女は何度もえづきながら、鼻先に晒された緑色の醜い肉の塊に舌を伸ばした。 そこから昇る雄の香りは、鼻腔を潜って脳に不愉快な靄を掛けていき、 舌の上に垂れた液体の味は、味蕾をぴりぴりと痺れさせて味もわからなくさせる。 そうして、次第に前後不覚へと追い込まれていった彼女は、自分が床に転がされていること、 性器を向けてくる雄が一体だけでなく――いつしか数体に増えていたこと、 そのうちの一体が、さも当然のように膣内に挿入を始めたことにも、気付かなくなってしまう。 彼らの肌は、蛙を思わせるように碧い。それは彼女の瞳の色にも、薄っすらと似通っていた。 ただ、女の肌はそれとは違った薄橙で、彼女が地球人種の雌であることを如実に示している。 本来なら、この雄たちのいる星系には、滅多に現れることのない種族――ありうるとしたら、 今彼女が捜索に来て――同じような目に合わされている他の女たちのように、 “人さらい”の対象に選ばれたときぐらいだ。人々が複数の銀河を易々と渡る時代、 一度さらわれたものが五体満足で見つかることは天文学的な確率でしか起こらない。 だからといって、それを呑める程度には家族の情というものは生温くなく、 どれだけの予算を掛けてもいいから娘を探してくれ――と、依頼を受けたのが一月ほど前の話。 種族が違えど、雌といえば見境なしにさらい、犯し――そんな蛮族そのものな生態の彼らも、 星の海を渡り、いくつもの迷路めいた根城に獲物を隠すぐらいの知恵はある。 普段の彼女なら、そんな巣穴程度、あっさりと焼き払ってしまっていたろうが、 もしその中に、捜索対象がいたら――?結果的に彼女は生まれつきの美貌を“餌”とした。 自分たちとは違う、白く透き通るような肌に、金色に煌めく長い髪。 そんな獲物が、隙だらけのまま川で水浴びをしていたのだから、雄たちは己の幸運を喜んだ。 よもや雌が、自ら入り込むために肢体をさらけ出していたなどとは思いもせず。 そして連れてこられたのは、この人気の失せて寂れた町の、宿屋の一室である。 穴の開いた壁に板切れを雑に留めただけのその部屋は、密室と言うには程遠い。 開けっ放しの窓のすぐ下には、下階の露台が見えていて、 どれだけの運動音痴であっても、逃げることには苦労しないように思われた。 連れ込まれるまでに、鍵の掛かった部屋がいくつもあったが――自力で脱出もできるだろう、と。 あとは件の娘を見つけ、逃げる機会を探すだけ――そう考えた彼女は、 連れてこられた雌のほとんどがそうするように、嫌がる素振りだけをして、 結局、数の暴力と性差の前に組み伏せられて犯されるという茶番を演じていたのであった。 だが想像以上に、彼らは“巧い”。雌の思考力をゆっくりと薄れさせていったあとで、 くたくたになった頭を回させないように、身体ごとさらにくたくたにさせる。 宿の中をうろついても怪しまれないような、“模範的”な雌であるためには、 雄の命令に背くわけにはいかず――そうすると、すっかり彼らのやり方に流されてしまう。 子宮の奥に吐きつけられる、地球人種の雄のそれよりも濃い黄色、臭いをした精の塊―― 彼らの目的の果てを、想像せぬわけではない。が、妊娠を嫌がる態度を取ってみせると、 雄たちは一層、この雌を孕ませてやるとばかりに夢中になって群がってくるのだから、 彼女が狙い通りに探索を進められる日は、一週間に一度あればいい方だ。 もし廊下を歩いているのを見つかれば、手近の空き部屋に押し込まれて犯されて、 そこが次の一週間を過ごす場所になる――今いるのは、果たして何階だったろうか? 頭の中で立体的な地図を組み上げながら――それが雄臭によってかき消されるのを繰り返す。 早く見つけないといけない。早く逃げないといけない。早く、早く―― 焦りとは裏腹に、探索可能な機会はいよいよ減る。ほとんど常に複数の雄が順番待ちして、 空いた途端に、身体を使いにやってくるのだ。この部屋で過ごすのも、もう何日目だろうか。 しばらくして、彼女が自身の目的と捜索対象の顔とを忘れかけてきた頃、 ふと彼女は、自分が粗雑な鉄格子の中に、幾人もの裸の女たちと詰められていることに気付く。 