【独身の日】 「独身の日ですねぇ」 「…なんだその日は?」 新聞を読みながら呟いたクリストの独り言をギルが聞き咎めた。 「知らねえんですかい?旦那」 ギルの無知が面白いのかマーリンが含み笑いをするが、直後ギルに人睨みされて透明になって逃げていく。 「どうも東方の国で行われてる記念日みたいで、独身者が独り身を祝うらしいですよ。由来はえーと…」 「知らねえのか?1が4つ並ぶ11月11日が、「独り」を象徴しているためらしいぜ」 透明のまま豆知識を披露するマーリンに、仏頂面でクリストが「どうも」と返事をする。 「……くだらん。ギルドの登録者なんて大半が未婚者だろうに、そいつらは祝っているのか?違うだろ」 「でも聖都の奪還と世界の平和を見るまでは結婚なんて考えられないし…」 「俺も結婚とか自分から自由を捨てるなんてバカバカしい」 「……俺も結婚なんてもう考えてないしな。じゃあ独身を祝して三人でこの後飲むか?」 ギルの提案に二人は賛成したところで話題も尽き、ギル、クリスト、マーリンは揃ってブティックに目を向ける。 「イザベラ様、遅いですね」「いつまで見てんだよユイリア…」「…まだ戻らないのかアズライールは」 【のど飴の日】 「のど飴の日ですね今日は」 「…?そんな日あるの?クリスト」 クリストの声にイザベラが首を傾げる。相方であり、恋人でもある彼女のそんな仕草が誠に愛おしいのは、惚れた弱みだからだろうか。 「はい、といってものど飴の販売会社が作った記念日ですが…」 そう話しながらポケットから飴を取り出したクリストは、イザベラに飴を手渡す。 「というわけでのど飴です。魔法を使う人はこの時期は気を付けないと」 礼を言って飴を口にしたイザベラは、ふと気が付いてクリストの分はと尋ねた。 「いや、生憎この一つしかなくて。僕にとって最優先すべきはイザベラ様ですから」 自分は必要ない、という態度にイザベラが頬を膨らますが、もう飴は彼女の口の中だ。 「ムー…あ、そうだ」 と、妙案が閃いたイザベラが手を叩いた。 「ねえクリスト、こっち向いて」 「?なんですかイザべラ様…んむっ?」 無防備に彼女の方を向いたクリストと、イザベラの唇が重なった。そのままイザベラの舌がクリストの口内に侵入し、彼の舌と絡み合う。驚いて固まるクリストの舌に、固くて甘い何かが渡った。 「ぷはっ、…えへへ、二人で、飴舐めあえば、問題ないね。クリスト」 【ハバネロの日】 「ハルナ、これやるよ」 「ん?なにこれマーリン」 魔術師マーリンからもらった赤色の菓子にハルナは目を丸くする。聞けばこの地方の人気菓子なのだが、スナック菓子は彼の口に合わないとか。 (このドケチにしては珍しい)とは一瞬思ったが、貰えるものは取り合えず頂いておくのが旅の流儀。有難く菓子を口にした。 直後、ハルナの口内が爆発した。 「辛ぁぁぁぁぁ!!!!」 「ダーッッハッハッ!!見事に引っかかったな!!」 悶絶しながらハルナは爆笑するマーリンを睨みつける。 「ば、馬鹿マーリン!私に何を食わせたの!?」 「こいつは暴君ハバネロ!!その見た目の通り激辛スナックさ!良かったなぁ珍しいもん食えて!」 「死ねえ!」と苦無を投げつけるが辛さで涙が滲んで狙いが定まらず、ヒョイとマーリンに避けられてしまう。 ならばと飛びかかろうとするがその瞬間転倒させる魔法をマーリンに掛けられ、体勢を立て直した時には既に透明化してマーリンは逃走を開始。 「待てええええええ!!」と叫びながら猛スピードで追走するハルナを、ユイリアとボルボレオは暖かい目で見送った。 