ラストまでのあらすじ ドラグランドを目指す道中において俺たちはドラグランドの竜騎士だったドラグナという男と出会う。 指名手配されているから嫌だという奴を無理やり引き連れ、彼の持ち竜であるレディと共に4人と一匹の旅が始まった。 旅を続ける中でライトの竜化はますます進行し、自らの意思に反して暴走状態になることもしばしばあった。 ライトの進む竜化とドラグランドへの到着。どちらが先か予断を許さぬ状態が続くが、ついにドラグランドへのアクセスポイントへ辿り着いた。 女王竜への謁見を果たし、彼女の持つ神聖なオーラでライトの竜化の進行は収まった。 だがライトの胸に埋め込まれた人造竜宝石によって彼とがーすけとは肉体だけでなく魂も部分的に融合しており、これを取り除くと両者とも死ぬことになるため、肉体の分離つまり人間に戻すことはできないと言われた。 落胆する俺たちに女王竜は先読みの力で、このまま旅を続けて行けばいずれ全員元の姿に戻れるが、しかし命を落としかねない大いなる試練が待っていると告げた。 このままここに留まるのも一つの道だという女王竜に、ライトは全員が人間に戻れる道があるのならそれを進みますと宣言した。 俺たちはドラグナと別れて旅を再開した。 ドラグナの指名手配は大分誤解があったことが解り幸い罰せられることはなかったが、レディの相方として竜騎士団に生涯従事させられることになった。 竜嫌いのアイツにはある意味死んだ方がマシだったかもしれない。 ◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 旅を再開した俺たちにライトをつけ狙う集団との争いが始まった。 邪竜教団なる組織はライトの体を改造しただけでなく、伝説の邪竜オジ=ダハーカの復活を目論んでいた。 ペテン老師なる教団の指導者はライトの抹殺を狙い刺客を送り込むが、その副官であるオリ=ヴィラはライトを拉致しようと度々策を仕掛けてきた。 どこかちぐはぐな奴らの目的に違和感を感じながら抗争が続く中、俺たちはかつて邪竜教団と戦いそれを壊滅させたというゴウ=ヴァインという男と出会った。 それは以前道中にて出会った竜巫女の女性から聞いた名前であった。 そのことを伝えると彼は俺たちへの協力を申し出てくれた。 ふりかかる火の粉を払うだけでなく火の元を消さないとこれは収まらないという方針が決まると、俺たちは邪竜教団の組織を壊滅させるべく動き始めた。 ◇ ◇   ◇   ◇   ◇ 奴らの刺客を倒しながら情報を集めていく。そうしていく内に奴らの本拠地がレンハート国内にある深淵の峡谷であることを得た。 まさか地元にそんなヤバい連中がいたとは…と思いながらレンハートを目指す俺たち。 邪竜教団の作り出した人造竜人軍団との戦いのさ中、俺たちと分断されたライトが奴らに拉致されてしまう。 副官オリ=ヴィラによって邪竜オジ=ダハーカ復活の儀式の生贄とされるライト。 ライトに埋め込まれた人造竜宝石でライトに連なる竜、つまりがーすけを一部だけでも融合させることによってライトごと食らわせ、オジ=ダハーカ復活のための素材としようとしていたのであった。 ◇ ◇   ◇   ◇   ◇ 俺たちが奴らのアジトにたどり着くとまさに儀式の真っ最中であった。 自分の思いもよらぬ展開となったペテン老師がオリ=ヴィラに問い詰めると、彼は「今まで面倒な組織の運営ありがとうございました。貴方が使い込んだ金がどうなったかは知りませんが、どうせ世界はこの私の手によって滅ぶから安心して逝ってください」と冷酷に告げペテン老師を峡谷に突き落とした。 オリ=ヴィラの正体はかつてゴウが倒した邪竜教団の司祭ザハークの転生体であった。 正体を告げると奴は化けの皮を剥がしザハークの姿を取り戻す。 儀式が始まると地の裂け目から計り知れないほどの禍々しい闇のオーラが吹き荒れる。 俺たちはそれを阻止しようと突入するも奴らの妨害に遭ってなかなか先に進めない。 儀式は終盤に差し掛かりライトを峡谷に落とす段階になったところで変化が起きた。 ライトの体が急激に竜化して行く。 今までのように浸食するというようなレベルではなく見た目だけでなくサイズも黒い巨竜へと変化する。 彼に施されていた拘束は飴細工のようにもろくも壊れ、神秘的とも禍々しいとも映る一匹の黒い巨竜が宙へと舞い上がった。 ただその胸には場違いな竜宝石が異質に赤く輝いていた。 ◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 「隠れろ!」 俺はライトいや黒い巨竜が放つひどく攻撃的なオーラに嫌な予感を感じたので仲間たちに避難を即す。 その考えは正しかった。 