Ms.ミトメーヌ&Ms.バッカーノ/流浪のヴィアヘラ&チェインズ・ケイジバスター/「リベンジャー」アテン&勇者/ジーニャ&ラーバル/チキンディナー&ノーマ Ms.ミトメーヌ&Ms.バッカーノ 「キスしないと出られないですって?バカバカしい、認めませんわよ!きっとどこかに脱出ルートが……」  怒りに手を震わせながら、扉を睨みつけるミトメーヌ。眉を吊り上げる彼女の顔を、バッカーノが覗き込んだ。 「ミートちゃん」 「何で」  開きかけたミトメーヌの唇を、バッカーノのそれが塞いだ。 「〜〜〜!!」  ミトメーヌの手が、バッカーノの肩を叩く。バッカーノは彼女の肩を両手で掴み、獲物の息の根を止めようとするかのように、執拗にその唇を貪った。 「なんてことするんですの〜!?」 「あっ、開いたよミトちゃん」  ようやく開放されたミトメーヌは、羞恥と混乱に頬を染めてバッカーノを怒鳴りつけた。バッカーノは唇をぺろりと舐めて扉を示した。 「あら本当、不思議な魔法……じゃなくって!!キスするにしても、なぜ一言も断りなく」 「ほら、急がないと閉まっちゃう!行こうよミトちゃん!」 「ちょっと、引っ張らないで!!もう!」  バッカーノは、ミトメーヌの手を引いて駆け出す。相棒の天真爛漫な表情に、怒るのも馬鹿らしくなったミトメーヌは、むくれ顔をしつつも彼女に従った。 流浪のヴィアヘラ&チェインズ・ケイジバスター 「キスしなければ出られない部屋か……」  扉の文字を読み上げ、ヴィアヘラはチェインズに目をやった。 「やってみて減るものでもなし、試してみないかご同輩」 「いいや、ごめんだね。キスがしたいなら、ここを出た後に、酒場で一夜の恋人でも探してくれ」  ニヒルな笑みを浮かべるチェインズ。ヴィアヘラは彼の笑みを探るように見つめ、納得の表情になった。 「なんだ、お相手がいるのか」 「……よく気づいたな」 「私はそういうのには敏感なのさ。じゃあ、仕方ない」  ヴィアヘラが視線を扉に戻す…… 「とでも言うと思ったかッ!!」  殺気!チェインズは素早くヴィアヘラの手を弾いた。 「何のつもりだ!!」  チェインズは跳躍して後ずさる。ヴィアヘラは会心の笑みを浮かべ、彼の斜め前に向けて駆ける。 「かかったな!」 「……クソがッ!」  チェインズはヴィアヘラの意図を悟り、毒づいた。さほど広くない部屋の中で、チェインズは不注意にも、部屋の角に向けて移動してしまった。今ヴィアヘラが距離をつめたことによって、前進も後退も難しくなった。彼女の狙いは最初からそれだったのだ。 「フフフ、いいじゃないか減るもんじゃなし!手に入らない男より美味いものはない!!」 「貴様ッ!!!」  ヴィアヘラの手が伸びた。チェインズが身構える。キスしなければ出られない部屋の中、男と女の闘争が幕を開けた。 「リベンジャー」アテン&勇者  魔術の炎が扉の表面を滑り、あっけなくかき消えた。アテンの剛力も、勇者の剣も、この扉には通用しなかった。アテンが舌打ちする。 「趣味の悪い魔術もあったものだな」 「仕方がない。さっさと済ませるぞ。しゃがめ」  勇者は宿敵の顔を見上げ、手招きした。アテンは不機嫌にため息をついた。あぐらをかいて座り、上体を傾げる。金色の目が、勇者の目の前に降りてくる。 「もう少し躊躇うものかと思っていたがね」 「接吻一つで何が変わるものでもない」  勇者はぶっきらぼうに言うと、包帯に覆われた頭に手をかけ、引き寄せた。失われた右眼の跡を、指先が偶然のようになぞった。 「……煙草臭い」 「そうかね。屍臭がしないなら良かった」  息がかかるほどの距離で、二人は見つめ合う。互いの目に相手の姿を映したまま、二者はしばらく静止していた。沈黙に耐えかねたように、アテンが口を開く。 「何をぐずぐずしているのだね」 「顔を覚えておこうかと思ってな。お前を殺した後のために」  アテンは気色ばんで文句を言おうとしたが、部屋の鍵の鳴る音が、彼の言葉を遮った。 ジーニャ&ラーバル 「クソッ、こいつもダメか……」  ジーニャが悪態をついた。二人が部屋に閉じ込められて、既に三時間が経つ。二人の知る全ての魔術を受け止め、二人が考えつく限りあらゆる手段でのこじ開けを受けて、扉はなお沈黙していた。ラーバルがジーニャを見上げる。 「ジーニャ……」 「言っておくが、嫌だからな」  その語気の激しさに、ラーバルは言葉を飲み込まざるを得なかった。 「絶対に脱出する。キスせずにな。どこかに魔術のほころびがあるはずだ。これぐらい抜けられなくて、マスグラードの兵士を名乗れるもんか」  その横顔は凛々しかったが、声はわずかに震え、虚勢を張っているのが容易に透けて見える。ラーバルは目を伏せた。その口から小さな声が漏れる。 「なあ……」 「キスってのは……他人に強制されてやるもんじゃないだろ!誰だか知らないクズ野郎が、どこかでニヤニヤこの部屋を見てやがる!そんな奴にやれって言われてはいはい従って……そんなのってないだろ!?」  ジーニャの目が鋭く尖った光を宿し、ラーバルを睨みつけた。ラーバルは耳を伏せてしおれた顔をし、ぽつりと言葉を漏らす。 「……オレとなのが、イヤか?」 「そんなことは言ってない!」  ジーニャの顔がさっと紅潮した。その顔色が羞恥と怒り、どちらによるものかは、判断がつかなかった。 チキンディナー&ノーマ 「妙な魔術だな……どこの仕業だ?恨まれる覚えは星の数ほどあるが……」  チキンディナーは独り言を言いながら、大股にノーマに歩み寄ると、流れるように接吻した。かちりと鍵が鳴った。 「開いたな。行くぞノーマ」 「はい」  チキンディナーの態度は普段通りだった。ノーマも普段通りに振舞うほかはない。先に立って歩き出した、彼の背を追って扉を出る。 「こんな回りくどい罠にはめられるなら、殺しようは幾らでもあったはずだ。なぜわざわざこんな真似をした?……何にせよ、警備は考え直さねばならんな。どう思うノーマ」 「はい……」  チキンディナーは振り向かない。おかげでノーマは、真っ赤になった頬を見られずに済んだのだった。