姿を見て、欲望はさらに燃え上がっていた。 俺は彼の身体を抱き起こすと、その豊満な尻を、俺の方へと向けさせた。二つの引き締まった肉丘の間に、固く閉じられた、小さな皺の寄った入り口。そこは、事前に丁寧に清められていたのか、まるで俺を待っていたかのように、無防備な姿を晒している。 「瑠衣……まだ、終わりじゃないぞ」 俺の言葉に、彼の身体がびくりと震えた。 「……うそ。まさか、後ろも……?」 「お前を、完全に俺のものにするためだ」 俺は自身の硬く熱い先端を、その未だ知らぬ禁断の入り口へと押し当てた。そして、躊躇なく、一気に腰を突き出す。 「い"ぎぃぃぃぃぃぃぃっ……!」 これまで聞いたこともないような、絶叫。彼の内側は、処女のそれ以上にきつく、灼熱の粘膜が、俺の巨躯を締め付けてくる。まるで、拒絶するかのように。だが、その抵抗は、俺の支配欲を煽るだけだった。俺は歯を食いしばり、彼の抵抗を力で捩じ伏せ、さらに奥深くへと、自身の存在を刻み込んでいく。 根元まで完全に結合した時、瑠衣の身体は痙攣したまま、完全に動きを止めていた。 「……っ、……っ、……っ」 声にならない喘ぎが、彼の唇から漏れる。俺は、彼が俺の大きさを受け入れるまで、しばらくの間、動きを止めて待った。 やがて、彼の内壁の痙攣が収まり、きつく締め付けていた筋肉が、僅かに緩んだ。それが、合図だった。 俺は、ゆっくりと、しかし力強く、腰を動かし始めた。 「ひっ……!あ、う、ごい……てる……!あたしの、おしり、のなかで……!マネージャー、の、おっきいのが……!」 ずぷ、ずぷ、と粘着質な水音が響き渡る。女性の膣内とは全く違う、筋肉質な内壁が、俺の竿をぐねるように、そして貪欲に絡め取ってくる。その異質な快感に、俺の脳は灼けるようだった。 俺の力強いピストンに合わせて、うつ伏せになった瑠衣の身体が、大きく前後に揺さぶられる。そして、先程彼自身が放った粘液で濡れた彼の分身が、ソファのレザーに擦り付けられ、再び刺激され始めた。 「あぁっ……!ま、また……!でちゃう、でちゃいますぅぅぅぅっ!」 今度は、先程とは全く違う、勢いを伴った射精だった。 びゅっ、びゅっ、と、彼の先端から、新たな白濁が激しく噴出される。男性としての、本能的な射精。 「い"ぃぃぃぃっくぅぅぅぅぅ……!だめ、とまらない、とまらな、いぃぃぃぃぃっ!」 男性的な絶頂と、女性的な絶頂。 その二つの異なる快感の波が、同時に、そして連続して、彼の身体を襲う。瑠衣は完全に正気を失い、ただ快感に悶絶し、白濁の精液を撒き散らし続けていた。その姿は、あまりにも淫らで、そして神々しいほどに美しかった。 その光景に、俺もまた、限界を迎えた。 「瑠衣ぃぃぃぃぃぃぃっ……!」 俺は彼の名前を叫びながら、下腹部の奥に溜め込まれていた、灼熱のマグマを解き放った。 どく、どくん、と、俺の心臓の脈動に合わせて、瑠衣が先程放った量を遥かに凌駕する、熱く、そして粘りのある精液が、彼の身体の最奥へと、激しく注ぎ込まれていく。 彼の狭い内側は、あっという間に俺のもので満たされ、許容量を超えた白い濁流が、入り口から溢れ出し、彼の白い尻の谷間を伝っていった。 「あ……ぁ……」 快楽の奔流に完全に蕩けきった瑠衣の身体から、ふっと力が抜ける。 そして、彼は、掠れた、それでいて甘い声で、俺に囁いた。 「……負け、ました。僕の、完敗です……。だから、あたしのこと、これからは……あなたの、好きにして……ご主人様……」 それは、完全な、屈服の宣言だった。 こうして、Starlight Prismの最後のピース、橘瑠衣もまた、俺の支配下に堕ちたのだった。 #パート5 蝉時雨が、まるで降り注ぐ陽光そのものに音があるかのように、世界を包み込んでいる。 夏。Starlight Prismのメンバーたちと、マネージャーである俺は、次なる大規模ライブに向けた強化合宿のため、都心から遠く離れた山間の温泉旅館に滞在していた。 ここは、スポンサーである天道製薬のグループ企業が経営する、会員制の高級旅館だという。広大な敷地には、俺たちのために貸し切りにされた宿泊棟と、最新鋭の設備を誇るレッスンスタジオが併設されている。俗世から完全に隔離されたこの場所で、メンバーも俺も、それぞれの立場で来るべき決戦の日に向けて、心身を磨き上げていくのだ。 昼間は、文字通り血の滲むような、地獄のレッスンが繰り返される。 ひなた、玲奈、瑠衣の三人は、一分の妥協も許さない完璧なパフォーマンスを目指し、汗と泥にまみれながら、歌とダンスの練習に明け暮れていた。俺は彼女たちのサポート役として、ドリンクの準備からタイムキーパー、時には振り付けの確認相手まで、出来ることは何でもやった。 鏡張りのスタジオに響き渡るのは、荒い呼吸と、シューズが床を擦る鋭い音、そしてトレーナーの容赦ない檄の声だけ。 だが、夜が訪れると、この場所は昼間とは全く違う、甘く濃密な空気に支配される。 「……奏くん。お背中、流しますね」 「マネージャー。今日のシャンプー、あたしがしてあげる」 「佐伯さん。……私のことも、見てください」 貸し切りの広大な檜風呂で、あるいは、それぞれに割り当てられた和室の、柔らかな布団の上で。 セレスティアル・ネクターによって極限まで増幅された彼女たちの性欲は、厳しいレッスンの疲労をものともせず、夜ごと俺の身体を求め、貪った。 ひなたの、太陽のような明るさと包容力に満ちた柔らかな身体。 玲奈の、クールな仮面の下に隠された、驚くほど従順でマゾヒスティックな肉体。 瑠衣の、男でもあり女でもある、性別の境界線を溶かす、倒錯的で官能的な肢体。 三者三様の魅力と欲望を、俺は毎晩、その身に受け止め、そして俺自身の、薬によって異常化した欲望をぶつける。それはもはや、単なる性欲処理という言葉では表せない、俺たち四人だけの、秘密の儀式と化していた。 互いの身体を求め、与え、満たし合うことで、俺たちは一つの共同体としての結束を、より強固なものにしていったのだ。 合宿が中盤に差し掛かった頃、グループ内に、僅かな、しかし確実な不協和音が生じ始めた。 原因は、玲奈だった。 今回の新曲は、これまで以上に複雑で、高度なダンススキルを要求されるものだった。持ち前の運動神経と身体能力で、ひなたと瑠衣は比較的スムーズに新しい振り付けをマスターしていった。ひなたは天性のリズム感と表現力で、瑠衣は中性的でしなやかな身体能力を活かして、トレーナーの要求するレベルを軽々とクリアしていく。 だが、玲奈だけが、その二人のペースについていけずにいた。 彼女は元々、努力と緻密な計算でパフォーマンスを構築するタイプだ。感覚的に踊るひなたや、身体能力そのものが規格外の瑠衣とは違い、一つ一つの動きを頭で理解し、反復練習を重ねることで完璧な形に仕上げていく。しかし、今回の振り付けは、その彼女のスタイルでは追いつけないほどの複雑さと、即興的な表現力を求められるパートが多かった。 鏡の前で、一人だけワンテンポ遅れる。ターンで軸がぶれる。要求された表情が作れない。 完璧主義者である彼女にとって、その一つ一つのミスが、鋭い刃となってプライドを切り裂いていく。ひなたと瑠衣が軽々とこなしていく姿が、その焦りをさらに増幅させた。 「黒瀬!動きが硬い!もっと体幹を意識しろ!」 「玲奈ちゃん、大丈夫?少し休憩する?」 「……平気よ」 トレーナーの叱責と、ひなたの気遣いの言葉が、今の彼女には毒にしかならなかった。大丈夫ではない。平気なわけがない。だが、それを素直に認めることができなかった。 日に日に、玲奈の表情から光が消え、その瞳には焦燥と苛立ちの色が濃く浮かぶようになっていった。そして、その鬱屈した感情の捌け口は、必然的に、一番身近で、そして彼女が心を許している(と同時に、甘えている)俺へと向けられた。 「佐伯さん!タオルが冷えてないじゃない!何度言ったら分かるの!」 「このスポーツドリンク、少し味が薄いわ。ちゃんと分量通りに作ったの?」 「……はぁ。本当に、使えないマネージャーね」 それは、明らかに八つ当たりだった。俺は彼女の精神状態を理解していたから、黙ってその理不尽な罵倒を受け止めた。だが、そんな俺の態度が、さらに彼女を苛立たせる。彼女が本当に求めているのは、そんな生温い同情ではないのだから。 その夜も、玲奈は夕食もそこそこに、一人でスタジオに籠っていた。 俺が夜食の差し入れを持ってスタジオを訪れると、音楽もかけずに、鏡の前で無言で同じ動きを繰り返す彼女の姿があった。汗でびっしょりと濡れた髪が頬に張り付き、その表情は苦悶に歪んでいる。 「玲奈。もう、今日はそのくらいにしたらどうだ」 俺の声に、彼女の動きがぴたりと止まった。鏡越しに、憎悪と侮蔑の入り混じった瞳が、俺を射抜く。 「……あなたに何が分かるっていうの」 絞り出すような、低い声だった。 「ひなたや瑠衣みたいに、才能に恵まれているわけじゃない。私は、人の何倍も努力しないと、あの子たちと同じ場所には立てないのよ。なのに、あなたは……!いつも、いつも、ひなたばかり!マネージャーのくせに、エコひいきして!私なんて、どうでもいいと思ってるんでしょう!」 感情の堰が、決壊した。 彼女はわっと泣き出しそうな顔で、次から次へと言葉をぶつけてくる。その内容は支離滅裂で、論理などどこにもない。ただ、溜まりに溜まった不安と孤独が、棘のある言葉となって噴出しているだけだった。 俺は黙って彼女の言葉を全て受け止めると、ゆっくりと彼女に近づき、その震える肩を、そっと抱きしめた。 「ひっ……!な、何するの……!離して……!」 玲奈は俺の腕の中で暴れ、必死に抵抗しようとする。だが、その力は弱々しく、むしろ俺の胸に顔を押し付けて、その存在を確かめるかのようだった。 「……よく、頑張ってるな」 俺は彼女の髪を優しく撫でながら、囁いた。 「俺は、ちゃんと見てるよ。誰よりも努力してる玲奈の姿を。ひなたが全てを照らす太陽で、瑠衣が気まぐれに瞬く星だとしたら、玲奈は月だ。静寂の中で、誰よりも気高く輝いている。その凛とした光は、本当に美しいよ」 俺の言葉に、彼女の身体から、ふっと力が抜けた。抵抗の動きが止まり、代わりに、しゃくり上げるような、か細い嗚咽が聞こえ始めた。 俺の胸に顔を埋めたまま、彼女は子供のように、声を殺して泣き続けた。 どれくらいの時間が経っただろうか。 やがて、その嗚咽が途切れ、静かになった頃、俺はゆっくりと彼女の身体を離した。 「……ごめんなさい」 涙でぐしゃぐしゃになった顔を、恥ずかしそうに俯けながら、玲奈はか細い声で謝った。 「ひどいこと、いっぱい言って……。私……」 「いいんだ。辛かったんだろ」 俺がそう言って微笑みかけると、彼女は再び、ぽろぽろと大粒の涙を零し始めた。だが、それは先程までの絶望の涙ではない。安堵と、そして甘えの入り混じった、温かい涙だった。 俺は彼女の手を取り、スタジオの隅に置かれたソファへと導いた。隣に座り、彼女の涙が止まるのを、静かに待つ。 やがて、彼女は涙の濡れた瞳で、潤んだ瞳で俺を見上げると、豹変したように、こてん、と俺の肩に頭を預けてきた。 「……慰めて」 囁くような、甘い声。 本当は、こうして欲しかったのだ。厳しい言葉で叱咤されるのでも、腫れ物に触るように同情されるのでもなく、ただ、無条件に受け入れて、甘えさせて欲しかった。だが、不器用な彼女は、それをストレートに言い出すことができず、真逆の態度しか取れなかったのだ。 「……しょうがないな」 俺は苦笑しながら、彼女の華奢な身体を抱き寄せた。そして、その涙で濡れた頬に、優しく口づけを落とす。 俺の唇が触れた瞬間、彼女の身体がびくりと震えた。俺はそのまま、彼女の瞼に、鼻先に、そして、震える唇へと、何度も、何度も、優しいキスを繰り返した。それは、性的な欲望を伴うものではなく、ただ、傷ついた彼女の心を癒すための、慈しみに満ちた行為だった。 やがて、彼女はうっとりと目を閉じ、俺のキスを受け入れ始めた。俺の首に、そっとか細い腕が回される。 彼女のレッスンウェアの裾から手を滑り込ませ、汗で湿った滑らかな背中を、ゆっくりと撫で上げた。指先が彼女の背骨をなぞるたびに、彼女の口から「んぅ……」と、甘い吐息が漏れる。 俺は彼女の身体をゆっくりとソファに横たえると、そのウェアを優しく脱がせていった。露わになった白い肌は、激しいレッスンの熱を帯び、ほんのりと上気している。 その肌の一点一点を確かめるように、唇と舌で愛撫していく。首筋から、鎖骨へ。そして、形の良い胸の谷間を滑り、その頂で硬く尖った突起を、優しく口に含んだ。 「ひゃっ……!ぁ、ん……」 指先で、もう片方の先端を弄んでやると、彼女の身体が弓なりにしなる。俺はその反応を楽しみながら、さらに下へ、下へと唇を這わせていった。引き締まった腹部、そして、タイツの上から、彼女の秘密の丘に、熱い吐息を吹きかける。 「んんっ……!だめ、そこは……っ」 彼女の身体が、羞恥と快感に震える。俺はそのタイツをゆっくりと引き下げると、すでに蜜で濡れそぼった、美しい秘裂を露わにした。 俺はそこに顔を埋めることはせず、代わりに、彼女の太腿の内側に、舌を這わせた。 「ひぅっ……!い、や……!くすぐった、い……!」 柔らかな肉を舐め上げ、時折、甘噛みする。彼女は身を捩って逃れようとするが、俺は彼女の腰を掴んで固定し、執拗な愛撫を続けた。 じらされ、焦らされ、彼女の秘裂からは、さらに大量の蜜が溢れ出してくる。 身体の準備も、そして心の準備も、もう十分に整った。 だが、その時、玲奈は俺の身体を、か細くも確かな力で押し返した。 「……待って」 潤んだ瞳で俺を見上げ、彼女は囁いた。その表情には、羞恥と、そして強い決意の色が浮かんでいる。 「今日は……私から、したいの」 そう言うと、彼女はゆっくりと身体を起こし、俺の前に跪いた。そして、まるで聖なる儀式に臨む巫女のように、厳かな手つきで、俺のズボンのベルトに手をかける。 「いつも、佐伯さんには貰ってばかりだから……。今日くらいは、私がお返しを、したい……。私の全部で、あなたを気持ちよくさせてあげたいの」 その健気な言葉と、真摯な眼差しに、俺の胸は強く打たれた。 彼女の小さな手が、俺の硬く熱い分身を解放する。彼女はそれをうっとりと見つめると、両手で優しく包み込み、そして、ゆっくりと顔を寄せた。 赤い舌が、先端の傘の部分を、まるで慈しむようにぺろりと舐め上げた。 「んっ……」 ひなたや瑠衣のそれとは違う、不器用で、たどたどしい、しかし懸命な奉仕。その一つ一つの動きが、俺の心を、そして肉体を、どうしようもなく昂らせていく。 彼女は俺の顔色を窺うように、時折潤んだ瞳でこちらを見上げ、そしてまた、俺の分身へと視線を戻す。その姿は、痛々しいほどに愛おしかった。彼女は意を決したように、先端をゆっくりと口に含んだ。柔らかな唇が、俺の亀頭を優しく包み込む。ひなたのように全てを呑み込む大胆さも、瑠衣のように技巧を凝らす余裕もない。ただ、壊れ物を扱うかのように、恐る恐る、その熱と硬さを確かめている。 「んぅ……っ」 小さな口には、俺の薬品で膨張した巨躯はあまりにも大きい。彼女は必死に喉を開こうとしているのが、こく、こくと動く喉元から伝わってくる。舌をどう動かせばいいのか分からないのだろう、ただ唇と舌で先端を挟み込み、もごもごと動かすことしかできない。だが、その不器用な刺激が、逆に俺の末端神経をじりじりと焼いた。 彼女は一度唇を離すと、はぁ、と熱い息を吐いた。口元は俺の先走りでぬらぬらと光っている。 「……おっきい、ですね……」 ぽつり、と呟く声は、感嘆と、そして少しの途方に暮れた響きがあった。それでも、彼女は諦めない。今度は、もっと深く受け入れようと、再び顔を寄せてきた。 「んぐ……っ、ぉぇ……」 無理に呑み込もうとして、えずきそうになるのを、彼女は片手で口元を押さえて必死に堪える。その瞳には生理的な涙が滲んでいた。それでも彼女は俺のものを離そうとはしない。むしろ、涙を堪えながら、俺の竿を根元まで扱き上げようと、ゆっくりと頭を上下させ始めた。 ごぷ、という生々しい水音が、静かなスタジオに響く。彼女の頬は、収まりきらない俺の太さで内側から押し広げられ、痛々しいほどに膨らんでいた。その健気な姿に、俺の下腹部は限界まで張り詰める。 「……玲奈。もういい」 俺は彼女の奉仕を制すると、その細い腕を引いて立ち上がらせた。そして、彼女を抱きかかえ、ソファの上に優しく横たえる。 「え……?で、でも、まだ……」 戸惑う彼女の唇を、俺は自身のそれで塞いだ。 「君の気持ちは、もう十分に伝わった。……今度は、俺の番だ」 俺は彼女の上に跨ると、対面座位の体勢を取った。そして、俺の昂りを、彼女の濡れた入り口へと導く。玲奈はこくりと頷くと、自らの手でそれを受け入れ、ゆっくりと自身の奥深くへと沈めていった。 「あ……ぁっ……」 熱く、滑らかな内壁が、俺の全てを呑み込んでいく。寸分の隙間もなく密着し、一体となる感覚。俺たちは見つめ合ったまま、互いの呼吸と、心臓の鼓動を感じていた。 俺はゆっくりと腰を動かし始めた。それは、これまでのような激しいピストンではない。ただ、互いの愛を確かめ合うかのような、深く、そして慈しむような動きだった。 「ん……ぅ……。さ、えき、さん……」 玲奈は恍惚とした表情で、俺の名前を呼ぶ。その瞳からは、再び涙が溢れ出していた。だが、それはもう、悲しみや不安の涙ではない。ただ、純粋な歓喜と、愛に満たされた涙だった。 俺たちの身体は、徐々に熱を帯び、動きは自然と速度を増していく。彼女は俺の背中に腕を回し、その爪を食い込ませ、俺もまた、彼女の華奢な身体を強く、強く抱きしめた。 ソファのスプリングが、俺たちの動きに合わせて規則的な軋み音を立て始める。ぐちゅ、ぐちゅ、と粘着質な水音が、二人の荒い呼吸に混じり合う。 最初は俺の動きに身を任せるだけだった玲奈が、やがて自ら腰を浮かせ、俺の律動に応えるように、婀娜っぽく揺れ始めた。熱い内壁が俺の分身を締め付け、その奥にある柔らかな一点を、俺の先端が抉るように擦り上げるたび、彼女の喉から「ひぅっ…!」と甘い悲鳴が迸る。 俺は彼女のうなじに顔を埋め、汗の匂いに混じる甘い香りを吸い込んだ。その肌に歯を立てると、彼女はびくりと身体を震わせ、さらに奥を収縮させて俺を締め付けた。 「玲奈っ……!」 「佐伯、さん……!」 互いの名前を呼び合い、そして、俺たちの魂は、一つの頂きへと昇り詰めていった。 俺の中で何かが弾け飛ぶ予感が、腹の底から突き上げてくる。玲奈もそれを感じ取ったのか、俺の背中を掻き毟る指の力が強まった。彼女の内部が、びく、びくと小刻みに痙攣を始める。もう限界だった。 俺は最後の力を振り絞るように、彼女の一番奥、命の源へと、俺の全てを叩きつけた。彼女の身体が大きく弓なりにしなり、その潤んだ瞳が、快感の極致に見開かれる。 互いの視線が絡み合い、溶け合っていく。世界の全てが、この瞬間に凝縮されたかのようだった。 「「い"ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっくぅぅぅぅぅぅぅぅっ……!」」 同時に訪れた、深く、そしてどこまでも優しい絶頂。 俺の熱い生命の奔流が、彼女の子宮の奥深くを満たしていく。それは、ただ欲望をぶつけ合うだけの行為ではない。傷ついた彼女の心を、俺の愛で満たしていく、聖なる儀式だった。 その時、俺たちは気づいていなかった。 俺と玲奈が交わるレッスンスタジオのドアが、ほんの僅かに開かれていたこと。 そして、その隙間から、二つの瞳が、俺たちの行為の全てを、食い入るように見つめていたことに。 ひなたと、瑠衣だった。 シャワーを浴び終えた二人は、なかなか戻らない玲奈と俺の様子を心配して、スタジオまで見に来たのだ。そして、ドアの隙間から漏れる、甘く切ない喘ぎ声に、全てを察した。 ひなたは、顔を真っ赤に染めながらも、その光景から目を離すことができなかった。 愛する幼馴染が、自分の大切な仲間を、愛し、慰めている。その光景は、嫉妬を通り越して、どこか神々しくさえあった。 自分も、あんな風に奏くんに愛されたい。玲奈ちゃんのように、奏くんの腕の中で、身も心も蕩けてみたい。 そんな想像が、彼女の下腹部に、甘い疼きを生じさせる。気づけば、彼女の手は、自身の浴衣の合わせ目に、無意識に滑り込んでいた。 隣に立つ瑠衣もまた、静かに、しかし熱のこもった視線で、その光景を見つめていた。 玲奈の、苦悶と快楽の入り混じった表情。佐伯の、獲物を支配する雄の顔。 美しい。 まるで、一幅の絵画のようだ。 あの玲奈が、あんなにも無防備な顔で、男に身を委ねている。佐伯奏という男は、一体どれほどの魔力を持っているのだろうか。 瑠衣の、性別を超越した心の中にも、今まで感じたことのない、ざわめきが生まれていた。好奇心。そして、ほんの少しの、嫉妬。 自分も、あの輪の中に加わりたい。あの二人の世界を、この手でかき乱してみたい。 瑠衣の華奢な指先もまた、自身の身体の、最も敏感な場所へと、自然に伸びていった。 ひなたも、瑠衣も、自分が同じように交わることを想像しながら、自身の身体を慰め始める。 ドアの隙間から漏れ聞こえてくる、玲奈の甘い喘ぎ声と、佐伯の低い呻き声。それが、最高の媚薬となった。 「ん……っ、かな、たくん……」 「……ふ、ぅ……。さえき、さん……」 互いの耳元に、自分たちの慰めの声が届く。 最初は恥ずかしそうにしていた二人だったが、高まる興奮の中、その羞恥心は徐々に麻痺していった。 やがて、ひなたの動きが、激しさを増していく。その腕が、ふと、隣に立つ瑠衣の肌に触れた。 びくり、と互いの身体が震える。 ひなたと瑠衣は、見つめ合った。 ひなたの瞳には、欲望と、そして戸惑いの色が浮かんでいる。 瑠衣の瞳には、悪戯っぽい、小悪魔のような輝きが宿っていた。 どちらからともなく、二人はゆっくりと顔を寄せ、そして、触れるだけの、優しいキスを交わした。 それは、友情とも、愛情とも違う、ただ、この場の熱気に当てられた、刹那的な行為だったのかもしれない。 だが、そのキスは、二人の間にあった最後の壁を、完全に溶かしてしまった。 瑠衣の手が、ひなたの浴衣の帯を、するりと解いていく。 ひなたの手もまた、瑠衣の身体を大胆にまさぐり始める。 互いの手が、互いの身体を這い回り、最も敏感な場所を探り当て、そして刺激し合う。 「んっ……るい、ちゃん……そこ……」 「ひなたちゃんこそ……ふふ、びしょ濡れじゃん」 くすくすと笑いながらも、その指の動きは執拗で、いやらしかった。 瑠衣の細く長い指が、ひなたの柔らかな丘を分け入り、すでに蜜で溢れる泉を探り当てる。ひなたの身体が甘く震え、熱い吐息が瑠衣の首筋にかかった。 瑠衣は悪戯っぽく笑うと、敏感な粘膜をなぞり、硬くなった小さな蕾を意地悪く弾いた。 「ひゃぅっ…!」とひなたが声を漏らすと同時に、ひなたの指も瑠衣の浴衣の奥へと侵入し、火照った肌をなぞる。その指が、女性のものとは明らかに違う、硬い熱の奔流に触れた瞬間、ひなたの動きがぴたりと止まった。 瑠衣はその反応を楽しみながら、ひなたの耳朶を甘噛みする。二人の下腹部はもう限界だった。 やがて、瑠衣はひなたの背後に回ると、彼女の耳元に囁いた。 「ねえ、ひなたちゃん。……僕と、してみない?」 「え……?で、でも……私たちは、女の子同士……」 「僕が『女の子』だけだって、本気で思ってる?」 瑠衣の言葉に、ひなたはハッとした顔をした。そして、瑠衣の股間に触れた彼女の手が、そこに確かに存在する、硬い熱の存在に気づく。 「あ……」 驚きに目を見開くひなたを、瑠衣は優しく抱きしめた。 「大丈夫。痛くしないから。……玲奈ちゃんとマネージャーの、真似っこ、しよ?」 その悪魔の囁きに、ひなたは抗うことができなかった。こくり、と小さく頷く。 瑠衣は満足げに微笑むと、ひなたの身体を支え、レッスンスタジオの冷たい壁に手をつかせ、四つん這いの姿勢を取らせた。無防備に突き出された、豊満で柔らかな尻。 瑠衣は自身の浴衣の裾をたくし上げると、すでに硬く昂っていた自身の分身を、ひなたの濡れた入り口へと導いた。 「……いくよ、ひなたちゃん」 ずぶり、と湿った音を立てて、瑠衣のものが、ひなたの身体の奥深くへと侵入していく。 「あぁっ……!るい、ちゃん、の……はいって、きた……っ」 中のスタジオでは、奏と玲奈が互いの身体を貪り合っている。 そして、その外の廊下では、ひなたと瑠衣が、禁断の果実を味わおうとしていた。 奏と玲奈の喘ぎ声が、まるでBGMのように響く中、瑠衣はひなたの身体の中で、ゆっくりと腰を動かし始めた。 「ん、ぅ……っ。ひなたちゃんの中、あったかくて、気持ちい……」 「るい、ちゃん……!おっきい、よぉ……」 それは、倒錯的で、背徳的な光景だった。 スタジオのドアの隙間から漏れる光が、廊下に横たわる二人の裸体を、まだらに照らし出す。汗で煌めく肌、絡み合う手足、そして、欲望に歪んだ、恍惚の表情。 瑠衣の腰の動きは、次第に激しさを増していく。それは、男としての本能から来る、荒々しい抽挿だった。 「あ、ぁんっ……!だめ、そんなに、はげしく……!玲奈ちゃんたちに、聞こえちゃう……!」 ひなたは必死に声を殺そうとするが、瑠衣はそれを許さない。わざと彼女の敏感な場所を抉るように突き上げ、甘い悲鳴を引き出そうとする。 瑠衣はひなたの髪を掴んで顔を上げさせると、壁に映る二人の影を見せた。 「見て、ひなたちゃん。すごい格好……」 その囁きが、ひなたの羞恥心を煽り、快感を増幅させる。瑠衣の腰が、ひなたの柔らかい尻肉に深く沈み込むたび、ぱん、ぱんと湿った打撃音が廊下に響いた。 ひなたはもう、自分がどうなってしまうのか分からなかった。奏と玲奈の声、瑠衣の荒い息遣い、自分自身の喘ぎ声、そして身体を貫く衝撃。全ての感覚が混じり合い、脳を蕩かしていく。 瑠衣は中の二人の気配を探りながら、頂点が近いことを感じ取り、最後のスパートをかけるように、その速度を上げた。 そして、中の奏と玲奈が、同時に絶頂を迎えた、まさにその瞬間。 「「い"ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっくぅぅぅぅぅぅぅぅっ……!」」 外の二人もまた、同時に快感の頂点へと達した。 「い"ぃぃぃぃぃぃっ……!」 「んんんんんんんんっ……!」 瑠衣の身体が大きく痙攣し、その男の証である熱い奔流が、ひなたの子宮の最奥へと、勢いよく注ぎ込まれていった。 ひなたもまた、内壁を激しく痙攣させ、瑠衣の全てを受け入れながら、甘い絶頂の波に身を委ねる。 奇しくも、同じ瞬間に、同じ場所で、四つの魂が一つに溶け合った。 それは、これから始まる、より深く、そして複雑に絡み合う、四人の関係性を暗示する、背徳の序曲だった。 #パート6 湯けむりの向こうに、月がぼんやりと滲んでいる。 山の夜気はひんやりと肌を刺すが、岩風呂を満たす湯は身体の芯までを温め、火照らせていた。ざあ、と遠くで風が木々を揺らす音と、ちろちろと湯が注がれる音だけが、静寂を支配している。 俺の腕の中には、一糸纏わぬ姿のひなたが、気持ちよさそうに身を預けていた。湯に濡れた彼女の栗色の髪が、俺の胸に張り付いている。 「……気持ちいいね、奏くん」 「ああ。最高だな」 水面に映る月明かりが、彼女の白い肌を、柔らかな曲線を描く背中を、そして豊かな胸の膨らみを、幻想的に照らし出している。昼間のレッスンの疲労が、じんわりと身体の奥から溶けていくようだった。 しばらくの間、俺たちは言葉もなく、ただ互いの体温と、この静かな夜の空気を味わっていた。 「奏くんが私たちのマネージャーで、本当によかった」 ふと、ひなたが俺の胸に頬をすり寄せながら、しみじみと呟いた。その声は心からの感謝に満ちている。 「奏くんがいてくれるから、私、頑張れるんだ。玲奈ちゃんも、瑠衣ちゃんも、きっと同じ気持ちだよ。……昔はね、こんな風に心から誰かを信じて、全部を預けられるなんて思ってもみなかったから」 その言葉には、単なる感謝以上の、切実な響きがあった。まるで、長いトンネルを抜けて、ようやく光を見つけた者のような。穏やかな湯の中で、彼女の心が、そっと過去の扉を開こうとしているのを感じた。 「……前のマネージャーさんのこと、思い出しちゃった」 その名前に、俺の身体が微かに強張る。ひなたは、それに気づいたのか、俺の胸に頬をすり寄せながら、言葉を続けた。 「すごく、優しい人だったんだ。私たちのことを、本当に大切に思ってくれてて。……私、あの人に憧れてた」 彼女の声は、どこか遠い過去を懐かしむような、穏やかな響きを持っていた。 「年上の、頼れる男性。右も左も分からなかった私たちを、いつも導いてくれる、大きな存在だった。……だから、甘えすぎちゃったんだと思う。私だけじゃなくて、玲奈ちゃんも」 彼女は、俺の胸に抱かれたまま、静かに告白を始めた。前任者と、彼女たち二人が、肉体関係にあったという、紛れもない事実を。 「あの人も、私たちと同じように薬を使ってた。だから、私たちを満たすことが、あの人の義務だって、分かってたはずなのに。私たちは、それに甘えて、あの人一人に、私たちの全部を背負わせちゃった。私たちの元気の源を、あの人一人への依存に求めちゃったんだ」 ひなたの声が、微かに震える。 「……それは、間違ってた。みんなに元気を分け与えるはずのアイドルが、たった一人を犠牲にして輝くなんて、そんなの、偽物だよ。だから、あの人が限界だって言って辞めていった時、悲しかったけど、どこかでホッとした自分もいたの。……これで、変われるかもしれないって」 彼女はゆっくりと身体を起こすと、濡れた瞳で、まっすぐに俺を見つめた。湯の雫が、その長い睫毛から、きらりと零れ落ちる。 「でもね、奏くんが来てくれて、分かったんだ。玲奈ちゃんも、瑠衣ちゃんも、そして奏くんも。今の、この四人の関係が、私が本当に求めていたものなんだって」 彼女の瞳に、強い光が宿る。それは、ステージの上で見せる、ファンを魅了する輝きとは違う、一人の女性としての、確固たる意志の光だった。 「誰か一人に依存するんじゃなくて、みんなで支え合って、元気を分け合って、そして、みんなで一緒に高め合っていく。……これが、私たちの理想の形。奏くんは、そう思わない?」 その言葉の、あまりの熱量に、俺はただ頷くことしかできなかった。 そうだ。俺も、そう思う。 この歪で、倒錯的で、背徳に満ちた関係は、しかし、不思議なほどの安定と、そして絶対的なまでの結束を、俺たちにもたらしていた。 ひなたは、ふわりと、花が綻ぶように微笑んだ。 そして、その熱っぽい瞳のまま、俺の身体に、そっとその柔らかな身体を寄せてくる。 「ねえ、奏くん」 吐息がかかるほど近くで、彼女は囁いた。 「今の、この気持ちのまま……私を、抱いて?」 その言葉は、もはや問いかけではなかった。 抗うことのできない、甘い命令。 俺は彼女の細い腰を抱き寄せ、その震える唇を、深く、貪るように塞いだ。 湯の中で交わされるキスは、熱く、そしてどこまでも優しい。互いの舌が絡み合い、唾液が混じり合う。ひなたの小さな手が、俺の濡れた背中を、胸を、そして、すでに湯の熱以上に熱く硬くなっている下腹部へと、ゆっくりと滑り降りていく。 俺の指もまた、彼女の身体の輪郭を確かめるように、その滑らかな肌の上を彷徨った。しなやかな首筋、柔らかな肩のライン、そして、手のひらに収まりきらないほどの、豊かな胸の膨らみへ。指先で、硬く尖った先端に触れると、彼女の身体がびくん、と震え、俺の口の中に甘い吐息が流れ込んできた。 湯の中で、互いの肌を滑らせる指の感触は、普段とは違う、どこか幻想的な滑らかさを持っている。水滴が、ダイヤモンドのように煌めきながら、彼女の胸の谷間を伝い落ちていく。その光景だけで、俺の昂りは、もはや制御不能な領域へと達しようとしていた。 俺は彼女の身体を抱きかかえ、湯船の縁にある、身体を横たえるための浅い岩場へと導いた。彼女をそこに仰向けにさせ、その美しい裸体を、月の光と湯けむりの中で、改めて見下ろす。 「……綺麗だ、ひなた」 「奏くん……」 潤んだ瞳で俺を見上げる彼女の、白い両脚の間に、俺はゆっくりと膝をついた。 俺の分身は、これまでのどの時とも比較にならないほど、硬く、大きく、その存在を主張していた。セレスティアル・ネクターの影響か、あるいは、ひなたとの、玲奈との、瑠衣との経験を重ねたためか。赤黒く変色したそれは、怒張した血管をくっきりと浮き上がらせ、まるでそれ自体が一個の生命体であるかのように、どく、どくと力強く脈打っている。放つ熱気は、周囲の湯気すらも歪ませているかのようだった。 「……すごい。こんなに、おっきくて……黒光りしてる……」 ひなたは、うっとりとした表情で、俺の昂りに手を伸ばした。そして、まるで祈りを捧げるかのように、その両手で優しく包み込む。 「奏くんの、ぜんぶ……。ひなたの中に、ください……」 その言葉を合図に、俺は彼女の身体の上に、ゆっくりと覆いかぶさった。 正常位。 最もシンプルで、そして、最も互いの顔と、心臓の鼓動を感じられる体勢。 俺は自身の先端を、すでに蜜で濡れそぼり、湯気の中で妖しく煌めいている彼女の入り口へと導いた。 ひなたはこくりと頷くと、俺の背中に両腕を回し、その全てを受け入れる準備ができたことを、その身体で示した。 「……ひなた。愛してる」 「……私も、愛してるよ、奏くん」 互いの愛を確かめ合った、その瞬間。 俺は、ゆっくりと、しかし確かな力で、腰を沈めていった。 「あ……ぁっ……!」 熱く、滑らかな粘膜が、俺の亀頭をじわりと包み込む。ひなたの内壁は、湯で温められた以上に熱く、そして、俺の存在を確かめるように、きゅう、と優しく脈打っていた。 ずぶり、と湿った音を立てて、俺の全てが、彼女の子宮の最奥へと到達する。 寸分の隙間もなく、二つの身体は一つに溶け合った。 「ん、ぅ……っく……」 ひなたの瞳から、一筋、涙が零れ落ちた。 それは、痛みや悲しみの涙ではない。ただ、愛する人と結ばれる、その純粋な悦びに、彼女の魂がむせび泣いているのだ。 俺はその涙を舌で優しく拭うと、ゆっくりと、腰を動かし始めた。 最初は、深く、そして慈しむように。 彼女の内部の、一番敏感な場所を探り当て、そこを優しく圧迫する。その度に、ひなたの口から「んっ、ふぅ……」と、甘く切ない吐息が漏れた。 やがて、その動きは、次第に情熱を帯びていく。 俺たちの呼吸は荒くなり、肌と肌がぶつかり合う、生々しい水音が、静かな夜の温泉に響き渡り始めた。 ひなたは俺の背中を掻き立て、俺もまた、彼女の柔らかな尻を鷲掴みにして、より深く、より強く、自身の存在を彼女の中に刻みつけていく。 「あ、ぁんっ……!かなた、くん……!好き、好きぃ……っ!」 「ひなた……っ!」 もはや、そこに言葉は必要なかった。 ただ、互いの名前を呼び合い、互いの身体を求め、貪り合う。 下腹部の奥で、灼熱のマグマが渦を巻く。俺も、彼女も、同時に、その瞬間が近いことを悟っていた。 「いっしょに、いこ……?奏くん……っ」 「ああ……!ひなたの中に、全部……!」 俺たちの身体が、一つの頂点を目指して、激しく、そして美しく、燃え上がった。 「「い"ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっくぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ……!」」 同時に訪れた、天を揺るがすほどの、激しい絶頂。 俺の腰が大きくしなり、灼熱の精液が、彼女の子宮の奥深くへと、叩きつけるように注ぎ込まれていく。 ひなたもまた、甲高い絶叫を上げて、その身体を大きく弓なりに反らせた。彼女の内壁が、びく、びくん、と激しく痙攣し、俺のものを最後の最後まで絞り尽くさんと、貪欲に脈打っている。 愛と、快感が、完全に一つになった、至高の瞬間だった。 彼女の内なる太陽が、飲み下した膨大な熱を糧として、生命そのものの原初的な輝きを、その中心で神々しいほどに燃え上がらせていた。 いっぽう、その時。 露天風呂へと続く脱衣場では、二つの影が、息を潜めていた。 湯船に入るタイミングを完全に見失ってしまった、玲奈と瑠衣だった。 板張りの隙間から、二人は、奏とひなたが結ばれる、その一部始終を覗き込んでいたのだ。 月の光に照らされた、二つの裸体。絡み合う肢体。そして、漏れ聞こえてくる、甘く切ない喘ぎ声。 玲奈は、その光景から目を離すことができなかった。 奏を、そしてひなたを、彼女は等しく愛している。だからこそ、二人が結ばれる姿は、自分のことのように嬉しく、そして同時に、どうしようもないほどの寂しさを、その胸に感じさせていた。 自分は、あの輪の中には入れない。 そんな孤独感が、彼女の美しい横顔に、翳りを落としていた。 その、どこか寂しそうな横顔に、隣に立つ瑠衣の、悪戯心が向けられた。 「……玲奈ちゃん」 耳元で、囁かれる、甘い声。 玲奈がはっとして振り返るより早く、瑠衣の細くしなやかな指が、彼女の浴衣の合わせ目に、するり、と滑り込んだ。 「ひっ……!る、瑠衣……!何するの……!」 驚き、身を捩って逃れようとする玲奈。 だが、瑠衣は彼女の身体を壁に押し付けると、その耳元に、さらに囁きを吹き込んだ。 「見てごらん。マネージャーの手つきを。……ひなたちゃんの、あそこを、あんな風に……」 瑠衣の手は、露天風呂で行われている、奏からひなたへの愛撫の動きを、寸分違わずになぞっていく。 玲奈の、湯上りで火照った肌の上を、滑らかに、そして官能的に。 「ほら、玲奈ちゃんのここも……マネージャーに、こうやって触られると、気持ちいいんでしょ?」 瑠衣の指が、玲奈の胸の膨らみに触れる。薄い浴衣の生地の上から、硬くなった先端を、くりくりと弄ぶ。 「んっ……!や、やめ……」 玲奈は言葉の上では抵抗する。だが、その身体は正直だった。びくん、と腰が震え、その口からは、甘い吐息が漏れ始めている。 覗き見ている背徳感と、瑠衣による予期せぬ愛撫。二つの刺激が、彼女の理性を急速に麻痺させていく。 もはや、奏とひなたの交合から、目を逸らすこともできない。二人の姿が、声が、最高の媚薬となって、玲奈の身体を内側から蝕んでいく。 瑠衣は、そんな玲奈の反応を、楽しむように観察しながら、さらに大胆に、その身体をまさぐり始めた。 浴衣の帯が、音もなく解かれる。はだけた合わせ目から、豊満な乳房が、月明かりの下に晒された。瑠衣はそこに顔を埋めるようにして、片方の先端を、ちゅ、と音を立てて吸い上げた。 「ひゃぅっ……!だ、だめ……!そんな音、立てちゃ……!ひなたたちに、聞こえちゃう……!」 焦る玲奈の声は、しかし、興奮で上擦っている。 瑠衣はくすくすと笑うと、今度はその手を、玲奈の下腹部へと滑らせていった。すでに、浴衣の生地は、彼女が自ら分泌した蜜で、じっとりと湿り始めていた。 「玲奈ちゃん、正直だね。……もう、こんなに濡らしちゃって」 「ち、違う……!これは、その……」 言い訳の言葉は、続かなかった。 瑠衣の指が、湿った生地の上から、彼女の秘裂の最も敏感な一点を、ぐり、と強く圧迫したからだ。 「んんんっ……!」 声にならない悲鳴が、玲奈の喉から迸る。腰ががくがくと震え、両脚から力が抜けていく。瑠衣は、その崩れ落ちそうになる身体を支えると、彼女の耳元に、悪魔のように甘い言葉を囁いた。 「……ねえ、玲奈ちゃん。僕と、しよっか」 その言葉は、拒絶を許さない、絶対的な響きを持っていた。 玲奈は、潤んだ瞳で瑠衣を見つめ返す。その瞳には、戸惑いと、羞恥と、そして、抗いがたい欲望の色が、複雑に揺らめいていた。 「……だめよ、そんなこと……ひなたたちが、すぐそこに……」 言葉で抵抗しながらも、彼女の身体は、むしろ積極的に、瑠衣を受け入れようとしていた。瑠衣の胸に、自らその柔らかな乳房を押し付け、腰を微かにくねらせる。 瑠衣は、それを確かめると、満足げに微笑んだ。 「いい子だ」 彼は玲奈の身体を抱きかかえると、脱衣場の隅、露天風呂からは死角になる場所へと運び、冷たい板張りの上に、優しく横たえた。 そして、玲奈の浴衣を完全に剥ぎ取ると、自身のそれも脱ぎ捨て、その美しい裸体を、玲奈の前に晒す。 男でもあり、女でもある、完璧なまでの造形。 玲奈は、息を呑んだ。 瑠衣は、その華奢な身体には不釣り合いなほどに雄々しく屹立した自身の分身を、玲奈の眼前へと突きつけた。 「……玲奈ちゃんの舌で、綺麗にして?」 それは、命令だった。 玲奈は、まるで操り人形のように、ゆっくりと顔を近づけ、そして、その赤い舌を伸ばした。 ひなたが奏にしていたように、慈しむように、そして懸命に。 その奉仕に、瑠衣は恍惚とした表情を浮かべていた。 やがて、準備が整ったと判断した瑠衣は、玲奈の身体の上に跨った。 そして、自身の熱く硬い先端を、すでに溢れんばかりの蜜で濡れそぼった、彼女の入り口へと押し当てる。 「……いくよ、玲奈ちゃん」 ずぶり、と湿った音を立てて、瑠衣の男の証が、玲奈の女の聖域へと、深く、深く、侵入していく。 「あぁっ……!る、瑠衣の……!おっきいのが……!玲奈の中に……!」 瑠衣が動くまでもなく、玲奈の方から、自ら激しく腰を上下させ、その異物を奥深くまで迎え入れ始めた。 それは、奏に抱かれる時とは全く違う、どこか倒錯した、背徳的な快感だった。 「ん、ぅ……っ!玲奈ちゃん、すごい……!自分から、動いてる……!」 「だって……!瑠衣の、気持ちいい、から……っ!」 露天風呂から聞こえてくる、奏とひなたの愛の声。 そして、脱衣場で交わされる、玲奈と瑠衣の、禁断の喘ぎ。 それは、四つの魂が織りなす、奇妙で、そして美しい、愛の四重奏だった。 やがて、露天風呂の二人が、同時に絶頂を迎えた、まさにその時。 「「い"ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっくぅぅぅぅぅぅぅぅっ……!」」 脱衣場の二人もまた、同時に快感の頂点へと達した。 「い"ぃぃぃぃぃぃっ……!」 「んんんんんんんんっ……!」 瑠衣の身体が大きく痙攣し、その白濁した生命の奔流が、玲奈の子宮の奥深くを、熱く、深く、満たしていったのだった。 四つの絶頂が重なり合った残響が、山の夜気に静かに溶けていく。脱衣所の冷たい板の上で、玲奈は瑠衣の腕の中で荒い息を繰り返していた。身体の奥で、注ぎ込まれたばかりの熱い生命が、とくん、と脈打つのを感じる。それは、月の光だけが知る、甘く背徳的な秘密。複雑に絡み合った四人の運命が、もう二度と解けないほど固く結ばれた、静かな夜だった。 #パート7 眩いほどの光の洪水が、俺の全身を焼き尽くすようだった。 地鳴りのような歓声が、巨大なホールの空気を震わせ、床を、壁を、そして俺の心臓の奥深くまでを揺さぶる。数千、数万の想いが一つになった熱狂の奔流。その渦の中心で、三人の少女が、神々しいまでの輝きを放っていた。 合宿の成果は、想像を遥かに超える形で結実した。 ひなた、玲奈、瑠衣。三人のパフォーマンスは、もはや単なるアイドルという枠組みを完全に超越していた。歌声は、一つの生命体のように重なり合い、溶け合い、聴く者の魂を直接揺さぶる。ダンスは、完璧なシンクロ率を誇りながらも、それぞれの個性を鮮やかに主張し、観る者を一瞬たりとも飽きさせない。 それは、奇跡だった。俺たち四人が、あの山間の旅館で、昼も夜も、身も心も一つにして紡ぎ上げた、一夜限りの奇跡。 アンコールの最後の曲が終わり、鳴り止まない拍手と歓声の中、三人はステージの中央で、互いの肩を抱き合い、汗と涙でぐしゃぐしゃになった顔で笑い合っていた。 やがて、センターに立つひなたが、マイクを握りしめ、力の限りに叫んだ。 「今日は、本当に、本当にありがとうございました!」 その声は、感極まって震えている。 「私たちが、今、こうしてここに立っていられるのは……!辛い時も、苦しい時も、いつも、いつも、私を支えてくれる、みんなのおかげです!」 びりびりと空気を震わせる、魂の絶叫。客席のファンたちは、その言葉を一身に受け止め、さらに大きな歓声で応える。 だが、俺には分かっていた。 彼女のその言葉が、本当は誰に向けられたものなのか。 ステージの上で輝く彼女の、潤んだ瞳が、真っ直ぐに捉えている先。それは、客席の向こう側、この熱狂を固唾を飲んで見守っている、舞台袖の俺たちだった。 支えてくれる、みんな。 それは、玲奈であり、瑠衣であり、そして、マネージャーである、俺のことだ。 彼女の感謝の言葉は、俺たち四人だけの、秘密の愛の告白。 その真意を知る者は、この巨大なホール広しといえども、ごく僅かしかいない。 俺は、胸の奥から込み上げてくる熱いものを、ぐっと堪えた。隣に立つ玲奈と瑠衣も、同じ気持ちなのだろう。玲奈は唇を固く結び、瑠衣はいつもの飄々とした笑みを浮かべながらも、そのガラス玉のような瞳を、微かに潤ませていた。 ◇ あの伝説の夜から、季節は一巡りした。 「んぎゃあ、んぎゃあああ!」 けたたましい赤ん坊の泣き声が、都心の高層マンションの一室に響き渡る。 俺は慣れた手つきで哺乳瓶に粉ミルクを入れ、ポットの湯を注ぎ、手首の内側で温度を確かめていた。 「はいはい、今行くからなー。ちょっと待ってろよ、陽葵(ひまり)」 リビングに置かれたベビーベッドを覗き込むと、小さな女の子が、手足をばたつかせながら懸命に泣いていた。ひなたによく似た、くりくりとした大きな瞳が、涙で濡れている。 俺が哺乳瓶をその小さな口元に運んでやると、彼女はぴたりと泣き止み、ちゅぱちゅぱと夢中でミルクを吸い始めた。その健気な姿に、俺の口元が自然と緩む。 あのライブから数ヶ月後、人気が絶頂に達したまさにその時、Starlight Prismは突如として半年の活動休止を発表した。表向きの理由は「次なるステージに向けた充電期間」。ファンの間では様々な憶測が飛び交ったが、本当の理由は、ひなたと玲奈の膨らみ始めたお腹を、世間の目から隠すためだった。 「あら、奏くん、お疲れ様。陽葵、ご機嫌みたいね」 ふわりと甘い香りと共に、部屋着姿のひなたが、リビングに入ってきた。その腕の中には、もう一人、すやすやと眠る赤ん坊が抱かれている。 「湊(みなと)は、ぐっすりだな」 俺がそう言うと、ひなたは愛おしそうに、腕の中の男の子の頬を撫でた。 そう。事務所が用意したこのセキュリティ万全のマンションで、俺たちだけの秘密を抱えながら、二人は奇跡のように、ほとんど時を同じくして新しい命をこの世に送り出したのだ。 ひなたが産んだのが、女の子の陽葵。そして玲奈が産んだのが、男の子の湊。 約束された半年という短い休止期間。産後の回復もままならないうちから、彼女たちはステージへと帰ってきた。その常人離れした復帰劇は、セレスティアル・ネクターの恩恵か、あるいは母となった彼女たちの執念の為せる業か。 「ふふ。陽葵は奏くんのミルクが一番好きなんだから。私、ちょっと嫉妬しちゃうな」 ひなたは悪戯っぽく笑いながら、俺の隣に腰を下ろした。その表情は、ステージの上で見せるアイドルの顔ではなく、穏やかで慈愛に満ちた、母親の顔をしていた。 「湊も、佐伯さんにあやしてもらうと、いつもすぐに眠ってしまうわ」 いつの間にかリビングに入ってきていた玲奈が、柔らかな笑みを浮かべて言った。彼女もまた、以前の刺々しさが嘘のように、穏やかな空気を纏っている。母性は、彼女を強く、そして優しく変えたようだった。玲奈は俺の淹れたハーブティーをカップに注ぎながら、ごく自然に俺の肩に寄り添ってくる。 俺の日常は、マネージャー業務に加え、二人の赤ん坊の世話という重大な任務によって、物理的な限界を超えていた。おむつを替え、ミルクをやり、風呂に入れ、寝かしつける。セレスティアル・ネクターのおかげで、俺の体力と気力は常人を遥かに凌駕しているとはいえ、この二十四時間体制の激務は、さすがに骨が折れる。 「ねえ、マネージャー」 ソファの反対側で、瑠衣がタブレットを操作しながら、にやにやとこちらを見ていた。 「陽葵も湊も、どっちに似てるかなあ?僕の芸術的な遺伝子を受け継いでるかもしれないし、マネージャーの野性的な遺伝子かもしれないし。まあ、どっちでも可愛いからいっか」 そう。 陽葵の父親が誰なのか。湊の父親が誰なのか。 その答えは、誰にも分からなかった。 あの合宿の夜、ひなたは俺と交わり、そして瑠衣とも交わった。玲奈もまた、俺と、そして瑠衣と肌を重ねた。 誰の種が、彼女たちの子宮の中で芽吹いたのか。確かめる術はなく、そして、俺たちの中に、それを確かめようとする者はいなかった。 陽葵も、湊も、俺たち四人の子供。 それで、十分だった。 「全く、お前は気楽でいいよな……」 俺が呆れたように言うと、瑠衣はタブレットから顔を上げ、悪戯っぽく舌を出した。彼の、俺に対する態度は、あの日、社長室で完全に屈服させられて以来、どこか甘えを含んだ、それでいて挑発的なものに変わっていた。主従関係にも似た、俺たち二人だけの秘密の絆が、そこには存在している。 ピンポーン、と軽快なチャイムの音が鳴り、玄関のモニターに来客の姿が映し出された。そこには、ベビーキャリアを抱えた、見慣れた絶世の美女の姿があった。 「あら、社長」 ひなたが玄関を開けると、鳳翔子社長が、いつもと変わらぬ優雅な足取りでリビングへと入ってきた。その腕に抱かれたベビーキャリアの中では、小さな赤ん坊が、健やかな寝息を立てている。 「ごきげんよう、みんな。あら、奏くん、すっかり板についたじゃない、イクメンぶりが」 翔子社長はくすくすと笑いながら、ベビーキャリアをそっと床に置いた。 そう、子供を産んだのは、ひなたと玲奈だけではない。社長もまた、瑠衣の子を、無事に出産していたのだ。 「悪いけど、奏くん。この子も、お願いできるかしら?私、これから大事な会食があって。あなたなら、安心して任せられるわ」 「え……いや、しかし、さすがに三人となると……」 俺が狼狽するのを、翔子社長は楽しむように見つめている。 「大丈夫よ。あなたならできるわ。だって、あなたは私たちの、最高のマネージャーですもの」 その言葉は、もはや拒絶を許さない、絶対的な響きを持っていた。 俺は、天を仰ぎ、深いため息をついた。 俺は一体、何人の子供の父親で、何人の子供の育ての親なんだ……。 この生活は、常軌を逸している。だが、不思議と不幸ではなかった。むしろ、この騒がしく、奇妙で、そして温かい日々に、俺は満たされている自分を感じていた。 半年のブランクを感じさせない、Starlight Prismの完璧な復活。 母親になったことで、ひなたの歌声には、全てを包み込むような包容力が加わった。玲奈のダンスには、守るべきものを得た者の、揺るぎない強さが宿った。そして瑠衣は、父となったことで、その中性的な魅力に、抗いがたいほどの深みと色香が増していた。 彼女たちの輝きは、少しも失われてなどいなかった。むしろ、以前よりも遥かに強く、そして気高く、ステージの上で咲き誇っている。 リビングの大きな窓から、午後の柔らかな陽光が差し込んでいる。 ミルクを飲み終えて満足げな寝息を立てる、陽葵と、社長の息子。 ひなたの腕の中ですやすやと眠る、湊。 その三人の赤ん坊を、俺と、ひなたと、玲奈と、瑠衣が、穏やかな表情で囲んでいる。 それは、どこにでもある、幸せな家族の肖像画のようだった。 だが、俺たちの関係は、家族という言葉だけでは到底括ることのできない、複雑で、歪で、そして何よりも強い絆で結ばれている。 アイドルたちとマネージャーの、秘密に満ちた日々は、これからも続いていく。 この輝きと、この愛と、そして、誰にも知られてはならない甘い罪を、胸の奥に抱きしめながら。 きっと、永遠に。 (了) ###プリズムは天上の蜜を求めて (第零部・前日譚) #パート1:白石ひなたの初体験 ~ The First Drop ~ 私の身体の奥、たぶん、おへそのずっと下あたりに、小さな太陽が宿っているみたいだった。 それはいつも、じんわりと熱を持っていて、私が走ったり、歌ったり、踊ったりすると、その熱を増して、身体中に温かい血を巡らせる。レッスンでどれだけ汗をかいても、息が切れても、この太陽が輝いている限り、私はずっと動き続けられるような気がした。 鳳翔子社長が、私たちに「特別なサプリメント」だと言って、小さな小瓶を手渡したのは、まだ肌寒い春のことだった。 