「仲いいでありますなあの二人は」 「仲いいですねお二人は」 【雪見だいふくの日】 二人の聖騎士が殺気を漲らせ、睨み合っていた。 「やめてください!」三人目の聖騎士、クリストが間に割って入った。 「…止めるなクリスト」片方の騎士、ギルが呟く。 「こんな奴庇う価値もないぞ!」もう片方の騎士、イザベルが怒鳴る。 「どうしたのですか」クリストが悲痛な声で問う。 「此奴の傲慢さが許せんのだ」と、イザベルが吐き捨てる。 「アレの狭量さに愛想が尽きた」と、ギルが嘲笑う。 ボーリャックの離反を巡る争いを思い返し、震える声でクリストは原因を訊ねた。 その直後「こいつが雪見だいふくを!」と、イザベルはギルを指さして糾弾した。 「……は?」 「…一つ貰っただけだ」 ギルの反論にイザベルが「一つだけだと…!?」と青筋を立てる。 「貴様は雪見だいふくの価値をわかってない!」「片方分け与える度量もないのか…!」「棺を武器にする拗らせ男にやる度量などない!」「義手に珍妙な名を付けてる貴様に言われたくない…!」 「「クリスト!お前はどっちの味方だ!」」 二人の敬愛する聖騎士に問われ、クリストは天を仰いで大きく深呼吸をし、「僕、戻りますね」と爽やかな笑顔で告げ、呆然とする二人を置いて去っていった。 【ボジョレー・ヌーヴォーの解禁日】 「ふふっ、『私を』味わってくださいヨシタカ君…ん…ちゅっ…ちゅぷ…」 「ヨシタカ君。今度は『私を』…ん…ちゅぅ、あむっ…ちゅ…」 「ん、んぷっ、待って二人とも…んんっ…」 なぜこんなことになったのだろう。 ヨシタカは、アストレッドとストロベリー、二人の『紅白』の美女に唇を貪られ、色欲と酒毒に侵された頭で考えた。 きっかけは、ヨシタカが宿屋で酒を飲み交わしてるときに、ふと手元の二種類のワインの瓶を見て呟いた。 『ストロベリーお姉ちゃんが白ワインだとしたら、アストレッドさんは赤ワインだね』 その言葉に二人は顔を見合わせ、それぞれの色のワイン瓶を持ってヨシタカに酒を注ごうとした。最初はそれだけだった。 だが、次第に競争は過熱し、ストロベリーが突如白ワインを急に口に含み、 「ん…、ヨシタカ君『私』を飲んで…」「あーーー!!」 ヨシタカに口移しで飲ませてからタガが外れた。 負けじとアストレッドも赤ワインを口に含み強引に口で飲ます。 その後はもう滅茶苦茶だった。二人は自分の色のワインを飲むと交互にヨシタカの唇を奪い、ワインを飲ませる。 飲んで、飲まされて、唇を奪い、奪われ、貪り、貪られ………… 【フライドチキンの日】 「かぁ~!久々に喰うフライドチキンは最高だねぇっ!」 野営のキャンプ地で、ウラヴレイはフライドチキンを肴に酒を飲みながら叫んだ。 「はむっ、はぐっ!」「チキン美味しいですウラヴレイさん!」 年少組が貪るようにチキンを食べるのを見て彼女の顔に笑みが浮かぶ。 酒を求めて街中を徘徊中、偶々チキンの特売を見かけて、つい衝動買いしてしたのだが、どうやらこの買い物は正解だったらしい。 ふと気づく自分の分を食べ終えたシロが、ブラックライトのチキンを物欲しげに見ている。おやおや、と思って眺めているとやがて彼女は行動に出た。 「ライト、1本頂戴」「え、やだよ」「欲しい」「駄目!」 ブラックライトとチキンを巡って睨み合いになってるシロを宥めようと、ウラヴレイが立ち上がろうとした時、 「シロ、少し耳を貸しなさい」とコージンが動いた。 神妙にコージンの言うことを聞いてたシロが、とことことブラックライトの所に行くと、 「お兄ちゃん、チキン頂戴」と、上目遣いで訴えた。 結果、その破壊力に少年は陥落。 満足顔でチキンを頬張るシロを見ながらコージンの手腕を誉めるウラヴレイに、コージンは「私の経験則だ」と短く返した。 