「世界を見る」「立派な騎士が必ずいると信じている」 レンハート王国の第二王子こと現訓練生のラーバルから聞かされた言葉にプロストイは悩んでいた。 己はこの国以外の世界を目の当たりにしたことはない。軍人となり師団小隊長となった今でも他国の土を踏んだこともない。 己に掛けられた言葉を無意識に反芻すればするほど知見を広めたいと思う己がいる。その一方で病める国を守ると決めた意思を曲げたくないと思う己もいる。 「ずいぶんとお悩みのようですね、プロストイ君」 そう悩み続けていた所にヴィクトール執事長が目の前に居た。 「やはり、気付かれますか」「見飽きるほど見慣れていますからね」 当たり前のように心を見透かす執事長に俺は悩みを打ち明けた。騎士への執着とまだ見ぬ世界への羨望を。 「はぁ…あれらの抑止力になれなかった我々としては申し訳ない話ですな…」 「責めるつもりはなかったのですが…申し訳ありません」 苦笑いをしながらも真剣な表情で謝る執事長は、続けて俺の悩みを聞き続けた。 己は、騎士への失望と怒り、強さへの欲求、その他あれこれと心の整理をつけるように悩みを打ち明けていった。 「そういえば、ラーバル王子の訓練もそこそこ経ったので、一度彼を帰省させる話がありましてね?そこで貴方に彼の護衛を頼もうと思うのですが、どうですか?」 と、俺の悩みを聞き終えた執事長は向き合い、一言そう告げた。 願ってもない一言ではある。だが、小隊長という己の立場と軍人としての己がそれを許すわけにはいかない。いかないのだが…「よろしいのですか?」と、気になって聞いてしまった。 曰く、王子と彼の父レンハート国王に成長を実感してもらうとともに、彼に連なる者数人を彼に付き添わせて国外のことを体感してもらうという計画らしい。具体的には、彼と訓練を共にしたジーニャ、イワン、ナタリアの三人を付き添わせて。 結果として、俺は王子の帰省に付き添うこととした。色んな意図があるのだろうが、陛下も執事長も人が悪い。俺も陛下たちの企みに便乗させてもらうとしよう。悩まされたせいで日課のイメトレが身につかなかった鬱憤を、あの手この手で晴らさせてもらうとしようか。 「いやちょっ…!?プロストイ隊長っ…何っ…なんか俺にだけ厳しくないですかっ…!?」 「ラーバルおまっ…!!俺達にまで飛び火させる気かよ…!?」 「ゼーっ…ハーっ…心なしか…訓練生の訓練よりハードな気もっ…」 「ハァ…ハァ…まだ私はやれるぞ…!フゥ…!」「ジーニャお前もかよ!?」 「ククッ…いやあ根性があっていいなぁ若者は…!次はこのままお前たち四人と俺一人の4対1の実戦訓練と行こうかぁ…!」 「「「「ひいっ!!!」」」」 「あっ、今隊長が活き活きしてそうな気がした」 「…お前も?」「…私もした」 「一人でひよっこ達を手加減しながらもボコボコにしてる光景が目に浮かぶな…」 「「「なんで分かるんだろうな俺(私)ら…」」」