「あなたの才能を、もっと輝かせるための魔法よ」 そう言って微笑む社長は、お母さんと同じくらいの歳のはずなのに、まるでお姉さんのように綺麗で、その言葉には逆らえない不思議な力があった。 セレスティアル・ネクター。天上の霊薬、なんて、少し大げさだな、と思ったけれど、玲奈ちゃんが真剣な顔で頷くのを見て、私もこくりと頷いた。玲奈ちゃんは、いつも真面目で、ストイックで、私なんかよりずっとアイドルに向いている女の子だ。その玲奈ちゃんが信じるなら、きっと、すごいものなんだろう。 それから、私の身体の中の太陽は、少しずつ、その輝きを増していった。 疲れを知らなくなった。どんなに激しいレッスンを繰り返しても、次の日には嘘みたいに身体が軽かった。声の伸びも、ダンスのキレも、自分でも驚くほどに見違えていった。 でも、その太陽は、時々、私にも分からないくらい熱くなりすぎることがあった。 特に、夜、一人でベッドに入った時。 身体の中心が、きゅう、と疼くように熱くなる。全身の血がそこに集まって、どく、どくと脈打つのが分かる。なんだか、すごく寂しくて、切なくて、誰かにぎゅっと抱きしめてほしくなるような、そんな不思議な感覚。私はその疼きを紛わすように、ぎゅっと枕を抱きしめて、眠りにつくしかなかった。 Starlight Prismに、新しいメンバーが加わったのは、そんな毎日が続いていた頃だった。 「橘瑠衣です。よろしくね」 ふわふわの金色の髪。大きくて、ガラス玉みたいに綺麗な瞳。手足も、胴も、触れたら壊れてしまいそうなくらいほっそりとしていて、まるでお人形さんみたいだった。その華奢な首には、いつも黒いレースのチョーカーが巻かれていて、それが彼女のミステリアスな雰囲気を一層引き立てていた。 でも、瑠衣ちゃんがひとたび踊り出すと、その印象は一変した。 しなやかで、力強くて、そして、どこか人間離れした、危うい色気がある。その動きは、私や玲奈ちゃんとは全く違う種類の引力を持っていて、私は思わず見とれてしまった。 だけど、私たちはすぐに、瑠衣ちゃんの「秘密」に気づくことになった。 「……っ、ぁ」 ある日のレッスン中、ターンを決めた瑠衣ちゃんが、突然、小さな喘ぎ声を漏らして動きを止めた。その場にうずくまり、自分の胸元をぎゅっと押さえている。 「瑠衣ちゃん!?どうしたの!?」 慌てて駆け寄る私と玲奈ちゃんに、瑠衣ちゃんは顔を真っ赤にしながら、か細い声で言った。 「ご、ごめん……。その……下着が、擦れちゃって……。その、乳首が、すごく痛くて……」 ちくび、と、その単語を口にするのも恥ずかしそうな瑠衣ちゃん。でも、私と玲奈ちゃんは、顔を見合わせた。 レッスン用のスポーツブラが擦れただけで、あんな声を上げてうずくまるなんて、普通じゃない。 そして、もっと普通じゃないことに、私たちは気づいてしまった。激しい動きで緩んでしまったのか、いつも彼女の首を飾っていたチョーカーがずれて、その下から、今まで隠されていたものが露わになっていたのだ。 汗で濡れた、細い首筋。その中央に、小さく、でもはっきりと、男の子にしか見られない、喉の骨のふくらみが、そこにはあった。 「え……?」 私の口から、間の抜けた声が漏れる。隣にいた玲奈ちゃんも、いつもクールな表情を崩さない彼女も、さすがに目を丸くして、信じられないものを見るように瑠衣ちゃんを見つめていた。 喉仏。それは、奏くんや、クラスの男の子たちにはあるけれど、私や玲奈ちゃんにはないもの。女の子には、ないものだ。 私たちの視線に気づいた瑠衣ちゃんは、びくりと身体を震わせると、はっとした顔で慌ててチョーカーを元の位置に戻し、自分の喉元を押さえた。その大きな瞳が、みるみるうちに涙で潤んでいく。 「ご、ごめんなさい……!黙ってて、ごめんなさい……!」 ぽろぽろと大粒の涙をこぼしながら、瑠衣ちゃんは、その場にぺたんと座り込んでしまった。 「僕……ほんとは、男の子、なの……」 その告白は、あまりにも衝撃的で、私と玲奈ちゃんは、しばらく言葉を失って立ち尽くしていた。 男の子。瑠衣ちゃんが?こんなに可愛くて、華奢で、私なんかよりずっと女の子らしいのに? 頭が、ぐちゃぐちゃになる。 でも、目の前で声を殺して泣いている瑠衣ちゃんの姿を見ていると、そんなこと、なんだかどうでもいいような気がしてきた。 瑠衣ちゃんは、誰よりも真剣に、アイドルになりたいと願っている。その気持ちに、男の子も女の子も、関係ないんじゃないかな。 私がそう思って、瑠衣ちゃんに駆け寄ろうとした時、先に動いたのは玲奈ちゃんだった。 「……立ちなさい、橘さん」 冷たい、でも、どこか優しい声。 玲奈ちゃんは瑠衣ちゃんの前にしゃがみ込むと、ハンカチでその涙を拭ってあげた。 「あなたが男だろうと女だろうと、関係ないわ。私たちは、Starlight Prism。頂点を目指す仲間でしょう。……違う?」 その言葉に、瑠衣ちゃんはしゃくり上げながら、何度も、何度も、小さく頷いた。 私も、二人のそばに駆け寄って、その小さな背中をぎゅっと抱きしめた。 「そうだよう、瑠衣ちゃん!私たちは、三人でStarlight Prismだよ!」 こうして、私たち三人の間には、誰にも言えない秘密と、そして、前よりもずっと強い絆が生まれたのだった。 でも、私の身体の中の太陽は、そんな心の変化とは関係なく、日に日に熱を増していくばかりだった。 夜の疼きは、もう枕を抱きしめるだけじゃ我慢できなくて、レッスンに集中できない日も増えてきた。頭がぼーっとして、簡単なステップを間違えたり、歌詞が飛んでしまったり。 そんな私を、いつも心配そうに見てくれる人がいた。 私たちのマネージャーの、高橋さんだ。 高橋さんは、お父さんみたいに優しくて、頼りになる、大人の男の人。いつも私たちのことを一番に考えてくれて、私がミスをして落ち込んでいると、黙って温かいココアを差し出してくれるような人だった。 玲奈ちゃんが、高橋さんのことを特別な目で見ていることには、なんとなく気づいていた。二人きりで話している時の玲奈ちゃんは、いつもより少しだけ女の子らしい顔をしていたし、高橋さんも、玲奈ちゃんを見る目は、私たちに向けるのとは少し違う、甘い色をしていたから。 「玲奈ちゃん、高橋さんのこと好きなんだな」 私は、そんな二人を、少しだけ羨ましく、微笑ましい気持ちで見ていた。私自身も、高橋さんに、淡い憧れのような気持ちを抱いていたから。 その夜、私はどうしても眠れなくて、一人で事務所のレッスンスタジオに残って自主練習をしていた。でも、身体は熱いのに、心は言うことを聞かなくて、鏡の中の自分は、なんだか自分じゃないみたいにぎこちなかった。 どうして、なんだろう。 身体の奥が、ずっと、ずきずきと痛い。熱くて、苦しくて、でも、どうしたらいいのか分からない。 その場に座り込んで、膝を抱えて蹲っていると、背後で、静かにドアが開く音がした。 「白石?まだいたのか。もう遅いぞ」 高橋さんの、優しい声。 その声を聞いた瞬間、私の中で、何かの糸がぷつりと切れた。 「……高橋、さん……」 涙が、勝手に溢れてくる。 慌てて駆け寄ってきた高橋さんのスーツの裾を、私はぎゅっと握りしめた。 「どうしたんだ、辛いのか?どこか痛むのか?」 心配そうな彼の顔を見上げると、もう、我慢できなかった。 「助けて……ください……。私、もう、どうしたらいいか、分からない……」 それは、本心からの叫びだった。 高橋さんは、最初、マネージャーとして私のことを心配してくれているようだった。でも、涙で潤んだ私の瞳と、尋常じゃない熱を帯びた私の身体、そして、無意識に私が放っていた、薬で増幅された甘い匂いに気づいたのだろう。彼の表情が、戸惑いと、そして、雄としての欲望の色に、ゆっくりと変わっていくのが分かった。 「白石……お前、まさか……」 彼の喉が、ごくりと鳴る。 私は、ただ、こくりと頷いた。 そして、その大きな手に引かれるまま、事務所の隅にある、仮眠室の簡素なベッドへと、導かれていったのだった。 狭い部屋の中、小さな電球の明かりだけが、私たちを照らしていた。 高橋さんの、ごつごつした大きな手が、私の頬を、髪を、優しく撫でる。その手つきは、少しだけ震えていた。 「本当に、いいのか……?後悔、しないか?」 私は、言葉の代わりに、彼の首に腕を回して、その唇に、自分の唇を押し当てた。 それが、私の初めてのキスだった。 息が、できない。頭の中が、真っ白になる。高橋さんの唇は、少しだけタバコの味がして、それが、すごく「大人」の味な気がした。 彼の大きな手が、私の着ていたTシャツの裾から、するり、と入ってくる。ひやりとした指先が、汗で湿った素肌に触れた瞬間、私の身体はびくん、と大きく震えた。 「んっ……!」 身体の中の太陽が、きゅう、と熱くなる。 服を脱がされて、下着だけの姿になった時、恥ずかしくて死にそうだった。でも、高橋さんの目が、熱っぽく私の身体を見つめているのを感じると、恥ずかしさよりも、もっと別の、ぞくぞくするような気持ちが勝った。 彼の硬くて、筋肉質な身体に抱きしめられる。私の柔らかい胸が、彼の硬い胸板に押し付けられて、少しだけ潰れる。その感覚が、すごく不思議で、気持ちよかった。 高橋さんの唇が、私の唇をこじ開けて、熱い舌が飛び込んできた。息苦しさと、初めての感覚に頭がくらくらする。彼の舌が私の舌に絡みついて、ちゅ、くちゅ、と濡れた音が響く。 背中に回された手が、器用にブラジャーのホックを外した。ふわり、と胸が解放される感覚と同時に、高橋さんの大きな手が私の胸を鷲掴みにする。 揉みしだかれ、指先で硬くなった先端をこねられると、今まで感じたことのない甘い痺れが背筋を駆け上がった。 「あっ、ぁ……んぅ……!」 思わず漏れた声に、彼は満足そうに喉を鳴らす。 そのまま唇は私の胸に移り、小さな突起を、熱い口でぱくりと含んだ。吸われて、舌で転がされて、身体の奥の太陽が、きゅん、と甘く疼く。 彼のもう片方の手は、いつの間にか私の下着の中に滑り込み、一番濡れた場所を優しく撫でていた。指がそっと割れ目に触れただけで、私はびくんと腰を揺らしてしまう。 「んっ……ぁっ!」 一本の指が、ぬるり、と私の濡れた隙間に入り込んでくる。初めての感覚に、息が止まる。恥ずかしくて、脚を閉じてしまおうとするけれど、高橋さんの腕に阻まれてしまう。 「ひなた……すごいな、もうこんなに……」 掠れた声が耳元で囁かれて、身体がまた震えた。 指は、ためらいなく私の奥へと進んでいく。くちゅ、と小さな水音がして、顔から火が出そうだった。中で指がくねり、柔らかい壁をなぞるたびに、今まで知らなかった場所が、じゅん、と熱くなる。 「あっ、ん、んぅ……!や、そこ、だめぇ……っ」 自分でも分からない、甘えた声が漏れる。腰が勝手にくねって、彼の指を求めるように動いてしまう。もう一本、指が増やされて、掻き混ぜられると、身体の奥の太陽が弾けそうなくらい熱くなって、頭が真っ白になった。 そして、私の脚の間に、何か、硬くて熱いものが押し当てられた。 「……少し、痛いかもしれない。我慢してくれ」 耳元で囁かれる、掠れた声。 私は、ぎゅっと目を閉じた。 次の瞬間、私の身体の、一番柔らかくて、敏感な場所に、今まで感じたことのない、灼けるような痛みが走った。 「い"っ……!」 思わず、彼の背中を掻きむしる。 でも、その痛みは、すぐに、別の感覚に変わっていった。 熱くて、大きくて、硬い何かが、私の身体の奥へ、奥へと、入ってくる。私の身体の中の、今まで誰も知らなかった場所を、こじ開けて、満たしていく。 身体の中の太陽が、爆発しそうなくらい、熱くなる。 「あ……ぁっ……!たかはし、さん……!なにか、はいって……くる……!」 根元まで完全に受け入れた時、私の身体は、もう私のものじゃなくなっていた。 高橋さんが、ゆっくりと腰を動かし始める。その度に、私の身体の奥が、ずくん、ずくん、と突き上げられて、頭のてっぺんから足の先まで、甘い電気が走るみたいだった。 「ひなた……っ、すごい、な……。中は、こんなに熱いのか……」 高橋さんの、苦しそうな声。 私は、ただ、彼の動きに合わせて、喘ぐことしかできない。 気持ちいい。 苦しいくらい、熱くて、気持ちいい。 身体の奥の、ずきずきしていた疼きが、この熱いもので掻き混ぜられて、どんどん、もっと、大きな快感に変わっていく。 「ひなた……っ、気持ちいいか……?」 高橋さんの問いに、私はこくこくと頷くことしかできない。 彼の硬いものが、私の狭い中をぐりぐりと押し広げながら進むたび、熱い痺れが走る。 最初はゆっくりだった動きが、だんだんと速くなっていく。ずぷ、ずぷ、と水音が響いて、すごく恥ずかしいけれど、それ以上に気持ちいい。 彼が少し角度を変えて、ぐ、と奥を突いた時、今までで一番大きな快感が私を襲った。 「あっ、そこぉっ……!ん、ぁんっ!」 私の反応を見て、高橋さんは確信したように、何度も何度も同じ場所を強く突き始める。身体の奥の、ずっと疼いていた場所を、彼の熱いもので直接撫でられるみたいだった。 もう、どうにかなってしまいそうだった。 頭の中が真っ白になって、ただ彼の熱を受け入れることしか考えられなくなる。 やがて、彼の動きが、急に激しくなった。 私の身体をベッドに縫い付けるように、高橋さんの腰使いが嵐のように激しくなる。 がん、がん、と骨と骨がぶつかるような鈍い音と、びちゃびちゃと卑猥な水音が部屋に響き渡る。 「あ、あ、あぁっ!だめ、こわれるぅっ!たかはしさん、はや、いぃっ!」 めちゃくちゃに揺らさぶられて、シーツを握りしめる指に力が入らない。 快感の波が、次から次へと押し寄せてきて、意識が何度も飛びそうになる。身体の中の太陽が、もう爆発寸前まで膨らんでいるのが分かった。 何か、すごいものが、身体の奥から溢れ出してきそうで、怖くて、でも、すごく気持ちよくて。私の奥が、勝手にきゅう、と彼のものを締め付ける。 その瞬間、高橋さんが、苦しそうに、でもどこか嬉しそうな声で呻いた。 「ひなたっ、だめだ、もう……出る……!」 彼がそう叫んだのと、私の身体の奥が、きゅうううっと縮こまって、今まで感じたことのないくらい、ものすごい痺れが全身を駆け巡ったのは、ほとんど同時だった。 「い"ぃぃぃぃぃぃぃぃぃっくぅぅぅぅぅ……!」 身体が、びくん、びくん、と大きく痙攣する。頭の中が、真っ白になる。 それと同時に、私の身体の奥に、どく、どく、と熱い何かが、いっぱい注ぎ込まれるのを感じた。 痙攣する私の身体の奥深くで、高橋さんの熱いものが、どくん、どくん、と脈打っている。そのたびに、熱い命の雫が、じゅわぁ……と私の内側に広がっていくのが分かった。 初めての感覚だった。誰かのものが、自分の身体の中に入ってくる。いっぱい、いっぱいになって、お腹の奥がじんわりと温かくなる。 身体の中の太陽が、その熱を受け取って、満足したみたいに、穏やかに輝いている。 まだぴくぴくと震える身体のまま、ぼんやりとした頭で、彼の背中にそっと腕を回した。どくどくと速い心臓の音が、肌を通して伝わってくる。 「はぁ……っ、はぁ……」 嵐が過ぎ去った後、高橋さんは、ぐったりと私の身体の上に倒れ込んできた。汗だくで、息も絶え絶えだった。 私も、初めての経験に、身体中の力が抜けて、ぼーっとしていた。 でも。 あれだけすごかったのに。 身体の中の太陽は、まだ、静まってくれていなかった。 むしろ、一度火をつけられたことで、もっと、もっと、激しく燃え上がっているような気がした。 「……足りない」 ぽつり、と私の口から言葉が漏れた。 「え……?」 ぐったりしていた高橋さんが、不思議そうな顔で私を見る。 「まだ、足りないです。高橋さん……。もっと、ください」 私は、無邪気に、そして、有無を言わさぬ力で、彼の身体を求め始めた。 最初は戸惑っていた高橋さんも、薬の影響でまだ昂ったままの私の身体に、抗うことはできなかった。 二回、三回と、私たちは身体を重ねた。 回数を重ねるごとに、高橋さんは、目に見えて疲れていった。あんなに硬くて熱かった彼のものも、少しずつ、元気がなくなっていくのが分かった。 でも、私は、逆にどんどん元気になっていった。身体の奥から、力が湧いてくるみたいだった。 「……高橋さん、疲れてるの?じゃあ、今度は、ひなたが動いてあげるね」 私は、彼の身体の上に跨ると、自分から彼のものを受け入れた。そして、自分の身体が求めるままに、本能的に、腰を動かし始めた。 どうすれば、一番気持ちいいのか。誰に教わったわけでもないのに、私の身体は、それを知っていた。 「あ、ぁんっ……!きもち、ぃ……!高橋さんの、おっきいの……私の中に、いっぱい……!」 自分の身体の中を、彼の熱い芯が貫いている。 その感覚を確かめるように、私はゆっくりと腰を回してみた。ぐり、と内側の柔らかい壁が擦られて、ぞくぞくした快感が走る。 ここかな?ううん、こっち? 一番気持ちいい場所を探して、く、く、と腰を揺らす。彼が「ひっ……!」と息を呑んだ場所を見つけると、そこに彼の先端を何度も何度も擦り付けた。 きゅ、と締めて、ゆるめて、彼のものをからかうように動くと、高橋さんの苦しそうな喘ぎ声が聞こえる。それが、なんだかすごく嬉しくて、もっといじめたくなってしまう。 自分の体重をかけて、ずぶり、と一番奥まで飲み込んで、強く突き上げる。その度に、脳が蕩けるような快感が私を貫いた。 ぎし、ぎし、とベッドが軋む音に合わせて、私は夢中で腰を振り続けた。高橋さんの肩を掴んで、彼の苦しそうな表情を見下ろしながら、もっと奥へ、もっと深くへと、自分の身体を沈めていく。彼の熱いものが、私の身体の一番奥にある、熱の源みたいな場所に、ごつん、ごつんと当たるのが分かる。その度に、びりびりとした快感が背筋を駆け上がって、甘い声が勝手に漏れ出した。 「あ、ん、あ、あぁっ!たかはしさん、すごい、きもちぃ……!私の奥、ぐりぐりされてる……っ!」 汗で濡れた髪が頬に張り付くのも構わずに、私はただ快感に身を任せた。だんだん動きが速く、激しくなっていく。私の奥がきゅうきゅうと彼を締め付けると、高橋さんが苦しそうに息を吐く。その反応が、私をもっと興奮させた。 何度も、何度も、私は快感の頂点に達した。その度に、私の身体は、もっと、もっと、と貪欲に彼のものを求めた。 そして、恍惚の真っ只中で、私は、ふと思ったことを、そのまま口にしていた。 「……ふふ。高橋さんの赤ちゃん、欲しいな……。高橋さんといっぱいして、私のお腹、おっきくしたい……」 その言葉を口にした瞬間、私の下で喘いでいた高橋さんの身体が、ぴたり、と固まったのを、私は感じた。 彼の顔から、すうっと血の気が引いていく。その瞳には、さっきまでの欲望の色ではなく、私に対する、明らかな「恐怖」の色が浮かんでいた。 「……ひなた、ちゃん……」 彼は、震える声で私の名前を呼ぶと、逃げるように、私の身体から自分のものを引き抜いた。そして、乱れた服を慌てて身につけ、私から距離を取った。 その怯えた顔を見て、私は、何か、いけないことを言ってしまったんだ、と悟った。 身体の熱は、まだ、少しも冷めていない。疼きは、まだ続いている。 でも、それよりも、もっと、大きな不安が、私の心を支配し始めた。 この人は、私から、いなくなってしまうんじゃないか。 そう思ったら、急に、胸の奥が、きゅう、と冷たくなった。 「……いやだ」 涙が、また溢れてくる。 「高橋さん、どこにも行かないで……!ひなたを、一人にしないで……!」 私はベッドから転がり落ちるようにして、彼の足にすがりついた。 「お願い……!ずっと、ひなたのそばにいて……!ひなたの、マネージャーでいて……!」 泣きじゃくる私を見て、高橋さんは、罪悪感に満ちた、苦しそうな顔をした。 そして、長い沈黙の後、諦めたように、小さく頷いた。 「……分かった。そばにいる。だから、もう泣くな」 その言葉を聞いて、私は、心から安心した。 私は、彼のスーツのズボンに顔を埋めたまま、満足げに、ふわりと微笑んだ。 身体の奥の疼きは、まだ、少しも治まっていなかったけれど。 その代わりに、私の心は、彼を手に入れたという満足感で、いっぱいに満たされていた。 この時からだった。私が、本当の意味で、彼に「依存」し始めたのは。 そして、その依存が、やがて彼を壊してしまうことになるなんて、この時の私は、まだ、知る由もなかった。 #パート2:黒瀬玲奈の葛藤 ~ The Second Veil ~ 鏡の中の私が、冷たい瞳で私を見つめ返している。 汗一つかかず、呼吸一つ乱さず、完璧なポーズを決める黒瀬玲奈。それがファンが求める私の姿。Starlight Prismのクールビューティー。孤高の黒薔薇。 馬鹿らしい。 本当の私はこんなにも弱くて、脆くて、そして汚れているのに。 レッスンの休憩中、壁に背を預けて息を整えながら、私は自分の掌を見つめた。そこには、ひなたや瑠衣には見えない、泥のような染みがこびりついている気がした。 セレスティアル・ネクター。鳳社長が私たちに与えた禁断の果実。 その薬は、確かに私に力をくれた。以前とは比較にならないスタミナと、観客を惹きつける不思議なオーラ。パフォーマンスの精度は格段に上がり、私は理想の自分に一歩、また一歩と近づいている実感があった。 だがその代償は、私の心を静かに、しかし確実に蝕んでいた。 夜ごと私を襲う正体不明の熱。身体の奥深く、子宮のあたりが疼き、じくじくと熱を持つ。誰かに触れられたい、強く抱きしめられたいという、本能的な渇望。そんな獣のような欲求が、この私の中から湧き上がってくること自体が許せなかった。完璧であるべき私が、こんな原始的な欲望に振り回されている。その事実が、私のプライドを少しずつ削り取っていく。 その熱を鎮めてくれる人がいた。 私たちのマネージャー、高橋さん。 彼は、私のすべてを受け止めてくれる唯一の場所だった。 「……玲奈、顔色が悪いぞ。無理するな」 レッスン後、スタジオの隅でストレッチをしていた私に、彼がそっと声をかけてきた。その声には、他のメンバーに向けるものとは違う、特別な響きが含まれている。 ひなたは、まだ自主練習を続けると言って、スタジオに残っている。瑠衣は、社長に呼ばれて先に事務所を出て行った。 私と高橋さん、二人きりの空間。 私は無言で立ち上がると、彼の袖を小さく引いた。 それだけで、彼には私の望みが伝わる。 「……分かった。仮眠室で待ってろ」 彼の掠れた声を聞いて、私はこくりと頷いた。誰にも見られないように、足早にスタジオを出て、事務所の奥にあるあの狭い部屋へと向かう。ひなたに気づかれないように、細心の注意を払いながら。 ひなたは何も知らない。私が、彼女が父親のように慕っているこの人と、こんなにも汚れた関係を持っていることなんて。 それでいい。ひなたは純粋なまま、太陽のように輝いていてほしい。こんな泥沼は、私一人で十分だ。 仮眠室のドアを開け、鍵をかける。カチャリという小さな金属音が、世界の終わりを告げる合図のように響いた。 数分後、控えめなノックの音と共に、彼が入ってくる。 言葉はない。 彼はただ私を強く抱きしめ、その唇を私のそれに押し当てた。 抵抗はしない。できない。私の身体が、心が、彼の熱を求めていたから。 スーツの生地の硬い感触、ワイシャツ越しに伝わる体温、そして彼の口から流れ込んでくるタバコとコーヒーの混じった大人の男の匂い。そのすべてが、私の理性を麻痺させていく。 彼の分厚い唇が私のそれをこじ開け、熱い舌が遠慮なく侵入してくる。私の舌を捕らえ、絡め取り、貪るように吸い上げる。唾液が混じり合い、くちゅ、くちゅ、と卑猥な水音が響いた。私は彼の首に腕を回し、その身体を必死に求めた。薬の副作用で火照った身体が、彼の体温を吸い取ろうとするかのように密着する。もっと、もっと彼の匂いを、彼の味を、彼の熱を。この渇きを癒してくれるなら、私はなんだって差し出す。もうとっくに、何もかも汚れてしまっているのだから。 「玲奈……っ」 私の名前を呼ぶ、彼の苦しそうな声。 彼の大きな手が、私のブラウスのボタンを、焦れたように引き千切らんばかりの勢いで外していく。白い肌が露わになり、レースのブラジャーに包まれた胸の膨らみが、彼の熱い視線に晒された。 恥ずかしい。でも、それ以上に見られているという興奮が、私の下腹部に熱を集める。 彼はまるで獣のように、私のブラジャーの上からその双丘に顔を埋めた。布越しに熱い舌が、乳首の先端を舐め上げる。 「んっ……!」 ぞくりとした快感が、背骨を駆け上る。 私は彼の頭を抱きしめ、その髪を指で強く掻きむしった。 ベッドに押し倒され、スカートを乱暴に捲り上げられる。ショーツの上から、彼の硬く熱いものがぐりぐりと押し付けられた。 「……もう濡れてるじゃないか。悪い子だな、玲奈は」 耳元で囁かれる低い声。 その言葉が、私の羞恥心を煽り、さらに身体を熱くさせる。 汚れている。私は、こんなにも淫らな身体になってしまった。でも、この人だけが、そんな私を必要としてくれる。その事実だけが、私の唯一の救いだった。 ショーツが引きずり下ろされ、私のすべてが無防備に晒される。 彼は一瞥すると、躊躇いもなく自身の昂りを私の入り口へと押し当てた。事前の愛撫なんてない。ただ、互いの熱を、欲望をぶつけ合うだけの、暴力的な結合。 「い"っ……!」 痛みと快感が、同時に脳天を貫く。 彼の巨大な熱が、私の狭い内側をこじ開け、抉るように侵入してくる。内壁が引き裂かれるような感覚。でも、その痛みすらも、今の私には快感の一部だった。 「はぁ……っ、玲奈……きつい……っ!お前のナカ、最高だ……!」 彼は、獣のような喘ぎ声を上げながら、狂ったように腰を突き上げ始めた。 ぎしり、ぎしりと、安物のベッドが悲鳴を上げる。肌と肌がぶつかり合う生々しい音だけが、狭い部屋に響き渡っていた。 彼の腰の動きに合わせて、私の身体が激しく揺さぶられる。熱い楔が一番奥にある子宮の入り口を何度も何度も叩き、その度に腹の底から甘い痺れが広がっていく。私は喘ぐことも忘れ、ただ彼の肩に顔を埋めて、シーツを強く握りしめた。彼の汗が私の肌に滴り落ち、混じり合う。熱い。痛い。でも、もっと。もっと強く、この身体の奥に巣食う熱の塊を、彼の熱で焼き尽くしてほしい。私の脚が彼の腰に絡みつき、さらに深く、もっと奥まで彼を受け入れようと、無意識に腰を揺らしていた。 私は彼の背中に爪を立て、ただこの嵐が過ぎ去るのを耐えることしかできない。 気持ちいいのか、苦しいのか、もう分からなかった。ただ、この行為によって身体の奥で暴れていた熱が、少しずつ鎮まっていくのを感じていた。 これは治療なのだ。病んだ私の身体を、彼が癒してくれている。 そう自分に言い聞かせなければ、私は正気でいられなかった。 私の意識が、快感の熱で溶けていく。視界が白く霞み、彼の喘ぎ声とベッドの軋む音だけが、遠くで響いている。彼の律動が速度を上げ、私の身体の最も感じやすい一点を、執拗に抉り始めた。そこを突かれる度に、びくん、と腰が跳ね、甘い声が喉から漏れ出た。「あっ、ん……そこ、だめ……っ」。そんな私の反応が彼をさらに興奮させたのか、突き上げる腰の力は一層強くなる。もう限界だった。身体の芯に溜まった熱が、爆発寸前まで膨れ上がっていく。 「あ、あぁっ……!イク、玲奈っ……!中に、出すぞ……!」 彼の腰の動きが、さらに激しさを増す。 そして、私の身体の奥で熱い奔流が解き放たれるのを感じた。どくどくと、彼の生命が私の子宮に注ぎ込まれていく。 「んんっ……!」 私もまた、彼の射精の衝撃に誘われるように、短い絶頂を迎えた。身体が小さく痙攣し、視界が白く点滅する。 びく、びくん、と身体の奥が意思とは無関係に脈打ち、彼の与えた熱いものを絞り取ろうとする。快感の波が何度も押し寄せ、思考が真っ白に塗り潰された。指先まで痺れるような感覚の中、私はただ彼の背中にしがみつき、荒い呼吸を繰り返すことしかできなかった。彼の重みと、体内に残る灼熱の感触だけが、私がここに存在している唯一の証だった。 射精を終えた彼が、律動を止める。まだ私の内側に留まったままの彼のものが、どくん、どくんと最後の熱を放っていた。彼のすべてを受け止めた私の子宮が、じんわりと温かい。そして、その温かさが外へとゆっくりと溢れ出し、太腿を伝っていくぬるりとした感覚が、私を急激に現実へと引き戻した。部屋には、汗と精液の匂いが混じり合った、生々しい空気が満ちていた。 やがて、彼がゆっくりと身体を引き抜く。ずぷ、という湿った音と共に、私の内側から彼の熱がごっそりと抜け落ちていく。その途端に訪れる、どうしようもない空虚感。 「……待って」 掠れた、自分のものではないような声が喉から漏れた。彼が離れていく。その事実が、再び身体の奥で燻り始めた熱を呼び覚ました。まだ足りない。まだ、この熱は消えてくれない。空っぽになった内側を埋めてくれるものがなくなり、底なしの虚無感が私を襲う。その恐怖に突き動かされるように、私は無意識に両脚を彼の腰に強く絡みつけた。 「……玲奈?」 驚いたような彼の声。私は答えず、ただ絡めた脚に力を込め、腰を微かに浮かせて彼のものを求める。濡れた粘膜が擦れ合ういやらしい音がして、抜けかけた彼の熱が再び私の奥へと押し戻された。萎えかけていたそれが、私の内部の蠢きに応えるかのように、ゆっくりと硬さを取り戻していくのが分かる。 「……まだ、欲しいのか」 呆れたような、それでいて抗いがたい欲望を滲ませた声が耳元で囁かれる。私はこくりと頷くことしかできない。羞恥よりも、この疼きから解放されたいという一心だった。彼は小さく息を吐くと、今度はゆっくりと、私の内側を確かめるように腰を動かし始めた。一度目のような乱暴さはない。粘つくような水音を立てながら、熱の塊が私の最も敏感な場所を優しく、しかし執拗に擦り上げていく。 「んっ……ぁ……」 さっきよりもずっと甘い声が漏れた。一度果てた身体は驚くほど敏感になっていて、彼のわずかな動きさえもが、全身の神経を震わせる。彼の大きな手が私の胸を覆い、柔らかく揉みしだきながら、もう片方の手の親指が、硬く尖った蕾をぐり、と押し潰した。 「ひぁっ……!?」 脳天を直接撃ち抜かれたような、鋭い快感が走る。びくん、と私の身体が大きく跳ね、内側が彼のものをきつく締め付けた。「……こっちも、か」。面白がるような彼の声を聞きながら、私はなすすべもなく快感の波に揺さぶられた。指による刺激と、内部を抉る楔の刺激が同時に私を襲い、思考がぐちゃぐちゃに掻き混ぜられていく。もうプライドも、自己嫌悪も、何も考えられない。ただ、気持ちいい。もっと、欲しい。 「たかはし、さん……っ、もっと……はやく、して……っ」 自分からねだる言葉が、口をついて出た。それを合図に、彼の動きが再び激しさを取り戻す。私の脚は彼の腰に食い込むように絡みつき、彼の突き上げに合わせて、自らも下から腰を突き上げた。肉と肉がぶつかり合う音、ベッドの軋み、二人の喘ぎ声が部屋中に響き渡る。視界が白と黒で点滅し、身体の芯に溜まった熱が、今にも弾けそうに膨れ上がっていく。 「玲奈……っ、いい顔、してるぞ……!」 彼が私の名前を呼び、一番奥を強く、深く、抉るように突き上げた。 その瞬間、私の腹の底で何かが弾けた。 「あ、あああああっ———!」 絶叫と共に、意識が真っ白に染め上がる。びくん、びくん、と全身が激しく痙攣し、内側から熱いものが止めどなく溢れ出した。私の絶頂の痙攣に締め上げられ、彼もまた、獣のような呻き声を上げて、私の奥深くに二度目の灼熱を叩きつける。どく、どく、と彼の命が注がれるたびに、私の身体は何度も波打った。一度目とは比較にならないほど深く、長く続く快感の余波が全身を駆け巡り、私の思考は熱で白く塗りつぶされていった。 嵐が過ぎ去った。 彼はぐったりと、私の身体の上に倒れ込んできた。汗の匂いと彼の精液の匂いが混じり合い、部屋に満ちる。 私は虚ろな目で、天井の染みを見つめていた。 これでまたしばらくは、完璧な自分でいられる。鏡の中のあの冷たい黒瀬玲奈を、演じ続けられる。 そう思った。 行為の後、私たちは何事もなかったかのように、別々に仮眠室を出た。 私がスタジオに戻ると、ひなたがまだ一人で鏡に向かって踊り続けていた。その動きは少しも疲れた様子を見せず、むしろ有り余る生命力が全身から溢れ出しているかのようだった。 「……ひなた。もう、遅いわよ」 私が声をかけると、彼女はぴたりと動きを止め、振り返った。 その顔を見て、私はどきりとした。 汗で濡れた彼女の顔はほんのりと上気し、その瞳は潤んで、とろりとした熱を帯びている。まるで、激しい恋をした後のような、そんな顔だった。 「あ、玲奈ちゃん。お疲れ様。……高橋さんは?もう帰っちゃった?」 何気ない問いかけ。 だが、その言葉に私の心臓が嫌な音を立てた。 なぜ、今、彼の名前を? 「……ええ。もう帰ったわよ」 努めて平静を装い、答える。 ひなたは「そっかあ」と、少しだけ残念そうな顔をした。そして、自分の首筋の汗を拭いながら、小さく呟いた。 「……なんだか、身体が、熱くて……。高橋さんに、助けてもらおうと思ったんだけどな……」 その言葉の意味を、私はすぐには理解できなかった。 だが、彼女の潤んだ瞳。蕩けるような表情。そして、無意識に下腹部のあたりをそっと撫でるその仕草。 それらが、私の頭の中で一つのおぞましい可能性へと繋がっていく。 まさか。 そんなはずない。 ひなたが?あの、純粋なひなたが? 高橋さんと? 私の背筋を、冷たい汗が伝った。 鏡に映る自分の顔が、血の気を失い、青ざめていくのが見えた。 ひなたはそんな私の様子には気づかず、「じゃあ、私もそろそろ帰ろっかな」と屈託なく笑っている。 その笑顔が、今は恐ろしかった。 私の唯一の聖域だったはずの場所が、今、足元から崩れ落ちていくような、そんな感覚。 私だけのものだと思っていた安らぎはただの幻想で、私はこの太陽のような少女の、ただのおこぼれを貰っていたに過ぎなかったのだろうか。 鏡の中の私が、嘲るように私に問いかけていた。 #パート3:瑠衣が社長を堕とした日 ~ The Third Seduction ~ 硝子の壁の向こう側、煌めく摩天楼の光の海を見下ろしながら、私は指先でグラスをなぞっていた。琥珀色の液体が、私の焦燥を映すように静かに揺れている。 Starlight Prismは、メジャーデビューという華々しい門出を飾った。チャートを駆け上がり、街の大型ビジョンやスマートフォンの中はあの子たちの笑顔で溢れている。私の描いた設計図通り、全ては順調に進んでいるはずだった。 だが、その輝きの舞台裏では、見えない亀裂が音を立てて広がっていた。 高橋。あの人の好さだけが取り柄の男。彼はもう限界だった。 ひなたと玲奈。あの二人の少女の中に眠る獣は、セレスティアル・ネクターによって完全に覚醒してしまった。一晩に何度も、何度も、貪るように男を求める底なしの器。一人、また一人と男を食い潰していく悦びを知ってしまった雌豹。あの凡庸な男に、二人分の獣を同時に満たせるはずがなかった。 近頃の彼は、生気を吸い取られた抜け殻のように青白い顔で、私の前に業務報告書を差し出すだけ。その瞳の奥には、少女たちへの恐怖と自身の無力さへの絶望が、澱のように沈んでいた。 そして、その滑稽な悲劇を、橘瑠衣は冷たいガラス玉のような瞳で、ただ静かに観察している。支えようとも、憐れもうともせず、むしろその不甲斐なさを嘲笑うかのように。 「……馬鹿な男」 あの男が壊れるのは時間の問題。そうなれば、あの二人の獣は際限のない渇きを満たすため、新たな獲物を求めるだろう。手近な獲物を失った獣の牙が、次にどこへ向かうか。考えたくもない。かつての私がそうだったように、権力という蜜を持つ男たちのベッドへと、自らその身を差し出すようなことだけは……。 「あの子たちだけは、私と同じ轍を踏ませはしない……」 グラスを煽り、喉を焼くアルコールの熱を感じながら、私は過去を反芻する。 鳳翔子。それが、私がこの世界で生き抜くために築き上げた鎧の名。 元グラビアアイドル。そう聞けば、誰もが華やかな世界を想像するだろう。だが、その裏側でどれだけ汚い酒を飲み、どれだけ多くの脂ぎった男たちの下で心を殺して腰を振ってきたことか。枕営業。それは、この業界で女がのし上がるための必要悪の儀式。私は、そうやって今の地位を築いた。 だからこそ、あの子たちにはそんな思いをさせたくなかった。純粋な才能と科学の力だけで、誰にも穢されずに頂点へと導いてやる。それが私の野望であり、贖罪でもあった。 そのための切り札が、セレスティアル・ネクター。 そして、その薬は共同開発者である私自身をも、静かに変質させていた。 私の内縁の夫は、天道製薬でこのプロジェクトを率いる有能な男。彼は私の身体を最高の実験台として、そして愛する女として夜ごと貪った。だが、薬によって増幅された私の渇きは、もはや彼の生真面目な愛情だけでは潤せなくなっていた。 身体の奥、子宮のあたりがいつも疼いている。重く甘い熱を持ち、内側から誰かを求めるようにきゅうと締め付けられる。夫の腕の中では、決して満たされないこの飢餓感。それを埋めるために、私は新たな玩具に手を伸ばしていた。 内線で瑠衣を呼び出す。 社長室の奥にある、誰にも知られていない私のプライベートルーム。防音の施されたその部屋で、私はこの美しくも危うい少年の「開発」を、密かな愉しみとしていた。 「失礼します、社長」 現れた瑠衣は、いつものように怯えた子猫のような瞳で私を見上げている。その表情が、私のサディスティックな心を心地よく刺激した。 「いらっしゃい、瑠衣。さあ、今日の『レッスン』を始めましょうか」 有無を言わさず、彼の衣服を剥ぎ取っていく。露わになったのは、まだ少年のあどけなさを残す滑らかな白い肌。無駄な脂肪の一切ない、しなやかな筋肉。そしてその胸には、私が丹念に育て上げた、小さな、しかし確かな膨らみ。 その先端は、私が与えたホルモン剤と執拗な愛撫によって可憐な桜色に染まり、硬く尖っている。 「ふふ、また少し大きくなったかしら。良い子ね、瑠衣」 囁きながら、指先でその小さな突起を摘まみ、くりくりと弄ぶ。その度に、瑠衣の華奢な身体がびくんと可憐に震えた。 「んっ……!ぁ、や……しゃ、ちょう……」 か細い抵抗の声は、私の支配欲を煽る媚薬にしかならない。私は彼の耳朶に唇を寄せ、熱い舌でその形をなぞった。ぞくぞくと粟立つ肌の感触が、たまらなく愛おしい。首筋、鎖骨、そして脇腹へ。私の指が触れるたびに、この少年の身体は正直に反応し、甘い喘ぎを漏らす。全身が、私が調教した通りに感じるように出来上がっているのだ。 「さあ、今日の仕上げよ。もっと奥まで、私のものになってしまいなさい」 私はベッドサイドの引き出しから、いつものものより一回りも太く、禍々しい形状をしたディルドが取り付けられた、黒く艶めかしい革のペニスバンドを取り出した。 それを見た瞬間、瑠衣の瞳に恐怖と屈辱の色が浮かんだ。 「い、いや……!それだけは、ごめんなさ……」 「駄目よ。これも、あなたを完璧な偶像にするための大切なレッスンなのだから」 有無を言わさず、彼をうつ伏せにさせる。引き締まった小さな臀部が、無防備に私の前に突き出された。その中央には、私が幾度も快楽を教え込んだ証である秘孔が、次の刺激を待つように小さく震えている。私はその入り口に、粘度の高いローションをたっぷりと塗り込んでいく。 「ひっ……!つめた……っ」 冷たいジェルが触れた瞬間、彼の身体が大きく跳ねた。私はその反応を楽しみながら、指先で入り口を慣れた手つきで解きほぐしていく。一本、そして二本と指を沈めていくと、私の指を覚え込んだ内壁はすぐに熱を帯び、自ら絡みつくようにぬるりと受け入れ始めた。 準備は整った。 私は黒い凶器を手に取り、彼の潤んだ入り口へとその先端を押し当てた。 「さあ、力を抜いて。すぐに気持ちよくなるわ……」 私がその硬い突起を、彼の許容量を超えてさらに奥へとぐ、と押し込もうとした、まさにその瞬間だった。 それまでされるがままだった瑠衣の身体が、信じられないほどの力で私の腕を振り払った。 「……っ!?」 驚いて顔を上げると、ベッドの上で体勢を入れ替えた瑠衣が、私を見下ろしていた。 その瞳から、怯えた子猫の色は完全に消え失せていた。 代わりに宿っていたのは、飢えた獣の獰猛で残酷な光。 「……社長こそ」 彼の唇から漏れたのは、いつもより僅かに低い、それでいて芯の通った少年の声だった。 「随分と熱いじゃないですか。さっきから、ずっと」 その言葉は、私の心の奥底を見透かしたかのように、鋭く突き刺さった。 「何を……言っているの……?」 声が震えた。虚勢を張ろうにも、喉が渇いてまともな音にならない。 彼の瞳は、もう私を見てはいなかった。私の身体のさらに奥。私自身も気づかないふりをしていた熱の源を、正確に見抜いている。 「分かるんですよ。社長がいつも僕の身体を弄びながら、本当は自分もめちゃくちゃにされたいって思ってることくらい」 瑠衣の細くしなやかな指が、私の顎を捉えた。そして、くいと乱暴に上を向かせる。見下ろしてくるその瞳は、もはや私の知る瑠衣のものではない。それは、獲物を前にした飢えた獣の瞳。私の玩具だったはずの少年は、いつの間にか、私を狩る側の雄へと変貌を遂げていたのだ。 「僕を開発してたつもりでしょうけど、逆ですよ、社長。僕があなたの身体をずっと観察して、どこをどうすれば堕ちるのか研究してたんですから」 悪魔のような微笑み。 彼のもう片方の手が、私の着ていたシルクのガウンの合わせ目に、するりと滑り込んできた。抵抗しようとする私の両手首を、彼は、華奢な身体からは想像もつかない力で掴み、頭上で押さえつける。 「ひっ……!離しなさい、瑠衣……!これは命令よ……!」 「命令?ははっ、もうアンタにそんな権利ないでしょ」 冷たく言い放つと、彼は私のガウンを乱暴に引き裂いた。ボタンが弾け飛び、肌を守る最後の砦だったレースのランジェリーが露わになる。 私の身体は正直だった。彼の指摘通り、下腹部はとっくに熱を帯び、ショーツのクロッチ部分はじっとりと湿り始めていた。その恥ずべき事実を、彼の嘲笑うような視線が、無慈悲に暴き出す。 「ほら、やっぱり。こんなにぐしょ濡れじゃないですか。……旦那さんじゃ、満足できないんでしょう?」 彼の指が、濡れたショーツの上から私の秘裂をゆっくりとなぞる。 「んんっ……!」 声にならない喘ぎが漏れた。駄目だ。こんな子供のような相手に、感じてしまうなんて。私のプライドが悲鳴を上げる。 だが、身体はもう言うことを聞かなかった。 瑠衣は、私が彼にしてきたことを、そのまま私に返してきた。耳朶を甘く食み、熱い舌で首筋を舐め上げる。私が最も弱い場所を、彼は正確に知っていた。 「あ、ぁ……っ、やめ……」 「やめてほしいなら、もっと可愛い声で鳴いてみせてよ。僕のお人形さん」 かつて私が彼に投げかけた言葉が、ブーメランのように突き刺さる。 立場は、完全に逆転した。 私はもはや、彼を支配する女王ではなく、彼の気まぐれに翻弄されるただの玩具。 その倒錯的な状況が、背徳感が、私の身体の奥の疼きを、さらにどうしようもなく増幅させていく。 彼は私のランジェリーを全て剥ぎ取ると、その美しい裸体を、まるで美術品でも鑑定するかのようにじっくりと眺めた。 「……綺麗だ。あなたが熟れた果実だってことは、前から知ってたけど。ここまでとはね」 うっとりとしたため息と共に、彼は自身の衣服も脱ぎ捨てた。そして現れたのは、彼の華奢な身体には不釣り合いなほど堂々と、そして猛々しく屹立した、若々しい雄の証だった。それは、夫のもう盛りを過ぎたそれとは、比べ物にならないほどの生命力に満ちていた。 それを見た瞬間、私の中に残っていた最後のプライドが、音を立てて砕け散った。 欲しい。 あの若く、硬く、熱いもので、この満たされない疼きを、めちゃくちゃに掻き乱してほしい。 「……ふふ。やっと素直になったみたいですね」 私の瞳に浮かんだ欲望の色を、彼は見逃さなかった。 彼は私の両脚を大きく開かせると、その間にゆっくりと身を沈めてきた。そして、自身の先端を私の濡れそぼった入り口に、ぐりと強く押し当てる。 「ひぅっ……!」 それだけの刺激で、私の腰が勝手に震えた。 夫ではない。ましてや、私が育て上げた年端もいかない少年。避妊もしていない。もし、このまま受け入れてしまえば、何が起こるか。 だが、その背徳こそが最高の媚薬だった。 私は自ら腰を浮かせ、彼の若々しい熱を奥深くへと引きずり込んだ。 「あ……ぁぁっ……!」 信じられないほどの熱と硬さ。そして、若さ。 夫のものでは決して満たされなかった私の身体の奥の、一番渇いていた場所を、瑠衣のそれが、的確に、そして力強く貫いた。 まるでパズルの最後のピースが嵌まったかのような、完璧なまでの充足感。 「ははっ……!すごい……!社長の中、あったかくて、めちゃくちゃ締めてくる……!」 瑠衣は歓喜の声を上げた。そして、これまで受け身だった鬱憤を全てぶつけるかのように、激しく、荒々しく腰を突き上げ始めた。 ぱんぱんと湿った肉がぶつかり合う音が、静かな部屋に響き渡る。 私はなすすべもなく、ただ彼の動きに翻弄され、快感の波に溺れることしかできなかった。 「あ、ぁんっ!そこ、だめ、瑠衣っ……!いっちゃ、う……!」 「いいよ、いけば。僕が何回でもイカせてあげるから……!」 何度も、何度も、私は絶頂の波に襲われた。意識が朦朧とし、自分が誰で、ここがどこなのかも分からなくなっていく。ただ、身体の奥深くを貫くこの若い雄の熱だけが、私の世界のすべてだった。 やがて、瑠衣の動きがひときわ大きく、力強くなった。 「社長っ……!もう我慢できない……!あなたの中に……僕の全部、注ぎ込むから……!」 その絶叫と共に、彼の身体が大きく痙攣した。 そして、私の身体の一番奥、一番神聖な場所へと、灼熱の奔流が叩きつけるように注ぎ込まれていく。 どくどくと。若い生命の全てが、私の子宮を満たしていく。夫からはもう感じることのなかった、圧倒的なまでの熱量と勢い。 「い"ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっくぅぅぅぅぅぅぅぅっ……!」 私もまた、彼の射精と同時に、これまで感じたことのないほど深く、そして長く続く絶頂の渦に、完全に飲み込まれていった。 どれくらいの時間が経っただろうか。 嵐が過ぎ去り、私はぐったりとシーツの海に沈んでいた。身体の気だるさとは裏腹に、心は不思議なほどの静けさと、そして充足感に満たされていた。 隣で荒い息をついていた瑠衣が、ゆっくりと身を起こす。そして、汗で湿った私の腹部に、そっとその華奢な手を置いた。 「……すごい熱だ」 彼は、どこか恍惚とした表情で呟いた。 「今、この中で、僕の分身たちがあなたの卵子を目指して、一生懸命泳いでるんだね」 そのあまりにも無邪気で、そして残酷な言葉に、私は息を呑んだ。 彼の言葉に呼応するかのように、私の下腹部、子宮の奥深くで、何かがとくんと、小さく、しかし確かに脈打ったのを感じた。 それは、彼の精液がもたらした熱の名残ではない。 もっと根源的な、生命の息吹。 私の卵子が、彼の若く強い精子を歓喜と共に受け入れた、受精の瞬間の確かな手応え。 「ふふ。これであなたは、もう僕から逃げられない」 瑠衣は、勝ち誇ったように、そしてどこまでも愛おしそうに、私のお腹を撫でた。 「あなたは、僕の子供を宿すただの『女』になったんだから」 その言葉は、絶望の宣告のはずだった。私の築き上げてきた全てが、この少年によって崩される、破滅の序曲。 だが、私の心に広がったのは、不思議なほどの安らぎと、そして歓喜だった。 もう鎧を纏う必要はない。ただ、この若い雄に身を委ね、その生命を育む母胎(はは)となればいい。 硝子の窓の外、摩天楼の光が滲んで見えた。 それは、私が鳳翔子という鎧を脱ぎ捨て、ただの女になった、始まりの夜だった。 #パート4:高橋和也の独白 ~ The Fourth Confession ~ 胃の奥が、冷たい鉛を飲み込んだようにずしりと重い。 蛍光灯の白い光が、積み上げられた書類の山を無機質に照らし出している。深夜の事務所に、俺の溜息だけが虚しく響いた。 高橋和也、38歳。しがない芸能マネージャー。 俺が人生の歯車をどこで掛け違えたのか、今となってはもう思い出せそうにもない。 Starlight Prism。俺が手塩にかけて育ててきた、三羽の美しい雛鳥たち。彼女たちは、メジャーデビューという大空へと見事に羽ばいていった。テレビ、雑誌、ラジオ。スケジュール帳は、黒いインクでびっしりと埋め尽くされている。それは、マネージャーとしてこの上ない喜びのはずだった。 だが、その輝きの裏側で、俺の心と身体は音を立てて軋み、崩れ落ちようとしていた。 原因は分かっている。 セレスティアル・ネクター。あの悪魔の霊薬。 あの薬は、少女たちを神々しいまでの偶像へと昇華させると同時に、その内側に決して満たされることのない飢えた獣を育て上げてしまった。 白石ひなた。黒瀬玲奈。 二人の少女は、夜ごと俺の身体を貪った。 最初は義務だった。彼女たちのパフォーマンスを最高の状態に保つための、必要悪。そう自分に言い聞かせていた。だが、いつしかそれは義務を超え、俺自身の逃れられない業(カルマ)となっていた。 薬が身体に馴染んだのか、あるいは観客から受け取る熱狂が彼女たちの渇きをさらに増幅させるのか。求められる頻度は、日に日に増していった。ひなたの全てを溶かす太陽のような熱情。玲奈の氷の下に燃える炎のような独占欲。二つの異なる地獄を、俺は毎晩行き来しなければならなかった。 しかも、互いにその関係を隠しながら。ひなたの前では玲奈の影を消し、玲奈の前ではひなたの匂いを断つ。その綱渡りのような二重生活が、俺の神経をじりじりと焼き切っていく。 身体の疲労も、もう限界だった。今夜もひなたに捕まった。事務所の仮眠室で五回。太陽のような笑顔で「まだ足りない」と無邪気に強請る彼女の身体から逃げ出した時、俺の膝は笑い、視界は霞んでいた。38歳の男の身体から、一体どれだけの精気を吸い上げれば、あの少女たちは満足するのだろうか。 ふらつく足取りで事務所の廊下を歩いていると、一番奥のレッスンスタジオからぼんやりと明かりが漏れているのに気づいた。 ひなたはもう帰したはずだ。玲奈も、とっくに寮に戻っている。 まさか、電気の消し忘れか。 そう思い、俺は音を立てないようにそっとドアに近づいた。防音仕様の重い扉には、内側を確認するための小さな覗き窓がついている。俺はそこに目を当て、中の様子を窺った。 そして、見てしまったのだ。俺の人生を決定的に終わらせる、最後の引き金となる光景を。 鏡張りの広大な空間。その中央で、一人の少年が踊っていた。 橘瑠衣。 彼は、一糸纏わぬ姿だった。 スポットライトの名残のように床を照らす間接照明が、彼の身体の輪郭を幻想的に浮かび上がらせている。月の光のように青白い滑らかな肌、激しいレッスンの賜物であるしなやかな筋肉の躍動。そして、その股間には、彼の華奢な身体には不釣り合いなほど堂々とした男の証が、熱を帯びて揺れている。 だが、彼がしていたのはダンスではなかった。 鏡の中に映るもう一人の自分、その倒錯した恋人に見せつけるかのように、彼は己の身体を自らの手で慰めていたのだ。 その光景は、あまりにも背徳的で、そしてこの世のものとは思えないほど妖しく美しかった。 彼の細くしなやかな指が、自らの小さな、しかし確かな膨らみを持つ胸へと伸びる。鳳社長が、あの手この手で丹念に育て上げた禁断の果実。その先端で硬く尖った突起を、彼はまるでピアニストが鍵盤を奏でるかのような繊細な手つきで、くりくりと弄び始めた。 「ん……っ、ふ……ぅ……」 静寂を破って、甘く切ない喘ぎ声が漏れた。 その声は、普段俺たちが聞いている計算され尽くしたアイドルの声ではない。完全に理性の箍が外れた、欲望そのものの響きを持っていた。 彼はうっとりと目を閉じ、首を小さく傾けている。金色の髪が、汗で湿った白い首筋に張り付いていた。 胸を愛撫するのとは逆の手は、自身の猛々しく屹立した分身を根本からしっかりと握りしめている。そして、鏡の中の自分と視線を絡ませながら、恍惚とした表情で、ゆっくりと、しかし確かな圧力を伴ってそれを扱き始めた。 