【いい夫婦の日】 ① 「私といい夫婦になりましょうマーリン」 「いきなり何言ってんだお前!?」 話があるとユイリアに呼ばれ公園のベンチに座ったマーリンは、彼女が取り出した高価な指輪と共に、冒頭のセリフを言われ大変驚愕した。 「おま、そもそも俺たちは」 「付き合ってませんね。あ、サイズは貴方が寝てる間にハルナに採寸してもらったので合ってるはずです」 「何やってんだあいつ!?」 急な展開に目頭を抑えながらも、マーリンは情報を整理する。 「…どうして、この決断に至った?」 「別に貴方の自由を奪おうというつもりはありません」 ただ、とユイリアはマーリンの目を見据えて言葉を続ける。 「貴方の隣に私以外の女性がいるのは耐えられない、そう思ったのです。異論はありますか、『私と貴方の身分差』以外で」 小気味いい位真っすぐな彼女に感心を覚えるが、やられっぱなしは性に合わないマーリンは「あるさ」と立ち上がった。 「一つ、少しは男の面子を考えろ」 その言葉にユイリアの肩が僅かに震えるのを見て、マーリンの口角が釣り上がる。直後マーリンはユイリアの顎を持ち上げ、彼女の唇を素早く奪った。 「二つ、式くらいは俺に決めさせてもらうぜ」 ② 旅が終わった。モラレルは退治した。これで世界は平和に向かうはずだ。 エビルソードの討伐も終わった。その時クリストは物言わずただ涙していた。 イザベルが生きてた。魔剣の支配から逃れ、正気に戻っていた妹を何度も説き伏せ、前を向いて生きるということを約束させた。 そして、聖都も開放された。これでもう、クリストが旅をする目的はほぼなくなった。何もかも喜ばしい、そう、なのだ。 だが…。私は、流れる涙を抑えることができなかった。 「ひぐっ…うう…」 もうすぐ、クリストは聖都に旅立つ。その後は復興のため尽力するだろう。もう彼と共にする日は、こない。 その時、私を探す彼の声が聞こえた。 慌てて涙を拭き、その声に応える。 いつになく緊張した彼の顔にふと疑問を抱く。 「イザベラ様に、別れる前にどうしても伝えたくて」 ねえ、どうしてそんな真剣な目でこっちを見るの、期待しちゃうよ? 「魔王討伐と聖都の開放、二つを終えたら貴女に告白しようと心に決めておりました」 心臓が煩くて仕方ない。お願い私の鼓動、もっとクリストの言葉に集中させて。 「貴女をお慕いしておりました。結婚を前提に、交際をお願いできないでしょうか」 ③ サンク・マスグラード帝国のとある村の共同墓地に白髪の女性が訪れていた。 「父さん、母さん。報告が遅くなってすまなかった」 墓の清掃をしながら、女性は語り掛ける。 「仇はとった。陛下がやってくれた。この恩は返しきれないよな」 「聞いてくれよ、アタシは陛下の娘になっちまった。どうも釣り合いがとれねえってさ。王族ってのは大変だな」 その時のレストロイカ帝の顔を思い出す、お前を娘のように思うことを許してほしい、って言われたときは、涙を堪えることができなかった。 「何度も無理だ。釣り合いがとれねえって言ったんだが押し切られちまった。アタシも飛んだロマンチストだ」 第一王子が不在な今、恐らくラーバルは王に、自分は王妃になる。こんな運命恐らく数年前の自分なら馬鹿笑いしておわりだったろう。 「もうすぐアタシはレンハートで暮らすことになる。…正直、自信があるとは言えねえ」 掃除を終えた女性は墓の前に立ち、最後の言葉を探す。もう、この後は気軽に来れる立場ではなくなるのだから。 「もしよかったら、天国からアタシを見守っててくれ。