黒い巨竜は圧縮された闇の力を込めた渾身のブレスを儀式台やその周囲に斉射するように吐く。 その破壊力はすさまじく儀式台だけでなく俺たちを妨害していた邪竜教団の配下たちも軒並み粉砕されていた。 だがザハークは防御障壁を展開していたため無傷であった。黒い巨竜を挑発するように奴は谷底へと逃げて行く。 黒い巨竜は谷底に向けて強力な闇のブレスを何度も放つ。だがそれがザハークの狙いでもあった。 大地が鳴動する音が聞こえるとその中からけたたましい咆哮と共に三つの巨竜の首が伸び上がってくる。 それは首と頭部だけでライトの黒い巨竜と変わらぬ大きさであった。 「まぁすんなり上手く行くとは思っていませんでしたがプランBが成功してなによりです。このまま闇の力をオジ=ダハーカに提供し続けてください!」 プランBとは黒い巨竜とオジ=ダハーカを直接対峙させその闇の魔力を吸収させる策であったのだろう。 それが狙いと分かっているのなら止めねばならない、だが止まるのだろうか? しかしやってみなければわかるまい! 「ライト!聞こえるか! お前の放つブレスを今すぐ止めろ! やつに力を与えるだけだから直接攻撃で奴を仕留めるんだ!」 俺の声が届いていたのであろうか、黒い巨竜はブレスを吐くのをやめオジ=ダハーカに肉弾戦を仕掛ける。 さすがに3対1は厳しい様子だが、次はどう手を打つ?  考えを巡らせている間にオジ=ダハーカの三つ首から煙のようなものが吐き出される。 それは中空でまるで暗雲のように渦を巻き広がると、周囲にある生命体から少しずつ光の粒のようなエナジーが湧き出し、奴はそれを吸収していっている。 エナジードレインの類であるのは確実ではあるが、一体どう対処すればいいんだ…。 「プランBがダメだったようでしたからプランB´で行きますか。まぁ時間はかかりますが復活する頃には周辺諸国の人間は軒並みくたばっているでしょうから、それもまぁ良しです」 オジ=ダハーカが吐き出す闇は周囲の生命力を吸収し奴の力に変えるらしい。 心なしか俺達も少しづつHPが減ってきている気がしなくもないが…いやそうでもないな。 俺とナチアタには凝視すると分かるオーラの被膜によって守られている。 これはきっとドラグランドでもらった女王竜の加護であろう。 だったら女王竜と会ってはいないゴウは大丈夫なのか? その心配は杞憂であった。 彼の剣に付いている花飾りがオジ=ダハーカの吐き出す煙を打ち消している。 これはきっと竜の巫女の加護なのであろう。 どうやらこの空間でまともに戦える者は俺たちだけのようだ。だが次の手はどう打てばいい…?  選択肢は二つ。元凶であるオジ=ダハーカを倒すのか、それともそれを利用しようとするザハークを倒すのか…。 ◇ ◇   ◇   ◇   ◇ (モトマトー領内) 突如現れた暗雲によって領民が次々と倒れるという異常事態が起きている。 レンハート王国の中でも屈指の魔法使いでもある勇者学園学園長ダマテロの指揮によってモトマトー全域をカバーする障壁が張られる。 領内の全魔力保持者を使ってこの結界を維持しても後1~2日。 暗雲はレンハートを超えこのままではいずれ世界全土を覆う危機となると報告される。 この事態にレンハート王、いや勇者ユーリンが立ち上がる。 「調査隊を結成して俺があの暗雲の中に行く。いいな?」 側近たちの中には引き留めようとするのもいたが、彼の師匠でもある大臣が「世界の危機に何を言っておるんだボケ!」と一喝してすんなり話は通った。 勇者ユーリン、魔法使いツーン、僧侶メディック、戦士サキによるかつての勇者PTによる調査隊が再結成され、今まさに渦中に向かっていくのであった。 ◇ ◇   ◇   ◇   ◇ 次の手はどう打つ?そう考える俺にゴウは提案した。 「あのデカブツはどう考えても時間がかかるだろ。だったらまずはザハークから潰すべきだ。あいつなら俺たち三人で掛かれば行けるだろ」 その案を受け入れザハーク討伐へと俺たち三人は向かった。 ザハークとの戦いは色々あったが最終的にはナチアタの風魔法で宙に飛ばしたところを、俺がレンハート王家三大奥義レンハートスパークでがっちり固めてから、フィニッシュはゴウが魔力を剣に込めた必殺の魔導剣で仕留めた。 断末魔でなんか恨み言を言ってたけどゴウが細切れにした後、俺が聖魔法で浄化しといたから次の復活はないと思う、多分。 強力なブレスを封印しての3対1のバトルはさすがに黒い巨竜でも厳しかったようだ。 だが俺たちが参加したところでどうなる…と考えたところにとてつもない援軍が現れた。 中空から現れたのは青い肌をした竜…いやぱっと見は牛にしか見えないんだけど…。 