ユカリゾーンの紫に照らされた寝室でユカリさんの服を脱がしていく。 まずは帽子を外し、次に手袋から細い手を慎重に引き抜く。 最初は触れるのも憚られる高級な質感とデラックスでゴージャスな訳の分からない構造に苦労したものだが、最近は落ち着いてかかれば問題なく進められるようになってきた。 上半身部分を脱がし終える──これまたラベンダーカラーの高級そうな下着が現れ、そして締め付けられていた褐色のバストが揺れる──。 「キョウヤさま、ずいぶんお上手になられましたわね」 ユカリさんはニコニコと笑った。 身を守る服を剥ぎ取られ肌を晒している最中だというのに、ユカリさんは実に堂々としたもので、少しも恥じる様子もない。 思えば最初脱がすのに手こずっていた時も、ユカリさんは慌てる僕を見てニコニコ笑っていた。 キミにさせる限り、およそ何であっても嬉しいのだろう……というハルジオの言葉が頭をよぎる。 ユカリさんの身体はどこを見てもチョコレートのような褐色で、片口から指先に至るまで染み一つなくて──そう、現実離れしていて、白紫の明かりに照らされる肢体を見るとどうしてもその高貴さには気後れせざるを得ない。 これまた高級なスカートを脱がすと、後はタイツと下着だけだ。 ユカリさんは微笑んだまま何も言わず脚を差し出し、僕は柔らかな脚に触れながら慎重にタイツを下ろしていく。 やはりその肌はどこまでも滑らかで無傷で、黒磁のようだ。 おとぎ話のフェアリーというものがあるならまさしく彼女のようなものなのかもしれない。 ブラジャーを外すと、解き放たれた豊かな膨らみが揺れた。 大きな胸の先端は少しだけ色が濃くて情欲をそそる。 ユカリさんは僕の反応を目ざとく見つけて、何も言わずクスクス笑った。 かっと顔が熱くなるが、今度はユカリさんの番というのがルールだから、僕は促されるままに腕を差し出す。 そっとメガリングを外され、次にMZ団の刺繍の施されたジャンパーを脱がされ、ついで少しずつボタンを外され、シャツを──手指が上体をさりげなく愛撫して声が漏れた──脱がされる。 「うふふ、褥を共にする度にどこかしら付けていますが、随分増えてしまいましたね」 露わになった上体にはユカリさんの吸いついた痕がいくつも残っていて、僕とユカリさんの関係がありありと見て取れた。 そもそも襟元までしまったシャツを着なければならない事自体この痕跡が原因で、久々に会ったタウニーにあっけらかんと「あれ?そんなの着てたっけ?」などと言われた時には心臓が止まるかと思ったものだ。 ユカリさんの肌には傷一つない──というのは半分は嘘で、本当なら彼女の肌にも僕が負けじとつけた痕が残っているはずなのだが、褐色の肌にはなかなか痕跡が残りがたく、そこがひどく不公平な感じだった。 吸われた痕を指でなぞられ身じろぎするとユカリさんは気を良くしたようにそのまま胸板を撫で、更に硬さを確かめるように腕や指や腹と触れていく。 「さすが、たくましいですわね。  私のミアレの為に日々駆け回ってくださっているだけの事はあります」 挨拶みたいなものだけどこれを言われるとやはりたまらなかった。 お腹に触れている手を取って肩を抱き寄せると、ほっそりした腕が背と首に回った。 そのまま目を閉じて唇を重ねると、ぎゅっと抱きしめられる。 繊細で柔らかな感触に甘い香り、少し低い体温。 求められているという感覚にぞくぞくする。 こういう時──と言ってもいつでもだけど──ユカリさんは情熱的で、ともすればペースに巻き込まれてされるがままになってしまう。 今日はこのまま転がして──、 「このまま転がしてうやむやにしてしまいたいのでしょうけど、それは無理ですわよ」 抱擁がするりとほどかれて、耳元で囁かれる。 輝くような眼が僕を見ていた。 ◆ 「うふふ、彼シャツ、ですわね。  それとも彼スーツでしょうか?」 ユカリさんはメゾンドポルテのスーツを着てくすくすと笑った。 僕が用意させられた衣装の半分。 初めて対面した時のスーツ、それを覚えていて彼女は纏いたがったのだ。 背丈はそう違わないから基本的には大きすぎる事も小さすぎる事もないが、ただ一点、豊かなバストがシャツを膨れさせていた。 「初めてお会いした時のスタイルも紳士で素敵でしたが──」 そして用意したもう半分。 誰にも知られてはならなかったはずの衣装。 「あんなに強くてたくましいのに、それなのにどうして、こんな格好がこんなにお似合いになるのかしら。  私、不思議だわ」 黒のミニスカートに、黒のニーソックス。 フリル付きのピンクのブラウス。 夜のミアレで着ていた、少女の衣装。 胸元を庇うようにして視線をそらす。 けれど漏れる吐息は湿っていて、頬の赤らむのは隠しようもない。 ◆ 最初は軽い遊びでしか無かった。 コーディネーターに女物の衣装を見繕われて、スカートに足を通したのだ。 女物の衣装に身を包んだ自分はきっと滑稽な姿だと思っていたが、鏡を通して見た己の姿は確かに美少女で、タウニーも似合うと言って褒めてくれて、その内にこれを捨ててしまうのは惜しいと思った。 これなら夜の闇に紛れて街を歩く分には気付かれないのではないかと思えて──そしてその通りだった。 流石にポケモンバトルをするわけには行かないが、誰にも自分と気付かれず、バトルゾーンの隣を知らぬ顔で通り過ぎ、ミアレを歩き回れるというのは気分が良かった。 