じゅ、じゅ、と粘液の擦れる生々しい音が、静かなスタジオに響き渡る。 「……ん、ぅ……。しゃ、ちょう……みて、ますか……?僕、こんなに……あなたの、せいで……」 途切れ途切れに紡がれる言葉は、誰に向けられたものなのか。社長か、それとも鏡の中にしか存在しない架空の愛撫者か。 彼の腰が、小さく、しかし確実に円を描くように動き始める。それは、女性が快感を求める時の官能的な動きそのものだった。 男でありながら、女でもある。その二つの性が彼の身体の中で危ういバランスを保ちながら、互いを求め、貪り合っている。その様は、まるで神話の中の生き物を見ているかのような、畏怖の念すら抱かせた。 彼の指の動きが次第に熱を帯び、速度を増していく。乳首を捏ね上げる指先は力を増し、その先端は鬱血して熟れたベリーのように赤黒く染まっていた。自身の昂りを扱く手の動きも、荒々しく、貪欲なものへと変わっていく。 「はぁっ……!はぁっ……!あ、だめ……っ!もう、いっちゃ、う……!」 鏡の中の自分を見つめる瞳は熱に浮かされ、とろりと蕩けている。焦点はどこにも結ばれておらず、ただ内側から湧き上がる快感の奔流に身を委ねているだけだった。 下腹部の奥で、何かが爆ぜる予感が彼の全身を支配する。 彼は喘ぎながら、乳首を責め立てていた指を離すと、その手を自身の背中へと回した。そして、引き締まった臀部の間、固く閉じられた禁断の場所へとその指を伸ばす。 「ここ、も……社長が、めちゃくちゃに……したくせに……っ。最近じゃ、全然……さわって、くれな……っ」 まるでそこに誰かの指が存在するかのように、彼は自身の指でその入り口をぐりぐりと抉り始めた。 二方向からの強烈な刺激。 もはや、彼の身体は限界だった。 その華奢な身体が、大きく弓なりにしなる。 「い"ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ、くぅぅぅぅぅぅっ……!」 甲高い絶叫。それはもはや少年の声ではなかった。完全に雌としての快感に支配された、女の悲鳴。 彼の身体が、くくん、と激しく痙攣した。 そして、彼の手の中で握りしめられていた昂りの先端から、白濁した奔流が、びゅっ、びゅっと激しい勢いで迸った。 放たれた精液は放物線を描き、目の前の巨大な鏡にべちゃりと粘着質な音を立ててぶつかる。そして、白い筋となってだらりと垂れ落ちていった。 それは、彼が焦がれてやまない相手の不在を、そして満たされぬ欲望の大きさを物語るかのように、あまりにも大量で、そしてどこまでも虚しい、孤独な射精だった。 全てを出し尽くした瑠衣は、ぜえぜえと荒い呼吸を繰り返しながら、その場に膝から崩れ落ちた。精液と汗で汚れた身体は、照明を浴びてぬらぬらと妖しく光っている。 そのあまりにも痛々しく、そして美しい光景から、俺はしばらくの間、目を離すことができなかった。 この事務所は狂っている。俺も、あの子たちも、そして社長も。全員が、満たされぬ渇きを抱えた哀れな亡者なのだ。 そっとその場を離れようとした、その時だった。 ぎ、と古びたドアが、小さな、しかし致命的な音を立てて軋んだ。 びくり、と瑠衣の肩が震える。 鏡越しに、俺たちの視線が絡み合った。 しまった、と思った時にはもう遅い。 瑠衣の顔から、さっと血の気が引いた。だが、それはすぐに別の表情へと変わる。驚き、羞恥、そして全てを悟った者の冷たい諦観。やがて、その唇の端がゆっくりと吊り上がって、悪魔のような笑みを形作った。 「……見てたんですか、マネージャー」 声は、平然としていた。まるで、俺がここに来ることを最初から知っていたかのように。 「ひなたちゃんに搾り取られた後で、お疲れのところを。……ご苦労様です」 その言葉に、俺の心臓が凍り付く。 知っている。この子は、俺とひなたの関係を、そして玲奈との関係すらも、全て知っているのだ。俺が必死に守ってきた脆い均衡の秘密を、この少年は、いとも容易くその手の中に握っていた。 「……何のことかな」 しらを切る俺の言葉を、瑠衣は鼻で笑った。 「とぼけないでくださいよ。アンタが、あの二人を両方食い物にしてることくらい、とっくに気づいてます。まあ、どっちが食われてるのか分かりませんけどね」 彼は、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。裸のまま。その無防備な姿は、逆に絶対的な自信の表れのようにも見えた。俺の目の前で立ち止まると、彼は俺の胸を細い指先でとんと突いた。 「玲奈ちゃんにバラされたくなかったら……分かりますよね?」 それは、脅迫だった。 だが、その声には脅しつけるような厳しさよりも、どこか縋るような甘い響きがあった。 「僕のこと、慰めてくださいよ。社長はもう、僕の『男』にしか興味がないみたいで、全然構ってくれないんです。……寂しいんですよ、僕だって」 上目遣いで潤んだ瞳。計算され尽くした、完璧な誘惑。 彼は俺の手を取り、自身のまだ熱を持ったままの昂りにそっと触れさせた。 「ひっ……!」 思わず手を引こうとする俺を、彼は許さない。 「大丈夫。僕の後ろ、いつでもアンタを受け入れられるように、ちゃーんと綺麗にしてありますから。ひなたちゃんや玲奈ちゃんより、ずっと気持ちよくさせてあげますよ?」 囁き声が、鼓膜を直接震わせる。 脳が、ぐらりと揺れた。目の前の、性別を超越したこの世ならざる美しい存在に、引きずり込まれそうになる。 だが、その瞬間。俺の脳裏に、一つの顔が鮮やかに浮かんだ。 姉の息子。この春、中学生になったばかりの、まだ声変わりもしていないあどけない少年。屈託のない笑顔で「おじさん」と俺を慕ってくれる、たった一人の甥。 あの子の顔を、汚れた目で見てしまうようになるのだけは嫌だった。 男の身体を知ってしまったら、きっと俺の中の何かが決定的に壊れてしまう。もう、あの子の顔をまっすぐに見られなくなる。 それだけは、絶対に駄目だ。 「……すまない」 俺は、彼の身体から自分の手を振り払った。そして、一歩後ずさる。 「……できない。君とは、できない」 俺の拒絶の言葉に、瑠衣の顔から誘うような笑みが消えた。代わりに浮かんだのは、純粋な困惑。 「……なんで?僕じゃ、不満だって言うんですか」 「違う。そうじゃないんだ」俺はかぶりを振った。「俺には……甥がいる。中学生の。俺は、あの子のことを……そういう目で見たくないんだ。男の子と関係を持ってしまったら、きっと俺は……」 そこまで言って、俺は自分の言葉の矛盾に気づいた。 未成年の少女たちを毎晩のように貪っているこの俺が、何を言っているんだ。 そのあまりにも身勝手な言い訳に、瑠衣の表情がみるみるうちに変わっていく。困惑は驚きへ。そして、驚きは燃え盛るような怒りへと。 「……は?」 彼の唇から漏れたのは、凍てつくように冷たいたった一音だった。 「ふざけるなよ」 声は、怒りに震えていた。 「未成年の女の子はよくて、未成年の男の子はダメ? なんだよ、その都合のいい線引きは! 結局アンタは、自分のくだらない感傷や罪悪感が傷つかない相手を選んでるだけじゃないか! 僕たちは何だ? ひなたも、玲奈も、この僕も……アンタにとっては、その大事な甥っ子君の世界を汚さずに済む、都合のいい欲望の捌け口だってことかよ!」 激昂した彼の言葉が、ナイフのように俺の胸に突き刺さる。 違う、と否定したかった。だが、その言葉は喉の奥でつかえて出てこなかった。 彼の言う通りだった。俺は、自分の欲望と保身のために、少女たちを利用してきただけなのかもしれない。彼女たちの純粋な想いを薬のせいだと決めつけて、自分の罪悪感から目を逸らしてきただけなのかもしれない。 「最低だ……」 瑠衣は吐き捨てるようにそう言うと、床に散らばった自分の服を乱暴に拾い上げた。その瞳には、涙が滲んでいる。それは怒りの涙か、それとも拒絶されたことへの悲しみの涙か。 俺には、もう何も分からなかった。 「……ごめん」 俺の口から出たのは、そんな無力な一言だけだった。 その夜の帰り道、俺の運転する車の助手席で、瑠衣は一言も口を利かなかった。気まずい沈黙だけが、俺たちを乗せて夜の高速道路を滑っていく。彼の自宅マンションの前で車を止めると、彼は「どうも」とだけ短く言って、逃げるように車を降りていった。 一人残された車内。エンジンを切ると、世界から音が消えた。 俺は、ハンドルに額を押し付けた。 もう、駄目だ。 限界だ。 心も、身体も、もうボロボロだった。これ以上、この狂ったサーカスを道化として演じ続けることはできない。 翌日、俺は覚悟を決めて鳳翔子社長の元へと向かった。 重厚なマホガニーの扉をノックし、中へ入る。社長は、いつものように窓の外の景色を背にして、優雅にデスクに座っていた。だが、今日の彼女はどこか様子が違った。 「……高橋くん。顔色が悪いわよ」 その声は、いつもより僅かに覇気がない。そして、彼女が口元を押さえる仕草を見て、俺は気づいた。微かに、しかし確実に、彼女の身体は変化している。匂いに敏感になっているのか、デスクの上には普段は見かけないハーブの香りが焚かれていた。 まさか。 妊娠……? 誰の子だ。内縁の夫だという男か。それとも……。俺の脳裏に、昨夜のあの妖しい少年の姿が浮かんだ。 「社長。……単刀直入に申し上げます。俺はもう限界です。マネージャーを、辞めさせてください」 俺の言葉に、社長は僅かに眉をひそめた。 「……何を言っているの。今が、一番大事な時だというのに」 「分かっています。ですが、俺にはもうあの子たちの要求に応えることはできません。身体だけじゃない。心も、もう持ちません」 俺は必死に訴えた。だが、彼女の瞳は氷のように冷たかった。 「それが、あなたの仕事でしょう?高橋くん。あなたは、輝き続けるあの子たちのための、ただの『生贄』。それ以上でも、それ以下でもないわ。この祭壇から、あなた一人だけ逃げるなんて許されると思っているの?」 そのあまりにも非情な言葉に、俺の中で何かがぷつりと切れた。 これまで溜め込んできた怒り、絶望、悔しさ、その全てが濁流となって俺の口から溢れ出した。 「生贄だと!?あんたは、俺たちを何だと思ってるんだ!あの子たちも、俺も、あんたの野望のためのただの駒か!あんたがやっていることは、人道にもとる行為だ!いつか必ず、天罰が下るぞ!」 「口を慎みなさい、高橋くん」 社長は静かに、しかし有無を言わせぬ威圧感で俺の言葉を遮った。 だが、もう俺は止まらなかった。追い詰められた獣が、最後の牙を剥くように。 「……そうですか。なら、いいですよ」 俺は、嘲るように笑った。 「俺が、セレスティアル・ネクターのことを懇意にしている週刊誌の記者に話したら、あんたはどうする?」 その一言を口にした瞬間、社長室の空気が凍りついた。 社長の美しい顔から、すう、と全ての表情が消え失せる。その瞳の奥に宿っていた僅かな人間的な光すらも消え、そこには絶対零度の無機質な光だけが揺らめいていた。 ああ、終わった。 俺とこの事務所との関係は、今、完全に。 高橋の退職は、その日のうちに事務的に決定された。 引き継ぎのための時間は、僅かしか与えられなかった。俺は不眠不休で、後任のためのマニュアルを作成した。あの子たちの好きな食べ物、苦手なもの、それぞれの癖、そして決して表には出せない薬の副作用への対処法まで。それが、俺にできる最後の贖罪だった。 最後の日、俺はStarlight Prismの三人に別れの挨拶を告げた。 楽屋の扉を開けると、三者三様の表情が俺を迎えた。 瑠衣は、気まずそうにふいと俺から目を逸らした。あの一件以来、俺たちはほとんど口を利いていない。彼は、ただ黙ってスマートフォンの画面をいじっているだけだった。 玲奈は、俺の口から「辞める」という言葉が出た瞬間、時間が止まったかのように絶句した。その瞳が、みるみるうちに潤んでいく。裏切られたという怒りと、唯一の依存先を失うことへの子供のような恐怖。彼女は、ただわなわなと唇を震わせるだけで、一言も言葉を発することができなかった。 そして、ひなたは。 「……いやだ」 最初は、か細い呟きだった。 「いやだ、いやだ、いやだ!どこにも行かないで、高橋さん!」 彼女は半狂乱になって、俺の足にすがりついてきた。子供のように泣きじゃくり、俺のスーツのズボンを涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしていく。 「私を一人にしないで!高橋さんがいないと、私、どうしたらいいか分からないよぉ!」 その姿は、痛々しく、哀れだった。 だが、そのあまりにも純粋で、そして身勝手な依存こそが、俺をここまで追い詰めた元凶なのだ。 俺は、もう彼女の太陽ではいられない。ただ、その強すぎる光に焼かれ、灰になるだけの哀れな蛾でしかないのだ。 「……ごめんな」 俺は、彼女の手を冷たく振り払った。 そして、三人の少女たちに背を向けて、一度も振り返ることなくその楽屋を後にした。 俺が心血を注いで作成した、分厚い引き継ぎマニュアル。 それは、新しいマネージャーが着任するまでの僅かな間に事務所のどこかへと紛失し、一ヶ月もしないうちに、その存在ごと誰の記憶からも忘れ去られてしまったという。 #パート5:一夜限りのコール&レスポンス ~ The Fifth Secret ~ チケットを握りしめる僕の掌は、じっとりと汗で湿っていた。 心臓が、まるでバスドラムみたいに胸の奥で鳴り響いている。会場を埋め尽くすファンの熱気と、色とりどりのペンライトの光の海。その全てが、僕の興奮をいやがうえにも高めていた。 Starlight Prism。僕のすべてを捧げてもいいと思える、三人の女神たち。 でも、今日のイベントはいつものライブとは少し雰囲気が違っていた。歌とダンスの合間に、クイズやゲームコーナーといったバラエティ色の強い企画が挟み込まれている。それは、最近の彼女たちのパフォーマンスにどこか以前のような圧倒的な輝きが失われつつあることを、事務所が自ら認めているようで、僕の胸をちくりと刺した。 先月、突然辞めてしまったという、マネージャーの高橋さん。彼がいなくなってから特に、ひなたちゃんの笑顔には時折、ふとした瞬間に寂しげな翳りが差すようになった気がする。 それでも、ステージの上の彼女たちはやっぱり僕の女神様だった。 ゲームコーナーでひなたちゃんが大きく蹴り上げたボールが、綺麗な放物線を描いて客席へと飛んでくる。まさかと思った瞬間、鈍い衝撃と共に僕の視界は真っ白に染まった。 「……ってて……」 顔面を直撃したらしい。じんじんと痺れる鼻を押さえながら顔を上げると、ステージの上からひなたちゃんが「だ、大丈夫!?」と心配そうな顔でこちらを覗き込んでいた。周りのファンからは笑い声が起き、僕は恥ずかしさと女神様に見つけてもらえたという喜びで顔が真っ赤になった。 そんなトラブルもあったけれど、イベントの最後は三人の新曲で締めくくられた。少しだけ切ないメロディに乗せて、それでも前を向こうとする強い意志が込められた歌声。僕はペンライトを振るのも忘れ、ただその姿を目に焼き付けていた。ひなたちゃん。どうか、笑っていて。 実家のある地方からなけなしの小遣いをはたいて遠征してきた僕は、会場のすぐ近くにある少し古びた温泉旅館に宿を取っていた。イベントの興奮と顔面に残るボールの感触を反芻しながら、貸し切り状態の露天風呂に身体を沈める。ざあ、と竹林を揺らす風の音が、火照った身体に心地よかった。 その静寂を破ったのは、からりと脱衣場の引き戸が開く音だった。 まあ、貸し切りじゃないから誰か来るよな。そう思って、僕は湯けむりの向こうに目を向けた。そして、心臓が止まるかと思った。 そこに立っていたのは、湯上り用の簡素な浴衣を一枚だけ羽織った、白石ひなたその人だったからだ。 「……え」 僕の口から、間の抜けた声が漏れる。ひなたちゃんは僕の存在には気づかず、気持ちよさそうに「ふぅー」と息を吐くと、てきぱきと浴衣の帯を解き始めた。 待って。待ってくれ。何かの間違いだ。これは、夢だ。 僕の思考が完全に停止する中、はらりと彼女の肩から浴衣が滑り落ち、月明かりと湯けむりの中に、テレビや雑誌で何度も見たあの完璧な肢体が惜しげもなく晒された。 豊かな丸みを帯びた胸。きゅっと引き締まったくびれ。そして、柔らかそうな太腿。その全てが、僕の目の前、ほんの数メートルの距離に実在している。 僕はパニックになりながら、慌てて湯船の縁に身を寄せ、岩陰に隠れるようにして身体を縮こまらせた。 「んー、やっぱり露天は最高だねー」 ひなたちゃんは僕の葛藤など露知らず、鼻歌混じりで湯船へと入ってくる。そして、僕が隠れているのとは反対側の縁に、気持ちよさそうに身を沈めた。 どうしよう。どうすればいい。声をかけるべきか?でも、なんて?今、ここで僕が男だとバレたら、彼女は悲鳴を上げて、僕は警察に突き出されるかもしれない。 ぐるぐると混乱する僕の頭の中で、一つの可能性が浮かび上がった。もしかして、この旅館、時間で男女入れ替え制とかだったのか?僕が時間を間違えた?いや、そんなはずは。 僕が一人でパニックに陥っていると、湯けむりの向こうから彼女の鈴を転がすような声が聞こえてきた。 「あれ?君、もしかして……」 ひなたちゃんのくりくりとした大きな目が、僕の顔を捉えて不思議そうに瞬きをした。 「今日のイベントで、顔にボールが当たってた子じゃない?」 覚えててくれた。 その事実に、僕の心臓が歓喜に跳ね上がった。 「は、はい!そうです!」 思わず、大きな声で返事をしてしまう。ひなたちゃんは、「やっぱりー!」と嬉しそうに笑った。 「ごめんね、痛かったでしょ?大丈夫だった?」 「だ、大丈夫です!全然!むしろ、光栄でした!」 「ふふ、なにそれ」 彼女はくすくすと笑いながら、少しだけ僕のいる方へとにじり寄ってきた。僕は湯の中で、痛いほどに硬くなっている自分の下半身を、彼女に見られないよう必死で膝を抱えて隠した。 「そっかぁ。じゃあ、君も泊まりなんだね。もしかして、遠くから来てくれたの?」 「はい!ひなたちゃんに会いたくて、頑張ってバイトしました!」 「わあ、ありがとう!嬉しいな」 彼女の屈託のない笑顔。ステージの上の女神様が、今、僕のためだけに笑ってくれている。その事実だけで、僕はもう天にも昇るような気持ちだった。 だが、このままではいけない。女神様との会話に夢中になっていたけれど、この状況は明らかに異常だ。僕が何も言わなければ、彼女は傷つかないかもしれない。でも、もし他の誰かが入ってきたら?その時の方が、彼女はもっと深く傷つくはずだ。 僕は意を決して、できるだけ彼女を刺激しないよう、慎重に言葉を選んだ。 「あ、あの……変なこと聞くんですけど、ここのお風呂って、混浴だったりするんですかね……?僕、こういう旅館に泊まるの初めてで、よく知らなくて……」 自分の無知を装った、精一杯の問いかけ。それに、ひなたちゃんは「え?」と小首を傾げた。その反応で、僕は確信する。彼女はここを混浴だと信じ込んでいたのだ。 「混浴……だよ、ね? だって、フロントの人に露天風呂はこちらですって……」 言いながら、彼女の表情に不安の色が浮かび始める。ひなたちゃんはそろりと湯船の縁に身を寄せると、湯けむりの向こう、僕たちが入ってきた脱衣所の方へとおそるおそる視線を向けた。 そこにかかっている暖簾は、紛れもない、藍色だった。 そして、洗い場の隅に無造作に置かれた、見慣れない男性用の大きなボトルに入ったリンスインシャンプーと、使いかけのシェービングフォーム。それらが、残酷なまでに明確な事実を突きつけていた。 「あ……」 小さな、か細い声が漏れる。次の瞬間、彼女の顔が、みるみるうちに熟れた林檎のように真っ赤に染まっていく。 「ご、ごめんなさい!私、てっきりここ、混浴なんだと……!」 慌てて身を翻し、湯船から上がろうとする彼女の濡れた背中が、月明かりに照らされて艶めかしく光った。その姿に、僕の理性が焼き切れそうになる。 僕は、そんな気まずそうな彼女を気遣って、必死で言葉を絞り出した。 「あ、あの!大丈夫です!俺、白石さんの大ファンなんです!だから、こうしてお話できてすごく嬉しいです!」 僕の拙い、しかし懸命な言葉に、ひなたちゃんの動きがぴたりと止まった。 彼女はゆっくりと振り返ると、まだ顔を赤らめたままでも、少しだけ安心したようにふわりと微笑んだ。 「……そっか。ファンなんだ」 「はい!世界で一番、ひなたちゃんのことが好きです!」 僕の熱意が伝わったのだろう。彼女は、少しだけ照れたように俯くと、か細い声で尋ねてきた。 「……もう少しだけ、ここでお話してもいいかな?」 「も、もちろんです!」 僕は、心臓が張り裂けそうなほどの喜びを感じながら、力強く頷いた。 それから僕たちは、夢のような時間を過ごした。 ひなたちゃんは、僕に冗談めかして尋ねてきた。 「ねえ、私のファンだって言うの、お世辞じゃないの?」 僕は、待ってましたとばかりに、自分がどれだけ彼女のことが好きか熱弁を振るった。初めて彼女をテレビで見た時の衝撃。彼女の歌声が、どれだけ僕の心を支えてくれたか。太陽みたいな笑顔も、少しだけおっとりしているところも、でもステージの上では誰よりも力強く輝くそのギャップも。僕が知っている彼女の魅力のすべてを、僕は言葉を尽くして語った。 僕の熱のこもった言葉に、彼女は本当に嬉しそうに耳を傾けてくれた。その瞳は、さっきよりもずっと優しく、温かい光を宿しているようだった。 「ありがとう。……なんだか、すごく元気が出たよ」 しみじみと呟く彼女の横顔は、どこか寂しげで、僕は思わず尋ねていた。 「何か、悩み事でもあるんですか?」 その言葉に、彼女は一瞬だけ悲しげに瞳を揺らした。だが、すぐにいつもの笑顔に戻ると、「ううん、なんでもないよ」と軽く手を振って見せる。その仕草が、逆に彼女が何か大きなものを抱えていることを僕に感じさせた。 「Starlight Prismの他のメンバーのことも、もちろん応援してます!」 僕は、場の空気を変えようと、慌てて話題を転換した。 「玲奈さんのクールで完璧なパフォーマンスも、瑠衣さんの中性的でミステリアスな魅力も、大好きです!」 僕がそう言うと、ひなたちゃんは「ありがとう」と微笑んだ。だが、瑠衣ちゃんの名前が出た時、その表情がほんの少しだけ複雑な色を帯びたのを、僕は見逃さなかった。 「そういえば、一部のファンが瑠衣さんのことを『瑠衣くん』って呼んでるじゃないですか。俺、あれ、あんまり好きじゃないんですよ」 僕は、日頃から思っていた不満を口にした。 「きっと、瑠衣さんが他の二人より胸が小さいから、それを揶揄して男扱いしてるんでしょうけど。そういうのって、すごく失礼だと思うんです。瑠衣さんは、ちゃんと可愛い女の子なのに」 僕の言葉に、ひなたちゃんは何とも言えない曖昧な笑みを浮かべた。 「……ふふ。そっか。君は、そう思ってくれてるんだね。……瑠衣ちゃんが聞いたら、喜ぶと思うな」 その反応に、僕は少しだけ違和感を覚えた。まるで、何か僕の知らない秘密を知っているかのような。 だが、そんな些細な疑問は、すぐに湯の熱と、憧れの人がすぐそばにいるという興奮の中に溶けていってしまった。 憧れのひなたちゃんが、すぐ目の前で美しい裸身を晒している。湯けむりに柔らかく浮かび上がる豊かな乳房や滑らかな肌。その無防備な姿がすぐ近くにあるという事実だけで、湯の中で隠している僕の分身は、はち切れんばかりに熱く、痛いほどに張り詰めていた。これ以上長湯をすれば、のぼせてしまうか、あるいはこの昂りを隠しきれなくなるか、どちらが先か。 僕は、湯に浸かったまま必死で平静を装い、話を続けた。だが、温泉はあまりにも熱く、僕たちの会話もそれに比例するように熱を増していく。 そして、ついに僕の意識の限界が訪れた。 視界がぐにゃりと歪み、ひなたちゃんの声が遠くに聞こえる。 「……あれ?君、顔真っ赤だよ?大丈夫……?」 その声を最後に、僕の意識はぷつりと途切れた。 ◇ ふと、意識が浮上する。 最初に感じたのは、ひんやりとした石の感触と、自分の心臓のばくばくと激しい鼓動だった。 僕は、自分が湯船の外、濡れた岩の上に横たわっていることに気づいた。誰かが、僕を湯から引き揚げてくれたらしい。そして、その誰かは今、僕のすぐ間近にいた。 ふわりと、甘い女の子の匂い。 ゆっくりと瞼を開くと、そこには僕の顔を心配そうに覗き込む女神の顔があった。 「……ひなたちゃん……?」 掠れた声で呟くと、彼女は「よかった、気がついたんだね」とほっとしたように微笑んだ。 そして、僕は気づいてしまった。 彼女の身体が、僕の身体にぴったりと密着していることに。 そして、彼女の小さく柔らかな手が、僕の昂ったままの分身を優しく、しかし確かな手つきで握りしめていることに。 「ごめんね。のぼせてたのに、気づいてあげられなくて」 彼女は、申し訳なさそうな声で言った。だが、その手は少しも僕のものから離れようとしない。むしろ、指先で先端をくすぐるように、悪戯っぽく刺激してくる。 「ひっ……!」 ぞくりとした快感が、腰から脳天までを駆け上る。僕の身体が、びくんと大きく跳ねた。 「……こんなに熱くして。ずっと、我慢してたんだね」 囁く声は、蕩けるように甘い。その瞳は、潤んで熱っぽい光を宿していた。それは、僕が知っている太陽のようなひなたちゃんじゃない。もっと蠱惑的で、男を狂わせる妖婦のような顔。 「こ、こんなこと……していいんですか……?」 僕は、震える声で尋ねた。アイドルの彼女が、ただのファンの、しかも年下の男の子にこんなことを。 「……いいの」 ひなたちゃんは、曖昧に微笑むだけだった。その瞳は、どこか寂しげで、何かを求めるように僕の心の奥底を覗き込んでいる。 その瞳に見つめられた瞬間、僕の中で何かが弾けた。 憧れ、欲望、そしてこの傷ついた女神様を守ってあげたいという庇護欲。 それら全てがごちゃ混ぜになった衝動に突き動かされ、僕は意を決して彼女の唇を奪っていた。 「ん……っ」 驚いたように、彼女の肩が小さく震える。だが、すぐにその身体から力が抜け、僕のキスを受け入れてくれた。 初めて触れた彼女の唇は、想像していたよりもずっと柔らかく、そして熱かった。 僕たちは、どちらからともなく互いの身体を求め始めた。 僕の手は、彼女の豊かな乳房や柔らかな太腿を夢中で撫で回した。汗で滑る肌の感触が、たまらなく気持ちいい。指先で硬く尖った乳首に触れると、彼女の口から甘い声が漏れた。その無防備に開かれた秘裂に、僕は吸い寄せられるように舌を伸ばした。 「ひゃぅっ……!だめ、そんなとこ……舐めちゃ……!」 彼女の身体が、びくんびくんと快感に震える。その反応が、童貞である僕の野生の本能をさらに掻き立てた。 彼女もまた、僕の昂りを弄ぶように刺激し続ける。僕が達してしまわないように、絶頂の寸前でわざと力を抜いたり、優しく撫でたり。その巧みな焦らしに、僕の身体は快感の地獄と天国を何度も行き来させられた。 ひなたちゃんの手つきは、まるで僕の身体の構造を全て知り尽くしているかのようだった。親指の腹で裏筋をなぞられるたびに腰がびくりと跳ね、先端の敏感な傘の部分をくるくると撫でられると、甘い痺れが背筋を駆け上る。 僕も負けじと、彼女の花弁を舌で一枚一枚丁寧に舐め上げ、中心で硬く尖った核を執拗に刺激した。彼女の指の力が強まり、僕の頭を濡れた岩に押さえつける。僕がイきそうになる寸前、彼女はきゅっと根本を掴んで動きを止め、僕が喘ぐのを見て悪戯っぽく笑う。その支配的な笑みを見て、僕の中の理性の最後の糸がぷつりと切れた。 もう、彼女の掌の上で転がされるだけではいられない。この余裕綽々な女神様を、僕の手でぐちゃぐちゃに乱してやりたい。そんな凶暴な独占欲が、僕の舌の動きをさらに執拗なものへと変えていく。さっきまでの優しさなどかなぐり捨て、舌先で激しく核を嬲り、歯を立てんばかりの勢いで花弁を吸い上げる。 やがて、僕の執拗な責めにひなたちゃんの余裕がなくなっていくのが分かった。呼吸は荒くなり、僕の分身を握る手にも力がこもっていく。 今だ。 僕は、彼女の身体を優しく押し返し、ゆっくりと身を起こした。そして、岩の上に膝立ちになり、彼女の身体に覆い被さる。 見下ろした彼女の姿は、僕がこれまで目にしたどんなグラビア写真やライブ映像よりも、ずっとずっと美しかった。 月明かりに照らされた濡れた肌。興奮で上気した頬。そして、期待に潤み、蕩けた瞳で僕をただまっすぐに見つめている。 「……ひなたちゃん」 僕は、震える声で彼女の名前を呼んだ。 「……中、いれてもいいですか」 その問いに、彼女は恍惚とした表情のまま、こくりと小さく、しかし確かに頷いた。そして、自らの手で僕のものを掴むと、濡れそぼった自身の入り口へとゆっくりと導いていく。 「……うん。君のぜんぶ、ひなたの中にちょうだい?」 その言葉が、合図だった。 僕は、ゆっくりと、しかし確かな力で腰を沈めていった。 初めての挿入は、想像を絶していた。 熱くて、柔らかくて、滑らかで、そして信じられないくらいきつく締め付けられる。内壁の無数の柔らかい襞が、僕の亀頭を、竿を絡め取って絞り上げてくる。脳が痺れる。身体の全ての感覚が、下半身の一点に集中していくようだった。 あまりの気持ちよさに、僕はまともに動かすことができない。ただ、彼女の中に自分の全てを埋めたまま、はぁはぁと荒い息を繰り返すことしかできなかった。 「……ふふ。大丈夫だよ」 僕の背中に、ひなたちゃんの柔らかな手がそっと回された。そして、ぽんぽんとあやすように優しく叩かれる。 「初めてなんでしょう?……ゆっくりで、いいからね」 僕の腰に絡められた彼女のしなやかな脚に、きゅ、と力が込められた。それは、僕の動きを優しく手助けしてくれるリードの合図だった。 僕は、彼女の導きに従うように、恐る恐る腰をほんの少しだけ引き抜いた。そして、再びゆっくりと奥まで沈める。 ずぷ、という湿った音と共に、僕の亀頭が彼女の内部の熱く柔らかな一点をぐりと擦り上げた。 「ひゃっ……!」 ひなたちゃんの口から、甘い声が漏れる。僕の身体にも、ぞくりとした電撃のような快感が走った。 ここだ。 ここが、きっと一番気持ちいい場所。 僕は、もう一度そこを狙って腰を動かした。 一度コツを掴んでしまうと、もう止まらなかった。僕は、まるで生まれて初めて自転車に乗れた子供のように、夢中でペダルを漕ぎ続けた。 最初はぎこちなかった動きも、徐々にリズムを掴んでいく。拙いが、懸命な若さだけが持つ無限のスタミナ。 「んぁ……っ!きもちぃ……!きみの、おっきいの……私のお腹の中、ぐりぐりしてる……っ!」 僕の懸命な動きに、ひなたちゃんもどんどん高まっていくのが分かった。彼女の喘ぎ声は熱を帯び、僕の背中を掻きむしる指先に力が込められていく。 内壁の締め付けが、次第に強くなっていく。僕の竿を、まるで根こそぎ絞り取ろうとするかのように、きゅうきゅうと脈打ち始める。 もう、我慢の限界だった。 破れかぶれで、僕は残された理性の全てをかなぐり捨て、ただ本能のままに腰を前後に激しく揺さぶり続けた。 「だ、だめぇ……!私、もういっちゃう……!」 ひなたちゃんの身体が、大きく弓なりにしなった。 彼女が、僕より先に絶頂の頂へと駆け上がっていく。 「い"ぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ、くぅぅぅぅぅぅ……!」 甲高い絶叫と共に、彼女の内壁がびくんびくんと激しく痙攣した。その締め付けは、これまでの比ではない。僕の分身は、その強烈な刺激に耐えきれず、もはや引き抜くこともできず、彼女の身体の奥深くで溜め込んでいた熱い奔流を暴発させた。 「うわああああああああぁぁぁぁぁっ……!」 自分のものではないみたいな、声が出た。 頭の中が真っ白に染まる。熱くてドロリとした生命の雫が、僕の身体から彼女の身体の中へと止めどなく注ぎ込まれていく。生まれて初めての膣内射精は、想像を絶するほどの快感で、僕は意識が遠のくほどの悦びの中で、ただひなたちゃんの名前を何度も何度も呼び続けた。 どれくらいの時間が経ったのか。 嵐が過ぎ去った後、僕はぐったりとひなたちゃんの身体の上に倒れ込んでいた。 僕の分身は、まだ彼女の身体の中に繋がったまま、射精の余韻に小さく脈打っている。 はっと我に返った僕は、自分がしでかしてしまったことの重大さに、ようやく気づいた。 「す、すみません……!中に……出しちゃいました……!」 慌てて謝る僕に、ひなたちゃんはまだ快感の余韻で蕩けた顔のまま、くすくすと楽しそうに笑った。 「ううん。大丈夫だよ。……いっぱい出してくれて、嬉しかった」 彼女は、全く気にする様子もなく、むしろ一緒に気持ちよくなれたことを素直に喜んでいるようだった。その無邪気な反応に、僕は救われたような気持ちになった。 だが、僕たちの甘い時間は唐突に終わりを告げられる。 がらがら、と脱衣場の引き戸が開く乾いた音がした。そして、中年男性のものらしき話し声。 貸し切りではなかったのだ。他の客が入ってきたのだ。 まずい。 僕とひなたちゃんは顔を見合わせた。そして、声も立てずに必死で息を殺す。僕たちは、洗い場の隅、湯船の岩陰になる場所に身を寄せ合って隠れた。 心臓が、ばくばくとうるさいくらいに鳴っている。見つかったら、終わりだ。現役アイドルとファンの少年が、温泉で性行為。スキャンダルなんていう言葉では済まされない。 幸い、入ってきた客たちは僕たちの存在には気づかず、湯船へと向かっていった。僕たちは、その隙に音を立てないように、そろりそろりとその場を這うようにして脱出した。 脱衣場で濡れた身体を急いで拭き、浴衣に袖を通す。 そして僕は、ひなたちゃんに手を引かれるまま、彼女が泊まっているという部屋へと連れ込まれたのだった。 襖を閉め、鍵がかかる。カチャリ、という小さな音が、まるでゴングのように響いた。 二人きりの、静かな和室。障子窓の向こうからは、虫の音が微かに聞こえてくるだけだった。先程までの喧騒とスリルが嘘のように、世界から隔絶されたような空間。僕の心臓は、まだ破裂しそうなほど速く脈打っていた。 「……ふふ。ドキドキしたね」 ひなたちゃんは、悪戯っぽく笑いながら僕の手をぎゅっと握った。その手のひらは、汗で少し湿っている。彼女もまた、僕と同じくらい興奮しているのだ。 部屋の中央に置かれた座卓に、彼女はこつりと両手をついた。そして、僕の方を振り返り、豊かな尻を挑発的に左右に振って見せた。乱れた浴衣の裾から、湯上りの火照りを残した白く丸い太腿がちらりとのぞいている。 「……ねえ」 潤んだ瞳が、僕を上目遣いに見つめる。 「もう一回、しよっか」 その言葉は、もはや問いかけではなかった。有無を言わせぬ、甘い命令。先程の行為で一度は萎えかけた僕の分身は、その蠱惑的な光景と囁きに即座に反応した。再び熱を帯び、硬度を取り戻し、戦意を漲らせていく。 僕は、まるで操り人形のようにふらふらと彼女の背後へと近づいた。そして、その柔らかく弾力に満ちた尻の肉を両手で鷲掴みにする。 「んっ……!」 甘い声が、彼女の唇から漏れた。僕は浴衣の裾を乱暴に捲り上げ、その無防備な秘裂に自身の熱く硬い先端を押し当てた。後背位。本能が、この体勢が最も深く、そして獣のように交われることを僕に教えていた。 ずぶり、という湿った音と共に、僕の全てが彼女の身体の奥深くへと埋められていく。一度繋がった道は、滑らかに、そして貪欲に僕の存在を受け入れた。 「あぁっ……!また、はいってきた……っ!きみの、おっきいの……!」 ひなたちゃんは、受け身の姿勢とは思えないほど情熱的に腰をくねらせ、自ら僕のものを奥深くへと引きずり込んでくる。その巧みな動きに、童貞だった僕の拙い技術など、あっという間に凌駕されてしまった。彼女の内部で、僕の亀頭が的確に最も敏感な場所を擦り上げられる。 「ここ……っ!きもちぃ……!」 「負けるもんか……っ!」 僕は負けじと、彼女が最も反応を示す場所に狙いを定め、亀頭を執拗に擦り付けた。互いに相手の弱い場所を探り合い、攻め立てる。それはもはや、愛の交歓というよりは互いの本能をぶつけ合う真剣勝負のようだった。 部屋の温度が、急激に上昇していく。汗が、僕の額から彼女の白い背中へとぽたりと滴り落ちた。 畳と座卓が、僕たちの腰の動きに合わせてぎしぎしと悲鳴を上げる。肉と肉がぶつかり合う湿った音が、静かな和室にいやらしく響き渡った。僕の手は彼女の腰骨をがっしりと掴み、角度を変え、深さを変え、一番奥にある熱い核を執拗に抉り続けた。ひなたちゃんは座卓に突っ伏したまま、時折苦しげに、しかし恍惚に満ちた喘ぎ声を漏らすだけだった。彼女の豊かな尻が、僕の突き上げに合わせてわななくように震える。その光景が、僕の最後の理性を焼き尽くした。 やがて、絶頂の予感が熱に浮かされた僕の意識を支配し始める。もう、止められない。止めようとも思わない。このまま、この女神様と一つになって溶けてしまいたい。 「ひなたちゃんっ……!」 僕は、思わず叫んでいた。 「ひなたちゃん、孕んで……!」 そのあまりにも不遜で冒涜的な言葉を口にしながら、僕は快感の頂点へと達した。 どくどくん、と二度目の、そして一度目よりも遥かに濃厚な生命の奔流が、彼女の子宮の最奥へと激しく注ぎ込まれていく。 僕の射精に呼応するように、ひなたちゃんの内壁がびくんびくんと激しく痙攣した。打ち付ける脈動のリズムに合わせて、内部が収縮し、僕の精液を最後の最後まで一滴残らず絞り取ろうとする。 あまりの快感に、ひなたちゃんの身体ががくりと前のめりに崩れ落ちた。僕もまた、その後方に尻餅をつくようにして倒れ込む。繋がっていた場所から、ひなたちゃんの愛液がとろりと溢れ出した。それは水のようにさらりとしていたが、僕が注ぎ込んだばかりの白い液体は驚くほど濃厚で、ほとんど垂れ落ちてくる気配はなかった。 とんでもないことを、口走ってしまった。 憧れのアイドルに、「孕んで」だなんて。我ながら、どうかしている。 僕は、急速に冷静になっていく頭で気まずさに身を縮こませた。だが、畳の上に崩れ落ちたままこちらを振り返ったひなたちゃんの表情は、怒りや軽蔑とは全く無縁のものだった。 むしろその瞳は、これまでで一番きらきらと輝いているように見えた。 「……ふふ。私を、妊娠させたいんだ?」 その声は、どこまでも楽しそうで上機嫌だった。 「出来ちゃうかどうかは、君次第かな?」 彼女の悪戯っぽい微笑み。その言葉は、今日という日が決して安全な日ではないことを明確に示唆していた。 憧れのアイドルを、本当に自分の子種で孕ませてしまうかもしれない。 その背徳的で、そして途方もない可能性が、僕の身体の奥底に眠っていた最後の獣を呼び覚ました。 二度もたっぷりと放出したはずの僕の分身が、三度目の戦いに向けて、信じられないほどの硬さで再びゆっくりと持ち上がっていく。 「……すごい。まだ、そんなに元気に……なるんだね」 ひなたちゃんは、まるで愛しいものを見るかのような目つきで僕の昂りを見つめている。そして、ゆっくりと四つん這いでこちらへにじり寄ってくると、僕の身体の上にしなだれかかるようにして跨ってきた。 僕たちは、恋人同士のように互いの身体を強く抱きしめ合った。 汗で湿った肌と肌が触れ合う感触。互いの心臓の鼓動が、まるで一つのリズムを刻むように重なり合う。 今度は対面座位。彼女の潤んだ瞳が、すぐ間近で僕を捉えて離さない。どちらからともなく顔を寄せ、舌と舌を深く絡ませ合った。ひなたちゃんの柔らかく豊かな乳房が僕の胸に押し付けられ、その心地よい重みと弾力が、僕の理性をさらに蕩けさせていく。 彼女の腰が、小さく、しかし確実に跳ねた。くねるような官能的な動きで、僕の芯の部分を、余すところなく刺激してくる。 「好き……ひなたちゃん、好き……」 僕はもう、それ以外の言葉を知らない子供のように、ただ繰り返すことしかできなかった。 ひなたちゃんは、そんな僕の言葉を全身で受け止めながら、僕の背中に回した腕に、ぎゅっと力を込めた。 「うん……。私も、君のこと、好きに、なっちゃう……!」 彼女は僕の上で、まるで熟練の乗り手のように巧みに腰を操った。ゆっくりと円を描くように、あるいは細かく前後するように。そのたびに僕の芯は彼女の内部の最も柔らかく敏感な場所を的確に擦り上げられ、僕は喘ぐことしかできない。見つめ合う瞳には、もう欲望だけではない、もっと深い感情の色が宿っているように見えた。僕たちは何度も唇を重ね、僕は夢中で彼女の名前を呼び続けた。そのたびにひなたちゃんは僕の背中に爪を立て、甘い声で応えてくれる。汗ばんだ肌を擦り合わせるその全てが、僕の心を甘く満たしていった。 「……もう、だめ……っ」 僕が掠れた声で呟くと、ひなたちゃんは僕の耳元に唇を寄せた。 「……うん。いっしょに、いこっか……?」 その囁きを合図に、彼女の腰の動きが速くなる。僕もそれに応えるように、下から力強く腰を突き上げた。ぴたりと呼吸が合い、互いの身体が求めるリズムが完全に一つになる。見つめ合う瞳の中で、快感の火花が散った。 互いの身体を力いっぱい抱きしめ合いながら、三度目の絶頂が、二人同時に訪れた。ひなたちゃんは僕の腰に自身のお尻をぐりぐりと押し付け、一番奥深くで、僕の迸りを全て受け止める。それは、まるで二人の魂が完全に一つに溶け合うような、どこまでも優しく、そして切ない瞬間だった。 もう、僕の身体には指一本動かす力も残っていなかった。畳の上に敷かれた布団に大の字になって、荒い息を繰り返す。 だが、僕の上でぐったりとしていたひなたちゃんは、ゆっくりと、しかし確かな意志を持って身を起こした。そして、まだ僕の身体の中に繋がったままの分身を、ゆっくりと上下させ始めた。 騎乗位。僕を見下ろす彼女の瞳は、これまでのどの瞬間よりも熱っぽく潤んでいた。その恍惚とした表情と、自ら悦びを貪るように動く腰つきが、この体位こそが彼女の最も好むものであると、僕に確信させた。 「ひなた、ちゃん……もう、無理……」 僕は、掠れた声で懇願した。だが、彼女はくすくすと悪戯っぽく笑うだけだった。 「だーめ。ひなたは、まだ全然足りないんだから」 彼女の旺盛すぎる性欲に、僕はもはや恐怖すら感じていた。この人は、本当に人間なのだろうか。僕の生命力を、根こそぎ吸い尽くすつもりなのだろうか。 それでも、僕の身体は正直だった。彼女の巧みな腰の動きに合わせて、四度目の放出に向けて、再びゆっくりと熱を帯び、硬度を増していく。 障子窓から差し込む、淡い月明かり。その光を背に受け、彼女のシルエットが何度も、何度も、官能的に跳ねる。その光景は、恐ろしくも、神々しいほどに美しかった。 彼女は、僕の身体を完全に支配していた。僕の膝を立てさせ、その上に深く腰を沈めてくる。そうすることで、僕の分身は彼女の子宮口を直接突き上げるような形になった。ごり、と硬い先端が、柔らかい粘膜の奥にある核心を抉る。 「んぅっ……!ここ、好きぃ……!もっと、もっと奥まで……きみのぜんぶ、私にちょうだい……!」 彼女の喘ぎ声は、もはや懇願に近かった。汗で濡れた髪が彼女の頬に張り付き、月明かりを浴びたその表情は、恍惚と苦痛が入り混じった、神聖なまでの美しさを湛えている。僕はもう、彼女に応える体力も残っていない。ただ、彼女が求めるままに、僕の身体から最後の生命力を根こそぎ絞り取られていく。腰が勝手に痙攣し、限界を超えた快感が脳髄を焼き尽くしていくようだった。 僕の意識が、快感と疲労の狭間で朦朧としていく。もう、限界だ。本当に、これが最後の一滴。 僕が意識を手放す直前、ひなたちゃんは僕の耳元に、その甘い唇を寄せた。そして、蕩けるような声で、囁いたのだ。 「お願い……っ、君ので……私を、孕ませてぇ……っ……!」 その一言が、引き金となった。 その日、最後の迸りが、僕の身体から解き放たれる。ひなたちゃんの身体の最奥にある器が、まるで待ち侘びていたかのように、その全てを余さず受け止めた。 それは、何度も、何度も搾り取られた後の、本当に最後の一滴だった。彼女の底なしの渇きを満たすには、あまりにも心許ない量だったかもしれない。 それでも僕たちは、体力の限界まで求め合ったこの行為の到達点に、深く、深く、陶酔していた。 ◇ 僕が次に目を覚ました時には、障子窓の外は、すでに白み始めていた。 隣で眠るひなたちゃんの寝顔は、あどけなく、そしてどこまでも穏やかだった。昨夜の妖婦のような姿が、嘘のようだ。 僕は、そっと布団から抜け出した。そして、乱れた浴衣を整え、この部屋を去る準備を始める。 僕が襖に手をかけた、その時だった。 「……もう、行っちゃうの?」 背後から、か細い声がした。 振り返ると、ひなたちゃんが布団から上半身を起こし、寂しそうな瞳で僕を見つめていた。 「昨夜のことは、忘れます。誰にも言いません。だから……」 僕がそう言うと、彼女はゆっくりとかぶりを振った。 「ううん。忘れないで」 その声は、静かだったが、確かな芯を持っていた。 「今日のことは、君と私だけの、秘密。だから、絶対に忘れちゃだめ。……覚えていてほしいな」 その言葉に、僕は胸の奥が熱くなるのを感じた。ただの一夜の過ちじゃない。彼女は、そう言ってくれているのだ。 「……また、会えますか?」 僕は、震える声で尋ねた。もう一度、この人に会いたい。ただのファンとしてじゃない。昨夜の続きを、いつかまた。 その問いに、ひなたちゃんは、少しだけ寂しそうに微笑んだ。 「……私たちのライブ、また見に来てほしいな」 それは、肯定でも、否定でもなかった。 だが、僕にはそれで十分だった。 僕は、深く、深く、一度だけ頭を下げると、今度こそ、その部屋を後にした。 ◇ ざあ、と湯が注がれる音が、静かな朝の浴室に響く。 私は、昨夜の男の子とは別の、女湯の露天風呂に一人、身体を沈めていた。夜通しの性行為で火照った身体と、汗でべたついた肌を、朝の新鮮な湯が優しく洗い流してくれる。 空には、まだ淡い月が残っていた。 昨夜の出来事を、ぼんやりと思い返す。 名前も知らない、年下の男の子。私のことを、ただ真っ直ぐな瞳で「好きだ」と言ってくれた、純粋な少年。 彼の、拙いけれど懸命な愛撫。私の身体の奥を貫いた、若々しい熱。そして、私の耳元で囁かれた「孕んで」という、彼の魂の叫び。 高橋さんが去ってしまってから、私の身体の中の太陽は、ずっと輝き方を忘れていたみたいだった。熱いのに、ただひたすらに熱いだけで、少しも温かくなかった。誰かを照らすどころか、自分自身を内側から焼き尽くすだけの、空っぽの熱。満たされない渇きと、捨てられたことへの寂しさが、どろどろに混じり合って、私の心を重く、冷たくしていた。 でも、昨日の夜。あの男の子の、真っ直ぐな欲望を受け止めているうちに、私の太陽は、少しだけ昔の輝きを取り戻したような気がした。 打算も、計算も、依存もない。ただ、目の前の女の子が好きで、触れたくて、一つになりたいという、純粋で、どうしようもなく綺麗な欲望。それを受け止めて、私自身の渇きで応えるのは、高橋さんにただぶら下がっていた時とは全く違う感覚だった。私が、与える側にもなれた。彼の純粋な光を浴びて、私の太陽もまた、輝くことができた。 「孕ませて」 気づいたら、そんな言葉が私の口から零れていた。高橋さんに「赤ちゃんが欲しい」と言った時とは、意味が違った。あの時は、彼を繋ぎ止めるための、呪いのような言葉だった。でも、昨日の夜は違った。彼の、生命力そのものみたいな熱を、私のこの身体で受け止めて、新しい光を宿したい。そんな、もっと根源的で、温かい願いだった気がする。 あの男の子のおかげで、私の心に空いていた大きな穴は、少しだけ、塞がったみたいだった。 ふと、私の脳裏に、別の男の子の顔が浮かんだ。 私と同じ年の春に生まれて、物心ついた時から、いつも私の隣にいた、男の子。 日焼けした肌と、少しだけぶっきらぼうな喋り方。でも、その瞳はいつも優しくて、私が転んで泣いていると、黙って手を差し伸べてくれるような。 「……奏くん」 ぽつり、と口から零れた名前に、自分でも少しだけ驚いた。 佐伯奏。私の、たった一人の幼馴染。 アイドルになるって言って、この街に来てから、もうずっと会っていない。奏くんは、今、どうしているんだろう。私のこと、テレビで見てくれてるかな。それとも、もう、私のことなんて忘れちゃったかな。 年齢が近い男の子と、あんなに深く触れ合ったから、思い出しちゃったのかもしれない。奏くんも、きっともう、昨日の夜のあの子みたいに、男の子じゃなくて、ちゃんと「男の人」になっているんだろうな。 そう考えたら、急に胸の奥が、きゅう、と甘く痛んだ。 高橋さんは、私にとって「大人」だった。昨日の夜の子は、「ファン」だった。でも、奏くんは違う。対等で、当たり前で、空気みたいに、いつもそこにあるのが普通だった存在。 会いたいな。 もし、また会えたなら。 今の私を、奏くんは、どう思うんだろう。薬の力で輝いて、知らない男の子と身体を重ねるような、汚れた私を見たら、幻滅、しちゃうかな。 でも、それでも。 会って、話がしたい。 そして、もし許されるなら、もう一度、あの頃みたいに、隣で笑い合いたい。 湯けむりの向こう、東の空が、ゆっくりと白んでいく。 新しい一日が、始まろうとしていた。 私の心の中で、小さな、でも確かな希望の光が灯る。それは、私の身体の中の太陽とはまた別の、温かくて、優しい光。 いつか、またきっと会える。 そんな、何の根拠もない予感が、私の胸をいっぱいに満たしていった。 (Continued in the main story...) ###タイトル:プリズムは蜜月の夢の果てに (第三部) #パート1 かつて、プリズムの光を放つ少女たちがいた。 天上の蜜と謳われた奇跡の薬は、彼女たちに人智を超えた輝きを与え、同時に抗いがたい渇望の呪いをかけた。愛と欲望が渦巻く秘密の楽園で、彼女たちは刹那の栄光を駆け抜け、そして、伝説と共に消えた。 鳳凰プロダクションの崩壊から、十五年あまりの歳月が流れていた。 液晶画面の向こう側で、誰もがスターになれる時代。無数の光が生まれ、そのほとんどが誰にも知られぬまま消えていく。そんなデジタル情報の奔流の中で、一つの動画が静かな波紋を広げていた。 「ねえ湊、これ、すごいことになってるよ」 スマートフォンの画面を突き付けながら、高橋陽葵は太陽が咲いたような笑顔を見せた。画面には、公園の片隅で歌い、踊る自分たちの姿が映っている。遊びで投稿しただけの、なんてことのない動画。しかし、その再生回数は、不釣り合いなほど大きな数字を刻んでいた。 隣に座る双子の弟、高橋湊は、姉の屈託のない笑顔に静かな眼差しを返した。陽葵の言う通り、動画のコメント欄は賞賛の言葉で埋め尽くされている。陽葵の圧倒的な存在感、天性の華。そして、その隣で完璧なまでに彼女の輝きを引き立てる湊の計算され尽くしたパフォーマンス。二つの才能が奇跡的な均衡で結びついたその映像は、見る者の心を捉えて離さなかった。 「……ああ」 湊は短く応じる。喜びよりも先に、胸の内に微かな警鐘が鳴っていた。この輝きが、世間の目に晒されることへの漠然とした不安。それは、自分たちが何者であるのか、その根源に触れる畏れにも似ていた。 やがて、波紋は大波となった。いくつかの芸能事務所からスカウトの声がかかり、二人の日常はにわかに色めき立つ。 養父である高橋和也は、その報せを聞いても表情一つ変えなかった。リビングのソファに深く腰掛け、ただ静かに窓の外を眺めている。元々、彼がこの話に肯定的でなかったことは、陽葵も湊も知っていた。 「お父さん……」 陽葵がおずおずと声をかける。和也はゆっくりと顔を上げ、二人を見つめた。その瞳には、諦観とも、あるいは覚悟ともつかない複雑な色が浮かんでいる。彼は、かつて愛したアイドルたちのマネージャーだった。その世界の光も闇も、知り尽くしている。だからこそ、愛する養い子たちが同じ道に進むことを、心の底では望んでいなかったはずだ。 「……分かっている。お前たちの気持ちは」 静かな声だった。 「止めはしない。だが、決して一人で抱え込むな。陽葵、お前は特にだ。何かあれば、必ず湊に……私に言え」 「うん……」 「湊。陽葵を頼む」 「……はい」 まるで、この運命をはじめから悟っていたかのように。和也はそれ以上何も言わず、ただ静かに頷くだけだった。