絶対、幸せになってやるからよ」 ④ かつて尊敬を、次に憎しみを抱いた相手に、今は愛情を抱き、 その胸を剣で刺し貫いてやると誓った胸に抱きしめられ。 何度も切り結んだ男のその腕が私の背中に回り、 糾弾の言葉を吐き散らしていた私のこの口は、今は嬌声を上げるだけの装置と化している。 何度も続いた交合が終わり、ボーリャックとイザベルは並んで横たわっていた。 「…すまん」 「……いえ、気にしてません」 魔王軍に潜入したスパイであるボーリャックを、私は浅はかにも本心だと誤解し、何度も命を狙った。 モラレル討滅後真相を知り、私は自分の愚かさに耐えきれず、自らの首を刎ねてボーリャックに詫びようとした。その腕を止めたのが他でもない彼だった。 その後は聖都の復興のために奔走する彼と共に行動するようになった。 …そして、今、私たちは男女の関係になっている。 元々贖罪のためにボーリャックに何でもすると誓った身、こうやって体だけでも繋げる今でも十分。これ以上の幸福を望むのは不釣り合いというものだろう。 そう考えて自分の更なる欲に目を瞑り睡魔に身を委ねる。 すぐ横で指輪ケースをいつ取り出すか、悶々としているボーリャックに気づかないまま。 ⑤ 「僕は、この国に神の教えを広めたい」 そう語るクリストの目は使命感に満ちている。高まる動機を抑えながらジュダは神妙な顔で頷く。 「ええ思うで、ただ、いきなりコトは少し厳しいかもなあ」 コトはかなりの宗教都市だ。金玉寺や銀魂寺、魔坂大社など寺社仏閣の立ち並ぶこの都市から始めるのはハードルが高い。 そう伝え、ジュダは東の国の地図を開いて幾つかの地方都市に記をつける。有名な寺社仏閣のない都市、歴史が新しい都市、宗教的に空白な地域…。 深く頷きながら耳を傾けていたクリストは感慨深げに頷く。 「やはり、ジュダさんがいてくれて良かった。貴女がいなかったら。僕はこの国に軋轢を生みだしたかもしれません」 「そんなことあらへんで!」 「それでも、僕は貴女と出会えてよかった」 (それはうちには殺し文句どす!) 彼の言葉に悶えるジュダが緑茶を一気飲みし、息を着いたところでクリストが一歩膝を進めて彼女の手を取る。 「もしよろしかったら…、この国をもっと知るために、貴女と共に旅をすることはできませんか」 待ってましたと微笑んでジュダはその願いに快諾した。 「当然!なんせうちはクリストはんのぱーとなーやから!」 ⑥ 旦那、このヴリッグズ一生のお願いです。まずは喉元に当ててるその槍を手放してくだせえ。 ジュダとイザベラの姉さんたちと同時にK点超えしちまったくらいでなんだというんですかい。 ギルの旦那なんて11か12は離れた子とゴールインしてユーリン野郎の名をいただいたじゃねえですか。 更に言うなら、旦那たちのヒーローのボーリャックさんなんてマリアンさん、イザベルの姉さん、バリスタの三方と三つ又婚かましたじゃねえですか。アンデットの聖女、聖騎士、元魔王軍と属性のデカ盛りですぜ!クリストの旦那なんて可愛いもんですぜ! 可愛いというならヨシタカっていう坊ちゃんも重婚してましたぜ!しかもお嫁さん全員おめでた婚とか。これはもうおったまげでさあ! それに比べれば旦那なんて可愛いもんでさあ。ほら、ジュダとイザベラの姉さんたちでも話し合いが終わったみたいで酒の勢いだから全然気にしてないって言ってますぜ!いよ!愛されてますぜ旦那ぁ! …そろそろ出てもらわねえですかねえ。マーリンみたいにユイリアの姉さんとハルナの嬢ちゃんに両手両足掴まれてお役所に婚姻届け出しに行くのは嫌でしょう。旦那ー!姉さんたちに突撃させますよー! 【いい夫妻の日】 人里離れた一軒家、そこに魔王軍崩壊の英雄ボーリャックと、愛妻のイザベルが住んでいた。 