自作酒場ひと口怪文書まとめ 全て王都警察。 警察ネタに乗ったその日から頭をよぎるたくさんのクルマとショートストーリー。 酒場に投げた中でも記憶のあるものをサクサクおまとめしてお届け。 願わくば末永く続かんことを祈って 【ある日の交通安全課】 「あー…今度のレースの交通整理、アタシパスね。」    ハルノ課長が部下たちに告げる。 「え、課長来ないんですか? レースあんなに好きなのに。」  当然の疑問であろう。 「誰が行かないって言ったよ。」 「はい…?」 「出るんだよ、旦那のコ・ドライバーでね。」  そう告げると猫を伴って早退していった。 「日の高いうちから帰りやがった!」 【リズ&リンダと軍服】 「ヒュー!軍服はかっちりしててカッコいいモンだね」  パトロール中に偶然見かけた軍人の一団を見てリンダが言った。 「アタシも何か縁があったら着てたのかな」 「…でもリンダ、式典はアレ着なきゃいけないのよ。あの、目に痛い奴」 「あー…それはちょっと考えもんかも…」  元々軍学校にいたこともあり、過去あった自身の可能性に思いを馳せる。 「それに」 「それに?」 「警察の制服も、貴方のお父様と同じでよく似合ってるわ」 「あはっ…そうかな…へへ」  遠くから正午を告げる鐘が響く。 「さて、お昼にしましょうか。どこ行く?」 「ノエミちゃんとこのパン屋!」 「了解!」  肌寒さを感じる秋空の下をワルキューレが滑るように走り去っていった。 【職質と婦警ズ】  夜の王都、どこか寂しげな空気を纏った漢が一人往く。  そして漢の後ろを追う乙女が二人と一台。 「こちらホフアイゼン巡査、パトロール中に不審者を発見。これより職務質問に入ります。筋肉モリモリマッチョマンでマスクマンです」  本部に報告するリズといつになく真剣な表情で車を降りるリンダ、後ろから対象に声をかける。 「もし、そこの御仁。相当の実力者とお見受けしますがどちらへ」 「これといって目的はない。風の赴くまま、行くべき場所へ至るだけだ」 「ならば一手、御指南をば…」 「女性と言えど手加減は出来ないぞ」  双方が解手で構え、瞬間、がっちりと組み合う、審判のロックアップだ。  既に筋力強化はフル稼働で顔の引き攣るリンダをよそに、マスクマンの顔は冷静な表情を崩さない。  リンダが攻めに転じようとする僅かな体重移動を彼は見逃さなかった。  刹那のうちに地面に転がされ、一瞬のことで放心するリンダ、慌てて起立し、立ち去る漢の後ろ姿に敬礼する。  清々しい顔で帰ってくるリンダ。  「レンハートマンホーリーナイトさんだよアレ!いやぁすご」  相棒から一発飛んできたことは言うまでもなかった。 【ハルノとハチローと朝】  記録的な猛暑に見舞われ、涼し乞いまで行われた夏と打って変わって、サカエトルは急激な気温低下に見舞われていた。 「うぅ寒、先週まで夏服でバリバリ行けたのになぁ。いきなり寒ぃったらないよ全く」  起きてきたハルノが体を震わせながら暖房をつける。 「すぐあったまんないねコイツ、ロータリーかっての」  何者かがハルノの足に擦り寄る。 「毎日毎日、お前の腹時計は正確だねハチロー。待ってな、エサ持ってくるから」 皿に運ぶまでの間も甲斐甲斐しくついてまわりハルノを見上げるハチロー、無限の恭順を示している。 「はいはい、たんと食いな…」  餌にがっつく飼い猫を見て、飼い主は一つ閃いた。食べ終わりを待ってひょいと抱き上げる。 「あ~やっぱお前はあったかいねぇ~、しばらくこうしてりゃいいか~…いてててて!」  無論反撃される。暴れて腕を這い出たその顔にはもはや先ほどの忠誠心は欠片もない。  そそくさと戸を開けっぱなしにして部屋を脱出する。 「せめて閉めていけよ!出来るだろ!猫又なんだから!!」  ハルノの怒号が虚しく朝に響いた。 【ハロウィン交通安全課】  サカエトルハロウィン、どこかの国の風習が流れ流れて伝わってきた結果、もはやコスプレお菓子イベントと化している。  人々でごった返す王城前公園広場では警備のために警察官もコスプレで参加させられていた。 「似合ってるわねリンダ、それは…人造人間?」 「そうそう昔話のやつ。リズのそれは…ソフトクリームのお化け?」 「ミシュランダムよ。車輪の守り神、うちに伝わる古式ゆかしい装いね。」 「へぇ~…。…ユーリエはサンタだな。もうなんというか…正装ですね」 「これ以外着るのはー、なんか期待を裏切ってるような感じがしてぇー」  フランケン、ミシュランマン、サンタの会話が続く。 