その背中が、十五年という歳月の重みを物語っているようで、湊は目を逸らした。 そうして、二人の運命の歯車は、再びあの光と欲望の渦巻く世界へと向かって、静かに回り始めた。 * 秋晴れの空の下、高校の文化祭は祝祭の熱気に満ちていた。校庭に立ち並ぶ模擬店の呼び込み、廊下を駆け抜ける生徒たちの弾んだ声、体育館から漏れ聞こえるバンド演奏の音。そのすべてが、若さという名のエネルギーできらきらと輝いている。 陽葵のクラスの出し物は、定番のコスプレ喫茶だった。手作りのフリルやレースで飾られた教室は、普段の学び舎の面影もなく、非日常の空間へと姿を変えている。 「陽葵ー、本当に手伝わなくていいの? メイド服、絶対似合うのに」 クラスメイトの女子が、猫耳をつけた姿で陽葵に声をかける。陽葵はライブ用の衣装に着替えながら、苦笑いで手を振った。 「ごめんね、こっちで手一杯で。みんな頑張って」 「まあ、今日の主役だもんね。頑張ってよ、絶対見に行くから」 「うん、ありがとう」 温かいエールに送られ、陽葵は湊が待つ控え室代わりの空き教室へ向かった。扉を開けると、同じ衣装に身を包んだ湊が、壁に立てかけた鏡に向かって振り付けの最終確認をしていた。 陽葵の衣装が太陽をイメージした白とゴールドを基調としているのに対し、湊のそれは月を思わせる黒とシルバーでデザインされている。二人が並び立った時、互いの存在が最も輝くように。ユニット名『SOLLUNA』。太陽と月。それは、二人の関係そのものを表していた。 「湊、準備できたよ」 「ああ。……緊張しているか?」 鏡越しに視線を合わせ、湊が問う。 「ううん、全然。むしろ、わくわくしてる」 陽葵は胸の前でぎゅっと拳を握った。嘘偽りのない言葉だった。大勢の人の前で、歌い、踊ること。それは彼女にとって、呼吸をするのと同じくらい自然で、何よりも歓びに満ちた行為だった。血が、そうさせているのかもしれない。自分の中に流れる、あの太陽のようなアイドルの血が。 「陽葵」 湊が振り返り、陽葵の肩にそっと手を置いた。その指先が、微かに震えていることに陽葵は気づかない。 「いつも通りやればいい。俺が隣にいる」 「……うん」 湊の言葉は、いつも陽葵に不思議な安心感を与えてくれる。たとえこれから立つステージが、ただの文化祭の特設ステージではなく、世界中へと繋がる配信カメラの前にあっても。 ライブの時間は、瞬く間に過ぎていった。 体育館に集まった生徒や保護者、そして噂を聞きつけてやってきた外部の観客たち。その視線が一身に注がれる中で、陽葵は水を得た魚のように躍動した。彼女が笑えば、空間がぱっと華やぐ。彼女が歌えば、誰もがその声に聴き入る。それは天賦の才能。抗いがたい引力。 湊は、その陽葵の輝きを寸分の狂いもなく支え続けた。時に寄り添い、時に離れ、陽葵が生み出す光を最も効果的に反射する月のように、完璧なパフォーマンスでステージを支配する。 熱気は最高潮に達し、最後の一曲が終わると、割れんばかりの拍手と歓声が体育館を揺らした。息を切らしながら肩で呼吸を繰り返す陽葵と湊。その二人の姿を、ステージ袖からマネージャーの相田莉子が見守っていた。 「二人とも、最高だったわよ」 莉子は興奮気味にサムズアップを送ると、マイクを手にしたままの陽葵に合図を送る。陽葵はこくりと頷き、再び観客に向き直った。 「みんな、今日は本当にありがとう」 マイクを通した陽葵の声に、歓声が少しずつ静まっていく。 「今日は、みんなに伝えたいことがあります」 ごくり、と誰かが息を呑む音がした。 「私たち、高橋陽葵と高橋湊は、ユニット『SOLLUNA』として、本日、メジャーデビューします」 一瞬の静寂の後、爆発するような歓声が体育館の天井を突き抜けた。驚き、祝福、興奮。様々な感情が渦巻き、熱となって二人を包み込む。陽葵は満面の笑みで手を振り、湊は深く、深く頭を下げた。 この瞬間、世界は確かに動き出した。光の当たる場所へと。否応なく、あの過去と繋がる未来へと。 その夜、祝賀ムードの喧騒から離れた湊の部屋は、しんと静まり返っていた。ベッドに腰掛け、ノートパソコンの画面を眺める湊の表情は硬い。文化祭ライブの映像は、莉子の手によって既に動画サイトにアップロードされている。再生回数は順調に伸び、コメント欄には好意的な言葉が並んでいた。だが、湊の心は晴れなかった。 「……湊」 背後から、甘く湿った声がした。振り返ると、シャワーを浴び終えたばかりの陽葵が、薄手のパジャマ姿で立っていた。上気した頬、潤んだ瞳。ライブの高揚感が、まだ彼女の身体の芯に燻っているのが見て取れた。大勢の前で歌い、踊った後は、いつもこうだ。彼女の中に眠る何かが目を覚まし、その熱を持て余してしまう。 「陽葵……」 「ねえ、湊……まだ、身体が熱いの」 とろりとした声で囁きながら、陽葵は湊の隣に腰を下ろす。そして、ごく自然な仕草で湊の首に腕を回し、その肩にこてんと頭を預けた。ふわりと香るシャンプーの匂い。パジャマ越しに伝わる柔らかな体温と、豊かな胸の感触。 湊は、静かに目を閉じた。これは儀式のようなものだった。姉の熱を鎮めるための、二人だけの秘密の儀式。拒むことは、できなかった。 湊はそっと陽葵のパジャマのボタンに指をかけた。一つ、また一つと外していくと、湯上りの火照った肌が露わになる。その滑らかな肌をなぞるように、湊の唇が首筋をゆっくりと這っていった。 「ん……っ」 陽葵の喉から、甘い吐息が漏れる。湊はそのまま鎖骨を辿り、豊かな膨らみの谷間へと唇を沈めた。手に余るほどの乳房は、それだけで一つの生命体であるかのように熱く、柔らかい。その先端に立つ突起を指で挟んで転がせば、陽葵の身体がびくりと跳ねた。 「あ……湊、だめ……そこ……」 抗議するような声とは裏腹に、陽葵の腰は小さく揺れている。十分に身体が高まった証拠だった。 陽葵は、もぞもぞと身体を動かし、湊の正面に跪くと、彼が下半身に纏っていたスウェットの紐を解いた。露わになった熱の塊を、ためらいもなくその小さな口に含む。 「んん……くふっ……」 温かく湿った内壁が、ねっとりと昂りを包み込む。陽葵は恍惚とした表情で頬張り、堪能しながら、自身のパジャマの裾をたくし上げた。その白い太ももの間にある秘所へと、自らの指を滑らせていく。 「ひゃっ……」 自らの指が敏感な場所に触れた瞬間、陽葵の背筋を甘い痺れが駆け抜けた。濡れそぼったそこは、既に熱く疼いている。湊の昂りを深く咥えたまま、陽葵は一心不乱に指を動かし始めた。 湊も、ただされるがままではいなかった。陽葵の腰を支えるように手を回し、その指はパジャマのズボンの上から柔らかい臀部を揉みしだき、時にはその割れ目へと滑り込んでいく。口内で熱く脈打つ昂りを舌で転がしながら、陽葵は自らの指で濡れた秘所を掻き混ぜる。それに呼応するように、湊の指がパジャマ越しに臀部の谷間をなぞり、柔らかな肉を揉みしだいた。与える快感と、与えられる快感。その二つの熱が渦を巻き、陽葵の思考を甘く蕩かしていった。 「んんっ……ふ、ぅ……」 くちゅ、くちゅ、と粘膜が絡み合う卑猥な水音が、静かな部屋に響き渡る。湊の眉間に深い皺が刻まれ、その呼吸が荒くなっていくのが分かった。限界が近い。それは陽葵も同じだった。秘所を掻き混ぜる指の動きが速まり、湊の昂りを扱く喉の動きも激しくなる。 「……んぐっ」 湊の腰が大きく跳ね、熱い奔流が陽葵の喉の奥へと注ぎ込まれた。陽葵はそれを一滴残らず受け止めようと、ごくり、と大きく喉を鳴らす。ほぼ同時に、陽葵の指先が秘所の一番深い場所を強く押し、彼女の身体もまた、灼熱の痙攣と共に絶頂の波に攫われた。 「はぁ……あふぅ……」 陶然とした表情で、陽葵はゆっくりと湊から顔を離す。口の端から、受け止めきれなかった白い液体がとろりと一筋垂れた。それをぺろりと舐め取り、陽葵は満足げに微笑む。 だが、その瞳の奥の熱は、少しも衰えてはいなかった。むしろ、一度火がついたことで、更に激しく燃え上がっているようにさえ見える。 「……湊」 吐息のような声で弟の名を呼び、陽葵は湊の身体の上に跨った。そして、まだ硬さを失っていない彼の昂りを掴むと、自らの潤んだ入り口へとゆっくりと押し当てる。 「もっと……ほしいの」 結合を、求めている。身体の奥深くで、湊の熱を直接感じたい。その本能的な欲求が、陽葵を突き動かしていた。 その、直前だった。 ぐっ、と強い力で肩を押さえつけられ、陽葵の視界が反転した。気づいた時には、ベッドに背中を押し付けられ、湊が自分を見下ろしている。両手首は、頭上で一本の大きな手にまとめて掴まれていた。 「……湊?」 陽葵は戸惑いの声を上げる。湊は何も言わない。ただ、苦しげに顔を歪め、その瞳でじっと陽葵を見つめているだけだった。その瞳の奥に宿る色。それは欲望とは違う、もっと深く、暗い何か。拒絶の色だった。 陽葵と湊は双子のアイドルとして売り出されているが、戸籍上の誕生日は二日ずれている。その問いに、答えは用意されている。二人は養子だから、と。実際には血の繋がりのない、名ばかりの双子。そういうことになっている。だが、湊の脳裏には、その公的な説明を覆す、朧げな記憶の断片がこびりついていた。 世間と隔絶された、窓の少ない秘密のマンション。複数の、美しい女性たち。そして、その中心にいた一人の男性を、自分たちが「パパ」と呼び慕っていた記憶。陽葵と自分は、あの場所で共に育てられた。おそらく、同じ父親を持つ、異母姉弟。その疑念が、湊の中で消えることのない楔となっている。 だから、この一線だけは決して超えられない。超えては、いけない。 陽葵の身体の熱が、その内側にある抗いがたい渇望が、湊の理性を焼き尽くそうとする。組み敷かれたままの陽葵は、潤んだ瞳で弟を見上げ、何も言わずにただ、受け入れるように身体の力を抜いた。その無防備な姿が、湊の罪悪感を更に煽る。 「……陽葵」 絞り出すような声で、湊は姉の名を呼んだ。 「ごめん……これ以上は、できない」 「……どうして?」 純粋な疑問だった。陽葵には、湊が抱える葛藤も、その根源にあるおぼろげな記憶も分からない。ただ、目の前にいる愛しい弟が、自分を求めているのに、同時に必死で拒絶している。その矛盾だけが、ちくりと胸を刺した。 湊は答えなかった。答えようがなかった。その代わりに、彼はゆっくりと自分の身体を陽葵の足の間へと滑り込ませた。結合はしない。だが、互いの最も敏感な部分を、肌と肌で触れ合わせる。それは、湊にできる最大限の歩み寄りであり、最後の防衛線だった。 熱く硬くなった先端が、濡れそぼった陽葵の秘裂に押し付けられる。 「……んっ」 陽葵の喉から、驚きと快感の混じった声が漏れた。直接的な結合とは違う、もどかしくも濃厚な接触。湊はゆっくりと腰を動かし始めた。互いの局部が、粘液を潤滑剤にしてぬちり、ぬちりと擦り合わされる。その度に、直接脳を焼くような甘い痺れが二人を貫いた。 「あ……ぁ、みなと……っ」 陽葵は堪らず腰をくねらせた。もっと深い刺激が欲しい。この焦らし抜かれるような快感の、その先が見たい。その無意識の動きが、悲劇の引き金となった。 ぐちゅり、と。生々しい水音と共に、昂りの先端が柔らかい粘膜の入り口をわずかにこじ開け、その内側へと滑り込んだ。 「……っ!」 湊の全身が硬直する。あり得ないほどの熱と、吸い付くような柔らかさ。禁断の果実の、ほんの一欠片を味わってしまった。その背徳的な快感に、湊の思考は一瞬にして白く染まる。駄目だ、このままでは。これ以上時間をかければ、理性の箍は完全に外れ、今度こそ本当に、取り返しのつかないところまで挿入してしまう。 恐怖が、湊を駆り立てた。彼は獣のように低く唸ると、一気に腰を激しく前後させ始めた。もはや愛撫ではない。陽葵をただ、絶頂へと追い込むためだけの、暴力的なまでの律動。 「ひゃっ……あ、まって、湊、そんな、はげし……っ、あぁんっ!」 突然の嵐のような快楽に、陽葵の身体はなすすべもなく翻弄される。擦り付けられるだけの疑似的な性交のはずが、その激しさによって、まるで内側を深く抉られているかのような錯覚に陥った。快感の波が、次から次へと容赦なく押し寄せる。思考は麻痺し、ただ喘ぎ声だけが唇から溢れ出た。 「あ、あ、あ……! いく、いっちゃ……ぅ!」 陽葵の身体が大きく弓なりにしなり、灼熱の痙攣が全身を駆け巡る。その瞬間、限界まで張り詰めていた湊の昂りもまた、堰を切ったように熱を解き放った。 びゅっ、と音を立てて放たれた最初の一回の脈動は、勢いよく陽葵の胸元にまで飛び散る。そして、それに続く第二、第三の奔流が、続々と彼女の下腹部へと降りかかっていった。熱い雫が、白い肌の上で官能的な模様を描く。 「はぁ……っ、はぁ……」 荒い息をつきながら、湊は陽葵の身体からゆっくりと離れた。陽葵は、まだ快感の余韻に蕩けた表情のまま、自分の肌にかかった白い熱をうっとりと見つめている。その熱が、もしも自分の内側に直接注がれていたら。想像しただけで、身体の奥が、きゅんと疼いた。 文化祭ライブとデビュー宣言の動画は、確かに大きな反響を呼んだ。しかし、その熱狂は、一夜にして別の巨大な波に飲み込まれてしまう。 同日にデビューした、一人の新人アイドルの話題に。 湊がノートパソコンの画面を食い入るように見つめている。その隣で、陽葵も息を呑んで画面に映るその姿に釘付けになっていた。 『一条 司』。 それが、彗星の如く現れたライバルの名前だった。 画面の中の司は、かつて一世を風靡した伝説のアイドル、Starlight Prismの白石ひなたが遺したソロ曲をカバーしていた。白い王子様のような衣装に身を包み、その立ち姿は凛々しく、爽やかな気品に満ちている。しかし、衣装のタイトなラインは、女性的な丸みを帯びた腰や、豊かな胸の膨らみを隠しきれていない。中性的な美貌と、成熟した女性の身体つき。そのアンバランスな魅力が、見る者を強く惹きつけた。 そして、何よりも圧巻だったのは、そのパフォーマンス。 ひなたが歌った時、その歌は悲壮な決意の色を帯びていた。仲間を失い、それでも一人でステージに立ち続けるという、儚くも強い祈りのような響きがあった。だが、一条司が歌うと、歌詞は全く違う意味を持って響いてくる。 ――すべてを乗り越えて、私は輝くから。何があっても。 それは、他人を踏みつけにしてでも頂点に君臨しようとする、絶対的な王者の野心そのものだった。自信に満ちた強い眼差し、キレのあるダンス、そして、観客を支配するような不遜な笑み。たった一人で、ステージという名の戦場を完全に掌握していた。 動画の再生回数は、SOLLUNAのそれとは比較にならないほどの勢いで伸び続けている。コメント欄は、新たなカリスマの誕生を讃える言葉で溢れかえっていた。 「……すごい」 陽葵の口から、陶酔したような溜息が漏れた。その王子様のような凛々しさに、純粋な憧憬を抱いている。 一方、湊の心は正反対だった。圧倒的に格上の存在が、これから自分たちのライバルとなる。その事実に、肌が粟立つような危機感を覚えていた。だというのに、画面の中の司が浮かべる挑発的な笑みや、パフォーマンスの合間に揺れる豊かな身体から、目が離せない。悔しいほどに、魅了されている自分がいた。 その動画を、感情の読めないガラス玉のような瞳で見つめる一人の男がいた。 都心の一等地に聳え立つ高層ビルの最上階。広々としたオフィスで、男は革張りの椅子に深く身を沈めていた。彼の名は、皐月蓮。現在の日本の芸能界を牛耳る、若き大物プロデューサーだ。 かつて芸能界に蔓延し、多くの才能を蝕んだ禁断の薬物『セレスティアル・ネクター』。その存在を白日の下に晒し、根絶に導いた立役者として、彼の名は知られている。 蓮は、一条司の動画を無言で見つめ続けていた。常人離れしたパフォーマンス、人を惹きつけてやまない神がかった魅力。その輝きの陰に、彼はかつて自分が葬り去ったはずの、忌まわしい薬の気配を確かに感じ取っていた。 天道製薬。 蓮の唇が、音もなくその名を紡ぐ。 十五年の時を経て、悪夢は再び始まろうとしていた。いや、あるいは、一度として終わってなどいなかったのかもしれない。 蓮は静かに動画を閉じると、ゆっくりと椅子から立ち上がり、窓の外に広がる夜景を見下ろした。無数の光が煌めく摩天楼。その光の一つ一つに、欲望と野望が渦巻いている。 静かな闘志が、ガラス玉のような瞳の奥で、青い炎のように揺らめいていた。 # パート2 一条司という流星の出現は、芸能界に鮮烈な衝撃を与えた。その圧倒的なカリスマ性の前に、あらゆる新人は霞んで見える。SOLLUNAも例外ではなかった。文化祭ライブの熱狂は、巨大な波に攫われる小舟のように、瞬く間に過去のものへと押し流されていった。 しかし、陽葵と湊は自分たちの光を見失わなかった。一条司という絶対的な存在の陰で、しかし着実に、二人はファンを増やし、その人気を確かなものへと育て上げていた。陽葵の太陽のような輝きと、湊の月のような静謐な魅力。二つの光が織りなすハーモニーは、司の放つ閃光とは質の異なる、深く、温かい引力で人々を惹きつけていった。 その日、二人はデビューシングルのミュージックビデオ撮影のため、都内のスタジオを訪れていた。巨大な白壁を背景に、無数の照明機材とカメラが二人を取り囲んでいる。監督の指示が飛び交い、スタッフたちが慌ただしく動き回る。非日常的な空間の熱気が、陽葵の肌をじりじりと焼いていた。 「陽葵、次のカット、表情もっと柔らかく。恋が始まった瞬間の、ときめきを表現して」 監督からの指示に、陽葵は「はい」と明るく返事をする。カメラのレンズの向こう側にいるであろう、まだ見ぬファンの顔を思い浮かべる。その一人一人に、この歌が届くように。そう願うだけで、自然と胸が高鳴り、頬が緩んだ。 湊は、そんな陽葵の姿を少し離れた場所から見つめていた。大勢の観客がいるライブ会場ではない。それでも、無数のレンズと視線が彼女に注がれている。その刺激が、彼女の中に眠る獣を呼び覚ましてしまわないだろうか。あの、抗いがたい熱の発作。いつ、どこで、彼女を襲うか分からない時限爆弾のような渇望。その懸念が、湊の胸から消えることはなかった。 「湊くん」 ふいに、背後から凛とした声がかかった。振り返ると、ダンス指導のトレーナーである神崎綾乃が、腕を組んで立っていた。黒いレッスンウェアに身を包んだしなやかな身体は、無駄な脂肪が一切なく、鍛え上げられた筋肉が美しいラインを描いている。 「少し、いいかしら」 有無を言わせぬ響きだった。湊は頷き、綾乃の後についていく。向かった先は、スタジオの隅にある鏡張りのレッスンルームだった。防音扉が閉まると、外の喧騒が嘘のように遠ざかり、二人だけの静寂が訪れる。 「君のダンス、見たわ」 綾乃は鏡の前に湊を立たせると、その後ろからじっと彼の姿を映し見る。その視線は、まるで獲物を品定めする肉食獣のように鋭い。 「完璧よ。技術的には、何も言うことはない。一つ一つの動きの精度、リズム感、どれも一級品だわ」 淡々とした口調での賞賛。だが、湊の心は少しも軽くならなかった。彼女の言葉に「しかし」という続きがあることを、肌で感じていたからだ。 「でもね」 案の定、綾乃の声のトーンが一段低くなる。彼女は一歩前に出て、湊の背後にぴたりと身体を寄せた。ふわりと、汗と混じり合った甘い香水の匂いが鼻腔をくすぐる。 「君のパフォーマンスは、あまりに『正しすぎる』の。すべてが陽葵ちゃんを引き立てるために計算され尽くしている。まるで、美しい額縁ね。主役である絵画を、完璧に飾り立てるための」 鏡越しに、綾乃の挑戦的な瞳が湊を射抜く。 「でも、SOLLUNAは二人組のユニットでしょう? 太陽と月。どちらが欠けても成立しない。君は、陽葵ちゃんの隣に立つ、もう一人の『主役』であるべきなのよ」 綾乃の手が、湊の腰にそっと置かれた。指先から伝わる熱が、服の上からでもはっきりと分かる。 「君の身体は、もっと雄弁になれる。君自身が、輝くための術を、まだ知らないだけ」 囁き声が、耳元で湿った響きを帯びる。綾乃は湊の身体に自分のそれを重ねるようにして、ゆっくりと動き始めた。 「例えば、この腰つき。今は正確にリズムを刻むだけ。でも本当は……もっと、煽情的になれるはずよ。女を、どうしようもなく欲情させるための動きが、君の中には眠っている」 ぐ、と綾乃の腰が湊の臀部に押し付けられる。柔らかくも弾力のある感触が、湊の背筋をぞくりと震わせた。 「ほら、肩の力を抜いて。私がリードするから、身を任せてみて」 綾乃の身体と一体になるように、湊はぎこちなく腰を動かす。それはもはやダンスのレッスンではなかった。音楽のない空間で、互いの身体の熱とリズムだけを頼りに行う、原始的な交歓。綾乃の吐息が徐々に熱を帯び、湊の首筋にかかる。鏡に映る自分の顔が、戸惑いと興奮で赤く染まっているのが見えた。 陽葵を、守らなければ。彼女の隣で、彼女を支えなければ。その強迫観念にも似た想いが、いつしか自分のパフォーマンスを縛り付けていたのかもしれない。綾乃の指摘は、図星だった。 だが、それだけではない。綾乃の密着した身体が、その挑発的な言葉が、湊の中に燻っていた別の種類の熱を呼び覚ましていた。陽葵の熱を鎮めるだけの、決して一線を超えない儀式。そこで満たされることのないまま溜め込まれた欲望が、じわりと頭をもたげてくる。 「……そう、上手よ。君は才能があるわ」 綾乃の声が、蕩けるように甘くなっていた。彼女の指が湊の脇腹をゆっくりと撫で上げ、胸板をなぞる。 「ねえ、湊くん。君が、どれだけ魅力的な男の子か……私が、教えてあげようか?」 それは、紛れもない誘惑だった。プロのトレーナーと生徒という関係性を踏み越える、禁断の誘い。断るべきだ。頭では分かっている。陽葵という、守るべき存在がいる。なのに、身体は動かなかった。陽葵との焦れったい関係で蓄積されたフラストレーションが、綾乃という捌け口を前にして、決壊寸前のダムのように膨れ上がっていた。 湊は、何も答えられなかった。その沈黙を、肯定と受け取ったのだろう。綾乃は満足げに微笑むと、湊の手を取って、レッスンルームの更に奥にある、彼女専用の休憩スペースへと導いた。そこには、仮眠用の簡素なソファベッドが置かれていた。 綾乃は、まるで手慣れた女主人のように、湊をソファの端に座らせた。そして、彼の前に跪くと、濡れた瞳でじっと見上げてくる。 「緊張しなくていいのよ。全部、私に任せて」 その指が、湊のシャツのボタンを一つ、また一つと外していく。露わになった胸板に、綾乃の冷たい指先が触れ、湊の身体がびくりと震えた。その反応を見て、彼女は面白そうに唇の端を吊り上げる。 「可愛い反応。本当に、まだ何も知らないのね」 くすくすと喉を鳴らしながら、綾乃は立ち上がると、今度は自らのレッスンウェアのジッパーに手をかけた。するりと引き下げると、豊かな双丘を支える黒いスポーツブラが現れる。鍛え上げられた腹筋は美しく割れ、汗でしっとりと濡れた肌が照明を反射して艶めかしく光っていた。彼女は湊の戸惑いなど意にも介さず、そのスポーツブラも、身に着けていたスパッツも、ためらいなく脱ぎ捨てていく。あっという間に、一糸まとわぬ裸体を晒した。 それは、芸術品のように完成された肉体だった。ダンサーとして極限まで鍛え抜かれたしなやかな四肢。高く引き締まった臀部。そして、その身体つきに比して、驚くほど豊満な乳房。陽葵のそれとはまた違う、成熟した大人の女性だけが持つ、濃密な官能性がそこにあった。 「さあ、今度は君の番よ」 綾乃は湊のベルトに手を伸ばす。湊は反射的にその手を掴もうとしたが、綾乃の濡れた瞳に見つめられ、動きを止めた。その瞳は、拒絶を許さない強い光を宿している。陽葵との関係で溜め込んだ満たされぬ渇きが、目の前の成熟した肉体への好奇心とないまぜになり、湊の理性を麻痺させていた。彼は、なされるがままにズボンと下着を引きずり下ろされ、自らの昂りを白日の下に晒した湊を見て、綾乃はほう、と感嘆の息を漏らした。その視線は品定めをするように、熱く、ねっとりとしている。 「……立派なものを持っているじゃない。これなら、不足はなさそうね」 満足げに呟くと、綾乃は再び湊の前に跪いた。そして、熱を帯びた昂りを、まるで繊細なガラス細工でも扱うかのように、そっと両手で包み込む。ひんやりとした指先の感触に、湊の腰が微かに震えた。 「まずは、女の身体を喜ばせるための指使いから、教えてあげる」 綾乃はそう言うと、湊の手を取り、自らの豊かな乳房へと導いた。 「ほら、こうやって。優しく、でも大胆に……」 言われるがままに、湊の指が柔らかい肉の丘に触れる。陽葵のそれとは違う、弾むような張りと重み。指先に伝わる感触だけで、頭の芯が痺れるようだった。湊は、いつか陽葵の熱を鎮める時に無意識に行っていた手つきで、綾乃の乳房を揉みしだき始めた。先端に立つ硬い突起を指で転がすと、綾乃の喉から「ひぅっ」と甘い悲鳴が漏れた。 「……っ、上手……あなた、本当に初めてなの……?」 驚きと快感に潤んだ瞳で、綾乃が湊を見上げる。彼女は湊が完全な童貞だと信じ込んでいる。まさか、毎夜のように血の繋がった姉かもしれない相手と、肌を重ねているなどとは夢にも思っていない。湊の中に染み付いた、陽葵を喜ばせるための手癖。それが、綾乃にとっては未知の才能、先天的な性のセンスのように感じられたのだ。 「すごいわ、湊くん……あなた、天才よ……っ」 賞賛の言葉と共に、綾乃は恍惚と身体を震わせる。湊は言われるがままに、もう片方の手を彼女の脚の間へと伸ばした。しっとりと濡れた秘裂に指先が触れると、綾乃の身体がびくんと大きく跳ねる。湊は戸惑いながらも、陽葵の秘所を慰める時のように、指をゆっくりと滑らせた。粘液でぬるついた感触、複雑な襞の形状。その一つ一つが、湊の指を通して脳髄に焼き付いていく。 「あ……っ、そこ、だめ……んんっ!」 綾乃は湊の指の動きに合わせて腰を揺らし、嬌声を上げた。主導権を握って手ほどきをするはずが、いつの間にか湊の指の動きに翻弄されている。その事実に、彼女は屈辱よりも先に、抗いがたい興奮を覚えていた。 やがて、秘所が十分に潤み、受け入れる準備が整ったことを確認すると、綾乃はソファの上にゆっくりと横たわった。そして、火照った顔で湊を見上げ、吐息混じりに囁く。 「ほら……おいで、湊くん」 両脚を大きく開き、無防備な中心部を晒して、湊を誘う。その姿は、もはや指導者ではなく、ただ一人の雌だった。湊は、何かに導かれるように綾乃の身体の上に覆いかぶさる。目の前にある、未知の楽園の入り口。陽葵との関係で、ずっと焦がれ続けていた、本当の結合。その瞬間が、今まさに訪れようとしていた。 湊は、自身の昂りの先端を、熱く濡れた入り口にそっと押し当てた。吸い付くような粘膜の感触に、全身の血が沸騰するような感覚に襲われる。 「……ゆっくりで、いいのよ」 綾乃が、湊の背中に腕を回し、優しく囁いた。湊はこくりと頷くと、意を決して、ゆっくりと腰を沈めていった。 ず、ずぶり、と生々しい音を立てて、熱の塊が狭い道をこじ開けていく。未知の熱が、全身の神経を灼き尽くしていく。これまで経験したことのない強烈な刺激に、湊の思考は真っ白に染まった。身体の奥深くまで完全に埋没しきると、綾乃が慈愛に満ちた声で囁く。 「ふふ……全部、入ったわね」 彼女は満足げに腰をわずかに揺らし、その存在を確かめるように内壁を締め付けた。熱く柔らかな襞が、昂りのすべてをくまなく包み込む。快感の逃げ場など、どこにもない。必死でこらえようと、腹の底にぐっと力を込める。だが、その力みは完全に逆効果だった。滾ったものを力強く打ち出すときと同じ、ビクビクとした甘い痺れが根元から急速にせり上がってくる。一度去来した感覚はもう止められない。思考が焼ける。視界が白く点滅し、明滅を繰り返す。灼熱の肉壁に包まれた昂りが、意思に反してどくん、と脈打つ。その振動が、快感の信号となって全身を駆け巡る。駄目だ、もう、何も考えられない。せり上がってくる奔流に、抗う術はない。来る。来る。急速に膨れ上がった快楽が、爆発する。 「……っ、ぁあああっ!」 湊は綾乃の身体にしがみつき、限界を迎えた。一度堰を切った熱い流れを止める術など、彼にはない。彼女の身体の内側が、絶妙な力加減で締め付けてくる。濃厚な粘液が、敏感な尿道を走り抜けるたびに、鋭い刺激が稲妻のように全身を貫いた。受け皿となった子宮は、瞬く間に最奥まで満たし尽くされ、逆流した温かい濁流が、自身を取り巻く襞の一枚一枚にまで染み渡っていくのが分かった。長く、長く続いた放出の後、湊は荒い息をつきながら、ぐったりと綾乃の身体の上に倒れ込んだ。初めての膣内射精は、想像を絶するほどの威力で彼の体力を根こそぎ奪っていった。心臓が早鐘のように鳴り、全身から汗が噴き出す。 「……はぁ……はぁ……」 「ふふ……お疲れ様」 綾乃は、湊の背中を抱きしめ、その汗ばんだ髪を優しく撫でた。母親が子供をあやすような、慈愛に満ちた手つき。しかし、その内側で燃え盛る欲望の色は、少しも衰えてはいなかった。 「ご、ごめんなさい……中に、出してしまって……」 息も絶え絶えに、湊が謝罪の言葉を口にする。初めての経験で、避妊のことなど全く頭になかった。 その言葉に、綾乃はくすくすと喉を鳴らして笑った。 「いいのよ。むしろ、ご褒美だわ。こんなに素晴らしいものを、ちゃんと受け止められたんだから」 彼女の声は、悦びに震えている。それもそのはずだった。綾乃の体内で、あれほど大量に精を放ったはずの湊の昂りは、まだ硬さを失うことなく、確かな熱と存在感を保ち続けている。 「一度、中に注いでしまったのなら……もう、何度でも同じでしょう?」 悪魔が囁くように、綾乃が湊の耳元で甘く呟いた。そして、彼の腰をぐっと引き寄せると、自らの腰をゆっくりとくねらせ始める。ダンス指導のトレーナーである彼女の腰遣いは、受け身の姿勢とは思えないほど巧みで、官能的だった。内部を刺激する動きに、一度は萎えかけたはずの湊の昂りが、再び急速に熱を取り戻していく。 「……っ!」 今まで味わったことのない、内側から直接抉られるような強い快楽に、湊は背筋を震わせた。負けていられない。そんな対抗心にも似た感情が芽生え、彼は綾乃の動きに応えるように、初めて自らの意思で腰を動かし始めた。 先ほどの一方的な放出とは違う。互いが互いの快感を求め、貪り合うような、激しい交合。汗ばんだ肌がぶつかり合う音、粘液が掻き混ぜられる卑猥な水音、そして二人の喘ぎ声だけが、静かなレッスンルームに響き渡る。 綾乃の脚が、しっかりと湊の腰に絡みつき、逃がさないとばかりに締め付けてくる。快感の波が何度も押し寄せ、思考が白く染まっていく。もうどちらがリードしているのかも分からない。ただ、本能の命じるままに、互いの身体を求め続けた。 「あ、ぁんっ……! みなと、くん……! もっと、はげしく……!」 綾乃の懇願するような声が、湊の最後の理性を吹き飛ばした。彼は獣のように低く唸ると、綾乃の腰を掴み、容赦のない速度で突き上げ始めた。 「あ、あ、あ、あああっ!」 綾乃の身体が大きく弓なりにしなり、甲高い絶頂の叫びを上げる。それとほぼ同時に、湊の身体もまた灼熱の痙攣に襲われ、二度目の奔流が彼女の胎内へと注ぎ込まれた。 「ん……ぐぅっ……!」 綾乃は、先ほどよりも更に濃厚な熱が子宮口を叩くのを感じながら、恍惚の表情でそれを受け止める。二人の絶頂は、完璧に重なり合っていた。 長い、長い行為が終わる頃には、スタジオの窓の外はすっかり夜の闇に包まれていた。ソファベッドの上で、二人はぐったりと身体を寄せ合い、荒い呼吸を整えている。濃厚な男女の交わりの匂いが、部屋の空気を満たしていた。 「……陽葵」 快感の余韻の中で、湊の唇から無意識に姉の名がこぼれた。撮影はどうなっただろうか。こんな時間まで自分を待っていてくれただろうか。罪悪感と心配が、どっと胸に押し寄せてくる。 「……ふふ、あの子のこと、本当に大切なのね」 隣に横たわる綾乃が、少し拗ねたような声で呟いた。その言葉に、湊ははっとして身体を起こす。服を着ようと慌てる湊の背中を、綾乃は名残惜しそうに指でなぞった。 「大丈夫よ。撮影はもう終わってるわ。莉子ちゃんには、私が特別レッスンしてるって連絡入れておいたから」 「……すみません」 「謝らないで。私にとっては、最高の時間だったから」 綾乃は艶然と微笑むと、しなやかな動きでゆっくりと身を起こした。床に散らばった衣服を拾い上げるその動作は、まるで一つのパフォーマンスを終えたダンサーのようだ。先ほどまでの熱に浮かされた表情は、スイッチを切り替えるように消え去り、鏡の前に立ついつもの完璧なトレーナーの顔へと戻っていた。乱れた髪を無造作にかき上げる仕草に、もはや情事の余韻は微塵も感じられなかった。着替えを終えた湊は、綾乃に促されるままレッスンルームを後にする。スタジオのロビーに出ると、ソファに座って誰かを待っている様子の陽葵の姿が目に飛び込んできた。湊の胸に、安堵と罪悪感が同時に込み上げる。 「陽葵……」 名前を呼ぼうとした声は、しかし、喉の奥で凍りついた。陽葵は一人ではなかったからだ。彼女の隣には、今日の撮影を担当していたカメラマン、葉山洋介が腰掛けていた。それだけではない。洋介の腕は、ごく自然に陽葵の腰に回され、陽葵はまるで甘えるように、その肩にしなだれかかっていた。親密すぎる距離。二人を包む、気怠く甘ったるい空気。 湊の全身の血が、急速に冷えていくのを感じた。つい先ほどまで、自分自身が綾乃と交わしていた熱の名残が、背筋を這い上がってくる不快な悪寒へと変わる。 「あ……湊」 こちらの存在に気づいた陽葵が、慌てたように身を起こした。洋介の腕が、名残惜しそうに彼女の腰から離れていく。洋介は悪びれる様子もなく、にやりと口の端を吊り上げて湊を見た。その視線には、自分と同じ雄としての、侮蔑と優越感が混じっているように見えた。 「お疲れ様、湊くん。綾乃先生の特別レッスンは、さぞかし大変だったでしょう?」 馴れ馴れしい口調で、洋介が声をかけてくる。その言葉の裏に隠された揶揄の色を、湊は敏感に感じ取った。 「……何があった」 湊の声は、自分でも驚くほど低く、硬くなっていた。視線は洋介を通り越し、隣にいる陽葵へと突き刺さる。陽葵は、弟のただならぬ雰囲気に気圧されたのか、少し視線を彷徨わせた。その頬は不自然に上気し、瞳は潤み、どこか焦点が定まっていない。唇は熟れた果実のように赤く腫れぼったくなっている。それが何をした後の徴候なのか、今の湊には痛いほど分かった。 「えっと……撮影が終わった後、ちょっと気分が悪くなっちゃって……。そしたら、葉山さんが心配して、介抱してくれたの」 しどろもどろになりながら、陽葵が説明する。その言葉は、まるで用意された台本のようだった。 「そうそう。陽葵ちゃん、急にふらついちゃってさ。貧血かな? 俺、びっくりしちゃったよ。だから、少し休ませてあげてただけ。なあ?」 洋介が、追い打ちをかけるように陽葵に同意を求める。その軽薄な笑顔が、湊の神経を容赦なく逆なでした。この男が、陽葵に触れた。自分がずっと守ってきた、誰にも汚させたくなかった聖域に、この土足で踏み入るような男が、その指を、唇を、そしておそらくは――。 そこまで考えた瞬間、頭に血が上り、洋介の胸ぐらを掴み上げてしまいそうになる。だが、できなかった。つい先ほどまで、自分もまた綾乃の裸体を貪っていた。その事実が、重い枷となって湊の身体を縛り付ける。自分には、この男を、そして陽葵を、非難する資格など微塵もない。その痛烈な自己矛盾が、湊の喉を締め付けた。 「……そうか」 絞り出した声は、ひどく掠れていた。自分でも、どんな顔をしているのか分からない。ただ、目の前にいる陽葵が、自分の知らない女に見えた。自分の半身だと思っていた存在が、自分のものではない、赤の他人の色に染められている。その事実が、鈍い痛みとなって胸の奥に広がり、嫉妬という名の黒い炎をじりじりと燃え上がらせた。 「あら、陽葵ちゃん、大丈夫? 無理は禁物よ」 背後から、綾乃の涼やかな声がした。彼女はいつの間にか、普段通りの完璧なトレーナーの顔に戻っている。その瞳は、ロビーの緊迫した空気を楽しむかのように、面白そうに細められていた。 「……帰るぞ」 湊は、それ以上何も言えなかった。言うべき言葉が見つからなかった。ただ、陽葵の腕を強く掴むと、半ば引きずるようにしてスタジオの出口へと向かう。掴んだ腕から伝わってくる微かな熱。そして、ふわりと鼻腔をかすめた、自分のものではない、甘ったるいコロンの香り。それが、湊の心に最後の追い打ちをかけた。 「じゃあね、陽葵ちゃん、湊くん。また次の撮影で」 背後から、洋介の呑気な声が聞こえる。湊は振り返らなかった。その軽薄な声の主に、今、顔を向けたら、何をしでかすか分からなかったから。 自動ドアが開き、ひやりとした夜気が火照った肌を撫でる。都会の喧騒が、遠い世界のことのように聞こえた。湊と陽葵は、どちらからともなく、無言のまま家路を歩き始める。 隣を歩く陽葵の気配が、ひどくよそよそしく感じられた。いつもなら、彼女の方から学校での出来事や、テレビで見たアイドルのことなどを、鳥が囀るように話しかけてくるはずなのに。今はただ、俯きがちに湊の半歩後ろをついてくるだけだ。 湊もまた、言葉を発することができなかった。何を問えばいいのか。どこまで知ってしまえばいいのか。真実を知るのが怖かった。自分と陽葵を繋ぎとめていた、脆く、しかし美しいと思っていた絆が、今日のこの出来事を境に、音を立てて崩れ始めていた。 自分は綾乃に抱かれた。 陽葵は洋介に抱かれた。 その厳然たる事実が、二人の間に深く、冷たい溝を刻む。もう、昨日のようには戻れない。あの、二人だけの秘密の儀式を、純粋なものとして行うことは二度とできないだろう。 湊は、自らの内に渦巻く感情の正体に気づいていた。それは、姉を案じる弟としての心配などではない。自分の大切なものを、他の男に奪われたことに対する、原始的な怒りと嫉妬。そして、そんな醜い独占欲を抱いている自分自身への、どうしようもない嫌悪。 陽葵は、ただの姉ではない。異母姉弟かもしれないという血の呪縛を超えて、湊にとって彼女は、自分の半身であり、守るべき唯一の光であり、そして、初めて欲望を覚えた異性だった。その特別な存在が、いとも容易く、あんな男に純潔を捧げてしまった。そのことが、許せなかった。 自分は綾乃との行為で一線を越えてしまった。陽葵もまた、焦がれていたはずの一線を越えた。だが、なぜ男なのか。何か特別な感情でも抱いていたというのか。それとも、ただ、発作的な性欲に身を任せただけなのか。どちらにしても、湊には受け入れがたいことだった。 唇を噛み締め、俯いて歩く。街灯が、二人の影を長く、長く引き伸ばしていた。まるで、決して交わることのない二本の線のように。 この日を境に、太陽と月は、その軌道を静かに違え始めた。互いを照らし合うことで成り立っていたはずの光は、それぞれが別の引力に引かれ、戻れない場所へと向かって、ゆっくりと離れていく。 その先にあるのが、輝かしい未来なのか、それともすべてを焼き尽くすほどの破滅なのか、まだ誰にも知る由はなかった。 # パート3 ミュージックビデオの撮影は、日が傾き始める頃にようやく一段落した。本格的なライブとは違い、何度もカットを挟みながら同じフレーズを繰り返すだけの歌唱。陽葵の身体の奥に眠る熱は、目を覚ますことなく静かに鎮まっていた。むしろ、慣れない環境での長時間の緊張は、心地よい疲労感となって彼女の身体を包んでいる。 「陽葵ちゃん、お疲れ様。すっごく良かったよ」 機材を片付けるスタッフたちの間を縫って、カメラマンの葉山洋介が爽やかな笑顔で近づいてきた。彼は今日の撮影中、終始和やかな雰囲気で場を盛り上げ、緊張していた陽葵を何度もリラックスさせてくれた。歳の頃は二十代半ばだろうか。日に焼けた肌と、人懐っこい笑顔が印象的な青年だ。 「ありがとうございます。葉山さんこそ、お疲れ様でした」 陽葵が深々と頭を下げると、洋介は「やめてよ、そんな他人行儀な」と大げさに手を振った。 「俺のことは洋介でいいって。それにしても、陽葵ちゃんはすごいね。カメラを向けると、表情が全然違う。まさに天性のアイドルだよ」 立て板に水のように紡がれる賞賛の言葉に、陽葵は照れて頬を掻いた。その純真な反応を見て、洋介の瞳の奥が一瞬、ギラリと光ったのを彼女は知らない。 「そうだ。この後、時間ある? 近くに美味いケーキ出すカフェがあるんだけど、撮影の打ち上げってことで、どうかな。もちろん、湊くんも……」 洋介が言いかけたところで、ダンス指導の神崎綾乃が湊を連れていくのが見えた。何やら真剣な表情で話している。特別レッスン、というやつだろうか。 「あ……湊は、これからレッスンみたいです」 「そっか。じゃあ、仕方ない。俺たちだけで行っちゃうか。頑張った陽葵ちゃんへの、俺からのご褒美ってことで」 悪戯っぽく片目を瞑る洋介。その屈託のない誘いに、陽葵は断る理由を見つけられなかった。湊を待っている間の、少しの寄り道。それくらいのつもりだった。 洋介に連れられて訪れたのは、スタジオからほど近いホテルのラウンジだった。重厚な絨毯、静かに流れるクラシック音楽、そして窓の外に広がる手入れの行き届いた庭園。高校生の陽葵にとっては、何もかもが別世界の光景だった。 「すごい……ドラマみたい」 目を丸くする陽葵の姿に、洋介は満足げに微笑んだ。彼は手慣れた様子でウェイターを呼び、陽葵には季節のフルーツタルトとハーブティーを、自分にはコーヒーを注文する。 「陽葵ちゃん、緊張してる?」 「え、あ、はい。少し……」 「はは、可愛いなあ。大丈夫、取って食ったりしないから」 軽口を叩きながら、洋介は撮影中のエピソードを楽しげに語り始めた。彼の話は巧みで、陽葵が笑うべきところで笑い、感心すべきところで感心するように、巧みに会話がリードされていく。陽葵はいつしか、スタジオの外で二人きりでいるという緊張も忘れ、彼の話に夢中になっていた。 やがて、注文した品が運ばれてくる。宝石のように美しいタルトに、陽葵は歓声を上げた。 「洋介さん、ありがとうございます。すごく美味しそう」 「だろ? ここのタルトは絶品なんだ。さ、冷めないうちにどうぞ」 促されるまま、陽葵は銀のフォークでタルトを一口分すくい、口に運んだ。甘酸っぱいフルーツと、濃厚なカスタードクリームのハーモニーが口いっぱいに広がる。その幸福な味わいに、思わず頬が緩んだ。 「美味しい……」 「良かった」 洋介は嬉しそうに頷くと、自分のコーヒーカップに口をつけた。そして、陽葵が次のタルトに夢中になっている、その一瞬の隙を突く。ジャケットの内ポケットから、ピルケースを音もなく取り出し、中から小さな白い錠剤を一つ、指先で摘まみ出した。 慣れた手つきで、それを親指の爪で半分に割る。 彼の視線が、陽葵のハーブティーが注がれたティーカップへと注がれた。陽葵の背後をウェイターが通り過ぎる。その影に隠れるようにして、洋介の手が素早く動いた。 ぽちゃん、と。ほとんど聞き取れないほどの小さな水音。 白い錠剤の半分が、琥珀色の液体の中に吸い込まれ、あっという間に溶けて消えた。完全犯罪だった。 「どうかしたんですか?」 ふと顔を上げた陽葵が、不思議そうに首を傾げる。洋介は、何事もなかったかのようににこりと笑った。 「ううん、何でもない。陽葵ちゃんがあまりに美味しそうに食べるから、見てて幸せな気分になっちゃった」 「も、もう……からかわないでください」 顔を赤らめる陽葵。彼女は、自分の身にこれから何が起ころうとしているのか、知る由もなかった。ただ、目の前の優しいカメラマンに促されるまま、何の疑いもなく、毒の混ぜられた聖杯へと口をつけた。 ハーブの爽やかな香りと、ほのかな甘み。舌の上で踊る、優しい味わい。そのはずだった。 一口、二口と飲み進めるうちに、陽葵は身体に奇妙な変調が起き始めているのを感じた。 まず、心臓が大きく、不規則に脈打ち始めた。どくん、どくん、と。まるで誰かに直接手で掴まれているかのように、激しい鼓動が胸の内側から肋骨を叩く。 「……?」 陽葵は、そっと胸元に手を当てた。なんだろう、この動悸は。緊張しているのだろうか。いや、違う。これは、もっと身体の根源的な部分から湧き上がってくる、得体の知れない昂りだった。 「陽葵ちゃん? どうかした? 顔、赤いよ」 心配そうに覗き込んでくる洋介の顔が、妙に近くに見える。彼の声が、耳の奥でじんじんと響いた。 次の瞬間、血液が沸騰するような熱が、身体の芯から全身へと一気に駆け巡った。かあっ、と顔が火照り、指先までが痺れるような感覚に襲われる。思考に、ゆっくりと靄がかかり始めていた。目の前の景色がぐにゃりと歪み、洋介の顔だけが、やけにはっきりと見える。 「あの……なんだか、身体が……熱くて……」 呂律が、うまく回らない。ハーブティーを口にしてから、まだ数分も経っていない。しかし、その短い時間で、陽葵の身体は未知の薬物によって確実に蝕まれていた。 「大丈夫? 貧血かな。少し、風に当たろうか。俺、部屋取ってるから、そこで少し休んでいこう」 洋介の声が、水中で聞くようにくぐもって聞こえる。部屋? なんの? そんな思考さえ、すぐに熱の中に溶けて消えていく。身体が言うことを聞かない。ただ、目の前の男に縋りたいという、本能的な欲求だけが頭をもたげていた。 「……うん……」 頷くのが精一杯だった。洋介は待っていましたとばかりに席を立つと、慣れた様子で会計を済ませ、ふらつく陽葵の肩を抱きかかえるようにしてラウンジを後にした。その背中を、他の客たちは「介抱する優しい青年」としか見ていない。彼の周到な計画に、誰も気づく者はいなかった。 エレベーターに乗り込み、上昇していく箱の中で、陽葵の意識は更に混濁していく。洋介の腕に支えられなければ、立っていることさえできない。密室の空間で、彼の体温と、甘いコロンの香りがやけに強く感じられた。 そして、身体の中心部が、じくじくと疼き始めた。これまで経験したことのない、内側から突き上げてくるような、強烈な性の疼き。湊との儀式で感じる熱とは、比べ物にならないほど激しく、抗いがたい衝動だった。 「ん……ぅ……」 無意識のうちに、陽葵の唇から甘い吐息が漏れた。その声を聞き届けた洋介の口元が、エレベーターの無機質な照明の下で、獰猛な笑みに歪んだ。 部屋のドアが開き、陽葵は半ば引きずられるようにして中に連れ込まれた。ドアが閉まり、カチャリと鍵のかかる音がした瞬間、それまで陽葵を支えていた洋介の態度が豹変する。 「……んむっ」 壁にぐっと押し付けられ、驚く間もなく唇を塞がれた。乱暴にこじ開けられた唇の隙間から、生温かい舌が侵入してくる。それはキスというより、捕食者の牙のようだった。微かにコーヒーの苦い香りが混じった唾液が、陽葵の思考を更に麻痺させていく。 「はぁ……っ、ん……や……」 必死に抵抗しようとするが、薬によって身体の力は完全に奪われている。洋介の腕が陽葵の腰を強く抱き寄せ、下腹部に硬い熱の塊が押し付けられた。それが何なのか、陽葵はもう理解できていた。恐怖と、それに相反する好奇心。そして、薬によって強制的に引き起こされた、どうしようもない性的興奮が、彼女の中で渦を巻いていた。 「やだ、なんて言っちゃってさ。身体は正直だぜ?」 耳元で、洋介が嘲るように囁く。彼の指が、陽葵の制服のブラウスのボタンにかけられ、器用な手つきで一つ、また一つと外されていく。 「ほら、こんなに熱くなってる」 ブラウスの隙間から差し込まれた手が、ブラジャー越しに陽葵の胸の膨らみを鷲掴みにした。 「ひゃっ……!」 敏感になった肌に、直接的な刺激が走る。心臓が跳ね上がり、腰が砕けるような感覚。その反応に満足したのか、洋介はくつくつと喉を鳴らして笑った。彼はまるで手慣れた狩人のように、獲物の急所を知り尽くしている。抵抗の意思を少しずつ、しかし確実に削ぎ落としていく。 陽葵は、もはやなされるがままだった。制服はあっという間に剥ぎ取られ、下着だけの姿でベッドの上に放り出される。見慣れないホテルの天井が、ぐるぐると回っているように見えた。 「いい身体してんな、陽葵ちゃん。まだ高校生とは思えねえよ」 洋介は、まるで品定めをするかのように、陽葵の身体を頭の先からつま先まで、ねぶるような視線で舐め回した。彼はにやりと笑うと、陽葵が身に着けていた白いレースのブラジャーのフロントホックに指をかけた。 「これも、邪魔だよな?」 カチリ、と小さな音を立てて留め具が外れる。 支えを失った豊かな双丘が、重力に従ってやわらかく揺れた。陽葵は反射的に両腕で胸を隠そうとしたが、薬で痺れた腕は思うように動かない。 「あ……ぅ」 か細い声が漏れ、熱い乳房の先端が羞恥と興奮で硬く尖っていくのが自分でも分かった。 「隠さなくていいって。すげえ、綺麗な形してんじゃん」 洋介は満足げに喉を鳴らすと、今度は陽葵の脚の間に膝を割り込ませ、最後の砦であるショーツのサイドに指を引っ掛けた。 「や……っ」 抵抗しようとした声は甘い喘ぎに変わり、その腰が微かに浮き上がった。洋介は構うことなく、薄い布地をゆっくりと、しかし有無を言わせぬ力で引きずり下ろしていく。やがて、すべての衣類を奪われた陽葵の白い肌が、ホテルの間接照明の下に完全に晒された。股座から立ち上る、むわりとした熱気と甘い香り。洋介はその光景にほう、と感嘆のため息を漏らした。 「……ほら見ろよ。もうこんなにぐしょぐしょじゃねえか」 彼はその中心部を指で軽く弾いた。 「ひぅっ!」 陽葵の背筋を鋭い快感が駆け抜ける。 「さあ、始めようか。アイドル様との、秘密のレッスンをさ」 洋介は自分の衣服を乱暴に脱ぎ捨てると、既に欲望を漲らせた姿で陽葵の上に覆いかぶさった。陽葵は固く目を閉じる。これから自分に何が起こるのか。その恐怖に全身が震えていた。しかし、薬によって支配された身体は、その恐怖さえも甘美な痺れに変えてしまう。疼きの中心部が、未知の刺激を求めてきゅうと収縮した。 洋介の唇が、首筋から鎖骨へ、そして胸の谷間へと下っていく。その軌跡に、キスマークという名の所有印がいくつも刻まれていく。豊かな乳房にしゃぶりつかれ、先端を歯で軽く噛まれた瞬間、陽葵の背筋を電流のような快感が駆け抜けた。 「あ……っ、ん、ぅ……!」 声にならない喘ぎが、唇から零れ落ちる。洋介の指は、既に脚の付け根を辿り、湿り気を帯び始めた秘裂へと到達していた。その入り口を、ためらいなく抉るように指が差し込まれる。 「ひっ……!」 思わず腰が浮き、甲高い悲鳴が喉からほとばしった。未知の異物が、身体の最も柔らかい部分を侵食していく感覚。その背徳的な快感に、陽葵の思考は完全に焼き切れた。 「すごいな、もうこんなに濡れてんじゃん。やっぱり、お前も欲しかったんだろ?」 十分に内部が解されたことを確認すると、洋介は一旦指を引き抜いた。そして、ジャケットのポケットから取り出した小さな銀色の包装を、慣れた手つきで破った。薄いゴムの膜が、彼の昂りに被せられる。 「……っ!」 陽葵の全身が硬直する。これから起きることを予感し、恐怖で身体がこわばった。 「力抜けよ。痛くしちまうだろ」 洋介はそう囁くと、自らの昂りを掴んで、その熱く硬い先端を、潤んだ入り口へと押し当てる。そして、有無を言わせぬ力で、ゆっくりと腰を沈めてきた。 みしり、と。身体の内側が軋むような音を立てて、薄い膜が引き裂かれる。激しい痛みが、陽葵の下腹部を貫いた。 「いっ……! た……ぁ……!」 涙が、目尻からこめかみへと伝っていく。初めての痛み。純潔が奪われたという、紛れもない証。 「はは、痛いか? でも、すぐに気持ちよくなってくるからさ」 洋介は、陽葵の苦痛など意にも介さず、容赦なく昂りを根元まで埋め込んだ。身体の奥深くまで異物が侵入してくる感覚に、陽葵は息を詰める。痛みと、未知の圧迫感。そして、その奥にある微かな熱。 洋介は、陽葵の身体が自分を受け入れたのを確認すると、ゆっくりと腰を動かし始めた。最初は浅く、徐々に深く。痛みは次第に薄れ、代わりに、内壁を擦られる鈍い快感がじわじわと広がっていく。 「ん……ぅ、く……」 「ほらな? 言った通りだろ?」 洋介の動きが、徐々に激しさを増していく。薬の効果も相まって、陽葵の身体は驚くほどの速度で快感に順応していった。洋介は内部の感触を確かめるように動き、陽葵の息遣いや身体の微かな反応から、最も感じやすい場所を探り当てていく。