それは置いといて、その竜が俺たちの加勢に入ったのであった。 ゴウはそれを見て「竜神様…いやリューマ…」とつぶやいていた。 ◇ ◇   ◇   ◇   ◇ プランB´による緩やかな生命力の奪取ではさすがのオジ=ダハーカも首から下の再生はおぼつかないようであった。 やるなら今しかない! だがオジ=ダハーカの放つ呪言は俺たちの闘争心を鈍らせる。 くそ!どうせ俺は勇者の恥さらしな息子だよ。 所詮エビルソードから逃げた死にぞこないだよ。 故郷を襲って後ろ足で砂かけたクソ野郎だよ…。 心がへし折られそうになった時に黒い巨竜が俺に語り掛ける。 いやこれはライトの言葉だ。 「ミレーンさん!こんな煽りに負けないでください! あなたは僕にとって勇者なんですから!」 「こんな闇なんかに負けてたまるか! がーすけ!僕の全部をくれてやる! 全力でアイツを倒してやれ!」 ◇ ◇   ◇   ◇   ◇ 黒い巨竜が一瞬電撃を受けたかのように発光すると胸の竜宝石が砕け、体色が黒から輝く純白へと変わる。 これががーすけ、いや闇を払う竜の真の姿であったのだろう。 真の力を取り戻したがーすけと竜神様によって二つの首は制圧されつつある。 ならば残り一体は俺たちが倒すべきだろ! ナチアタの風魔法で俺とゴウを三つ首の真ん中にあるモーラ・ハーラの頭部まで打ち上げる。 「あの時の俺は見ているだけで何もできなかったガキだったが、今度は持てるもの全て出してお前を討ち果たす! セレナの仇を取らせてもらうぞ!」 魔力を最大限に高めた魔導剣の一閃を放つ。 モーラ・ハーラの顔の右半面に真一文字の切り傷ができるがまだダメージは足りない。 「後は頼む!」 ゴウに託された俺は普段の倍の魔力を両手両足に込め、普段の倍の突入スピードと倍の回転を入れて、モーラ・ハーラの切り傷に向かって輝く一陣の矢として突入する! 「レンハートスクリュードライバー!」 俺たちがモーラ・ハーラを倒すのと同時に、黒いや純白の巨竜と竜神様が残り二体を倒しオジ=ダハーカは完全に討伐した。 オジ=ダハーカの亡骸が竜の峡谷に落ちて行くと同時に天に渦巻いていた暗雲は消えた。 おそらくエナジードレインの状態も収まったと思われる。 疲れ果てた俺たちの前に純白の巨竜と竜神様が降りてくる。 戦いはどうやらすべて終わったらしい。 ◇ ◇   ◇   ◇   ◇ ゴウが青い肌の竜神様に触れてつぶやく。 「久しぶりだなリューマ。お前とまた会えてうれしいよ…」 彼がつぶやいた後にどこからともなく優し気な女の声が聞こえる。 「会いたかったよゴウ。強くなったんだね…」 竜神様から光がゆっくりと零れ落ちる。 地に着いた時、その光の中から桃色の髪をした女性が一人現れる。 あれは俺たちが以前出会った竜巫女のセレナであった。 「久しぶりだねゴウ…」 「セレナ…まさか本当に…」 二人にとって再会の言葉はそれだけで十分であった。 力強い抱擁をしながら二人は感極まり号泣するのであった。 ◇ ◇   ◇   ◇   ◇ で、問題はこっちの方だ。 純白の巨竜が地に降りてくる。 俺たちを見据えると深呼吸を繰り返し、最後に大きく息を吸い込む仕草をした。 巨竜が息を吸い込むと同時に周囲から闇や瘴気が吸い込まれ浄化される雰囲気を感じる。 巨竜が息を吸い込み続けると俺の体の中からどんどん闇が抜けていく感覚がある。 その証拠に肌の色が赤から徐々に人肌へと戻って行っている。 ナチアタの方を見ると上半身の白い人型が融解してなくなっていく。 そして少し経った後、カバネグイの本体が何かを吐き出す。それは人間の肉体であった。 その肉体はかつてナチアタだった物であったものであろう。 辛うじて命を繋いできた彼女にとってこれはひどい仕打ちではないのだろうか…。 そう思っていた矢先、純白の巨竜は光の粒子を巻き散らしながら消えて行く。 その光の粒子がナチアタの遺体に触れると、遺体は息を吹き返す。 俺とナチアタは純白の巨竜の力によって人間の体を取り戻すことができた。 念願の人間への復帰。だがそれを実現してくれた張本人はここにはいない。 恐らく光と共に消滅したという可能性が高い。 確かに使命を全て果たしたが故の高潔な自己犠牲かもしれない。 だがアイツは俺にとっては旅の最初の仲間であり相棒であり友であり弟のような存在であった。 アイツの人生がこんな形で終わるなんて…、そう思うと俺は地面に突っ伏して号泣をせざるを得なかった。 息を吹き返したナチアタも再会を喜ぶゴウとセレナもこの事実には涙を流さずにはいられなかった…。 「(なんだろうこの空気ものすごく出づらい…)」 人間の姿を取り戻したライトは物陰からこのお通夜のような状況を見て、どう出たら良いかと真剣に考えていた…。