「イザベル、家事は俺がやるといっただろう」 「だめ!これは私の仕事だから」 断る妻を制してテキパキと洗濯物を片付けていく。 「身重の妻に家事を任せきりにするほど甲斐性のない夫か俺は?」 ボーリャックの言葉に頬を染めてイザベルは首を横に振る。家事を終えた夫の顔に、憂慮の色があることに気づいたイザベルはその理由を尋ねた。 「どうも、俺たちの結婚がまだ理解を得られてないようでな」 「そう、なんだ」 俯くイザベルをボーリャックはそっと抱きしめる。 「大丈夫だ。何があっても俺がお前を守る」 「あなた…」 ボーリャックは先程届いたクリスト、イザベラ夫妻。ギルからの手紙を思い返しながら決心を新たにした。 『何考えてんですか?僕は妻の妹を貴方に嫁がせるために預けたのではないんですよ!』 『任せてくれ、ってイザベルを預ける時貴方が言ったのがまさかデキ婚という意味とは気づきませんでした。直ぐに妹を返してください』 『イザベルに結婚を祝した時の奴の顔が今でも忘れられん。何考えて同名の、しかもクリストの義妹とデキ婚したんだ』 【オペラ記念日】 「まいったなぁ…」 「どうかしましたか?」 バーのカウンターで、チケットを手に悩んでるマーリンを見かけたクリストが隣に座った。 「いや、さっき福引でオペラのペアチケットが当たったんだけどよぉ…」 そう言いながら、マーリンがカウンターに置いたチケットを見たクリストが苦笑する。 「『コジ・ファン・トゥッテ』ですか。確かにこれは誘いにくいですね」 「だろ?女のハルナとユイリアは誘いにくいし、ボルボレオは『不道徳である』ってキレそうでなあ…」 ため息をつきながらマーリンは頷く。間違いなく名作オペラなのだが、内容が何とも俗っぽく、仲間を誘うのは躊躇われた。 チケットを見ながら無言で考え込んでいたクリストが意外な言葉を口にする。 「…じゃあ、僕と一緒に行きませんか?」 「は?」と思わずマーリンはクリストの方を振り返る。 「聖騎士サマがこれ見て大丈夫なの?」 その言葉に思わず吹き出したクリストは「神はそこまで狭量じゃありませんよ」と話す。 「それに、旅続きで芸術に飢えてた所です」 「貴方もそうでしょう」と、微笑むクリストにマーリンもニヤッと笑い、「イザベラ達には内緒な」と告げ、一気に酒を煽った。 コジ・ファン・トゥッテ(女はみなこうしたもの) モーツァルトの傑作オペラの一つ。 物語はイザベラ(仮)、ユイリア(仮)姉妹の恋人であるクリスト(仮)とマーリン(仮)が、老哲学者ベンケイ(仮)の「女は必ず心変わりする」という主張に反発し言い合いとなる。どちらの主張が正しいか、それぞれの恋人の貞節を試すために互いの相手を口説くことをベンケイは提案し、その賭けに乗った二人は変装してクリストはユイリアを、マーリンはイザベラをそれぞれ口説くこととなった。ベンケイは密かに姉妹に仕える女中のハナコ(仮)を買収して協力者とする。 初めはきっぱりと貞節を守って誘惑を断っていたイザベラ、ユイリア姉妹だが、ベンケイとハナコの様々な策略もあって次第に姉妹の決意は揺らいでいき… 【いいえがおの日】 「今日は笑顔の日ね!」「なので笑顔で過ごしましょう」「表情筋死んでるたわけは矯正だ」 「「「わかったか(わかりましたか)ギル(さん)!」」」 「…わかるか!」 (俺は今、仁王立ち決めたアズライール、クリスト、イザベルと対峙している。なぜか怖気が止まらない) 「…スナイプ、メトリ、こいつらを何とかしろ…!」 だが、二人は「私は多数決の論理に従います」「レディの願いは全てに優先するぜ」と拒否。 