子宮の入り口近くにある、ひときわ敏感な一点。そこを見つけると、昂りの先端で執拗に擦り上げた。 「ひゃっ……! あ、そこ、だめ……っ!」 その度に、陽葵の背筋を甘い痺れが駆け抜ける。快感に抗うように首を左右に振るが、腰は正直に、洋介の突き上げを受け入れるように揺れていた。 「だめじゃねえだろ? こんなにきゅうきゅう締めてきてさ」 洋介は低く笑いながら、更にピッチを上げた。もう、陽葵の意識は朦朧としている。痛みも羞恥心も、すべてが快感という名の奔流に飲み込まれてしまった。ただ、身体の奥深くを穿つ熱い杭の感触だけが、世界のすべてだった。 「あ、あ、あ……! いく、いっちゃう……!」 内部の一点を、強く、深く抉られた瞬間、陽葵の視界が白く弾けた。全身が灼熱の痙攣に襲われ、意識が遠のいていく。 「……っ、は、ぁ……っ!」 絶頂の波が引いた後も、陽葵の身体はびくびくと小さく痙攣を続けていた。その内部で、洋介の昂りが更に硬度を増すのを感じる。彼は、陽葵の反応を確かめるように一度動きを止めると、にやりと口角を吊り上げた。 「すげえな、陽葵ちゃん。初めてで先にイっちまうなんて、相当溜まってたんだな」 下卑た言葉が、快感の余韻に浸る陽葵の耳朶を打つ。しかし、もはやそれに反発する気力さえ残っていなかった。洋介は、そんな陽葵の様子を満足げに見下ろすと、再び激しく腰を揺さぶり始めた。一度、絶頂に達したことで、陽葵の身体は更に敏感になっている。洋介の突き上げの一回一回が、先ほどとは比べ物にならないほどの快感を脳髄に直接叩き込んできた。 「あ、ぁんっ! また、くる……っ、だめ、もう……!」 懇願するような声は、しかし洋介の耳には届かない。むしろ、彼はその反応を煽るように、更に深く、強く腰を打ち付けた。陽葵の内部の弱いところをいくつも執拗に攻め立て、連続で絶頂の淵へと突き落としていく。 「あ……っ、あ、あぁ……!」 二度、三度と、意識が白く染まるほどの快感の嵐が陽葵を襲う。もはや自分の身体がどうなっているのかも分からない。ただ、快楽を生み出すためだけの肉の器と化したかのように、洋介の律動に合わせて嬌声を上げ、身悶えることしかできなかった。 洋介の呼吸も、徐々に荒くなっていく。陽葵の、処女とは思えないほどの締め付けと濡れ具合が、彼の興奮を最高潮にまで高めていた。 「……くそっ、たまんねえな、お前……!」 獣のような呻き声と共に、洋介の腰の動きが最後の激しさを増す。そして、陽葵の身体の最も奥深い場所で、熱い奔流が解き放たれた。 「……っ!」 薄いゴムの膜越しに、子宮口を叩く熱の感触。その直接的な刺激に、陽葵の身体は再び大きく弓なりにしなり、それまでとは全く次元の異なる絶頂の波に意識が浚われていく。 どく、どくと脈打つ熱の塊が、内部で存在を主張している。長く、濃密な放出が終わると、洋介は荒い息をつきながら、ゆっくりと昂りを引き抜いた。 ずるり、と。生々しい音を立てて結合が解かれる。洋介の昂りに被せられていた薄いゴムには、白濁した粘液がたっぷりと溜まっていた。彼はそれを手早く外すと、ぽい、と陽葵の下腹部の上に無造作に放り投げた。 じんわりとした熱が、肌に伝わる。陽葵は、蕩けた瞳でそれを見つめていた。先ほどまで自分の内側にあった熱。それが、今は自分の外にある。その事実が、名状しがたい喪失感と焦燥感を陽葵の胸に掻き立てた。もっと、欲しい。あの熱を、直接、自分の内側で感じたい。薬によって増幅された本能が、理性の声をかき消していく。 「……ようすけ、さん……」 掠れた声で、男の名を呼ぶ。洋介は、既に満足してベッドから降りようとしていた。その腕を、陽葵は必死に掴む。 「……まだ、足りない……の」 その掠れた声は、懇願というよりは命令に近かった。洋介は、虚脱感に支配された身体で、ベッドから起き上がろうとする陽葵を見下ろした。その瞳は、先ほどまでの怯えた少女のそれとは全く違っていた。焦点は合っていないが、その奥にはぎらぎらと燃え盛る、底なしの欲望の炎が揺らめいている。 「おいおい、冗談だろ? お前、初めてで、そんな……」 続けてやったら壊れちまうぞ、と言いかけて、洋介は言葉を呑んだ。陽葵は、彼の言葉など聞こえていないかのように、ゆっくりと四つん這いになって身を起こす。乱れた髪が頬にかかり、汗で濡れた肌がホテルの間接照明を鈍く反射していた。その姿は、痛々しいほどに官能的だった。 「まだ……できるでしょ?」 囁き声と共に、陽葵はそのままの姿勢で洋介の身体に覆いかぶさると、彼の胸に頬をすり寄せた。そして、まだ硬さの名残を留めている昂りに、自らの下腹部をゆっくりと押し付ける。熱く湿った秘裂が、その存在を確かめるようにぐりぐりと擦りつけられた。 「おい、陽葵ちゃん……っ」 洋介の喉から、苦しげな声が漏れる。一度は萎えかけたはずの欲望が、その挑発的な愛撫によって、再び急速に熱を取り戻していく。目の前の少女は、先ほどまで恐怖に怯えていた獲物ではない。自らの欲望に忠実な、飢えた獣そのものだった。その変貌ぶりに、洋介は背筋がぞくりとするような興奮と、微かな畏怖を覚えた。 「待て、待てって……! つけるから……!」 慌てて陽葵の身体を引き剥がし、ベッドサイドに脱ぎ捨てたズボンのポケットを探る。指先が、最後の一個となった銀色の包装に触れた。彼はそれをひったくるように取り出すと、焦る手つきで封を切り、再び硬さを取り戻した自身の昂りに被せた。その間も、陽葵は蕩けた瞳でじっと洋介を見つめている。早く、早くしろと、その視線が雄弁に物語っていた。 装着を終えるや否や、陽葵は待っていましたとばかりに洋介の上に跨った。そして、熱の塊を自らの手で掴むと、ためらいなく、潤んだ入り口へと導いていく。 「ん……ぅっ……」 自らの体重をかけて、ゆっくりと腰を下ろしていく。先ほど無理やりこじ開けられた道は、既に熱を帯びた異物を受け入れる準備が整っていた。ずるり、と粘液を潤滑剤にして、昂りが再びその奥深くへと沈んでいく。一度目の痛みはもうない。あるのは、内壁を押し広げられる、背徳的な快感だけだった。 根元まで完全に結合すると、陽葵は満足げに吐息を漏らし、洋介の肩に両手をついた。見下ろしてくるその瞳には、もはや羞恥の色など微塵も残っていない。 「……今度は、私が動かしてあげる」 悪戯っぽく微笑むと、陽葵はゆっくりと腰を揺らし始めた。最初は、円を描くように、ねっとりと内部を擦り上げるように。その度に、洋介の喉からくぐもった呻きが漏れた。先ほどの性交で、陽葵は自分の身体のどこが気持ちいいのか、そして、どうすれば相手を喜ばせられるのかを、本能的に学習していた。 「……っ、おい、陽葵ちゃん……お前、本当に初めてかよ……?」 洋介が、喘ぎ混じりに掠れた声で問う。その腰遣いは、素人のそれとは到底思えなかった。内壁の最も敏感な一点を探り当てては、そこをぐりぐりと昂りの先端で押し付け、かと思えば、子宮口を軽く叩くような浅い動きで焦らす。快感の緩急を自在に操り、洋介を翻弄していた。 「ふふ……洋介さんが、教えてくれたんじゃないですか」 陽葵は蕩けた瞳で答え、くすりと笑う。その無邪気な笑顔が、今の状況と相まって、悪魔的なまでの魅力を放っていた。洋介は、自分が調教しているはずの小鳥に、いつの間にか手綱を握られていることに気づき、屈辱と興奮で背筋を震わせた。 「……この、小悪魔が……!」 負けていられない。男のプライドが、一度は枯渇しかけた精力を再び奮い立たせる。洋介は陽葵の腰を掴むと、体勢を反転させて彼女をベッドに押し倒した。 「今度は、俺の番だ」 獣のように低く唸り、洋介は怒涛の突き上げを開始した。先ほどまでの技巧的な愛撫ではない。ただ、本能の命じるままに、陽葵の最奥を穿つためだけの、暴力的とも言える律動。ベッドがぎしぎしと悲鳴を上げ、肌と肌がぶつかり合う生々しい音が、部屋の空気を満たしていく。 「ひゃっ……! あ、あ、あぁんっ!」 突然の嵐のような快楽に、陽葵はなすすべもなく翻弄される。しかし、その表情に苦痛の色はない。むしろ、その激しさを歓迎するかのように、恍惚とした表情で喘ぎ声を上げていた。彼女は洋介の首に腕を絡め、脚でその腰をきつく締め付け、もっと深く、もっと激しくと、身体で訴えかける。 もはや、どちらがどちらを求めているのか分からない。ただ、二つの身体が一つの獣となり、互いの快感を貪り合う。汗が飛び散り、唾液と吐息が混じり合う。これが初めての相手とは思えないほど、二人の身体の相性は完璧だった。 「あ、いく……! 洋介さん、一緒……に……!」 陽葵が、絶頂の予感に甲高い声を上げた。その瞬間、洋介の身体もまた、限界を告げる痙攣に襲われる。 「……う、おおおおっ!」 雄叫びと共に、熱い奔流が再びゴムの膜の内側へと注ぎ込まれた。陽葵もまた、子宮が収縮する灼熱の快感に身を震わせ、洋介の背中をきつく掻きむしった。完璧に重なり合った、二度目の絶頂。濃密な交わりの後、二人はもつれ合うようにしてベッドに倒れ込み、荒い呼吸を繰り返した。 「はぁ……はぁ……もう、無理だ……」 洋介は、完全に燃え尽きていた。連続した射精は、彼の体力を根こそぎ奪い去っている。もう指一本動かすのも億劫だった。彼はぐったりとしたまま、陽葵の身体から昂りを引き抜くと、使い終わったコンドームを外して床に放り投げた。これで、今日の逢瀬は終わりだ。そう、思うはずだった。 「……洋介さん」 隣に横たわる陽葵が、甘えるような声で彼の名を呼んだ。その身体はまだ熱く火照り、瞳の奥の欲望の炎は、少しも衰えていない。 「もう一回、しよ?」 「……は? 冗談だろ? もう、コンドームも使い切っちまったよ」 洋介は、呆れたように返した。それが、この行為の終了を告げる、男にとっての常套句であるはずだった。しかし、陽葵の反応は、彼の常識を遥かに超えていた。 「コンドーム? ……じゃあ、いらないよ」 きょとんとした顔で、陽葵はそう言い放った。そして、脱力しきっている洋介の身体を軽々と押さえつけると、再びその上に跨る。 「おい、待て、陽葵ちゃん! 生はまずいって!」 洋介の制止の声も、今の陽葵には届かない。彼女は、まだ微かな熱を保っている昂りを掴むと、躊躇なく、自らの潤んだ秘所へと押し込んだ。今度は、薄いゴムの膜を隔てていない。生々しい粘膜同士が、直接触れ合う。 「……っ!」 洋介の全身を、電流のような快感が駆け抜けた。先ほどまでの、ゴム越しの感触とは比べ物にならない。柔らかく、熱く、そして吸い付くような内壁の感触が、ダイレクトに脳髄を焼いた。萎えかけていたはずの昂りが、信じられない速度で再び完全な硬さを取り戻していく。 「ほら、まだこんなに元気じゃん」 陽葵は満足げに微笑むと、ゆっくりと腰を上下させ始めた。一回、また一回と、熱い肉の鞘が昂りを深く呑み込んでは、吐き出していく。その度に、洋介の理性の箍が、音を立てて外れていった。避妊。リスク。後始末。そういった思考が、純粋な快感の前にすべて吹き飛んでいく。 「あ……あぁ……っ」 もはや、洋介に抵抗する意思は残っていなかった。彼は目を閉じ、陽葵がもたらす禁断の快楽に、ただ身を委ねる。 陽葵の動きは、次第に激しさを増していった。騎乗位の姿勢で、まるで杭を打ち込むかのように、激しく腰を上下させる。その度に、ぐちゅり、ぐちゅり、と卑猥な水音が部屋に響き渡った。 「ん……っ、ん、ぅ……!」 陽葵の表情は、恍惚と苦悶が入り混じったような、凄絶なものへと変わっていた。彼女は、洋介に三度目の射精を強要しているのだ。内側から、そのすべてを絞り尽くそうとしている。 「だ、だめだ……! 陽葵ちゃん、もう、出る……っ!」 洋介は必死で腰を引こうとするが、陽葵の脚ががっちりと彼の身体をホールドし、逃がさない。彼女は洋介の腰に自らの尻をぐりぐりと押し付け、最も深い場所で、その瞬間を待ち構えていた。 そして、ついに。 「……んぐぅっ!」 獣の呻きと共に、洋介の身体が大きく跳ねた。堰を切ったように、熱く濃厚な奔流が、何の隔てもなく、陽葵の胎内の最も奥深くへと注ぎ込まれていく。 「……はぁ……んぅ……っ」 子宮口を直接叩く、灼熱の奔流。陽葵はその一滴一滴を確かめるように、歓喜に打ち震えた。内側に注がれた生命の源が、自分の身体の一部になっていくような、全能感にも似た感覚。その至福の瞬間に、彼女は何度も小さく絶頂を繰り返した。 三度目の放出は、さすがに量は少なかった。すぐに波は引いていく。陽葵の渇望は、この程度で満たされてはくれなかった。 「……ぜんぜん、足りない」 吐息混じりに、陽葵が拗ねたように呟いた。 「もっと……もっと、ほしい……」 その言葉に、洋介は恐怖さえ覚えた。目の前にいるのは、可憐なアイドルの少女ではない。底なしの欲望を持つ、淫蕩な雌だ。これまで、薬を使って篭絡してきたどの女よりも、陽葵の反応は異常だった。薬の効果が切れるどころか、行為を重ねるごとに、その渇きは増しているようにさえ見える。 洋介は、既に限界だった。身体も、精神も。彼は、ただ力なく喘ぐ陽葵の身体から逃れるように、ベッドの端へと身をずらした。これ以上、この女の相手はしていられない。 陽葵は、不満げに唇を尖らせながらも、それ以上洋介を求めることはなかった。ただ、自分の胎内に注がれたばかりの、生温かい熱の余韻に浸るように、うっとりと目を閉じている。その無防備な姿に、洋介はわずかな罪悪感と、それ以上に強い好奇心を抱いていた。 * 一方その頃、一条司もまた、自らの意思で陽葵と同じ薬を服用し、年上の男の腕に抱かれていた。 場所は、都心の一等地に佇む高級ホテルのスイートルーム。男は、大手広告代理店の重役だった。芸能界において絶大な影響力を持つ彼に、司は自らの身体を差し出すことで、一つの目的を果たそうとしていた。 いわゆる、枕営業。それは、この世界の頂点を目指す者にとって、時に最も有効な武器となる。司は、そのことを誰よりも理解していた。使えるものは、何でも使う。コネも、薬も、その美貌さえも。それが、彼女の信条だった。 「……素晴らしいよ、司くん」 行為の後、ベッドの上で男が満足げに紫煙をくゆらせた。熟練した手管で男を悦ばせた司の肉体は、汗でしっとりと濡れ、シーツの上に横たわる姿はまるでルネサンス期の絵画のように倒錯的な美しさを放っている。 「君のパフォーマンスは、まさに圧巻だ。我が社も、全力で君をバックアップさせてもらうよ」 「光栄ですわ」 司は優雅に微笑みながら、ベッドから身を起こした。床に散らばった衣服を拾い上げ、手早く身に着けていく。その動作に、先ほどまでの情熱的な姿の面影は微塵もない。まるで、ビジネスの交渉を終えた後のように、冷徹で、事務的だった。 「それで……お願いしていた件は、いかがかしら?」 服を着終えた司が、男に向き直って問う。男は、待ってましたとばかりににやりと笑った。 「ああ、皐月蓮プロデューサーとのアポイントメントだね。もちろん、セッティングさせてもらうとも」 その言葉を聞き、司の唇に、ようやく本物の笑みが浮かんだ。皐月蓮。現在の芸能界の頂点に君臨する男。そして、かつて禁断の薬を葬り去った男。司にとって、彼は乗り越えるべき最後の壁であり、同時に、利用すべき最大の駒でもあった。 「ありがとうございます。……恩に着るわ」 司は深く頭を下げた。その姿は、可憐で、健気な新人アイドルそのものだ。男は、そのギャップにすっかり魅了され、鼻の下を伸ばしている。 この男も、そしてこれから会う皐月蓮も、すべては自分が頂点に立つための駒に過ぎない。司の美しい瞳の奥で、野心という名の冷たい炎が、静かに燃え盛っていた。 # パート4 あの日を境に、陽葵と湊の間にあった透明な壁は、分厚く、そして不透明なものへと変わってしまっていた。 陽葵は、以前にも増して葉山洋介と会うようになっていた。最初は「撮影の打ち合わせ」や「雑誌の取材」といった仕事上の理由を口にしていたが、やがてそれさえも億劫になったのか、楽しげに「洋介さんと会ってくるね」とだけ告げて家を出ていくようになった。その顔には、湊の知る無邪気な笑顔とは違う、男を知った女だけが浮かべることのできる、どこか気怠く、熟れた光が宿っている。 湊は、それを止めることができなかった。自分自身が、神崎綾乃との密会を重ねていたからだ。レッスンルームの奥にある、あの薄暗い休憩室。そこで交わされる行為は、もはやダンスの指導などという名目では到底取り繕えない、純粋な欲望の交換だった。綾乃の成熟した身体を貪るたびに、湊の胸には罪悪感と、陽葵への裏切りにも似た苦い感情が蓄積していく。しかし、一度知ってしまった本物の結合の快感と、綾乃が与えてくれる無条件の肯定は、陽葵とのぎこちない関係でささくれ立った彼の心を慰撫する麻薬でもあった。 太陽と月は、互いを照らし合う軌道を外れ、それぞれが別の引力に引かれて彷徨っている。それでも、夜になれば同じ家に帰り、同じ食卓を囲む。交わされる言葉は減り、視線は決して交わらない。かつて、二人だけの秘密の儀式が行われていた静かな夜は、今はただ重苦しい沈黙が支配するだけだった。 湊の心を、一つの焦燥が蝕んでいた。 おぼろげな記憶の断片。複数の美しい女たちと、「パパ」と呼ばれた一人の男。世間と隔絶されたマンションでの暮らし。心のどこかでずっと燻り続けていた血縁の疑念が、陽葵が別の男の色に染まり、自分から離れていくのを見るたびに、黒く醜い蕾を膨らませていく。いっそ、血の繋がりなどなければいい。そうすれば、姉弟という呪縛から解き放たれ、彼女を正々堂々と奪い返せるかもしれない。そんな儚い願望と、拭えない血縁の恐怖が、彼の心を日に日に引き裂いていった。 真実を知らなければならない。どんなに残酷な事実が待ち受けていようとも。それが、自分と陽葵の関係を、そして自分自身の存在を、前に進めるために必要な唯一の道筋だと、湊は確信していた。 その決意を胸に、湊は一人、区役所の窓口に立っていた。身分証明書を提示し、戸籍謄本の交付申請書を提出する。職員の事務的な手の動きが、やけにゆっくりと見えた。心臓が、嫌な音を立てて脈打っている。やがて、自分の番号が呼ばれ、薄い封筒を受け取った。その紙片の重みが、まるで鉛のように感じられた。 自宅に戻り、自室のドアに鍵をかける。机に向かい、震える指で封筒の封を切った。中から現れたのは、無機質な文字が羅列された一枚の紙。自分の人生のすべてが、そこに記されている。 湊は、深く、深く息を吸い込んだ。そして、意を決してその紙面に視線を落とす。 『高橋 湊』。 自分の名前が、そこにあった。生年月日、出生地。そして、視線は恐る恐る、その下の欄へと滑っていく。 父の名。母の名。 そこに記されていた文字を、湊の目は、しかしすぐには理解できなかった。脳が、その情報の受け取りを拒絶している。何度か瞬きをし、もう一度、そこに視線を固定した。 【父】佐伯 奏 【母】黒瀬 玲奈 全身の血が、急速に凍りついていくような感覚。佐伯……奏? 聞いたことのない名前だった。だが、問題はそこではない。湊は、紙面から目を離し、もう一つの書類、陽葵の戸籍謄本へと視線を移した。 『高橋 陽葵』。 その名前の下に記された、両親の名。 【父】佐伯 奏 【母】白石 ひなた 「………………あ」 声にならない声が、喉の奥から漏れた。 同じ父親。違う母親。 おぼろげな記憶の中で抱き続けてきた疑念は、最悪の形で現実のものとなった。俺と陽葵は、異母姉弟だった。血の繋がりが、自分たちを分かち難く結びつけている。そして、同時に、決して結ばれてはならないと断罪している。 頭が、がんがんと殴られるように痛い。だが、衝撃はそれだけでは終わらなかった。 母の名。白石ひなた。黒瀬玲奈。 その名前には、聞き覚えがあった。いや、この国の人間で、少しでもアイドルに興味がある者なら、誰もが知っている名前だ。 湊は、おぼつかない手つきでノートパソコンを開き、検索エンジンにその名を打ち込んだ。 『Starlight Prism』。 画面に表示されたのは、十五年前に彗星の如く現れ、そして瞬く間に消えていった伝説のアイドルグループの名だった。センターに立つ、太陽のような笑顔の少女。それが、白石ひなた。その隣で、クールな美貌を氷のように輝かせる少女。それが、黒瀬玲奈。 記事を読み進めるうちに、湊の顔から血の気が引いていく。 グループを蝕んだ、禁断の薬物『セレスティアル・ネクター』の噂。メンバーの謎に満ちた脱退と、相次ぐ死。薬の副作用によって心身を蝕まれ、若くしてその命を散らした、悲劇のアイドルたち。それが、世間に伝わる彼女たちの物語だった。 自分たちの母親は、その悲劇の渦中にいた。そして、父親である佐伯奏という男もまた、彼女たちのマネージャーとして、その運命を共にしていた。 すべてが、繋がった。 養父である高橋和也が、自分たちの芸能界入りに難色を示した理由。陽葵が、時折見せる常人離れした輝きと、その裏にある抗いがたい熱の発作の正体。すべては、この呪われた血筋に起因していたのだ。 湊は、両手で顔を覆った。もはや、涙も出なかった。 陽葵。俺の、たった一人の姉。そして、俺が焦がれてやまない、ただ一人の女。俺たちは、禁断の血で結ばれた姉弟だった。だが、その事実は、陽葵への想いを消し去ってはくれなかった。むしろ、悲劇的な宿命を背負った彼女を守りたいという想いは、一層強く、そして歪んだ形で燃え上がる。彼女が、葉山洋介のような軽薄な男にその身を委ねているという事実が、異母姉弟という禁忌の重みとないまぜになり、どす黒い嫉妬の炎となって胸の内を焼き尽くしていく。 俺は、どうすればいい。この呪われた運命の中で、陽葵と、どう向き合えばいい。 答えの出ない問いが、湊の思考を無限のループへと引きずり込んでいく。窓の外では、陽が傾き始め、部屋に長い影を落としていた。その影は、まるで自分たちに付きまとう、逃れられない過去の亡霊のようだった。 * 皐月蓮が構えるオフィスは、日本のエンターテインメントの中枢とも言えるビルにあった。磨き上げられた大理石の床、壁に飾られた現代アート、そして窓の外に広がる摩天楼のパノラマ。そのすべてが、この部屋の主が持つ絶対的な権力を象徴していた。 一条司は、その権力の中心に置かれた革張りのソファに、少しも臆することなく深く腰掛けていた。完璧に仕立てられた白いパンツスーツが、彼女の王子様のような凛々しさと、その下に隠された女性的な肉体のラインを、絶妙なバランスで際立たせている。 「……それで、話というのは?」 対面に座る皐月蓮が、静かに口を開いた。感情の読めないガラス玉のような瞳が、じっと司を射抜いている。年の頃は三十代前半。若くして業界の頂点に立った男。その佇まいには、近寄りがたいほどの冷徹さと、底知れない深みが同居していた。 司は、その視線を真っ直ぐに受け止め、優雅に微笑んだ。 「単刀直入に申し上げますわ、皐月プロデューサー。あなたは、偽善者です」 挑発的、という言葉では生ぬるいほどの、痛烈な一言だった。蓮の隣に控えていた秘書の眉がぴくりと動いたが、蓮自身は表情一つ変えない。ただ、その瞳の奥に、ほんの一瞬だけ、冷たい光が宿ったのを司は見逃さなかった。 「十五年前。あなたは鳳凰プロダクションの最後の社長として、あの事務所を終わらせた。そして、世間に対しては『セレスティアル・ネクター』という悪しき薬物を根絶した正義のヒーローとして君臨している。……笑わせてくれるわ」 司は、足を組み替え、続ける。 「あの薬があったからこそ、Starlight Prismは伝説になった。あなた自身も、その恩恵を最も受けた一人のはず。それなのに、自分が権力を手にした途端、手のひらを返したようにそれを悪と断罪する。それは正義などではなく、ただの自己保身。自分だけが知る力の源を独占するための、卑劣なやり方ですわ」 言葉のナイフが、次々と蓮に突き立てられていく。 司は、彼もまた薬の恩恵を受け、栄光を手にしていた過去さえも調べ上げていた。その上で、彼の偽善を、真っ向から断罪しているのだ。 蓮は、しばらく黙って司の言葉を聞いていた。やがて、彼はゆっくりと口を開く。 「……君の言うことにも、一理あるのかもしれないな」 予想外の、肯定とも取れる言葉だった。司の眉が、わずかに上がる。 「力は、人を魅了し、そして狂わせる。あの薬は、確かに奇跡だった。だが、同時に呪いでもあった。僕は、その両方を知っている。だからこそ、終わらせなければならなかったんだ」 その声には、司が予想していたような狼狽や怒りはなく、むしろ深い諦観のような響きがあった。まるで、すべてを背負う覚悟を決めた男の言葉。その揺ぎない態度に、司は初めて、目の前の男の底知れなさを感じた。 「過去の話は、もうよろしいでしょう」 司は、話題を切り替えた。これ以上、過去のことで彼を揺さぶるのは無意味だと判断したのだ。 「私が今日ここへ来たのは、未来の話をするため。……『Ambrosia』をご存知かしら?」 「天道製薬が開発した、改良型、だな」 蓮はこともなげに答えた。その存在を、既に把握している。司は内心舌打ちしながらも、表情には出さなかった。 「ええ。セレスティアル・ネクターとは違い、アンブロシアは体内に成分が残留せず、即効性がある。用量を守りさえすれば、リスクは限りなく低い。これは、才能ある者が更なる高みへと至るための、進化の薬ですわ。過去の遺物とは違う」 司は、アンブロシアの正当性を力説する。才能だけでは越えられない壁を、努力だけでは届かない領域を、この薬が可能にするのだと。 しかし、蓮は静かに首を横に振った。 「どんなに言葉を飾ろうと、本質は同じだ。人の魂を対価に、偽りの輝きを手に入れるための道具に過ぎない」 「偽りですって?」 司の声に、初めて感情的な色が混じった。 「私のパフォーマンスが、偽りだとおっしゃるの?」 「そうだ。君のその輝きは、君自身の力ではない。薬によって水増しされた、虚像だ。Ambrosia──不死の神饌などと称して、小手先の安全性を増したところで、本質は何も変わっていない。自己実現を薬の力に求める限り、やがては己自身を見失って、我が身を危険に晒すことになる。いかに衆目を集めようとも、僕にとって、そんなものは評価に値しない」 「評価に値しない」。その言葉は、司が今まで浴びせられてきたどんな罵詈雑言よりも、深く、鋭く、彼女のプライドを抉った。ガラス玉のような瞳が、司の心の奥底まで見透かすように、真っ直ぐに彼女を見つめる。その視線に、さすがの司も一瞬、たじろいだ。今まで、誰も自分の本質にここまで踏み込んできた者はいなかった。だが、ここで怯むわけにはいかない。司は、完璧な笑みの仮面の下で、屈辱の炎を燃え上がらせながら、反撃の刃を抜いた。 「黒瀬玲奈さん、でしたか」 その名に、蓮の眉が僅かに動いた。司は、その微かな動揺を見逃さず、畳み掛ける。 「二人体制になったStarlight Prismで、センターだった白石ひなたと張り合うため、自己判断で服用量を増やして、命を散らした愚かな人。狭量なプライドを完璧主義の建前で糊塗して、目先のライバル関係のために大勢のファンを涙させた、アイドルの反面教師」 蓮は、黙して語らない。その沈黙を肯定と受け取り、司は勝利を確信したように唇の端を吊り上げた。 「私が彼女と同じ轍を踏むことは決してありませんわ。私には開発者である父がついているのですもの。父に正しく従っている限り、命の危険などあるものですか」 この男は、違う。今まで自分が相手にしてきた、金と権力に目が眩んだ男たちとは、根本的に違う。だからこそ、屈服させなければならない。司の胸の内では、闘争心がかつてないほど激しく燃え上がっていた。 「覚えておいてくださる? 私、一条司は、必ずあなたのその鼻を明かしてさしあげますわ。薬によって覚醒した、この私自身の輝きでね」 そう言い放つと、司は優雅に立ち上がり、一礼した。これ以上ここにいても、得るものはない。 「失礼いたしますわ」 背を向け、オフィスを去ろうとする司の背中に、蓮の声がかけられた。 「一つだけ、忠告しておく」 司は、ドアノブに手をかけたまま、足を止めた。 「その薬は、君が何者であるかを教えてはくれない。君が何者でありたいか、その願望を映し出す鏡に過ぎない。本物との違いを、見失うな」 それは、予言のようでもあり、警告のようでもあった。司は振り返らず、ただ唇の端を吊り上げてみせた。 「私の願望こそが、私そのものですわ。見失うものなど、何もございません。あなた様こそ、過去の幻影に囚われて、本物の輝きを見失っておいでなのではなくて?」 そう言い残し、司は今度こそオフィスを後にした。 * 神崎綾乃の身体は、知れば知るほどに奥深い迷宮のようだった。鍛え上げられた筋肉の下にある柔らかな肉、汗の匂いに混じる甘い香水の香り、そして、行為の最中にだけ見せる、すべてを曝け出した無防備な表情。湊は、そのすべてに溺れていた。 陽葵との間に横たわる、どうしようもない断絶感。そして、戸籍謄本によって突きつけられた、異母姉弟という残酷な真実。それらから逃れるように、湊は綾乃の身体を求めた。レッスンルームの奥の休憩室は、今や二人だけの秘密の聖域と化していた。 その日も、湊は綾乃の腕の中にいた。ソファベッドの上で、互いに一糸まとわぬ姿で肌を寄せ合っている。陽葵が洋介と出かけていった後、やるせない気持ちを抱えたままスタジオを訪れた湊を、綾乃はすべてを察したかのように、黙ってあの部屋へと招き入れたのだ。 「……今日は、なんだか元気がないわね」 汗ばんだ肌を寄せ合ったまま、綾乃が湊の髪を優しく撫でた。その声は、指導者としてのものではなく、恋人を気遣うような甘さを帯びている。 湊は何も答えなかった。陽葵のこと、自分たちの出生の秘密のこと。それを、この人に話すことはできない。話したところで、何かが解決するわけでもない。 「そんな気分じゃないって、顔に書いてあるわよ」 綾乃はくすくすと笑うと、湊の身体からそっと離れ、ベッドの上に胡座をかいた。裸のままのその姿は、神話に出てくる女神のように神々しく、そして蠱惑的だった。 「……なら、今日は私が、君をリラックスさせてあげる」 「リラックス……?」 「そう。心と身体の、一番深いところからね」 綾乃は悪戯っぽく微笑むと、湊にベッドの上に仰向けになるように促した。湊は、言われるがままにその滑らかなシーツの上に身を横たえる。 「いい? まずは、ゆっくりと深呼吸をして。吸って……吐いて……。そう、上手よ」 綾乃の、低く、落ち着いた声が、部屋の静寂に響く。それは、ダンスのレッスンでストレッチを指導する時の声によく似ていたが、今はもっと深く、催眠的な響きを帯びていた。 「身体の力を、全部抜いていくわよ。指先から、足先まで。すべての力が、ベッドのシーツに吸い取られていくのをイメージして……」 湊は、言われるままに目を閉じ、呼吸に意識を集中させた。綾乃の言葉が、まるで温かい水のように、全身に染み渡っていく。凝り固まっていた肩の力が抜け、強張っていた表情が和らいでいくのが自分でも分かった。 「意識を、私の声だけに集中させて。周りの音は、だんだん遠くなっていく……。君の世界には、私の声と、君自身の呼吸の音だけが存在する……」 綾乃の言葉巧みな誘導によって、湊の意識はゆっくりと現実から乖離していく。身体はここにあるのに、魂だけがどこか別の場所へと浮遊していくような、不思議な感覚。トランス状態。思考は明晰でありながら、心は無防備に開かれている。 綾乃は、その無防備な心の扉を、ゆっくりとこじ開けようとしていた。湊の深層意識に、自分への絶対的な信頼と、愛情を植え付けるために。 「君は、とても疲れている。心も、身体も。でも、もう大丈夫。私がいるから。私は、君のすべてを受け入れる。君の弱さも、痛みも、孤独も……」 綾乃の声は、母親が赤子に歌う子守唄のように、優しく、そして抗いがたい力で湊の意識の深層へと染み込んでいく。現実の輪郭は溶け、思考は白い霧の中に漂っていた。ただ、綾乃の声だけが、唯一の道標のように響いている。 綾乃は、この無防備な精神の庭に、自分の存在を深く、深く刻み込もうとしていた。湊が心から信頼し、拠り所とする存在。陽葵という絶対的な存在に取って代わる、唯一無二の女。それが、彼女の狙いだった。 「君にとって、最も安らげる場所はどこ? 最も心を開ける相手は誰かしら? さあ、正直に答えてみて……」 綾乃は、勝利を確信していた。今、湊の隣にいるのは自分だ。彼の身体を最も深く知るのも、自分だ。彼の口から紡がれる答えは、当然、自分自身の名であるはずだった。 しかし、トランス状態にある湊の唇から、無意識に漏れ出た言葉は、彼女の期待を無惨に打ち砕いた。 「……ひまり……」 囁くような、掠れた声。だが、その響きはあまりにも明瞭に綾乃の耳に届いた。 綾乃の表情が、一瞬にして凍りつく。ひまり。陽葵のことだ。 「……陽葵が、俺を……見ていない……どこかへ、行ってしまう……」 湊の瞼が、ぴくりと痙攣する。その声には、深い苦悩と、子供のような無力感が滲んでいた。催眠によって心の鎧を剥がされた彼の魂が、ありのままの叫びを上げている。 「俺は……陽葵を、守らなきゃいけないのに……あいつに、汚されて……俺も、汚れて……もう、あいつの隣には……」 途切れ途切れの言葉が、綾乃の胸に突き刺さる。それは、嫉妬という名の鋭い刃だった。自分がどんなにこの身体を抱いても、どんなに快楽を与えても、この男の心の中心にいるのは、常にあの女なのだ。自分は、陽葵が不在の隙を埋めるための、代用品に過ぎない。その侮辱的な事実が、綾乃のプライドをずたずたに引き裂いた。 彼女の計画は、脆くも崩れ去った。深層意識に信頼を植え付ける? 馬鹿馬鹿しい。この男の魂は、陽葵という女に、呪いのように固く縛り付けられている。ならば、やり方を変えるまでだ。 業を煮やした綾乃の瞳に、冷たく、そして獰猛な光が宿った。心を支配できないのなら、身体を支配すればいい。快楽という、もっと原始的で、抗いがたい鎖で。 彼女は、湊に囁きかける声のトーンを、がらりと変えた。先ほどまでの慈母のような優しさは消え失せ、代わりに、熟練の娼婦のように甘く、粘りつくような響きを帯びている。 「……そう、辛かったわね、湊くん。でも、そんな苦しいことは、もう忘れなさい。もっと、気持ちのいいことだけを考えましょう?」 「……気持ち、いいこと……?」 湊の唇が、鸚鵡返しに言葉を紡ぐ。 「そうよ。例えば……私の身体のこと。君の指が私の肌を撫でる感触……私の胸が熱く火照り、その先端が硬くなっていく様……」 綾乃は、具体的な言葉で湊の脳を直接刺激し始めた。彼女自身の身体に跨り、その白い腹筋を収縮させると、湊のまだ眠りから覚めきっていない昂りに、自らの潤んだ秘裂をゆっくりと押し付けた。 「ほら、思い出して。君の熱いのが、私の狭いところをこじ開けて入ってくる時の、あの背徳的な感覚……。私の内側が、君の形に合わせて熱く、ぬるぬるになっていくのを……」 「……あ……ぅ……」 湊の喉から、くぐもった呻きが漏れた。彼の身体は、綾乃の言葉に正直に反応し始めていた。催眠によって感覚は研ぎ澄まされ、想像力は際限なく増幅されている。言葉だけで、彼の身体は急速に熱を帯び、硬度を増していく。 綾乃は、その反応を確かめると、満足げに唇を舐めずりした。そして、完全に昂りきった熱の塊を捉え、自らの体重をかけて、ゆっくりと腰を下ろしていった。 「ん……ぅっ……!」 ずるり、と。何の抵抗もなく、熱い肉の鞘が昂りを根元まで呑み込む。現実の結合が、増幅された想像と重なり合い、湊の意識を灼熱の快感で満たしていく。 「そう……これよ、湊くん。これが、君が本当に求めていたものでしょう? 陽葵ちゃんなんかじゃ決して味わえない、大人の女との、深く、汚れた悦び……」 囁きながら、綾乃はゆっくりと腰を揺らし始めた。それは、湊を喜ばせるための動きではない。ただ、自分自身の快感を貪るためだけの、自己中心的で、淫らな律動だった。 「あ……ぁん……っ! いいわ、湊くん……! すごく、熱い……っ!」 湊は、朦朧とした意識の中で、ただ綾乃の嬌声を聞いていた。現実感は薄く、まるで夢の中で、自分の身体が自分のものではないかのように、綾乃に弄ばれている。その感覚は、奇妙な無責任さと解放感を伴っていた。 綾乃の動きは、次第に激しさを増していく。彼女は湊の胸の上に両手をつき、髪を振り乱しながら、一心不乱に腰を上下させた。先に限界を迎えたのは、彼女の方だった。 「あ、あ、あ……! いくっ、いっちゃう……!」 甲高い嬌声と共に、綾乃の身体が大きく弓なりにしなる。灼熱の痙攣が彼女の胎内を駆け巡り、一度目の絶頂の波が、彼女の意識を攫っていった。 「はぁ……っ、はぁ……っ!」 荒い息をつきながら、綾乃はぐったりと湊の胸の上に倒れ込む。自分の欲望のままに、一方的に快楽を貪り、そして果てた。それで、終わりのはずだった。 だが、綾乃の胎内で、湊の昂りは少しも勢いを失うことなく脈打っていた。それどころか、彼女の絶頂による内壁の痙攣に煽られ、更に熱く、硬度を増していく。 そして、次の瞬間。 「……っ!」 綾乃の身体が、びくりと跳ねた。倒れ伏した彼女の下から、湊の腰が、ゆっくりと、しかし力強く突き上げてきたのだ。 それは、意識的な動きではなかった。催眠状態にある湊の身体が、ただ本能の命じるままに、目の前の雌を求めて動いている。その無機質で、獣的な律動に、綾乃は背筋がぞくりとするような恐怖と、それを遥かに凌駕する興奮を覚えた。 「みな、と……くん……?」 問いかける声は、喘ぎによって掠れていた。湊からの返事はない。ただ、その目はうっすらと開かれ、虚ろな光をたたえたまま、天井の一点をじっと見つめているだけだった。意識は、まだ深い霧の中にある。だというのに、その腰の動きは、驚くほど正確に綾乃の最も感じやすい場所を捉え、執拗に突き続けた。 「あ……っ、ま、まって……そんな……っ、あぁんっ!」 主導権は、完全に入れ替わっていた。綾乃は、意識のない人形に抱かれているかのような、倒錯的な快感に翻弄される。先ほど一度絶頂に達したばかりの身体は、異常なほど敏感になっていた。湊の無機質な突き上げの一回一回が、脳髄を直接焼くような強烈な快感となって彼女を襲う。 「だめ……! また、きちゃう……! あ、あ、あ、ああっ!」 綾乃の身体が、再び大きく痙攣する。一度目よりも遥かに深く、激しい絶頂の波。その頂点で、それまで沈黙を保っていた湊の身体もまた、限界を告げる硬直を見せた。 「……んぐぅっ……!」 獣の呻きと共に、熱い奔流が、何の隔てもなく、綾乃の胎内の最奥へと注ぎ込まれていく。綾乃は、自分の子宮が熱い生命の源で満たされていくのを、恍惚とした表情で感じていた。二度目の、完璧に重なり合った絶頂。 長い放出が終わり、湊の身体がぐったりと弛緩する。綾乃は、快感の深い余韻に浸りながら、荒い呼吸を繰り返した。 ふと、綾乃の背筋を冷たいものが走った。避妊。その言葉が、快感で蕩けた脳裏をよぎる。湊と関係を持つようになってから、一度もゴムを使ったことがない。彼がただの童貞だと侮っていた最初の頃は、自分が主導権を握って外に出させればいいと高を括っていた。しかし、行為を重ねるうちに、その激しさと濃密さの中で、そんな冷静な判断はどこかへ消え失せてしまっていた。彼のものを、生で、内側の最も深い場所で受け止める背徳的な快感が、理性的な思考を麻痺させていたのだ。 今夜もまた、たっぷりと彼の精を受け入れてしまった。自分の身体のリズムを考えれば、おそらく危険な時期ではないはずだ。だが、絶対ではない。もしも、万が一。その可能性を想像しただけで、綾乃の血の気が引いた。 湊を虜にするつもりだった。陽葵という絶対的な存在から彼を奪い、自分だけのものにしたかった。そのための手段として、この身体を使った。それなのに、どうだ。現実は、自分の方が彼の若く猛々しい肉体に夢中になり、本能のままに貪り、そして後先のことも考えずに行為に溺れている。自分本位の悦びに夢中になり、湊への気遣はおろか、自分自身を守ることさえ忘れていた。 その事実に、綾乃は深い自己嫌悪と、それ以上に強い苛立ちを覚えた。そして、その矛先は、無意識のうちに、この状況の元凶である陽葵へと向かっていく。あの女がいる限り、湊は決して自分だけのものにはならない。ならば――。 綾乃の瞳の奥に、嫉妬という名の暗く、冷たい炎が宿った。それは、湊の心を奪うことのできなかった女の、醜くも哀しい執念の炎だった。 催眠から覚めた湊の記憶は、曖昧だった。綾乃の優しい声に導かれ、心地よい浮遊感に包まれていたこと。そして、夢とも現実ともつかない中で、誰かと深く交わったような、生々しい感覚の残滓。それが、彼に残されたすべてだった。 「……少しは、すっきりした?」 服を着終えた湊に、綾乃が普段と変わらない涼やかな笑顔で問いかける。その笑顔の下に、どす黒い嫉妬の炎が燃え盛っていることなど、湊は知る由もなかった。 「……はい。なんだか、よく眠れたみたいです」 「そう。なら良かったわ」 綾乃はそれ以上何も言わず、ただ静かに湊を見送った。ドアが閉まり、一人になったレッスンルームで、彼女はゆっくりと窓の外に広がる夜景を見つめる。その瞳は、もはや獲物を狙う肉食獣のものではなかった。嫉妬に狂い、破滅へと向かうことをも厭わない、狂気の女神の光をたたえていた。 彼の心の中心には、常に陽葵がいるという、どうしようもない事実。その屈辱。綾乃の中で、陽葵への憎悪は、確かな輪郭を持って膨れ上がっていた。あの太陽のような少女の笑顔が、今はひどく忌々しいものに思える。 湊が陽葵への独占欲に苛まれるように、綾乃もまた、湊が焦がれる陽葵へ、決して消えることのない嫉妬の炎を燃やし続ける。二人の関係は、陽葵という存在を介することで、より複雑で、歪んだ共犯関係へと堕ちていくのだった。 * 分厚い防音扉が、一条司と外界とを隔絶した。皐月蓮のオフィスから一歩踏み出した瞬間、張り詰めていた完璧な仮面の下で、司は奥歯を強く噛み締めていた。指先が、悔しさで微かに震えている。エレベーターホールへと続く長い廊下を、ハイヒールのヒールを大理石に打ち付けるように、苛立ちを隠さずに歩いた。 『偽りの輝き』 『評価に値しない』 あの男の言葉が、耳の奥で不快な残響となって繰り返される。偽りですって? よくも、言ってくれたものだわ。私のこの輝きが、パフォーマンスが、アンブロシアという薬物によって水増しされた虚像だと、あの男は断じた。 他の誰に言われても、一笑に付していただろう。金と権力にしか興味のない、凡俗な男たちの戯言など、司の耳には届かない。だが、皐月蓮は違った。あの男のガラス玉のような瞳は、司の心の最も柔らかな部分、誰にも触れさせたことのない聖域を、土足で踏み荒らしていった。 司にとって、アンブロシアは単なる成功のための道具ではなかった。それは、父である一条誠司が彼女のために生み出した、愛の結晶そのものだったからだ。 幼い頃から、司は誰よりも強く、誰よりも輝くことを求められてきた。誠司の期待に応えること。それが、彼女の唯一の存在理由だった。アンブロシアは、その期待に応えるための翼だった。父が与えてくれたこの力で、自分は誰よりも高く飛べる。そう、信じて疑わなかった。 それを、偽りだと断罪された。それは、父との絆を、そして自分自身の生き方そのものを否定されたにも等しい仕打ちだった。 専用車に乗り込み、深くシートに身を沈める。窓の外を流れていく都会の夜景が、今の司の目には色褪せて見えた。 「……お嬢様」 運転席から、初老の執事が気遣わしげに声をかける。司は、窓の外に向けたままの視線で、冷たく言い放った。 「動かして。……それと、いつもの彼に連絡を。至急、調べてもらいたいことがある、と」 「かしこまりました」 車は、滑るように夜の闇へと溶け込んでいく。司は、固く拳を握りしめた。 皐月蓮。あの男だけは、絶対に許さない。ただ打ち負かすだけでは足りない。心も、身体も、そのプライドも、すべてを粉々に砕き、私の前に跪かせてやる。そのためなら、どんな手段も厭わない。 今までのように、ただ薬の力で圧倒的なパフォーマンスを見せつけるだけでは、あの男には届かない。あの男を屈服させるには、もっと狡猾で、緻密な戦略が必要だ。 まず、敵を知らなければならない。皐月蓮という男のすべてを。その経歴、弱点、そして誰も知らない、秘密の素顔を。 司の瞳の奥で、復讐という名の冷たい炎が、静かに、しかし激しく燃え上がっていた。 それから数日間、司は息を潜めるようにして情報を集め続けた。彼女が「いつもの彼」と呼ぶ男は、裏社会にも通じる腕利きの情報屋だった。金さえ払えば、どんな秘密でも暴き出す。司は、その男に法外な報酬を約束し、皐月蓮に関するあらゆる情報を収集させた。 次々と送られてくる調査報告書に、司は自室で一人、目を通していく。蓮の公的な経歴は、既に調べ上げた通りだった。鳳凰プロダクションの元所属タレントであり、最終的には社長として事務所の幕引きを行ったこと。その後、大手レコード会社のバックアップを得て自身のプロダクションを設立し、瞬く間に業界のトップに上り詰めたこと。そして、表向きは『セレスティアル・ネクター』を根絶した正義のヒーローとして振る舞っていること。 だが、情報屋がもたらしたレポートは、そんな公的な情報の裏側に隠された、生々しい人間としての皐月蓮の姿を暴き出していた。 「……面白いわね」 司の唇に、獰猛な笑みが浮かぶ。 レポートの一つは、数ヶ月後に開催が予定されている、業界最大級の音楽フェスティバルに関するものだった。そのフェスの目玉企画として、皐月蓮が自ら新人アーティストを一組選び、一夜限りのスペシャルステージをプロデュースするという。そのプロデュース対象の最有力候補として挙げられているのが、あろうことか、自分たちのライバルである『SOLLUNA』だというのだ。 「……私ではなく、あの双子を選ぶというの」 屈辱だった。あの男は、自分の才能を「偽り」と断じ、陽葵と湊という、まだ何の輝きも放っていない原石を選ぼうとしている。それは、司に対する明確な当てつけであり、挑戦状でもあった。 ふつふつと、腹の底から怒りが湧き上がってくる。いいでしょう。ならば、そのステージで証明してあげる。あなたの目は節穴だと。SOLLUNAという石ころを、どんなに磨いたところで、私というダイヤモンドの輝きには遠く及ばないと。あの双子を完膚なきまでに叩き潰し、観客の前で、あなたのプロデューサーとしての無能さを、白日の下に晒してやるわ。 そして、もう一つの情報。それが、司の戦略に決定的な転換をもたらした。 それは、皐月蓮のセクシャリティに関する、極秘のレポートだった。 公には、彼は同性愛者として知られている。メディアの前で特定のパートナーの存在を明かしたことはないが、そのストイックな仕事ぶりと、女性関係のスキャンダルが一切ないことから、業界では半ば公然の事実として受け入れられていた。 しかし、レポートにはこう記されていた。 『――皐月蓮は、過去、鳳凰プロダクション所属時代に、複数の女性タレントと深い関係にあったとの未確認情報あり。特に、当時の女社長であった鳳翔子とは、単なるタレントと社長という関係性を超えた、極めて親密な間柄であった可能性が高い。彼の「同性愛者」というパブリックイメージは、過去の複雑な女性関係を隠蔽するための、巧妙なカモフラージュである可能性を否定できない。彼は、実際には異性愛者、あるいは自身の欲望のためならば性別を問わないバイセクシャルであると推測される――』 「……なるほど」 司は、レポートから顔を上げた。口元に浮かんでいるのは、獲物を見つけた狩人の笑みだ。 今まで、皐月蓮は権力と理性で固められた、鉄壁の要塞のように思えた。だが、彼にも弱点があった。男としての、生身の欲望。それを、彼は巧妙に隠してきた。ならば、自分がその仮面を剥がし、隠された本性を暴き出してやればいい。 力がダメなら、色で誘う。 枕営業? 違う。あれは、弱者が強者に媚びを売るための行為だ。私がこれからやろうとしているのは、対等な力を持つ王と女王が、互いのすべてを賭けて覇権を争う、神聖な闘争。彼の心を、そして身体を、完全に支配下に置くための、「征服」だ。 あのプライドの高い男が、私の身体に溺れ、すべてを投げ出して私を求める姿。想像しただけで、背筋がぞくぞくするような快感が走った。 すべては、計画通り。 皐月蓮。SOLLUNA。そして、この芸能界という戦場。すべては、私、一条司が手に入れる。 彼女の美しい瞳の奥で、野心と復讐の炎が、地獄の業火のように赤く、そして禍々しく燃え盛っていた。 # パート5 高層マンションのガラス張りのエントランスを、陽葵はもはや何の気後れもなく通り抜けていた。数週間前までは、コンシェルジュの視線一つにさえ肩を竦めていた自分が嘘のようだ。慣れ、とは恐ろしい。あるいは、麻痺、と呼ぶべきなのかもしれない。 葉山洋介が住むこの部屋を訪れるのは、これで何度目になるだろうか。指の数では、もう足りない。最初は仕事の延長線上にある、秘密の逢瀬だった。だが今では、陽葵の日常の中に、彼の存在は抗いがたい毒のように、しかし甘美な蜜のように、深く染み込んでいた。 最上階に近いフロアでエレベーターを降り、重厚な玄関ドアの前に立つ。インターホンを鳴らすまでもなく、内側から鍵が開けられた。 「待ってたよ、陽葵ちゃん」 ドアの隙間から、にこやかな洋介の顔が覗く。その笑顔を見ただけで、陽葵の身体の奥が、きゅんと疼いた。条件反射。パブロフの犬。そんな言葉が脳裏をよぎるが、思考はすぐに彼の放つ甘い匂いにかき消されていく。 部屋に招き入れられ、背後で重いドアが閉まる。外界の喧騒から完全に隔絶された、二人だけの空間。その密室性が、陽葵の理性の箍をいとも容易く外した。 「……ん」 靴を脱ぐ間さえもどかしく、陽葵は自ら洋介の首に腕を絡め、その唇を求めた。洋介も待っていましたとばかりに、その小さな身体を強く抱きしめ、深く、貪るような口づけを返す。玄関の冷たいタイルの上で、二つの影は一つの塊となって熱く溶け合った。 乱暴に角度を変えながら、互いの唾液を交換し合う。洋介の舌が、陽葵の口内を隅々まで探り、その粘膜の柔らかさを堪能していた。陽葵もまた、必死にその舌に自分のそれを絡ませ、彼の味を確かめる。 「……んんっ……ふ」 舌と舌が熱く絡み合う、その刹那。陽葵は、舌の上に微かにざらりとした、砂粒のような異物感を覚えた気がした。だが、その感覚は思考にのぼるよりも早く、洋介の唾液の甘さと、口づけの激しい熱狂の中に掻き消されていく。彼の舌に導かれるまま、陽葵はごくりと生唾を飲み込んだ。その一瞬の出来事に、彼女が何らかの違和感を抱くことはなかった。 だが、その直後からだった。身体に、奇妙な変調が起き始めたのは。 まず、視界がぐにゃりと歪んだ。焦点が合わなくなり、目の前にいる洋介の顔だけが、奇妙なまでにくっきりと浮かび上がる。心臓が、破裂しそうなほど激しく脈打ち始めた。血液が沸騰し、その熱が指の先まで一気に駆け巡る。思考に濃い霧がかかり、蕩けていく。 なぜ? どうして? ただキスをしているだけなのに。その疑問さえ、すぐに熱の渦の中に溶けて消えていく。身体の芯から、抗いがたい熱の渦が巻き起こり、下腹部がじくん、と熱く疼いた。 靴を脱いで部屋に上がる、という当たり前の行為さえ、もはやどうでもよくなっていた。陽葵の表情と思考は、ほんの数十秒の間に、すっかり快感を求めるだけの獣のそれへと変貌していた。 「……ようすけ、さん……」 とろりとした声で、陽葵が囁く。その潤んだ瞳は、欲望の色で濁っていた。 「すごい顔してるぜ、陽葵ちゃん。今日も、とびきり感じやすいみたいだな」 洋介は下卑た笑みを浮かべ、陽葵の制服のスカートの中に、躊躇なく手を滑り込ませた。薄い布地越しに触れた秘裂は、既にじっとりと湿り気を帯び始めている。その反応に満足したのか、彼は陽葵の身体を軽々と抱き上げ、リビングルームのソファへと運んだ。 「さあ、今日も始めようか。俺だけのアイドル様の、秘密の撮影会を」 その声は、悪魔の囁きのようだった。しかし、原因不明の熱に浮かされた今の陽葵には、甘美な福音にしか聞こえなかった。洋介に触れられたい、その腕の中で蕩けてしまいたいという、抗いがたい本能的な衝動が、彼女のすべてを支配していた。