キミがどれだけ頑張って来たのか、女神様は全部ボクに持たせてくれた。 頭の中に叩き込まれたキオクは想像よりもずっとずっと濃いもので、けれどなによりキミらしいなとそう思う。 例え性別が違ったとしても。 ほんのちょっぴりのズルをして会ったキミは、ボクが知るキミの面影を残した女の子になっていて、でも昔からかわいいなと思っていた、中性的でかっこいいにもかわいいにも振れそうな顔はパーツをほとんど残していて。 涙目で震えるキミが──ああ、抱きつかれたら我慢できなくなりそうだ──やっぱりとてもかわいらしくて。 離したくないなって思って、抱き返す腕に力を込めた。 潤んだ瞳の華奢なキミ。 ボクがいなくなったことを悲しんでくれるキミ。 ボクと同じ心残りを抱えるキミ。 ……あの時の「男の子と女の子」に気持ちが戻った気がして、言葉を待つ。 伝えたかった言葉は一緒で…ボクとキミの心はやっと繋がって、けれど別れがやってくる。 このレコードのボクの残りを託して、それで終わろうと思って。でもやっぱり我慢なんかできなくて、けれど縛りたくはなくて。だから頬に唇を寄せて、精一杯を込めて、それじゃ頑張ってと逃げ出そうとしたら… キミの中のあの日のキミが追いかけて来て。 もう遠く離れたはずの体を抱き寄せられて。 その強引さに、ボクが好きな男の子を見て。 けれど重ねた唇の柔らかさは女の子の物で。 見開いた目に映るキミが何よりも大好きで。   キミが好きな事は変わらなかった。ボクが好きになったのは、男の子でも女の子でもなく、キミだった。 ボクは終わっている。また会いましょうと言ってくれたキミとの幸せな今を最後に抱えて、なかったはずの初恋が実った夢を抱えて、揺蕩い眠るキオクになる。 キミは進んでいく。なかったはずの初恋を実らせた記憶を抱えて、素敵な女の子になっていく。これからを立派に歩いていく。止まっていたあの日のキミから進んでいく。 魔法少女業は大変かな? メイドさんはやるのかな? これからなにかしたいことはできるかな? 抱き合う体の温もりを、忘れずにいてくれるかな? ボクがいたことを、抱いたままでいてくれるかな? ファーストキスを、ずっと覚えていてくれるかな? ……いつか……誰かを、……好きになるのかな。 去っていく背中を見送って、カードを引こうとして、やめた。 その資格はない。ボクは隣にいない。これからボクは、一秒ごとに過去になる。 ボク 過去は、キミの運命を決めない。 キミ 未来は──