何しろ、最近の自分は顔が売れすぎてバトルゾーンにいなくても挑戦者は後を絶たないのである。 異常な事をしているのだという後ろめたさや露呈すれば破滅であるという事への恐怖は確かにあったのだが、何も気にせずその辺でぼーっとできるというのは開放感があったし、男に声を掛けられたり、あるいは盗み見てくる男に微笑みかけてやったりするのは気分が良かった。 昼間だけでも自分はMZ団、あるいは探偵代理として街で十分に活躍しているのだ。 夜はのんびりと過ごしてバトルゾーンに行くのはたまにでいい。そもそも、バトルなら昼間の時点でユカリの要望で際限なくしているではないか。 そうしてバトルゾーンに顔を出さなくなって半月ほど経った頃、しかし背後で当然のようにあの声が響いたのだ。 《でもキョウヤさま、その格好も素敵ですが、バトルゾーンには行かれませんの?》 ◆ 「っ、んっ……、……」 頬に、耳に、首に、鎖骨に。 ユカリの唇が触れる度にキョウヤは吐息を漏らし、身を震わせた。 頬を上気させ、潤んだ視線を彷徨わせ、接吻される度に小さく声を上げる様はまさに少女だ。 キョウヤはやりかえす事もできずに、耳まで真っ赤にしてシーツを掴んで刺激に耐える。 普段であればこのようにされるがままにはならなかった。 昼間そうしているようにやられた分だけ、いや、やられた以上にやり返して、それをユカリもまた喜び、割れ鍋に綴じ蓋、そうして二人は釣り合いが取れていたのだ。 だが今は少女の装いがキョウヤを無力にさせていた。 スカートにソックスにはだけたシャツではやりかえした所で恰好はつくまい。 今キョウヤにできるのは座ったまま、ユカリの愛撫と羞恥に身を震わせる事だけだ。 「そのように難しくお考えにならないで?  今キョウヤさまは折角素敵な衣装を着ているのですから」 「い、や……っ」 見透かしたように言われて、キョウヤの肩が跳ねる。 「これは、ユカリ、さん、がっ……」 ユカリは支えになっていた腕を取って──口ぶりの割に大した抵抗も無かった──転がすと、投げ出されたキョウヤの身体に覆いかぶさる。 守るものも無くはだけられたキョウヤの上半身に男装した美貌を擦りつけるようにしながら、ユカリは囁く。 「その衣装のリクエストを出したのは私ですが、拒みもせずに着てくださったのはキョウヤさまではありませんか。  それに、とっても可愛らしいですわ。本当よ」 「っ……」 紫の光に照らされた宝石のような瞳は、抗いようも無くキョウヤの視線を惹きつけた。 キョウヤを見下ろす視線はそれ自体がキョウヤを犯してとろかすようだ。 ユカリの眼には一つの悪意も蔑みも無くて、本当に無邪気にキョウヤの女装を可憐だと思い、愛おしんでいる事は明らかだ。 そしてだからこそ、二倍も悪い。 いっそ羞恥を煽るようなありふれた言葉でもかけてもらえれば抵抗もできるだろうに、このように肯定されるとただ何かのたがが外されていくようで、キョウヤの頭は倒錯と背徳で煮え立った。 こんな趣味を持っているのは異常な事なのに、それに一見がどうあれ自分は紛れもなく男なのに、ユカリに許されると違うのではないかと思ってしまう。 男装したユカリに組み敷かれて、二人の間で男と女がそっくり入れ替わったようだった。 ユカリはキョウヤを見つめたまま、スカートに腕を潜り込ませ下着越しに──キョウヤは流石に女物の下着は買えなかったが、これはユカリが用立ててくれた──張りつめたペニスを優しく握る。 「やっ……」 「そうそう、女性らしくなってきましたわね」 くすくす笑って褒めるようにキスするとキョウヤのペニスはユカリの掌の中で一層硬く張りつめた。 もう一方の手でシーツを握っていたキョウヤの手を取り、指を絡めて握り合わせる。 「大丈夫ですわ。見ているのは私だけですもの。  誰も知りません。これはキョウヤさまとユカリの間だけでの事」 ユカリは促すように優しい瞳でキョウヤを見つめながら、手を優しく上下させる。 「っ……、うっ……、あっ……」 普段なら決して上がらない声が漏れる。 衣装に相応しい高く甘い声。 それを吐き出すとろけた表情を見て、ユカリは目を細めた。 キョウヤの手がユカリの手を握り返す。 「もっ、と……」 手の動きはあくまで繊細で、緩慢だった。 絶頂への欲求がキョウヤを内から炙り、羞恥とプライドを押し流す。 「もっと?もっと何かしら?」 答えを知りながら、ユカリは尋ねた。 「……っ、もっと、つよく……!」 くすくす笑いながらユカリは手の動きを早める。 「っ……、そ、そう……っ、っ……」 キョウヤの表情は生娘のようにだらしなくとろけ、それをユカリは嬉しそうに見つめていた。 「気にせずお射精なさってくださいね。  私が見守っていて差し上げますわ」 「あっ、あっ、あっ……、ユ、ユカリさん……っ」 「なかなか良いですが、でもこういうのはどうかしら……?  "ユカリさま"──」 「ユカリ、さま──っ」 考える余裕も無かった。 キョウヤは促されるままにユカリの名を呼び、その言葉の言い終わらないうちにユカリはキョウヤに口づける。 「ん、んんんーーーっ!」 身をのけぞらせながら、キョウヤはユカリの掌に思い切り精液を吐き出した。 スカートに染みが広がって行く。 紫の瞳が、満足げに細められた。