陽葵は、彼が求めるままに、その身を差し出すことしか考えられなかった。 洋介がクローゼットから取り出してきたのは、通販サイトで売られているような、安物のコスプレ衣装が詰め込まれた段ボール箱だった。彼が世に出す、プロフェッショナルな仕事で使う小道具とは似ても似つかない、チープで煽情的なデザインの服。それらは、公の場では決して袖を通すことのない、この密室での背徳的な遊戯のためだけに用意されたものだった。 「まずは、これからな」 洋介が最初に陽葵に手渡したのは、『巨乳メイドセット』と銘打たれた衣装だった。メイド服とは名ばかりの、胸元が大きく開いたデザイン。本来は、付属のシリコン製の豊胸パッドと合わせて着用するものらしいが、陽葵の豊かな乳房は、そんな補助具などなくとも、衣装のタイトなラインにぴったりとフィットしていた。 着替えを終えた陽葵が、少し恥ずかしそうにソファの上で身じろぎする。スカートは膝上を遥かに超える短さで、少し動くだけで下着が見えそうになる。デコルテは、豊かな膨らみの谷間を惜しげもなく晒していた。 「……どう、かな?」 上目遣いで尋ねる陽葵の姿に、洋介は満足げに頷き、手に持ったデジタルカメラのファインダーを覗き込んだ。 「最高だよ。マジで、天使かと思った」 カシャ、カシャ、とシャッター音が小気味よく響く。陽葵は、最初はぎこちなかったものの、洋介の巧みな言葉に乗せられ、次第に大胆なポーズを取るようになっていった。 「そういえばね」 ポーズの合間に、陽葵がぽつりと呟いた。 「高校の文化祭で、私のクラス、コスプレ喫茶やったんだ。でも、私はライブの準備があったから、参加できなくて……」 その声には、微かな心残りが滲んでいた。 「だから、ちょっとだけ、嬉しいな。こうして、メイドさんの格好ができて」 はにかむように笑う陽葵。その無邪気な言葉と、目の前で繰り広げられている淫靡な状況との、あまりにも大きなギャップ。その倒錯的な背徳感に、洋介は背筋がぞくぞくするような興奮を覚えた。 こいつは、まだ十六のガキなのだ。自分が今、とんでもない犯罪に手を染めているという自覚が、彼の欲望を更に煽り立てる。 「そっか。じゃあ、今日はその時の分まで、思いっきり楽しませてやるよ」 洋介はそう言うと、カメラをソファの上に置くと、自らもその隣にどかりと腰を下ろした。そして、見せつけるように自らのズボンのジッパーを下ろし、既に熱く滾っていた昂りを取り出す。 「まずは、ご主人様へのご奉仕からだろ? メイドさん」 下卑た笑みを浮かべ、命令するように顎をしゃくる。薬によって思考を蕩かされた陽葵は、その挑発に何の抵抗も示さなかった。むしろ、目の前に突きつけられた欲望の象徴に、瞳をきらきらと輝かせている。 「……はい、ご主人様」 こくりと頷くと、陽葵はソファから滑り降り、洋介の前に跪いた。そして、豊かな胸の谷間をぐっと寄せ、その間に彼の昂りを受け入れる。ひんやりとした肌の柔らかさが、熱い昂りを包み込んだ。 「ん……ぅっ……」 陽葵は、ゆっくりと上半身を前後させ始めた。着衣のまま行われる、疑似的な性交。硬い先端が、柔らかく滑らかな胸の肌を直接擦り上げる感触。その生々しい刺激が、脳髄を直接痺れさせるような快感を陽葵にもたらす。洋介もまた、シルクのように滑らかな肌と、豊かな肉の弾力に挟まれる感覚に、苦悶の声を漏らしていた。 「……くそっ……たまんねえな……!」 陽葵の動きは、次第に巧みになっていく。肩を揺らし、胸の寄せ方を変え、どうすれば相手が最も喜ぶのかを、本能的に理解している。その淫蕩な才能は、もはや恐ろしいとさえ言えた。 洋介の呼吸が荒くなり、腰の動きが速まっていく。限界が近い。それを察した陽葵は、最後の仕上げとばかりに、更に深く胸の谷間を寄せ、昂りを締め上げた。 「……っ、出る……!」 獣のような呻き声と共に、洋介の腰が大きく痙攣する。熱い奔流が、陽葵の胸元へと直接注ぎ込まれた。衣装から大胆にのぞく豊かな胸の谷間が、その熱い奔流を余さず受け止めた。雪のように白い肌の渓谷が、どろりとした白濁の液体で満たされていく。 「はぁ……はぁ……」 射精を終えた洋介は、荒い息をつきながら陽葵の肩に額を押し付けた。陽葵は、胸元にかかった生温かい粘液を、恍惚とした表情で見つめている。 カシャ。 不意に、シャッター音がした。洋介が、いつの間にかソファの上のカメラを手に取り、白濁まみれになった陽葵の胸元を撮影していたのだ。その行為に、陽葵は咎めるどころか、嬉しそうに微笑んだ。 「……もったいないなあ」 ぽつりと、拗ねたような声で呟く。 「中に、欲しかったのに」 その言葉に、洋介は思わず苦笑した。この少女の欲望は、本当に底が知れない。 「がっつくなよ。お楽しみは、これからだろ?」 そう言うと、洋介は陽葵の手を引き、寝室へと向かった。ベッドの上には、既に次の衣装が用意されている。背徳的な撮影会は、まだ始まったばかりだった。 寝室の柔らかな間接照明の下で、陽葵が着替えさせられたのは、猫をモチーフにした、更に煽情的な衣装セットだった。 頭には、着用者の脳波を感知してぴくぴくと動く、最新式の猫耳型ヘアバンド。陽葵が感じている著しい性的興奮を、それは隠すことなく周囲に示している。耳は、まるで生き物のように絶え間なく動き、時には喜びを示すようにぴんと立ち、時には甘えるようにくたりと垂れた。 両手には、肉球の飾りがついた白いグローブ。しかし、それはミトンのように指の部分が縫い合わされて完全に塞がっており、物を持つことはおろか、指を動かすことさえできない。さらに、手首の部分には革製のベルトが巻かれ、カチリと音を立てて錠が下ろされた。自力では決して着脱できない、それは事実上の拘束具だった。この写真が、決して自撮りなどではなく、撮影者という名の支配者が存在することを雄弁に物語っている。 身体を覆う布の面積は、先ほどのメイド服とは比べ物にならないほど少なかった。素肌の大半が惜しげもなく晒され、胸と股間の、本当に大事な部分だけを、ふわふわとした白いファーがついた小さなビキニが辛うじて隠している。それは水着としての実用性など微塵もなく、もっぱら男女の密やかな逢瀬のためだけにデザインされた、淫蕩な装束だった。 そして、何よりも倒錯的だったのは、腰から生えた一本の長い尻尾だ。同じく白いファーで覆われたその付け根は、ビキニの外側ではなく、内側から伸びている。アナルプラグによって体内に直接固定されるそれは、紛れもない性具そのものだった。陽葵が身じろぎするたびに、その尻尾がしなやかに揺れ、内部の敏感な粘膜をくすぐるように刺激する。 「にゃあ……」 陽葵は、完全に役になりきっていた。四つん這いになり、ベッドの上でしなやかに身体をくねらせる。その姿を、洋介はカメラに収めながら、欲望にぎらつく瞳で舐め回すように見つめていた。 「……いいぜ、陽葵ちゃん。最高にエロいよ」 カシャ、カシャ、カシャ。シャッター音が、静かな寝室に響き渡る。被写体と撮影者の性的関係を濃厚に匂わせるような倒錯的な構図の写真が、次々とメモリカードに記録されていく。洋介はファインダーを覗きながら、自分の昂りが再び限界近くまで硬くなっているのを感じていた。 「ご主人様……」 陽葵が、甘く掠れた声で囁いた。四つん這いのままゆっくりと振り返り、潤んだ瞳で洋介を見上げる。尻尾の付け根に仕込まれたプラグが、その動きに合わせて内部をぐりぐりと刺激し、彼女の秘所からは既に蜜の雫がシーツの上に小さな染みを作っていた。 「発情期の猫獣人の性欲処理は、飼い主であるご主人様の、義務なんだにゃ……」 途切れ途切れの、しかし抗いがたい誘惑の言葉。陽葵はそう言うと、挑発するように高く突き上げた臀部を、左右にゆっくりと振ってみせた。白い尻尾が、それに合わせて艶めかしく揺れる。 その光景は、洋介に残されたわずかな理性を吹き飛ばすのに、十分すぎた。 「……上等だ、このメス猫が」 獣のような低い唸り声を上げ、洋介はカメラをベッドの上に放り投げた。そして、四つん這いのままの陽葵の背後から覆いかぶさると、その丸く形の良い腰を両手で鷲掴みにする。 「望み通り、たっぷり可愛がってやるよ」 洋介は、ためらいなく自らの昂りを剥き出しにすると、既に熱く濡れそぼった陽葵の入り口へと、その先端を押し当てた。 「ひゃんっ……!」 陽葵の喉から、猫の鳴き声のような甲高い嬌声が漏れた。何の愛撫も前戯もなく、いきなり核心を突かれた刺激に、身体がびくりと跳ねる。だが、その反応は拒絶ではなく、むしろ歓迎の色を帯びていた。 洋介は、有無を言わせぬ力で、一気に腰を突き入れた。 「んんぅうううっ……!」 ずるり、と。生々しい音を立てて、熱い肉の杭が粘液の道をこじ開け、その最奥まで突き進む。後背位。最も深く、そして最も獣的な結合の体位。陽葵の身体は「く」の字に折れ曲がり、その衝撃を全身で受け止めた。 洋介は、休む間もなく腰を激しく前後させ始めた。容赦のないピストンが、陽葵の子宮の入り口を何度も、何度も強く打ち付ける。その度に、陽葵の意識は真っ白に染まり、快感の痺れが脳天からつま先まで駆け巡った。 「あ、あ、あ……! ごじゅ、じん、さまぁ……! はげし、ぃ……にゃぁあっ!」 もはや、理性を失った獣のように、ただ喘ぎ声を上げることしかできない。指を拘束された両手は、もどかしげにシーツを掻きむしり、その純白の布地にいくつもの皺を刻みつけていく。 洋介は、ふと陽葵の腰から揺れる白い尻尾に目を留めた。悪戯心が頭をもたげ、彼はその尻尾の付け根をぐっと掴むと、強く引っ張った。 「ひいぃいっ……!」 陽葵の身体が、弓なりに大きくしなった。尻尾と一体化したアナルプラグが、内部の敏感な壁を強く圧迫し、これまで経験したことのない種類の快感を彼女にもたらしたのだ。その刺激に反応して、膣の筋肉が意思とは無関係にきゅうっと収縮し、洋介の昂りを強く締め付ける。 「……くそっ、締まりすぎだろ……!」 その締め付けが、洋介の射精中枢を容赦なく刺激した。彼は低く唸り声を上げると、更に深く、強く腰を打ち付けた。 「出る……! 中に出してやるからな……!」 「はい、ぃ……! ご主人様の、みるく……ぜんぶ、ちょうだ……い……っ!」 懇願する陽葵の声に応えるかたちで、洋介は欲望のありったけを解き放った。熱く、濃厚な奔流が、何の隔てもなく陽葵の胎内の最奥へと注ぎ込まれていく。 「あ……あぁ……っ、んんぅうううっ!」 子宮口を直接叩く、灼熱の奔流。その一回一回の脈動に合わせて、陽葵の身体はびくん、びくんと痙攣し、絶頂を繰り返した。まるで終わらないかのような、快感の嵐。自分の内側が、愛しい主人のもので満たされていく。その背徳的な幸福感に、彼女の意識は完全に蕩け落ちていった。 長い射精の波が収まった後、洋介はゆっくりと昂りを引き抜いた。結合が解かれた瞬間、二人の体液が混じり合った粘液が、だらりと陽葵の太ももを伝い、シーツの上に新たな染みを作る。しかし、最奥に注ぎ込まれた濃厚な精液の大半は、重力に逆らうように零れることなく、陽葵の生命力の源泉を白く染め上げ、そこに留まり続けた。 陽葵は、脱力してその場に崩れ落ちるようにうつ伏せになった。荒い呼吸を繰り返しながら、まだ快感の余韻に支配された身体を微かに震わせている。 洋介は、その無防備な背中を見下ろしながら、ふと過去の出来事を思い出していた。 かつて、同じように関係を持った別の少女がいた。避妊に失敗し、彼女は洋介の子を身ごもった。しかし、その事実を打ち明けられたのは、既に堕胎が困難な時期になってからだった。結局、大きな厄介事を抱え込む羽目になり、多額の慰謝料を支払うことで、ようやくその場を収めた苦い経験。それ以来、彼は避妊には細心の注意を払ってきたはずだった。 しかし、陽葵と出会ってから、その鉄則は脆くも崩れ去っていた。彼女の、中出しに対する異常なまでの執着。薬によって増幅された、底なしの欲望。それに抗うことができず、ここ最近は、ほとんどの行為を避妊なしで行ってしまっている。 その危うい行為が、どれほどのリスクを伴うか、頭では理解しているはずだった。だが、陽葵の胎内に直接、生のまま注ぎ込む瞬間の背徳的な快感は、そんな理性をいとも容易く麻痺させてしまう。 アンブロシア。洋介は、この薬を、極めて都合の良いデートドラッグだと認識していた。即効性があり、数時間もすれば効果は完全に消える。何より、体内に成分が残留しないため、後から検査されても証拠が残らない。女を意のままに操るための、まさに魔法の薬だ。 そして、洋介は知らなかった。アンブロシアという薬が、服用者の身体にどのような影響を及ぼすのかを。即効性の快感と引き換えに、それは女性のホルモンバランスを著しく乱し、周期を無視して強制的に排卵を誘発する副作用を持っていた。 今、陽葵の体内では、まさにその作用が引き起こされていた。本来ならば、最も安全な日であるはずの子宮内。しかし、薬の力によって卵巣から弾き出された、若く生命力に満ちた一つの卵子が、静かにその時を待っていた。 そこに、無防備に受け入れられた洋介の精液が、怒涛の如く流れ込む。穏やかに漂っていた卵子は、瞬く間に数億もの精子が渦巻く粘液の海に溺れた。その表面を覆う、か弱く透明な防護膜は、数の暴力の前にはあまりにも無力だった。精子たちが寄ってたかって浴びせる酵素によって、その膜はあっという間に溶かされ、丸裸にされてしまう。そして、その瞬間に遭遇した、最も強運で、最も生命力に溢れた一匹が、膜の破れた一点にその尖った頭部を突き立て、己が存在の証である遺伝情報を、その内側へと送り込んだ。 軽薄なカメラマンと、瑞々しいアイドルの少女。背徳的な取り合わせの二つの遺伝子は、しかし、抗いがたい生命の法則に則って、静かに、そして確かに交じり合い、溶け合い、一つの新たな生命の設計図を描き始めていた。 受精。 それは、あまりにもあっけなく、そして誰にも知られることなく完了した。 胎内で、致命的とも言える生命誕生のプロセスが静かに進行していることなど、もちろん二人は気づく由もない。洋介はただ、行為後の気怠い満足感に浸り、陽葵は快感の深い余韻の中で、更なる交合の熱を求めて身じろぎしていた。 「……ねえ、ご主人様」 しばらくの沈黙の後、陽葵が掠れた声で囁いた。うつ伏せのまま、少しだけ顔を上げて洋介を見上げる。その瞳は、まだ欲望の熱で潤んでいた。 「もう一回、したいな」 「……はあ? お前、本気で言ってんのか?」 洋介は、呆れたように眉をひそめた。さすがの自分も、立て続けの射精で体力は限界に近い。何より、この少女の底なしの欲望に、恐怖さえ感じ始めていた。 だが、陽葵は洋介の疲労などお構いなしだった。むくり、と身を起こすと、拘束されたままの両手を不自由そうにもぞつかせながら、ベッドサイドに置かれた衣装の箱を顎でしゃくってみせる。 「次は、あれがいいな」 彼女が示したのは、サキュバスをイメージした、更に布面積の小さい黒い衣装だった。悪魔の羽を模した小さな飾りがついたブラジャーと、ほとんど紐同然のTバック。そして、頭につけるための小さな角のカチューシャがセットになっている。 「……分かったよ。お前の好きにしろ」 洋介は、もはや抵抗する気力もなく、ため息をついた。この淫蕩な悪魔に魅入られてしまったが最後、その魂を喰らい尽くされるまで、逃れることはできないのかもしれない。彼は半分諦めたように立ち上がると、陽葵の身体から猫の衣装を剥ぎ取り、代わりに黒い悪魔の装束を着せ付け始めた。 着替えを終えた陽葵は、鏡の前で満足げにくるりと回ってみせた。肌の白さが、黒い衣装とのコントラストで一層際立ち、妖艶な魅力を放っている。 「どう? 似合う?」 「……ああ。本物の悪魔みたいだぜ」 洋介の言葉は、決して賛辞だけではなかった。本心からの、微かな畏怖が混じっている。 陽葵は、その言葉に満足げに微笑むと、ベッドに戻ってきた洋介の身体に、正面からしなだれかかった。そして、自ら彼の腰に脚を絡め、対面座位の体勢で深く結合する。 「ん……ぅっ……」 再度の結合。もはや、そこに羞恥や戸惑いはない。ただ、純粋な快感だけを求めるための、原始的な行為。陽葵は洋介の首に腕を回し、その肩に額を預けると、ゆっくりと腰を揺さぶり始めた。 洋介は、もはやカメラを手に取ることも忘れていた。ただ、目の前の悪魔がもたらす、背徳的な快感に身を委ねる。その腰の動きは、先ほどの猫の衣装の時のような、無邪気で獣的なものではなかった。ねっとりと、粘りつくように、内部の形状を確かめながら昂りを擦り上げる。それは、男の精気を吸い尽くすというサキュバスの役割を、本能的に理解しているかのような、狡猾で計算され尽くした動きだった。一度は萎えかけたはずの洋介の昂りが、その巧みな刺激によって、再び急速に熱と硬さを取り戻していく。 「……おい、陽葵ちゃん……お前、本当に……」 洋介は喘ぎながら、言葉を失った。この少女は、行為を重ねるたびに、まるでスポンジが水を吸うように、性の技術を吸収し、進化していく。その学習能力は、もはや人間離れしていた。 「ふふ……ご主人様の、気持ちいいところ……もう、全部わかっちゃった」 陽葵は、耳元で悪魔のように囁くと、腰の動きに変化をつけた。ゆっくりとした円運動から、今度は小刻みに、しかし力強く内部を打ち付けるような動きへ。緩急を自在に操り、快感の波で洋介を翻弄する。洋介は、もはや主導権を完全に奪われ、ただ快感の荒波に身を委ねるだけの、哀れな小舟と化していた。 「あ、うぁっ……! だめだ、陽葵ちゃん、それ以上は……!」 洋介が懇願するような声を上げるが、陽葵は容赦しない。彼女は子宮の入り口近くにある、最も敏感な一点を昂りの先端で捉えると、そこをぐりぐりと押し付けるように、執拗に腰を振り続けた。洋介の脳髄を、灼熱の痺れが何度も貫く。 「出る……! もう、出ちまう……っ!」 三度目の、そして今日最後になるであろう奔流が、陽葵の胎内の最奥へと注ぎ込まれていく。 「……んんぅううっ!」 陽葵は、歓喜に打ち震えた。すでに受精済みにもかかわらず、子宮口が彼の先端に密着し、残る精を一滴も逃すまいと貪欲に飲み干していく。衣装のコンセプトに合わせて、サキュバスになりきった様子で、甘く囁く。 「ごちそうさま。ご主人様のせいえき……口で飲むより、こっちで味わうほうが、ずっと美味しいね」 その淫蕩な言葉を聞きながら、洋介の意識は快感の波にのまれて、ゆっくりと遠のいていった。 洋介が意識を手放した後も、陽葵は結合したままの姿勢で、その余韻に浸っていた。自分の胎内が、彼の熱い生命の源で満たされている。そのずっしりとした重みと、じんわりと広がる温かさが、薬によって掻き立てられた身体の渇きを、根本から癒していくようだった。空っぽだった器が、ようやく満たされたという、絶対的な充足感。陽葵は、洋介の胸に頬をすり寄せ、満足げに小さく喉を鳴らした。自分の一部になった彼の熱を感じながら、彼女もまた、ゆっくりと意識を深い眠りの底へと手放していった。 受精卵は、確かに結びついた。しかし、その小さな生命の種が根付くためには、母親となる者の子宮内膜が、十分に厚く、柔らかなベッドのように整えられている必要があった。本来的に安全な日であった陽葵の子宮は、まだその準備ができていない。着床という、生命の始まりにおける最も重要なプロセスを、その畝は拒絶した。 誰にも知られることなく芽生えた小さな生命の種子は、その根を大地に下ろすことなく、儚く、そして静かにその短い運命の幕を閉じたのだった。 * 陽葵の身体に起きている、常軌を逸した変化。それに最初に気づいたのは、皮肉にも、彼女をその状態に陥れた張本人である葉山洋介だった。 これまで、彼がアンブロシアを与えてきた他の女たちは、例外なく、薬に対する耐性ができていった。最初はほんの少量で劇的な反応を示した者も、行為を重ねるうちに次第に効き目が薄くなり、より多くの量を、より頻繁に求められるようになっていく。それは、薬物依存における典型的なパターンだった。 しかし、陽葵だけは違った。彼女は、他の女たちとは真逆の反応を示したのだ。行為を重ねれば重ねるほど、薬に対する感受性は鋭敏になっていった。最初は錠剤の半分を使わなければ効果が出なかったのが、今では爪の先ほどの、ほんの一欠片を唾液に混ぜて与えるだけで、たちまち理性を失い、快感に身悶える獣へと変貌する。まるで、彼女の身体そのものが、アンブロシアという薬を学習し、その効果を最大限に引き出すための回路を、自ら作り上げているかのようだった。 「……こいつ、一体どうなってやがるんだ?」 洋介は、その異常な体質に、純粋な好奇心と、商売人としての勘を働かせた。この情報は、高く売れるかもしれない。 彼は、アンブロシアを入手しているルート、すなわち天道製薬の末端の売人に連絡を取った。そして、陽葵の特異な体質に関する情報を、詳細に報告した。もちろん、被験者の名前は伏せたまま。「最近関係を持っている新人アイドルの少女」という、曖昧な情報だけを添えて。 * その情報は、幾人かの人間の手を経て、やて天道製薬の中枢へと届けられた。そして、最終的に、一人の男のデスクの上に置かれることとなる。 男の名は、一条誠司。 アンブロシアの開発責任者であり、そして、一条司の育ての父でもある男。 誠司は、そのレポートに目を通すと、最初は眉間に深い皺を寄せていた。しかし、読み進めるうちに、その表情は驚愕へと、そして最終的には畏怖の念さえ滲む興奮へと変わっていった。 「……やはりか。本当に、受け継いでいたというのか……」 彼の口から、抑えきれないといった様子の声が漏れた。 白石ひなた。十五年前に夭逝した、伝説のアイドル。彼女は、セレスティアル・ネクターに対して常人とは比較にならないほどの親和性を示す、極めて稀な特異体質の持ち主だった。その体質こそが、彼女に人智を超えた輝きを与えた源泉だったと、誠司は結論付けていた。 その娘である高橋陽葵が芸能界にいることは知っていた。だが、あの祝福にして呪いでもある特異な血が、これほど色濃く受け継がれているとは。レポートに記された陽葵の反応は、誠司の想定を遥かに超えていた。 「……素晴らしい……」 誠司の口から漏れたのは、抑えきれない科学者としての歓喜の声だった。長年の研究が、ついに実を結ぶべき対象を見つけ出したのだ。だがその声には同時に、その血に宿る悲劇的な宿命を知る者としての、微かな憐憫の色も混じっていた。 誠司は、椅子からゆっくりと立ち上がると、まるで神の啓示でも受けたかのように、窓の外の景色を静かに見つめた。 「これで、ようやく私の長年の研究が完成する。翔子……君との約束が、ようやく果たせるぞ……!」 彼の口から漏れた、今は亡き女の名。鳳翔子。かつて鳳凰プロダクションを率い、彼と共にセレスティアル・ネクターを世に送り出した共犯者。 誠司の瞳は、科学者としての純粋な探究心と、亡き女への歪んだ愛情が入り混じった、狂気の光をたたえていた。 彼は、デスクに戻ると、厳重にロックされた薬品庫から、一本の小さなガラス瓶を取り出した。遮光性の茶色い瓶の中には、白い綿に包まれるようにして、半透明のゼラチン質でできた一粒のカプセルが鎮座している。 「高橋陽葵……君には、私の計画の、最後のピースになってもらう」 彼は、そのガラス瓶を愛おしげに指先で撫でながら、呟いた。 「君に、これを飲ませることができれば……私の悲願は、成就する」 誠司は、陽葵に何かを飲ませる計画を、静かに、しかし着実に練り始めた。その表情に、罪悪感の色はない。これは、運命を弄ぶ冒涜的な行為などではない。呪われた血の宿命から一人の少女を解き放つための、崇高な救済計画なのだ。自らの悲願成就と、少女の救済。その二つが完全に一致していると、彼は固く信じていた。 # パート6 業界最大級の音楽フェスティバル『Starlight Revolution』の開催が、一ヶ月後に迫っていた。今年のフェスの目玉企画は、若き帝王・皐月蓮が自ら一組の新人アーティストをプロデュースし、メインステージで一夜限りのスペシャルパフォーマンスを披露するというもの。その栄誉ある一枠を巡って、水面下では熾烈な競争が繰り広げられていた。 当然、一条司もその椅子を狙っていた。いや、その椅子に座るのは自分以外あり得ないと確信していた。デビュー以来、チャートを席巻し、社会現象に片足を突っ込むほどの熱狂を生み出してきた自分こそが、この企画に最も相応しい。 しかし、数日前にリークされた情報は、司の完璧な自尊心を根元から揺さぶるものだった。 皐月蓮がプロデュース対象として白羽の矢を立てたのは、一条司ではなく――『SOLLUNA』。あの、まだ何の変哲もない石ころに過ぎない、双子の姉弟だというのだ。 「……面白い冗談ですこと」 皐月蓮のオフィスで、司は脚を組み替えながら、完璧な笑みを唇に貼り付けていた。目の前の男は、表情一つ変えず、ただ静かに司の言葉を聞いている。 「私ではなく、SOLLUNAを選ぶ。それは、私に対する明確な挑戦状と受け取ってよろしいのかしら? 皐月プロデューサー」 「挑戦状、か。大袈裟だな」 蓮は、初めて静かに口を開いた。 「僕はただ、磨けば光る可能性のある原石を選んだ。それだけのことだ。君の輝きは、既に完成されている。僕の手を加える余地などないだろう」 その言葉は、一見すれば最大級の賛辞だった。だが、司にはその裏に隠された痛烈な皮肉が手に取るように分かった。完成されている、のではない。薬によって作られた、偽りの輝き。だから、手を加える価値もない。あの日の言葉が、無音の刃となって司の胸を抉る。 「……なるほど。あなたは、私という完成された芸術品よりも、道端の石ころを磨く方がお好みなのね。ずいぶんと、酔狂なご趣味だこと」 司は、苛立ちを悟られぬよう、あくまで優雅に言葉を返した。SOLLUNA、特に高橋陽葵に、この男は何か特別な価値を見出している。だから手元に置き、管理下に置こうとしているのだ。あの石ころに一体どんな価値があるというのか。その意図は読めないが、自分以外の存在に執着するその魂胆が見え透いていて、反吐が出そうだった。 だが、ここで感情的になっては負けだ。司は、この日のために用意してきた、最後の切り札を切ることにした。 彼女はゆっくりとソファから立ち上がると、蓮が座るデスクへと歩み寄った。そして、彼の目の前で、ジャケットのボタンにそっと指をかける。 「……プロデュースの件、考え直していただけませんこと?」 囁く声は、蜂蜜のように甘く、蕩けていた。一つ、また一つとボタンが外され、白いブラウスの下に隠された、豊満な胸の谷間が惜しげもなく露わになる。ジャケットが滑り落ち、しなやかな肩のラインが照明の下に晒された。 「私を選んでくださるなら……あなた様が、お望みのものを、何でも差し上げますわ」 司は、蓮のネクタイに指を絡め、ぐい、と自分の方へ引き寄せた。甘い香水の匂いが、蓮の鼻腔をくすぐる。吐息がかかるほどの至近距離で、潤んだ瞳がじっと彼を見つめる。 「私の、すべてを……」 それは、男であれば誰も抗うことのできない、究極の誘惑のはずだった。これまで、この身体と美貌を武器に、幾人もの男たちをその足元に跪かせてきた。この、氷のような仮面を被ったプロデューサーも、所詮は男。その獣の本性を暴き、征服してやる。司の中には、そんな確信にも似た高揚感があった。 しかし、蓮の反応は、彼女の予想を完全に裏切るものだった。 彼は、司の瞳を真っ直ぐに見つめ返したまま、静かに、しかしきっぱりと言い放った。 「……やめておけ」 その声は、冷たく、そしてどこか哀れむような響きを帯びていた。 「君の母親は、こんなことを望まない」 「……は?」 思わず、素っ頓狂な声が出た。母親? 何を言っているのだ、この男は。 「私に、母親はおりませんわ。物心ついた時から、父と二人きり。私は、父子家庭で育ちましたのよ」 反射的に、司はそう言い返していた。それは事実だった。母の記憶など、彼女の中にはひとかけらも存在しない。 だが、蓮の言葉は、まるで錆びついた錠前をこじ開ける鍵のように、司の記憶の最も深い場所にある、固く閉ざされた扉を軋ませた。 蓮は、司の腕を掴んでいた手をそっと離すと、疲れたように深く息を吐いた。 「……もう、いい。帰りなさい。フェスティバルのプロデュースの件は、決定事項だ。覆ることはない」 それは、交渉の終わりを告げる、冷徹な宣告だった。司は、呆然と立ち尽くす。人生で初めて味わう、完璧なまでの敗北感。自分の最強の武器が、この男には全く通用しなかった。その事実が、彼女のプライドをずたずたに引き裂いた。 司は、唇を強く噛み締め、床に落ちたジャケットを拾い上げた。そして、一言も発することなく、蓮に背を向けてオフィスを後にした。 背後で、重いドアが閉まる音がする。その音を聞きながら、司の脳裏に、不意に、朧げな光景がフラッシュバックした。 ――窓の少ない、高級そうなマンションの一室。自分は、まだほんの子供だった。仕事で忙しい『ママ』に、誰かに預けられていた、おぼろげな記憶。 その部屋には、自分よりも少しだけ年下に見える、姉と弟がいた。太陽みたいに笑う女の子と、その影のように静かな男の子。よく、三人で遊んでいた気がする。 そして、もう一人。 時々、その部屋にやってくる、不思議な人がいた。男のようにも、女のようにも見える、綺麗な人。その人は、いつも自分にこう言っていた。 『つかさちゃん。僕のこと、パパって呼んでごらん』 その声は、なぜかとても優しくて、少しだけ、哀しそうだった―― 「……っ!」 司は、エレベーターホールへと続く廊下の途中で、思わず足を止めた。激しい頭痛が、こめこみの中を錐で抉るように突き抜ける。なんだ、今の記憶は。ママ? パパ? 私に、そんな存在がいるはずがない。あれは、ただの幻。そうだ、疲れているんだわ。 司は、乱れる呼吸を必死に整え、再び歩き出した。だが、一度開かれた記憶の扉は、もう元には戻らない。あの男……皐月蓮の声が、幻影の中の『パパ』と呼ばせようとした人物の声と、奇妙に重なって聞こえた気がした。 * 一方その頃、SOLLUNAの二人は所属事務所のレッスンスタジオで、ダンスの自主練習に励んでいた。鏡張りの壁に向かい、ステップのタイミングを合わせる。陽葵のダイナミックで華やかな動きと、湊の正確無比で洗練された動き。二つの個性がぶつかり合い、高め合うように、一つの完璧なパフォーマンスへと昇華されていく。 その静かな集中を破って、スタジオのドアが勢いよく開かれた。 「は、陽葵ちゃん! 湊くん!」 息を切らし、スマートフォンを胸の前で握りしめたまま、マネージャーの相田莉子が血相を変えて飛び込んできた。そのただならぬ様子に、二人は練習を中断して振り返る。 「莉子さん? どうしたんですか、そんなに慌てて」 「ど、どうしたもこうしたもないわよ! 今、電話が……信じられないところから電話があったの!」 莉子は、興奮のあまり言葉がまとまらない様子で、スマートフォンの画面を二人に見せつけた。着信履歴に表示されているのは、業界の人間であれば誰もが知る、皐月蓮のプロダクションの番号だった。 「もしかして、何かトラブルでも……」 湊が冷静に尋ねようとしたのを、莉子は「違うの!」と甲高い声で遮った。 「聞いて、驚かないでよ? ……業界最大級の音楽フェス、『Starlight Revolution』の目玉企画、皐月蓮プロデューサーによる新人プロデュース枠……SOLLUNAに、正式オファーが来ました!」 「……え?」 一瞬、莉子が何を言っているのか理解できなかった。陽葵は目をぱちくりさせ、湊もまた、その整った眉を僅かにひそめる。 「……すごい」 ぽつりと呟いたのは、湊だった。その表情は、喜びよりも驚愕の色が濃い。皐月蓮。自分たちの出生の秘密を探る過程で、何度も目にした名前。鳳凰プロダクションの最後の社長であり、あの悲劇に終止符を打ったとされる男。そんな伝説上の人物が、なぜ今、自分たちに? まるで、見えざる運命の糸に手繰り寄せられているかのような、奇妙な感覚が湊を襲っていた。 「やったね、湊! すごいよ、フェスだって!」 一方、陽葵は事態の重大さを完全には理解しておらず、ただ大きな舞台に立てるという事実だけに、太陽のような笑顔を輝かせている。 「あの……莉子さん」 陽葵は、少しだけ申し訳なさそうに手を上げた。 「私、その……皐月蓮さんって方のこと、あんまりよく知らなくて。そんなに、すごい人なんですか?」 その、あまりにも素朴な質問に、莉子の動きがぴたりと止まった。彼女は信じられないといった表情で陽葵を見ると、その両肩をがしりと掴んだ。 「陽葵ちゃん……あなた、本気で言ってる? すごい人なんですか、じゃないわよ! 神よ、GOD! 今の日本のエンターテインメント業界を、たった一人で牛耳る若き帝王なの! 彼が手掛けたアーティストは、インディーズだろうが無名だろうが、必ずチャートのトップに躍り出る。その審美眼は、神託も同然なのよ!」 マシンガンのように捲し立てる莉子。その瞳は、憧れの対象を語る乙女のように、きらきらと輝いている。 「十五年前、あの鳳凰プロダクションに蔓延した薬物汚染をたった一人で告発して、業界の闇を終わらせた正義のヒーローでもあるし……ああ、でもね」 莉子は、ふと声を潜め、秘密を打ち明けるように人差し指を口元に当てた。 「これは、古参のファンしか知らない豆知識なんだけど……実は、彼自身も昔は鳳凰プロダクションの所属タレントだったのよ。信じられる?」 「え、そうなんですか?」 陽葵は、純粋に驚きの声を上げた。 だが、その言葉は、湊の胸に小さな棘のように引っかかった。 (鳳凰プロダクションの、元所属タレント……?) 湊は、自分たちの出生の秘密を探る過程で、鳳凰プロダクションと、そこに所属していた伝説のアイドルグループ『Starlight Prism』について、徹底的に調べ上げていた。公になっている資料や、当時のファンが残した記録を漁る限り、あのプロダクションに所属していたアイドルは、全員が女性だったはずだ。 湊は、脳裏に焼き付いた数枚の古い宣材写真を思い浮かべていた。センターに立つ、太陽のような白石ひなた。その隣に寄り添う、氷のような黒瀬玲奈。そして、もう一人。ひなたと玲奈より少し遅れて加入し、最初にグループを去ったという、謎の多いアイドル。ふわふわとした金色の髪、ガラス玉のように大きな瞳。小柄で華奢な、まるで人形のように美しい少女だったはずだ。だとしたら、皐月蓮は一体……? 湊の中で、一つの疑問が生まれかけた。だが、その思考は、莉子の興奮しきった声によって遮られる。 「とにかく! これはもう、とんでもないチャンスなのよ! デビューしたての私たちが、いきなり一条司と同じステージに……ううん、それ以上の注目を浴びる可能性があるんだから! やってやろうじゃないの!」 莉子は拳を固く握りしめ、高らかに宣言した。その熱に当てられるように、陽葵も「はい!」と力強く頷く。 「一条司さんに、負けません!」 二人の燃え上がる闘志を前に、湊の胸に生まれた小さな疑問は、フェスティバルという大きな目標の影へと、ひとまず押しやられていった。 * 専用車に戻った司は、深くシートに身を沈め、固く目を閉じた。指先が、悔しさで微かに震えている。 皐月蓮。あの男だけは、絶対に許さない。 『偽りの輝き』。 『君の母親は、こんなことを望まない』。 あの男の言葉の一つ一つが、無数の棘となって心の奥に突き刺さる。プライドは粉々に打ち砕かれた。だが、司の魂の芯で燃え盛る野心の炎は、その屈辱を燃料として、むしろより一層激しく燃え上がっていた。 ただ打ち負かすだけでは足りない。心も、身体も、そのプライドも、すべてを粉々に砕き、私の前に跪かせてやる。 そのための、新たな戦略。司の怜悧な頭脳が、猛烈な速度で回転を始める。力で押してもダメ、色で誘ってもダメ。ならば、どうする。 ……そうだ。あの男が今、最も執着しているものを利用すればいい。 SOLLUNA。そして、高橋陽葵。 あの男は、あの少女に何か特別な価値を見出している。ならば、その価値を、私がコントロールしてやればいい。私が、高橋陽葵の才能を開花させ、その成果を蓮に見せつけるのだ。そうすれば、彼はアンブロシアの有用性を認めざるを得なくなる。そして、あの少女が輝けば輝くほど、それを引き出した私への評価も、いやが応にも高まるはずだ。 同時に、それは私自身のプライドも満たすことになる。陽葵を、私と同じアンブロシアという土俵に上げる。そうして初めて、ライバルとして対等に競い、そして完膚なきまでに叩き潰すことができるのだから。 完璧な計画だった。歪んではいるが、今の司の精神状態が生み出した、最も合理的で、最も残酷な結論。 司は、震える指でスマートフォンを取り出すと、一つの番号を呼び出した。それは、彼女の人生において最も信頼し、そして最も恐れる人物。父親である、一条誠司の番号だった。 数回のコールの後、電話の向こうから、低く、落ち着いた男の声が聞こえた。 『……司か。どうした』 「お父様」 司は、背筋を伸ばし、声のトーンを一つ上げた。甘えるような響きと、しかし有無を言わせぬ強い意志を込めて。 「お願いがあるの。……高橋陽葵に飲ませるための、アンブロシアを送っていただきたいわ」 電話の向こうで、誠司が息を呑む気配がした。 『……ほう。それはまた、面白いことを考えるな。一体、どういう風の吹き回しだ?』 「皐月蓮を、屈服させるためです」 司は、淀みなく説明を始めた。蓮が目をかけている陽葵の魅力を、アンブロシアによって最大限に引き出す。そうすることで、蓮にアンブロシアの有用性を認めさせる。そして何より、薬の力で輝く自分と、まだ何も知らない陽葵では、そもそも勝負にならない。彼女を自分と同じステージに立たせることで、ライバルとして対等に競い、その上で完璧な勝利を収める。それが、自分のプライドが許す、唯一のやり方なのだと。 司の言葉は、純粋な、しかし傲慢なまでのエリート意識から発せられたものだった。 電話の向こうで、誠司はしばらく沈黙していた。だが、その沈黙は、やがて満足げなくつくつという笑い声に変わった。 『……素晴らしい。実に素晴らしいぞ、司! それこそが、頂点に立つ者の思考だ! 弱者を育て、そして喰らう。それでこそ、私の娘だ!』 その狂信的なまでの賞賛に、司は微かな違和感を覚えた。だが、自分の計画が父親に認められたという安堵感の方が、今は勝っていた。 「では……」 『ああ、分かっている。すぐに手配しよう。彼女の『眠れる才能』を完全に目覚めさせる、特別なものを用意する。効果は保証するよ。必ず、君にとって望ましい結果をもたらしてくれるだろう』 その声は、娘の計画を後押しする、心強い父親のそれだった。司は、その言葉の裏に潜む、底知れない闇に気づくことができない。同じ目的を語りながら、その思惑は致命的なまでにすれ違っている。その事実を知らないまま、彼女は自らが引こうとしている引き金の重みを、まだ理解していなかった。 「ありがとうございます、お父様。期待しておりますわ」 司は、そう言って電話を切った。車の窓の外には、既に夜の帳が下り始めている。その闇の中で、司の瞳だけが、復讐の炎にぎらぎらと燃えていた。 * 嫉妬は、熟練した調教師の手にかかれば、猛々しい獣さえも意のままに操る鞭となる。 神崎綾乃は、一条司から渡された小さなピルケースを、冷たい指先で弄んでいた。リハーサルスタジオの更衣室。鏡に映る自分の顔は、嫉妬という名の醜い感情で、僅かに歪んでいるように見えた。 『ライバルとして、正々堂々、最高のコンディションで競い合いたいから。これを、陽葵さんに渡していただけないかしら』 数日前、司はそう言って、このケースを綾乃に託した。中には、天道製薬のロゴが刻印された、一粒の白い錠剤が収められている。体調を整え、パフォーマンスを向上させるための、特別なサプリメント。司は、そう説明した。 だが、綾乃はその言葉を額面通りには受け取っていなかった。一条司という女が、ライバルのために情けをかけるような人間ではないことを、彼女は知っている。これは、罠だ。高橋陽葵を陥れるための、巧妙に仕掛けられた毒。 普通の人間なら、こんな危険なものに関わろうとはしないだろう。だが、綾乃は違った。彼女の胸の内には、湊を奪われたことに対する、陽葵へのどす黒い憎悪が渦巻いている。この毒は、司が用意したものではない。湊の心を自分から引き剥がした、あの太陽のような少女を罰するための、天が与えた機会なのだ。 綾乃の唇に、冷酷な笑みが浮かんだ。 いいでしょう、一条司。あなたの筋書き通りに、この毒をあの娘に飲ませてあげる。そして、あの子が醜く堕ちていく様を、湊の目の前で見せつけてやるのだ。彼が愛した太陽が、実は泥にまみれた偽りの光だったと、その目に焼き付けさせてやる。そうすれば、きっと彼は絶望し、慰めを求めて私の元へ帰ってくる。 歪んだ計画は、しかし綾乃の中で完璧なロジックを持って完成されていた。彼女は、ピルケースをそっとスポーツバッグの奥にしまうと、何事もなかったかのように更衣室を後にした。その足取りは、これから破滅の引き金を引こうとしている人間のものとは思えないほど、軽く、弾んでいた。 フェスに向けた合同リハーサル当日。巨大なスタジオには、出演予定のアーティストたちが集い、本番さながらの熱気に包まれていた。SOLLUNAの二人も、ステージ衣装に身を包み、出番を待っている。 「陽葵、大丈夫か? 顔色が悪いぞ」 湊が、心配そうに陽葵の顔を覗き込んだ。彼女は、数日前から微熱が続き、体調が優れない様子だった。それでも、この重要なリハーサルを休むわけにはいかないと、無理を押してスタジオに来ていた。 「ううん、平気だよ。ちょっと、緊張してるだけ」 陽葵は、力なく笑ってみせた。だが、その額には脂汗が滲み、呼吸も少し浅くなっている。 そこへ、綾乃がスポーツドリンクの入ったボトルを二本持って、にこやかに近づいてきた。 「二人とも、お疲れ様。陽葵ちゃん、顔色が良くないわね。これ、飲んで少し休んだら?」 「あ、綾乃先生……ありがとうございます」 陽葵は、差し出されたボトルを素直に受け取った。湊は、綾乃のその親切すぎる態度に、一瞬、微かな違和感を覚えた。だが、陽葵の体調を気遣う気持ちの方が勝り、その疑念を心の隅に押しやった。 陽葵は、ボトルのキャップを開けると、こく、こくと喉を鳴らして中身を飲んだ。少し甘酸っぱい、フルーツ味のドリンク。乾いた喉に、その冷たさが心地よかった。 「……美味しい」 半分ほど飲んだところで、陽葵はほっと息をついた。その様子を、綾乃が満足げな笑みを浮かべて見つめている。鏡張りの壁の向こう側で、一条司が硬い表情でこちらを凝視していることに、誰も気づいてはいなかった。 異変は、それから数分後に始まった。 「……あれ?」 陽葵が、不思議そうに自分の胸元に手を当てた。心臓が、おかしい。どく、どく、と。まるで警鐘を鳴らすかのように、激しく、不規則に脈打っている。 「陽葵?」 隣にいた湊が、異変に気づいて声をかけた。その瞬間、陽葵の全身を、内側から焼き尽くすような熱波が襲った。 「……か、はっ……!」 陽葵の喉から、喘ぐような声が漏れた。視界が赤く染まり、ぐにゃりと歪む。立っているのがやっとで、全身から力が抜けていく。 「おい、陽葵! しっかりしろ!」 湊が、崩れ落ちそうになる陽葵の身体を慌てて支える。その腕の中で、陽葵の身体は異常なほど熱く、小刻みに震えていた。頬は林檎のように真っ赤に上気し、瞳は潤んで焦点が合っていない。 だが、湊は直感していた。これは、ただの体調不良ではない。ライブの後に時折見せる、あの熱の発作。いや、それとは比べ物にならないほど、遥かに激しく、何かがおかしい。これは、自然に起きるものではない。何者かによって、意図的に引き起こされた発作だ。 周囲のスタッフたちが、異変に気づいてざわめき始める。マネージャーの莉子が、顔面蒼白で駆け寄ってきた。 「陽葵ちゃん! どうしたの、しっかりして!」 「救急車を!」 誰かが叫んだ。 湊の視線が、鋭く綾乃を射抜いた。彼女は、一瞬だけ狼狽の色を見せたが、すぐに心配そうな表情を取り繕い、陽葵に駆け寄ろうとする。 「陽葵ちゃん、大丈夫!?」 「……あんたが、やったのか」 湊の声は、絶対零度の氷のように冷たく、低かった。 「何を……言っているの、湊くん?」 綾乃が、怯えたように後ずさる。だが、その瞳の奥に宿る、一瞬の動揺と罪悪感の色を、湊は見逃さなかった。 「あのドリンク……! あんた、姉さんに何を飲ませた!」 湊は、獣のように低い唸り声を上げ、綾乃の肩を掴んだ。そのあまりの剣幕に、綾乃の顔から血の気が引いていく。 「ち、違う……! 私は、何も……!」 「嘘をつくな!」 湊の怒声が、スタジオに響き渡った。その手は、綾乃の細い肩に食い込むほど、強く握りしめられている。 追い詰められた綾乃の視線が、一瞬だけ、スタジオの隅に立つ一条司の方へと泳いだ。その僅かな動きが、決定的な証拠となった。 「……司……!」 湊は、綾乃を突き放すように手を離すと、怒りに燃える瞳で司を睨みつけた。司は、その視線を受けても表情を崩さなかった。だが、その完璧な仮面の下で、唇が微かに震えているのを湊は見逃さなかった。想定外の事態に、彼女もまた動揺しているのだ。その狼狽を、高いプライドで必死に抑えつけているに過ぎない。 「お前が……! お前が、姉さんをこんな目に……!」 湊は、我を忘れて司に掴みかかろうとした。その、まさに瞬間だった。 「――そこまでだ」 凛とした、しかし有無を言わせぬ威厳を宿した声が、場を制した。 声の主は、皐月蓮だった。彼は、いつの間にかそこに立っていた。ガラス玉のような瞳は、冷静に、しかし厳しく、その場のすべてを見据えている。彼は、苦しむ陽葵の姿を一瞥しただけで、瞬時に何が起きているのかを正確に把握していた。 蓮は、ゆっくりと司の前まで歩いていく。その静かな歩みには、絶対的な王者の風格が漂っていた。 「……一条司。君が持っている『Ambrosia』を、こちらへ渡しなさい」 その声は、命令だった。拒否など、微塵も許さないという、絶対的な意志が込められている。 司は、一瞬、眉をひそめた。この状況で、証拠となる薬を押収しようというのか。そんなことをされては、すべてが水の泡だ。 「……何のことですの? 私には、何のことかさっぱり……」 司が、しらを切ろうとした、その時だった。 「問答は無用だ」 蓮は、司の言葉を遮ると、信じられない行動に出た。彼は、司が持っていたハンドバッグを半ばひったくるように奪い取ると、中から小さなピルケースを取り出した。天道製薬のロゴ。間違いない。 そして、周囲の人間が息を呑む中で、蓮はためらうことなく、そのケースを開け、中に残っていた白い錠剤を自らの口へと放り込んだ。 「……っ!?」 司も、湊も、その場にいた誰もが、信じられない光景に目を疑った。自ら、毒を呷ったのだ。 蓮は、水もなしにその錠剤を奥歯で噛み砕くと、ごくり、と喉を鳴らして飲み下した。数秒の沈黙。やがて、蓮の額に、じわりと汗が滲み始めた。彼の瞳の奥で、青い炎のような光が、ぎらりと揺らめく。薬が、効き始めたのだ。 「……これで、文句はないだろう」 蓮は、空になったピルケースを床に投げ捨てると、苦しげに喘ぐ陽葵の元へと歩み寄った。そして、その震える小さな身体を、力強く、しかし優しく抱きかかえる。 「湊くん。彼女を、医務室へ運ぶ。誰も、入ってくるな」 それだけを言い残すと、蓮は陽葵を腕に抱いたまま、スタジオの出口へと向かった。残された者たちは、あまりにも衝撃的な一連の出来事に、ただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。 湊は、蓮の去っていった背中を、憎しみと、焦りと、そしてどうしようもない無力感が入り混じった、複雑な表情で見つめていた。なぜ、あの男が。姉さんを、あの男の手に委ねなければならないのか。その理不尽な現実に、湊は唇を強く噛み締めた。 司は、床に転がった空のピルケースを、信じられないといった表情で見つめていた。計画は、最悪の形で頓挫した。それだけではない。皐月蓮という男の、常軌を逸した行動。それは、司の理解を、そして計算を、遥かに超えていた。あの男は、一体何者なのだ。 嫉妬と悪意が渦巻くリハーサルスタジオに、不気味な静寂が、重く、深く沈み込んでいった。 * 医務室の簡素なベッドの上で、陽葵の身体は熱い痙攣を繰り返していた。もはや、意識はない。ただ、本能の命じるままに、抗いがたい快感の嵐に身を捩らせ、甘く、苦しげな喘ぎ声を漏らし続けている。 蓮は、ベッドの脇に立ち、その姿を静かに見下ろしていた。自らの体内で燃え盛る、アンブロシアの熱。思考を焼き尽くし、理性を麻痺させようとする強烈な性的衝動と、彼は必死に戦っていた。額から、首筋から、玉のような汗が流れ落ちる。 「……くそっ」 低く呻き、蓮は自らの額を強く握りしめた。脳を直接焼かれるような熱。全身の血が沸騰し、思考が白く染まっていく。十五年前、嫌というほど味わった感覚が、より強力になって蘇っていた。セレスティアル・ネクターとは比較にならない即効性と威力。一条誠司の狂気は、更なる深みへと達しているらしい。 だが、ここで呑まれるわけにはいかない。蓮は奥歯を強く噛み締め、精神力だけで薬の奔流に抗う。彼の目的は一つ。この薬の暴走から、陽葵を救い出すこと。そのためには、まず自分自身がこの獣を乗りこなさなければならない。 陽葵の喘ぎ声が、更に甘く、切迫したものになった。無意識に、彼女の手が自らのステージ衣装の胸元を掻きむしり、豊かな膨らみが露わになる。その無防備な姿が、薬によって増幅された蓮の欲望を容赦なく刺激した。 「……すまない」 誰に言うともなく、蓮は短く謝罪の言葉を呟いた。そして、意を決すると、自らのシャツのボタンを乱暴に引きちぎるように外し始めた。 この暴走した渇望を鎮める方法は、一つしかない。薬によって極限まで高められた生命力は、行き場のない強大な性的欲求となって肉体を蝕む。その暴走する欲求を鎮めるには、同じく薬で高められた生命力を持つ者が受け止め、正しく発散させてやるほかない。毒を以て、毒を制す。荒療治であることは分かっていた。だが、他に選択肢はなかった。 蓮は、ベッドの上で身悶える陽葵の上に、静かに覆いかぶさった。汗ばんだ肌と肌が触れ合った瞬間、びり、と電流のような快感が二人を貫く。陽葵の身体が、びくんと大きく跳ねた。意識はなくとも、その身体は雄の接近を敏感に感じ取っている。 蓮は、陽葵の潤んだ唇に、自らのそれをゆっくりと重ねた。それは、欲望の発露というよりは、むしろ鎮魂の儀式のように、静かで、厳かな口づけだった。薬によって引き起こされた偽りの熱を、自分の体温で上書きしていくように。 「ん……ぅ……」 陽葵の唇から、甘い吐息が漏れる。蓮は、ゆっくりとその衣装のファスナーに手をかけ、滑り下ろした。太陽をイメージしたした白とゴールドの生地の下から、汗でしっとりと濡れた、少女の瑞々しい肌が現れる。それは、神聖ささえ感じさせるほどに、完璧な造形美をたたえていた。 白石ひなたによく似た、生命力に満ちた肉体。だが、その奥に秘められた輝きの質は、母親のそれとはどこか違う。もっと繊細で、危うい光。蓮は、その光を守らなければならないと、強く思った。たとえ、それがどのような手段であっても。 蓮の指が、陽葵の身体をゆっくりと愛撫していく。それは、決して欲望のままに貪るような手つきではなかった。むしろ、壊れやすいガラス細工でも扱うかのように、慎重で、優しい愛撫。身体の各所にある神経の結び目を一つ一つ確かめ、そこに溜まった異常な熱を、解きほぐしていくように。 「ひっ……ぁ……」 陽葵の身体が、びく、びくと快感に痙攣する。蓮の指先が触れるたびに、灼熱の痺れが全身を駆け巡った。それは、葉山洋介との交わりのような、快楽の熱を求めて身を焼き焦がすような行為とは全く質の異なるものだった。身体の奥深くに眠っていた、本来の感受性を呼び覚ますような、繊細で、しかし抗いがたい快感。 蓮は、陽葵の身体が十分に解れ、受け入れる準備が整ったのを確認すると、静かに自らの昂りを剥き出しにした。薬の力によって、それは人智を超えた熱と硬度を宿している。