「あーアレ、課長の猫ちゃんじゃないですかー?」 「ホントだ、どちたのハチロー。魔女帽子似合ってまちゅね~、ご主人様はどこでちゅか~?」 「! 二人とも構えて、何か来るわ」  三人の前方からただならぬ闘気を纏った特攻服の女が迫ってくる。 「おう、仕事しとるかお前ら」 「もう課長ですか、びっくりさせないでくださいよ。どこの魔王が来たかと思いましたよ。」 「昔の服がまだ着れたからねぇ。着てみたらなんかこう、気合いが入っちゃって」 「文献で特攻服は聖女の装いであったとの記載がありましたが」 「これはもう仮装ってより本物って感じですねー。正直怖いです」 「お前に言われたかないよユーリエ」  四人の端末に無線が入る。 『広場Bブロックにて暴動が発生。至急援助求む』 「やだねぇ、昨年ハチロクひっくり返したやつがどうなった覚えてないのかね」 「課長にハチロクの10倍は回転させられてましたね」 「現場確認できました。酔っ払いが2名、喧嘩で魔術を使っているようですね、行きましょうか」 「はーい警棒装備しまーす」 「よっしゃ行くぞお嬢様ども(レディス)!」  過剰戦力である。  各自装備を整えながらフランケン、ミシュランマン、サンタ、暴走族は人混みをかき分けていった。 【火車日記】  吾輩は猫である、名は八郎というらしい。    主にはボコボコにされつつ命を救われたので仕えることになった。  毎日少量のカリカリしたヤツと柔らかいヤツとちゅーるを喰み過ごしている。  日々出動のために力を蓄えているのが仕事である。  しかしたまの休みには街を見回るようにしている。  街には様々な者がいる。  小麦の匂いがするフワフワを売る者、昼間から男と乳繰り合っている者、聖剣を携えた露出度の高い服を着た者と飽きがこない。  妙に開けた誰もいない道路を何も考えず全力疾走するのも好きだ。  たまにやってくる白黒のクルマを駆る男とはいつか決着をつけねばならぬと思っている。  ここは夜景もたまらない。  あの珍妙な建物も静まり返った宵闇に輝く姿は昼間の異物感からは想像もつかない趣がある。  名残惜しいが次の任務のために夜明け前には巣に戻るのだ。 【婦警と社交パーティー】  社交パーティーと聞けば私服警官が警備で潜り込んでいるのが様式美と言える。  その例に漏れず、着飾る婦警がここに2人とクルマが一台。 「ねぇ…やっぱやめにしない…?今からでも外回りに変えてもらおうよ」  試着室から顔だけ覗かせたリンダがリズに提案する。 「諦めなさい、もう始まるまで時間がないわ。開けるわよ」  強引に開けられるカーテン、そこにはパーティドレスに着たリンダが恥ずかしさから身を捩らせていた。  鍛え上げられた肩と腕以外、胸元は伸びるので奇跡的に収まり、隆々とした下半身はスカートに上手く隠れている。 「似合ってるじゃない」 「リズ毎回それしか言わないじゃない!せめて逆にしてよ!」 「それは貴方がぶち破ったそこのタキシードを見てから言うことね」  背中から裂けたタキシードが着用者なく立っている。  「うぅ…キューちゃんもなんか言ってよ」  戦乙女は黙して語らず、ただ下手人を連行すべくそのドアを開いている。  「しのごの言わずに行くわよ」  2人を乗せて走り出すワルキューレ、タキシードはそれを見送ると静かに力無くその場に崩れ落ちた。  レッドカーペットに辿り着き、2人が下車する。  既に賑わいを見せるパーティーの視線が一気に集まってくる。 「ヒュー!見ろよあのボディ!たまんねえぜ」 「洗練された、とは正にアレのことだろうな」  ヤジめいた声、むず痒さと満更でもない気持ちをリンダは感じていた。 「足回りを見ろよ、ありゃ場所を選ばず活躍できるぜ」  何かがおかしい、上半身はともかく脚は見えていないはずだ。 「───あの心臓が奏でる爆音、誰よりも速く前に出ようとする意志だ。ククク、とんでもないヤツを作ったもんだヨ」  ワルキューレV12、ホフアイゼンが作りし当代最高速の戦乙女、天使の咆哮を放つ雷鳴の担い手  徹底的に無駄を廃して造形された速さを求める思想の集合体である。  サカエトルモビリティショーパーティーの全てが彼女に釘付けになった。 「これでいい感じに潜りこめるでしょ?」 「…了解」  衣服に注意を取られ、舞い上がってイベント内容を失念していた自分が悪い。  悪いのだが、どうにも釈然としない気持ちでリンダは数日過ごすこととなった。