窓硝子の向こうには、砂粒のように小さくなった星々が無数の線となって走っている―― また目を覚ます。次に来たのもまた、どこかの廃墟の再利用なのだろう。 地図を作り直しすことへの徒労感が身体を蝕む中、それでも、雄たちは彼女を使う。 檻の中で顔を見合わせた他の雌たちは、やはり別の部屋で犯されているに違いない。 中には既に、ぽってりと胎を膨らませたものもいたように記憶している―― 自分も“ああなる”のだろうかと、女は内心に冷たいものを覚えた。希望も何もかも失った目。 あるいは、反抗しているつもりになっているのは自分だけで――既に、同じ目つきだろうか? 髪を引かれ、床に押しつけられ、壁に手をつかされ――雄の思うがままに、 己の肉体を差し出さなければならないという屈辱にも、次第に慣れてしまう。 性器を向けられた途端、彼女はいつしか――ああ、尻を向けなければ――と、 ほとんど反射的に考えている自分にさえ、既に自覚がないのである。 また別の星へ。別の。さらに別の。今はどの星にいて、宇宙暦何年なのだろう? 檻の中の“仲間”たちは増えたり減ったり、腹が膨らんでいたり戻っていたり。 そういったことでしか、彼女は時間の経過を感じられないようになっていた。 自転周期の違う星々を転々とさせられているうち、体内時計は狂いに狂う。 まして、昼も夜もなく雄たちは彼女の美しき肉体に爪跡を残さんと精を吐きつけ、 まともに寝かしてさえくれないのだから――思考は混濁し、正気もやがて遠くなる。 出発地点から数えて、十を超えるような星間移動の頃には、もう見知った顔は一人二人。 初めて見たときには大きな腹をしていて――今、二度目か三度目の、どこかの少女。 その顔に、どこか仲間意識と――見覚えさえ感じながら、彼女らは運ばれていく。 着いた先は、いよいよぐちゃぐちゃに組み上げられた雑居の要塞である。 いつ崩れて、天と地とが混ざり合ってもおかしくないようなごみごみしたその中では、 産まれたばかりの赤子が、無造作に放り捨てられながら母でもない孕み袋に乳をねだり、 そしてまた、臨月胎をぶら下げた雌たちが旅の果てに何も考えられなくなった頭で、 雄の精を求め――大きな腹と乳とを下品に揺らして、雌の本懐を果たしているのであった。 その浅ましい様を見て――かつての“銀河最強”は、心底、羨ましいと思った。 己の胎の子がまだ安定期に届かず、激しく犯して貰える日の遠いことが恨めしかった。 雄の性器に自ら下を伸ばし、上目遣いで早く犯してくれと頼むも――断られるのが悔しかった。 自分と同じ日に運ばれてきた少女が、すっかり雌の顔に成り果てて淫らに精を浴び、 股ぐらから緑肌の赤ん坊をひり出すのを見て――あれが自分のことだったら、と思う。 彼女のような黒く染まった乳輪、その上に浮いた歯型、取れなくなった妊娠線。 そういったものが、母体としての優秀さの証であって――自分には、まだ、ない。 少しも色濃くなってくれるようにと、自ら乳首を弄って乳腺を整え、 じんわりとしか出ない乳汁が、噴水のように噴くのを夢見ながら、自慰に耽るその様には、 かつての凛々しさも勇気もあったものではない。まして、計画性などどこへやら。 ぱんぱんに張った臨月胎をゆさゆさ揺らして雄たちを誘い――そのうちの一体が、 もう良い頃合いだろう、と性器を勃起させて近づいて来たとき、 久しぶりに尻穴以外を穿ってもらえる喜びに、女は何度も潮を噴く。 その頃には、彼女の頭ほど大きくなった爆乳からは搾られずとも常にたらたらと乳が漏れて、 他の孕み袋に負けないだけの母体としての優秀さを、自他共に証明していた。 嗅ぎ慣れた雄の臭いを口と鼻の中に通した後で――女は自ら黒々と染まった陰唇を開き、 浅くなった膣道に、緑色の肉塊を受け入れる――それが、彼女のその先の全てだった。 胎が空いていようが、埋まっていようが変わらない――ひたすらに、交わるだけの、日々。 隣でまた新たな子を産むためにいきむ同輩の顔を横目に見ながら、その顔への見覚えが、 果たしてどこでのことであったか――そんなつまらないことを、女は考えるのであった。