これを、何の準備もなく受け入れさせれば、この華奢な身体は壊れてしまうだろう。 彼は、慎重に、そしてゆっくりと、自らを陽葵の潤んだ入り口へと導いた。先端が、熱い粘膜に触れた瞬間、蓮自身の背筋にも、ぞくりと甘い痺れが走る。薬の衝動が、早く結合しろと脳内で獣のように猛り狂っていた。だが、蓮はそれを鋼の意志で押さえつける。 「……少し、我慢してくれ」 意識のない少女に囁きかけ、蓮は一気に、しかしその動きは驚くほど滑らかに、自らのすべてを陽葵の胎内へと滑り込ませた。 「んんぅううっ……!」 陽葵の身体が、弓なりに大きくしなった。処女ではないとはいえ、まだ少女のそれである狭い道が、異物の侵入によって限界まで押し広げられる。その圧迫感と、内側から焼かれるような熱。無意識下にある陽葵の魂が、快感と苦痛の狭間で甲高い悲鳴を上げた。 蓮は、すぐには動かなかった。ただ、深く結合したまま、陽葵の身体が自分という異物を受け入れ、馴染むのをじっと待つ。互いの体温が混じり合い、汗が溶け合い、一つの生命体になったかのような、濃密な一体感。医務室の静寂の中に、二人の荒い呼吸の音だけが響いていた。 やがて、陽葵の身体の強張りがゆっくりと解けていくのを感じ取り、蓮は静かに腰を動かし始めた。それは、激しい律動ではなかった。寄せては返す、大きな波のような、深く、雄大なストローク。一突きごとに、陽葵の胎内の最も奥深い場所を、慈しむように圧迫し、そしてゆっくりと離れていく。 その動きは、陽葵の身体の内側で暴れ狂う性的衝動を、ただ受け流すのではなく、より大きく、しかし支配された快感の流れへと導いていくかのようだった。行き場を失い暴走していた渇望が、蓮の与える深く雄大な交合のリズムの中でその行き場を見つけ、破壊的な衝動から純粋な快感の奔流へと姿を変え、少しずつ鎮静化されていく。 「あ……ぁ……ぅ……」 陽葵の喘ぎ声から、次第に苦痛の色が消えていった。代わりに、純粋な快感に蕩けるような、甘い響きが混じり始める。蓮の動きに合わせて、彼女の腰もまた、無意識のうちに小さく揺れ、その昂りを受け入れるようになっていた。 蓮自身の身体もまた、限界に近づいていた。陽葵の胎内は、灼熱の快感を生み出す坩堝だった。締め付けは強く、熱はどこまでも濃密で、薬の衝動と相まって、彼の理性を何度も焼き切ろうとする。だが、彼は決して我を忘れることはなかった。これは、欲望の交歓ではない。治療行為なのだ。その一点だけを、彼は心の中で何度も繰り返した。 蓮の動きが、徐々に速さと力を増していく。それは、欲望に負けたからではない。陽葵の身体が、クライマックスに向けて準備が整ったことを、肌で感じ取ったからだ。 「……陽葵……!」 蓮は、初めて彼女の名を呼んだ。その声に応えるかのように、陽葵の身体がびくんと大きく痙攣する。絶頂の予感が、彼女の無意識を支配した。 蓮は、最後の仕上げとばかりに、深く、強く、その最奥を穿った。 「あ、あああああっ……!」 陽葵の甲高い絶頂の叫びと、蓮の獣のような低い呻き声が、完全に重なり合った。熱い奔流が、何の隔てもなく、陽葵の胎内の最も神聖な場所へと注ぎ込まれていく。それは、単なる精液ではなかった。薬によって極限まで高められた生命力の奔流。その濃密な熱は、陽葵の身体を蝕んでいた抗いがたい渇望の源流を直接満たし、その根を枯らすかのように、彼女の暴走を完全に鎮めていった。 長い、長い放出が終わった後、蓮はぐったりと陽葵の隣に身を横たえた。陽葵もまた、深い絶頂の余韻の中で、静かに寝息を立て始めていた。嵐は、過ぎ去ったのだ。 彼女の頬を伝っていた苦悶の汗は、今は穏やかな寝汗へと変わっている。赤く上気していた肌も、健やかな血色を取り戻していた。蓮は、そっと彼女の額にかかった汗ばんだ前髪を指で払ってやる。その寝顔は、あどけない少女のそれだった。 「……すまない」 もう一度、蓮は謝罪の言葉を呟いた。守るためとはいえ、結果的に彼女を汚してしまったという罪悪感。そして、この行為の最中に、心の片隅で確かに感じてしまった、背徳的な悦びに対する自己嫌悪が、重く胸にのしかかる。 彼は、ゆっくりと陽葵の身体から離れると、乱れた互いの衣服を整え始めた。自分が着ていたシャツは、もはやボタンがちぎれて使い物にならない。彼はそれを無造作に脱ぎ捨てると、上半身裸のまま、ベッドの脇に置かれた椅子に深く腰掛けた。 窓の外は、いつの間にか夕暮れの茜色に染まっていた。 蓮は、静かに眠る陽葵の横顔を見つめながら、十五年前の出来事を思い出していた。愛した男と女たち。守れなかった命。そして、自分自身が犯した過ち。 もう二度と、同じ過ちは繰り返さない。この少女の輝きを、今度こそ自分が守り抜く。たとえ、この身がどうなろうとも。 ガラス玉のような瞳の奥で、贖罪の炎が、静かに、しかし決して消えることなく燃え続けていた。 それは、かつてのStarlight Prismの、三人目のメンバー。『橘瑠衣』という名の少年だった男が、自らに課した、永遠の誓いだった。 # パート7 医務室の空気は、硝煙の匂いが消えた戦場のように、静かで重かった。 ベッドの上では、陽葵が穏やかな寝息を立てている。嵐が過ぎ去った後の凪のように、その寝顔はあどけなく、無垢だった。つい先ほどまで、薬の熱に浮かされ、苦悶の喘ぎを漏らしていた少女と同一人物とは思えないほどに。 そのベッドの傍らで、皐月蓮は上半身裸のまま、パイプ椅子に深く腰掛けていた。引き裂かれたシャツは床に無造作に脱ぎ捨てられ、驚くほど細く引き締まった上半身には玉のような汗が光っている。消耗しきった彼の横顔は、夕暮れの赤い光に照らされて、まるで石膏像のように静謐だった。 その異様な静寂を破って、医務室のドアが静かに開いた。入ってきたのは、湊だった。 彼の視線は、まずベッドで眠る陽葵へと注がれ、その穏やかな寝顔に安堵の色を浮かべた。だが、次の瞬間、その隣に座る蓮の姿を捉え、その瞳は瞬時に凍てついた。半裸の蓮。乱れたベッドシーツ。そして、部屋の隅に落ちている、陽葵のものと思われるステージ衣装の破片。それらが何を意味するのか、湊の頭脳は一瞬で理解した。 「……姉さんに、何をした」 声は、怒りというよりも、地を這うような静かな殺意を帯びていた。拳が、わなわなと震えている。 蓮は、ゆっくりと顔を上げた。そのガラス玉のような瞳は、薬の熱の名残か、あるいは別の感情か、どこか潤んでいるように見えた。彼は、湊の敵意を真っ直ぐに受け止めながら、静かに口を開く。 「……必要な処置をした。それだけだ」 「処置だと……?」 湊は、一歩、また一歩と蓮に詰め寄る。その全身から放たれる怒りのオーラに、部屋の空気がびりびりと震えた。 「ふざけるな! お前は、姉さんが弱っているのに乗じて……!」 「そうだ」 蓮は、湊の言葉を遮った。その声には、一切の動揺も、言い訳の色もなかった。 「君の言う通りだ。僕は、彼女を抱いた。だが、それは彼女を救うための、唯一の方法だった。信じるか信じないかは、君の自由だ」 あまりにも堂々とした肯定。その揺ぎない態度に、湊は思わず言葉を失った。この男は、一体何なのだ。罪悪感も、羞恥心も、何一つ感じていないとでもいうのか。 蓮は、ゆっくりと椅子から立ち上がった。湊のすぐ目の前に立ち、その瞳を真っ直ぐに見つめる。身長は、蓮の方が僅かに高い。見下ろされる形になった湊は、その底知れない瞳の奥に、吸い込まれそうな感覚を覚えた。 「……君に、話しておかなければならないことがある」 蓮の声は、眠る陽葵を起こさないように、極限まで低く抑えられていた。 「君と、陽葵くんの……そして、一条司の出生についてだ」 その言葉に、湊の背筋を冷たいものが走った。なぜ、この男がそんなことを。戸惑う湊を意にも介さず、蓮は静かに語り始めた。それは、十五年という歳月を経て、ようやく解き放たれる、呪われた過去の真実だった。 「……君は、佐伯奏という男に、あまり似ていないな」 蓮は、探るような視線で湊の顔をじっと見つめた。 「むしろ……その目元や、理知的な雰囲気は、若い頃の僕にどこか面影がある。黒瀬玲奈は、奏を深く愛していた。だが、あの楽園では、誰もが互いを求め合い、支え合って生きていた。確証はない。誰にも、もう確かめようがない。だが……君の血縁上の父親は、おそらく僕だろう」 「……な……」 湊の思考が、完全に停止した。今、この男は何と言った? 「僕たち、鳳凰プロダクションに所属していた者たちの関係は、複雑だった。誰が誰を愛し、誰の子を宿すのか。それは、運命の悪戯のようなものだったのかもしれない」 蓮の瞳が、遠い過去を見つめるように、僅かに揺らぐ。その横顔に浮かんだのは、深い悔恨と、決して消えることのない愛情の色だった。 湊は、頭を殴られたような衝撃に、ただ立ち尽くすことしかできなかった。目の前にいる男が、自分の、父親……? 「そして、もう一つ。一条司……彼女は、鳳凰プロダクションの社長であった鳳翔子と、僕の間に生まれた娘だ」 「……っ!」 湊の喉から、声にならない声が漏れた。その衝撃的な告白は、医務室のドアの隙間から、中の様子を窺っていた一条司の耳にも、はっきりと届いていた。 司の全身から、急速に血の気が引いていく。皐月蓮が、私の、父親……? そして、鳳翔子という女が、母親……? 「翔子は、一条誠司の支援を受けてプロダクションを設立し、当時から彼とは内縁関係にあった。だが、彼女がその身に宿したのは、僕の子だった。誠司がどこまで真実に気づいていたかは、分からない。だが彼は、何も問いただすことなく翔子を受け入れ、生まれてきた司を……自らの娘として育て上げた」 蓮の言葉の一つ一つが、司が今まで信じてきた『自分』という存在の土台を、根こそぎ破壊していく。父と慕い、その期待に応えることだけを生き甲斐にしてきたあの男は、血の繋がらない赤の他人だった。そして、忌み嫌い、征服しようとさえしたこの男が、実の父親。母親は、伝説のプロダクションを率いた、あの鳳翔子。写真でしか見たことのない、悲劇の女社長。 「……嘘だ……」 司の唇から、か細い囁きが漏れた。足元から、世界が崩れていくような感覚。立っているのがやっとで、彼女はドアの冷たい壁に背中をもたせかけた。朧げな幼少期の記憶が、この残酷な真実と結びつき、彼女の精神を更に蝕んでいく。『パパって呼んでごらん』。あの優しくも哀しげな声は、実の父親であるこの男のものだったのだ。 湊もまた、混乱の極みにいた。次から次へと明かされる、信じがたい真実。陽葵と自分が異母姉弟かもしれないという事実だけでも、彼の心を十分に苛んでいたというのに。今や、その関係性は更に複雑で、混沌とした迷宮の奥深くへと引きずり込まれていく。 湊は、目の前の男……父親かもしれない、この男を、どうしようもない嫌悪感と、それに相反する奇妙な親近感が入り混じった、複雑な感情で見つめていた。複数の女性に子供を産ませ、認知さえせずに、今になって父親だと名乗り出る。その身勝手さに、腹の底から怒りが込み上げてくる。 「……あんたは、無責任だ」 絞り出した声は、震えていた。 「女たちに子供を産ませるだけ産ませて、家族だなんて、よく言えたものだ。それは、ただのあんたの自己満足じゃないか」 その痛烈な非難に、しかし蓮は静かに頷いた。 「……その通りだ。僕は、無責任で、身勝手な男だよ。彼女たちを、そして生まれてくる子供たちを、何一つ守ってやることができなかった。だから、これは贖罪だ。せめて、君たちの世代で、この負の連鎖を断ち切る。そのために、僕はここにいる」 その瞳には、揺ぎない覚悟の光が宿っていた。それは、綺麗事だけでは語れない、地獄のような過去を生きてきた男だけが持つことのできる、重く、そして深い光だった。 「鳳凰プロダクションは、傍から見れば、歪で、倒錯した関係だったのかもしれない。だが、僕たちにとっては、確かにそこは……一つの、幸せな家族の形だったんだ」 蓮の言葉は、まるで鎮魂歌のように、静かな医務室に響き渡った。湊は、それ以上、何も言い返すことができなかった。 蓮は、一度言葉を切ると、眠る陽葵に哀れむような、しかし慈しむような視線を向けた。 「君が納得できないのも無理はない。だが、僕が陽葵くんにしたことは、本当に必要な処置だった。それを理解してもらうために、もう一つ話さなければならないことがある。彼女の……そして、彼女の母親の体質についてだ」 蓮は、湊の目を真っ直ぐに見据えた。 「白石ひなたは、特別な体質の持ち主だった。彼女の身体は、極度の興奮状態に陥った時、ごく稀に……体内でセレスティアル・ネクターの主成分と酷似した物質を、自ら生成することがあったんだ」 「……なに?」 湊は、思わず息を呑んだ。ドアの隙間から聞き耳を立てていた司の肩も、微かに震えた。 「陽葵くんも、おそらくその血を色濃く受け継いでいる。普段はその力は眠っているが、強い刺激……例えば、大観衆の前で歌うことによる極度の昂ぶりや、あるいは外部から同じ成分を持つ薬物を少量でも摂取することで、その機能が暴走を始める」 だからか。湊の脳裏で、過去の光景がフラッシュバックした。ライブが終わった後、決まって身体の熱を持て余し、自分にそれを鎮めることを求めてきた姉の姿。あれは、ただの興奮ではなかった。彼女自身の身体が、彼女を内側から焼き尽くす毒を、自ら生み出していたというのか。 「今日の発作は、一条誠司が用意したアンブロシアが引き金になった。だが、あれは起爆スイッチに過ぎない。陽葵くんの身体の中で、彼女自身の力が暴走し、生命力を異常なまでに高め、その結果として生まれる強烈な性的渇望で、自らを焼き尽くそうとしていたんだ。あのまま放置すれば、身体が持たなかったかもしれない」 司は、壁に背中を預け、崩れ落ちそうになるのを必死で堪えた。私の、せい……? 私はただ、彼女を私と同じ土俵に上げたかっただけなのに。まさか、彼女の身体に、そんな爆弾が眠っていたなんて。だとしたら、父は……? あの人は、このことを知っていて、私にあの薬を? 戦慄が、背筋を駆け上った。 「行き場のない、暴走した性的欲求を鎮めるには、それを受け止め、適切に発散させてやるしかなかった」 蓮は、自らの半裸の身体を隠そうともせず、続けた。 「だが、通常の人間では彼女の相手は務まらない。薬によって極限まで高められた生命力と渇望を受け止めるには、こちらも同じ状態になる必要があった。僕がアンブロシアを飲んだのは、そのためだ。僕のしたことは、君に許されることではないかもしれない。だが、他に彼女を救う方法はなかった」 蓮の言葉には、一片の嘘も、言い訳も感じられなかった。ただ、あまりにも重い事実だけが、そこにあった。湊は、憎むべき男……父親かもしれないこの男が、確かに姉の命を救ったという、認めたくない事実を突きつけられた。怒り、嫉妬、そして感謝。その相反する感情の渦の中で、彼は再び言葉を失った。 その時だった。医務室の外の廊下で、何かが走り去る気配がした。湊は、はっとしてドアの方を振り返る。 「……誰だ」 蓮もまた、鋭い視線を廊下へと向けた。 湊は、弾かれたように医務室を飛び出した。廊下の先、薄暗い照明の中に、見覚えのある男の後ろ姿が遠ざかっていく。葉山洋介だ。おそらく、陽葵のことが心配で様子を見に来たのだろう。そして、自分たちの会話を、どこまでか聞いてしまったに違いない。 「待て!」 湊の怒声が、長い廊下に響き渡る。その声に、洋介の肩がびくりと震え、更に逃げ足が速まった。だが、高校生とはいえ、日々ダンスレッスンで鍛えている湊の脚力は、不摂生な生活を送るカメラマンの比ではない。あっという間に距離は縮まり、エレベーターホールにたどり着く直前で、湊は洋介の襟首を背後から掴み上げた。 「ぐえっ……!」 洋介の喉から、蛙が潰れたような声が漏れる。湊は、そのままの勢いで彼を壁に叩きつけた。 ドン、と。鈍い音が響き、洋介の身体から空気が押し出される。 「……お前、前から姉さんに薬を使ってただろ」 湊の声は、絶対零度の氷のように冷たく、低かった。洋介との不自然なほど急速な関係の進展。時折、陽葵が見せる不自然な昂ぶり。そのすべてが、今、一つの疑念となって線で結ばれたのだ。 洋介は、恐怖に顔を引きつらせ、必死に首を横に振る。 「し、知らねえよ! 俺は、何も……!」 「嘘をつくな。正直に話せば、今日のことは見逃してやる。だが、しらを切るなら……どうなるか、分かってるんだろうな」 湊の瞳は、もはや人間のそれではない。獲物を追い詰めた、飢えた狼の光をたたえている。その静かな狂気に、洋介は完全に恐怖に支配された。 「わ、わかった! 話す! 話すから、やめてくれ!」 観念した洋介は、途切れ途切れに、しかし洗いざらいすべてを白状し始めた。陽葵を篭絡するために、天道製薬から非合法に入手した『Ambrosia』を使っていたこと。しかし、陽葵がその薬に対して、異常なまでの感受性を示す特異な体質であることに気づいたこと。そして、その貴重な情報を、薬の入手ルートを通じて一条誠司に報告したこと。 「……今日のことは、本当に知らないんだ! 俺はただ、あの子の体質のことを、報告しただけで……! まさか、こんなことになるなんて……!」 「情報を流した、だと……?」 湊の脳裏で、すべてのピースがカチリと音を立ててはまった。 今日の事件。一条司は、綾乃に薬を渡した。綾乃は、陽葵にそれを飲ませた。だが、司自身も、あれほどまでの激しい発作が起きるとは予想していなかったはずだ。だとすれば、黒幕である一条誠司が、司に渡した薬に何か仕掛けをしていたとしか考えられない。 「……そうか。だからか」 湊は、洋介の襟首を、まるで汚い雑巾でも捨てるかのように放した。 「だから、一条誠司は姉さんの体質を知っていた。今日の薬は、事故なんかじゃない。そいつが、姉さんを潰すために、姉さんの体質に合わせて意図的に調合した、劇薬だったんだ……!」 その戦慄すべき結論に、湊は奥歯を強く噛み締めた。許せない。あの男だけは、絶対に。 湊は、床に崩れ落ちたままの洋介にはもはや何の興味も示さず、踵を返した。向かう先は、一つしかない。 医務室に戻ると、ドアの前で一条司が呆然と立ち尽くしていた。その顔は、血の気を失って真っ白になり、完璧に作り上げられていたはずの化粧は、涙の筋で僅かに乱れている。湊の姿を認めると、その瞳が怯えたように揺らいだ。 「……聞いたか」 湊の声は、静かだった。だが、その静けさこそが、嵐の前の不気味さをたたえている。 司は、こくりと小さく頷いた。声も出ないようだった。自分が信じてきた父親が、自分を騙し、血の繋がらない赤の他人だったという事実。そして、その育ての父が、自分の成功のため、異母姉妹かもしれない陽葵を実験動物のように扱い、破滅させようとしていたというおぞましい真実。それらは、彼女の強靭な精神を、いとも容易く粉々に打ち砕いていた。自分は、その邪悪な計画の、何も知らない駒でしかなかったのだ。 湊は、そんな彼女の姿に、怒りよりも先に、深い哀れみを感じていた。この女もまた、自分たちと同じ、親の因果に囚われた被害者なのだ。 「……立てるか」 湊は、壁に寄りかかったまま動けない司に、そっと手を差し伸べた。司は、戸惑ったようにその手を見つめる。 「……なぜ」 ようやく、か細い声が漏れた。 「なぜ、私に……優しくするの……? 私は、あなたの……姉を、あんな目に……」 「姉弟だからだ」 湊は、きっぱりと言い切った。 「あんたが、俺の父親の娘なら……あんたは、俺の姉だ。姉弟が、助け合うのは当然だろう」 その、あまりにも単純で、しかし力強い言葉に、司の瞳から、堰を切ったように大粒の涙が溢れ出した。それは、彼女が生まれてから、おそらく一度も流したことのない、弱くて、脆い、ただの少女の涙だった。 湊は、何も言わずに、崩れ落ちる司の身体を、その腕で強く抱きしめた。か細く震えるその背中を、まるで壊れ物を扱うかのように、優しく、何度も撫でる。 「……大丈夫だ。俺がいる」 その声は、驚くほど穏やかで、温かかった。 湊は、泣きじゃくる司を支えながら、医務室から少し離れた、リハーサルスタジオの仮眠室へと連れて行った。狭く、簡素なベッドが一つだけ置かれた、殺風景な部屋。だが、今の二人にとっては、外界の喧騒から逃れるための、唯一の聖域だった。 ベッドに司を座らせ、湊はその隣に腰を下ろした。司は、俯いたまま、まだしゃくり上げている。完璧な王子様の仮面は完全に剥がれ落ち、そこには傷つき、迷子のようになった一人の少女がいるだけだった。 「……ごめんなさい」 しばらくして、司がぽつりと呟いた。 「私が……私が、お父様の言うことを鵜呑みになんてしなければ……」 「あんたのせいじゃない」 湊は、静かに首を横に振った。 「悪いのは、俺たちを駒のように利用しようとした、一条誠司だ。あんたも、俺も、姉さんも……みんな、あの男の被害者だ」 その言葉に、司はゆっくりと顔を上げた。涙で濡れた瞳が、じっと湊を見つめている。 「……ありがとう」 掠れた声で、彼女は言いた。 「あなたにそう言ってもらえると……少しだけ、救われる気がするわ」 二人の間に、沈黙が流れた。それは、気まずいものではなく、互いの傷を静かに舐め合うような、穏やかな沈黙だった。親たちの因果に翻弄され、敵として出会ったはずの二人が、今、同じ痛みを共有する、最も近しい存在としてここにいる。その運命の皮肉さが、奇妙な連帯感となって二人を包み込んでいた。 湊は、そっと手を伸ばし、司の頬を伝う涙の雫を、親指の腹で優しく拭った。その指先に、熱い肌の感触が伝わる。司の身体が、びくりと小さく震えた。 「……寒いのか?」 「ううん……」 司は、かぶりを振った。だが、その瞳は潤んだまま、どこか別のものを求めているように、湊の上を彷徨っている。 湊は、その視線の意味を理解していた。彼女が求めているのは、言葉だけの慰めではない。絶望の淵に突き落とされた魂を、根底から救い上げるような、もっと根源的で、原始的な繋がり。肌と肌で、体温と鼓動で、互いの存在を確かめ合うこと。 血の繋がりが、あるのかもしれない。父親が、同じ男。その事実は、重い禁忌の枷となって湊の理性を縛り付ける。だが、それ以上に、目の前で打ちひしがれているこの美しい生き物を、このまま放ってはおけないという強い衝動が、彼の全身を突き動かしていた。 湊は、司の華奢な肩を、そっと両手で掴んだ。そして、ゆっくりと顔を近づけていく。司は、抵抗しなかった。むしろ、その行為を受け入れるかのように、そっと瞼を閉じる。 二人の唇が、ごく自然に重なり合った。最初は、互いの体温を確かめるような、優しい口づけ。涙の塩辛い味がした。やがて、その口づけは次第に深さと熱を帯びていく。湊は、司の後頭部に手を回し、その小さな身体を強く抱き寄せた。司もまた、湊の背中に腕を回し、その温もりに必死にしがみついた。 それは、欲望の発露というよりは、むしろ溺れる者が浮木にしがみつく行為に近かった。互いの孤独を埋め合わせ、ばらばらになった自己を、相手の中に探し求めるような、切実な交歓。 湊は、司をゆっくりとベッドの上に押し倒した。白いブラウスのボタンが、震える指によって一つ、また一つと外されていく。その下に現れたのは、神が精魂込めて作り上げた芸術品のように、完璧な曲線を描く肉体だった。これまで、幾度となく枕営業という名の取引で男たちに差し出されてきたその身体。しかし、その肌は驚くほど清らかで、神々しいまでの輝きを放っている。 湊の唇が、首筋から鎖骨へ、そして豊かな胸の谷間へと下っていく。その軌跡に、慰めと所有の印を刻みつけるように。 「ん……ぅ……」 司の喉から、甘く、か細い喘ぎが漏れた。それは、男を悦ばせるために計算された演技の声ではない。彼女自身の、魂の奥底から発せられた、純粋な快感の響きだった。 湊の手が、スカートの裾から滑り込み、滑らかな太ももを撫で上げた。薄いストッキング越しに伝わる、柔らかな肌の感触。その指先が、脚の付け根にある、湿り気を帯び始めた秘裂へと到達した時、司の身体がびくんと大きく跳ねた。 「……あ……っ」 湊は、それ以上は進まなかった。指はストッキングの上から、彼女が身に着けた下着の薄いクロッチ部分をそっと横にずらす。そして、再び秘裂の入り口へと戻ってきた。直接肌に触れているわけではない。しかし、間に隔てられたストッキングの薄いナイロン生地が、彼女の熱と湿り気を吸ってじっとりと肌に張り付き、その下の地形をより生々しく指先に伝えていた。 湊は、その場所を、ストッキングの上から、慈しむように、ゆっくりと円を描くように撫で続ける。その焦らすような優しい愛撫に、司の身体は内側からじわじわと熱を帯び、抗いがたい疼きに身を捩らせた。 「……湊……くん……」 掠れた声で、司が弟の名を呼んだ。その瞳は、熱っぽく潤み、懇願するような色を浮かべている。 もっと、深く。もっと、確かな繋がりを。その声なき声が、湊の最後の理性を焼き切った。 彼はストッキングの上から、その指先で秘裂をゆっくりと辿り始めた。ナイロン生地が、彼女の分泌した蜜を吸ってぬるりと滑る。直接触れるのとは違う、布一枚を隔てたもどかしくも濃厚な摩擦が、司の全身をこれまで経験したことのない種類の快感で満たしていった。 「ひゃっ……! あ、なに、これ……っ!」 司は、快感に抗うように首を左右に振るが、腰は正直に、湊の指の動きを受け入れるように揺れていた。枕営業で経験してきた、ただ相手を満足させるためだけの行為とは全く違う。自分のためだけに注がれる、純粋な快楽。その奔流に、彼女の心は蕩けるように溶かされていく。 湊の指は、ストッキング越しに、綾乃との交合で知り尽くした女の急所を的確に探り当てていく。複雑な襞の奥にある、小さく硬い蕾。そこを、指の腹で優しく、しかし執拗に円を描くようにこすり上げた。生地の目が細かい摩擦を生み、じりじりと焼けるような快感が、司の下腹部から全身へと広がっていく。 「あ、あ、あ……! だめ、そこは……っ、んんっ!」 湊の指が、一本、ストッキング越しに熱く濡れた道の内側へと、わずかにめり込むように圧をかけた。狭く、しかし驚くほど柔らかな内壁が、布越しに侵入者を吸い付くように迎え入れる。 「ん……ぅ、く……っ!」 ストッキングの生地が内壁に張り付き、指の動きに合わせてねっとりと粘膜を擦り上げる。その背徳的な感覚が、子宮の入り口近くにある、最も敏感な一点に触れた瞬間、司の視界が白く弾けた。全身が灼熱の痙攣に襲われ、意識が遠のいていく。指だけで、彼女は最初の絶頂を迎えてしまったのだ。 「はぁ……っ、はぁ……っ!」 荒い息をつきながら、ぐったりとベッドに身を沈める司。その蕩けきった表情は、これまで湊が見たことのない、無防備で、そして驚くほど清らかなものだった。完璧な仮面の下に隠されていた、本当の一条司。それは、ただ愛を求め、慰めを渇望する、一人の脆い少女の姿だった。 湊は、彼女を完全に解放してやりたいと、心の底から思った。親たちの呪縛からも、偽りの自分を演じ続ける苦しみからも。そのために自分にできることがあるのなら、何でもするつもりだった。たとえそれが、血の禁忌を犯すことであっても。 湊はゆっくりと指を引き抜くと、自らの制服のシャツのボタンを外し始めた。その無言の決意を、司は潤んだ瞳で見つめている。これから起きることを、彼女は受け入れようとしていた。いや、むしろ渇望しているのかもしれない。言葉だけの慰めでは埋められない魂の亀裂を、もっと原始的で、確かな熱で塞いでほしいと。 シャツを脱ぎ捨て、湊は自らの上半身を露わにする。まだ少年らしさを残しながらも、日々のレッスンで引き締まった筋肉が滑らかなラインを描いていた。次に、彼は司の白いブラウスを完全に剥ぎ取り、その下の繊細なレースのブラジャーのホックに手をかけた。カチリ、と小さな音を立てて解放された双丘は、重力に逆らうように美しく張り、その頂点は硬く尖っていた。それは、これまで数多の男たちを悦ばせてきた肉体の一部でありながら、まるで誰にも触れられたことのない聖域のような、侵しがたい気品を放っている。 湊は、その完璧な造形物に、まるで祈りを捧げる巡礼者のように、そっと唇を寄せた。肌の冷たさと、その奥に宿る熱。そのコントラストが、湊の全身をぞくりと震わせる。 「……ん」 司の喉から、甘い吐息が漏れた。湊はそのまま、スカートとストッキング、そして最後の防御壁であった小さな布地を、丁寧に、しかし確かな手つきで取り去っていく。やがて、一条司という存在のすべてが、仮眠室の薄暗い照明の下に、余すところなく晒された。 神が、美という概念を形にするならば、きっとこのような肉体になるのだろう。湊は、息を呑んだ。しなやかに伸びる四肢、くびれた腰のライン、そして豊かに盛り上がった胸と臀部。そのすべてが、黄金比とでも言うべき完璧な均衡で配置されている。枕営業という名の汚濁にその身を投じてきたはずだというのに、その肌は驚くほど清らかで、神々しいまでの輝きを放っている。湊は、その矛盾した存在の前に、ただひれ伏したいような衝動に駆られた。この身体は、多くの男に汚されたのかもしれない。だが、その魂は、誰にも触れられていない、気高い処女王のままなのだ。 「……綺麗だ」 無意識に、言葉がこぼれた。それは、これまで綾乃にも、そして陽葵にさえも、一度も口にしたことのない、魂の底からの賛辞だった。 その言葉に、司の身体がびくりと震えた。男たちから、その美貌を褒めそやされたことは数えきれないほどあった。だが、それらはすべて、彼女の肉体という商品に対する値踏みの言葉でしかなかった。湊の言葉は、違う。何の打算も、下心もない、純粋な敬意と憧憬が込められている。その清冽な響きが、司の心の最も柔らかな部分を、優しく撫でた。 湊は、自らの衣服もすべて脱ぎ捨てると、一条司という完璧な芸術品の上に、静かに身を重ねた。汗ばんだ肌と肌が触れ合った瞬間、びり、と電流のような快感が二人を貫く。 湊の唇が、再び司のそれを求めた。今度の口づけは、先ほどまでの慰めとは違う、明確な雄としての欲望の色を帯びていた。しかし、それは決して一方的なものではない。司の魂の扉を、内側から開かせるための、丁寧で、根気強い問いかけのようなキスだった。 「ん……ぅ……」 司の唇が、自然に開かれる。湊の舌が、その内側へと滑り込み、柔らかく湿った粘膜の感触を確かめた。司もまた、戸惑いながら、しかし拒むことなく、その舌を受け入れ、恐る恐る自分のそれを絡ませていく。 その身体は、男の扱いには慣れているはずだった。どうすれば相手が喜ぶのか、その手管は知り尽くしている。だが、湊を前にすると、そのすべてが無力化されてしまう。彼は、司がこれまで相手にしてきた男たちとは、何もかもが違った。彼の愛撫には、取引も、計算も、支配欲もない。ただ、目の前の存在を慈しみ、悦ばせたいという、純粋な祈りのような想いだけが込められていた。 湊の手が、豊かな乳房を優しく包み込む。指先が、硬く尖った突起に触れ、ゆっくりと転がすように刺激した。 「ひゃっ……!」 司の背筋を、甘い痺れが駆け抜ける。これまで、男たちが獣のように貪ってきた場所。だが、湊の指が触れると、まるで初めての刺激であるかのように、身体が敏感に反応する。快感を受け止めるための土壌は、これまでの経験によって十分に耕されている。しかし、そこに蒔かれた種が、初めて本物の愛情という水を与えられ、驚くべき速度で芽吹いていくようだった。 「あ……ぁ……湊、くん……」 喘ぎ声に、弟の名が混じる。その響きは、湊の欲望を更に煽り立てた。彼は、司の身体の隅々まで、まるで聖地を巡礼するかのように、その唇と指先で探っていく。耳朶、首筋、脇の下、そして臍の周り。男たちが素通りしていくような、何でもない場所さえも、湊は時間をかけて丁寧に愛撫した。その度に、司はこれまで知らなかった、自分自身の身体の感受性の深さに驚かされた。 やがて、湊の手はゆっくりと下腹部へと降りていき、潤んだ秘裂へとたどり着いた。 「……っ」 司の身体が、緊張にこわばる。ここから先は、いつも取引の領域だった。心を閉ざし、ただ相手の欲望を受け入れるための、空虚な器となる場所。だが、湊は違う。彼の指は、その聖域の入り口を、まるで神殿の扉でも開くかのように、敬虔な手つきでゆっくりと押し開いた。 「あ……ん、ぅ……!」 内側の、柔らかく熱い粘膜に指先が触れた瞬間、司の思考は灼熱の快感で白く染まった。違う。いつもの、あの空虚な感覚とは、全く違う。魂の芯が、直接揺さぶられるような、深く、そして抗いがたい悦び。 湊の指は、綾乃との交合で知り尽くした女の急所を的確に探り当てながらも、その動きは決して機械的ではなかった。司の身体の反応を一つ一つ確かめ、彼女が最も感じる場所を、まるで対話するように、優しく、そして執拗に刺激し続ける。 「あ、あ、あ……! まって、湊、くん……そんな……ふ、かく……っ!」 司の腰が、意思とは無関係に浮き上がり、自ら湊の指を求めるように揺れ始めた。もう、プライドも、計算も、何もかもどうでもよくなっていた。ただ、この弟が与えてくれる、未知の快感にもっと溺れたい。その本能的な欲求だけが、彼女の全身を支配していた。 「司……」 湊が、掠れた声で姉の名を呼んだ。その声に応えるように、司の内壁がきゅうっと収縮する。もう、限界だった。言葉はいらない。身体が、魂が、もっと深く、確かな結合を求めて叫んでいる。 湊は、ゆっくりと指を引き抜くと、自らの昂りを剥き出しにした。それは、若さ故の猛々しさと、司への想いの強さによって、驚くほどの熱と硬さを宿している。彼は、その熱の塊の先端を、既に蜜で濡れそぼった入り口にそっと押し当てた。 「……っ!」 司の全身が、期待と、そして微かな恐怖に震えた。血の繋がり。禁断の果実。その背徳感が、これから始まる儀式を、より神聖で、冒涜的なものへと昇華させていく。 湊は、司の潤んだ瞳を真っ直ぐに見つめ返した。そして、まるで誓いを立てるかのように、ゆっくりと腰を沈めていった。 みしり、と肌理の細かい内壁が引き伸ばされるような湿った響きが、静かな仮眠室に響き渡る。狭く、しかし驚くほど熱く柔らかな肉壁が、ゆっくりと、しかし確実に侵入者を受け入れていく。その灼熱の締め付けに、湊の喉からもうめき声が漏れた。 「……あ……ぁ……」 司の口からも、快感と、そして初めて本当の意味で満たされることへの安堵が入り混じった、深い溜息がこぼれた。違う。いつもの、あの男たちのものとは、何もかもが違う。ただ肉体を貫くだけの、空虚な杭ではない。これは、自分の魂の最も奥深い場所まで届き、その孤独を温めてくれる、命の熱そのものだ。 根元まで完全に結合した瞬間、二人は動きを止めた。ただ、深く繋がり合ったまま、互いの鼓動と体温を感じ合う。それは、言葉よりも遥かに雄弁な対話だった。お前は一人じゃない。俺がいる。私がいる。その声なき声が、肌を通して互いの魂に直接響き渡る。 やがて、湊が静かに腰を動かし始めた。それは、激しい律動ではなかった。まるで大切な宝物を扱うかのように、優しく、そして慈しむような動き。一突きごとに、司の身体の奥深くを、確かめるように圧迫し、そしてゆっくりと離れていく。その度に、司の身体の芯から、これまで経験したことのない、甘く痺れるような快感の波紋が広がっていった。 「ん……ぅ、く……っ、あ……」 司は、もはや自分がどうなってしまうのか分からなかった。これまで、快感とは常に切り離してきたはずの心が、身体と完全に同期し、共に悦びに打ち震えている。枕営業で身につけた、男を悦ばせるためのテクニックなど、何の役にも立たない。ただ、無防備に、ありのままの自分を晒し、湊が与えてくれる快感のすべてを、魂で受け止めることしかできなかった。 「司……気持ちいいか……?」 湊が、喘ぎ混じりに尋ねる。その問いに、司は涙を浮かべながら、何度も、何度も頷いた。 「……うん……っ、きもち、い……。こんなの、はじめて……」 その、あまりにも純真な答えが、湊の欲望の最後の堰を破壊した。彼は、獣のような低い唸り声を上げると、それまでの優しさとは打って変わって、激しく腰を突き上げ始めた。それは、司を傷つけるための暴力ではない。彼女の魂を縛り付けている、過去という名の鎖を断ち切るための、荒々しくも愛に満ちた破砕の律動だった。 「ひゃっ……! あ、あ、あ、あぁんっ!」 突然の嵐のような快楽に、司の身体はなすすべもなく翻弄される。ベッドがぎしぎしと悲鳴を上げ、汗ばんだ肌がぶつかり合う生々しい音が、部屋の空気を満たしていく。だが、その激しさの中に、司は不思議な安らぎを感じていた。この嵐が、自分のすべてを洗い流し、新しい自分へと生まれ変わらせてくれる。そんな、確信にも似た予感があった。 「あ、あ、あぁ……! みなと、くん……! もっと、もっと、はげしく……!」 司の唇から紡がれるのは、もはや懇願ではなかった。それは命令であり、渇望の叫びだった。彼女は湊の首に腕を強く絡め、自らの脚でその腰をきつく締め付け、逃がさないとばかりに引き寄せる。もっと深く、もっと奥まで、あなたのすべてで私を満たしてほしい。その無言の要求が、肌を通して湊の全身に伝わってきた。 「司……っ!」 湊もまた、獣のような咆哮で応えた。理性の箍はとうの昔に吹き飛び、今はただ、目の前の女を悦ばせたい、その魂ごと自分のものにしたいという、純粋で暴力的なまでの衝動に突き動かされている。腰の動きは、もはや人間のそれではない。精密な機械のように、寸分の狂いもなく、司の最も感じやすい一点を、的確に、そして容赦なく穿ち続けた。 快感の波が、次から次へと、休む間もなく司の全身を襲う。脳髄が灼熱の痺れで焼き切れそうだった。視界は白く点滅し、思考は完全に麻痺している。自分が誰で、ここがどこなのかさえ、もう分からなかった。ただ、自分の内側で荒れ狂う、弟の熱い昂りの感触だけが、世界のすべてだった。 「あ……あああああっ……!」 不意に、湊が動きを止めた。そして、司の身体の最も奥深い場所を、ぐ、と力強く押し付けた。その瞬間、司の身体の内側で、何かが弾け飛んだ。これまで経験したことのない、魂ごと宇宙の果てまで打ち上げられるような、圧倒的なスケールの絶頂。それは、もはや快感という言葉では表現できない、存在そのものが生まれ変わるような、至福の感覚だった。 「……っ、は、ぁ……っ、ぁ……」 涙が、目尻から止めどなく溢れ出した。だが、それは悲しみの涙ではない。生まれて初めて知った、本当の意味で愛されることの歓び。満たされることの幸福感。そのすべてが、温かい雫となって頬を伝っていく。 司の胎内が、絶頂の痙攣によって、意思とは無関係にきゅう、きゅうと収縮する。その灼熱の締め付けが、限界寸前だった湊の最後の理性を引きちぎった。 「……う、おおおおっ!」 低く、長い咆哮と共に、湊の腰が大きく跳ねた。堰を切ったように、熱く濃厚な奔流が、彼の昂りから解き放たれる。その瞬間、湊は最後の力を振り絞って腰を引き、奔流を彼女の身体の外へと逃がそうとした。禁断の果実を、その胎内に宿すわけにはいかない。理性の最後の欠片が、彼にそう叫んでいた。 だが、禁断の扉は、一度開いてしまえばもう元には戻らない。 湊の撤退の意思を、しかし司の身体が許さなかった。絶頂の頂点で、彼女の全身の筋肉は意思とは無関係に、しかし力強く収縮していた。湊の腰に絡みついたしなやかな両脚は、まるで鋼の蔦のようにその身を締め付け、逃亡を許さない。そして、内壁の筋肉もまた、獲物を逃がすまいとする食虫植物のように、彼の昂りをきゅう、と強く締め上げた。 「……っ、ぐ……!」 湊の喉から、苦悶とも快感ともつかない声が漏れる。逃げられない。その絶望的な事実を悟った瞬間、彼の身体もまた、最後の抵抗を諦めた。 びゅっ、と。 熱く、鋭い奔流の第一波が、司の胎内の最も奥深く、神聖な聖域である子宮口へと直接叩きつけられた。禁断の種が、確かに蒔かれてしまった瞬間だった。 「……しまっ……!」 その灼熱の感触に、湊は我に返った。彼は残された最後の力を振り絞り、司の鋼鉄の抱擁をこじ開けるようにして、強引に腰を引き抜いた。 ずるり、と。生々しい音を立てて結合が解かれる。だが、時すでに遅し。彼の昂りから放たれる奔流は、まだ終わっていなかった。外へと引きずり出された熱の塊は、その勢いのままに、第二、第三の波を続け様に迸らせる。白く、濁った濃厚な液体が、放物線を描いて宙を舞い、司のしなやかな腹部から、豊かな胸の谷間にかけて、無惨なまでに降りかかった。 「はぁ……っ、はぁ……っ、はぁ……」 すべてを放出し終えた湊は、荒い息を繰り返しながら、ぐったりと司の身体の上に倒れ込んだ。仮眠室の静寂の中に、二人の乱れた呼吸音と、早鐘のように鳴り響く心臓の鼓動だけが響き渡る。汗と、そして男女の交わりの後だけが放つ、濃厚で甘い匂いが、狭い部屋の空気を満たしていた。 やってしまった。 湊の頭の中を、その後悔の念がぐるぐると回る。血の繋がった姉かもしれない女を抱き、そして、その胎内に自らの種を注いでしまった。許されざる罪。取り返しのつかない過ち。これから、自分たちはどうなってしまうのか。どんな顔をして、陽葵に会えばいいのか。絶望的な思考が、彼の心を暗く支配しようとしていた。 その、時だった。 「……くすっ」 腕の中で、か細い、しかし確かな笑い声が聞こえた。湊は、はっとして顔を上げる。 見ると、司が肩を震わせ、必死に笑いを堪えているところだった。その口元には、自嘲でも、嘲笑でもない、純粋な可笑しみが浮かんでいる。やがて、堪えきれなくなったのか、彼女は「あはは」と声を上げて笑い出した。涙で濡れたその顔は、完璧な仮面が剥がれ落ち、年相応の少女の無邪気さを取り戻していた。 「……なぜ、笑うんだ」 湊は、呆然と尋ねた。この、絶望的な状況のどこに、笑う要素があるというのか。 司は、ひとしきり笑った後、まだ笑いの余韻で潤んだ瞳で、じっと湊を見上げた。そして、自分の腹部や胸元に飛び散った、生々しい白濁の痕跡を、愛おしげに指先でそっとなぞる。 「……だって」 彼女は、悪戯っぽく唇の端を吊り上げた。その表情は、かつての氷の女王のそれとは全く違う、温かく、そして人間味に溢れたものだった。 「格好が、つかないんですもの。あなた」 その、あまりにも予想外の言葉に、湊は完全に毒気を抜かれてしまった。そうだ。自分は、最後の最後で理性を働かせ、禁忌を犯すまいと必死になった。それなのに、結果はこのザマだ。中途半端に中に注ぎ、残りは無様に撒き散らす。格好悪いにも、ほどがある。 「……うるさい」 湊は、照れ隠しにそう呟くと、顔を赤らめて司の肩口に顔を埋めた。そんな彼の姿に、司は再びくすくすと喉を鳴らして笑う。 その笑い声は、まるで浄化の雨のようだった。湊の心を苛んでいた罪悪感も、司の魂を縛り付けていた絶望も、その清らかな響きの中に、少しずつ溶けていくようだった。 二人は、しばらくの間、何も言わずにただ抱きしめ合っていた。肌に触れる互いの体温だけが、今ここにある唯一の真実だった。敵として出会い、親たちの因果に翻弄され、そして禁断の罪を分かち合った姉と弟。その歪で、しかし他に代えがたい絆が、確かに生まれた瞬間だった。 この仮眠室の外には、まだ解決しなければならない問題が山積みになっている。邪悪な計画を企む育ての父。薬に蝕まれた陽葵の運命。そして、自分たちの、これから。 だが、今は、それでよかった。 少なくとも、もう一人ではない。共に戦い、共に傷つき、そして共に支え合う存在が、すぐ隣にいる。その事実だけが、暗闇の中に差し込む、一筋の確かな光のように思えた。 湊は、司の汗ばんだ髪を優しく撫でた。司もまた、湊の広い背中に、そっと腕を回し返す。言葉はいらない。ただ、互いの存在を確かめ合うように、二つの孤独な魂は、夜が明けるまで、静かに、そして固く寄り添い続けていた。 # パート8 仮眠室の硬いベッドの上で、二つの身体は夜明けの白い光に照らし出されていた。 一条司は、湊の腕の中で穏やかな寝息を立てている。完璧な化粧は涙と汗で崩れ落ち、その下に現れた素顔は、年相応のあどけなさと、これまで彼女がひた隠しにしてきたであろう硝子細工のような脆さを、ありのままに晒していた。湊は、眠る姉の額にかかった黒髪をそっと指で払いながら、昨夜の出来事を反芻していた。 敵として出会ったはずの少女。その完璧な仮面の下に隠されていた、信じられないほどの脆さと孤独。そして、血の繋がりという禁忌の枷を打ち破って交わし合った、肌の温もり。あれは、ただの欲望の発露ではなかった。互いの魂の欠片を拾い集め、ばらばらになった自己を繋ぎ合わせるための、必死で、そして切実な儀式だったように思う。 注いでしまった。その事実だけが、鉛のような重みとなって胸の奥に沈んでいる。だが、後悔はなかった。いや、後悔している暇などない。自分たちが向き合うべき現実は、この狭い仮眠室の外で、今も刻一刻と動いているのだから。 「……ん」 腕の中で、司が小さく身じろぎした。ゆっくりと瞼が開かれ、少しだけ焦点の合わない瞳が、湊の顔を捉える。 「……おはよう、湊」 掠れた声で、彼女は言った。そこにはもう、一条司という完璧なアイドルが纏っていた氷の鎧の欠片もなかった。ただ、一人の少女がいるだけだった。 「……おはようございます、司さん」 咄嗟に出た、他人行儀な敬語。そのぎこちなさに、二人はどちらからともなく、ふっと小さく吹き出した。 「……姉さん、でいい」 司は、少しだけ顔を赤らめながら、湊の胸に顔を埋めた。 「その方が、しっくりくるわ」 「……ああ。姉さん」 湊は、そのか細い身体を、壊れ物を抱きしめるように、そっと抱き返した。言葉はいらない。ただ、互いの存在を確かめ合うように。 長い沈黙の後、先に口を開いたのは司だった。 「……行かなければ」 その声には、昨夜までの弱々しさは消え、凛とした決意の響きが戻っていた。 「父……いいえ、一条誠司のもとへ。すべての嘘を正し、そして、すべての罪を終わらせるために」 「一人で行く気か」 「当たり前でしょう。これは、私の……私たち家族の問題なのだから」 その瞳には、再び強い光が宿っていた。だが、湊はその細い肩を掴むと、静かに首を横に振る。 「違う。もう、あんた一人の問題じゃない。俺も行く。それに……あの人も、行きたがっているはずだ」 湊の脳裏に、ガラス玉のような瞳を持つ男の姿が浮かんでいた。皐月蓮。自分たちの、そして司の、血を分けた父親。十五年前に終わらせることができなかった因果に、彼自身が終止符を打ちたいと願っているはずだ。 三人の影が、夜明け前の静かな廊下を並んで歩いていた。 湊と司、そして、彼らの前に立つ皐月蓮。 医務室で陽葵が眠り続けているのを確認した後、湊は蓮にすべてを話した。一条誠司の計画、そして司との間に起きたこと。蓮は、何も言わずにただ静かに聞いていたが、その瞳の奥で、青い炎のような静かな怒りが燃え盛っているのを湊は見て取った。 「……誠司の研究室は、天道製薬の本社ビル最上階にある。おそらく、彼は今もそこにいるはずだ」 蓮は、それだけを短く告げた。その声は、かつて橘瑠衣と呼ばれた少年が纏っていた、どこか中性的な響きではなく、幾多の修羅場を潜り抜けてきた男の、低く、重い響きを帯びていた。 専用車に乗り込み、まだ眠りから覚めやらぬ街を走り抜ける。車内には、重い沈黙が流れていた。誰もが、これから始まるであろう最後の戦いを前に、自らの心を研ぎ澄ませている。湊は、隣に座る司の手を、そっと握った。彼女の指先は、氷のように冷たく、微かに震えていた。 天道製薬本社ビル。ガラスと鉄骨でできた、天を突くような巨大な建造物。それは、日本の医療と化学の発展を象徴する光の塔であると同時に、その影で数々の禁忌を犯してきた、闇のバベルの塔でもあった。 蓮が顔パスでセキュリティを通り抜け、三人は専用エレベーターで最上階へと昇っていく。滑るように上昇していく箱の中で、湊は息を詰めた。隣で、司がごくりと喉を鳴らす音が聞こえる。 やがて、重厚な音と共に扉が開かれた。目の前に現れたのは、一つの巨大な扉。そこが、一条誠司の研究室であり、すべての元凶が生まれた場所だった。 蓮が、躊躇なくその扉を開ける。 中は、湊が想像していたような、無機質な実験室ではなかった。むしろ、クラシックな書斎といった方が近い。壁一面を埋め尽くす、天井まで届く本棚。そこには、薬学や遺伝子工学に関する専門書に混じって、哲学書や詩集、画集などが並んでいる。部屋の中央には、重厚なマホガニーのデスク。そして、窓の外に広がる東京のパノラマを一望できるその窓辺に、一人の男が背を向けて立っていた。 白衣を纏った、背の高い男。白髪混じりの髪を、後ろで無造作に束ねている。一条誠司。その人だった。 「……来ると思っていたよ、蓮くん」 誠司は、振り返らないまま、静かに言った。その声は、穏やかで、知性に満ちていた。だが、その奥には、常人には理解しがたい、深い狂気が潜んでいる。 「そして……司。お前も、来たか」 ゆっくりと、誠司が振り返る。その顔は、メディアで見たことのある、厳格な科学者のそれだった。だが、娘である司に向けるその瞳には、確かに愛情の色が浮かんでいる。歪んで、屈折してはいるが、紛れもない父親としての愛が。 「お父様」 司は、震える声で呼びかけた。だが、すぐにその言葉を訂正する。 「……いいえ。一条誠司さん。私は、あなたに聞かなければならないことがあります」 一歩、前に進み出る。その小さな身体には、今、彼女が持ちうるすべての勇気が込められていた。 「高橋陽葵さんに渡した、あの薬。あれは何ですの? あなたは、あれが『彼女の才能を最大限に引き出し、私と対等なコンディションで競わせるための薬』だとおっしゃいました。けれど、あれは……人の命を危険に晒すほどの劇薬だった。あなたは、私に嘘をついていたのですね?」 その問いに、誠司は僅かに眉をひそめた。だが、悪びれる様子はない。まるで、想定外の質問に戸惑う子供にするように、僅かに首を傾げた。 「嘘か。言葉の捉え方の問題だよ、司。あれは、確かに彼女の才能を『最大限に』引き出した。彼女の母親譲りの特異な体質は、常人の許容量を遥かに超えた領域でこそ真に覚醒する。その結果、彼女がステージに立てないほどの負荷を心身に負うことになったとしても、それは計算の内だ」 「計算の、内ですって……?」 司は、絶句した。目の前の男が、まるで異星の言語でも話しているかのように感じられた。自分が信じてきた父親の論理が、理解の範疇を遥かに超えている。 「そうだ」 誠司は、こともなげに頷いた。その瞳は、純粋な科学者の探究心と、娘を思う父親の歪んだ愛情で、不気味なほど澄み切っている。 「高橋陽葵という規格外の存在をステージから排除する。そうすれば、君の前に敵はいなくなる。結果的に、あれは君を勝たせるための薬だったのだ。私は、君の勝利のために最善の策を講じたに過ぎない。何か、間違っているかね?」 「間違っているに決まっているでしょう!」 司の絶叫が、静かな研究室に響き渡った。 「私は、そんなことは望んでいない! 私は、彼女と正々堂々競い合い、その上で勝ちたかった! こんな、卑劣なやり方で手に入れた勝利など、何の意味もないわ!」 「甘いな、司」 誠司は、心底呆れたようにため息をついた。 「頂点に立つ者は、誰よりも強く、そして孤独でなければならないのだ。ライバルなどという感傷は、弱者の戯言に過ぎん。黒瀬玲奈くんのように、目先の競争心に囚われて道を誤ってほしくない。だからこそ、私が君のために、汚れ役も引き受け、最善の道を選んでやるしかなかったのだ」 その言葉は、もはや対話ではなかった。自らの信じる正義を、一方的に押し付けるだけの、独善的な説法だ。 その時、それまで黙って成り行きを見守っていた湊が、静かに口を開いた。 「……あんたは、自分の理想を、司さんに押し付けているだけだ」 誠司の視線が、初めて湊を捉えた。その瞳には、値踏みするような、冷たい光が宿っている。 「君は……高橋和也の養子か。なるほど、君もまた、あの楽園の遺物というわけだ」 「あんたは、司さんのことを、本当に自分の娘だと思っているのか?」 湊は、その挑発には乗らず、問いを続けた。 「血の繋がらない娘に、あんたが作り出した薬の力を与え、アンブロシアという存在と同一化させることで……薬(じぶん)と一体になった司さんを、あんた自身の『本当の子』として扱おうとしているだけなんじゃないのか」 その言葉は、誠司の最も触れられたくない核心を、容赦なく抉り出した。 誠司の表情が、初めて凍りつく。図星だったのだ。彼は、何も言い返すことができない。ただ、唇をわななかせるだけだった。血の繋がらない娘。その埋めがたい断絶感を、彼は自らが作り出した薬によって埋めようとしていた。司が薬の力で輝けば輝くほど、それは誠司自身の成果となり、司という存在は誠司の作品、ひいては彼自身の一部となる。それは、父親の愛などという生易しいものではない。創造主が、被造物に注ぐ、歪んだ支配欲そのものだった。 「……黙れ」 ようやく、誠司が絞り出した声は、怒りに震えていた。 「君たちのような子供に、私の……私と翔子の想いが、分かってたまるか!」 「翔子……?」 司が、その名に反応した。自分の、実の母親の名。 「そうだ。アンブロシアは、セレスティアル・ネクターは、私と翔子の愛の結晶なのだよ! 彼女は、才能ある若者が、枕営業のような汚れた手段に頼ることなく、自らの力で輝ける世界を望んだ。その崇高な理想を実現するために、私は彼女と共に、この薬を開発した! これは、我々の愛と理想の、確かな証なのだ!」 誠司は、狂信者のように、自らの研究の正当性を叫んだ。だが、その理想は、十五年という歳月の中で、醜く歪んでしまっていた。 「理想、だって?」 湊は、冷ややかに鼻を鳴らした。 「あんたが作ったアンブロシアの現状が、どうなっているか知っているのか? 枕営業のための都合のいい道具、男が女を食い物にするための媚薬。それが、あんたの言う『崇高な理想』の成れの果てだ。翔子さんの理想とは、かけ離れているどころじゃない。真逆だ」 「な……に……?」 誠司は、信じられないといった表情で湊を見つめた。 「あんたは、知らなかったのか? 司さんが、あんたの薬を使って、何度も枕営業を繰り返してきたことを」 その言葉は、決定的な一撃となった。 誠司の顔から、急速に血の気が引いていく。その視線が、助けを求めるように、娘である司へと注がれた。 「……司? 今、彼が言ったことは……本当、なのか……?」 震える声だった。 司は、もはや父親ではないこの男から、視線を逸らすことができなかった。その瞳に浮かんだ、純粋な驚愕と、深い絶望の色。その表情を見て、今度は司の方が困惑した。 「……ご存知、なかったのですか?」 てっきり、知っているものだと思っていた。いや、むしろ、父の期待に応えるため、頂点に立つためなら、どんな手段も厭わない自分のやり方を、彼が肯定してくれているとさえ思っていた。枕営業もまた、そのための必要悪なのだと。なのに、この反応はなんだ。 「知るものか! 私が、お前にそんな……そんな汚らわしい真似を、許すはずがないだろう!」 誠司の絶叫が、研究室に響き渡った。 「私は、お前がそんな道を選ばずに済むように、この力をお前に与えたのではなかったのか! 翔子の理想を、お前自身が汚すなどと……!」 「私のせいだとおっしゃるの!?」 今度は、司が激昂する番だった。 「私は、あなたのお人形じゃない! 一人の人間よ! あなたの期待に応えるために、あなたの望む『完璧な一条司』を演じるために、私がどれだけ必死だったか、あなたに分かりはしない!」 「分かっているさ! だからこそ、私はお前に最高の力を与えてやった! なのに、お前はそれを正しく使わず、道を誤った! 私の教えが、足りなかったというのか!」 「あなたの教えは、いつも一方的だったわ! 私の気持ちなんて、一度だって聞いてくれようとはしなかったじゃない!」 それは、もはや論理的な対話ではなかった。これまで溜め込んできた、互いへの不満と、しかしその根底にある断ち切れない情愛が、歪んだ形で噴出した、醜くも哀しい口論。 それは、ある種の、どこにでもあるありふれた父と娘のすれ違いの光景だった。そして、皮肉にも、その事実こそが、二人の間に血の繋がりはなくとも、確かに親子の愛情が存在したことの、何よりの証明となっている。 その痛々しい光景を、蓮は静かに見つめていた。やがて、彼はゆっくりと傷ついた獣のように肩を落とす誠司に歩み寄った。 「……誠司さん」 その声は、驚くほど穏やかだった。 「あなたの理想は、間違ってはいなかった。セレスティアル・ネクターの存在は、あの頃の僕たちStarlight Prismにとって、確かに希望の光だった。それは、紛れもない事実だ」 その、思いがけない肯定の言葉に、誠司ははっと顔を上げた。 「……蓮、くん……」 「僕たちは、その光に魅入られ、そして焼かれた。だが、後悔はしていない。あの一瞬の輝きは、僕たちの人生にとって、かけがえのない宝物だった。だから……もう、いいんだ。もう、自分を責めるのは、やめにしないか」 蓮は、そっと誠司の肩に手を置いた。その手から伝わる温もりに、誠司の強張っていた身体から、ゆっくりと力が抜けていく。 「……私は」 誠司の目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。 「私は、ただ……翔子との約束を、守りたかっただけなんだ。ひなたくんを……救えなかった、あの過ちを、二度と繰り返したくなかった……」 嗚咽混じりに、彼は告白した。 誠司は、デスクの引き出しから、厳重にケースに収められた一つのカプセルを取り出した。そして、それを震える手で、蓮に差し出す。 「……これを、高橋陽葵くんに」 「これは……?」 「中和剤だ。彼女の特異な体質を、抑制するための薬だよ。かつて、白石ひなたくんの延命のために開発を進めていたが……間に合わなかったものだ」 誠司の顔に、深い悔恨の色が浮かぶ。 「私は、元々、陽葵くんをステージから引きずり下ろした後で、これを彼女に渡すつもりだった。先天的な短命の宿命から、彼女を救うために。……勝手な話だが、君に託すのが一番いいだろう。君なら、正しい使い方をしてくれるはずだ」 その言葉を聞いた瞬間、湊は絶句した。 陽葵をステージから引きずり下ろす。その目的は、司を勝たせるためだけではなかったのだ。リハーサルで使われた薬は、確かに陽葵のアイドル生命を社会的に抹殺するための、卑劣な罠だった。衆人環視の中で理性を失わせ、醜態を晒させる。しかし、その薬の量は、彼女の命そのものを脅かすものではなかったはずだ。緻密に、計算され尽くしていたに違いない。 なぜなら、誠司は陽葵を殺すつもりなど毛頭なく、むしろ、その先で彼女を『救う』つもりだったからだ。ステージに立ち続ける限り、あの特異体質は陽葵の命を確実に蝕んでいく。ならば、強制的にそこから退場させる。それは、娘を勝たせるための非道な策であると同時に、陽葵を短命の宿命から解放するための、あまりにも歪んだ善意の発露だったのだ。 犠牲者を出さない薬。彼の理想は、その根底で一貫していた。湊は、戦慄した。この男は、ただの狂気の科学者ではない。その行動のすべてが、身勝手で、独善的で、しかし紛れもない彼なりの愛と善意に基づいている。そのおぞましいまでの純粋さを理解してしまった今、もはやこの男を単純な悪として断罪することはできなかった。 蓮は、静かにそのカプセルを受け取った。それは、十五年という歳月を経て、ようやく手渡された、過去からの贖罪のバトンだった。 天道製薬本社ビルを後にする三人を乗せた車内は、夜明け前の街の静寂を映したかのように、重い沈黙に支配されていた。 湊は、隣に座る司の手を、そっと握った。彼女の指先は、氷のように冷たく、微かに震えている。彼は何も言わず、ただその手を温めるように、強く、しかし優しく握り返した。司もまた、何も言わなかった。ただ、窓の外を流れていく景色を、虚ろな瞳で見つめている。父親だと思っていた男は、血の繋がらない他人だった。そして、その男が自分に注いできた愛情は、狂気と独善にまみれた、歪んだものだった。彼女がこれまで信じてきた世界のすべてが、音を立てて崩れ去ったのだ。 運転席と助手席の間にある防音ガラスの向こう側で、蓮が静かに車を走らせている。その横顔は、能面のように無表情だったが、湊にはその内に渦巻く、嵐のような感情が手に取るように分かった。過去の共犯者との再会。娘との、あまりにも残酷な形での邂逅。そして、これから自分が背負わなければならない、新たな世代への責任。 誰もが、あまりにも重すぎる荷物をその背に負っていた。だが、不思議と絶望は感じなかった。むしろ、すべての嘘が暴かれ、すべての膿が出し尽くされた今、ようやく本当の意味で、自分たちの物語が始まるのだという、静かな予感があった。 医務室のベッドで、陽葵はゆっくりと目を覚ました。 身体を支配していた嵐のような熱は、嘘のように消え去っている。だが、その代わりに、全身を気怠い倦怠感が包んでいた。そして、身体の奥深く、子宮の辺りに、微かな、しかし確かな疼きと、誰かの熱の残滓が残っている。 「……ん」 身を起こそうとして、自分がステージ衣装ではなく、簡素な病衣に着替えさせられていることに気づいた。記憶が、曖昧だ。リハーサルの直前に、綾乃先生からドリンクを貰って……そこからの記憶が、ぷっつりと途切れている。 「……気がついたか」 不意に、静かな声がした。見ると、ベッドの脇の椅子に、湊が座っていた。その顔には、深い疲労と、これまで見たことのないような、複雑な色が浮かんでいる。 「湊……私、どうしたの……?」 「……発作が起きたんだ。薬のせいだ」 湊は、淡々と事実を告げた。その声は、なぜかひどくよそよそしく聞こえた。 「でも、もう大丈夫だ。皐月プロデューサーが……助けてくれた」 「蓮さんが……?」 陽葵は、きょとんとした。あの、冷たいガラス玉のような瞳をしたプロデューサーが、自分を? 俄かには信じがたい話だった。 湊は、それ以上は何も語らなかった。ただ、小さなケースに入った一つのカプセルを陽葵の前に差し出す。 「……これ」 「何、これ……?」 「中和剤だ。姉さんの、特異な体質を抑えるための薬だそうだ」 湊は、蓮から聞いたすべてを、陽葵に説明した。陽葵の母親、白石ひなたが、先天的に短命を宿命づけられた特異体質の持ち主であったこと。そして、陽葵もまた、その血を色濃く受け継いでいる可能性が高いこと。この薬を飲めば、その体質を抑制し、普通の人間と同じように、寿命を全うすることができる。だが、その代償として……。 「……アイドルとしての、特別な輝きは、失われるかもしれない」 その言葉は、陽葵にとって、死の宣告にも等しい響きを持っていた。 歌うこと。踊ること。ステージの上で輝くこと。それは、物心ついた時から、彼女のすべてだった。血が、そうさせていたのかもしれない。だが、たとえそうだとしても、それを失ってしまった自分に、一体何が残るというのだろう。 寿命と、アイドルの輝き。 究極の選択を、彼女は迫られていた。 「……考えさせて」 陽葵の声は、か細く震えていた。湊は、何も言わずにこくりと頷くと、カプセルをベッドサイドのテーブルに置き、静かに医務室を出ていった。 一人残された部屋で、陽葵は膝を抱えたまま、じっとその小さなカプセルを見つめていた。半透明のゼラチン質に包まれた、白い粉末。それは、彼女にとって、命の霊薬であると同時に、魂を殺す毒でもあった。 どうすれば、いいの。 答えの出ない問いが、陽葵の心を重く支配していた。 その夜、陽葵は自室のベッドの上で、眠れぬ時間を過ごしていた。 中和剤を飲むべきか、否か。答えは、出ない。 ステージに立てない人生など、考えられない。だが、若くして死んでいったという母親と同じ運命を、自分が辿るかもしれないという恐怖も、確かにあった。湊を、養父の和也を、そして新しくできた仲間たちを、悲しませたくない。 思考が、堂々巡りを繰り返す。 コンコン、と。控えめなノックの音。 「……陽葵? 起きてるか?」 湊の声だった。 「……うん」 ドアが静かに開き、湊が入ってきた。彼は、何も言わずに陽葵のベッドの端に腰を下ろす。二人の間に、気まずい沈黙が流れた。 あのリハーサルの日以来、二人の関係は更にぎこちないものになっていた。互いの身に起きた、あまりにも多くの出来事。知ってしまった、あまりにも重い真実。それらが、見えない壁となって二人を隔てている。 「……ごめん」 先に沈黙を破ったのは、陽葵だった。 「私……湊が、綾乃先生と会ってること、知ってた。葉山さんと会ってるのも、湊への当てつけみたいな気持ちが、どこかにあったんだと思う」 「……俺もだ」 湊が、静かに応じた。 「俺も、姉さんが葉山と会ってるのが、許せなかった。嫉妬、してたんだと思う。だから、綾乃さんと……」 互いに、他の相手と経験を重ねた。その事実が、チクリと胸を刺す。だが、それはもはや、嫉妬や非難の対象ではなかった。むしろ、互いに同じ痛みを経験した、共犯者のような連帯感が、そこにはあった。 「……私」 陽葵の声が、微かに震えた。 「葉山さんのこと……薬のせいだって、頭では分かってるの。でもね、あの時の身体の熱も、感じてたことも、全部、本当だったから……。おかしいよね。あんなに貪欲に、恥ずかしいこともいっぱい求めちゃって……。あれが偽物の高揚感だったなら、私が本当に欲しいものって、本当に感じたいことって、何なんだろうって……もう、分からなくなっちゃった」 その告白は、痛々しいほどに切実だった。偽りの快楽に溺れた記憶が、彼女の自己認識を深く傷つけている。 「だから……お願い、湊」 陽葵は、懇願するように湊を見つめた。その瞳は、涙で潤み、救いを求めるように揺れている。 「確かめさせてほしいの。私が、本当に望んでいるものは何なのか……。湊といる時の、この胸の奥が温かくなるこの気持ちが、私の『本当』なんだって。あなたの身体で、教えて……?」 その言葉は、湊の心の最も柔らかな部分を、優しく、しかし抗いがたい力で掴んだ。血の繋がり。異母姉弟。その禁忌の言葉が脳裏をよぎる。だが、もはやどうでもよかった。目の前にいる、傷ついた姉を救えるのは、自分しかいない。その確信が、すべての躊躇いを吹き飛ばした。 湊は、こくりと頷くと、陽葵の涙で濡れた唇に、自らのそれをゆっくりと重ねた。 それは、幸福感に満ちた、優しい口づけだった。 湊の指が、陽葵のパジャマのボタンを、一つ、また一つと外していく。それは、いつかの夜に行われた、秘密の儀式と同じ光景。だが、そこにいる二人は、もうあの頃の無垢な少年少女ではなかった。互いに、他の誰かの肌を知り、快感の痛みと悦びを学んだ、傷だらけの男と女だった。 だからこそ、その愛撫は、以前よりも遥かに巧みで、そして慈しみに満ちていた。 湊の手が、露わになった陽葵の肌を、まるで聖画でもなぞるかのように、ゆっくりと滑っていく。葉山や、蓮が触れたであろうすべての場所を、自分の記憶で上書きしていくように、丁寧に、執拗に。 「ん……ぅ……」 陽葵の喉から、甘い吐息が漏れる。湊の指先が触れるたびに、身体の芯からじんわりと熱が生まれていく。それは、薬によって無理やり引き起こされた偽りの熱ではない。湊への、愛しい弟への、純粋な愛情から生まれる、温かく、そして清らかな熱だった。 湊の唇が、首筋から鎖骨へ、そして豊かな胸の谷間へと下っていく。その先端に立つ突起を、舌先で優しく舐め上げると、陽葵の身体がびくんと大きく跳ねた。 「ひゃっ……! みなと、上手になってる……」 掠れた声で、陽葵が呟いた。その言葉に、湊の胸がチクリと痛む。綾乃の身体で学んだ手管。それが今、姉を喜ばせている。その背徳的な事実に、罪悪感と、それ以上に抗いがたい興奮を覚えた。 湊は、陽葵のパジャマのズボンをゆっくりと引き下げた。白い太ももの間にある、神聖な花園。そこは、既に熱い蜜でじっとりと濡れ、開花の時を待ちわびる蕾のように、小さく、しかし確かに脈打っている。 湊は、その入り口に、そっと指先を触れさせる。 「……あ……っ」 陽葵の腰が、シーツから僅かに浮き上がった。湊は、焦らすように、入り口の周りをくるくると指でなぞるだけだった。そのもどかしい愛撫に、陽葵はたまらず声を上げる。 「……だめ、湊……いじわる、しないで……。はやく、中……」 その懇願に、湊は小さく微笑むと、ようやく、潤んだ秘裂へと指を滑り込ませた。一本、そして二本。熱く、柔らかな内壁が、吸い付くように指を迎え入れる。湊は、陽葵が最も感じる場所を、的確に、しかし優しく刺激し始めた。 「あ、あ、あ……! そこ、だめぇ……っ!」 陽葵の身体が、快感に弓なりにしなる。湊の指の動きに合わせて、腰が無意識に揺れ始めた。他の男たちとの経験が、彼女の身体をより敏感に、より貪欲にさせている。 やがて、陽葵の身体が小さく痙攣を始めた。絶頂の予感。 「いく……いっちゃ、う……!」 甲高い声と共に、陽葵の身体が灼熱の快感に貫かれた。湊は、指の動きを止め、彼女が快感の波に身を委ねるのを、静かに待った。 「はぁ……はぁ……」 波が引いた後、ぐったりと息を整える陽葵。その蕩けきった表情は、この上なく愛おしい。湊は、再びゆっくりと指を動かし始めた。 「ひゃっ!? ま、まだ……!?」 驚く陽葵を意にも介さず、湊は今度は違う場所を、違う角度から攻め始めた。一度絶頂に達した身体は、驚くほど敏感になっている。先ほどとは比べ物にならないほどの、強烈な快感が陽葵を襲った。 「あ……ぁん……! だめ、湊……! こわれ、ちゃう……!」 陽葵は、主導権を奪い返そうと、自ら腰をくねらせ、湊の指を求める。だが、湊はその動きを巧みにいなし、あくまで自分のペースで快感を与え続けた。やがて、陽葵は抵抗を諦め、ただ与えられる悦びに、なされるがまま身を委ねる。 二度目の絶頂が、一度目よりも遥かに深く、激しく彼女を襲った。 もはや、陽葵の意識は朦朧としている。だが、その瞳の奥の熱は、少しも衰えてはいなかった。むしろ、二度の絶頂によって、身体の奥深くにある、本当の渇きが目を覚まし始めていた。 指だけでは、足りない。もっと、深く。もっと、確かなもので、この身体の空虚を埋めてほしい。 その声なき声に応えるように、湊はゆっくりと指を引き抜いた。そして、自らの衣服をすべて脱ぎ捨て、その若く、猛々しい昂りを露わにする。 「……陽葵」 湊は、姉の名を呼んだ。そして、その潤んだ瞳を真っ直ぐに見つめながら、ゆっくりとその脚の間に身体を滑り込ませた。 熱く硬くなった先端が、濡れそぼった入り口に押し当てられる。 「……んっ」 陽葵の喉から、期待と不安の混じった声が漏れた。 湊は、焦らすことなく、しかし決して乱暴ではなく、ゆっくりと、そして確かに、自らのすべてを姉の胎内へと沈めていった。 ぬぷり、と。粘液で十分にぬかるんだ道を、熱が埋め尽くしていく音が、静かな部屋に響き渡る。 「……あ……ぁ……っ」 陽葵の口から、深い溜息がこぼれた。ずっと、焦がれていた感覚。異母姉弟かもしれないという、血の呪縛を超えて、今、二つの身体は、一つの存在として完璧に結びついた。内部の感触、触れ合う肌の体温。そのすべてが、言葉にならないほどの幸福感となって、二人を包み込んでいく。 根元まで完全に結合すると、湊は動きを止めた。ただ、深く繋がり合ったまま、互いの存在を確かめ合う。 「……好きだ、陽葵」 湊が、囁いた。 「……私も、好きだよ、湊」 陽葵も、涙声で応えた。 その言葉を合図に、湊が静かに腰を動かし始めた。ゆっくりとした、しかし確かなストローク。一突きごとに、陽葵の胎内の最も奥深い場所を、慈しむように圧迫していく。陽葵もまた、その動きに応えるように、愛情豊かに腰を揺らし、弟を迎え入れた。 それは、もはや単なる性交ではなかった。互いの魂を交換し合い、その存在のすべてを肯定し合うための、神聖な儀式だった。 やがて、昂ぶりに歯止めが効かなくなった湊の動きが、次第に激しさを増していく。容赦のないピストンが、陽葵の身体を激しく揺さぶった。 「ひゃっ……! あ、あ、あぁんっ!」 湊は、陽葵の豊かな乳房を、両手で包み込むように揉みしだいた。その手つきは、決して乱暴なものではなかった。そして、その唇を求め、深く、情熱的な口づけを交わす。舌と舌が絡み合い、互いの唾液と喘ぎが混じり合う。 陽葵の身体に、絶頂の波が、休む間もなく押し寄せてくる。一度目の絶頂が収まる前に、二度目の絶頂が。そして、その余韻が消えぬうちに、三度目の絶頂が。もはや、自分の身体がどうなっているのか分からない。ただ、快感の嵐の中で、湊の名を呼び続けることしかできなかった。 陽葵の中に流れる、母親から受け継いだ特異な体質の血か。あるいは、まだその身に残る、アンブロシアの残滓の効能か。それとも、ただ純粋に、互いへの想いの強さ故か。二人の身体は、人間が持ちうる限界を遥かに超えて、どこまでも、どこまでも高まっていく。 ピストンは、もはや暴力的なまでの激しさを帯びていた。ベッドが壊れんばかりに軋み、肌と肌がぶつかり合う音が、嵐のように部屋を満たす。 「陽葵……っ! 陽葵……っ!」 湊もまた、獣のように姉の名を呼び続けた。理性の箍は、とうの昔に吹き飛んでいる。ただ、目の前の愛しい存在を、自分のすべてで満たしたいという、純粋で暴力的なまでの衝動だけが、彼を突き動かしていた。 そして、ついに、その瞬間が訪れた。 「……う、おおおおっ!」 湊は、天を仰ぐように低く咆哮すると、陽葵の身体の最も奥深い場所まで、その腰を力強く突き出した。熱く、鋭い奔流が、堰を切ったように解き放がれる。その奔流が、陽葵の子宮の入り口を、まるで槍のように穿った瞬間、彼女の意識は、その一点に完全に集中した。 多量の、熱く、濃厚な精液が、長く、長く、陽葵の胎内へと注がれ続ける。 終わらない。絶頂が、終わらない。 魂の器が、彼の生命そのもので満たされていく。陽葵の意識は、肉体を離れ、無限の宇宙へと飛翔していくようだった。全身の細胞の一つ一つが、湊の熱によって塗り替えられていく。古い皮膚を脱ぎ捨て、彼の熱を纏った新しい自分へと再生していくような感覚。存在の根源を祝福される至福。それは、もはや快感という言葉では表現できない、魂の昇天にも似た、究極の悦びだった。 注ぎ込まれた熱の中で、陽葵は幻を見た。太陽のように輝く女。氷のように怜悧な女。そして、男にも女にも見える、中性的な美貌の少年。その傍らには、穏やかな笑みを浮かべた、知らない男の姿。十五年の時を超え、受け継がれしプリズムの光の欠片が、彼女の胎内で一つとなり、混じり合い、原初的な生命の炎となって、静かに、しかし力強く燃え上がっていた。 長い、長い放出が終わり、二つの身体はもつれ合うようにしてベッドに倒れ込んだ。汗と、精液と、涙で、ぐっしょりと濡れている。だが、その表情は、この上なく穏やかで、幸福に満ちていた。 お互いに、たった一回の行為で満たされるような身体ではないことは、分かっていた。 しばらくして、陽葵がゆっくりと身を起こした。そして、まだ昂りの余韻を残す湊の上に、自ら覆いかぶさる。 「……湊」 吐息のような声で、弟の名を呼ぶ。 「……まだ、足りない」 その言葉に、湊は力なく、しかし嬉そうに微笑んだ。 血の繋がりの定かでない、姉と弟の交わりは、夜が白々と明け始めるまで、何度も、何度も繰り返されていった。 * 翌朝。 陽葵は、生まれ変わったような、晴れやかな顔でリビングに現れた。その手には、昨日まであれほど彼女を悩ませていた、中和剤のカプセルが握られている。 湊と、そしていつの間にか家に来ていた司が、心配そうに彼女を見つめた。 陽葵は、二人の前で、にこりと太陽のように笑った。 「私、決めたよ」 その声には、一切の迷いも、翳りもなかった。 「私、この薬を飲む。でも、アイドルを辞めるつもりもない」 「……どういうことだ?」 湊が、戸惑いの声を上げる。 「寿命と、アイドルの輝き。どっちかなんて、選べないよ。欲張りだから、私、どっちも諦めない」 陽葵は、胸を張って言い切った。 「この薬を飲んで、先天的な輝きは失われるのかもしれない。でも、それでもいい。そしたら、今度は私自身の力で、努力で、ステージに立ち続けてみせる。才能がなくても、血の呪いがなくても、人は輝けるんだって、私が証明してみせるから。それが、私のお母さんが、本当は望んでいたことのような気がするんだ」 その言葉は、あまりにも力強く、そして眩しかった。絶望の淵から這い上がり、自らの意志で未来を切り開こうとする、一人の人間の、気高い決意表明。 その姿に、司は静かに目を伏せた。そして、ゆっくりと顔を上げると、彼女もまた、決意を秘めた瞳で陽葵を見つめ返した。 「……見事な覚悟だわ」 彼女は、自らのハンドバッグから、一つのピルケースを取り出した。中には、アンブロシアの錠剤が、まだいくつか残っている。 「私も、決めた」 司は、そのピルケースを、テーブルの上に置かれた灰皿の中に叩きつけるように置いた。そして、ライターで火をつける。プラスチックのケースが、じりじりと音を立てて溶け、中の錠剤もまた、黒い煙を上げて燃えていく。 「私も、もう頼らない。薬にも、偽りの自分にも。私の父と母が、自由をもたらすために生み出したというのなら……私は、その呪縛から、自由になってみせるわ」 その横顔は、憑き物が落ちたように、晴れやかだった。 司は、燃え尽きたピルケースの残骸を一瞥すると、ふっと口元を緩めた。その視線が、陽葵へと注がれる。 「Starlight Revolution……最高のステージにしましょう、陽葵さん」 その声には、もう以前のような棘はなく、対等なライバルを認める、清々しい響きがあった。 「はい!」 陽葵も、太陽のような笑顔で力強く頷く。 「偽りの光は、もういらないわ」 司は、未来を見据えるように、遠くを見つめた。 「私たちの、本当の輝きで……あのステージを、そしてこの世界を、照らし尽くしてやりましょう」 二人のアイドルは、互いに見つめ合い、そして強く頷き合った。ライバルであり、異母姉妹かもしれない二人。その間には、確かに新しい、そして強固な絆が生まれていた。 太陽と月。そして、気高き孤高の星。 三つの魂は、親たちの世代から続く、長くて暗いトンネルを、ようやく抜け出した。 それぞれの父親が、本当は誰なのか。その客観的な真実は、もはや誰にも分からない。だが、そんなことは、もうどうでもよかった。 彼らは、血の繋がりを超えた、新しい『家族』の形を見つけ出したのだから。 秘密と、愛と、そして癒えない傷を抱えながら、彼らの奇妙で、しかし幸福に満ちた日々は、今、始まったばかりだった。 プリズムの光は、決して消えない。世代を超えて受け継がれ、形を変え、そして、より一層強く、鮮やかに、未来を照らし続けていく。 (了) # おまけ・追補:遺されたパズルのピース 陽葵が中和剤の服用を始めてから、月に一度、天道製薬本社ビルを訪れることが、二人の奇妙な習慣となっていた。 表向きは、一条誠司による定期的な経過観察と、新しい薬の受け取りのため。陽葵自身が、自らの身体と向き合うために、そう望んだのだ。湊にとっては、そんな彼女の付き添いであると同時に、空白の過去を埋めるための、貴重な機会でもあった。 誠司は、あの日以来、別人のように穏やかになった。研究の第一線からは退き、今は過去の資料の整理と、自らが犯した罪の清算に余生を捧げているようだった。彼は、陽葵の脈を取り、顔色を確かめると、安堵したように息をついた。 「順調のようだね。薬は効いている」 その声には、かつての狂信的な響きはなく、ただ一人の医師としての安堵が滲んでいる。 陽葵が診察を受けている間、湊は誠司のかつての研究室、今では資料保管庫のようになっている部屋で、過去のファイルに目を通すのが常だった。誠司は、贖罪の一環とでもいうように、湊が求める情報は何でも開示してくれた。 その日も、湊はセレスティアル・ネクターに関する、公にされていない臨床データを探していた。陽葵の体質をより深く理解するため、そして、二度とあのような悲劇を繰り返さないために。 膨大な資料の山の中から、湊は一つのファイルを見つけ出した。それは、セレスティアル・ネクターによる健康被害、および死亡事例に関する報告書だった。公には、薬害は芸能界に広く蔓延し、多くの犠牲者を出したかのように噂されていた。だが、そこに記されていたリストを見て、湊は眉をひそめた。 死亡者のリストに記されていたのは、たった四人の名前。 鳳翔子、黒瀬玲奈、白石ひなた、そして、佐伯奏。 全員が、鳳凰プロダクションの関係者。外部の人間は、一人もいなかった。 「……これは」 湊は、ファイルをめくる手を止めた。事実は、噂とは全く異なっていたのだ。セレスティアル・ネクターが外部に流出し、使用されていた形跡は他の資料からも見て取れた。だが、死に至るという最悪の悲劇は、この極めて限定されたコミュニティの中だけで起きていたのだ。閉ざされた楽園の、あまりにも内的な悲劇。 湊は、リストに並んだ名前を、一人ずつ指でなぞった。 鳳翔子。彼女は誠司との共同開発者本人だ。誰よりも早くから、そして身体への負荷が遥かに大きいプロトタイプさえも、その身で試していたと聞く。薬の危険性を、その命をもって証明した最初の犠牲者。 黒瀬玲奈。自分の、血の繋がった母。彼女の死因は、過剰摂取。蓮……いや、父さんがStarlight Prismを脱退し、ひなたとの二人体制になった後、彼女はライバルであるひなたに負けたくない一心で、自らの判断で服用量を増やし、心身の限界を超えてしまった。あまりにも気高く、そして愚かな自滅。 白石ひなた。陽葵の母。彼女は、そもそもこの薬がなくとも、先天的な特異体質によって短命を宿命づけられていた。薬は、その短い生命をより一層激しく燃え上がらせるための、触媒に過ぎなかったのかもしれない。 三者三様。だが、その死には、薬という共通項がありながらも、それぞれ固有の、そして納得のできる(あるいは、せざるを得ない)理由があった。 では、最後の一人は? 佐伯奏。自分の、戸籍上の父親。彼は、なぜ死ななければならなかったのか。 彼はアイドルではない。マネージャーだ。もちろん、メンバーの秘密を共有し、彼女たちを支えるために、自らも薬を服用していたと蓮から聞いている。だが、それだけで死に至るものだろうか。翔子のように、プロトタイプを常用していたわけではない。玲奈のように、自暴自棄になって過剰摂取したとも思えない。ひなたのような、先天的な宿命もなかったはずだ。彼の死だけが、この中でどうにも腑に落ちない。まるで、パズルの最後のピースが、うまくはまらないかのような、奇妙な違和感。 湊は、思考を巡らせる。別の資料の棚から、Starlight Prismの活動記録を取り出した。自分たちが生まれた頃の、活動休止期間に関するページを開く。そこに記された期間は、わずか『半年』。 改めて、その数字の異常さに気づく。 妊娠が発覚し、世間の目から隠れるために活動を休止する。お腹が目立ち始める前の、安定期に入った頃だと仮定しても、妊娠五ヶ月。そこから出産まで、五ヶ月。そして、産後の回復期間を経てステージに復帰する。半年では、どう考えても計算が合わない。物理的に不可能だ。出産したその足で、ステージに上がったとでもいうのか。 陽葵には、絶対に同じ轍は踏ませられない。少なくとも一年、いや、それ以上は活動を休止させ、心と身体を万全に整えさせるべきだろう。 それだけではない。生まれたばかりの赤ん坊の世話は、一体誰がしていたというのだ? 自分と、陽葵。二人の新生児。昼も夜もなく泣き叫び、ミルクを求め、おむつを汚す。その世話は、経験者でさえ疲弊する、過酷な重労働だ。 あの秘密のマンションでは、世間の目から逃れるため、家政婦を雇うことさえできなかったはずだ。だとすれば、育児の負担は、すべてマンションの住人たち……佐伯奏と、三人のアイドルたちにのしかかる。いや、出産を終え、衰弱しきっているはずの母親たちが、すぐにステージ復帰のための過酷なレッスンを再開しなければならなかったことは想像に難くない。だとしたら、育児の中心を担っていたのは一体誰だったのか。 答えは、一人しかいなかった。 佐伯奏。 湊は、息を呑んだ。脳裏に、想像を絶する光景が広がる。 マネージャーとしての激務。分刻みのスケジュール管理、メディア対応、雑務の数々。それに加えて、秘密のマンションでは、二人の新生児の世話が待っている。ミルクを与え、おむつを替え、夜泣きをあやす。眠ることさえ、ままならない日々。世間から隠れるため、誰の助けも借りられない、完全な孤軍奮闘。 それだけではない。湊は、蓮から聞いた、もう一つの事実を思い出していた。 彼は、セレスティアル・ネクターによって性的欲求が増大した三人のアイドルたちの、相手もしていた。 湊は、自らの姉である陽葵の、薬が引き起こす渇望の激しさを知っている。一度火がつけば、常識的な体力を持つ男性では到底太刀打ちできないほどの、底なしの欲望。彼女の母親である白石ひなたは、陽葵と同等か、あるいはそれ以上に貪欲だったと言われている。それに加えて、クールな仮面の下にマゾヒスティックな本能を隠した黒瀬玲奈と、男でありながら女の悦びを知ってしまった橘瑠衣。三つの、異常なまでの性欲の奔流を、彼はたった一人で受け止め続けていたのだ。 湊は、思考を巡らせる。薬の力で生命力を増大させ、常人離れした精力を発揮していたとしても、これは……。 これは、根本的に過酷すぎるのではないか。 心身の消耗は、計り知れない。削られていく睡眠時間。蓄積していく疲労。そして、絶え間なく求められる、精神的、肉体的な奉仕。それは、人間が耐えられる限界を、遥かに超えている。 その瞬間、湊の脳裏に、一つの単語が雷のように閃いた。 ――過労死。 佐伯奏の死因は、それだったのではないか。 薬の副作用による直接的なものではない。事故でも、自滅でも、宿命でもない。ただひたすらに、愛する者たちと、その間に生まれた新しい命を守るために、自らの命の蝋燭を、その両端から燃やし尽くした結果。 リストに並んだ他の三人の死とは、あまりにも異質だ。だが、その死こそが、最も残酷で、そして、最も献身的で、愛に満ちた最期だったのかもしれない。 湊は、そっと報告書のファイルを閉じた。 遺されたパズルの最後のピースは、ようやく、そのあるべき場所に収まった気がした。戸籍の上でしか知らなかった父親、佐伯奏。その顔も知らない男の生き様が、十五年の時を超えて、今、確かに湊の胸に刻み込まれた。 それは、英雄譚でも悲劇でもない。ただ、愛のためにすべてを捧げた、一人の愚かで、そして偉大な男の物語だった。 #??? これは、新たなる因果の起点となる物語。 もし、あなたが曇りなきプリズムの輝きを大切に胸にしまっておきたいのであれば、この先を、読んではいけない。 * 『Starlight Revolution』の熱狂から一年半が過ぎようとしていた。 季節は巡り、世界はあの奇跡の一夜を過去の伝説として語り始めている。陽葵の人生もまた、誰にも知られることなく、大きな転換点を迎えていた。湊との間に新しい命を授かり、世間の目から完全に姿を消して、秘密裏に出産を終えたのだ。 表向きは、海外への長期留学。そのための万全のサポート体制を、皐月蓮が用意してくれた。都心から少し離れた、セキュリティの厳重な高層マンションの一室。それが、今の陽葵と、生まれたばかりの息子のための、小さな世界だった。 活動再開に向けたリハビリを兼ねたレッスンが、陽葵の日常にかすかな光を灯している。かつて湊と共に汗を流した、あの所属事務所のレッスンスタジオ。そこに一人で通う日々は、寂しくもあったが、再びステージに立つという確かな目標が彼女を支えていた。 その日のレッスンも、トレーナーである神崎綾乃との一対一で行われた。出産によって僅かに変化した身体のバランスを取り戻すための、地道で、根気のいるトレーニング。二人の間に横たわる空気は、まだどこかぎこちなかった。 あの日、リハーサルスタジオで起きた事件。綾乃が一条司に唆され、自分に薬を飲ませたという事実は、陽葵も聞かされている。だが、彼女を責める気にはなれなかった。湊を想うが故の、嫉妬心からの過ち。その根底にある感情は、陽葵にも痛いほど理解できたからだ。綾乃もまた、深く謝罪し、トレーナーとしての職務を全うすることで償いたいと申し出た。だから、二人はこうして、不器用ながらも新たな関係を築き直そうとしている。 「……はい、今日はここまで。お疲れ様」 綾乃の涼やかな声が、流れていた音楽を止めた。鏡張りの壁に映る自分の姿は、汗でぐっしょりと濡れている。 「焦る気持ちは分かるけど、無理は禁物よ。あなたの身体は、もうあなた一人のものじゃないんだから」 その言葉には、トレーナーとしての配慮と、同じ女としての微かな羨望が混じっているように聞こえた。 「……はい。ありがとうございます」 陽葵は深々と頭を下げた。綾乃が差し出してくれたタオルで汗を拭いながら、スタジオの隅に置かれた自分のバッグへと向かう。ふわりと、綾乃がいつも愛用している、ラベンダーのアロマオイルの香りが鼻腔をかすめた。心を落ち着かせる効果があるのだと、以前彼女は言っていた。 マンションに帰り着くと、部屋はしんと静まり返っていた。ベビーシッターに預けられた息子が帰ってくるまで、あと数時間。陽葵は、疲れた身体をソファに投げ出し、深く息をついた。 その時、ドアポストに無造作に差し込まれた、一通の白い封筒が目に留まった。 宛名も、差出人の名も書かれていない。切手も貼られていなければ、消印もない。誰かが、直接投函していったものだ。こんな厳重なセキュリティを、どうやって。 胸騒ぎを覚えながら、陽葵は震える指で封を切った。ひらり、と中から滑り落ちたのは、一枚の写真。床に落ちたそれを拾い上げた瞬間、陽葵は息を呑んだ。 全身の血が、急速に凍りついていくような感覚。 そこに写っていたのは、紛れもない、自分自身の姿だった。 扇情的な猫をモチーフにした、淫蕩な衣装。脳波で動くという猫耳は、性的興奮を示すかのようにぴんと立ち、手には指の自由を奪うミトン型のグローブ。そして、腰から伸びる白い尻尾の付け根は、ビキニの内側、隠された菊座に直接接続されているのが、屈み込んだ構図によって暗示されている。 ベッドの上で四つん這いになり、挑発するようにこちらを見上げる、熱に浮かされた表情。豊かな胸の谷間は、どろりとした白濁の液体で無惨に汚され、脚の間からは溢れた愛液がシーツの上に生々しい染みを作っていた。 周囲には、ローターやバイブレーターといった、使用の痕跡が明らかな性具が無造作に転がっている。そして、何よりも悪趣味なのは、ベッドサイドのテーブルに置かれた小さな手鏡の存在だった。計算され尽くした角度で置かれたその鏡には、撮影者であろう男の下着姿が、その盛り上がった股間部分だけを切り取るように、いやらしく映り込んでいた。 間違いない。これは、葉山洋介との、あの狂った蜜月の日々の中で撮られた一枚だ。アンブロシアのもたらす衝動に理性を焼き尽くされ、快楽の獣と化していた頃の、忌まわしい記憶の証拠。 なぜ、今になって。あの事件の後、彼は業界から完全に追放されたはずだ。自分の今の居場所を、一体どうやって。 思考が混乱する中、陽葵は封筒の中にまだ何か残っていることに気づいた。取り出したのは、一枚の、無地の紙片。そこに描かれていたのは、ボールペンで走り書きされたような、簡素な地図だけだった。文字は、一つも書かれていない。だが、その無言の紙片が何を意味しているのか、陽葵には痛いほど分かった。 来い。 それは、脅迫だった。拒否という選択肢を与えない、絶対的な命令。 警察に、駆け込むべきか。その考えが、一瞬だけ脳裏をよぎる。だが、すぐに絶望的な現実に打ちのめされた。今の自分は、世間的には海外にいることになっている。未成年のトップアイドルが、秘密裏に妊娠し、出産していた。そんなスキャンダルが明るみに出れば、どうなるか。自分一人の問題では済まない。湊の、SOLLUNAの、そして自分たちを必死で守ってくれようとしている蓮や司たちのキャリアに、取り返しのつかない傷をつけてしまう。何より、生まれたばかりの息子の未来を、こんな形で汚すわけにはいかない。 警察には、頼れない。 あの忌まわしい過去の亡霊に、たった一人で立ち向かうしかないのだ。陽葵は、唇を強く噛み締めた。地図に示された場所へ向かう以外の選択肢は、自分には残されていなかった。生まれたばかりの息子をベビーシッターに預け、誰にも行き先を告げず、彼女は一人、夜の街へと足を踏み出す。指定された場所は、湾岸地区にある古い倉庫街だった。潮の香りと、錆びた鉄の匂いが混じり合う、寂れた一角。人気のない暗い路地を抜け、地図が示す一つの倉庫の前にたどり着く。重く、冷たい鉄の扉。それを、震える手で押し開けた。 ぎい、と。嫌な軋みを立てて扉が開く。中は薄暗く、埃っぽい。その中央に、パイプ椅子に腰掛けた一人の男がいた。 「……葉山、さん」 声が、震えた。 男はゆっくりと顔を上げる。葉山洋介。その人だった。だが、そこにいたのは、陽葵が知る人懐っこい笑顔の好青年ではなかった。無精髭が伸び、目の下には深い隈が刻まれている。身に着けている服はよれよれで、一年半という歳月が、まるで十年分のように彼を老け込ませていた。業界から追放され、裏社会の澱の中に身を沈めた男の、成れの果ての姿だった。 「……来たか」 その声を聞いただけで、陽葵の身体の奥が、きゅんと疼いた。馬鹿な。この男に向けていた感情は、すべて薬がもたらした偽りのものだったはずだ。今の自分が愛しているのは、湊だけ。なのに、身体は、脳は、この男と交わした快楽の記憶を、条件反射のように呼び覚まそうとする。 「どうして、ここが……」 「知るかよ。世の中には、便利な商売があるんだ」 葉山は、自嘲するように吐き捨てた。その時、ふわりと、ラベンダーの芳香が鼻孔をかすめた。それは、神崎綾乃が好んで使うアロマオイルと同じ、心を落ち着かせるはずの香りだったが、今の陽葵にとっては、ただ不快なだけだった。 葉山はゆっくりと立ち上がると、陽葵に詰め寄ってきた。その手には、小さなビニールのパケが握られている。中には、粗雑な作りの白い錠剤が数錠。 「カメラマンの仕事は失ったが、おかげで新しい商売を見つけてな。こいつは、アンブロシアのジェネリックみたいなもんだ。効き目は、本家以上だぜ」 「……やめて」 後ずさる陽葵の腕を、葉山は乱暴に掴んだ。抵抗しようとするが、男の力には到底敵わない。壁際に追い詰められ、その痩せこけた身体に組み敷かれる。 「お前のせいだ。お前のせいで、俺の人生はめちゃくちゃになったんだ」 逆恨み。だが、その瞳の奥に宿る憎悪は本物だった。彼は、陽葵の顎を掴んで無理やりこじ開けると、パケから取り出した錠剤を、その口の中に押し込んだ。 「ごふっ……!」 飲み込むことを拒絶する陽葵の喉に、葉山はペットボトルの水を流し込む。錠剤は、水と共に胃の中へと落ちていった。 それは、闇のルートに流れたアンブロシアのデータを元に、密造者が生み出した粗悪な模造品だった。人体に有害な不純物を多く含み、その効果を無理やりブーストさせるため、MDMAが違法に混合されている。鳳翔子の理想を歪め、一条誠司の信念を冒涜する、ただの汚らわしい麻薬。 「……あ……ぅ」 効果は、驚くほど速かった。まず、視界が激しく点滅を始める。アンブロシアのような蕩けるような熱ではない。もっと暴力的で、脳髄を直接揺さぶるような、不快な電気信号の嵐。心臓が、破裂しそうなほど激しく脈打ち、呼吸が速くなる。陽葵が服用している中和剤の作用など、いとも容易く凌駕していく。久しく忘れていた、いや、それとは比較にならないほど凶悪な熱が、身体の内側で荒れ狂い始めた。 「その身体で、償ってもらうぜ」 葉山の声が、遠くで聞こえる。彼は、陽葵のワンピースの裾を乱暴に捲り上げると、その下着の中に手を滑り込ませた。 「ひっ……!」 敏感になった肌に、男の乾いた指先が触れる。その感触だけで、腰が砕けるような感覚。身体は正直に、熱く濡れ始めていた。 「やめて……! お願いだから、ゴムを……!」 せめてもの抵抗として、陽葵は懇願した。だが、葉山はせせら笑う。 「はっ、ゴム? あの頃は毎回、中に欲しがってたじゃねえか。生じゃないと満足できない変態になったのは、お前のせいなんだよ。責任、取ってもらおうか」 その言葉は、容赦なく陽葵の心を抉った。有無を言わせぬ力で、下着ごと引き裂かれる。そして、何の愛撫もなく、彼の昂りが剥き出しにされた。 「いやっ……!」 身を捩って拒もうとするが、薬と、そして男の暴力的な力の前には無力だった。脚を大きく開かれ、熱く滾った欲望の先端が、潤んだ入り口へと押し当てられる。 はじめてこの男と関係を持った時の自分は、湊との焦れったい関係に渇ききっていた。薬がもたらす本能の昂りに、何の抵抗も抱いていなかった。皐月蓮との行為は、そもそも記憶にない。 だから、知らなかった。明確な拒絶の意思を持ちながら、それでも抗えずに身体をこじ開けられるという交わりが、これほどまでに――。 ずるり、と。生々しい音を立てて、熱の塊が狭い道をこじ開けていく。 「あ……ぁあっ!」 激しい圧迫感と、内側から焼かれるような熱。湊のものほどの硬さも、熱さもない。だが、それは僅かに大きく、そして先端のカリの段差が、驚くほどはっきりとしていた。彼が腰を引くたびに、その段差が内壁の柔らかな襞を一枚一枚、執拗に擦り上げていく。突かれる快感と、引き抜かれる際の快感。その二重の刺激が、脳を直接焼くような、忘れかけていたはずの背徳的な悦びとなって陽葵を襲った。 湊よりも、気持ちいい。 その背徳的な事実に気づいてしまった瞬間、陽葵の思考は自己嫌悪と、それに相反する昏い悦びでぐちゃぐちゃになった。 「……いい声じゃねえか。やっぱり、お前もこうしたかったんだろ?」 葉山は、獣のように低い声で囁きながら、容赦なく腰を突き上げ始めた。陽葵の身体は、薬と快感に完全に支配され、もはや抵抗する力も残っていない。ただ、彼の律動に合わせて喘ぎ、身を捩らせることしかできなかった。 「あ、あ、あ……! だめ、やめてぇ……っ!」 口では拒絶しながらも、腰は正直に、彼の突き上げを受け入れるように揺れている。その矛盾した反応が、葉山の支配欲を更に煽り立てた。 激しいピストンのさなか、ふと、陽葵は下腹部の、おへその下あたりに、ちりりと火が灯るような、奇妙な感覚を覚えた。それは、湊との間に息子を授かった、あの夜に感じたものとよく似た、生命の予感にも似た熱だった。 駄目。駄目。この状態で、この男のものを、中に注がれてしまったら。 その恐怖が、陽葵に最後の抵抗を試みさせた。 「お願いだから……! 中は、いや……っ!」 かつての陽葵であれば、決して口にしなかったであろう拒絶の言葉。だが、それは完全に逆効果だった。葉山の瞳が、ぎらりとサディスティックな光を宿す。 「……ほう。そいつは、そそるな」 彼は、にやりと口の端を吊り上げた。 「俺の、この腐っちまった悪いザーメンで、お前の綺麗な腹ん中をぐちゃぐちゃにしてやるよ。孕ませてやるから、覚悟しろ」 その声には、裏稼業に身をやつした我が身への、深い自嘲の色が滲んでいた。彼は、陽葵の腰を掴むと、更に深く、強く腰を打ち付け始めた。絶頂が、近い。それは陽葵も同じだった。快感に喘がされ、もはや拒絶の言葉は声にならない。 「あ、あ、あ、あああっ!」 甲高い絶叫と共に、陽葵の身体が大きく弓なりにしなり、灼熱の痙攣が全身を駆け巡る。それとほぼ同時に、葉山の身体もまた限界を告げ、滾る欲望のすべてが、陽葵の胎内の最も奥深くへと、容赦なく注ぎ込まれていった。 どく、どく、と。脈打つ熱の奔流が、子宮口を直接叩く。その致命的な感覚が、陽葵の絶頂に更なる追い打ちをかけた。注がれる熱は、驚くほど濃く、重く、そして量が多かった。彼もまた、女を征服するという行為に、これまでの人生で感じたことのないほど昂っていたのだ。 偽りの熱と、暴力的な支配。その背徳に満たされた交わりは、愛する人との魂の交歓とは似ても似つかない、しかし、これまでの人生で最も昏く、深い絶頂を陽葵にもたらした。 意識が、ゆっくりと浮上する。 全身を包むのは、鉛のような気怠さと、身体の芯に残る、どろりとした熱の残滓。そして、股座から太ももにかけて伝う、生々しい粘液の不快感。 陽葵は、薄汚れた倉庫の床の上で、ゆっくりと目を開けた。 「……ん」 身を起こそうとして、全身の関節が軋むような痛みに、顔を顰める。視界の隅に、見覚えのない男たちの顔が、嘲るような笑みを浮かべてこちらを見下ろしているのが見えた。明らかに、堅気の人間ではない。 「……よう、お目覚めか。アイドル様」 葉山が、パイプ椅子に腰掛けたまま、紫煙をくゆらせながら言った。その声には、先ほどまでの激情の色はなく、ただ冷え冷えとしたビジネスライクな響きだけがあった。 「こいつらが、お前の新しいご主人様だ。せいぜい、可愛がってもらえよ」 その言葉の意味を、陽葵の脳が理解するのに、数秒を要した。 男たちが、下卑た笑い声を上げながら、じりじりと距離を詰めてくる。その欲望にぎらついた瞳が、値踏みするように陽葵の裸体を舐め回した。 そういう、ことか。 葉山の目的は、自分を再びその腕に抱くことではなかった。ましてや、復讐でもない。ただ、金のために、この身体を売り渡す。それが、彼の本当の狙いだったのだ。 絶望が、冷たい水のように、陽葵の心をゆっくりと満たしていく。 一度に、複数の男を相手にする。それもまた、自分にとっては初めての経験になるのだろう。ぼんやりと、そんなことを思った。 今からでも、ここから逃げ出して、アフターピルを飲めば。司に頼んで、非合法な手段でこの男たちに報復してもらえば。まだ、元の生活に戻れるかもしれない。愛する湊と、生まれたばかりの息子の待つ、あの温かい日常に。 けれど。 陽葵の脳裏に、先ほどの、あの昏く甘美な絶頂の記憶が蘇る。暴力に屈し、望まぬ相手に身体を蹂躙される背徳の悦び。その蜜の味を、一度知ってしまった自分に、もうあの清らかな世界へ戻る資格など、あるのだろうか。 胎内に走る、微細な針で刺すような、ちりちりとした刺激。そして、じんわりと広がる、微かな温もり。 それが何を意味するのか、考えたくもなかった。 男たちの手が、陽葵の身体に伸びてくる。彼女は、もはや抵抗することもなく、ただされるがままに、そのすべてを受け入れた。 魂を形作っていた何かが、ぱきり、と音を立てて砕け散る。その修復不可能な亀裂の奥から、冷たい虚無がじわりと染み出してくるのを感じた。 * 予定外の二度目の妊娠は、陽葵の人生の歯車を、決定的に狂わせた。 活動休止期間は、大幅に延長された。その間にも、芸能界の時間は容赦なく流れていく。中和剤によって天賦の才を自ら手放し、二度の出産で身体のキレも失った陽葵にとって、その長いブランクは、努力という言葉だけで埋め合わせられるほど生易しいものではなかった。 その間にも、湊とのキャリアの差は容赦なく開いていく。彼は、姉の不在を埋めるかのように、ソロのアーティストとして目覚ましい活躍を見せていた。その姿は、陽葵にとって誇らしくもあり、同時に、決して手の届かない場所へと行ってしまったかのような、焦燥と孤独感を掻き立てた。姉弟は、もはや対等な存在ではいられなかった。 彼女が『SOLLUNA』として再びステージに立ち、かつてのような熱狂的な歓声を浴びる日は、二度と訪れることはなかった。 華々しくデビューを飾り、瞬く間に時代を駆け抜けていった伝説のユニット『SOLLUNA』。その栄光は、確かに存在した熱狂を人々が忘れてしまった後の世において、歪んだ形で記憶されることになる。二人の養父である高橋和也が、かつて鳳凰プロダクションのマネージャーであったという事実。そして、SOLLUNAをプロデュースしたのが、あの皐月蓮であったという事実。それらの断片的な情報だけが独り歩きし、彼らの成功は、実力ではなく、単なる「皐月蓮による身内贔屓」の結果であったと、冷ややかに語り継がれていく。 プリズムの光は、世代を超えて受け継がれる。 だが、その輝きは、必ずしも幸福な未来だけを照らし出すとは限らない。 陽葵が産み落とした二人の子供たち。 一人は、プリズムの光と愛を受け継ぎし、希望の子。 そして、もう一人は、闇と背徳の中で生まれ落ちた、宿命の子。 二つの魂が交差する時、新たなる因果の歯車は、再び静かに回り始める。 それは、まだ誰も知らない、未来の物語。 プリズムは、蜜月の夢の果てに、一体何を映し出すのだろうか。