「裏切者が!」 ならばと強行突破を決断した瞬間イザベルが手を叩き、直後背後から衝撃が来てうつ伏せに押し倒された。 「残念だったな坊主。メトリ!こいつを抑えろ!」「了解です」 「イゾウ!?貴様もか!呪ってやるぞ…!」 「信仰捨てた奴の呪いなんか怖くねぇな~!」 「イザベル!貴様はこっち側だろう…!」 「安心しろ、私はもう“済ませた後“だ」 問答は済んだとばかりに、皆が笑みを浮かべながらにじり寄ってくる。 「おいアズライールその羽ペンはなんだ。クリストやめろ靴を脱がすな!スナイプ!まさかそれはあのハジケリストな漫画か!?イザベル!下手糞な笑みで手をわきわきさせるな!やめ、やめろおおおおおおお!!!!!」 【11/26はグラジオラスの誕生花】 ボーリャックは一人、花束を手に佇んでいた。その顔は物憂げで、まるで裁きを待つ罪人のよう。 その時、「綺麗な花じゃないか」と背後から女性の声が聞こえた。ハッと振り向いたボーリャックは、その声の正体に表情を緩める。 「マリアンか」 マリアンはカラフルな花束に顔を近づける。暫く花を見続けた彼女はやがて花の名を呟いた。 「グラジオラスだね」 この男が悩んでいた理由はそれか、と気づいたマリアンだが直接は聞かず、「誰から貰った」とだけ尋ねた。 「…バリスタだ」 その名を聞いたマリアンは暫し瞑目する。バリスタ。エビルソード軍の頭脳といえる存在であり、ボーリャックが早い内から接近していた魔族の女。 「良かったじゃん」 あえて明るい口調でマリアンは語り掛ける。 「なんともロマンチックな花だ。彼女はお前に夢中だよ」 「本当にそれだけか」花束から白のグラジオラスを取り出したボーリャックは呟いた。 (この花はまるで神が俺の罪を糺す報せのようだ) マリアンの耳に彼の心の声が聞こえた気がし、そっと目を伏せた。 グラジオラス。花言葉は勝利、用心深い、たゆまぬ努力、ひたむきな愛、情熱的な恋。白いグラジオラス……密会。 【いい風呂の日】 風呂は命の洗濯という言葉がある。それは勇者たちも変わらない。 「ええ湯やな~」「そうだね」 旅先で見つけた温泉で、ジュダとイザベラは旅の疲れを癒していた。 体を洗おうと立ち上がったイザベラに、ジュダが笑いながら声をかける。 「洗いっこしよか」 その言葉にイザベラも笑って頷いた。 「綺麗な肌…」「そ、そう?」 ジュダの背中を洗いながらイザベラは感嘆する。 「傷一つない、彫刻みたい…」 頬を赤らめながら「クリストはんのおかげや」とジュダが理由を話す。直後、一瞬イザベラの手が止まった。 「ちゃうで!変な意味やのうて」慌ててジュダが釈明をする。剣士で軽装な服装のジュダは生傷が絶えない。その傷を戦闘後治すのはクリストの役目だった。 イザベラの中に彼への誇らしさと、微かな嫉妬心が生まれる。彼女の複雑な内心を察したジュダは振り返り、イザベラの頭を撫でた。 「イザベラはんだって大切にされてんで。何度もあの人の盾と魔法で守ってもらえたやん」 「あの人に一番お似合いなのはあんたなんやから変なこと考えへん!」 彼女の言葉にイザベラは頷く。「貴女も、彼のことが好きじゃないの?」と問う勇気は、まだ、なかった。 【いいチームの日】 冒険者たちが集うPTは様々な性格がある。中でも勇者ドアン・セス率いるPTは、他のPTとは一線を画している。 プライベートの関りはおろか、雑談すら殆どない。依頼は、契約や報酬を最優先に考える等…。 そのような行動からギルドの中には彼らを異端者扱い者もいる。だが、彼等は素晴らしい実績で批判を跳ね返してきた。 「見つけたよ、このダンジョンの宝箱だ。売れば結構な値になる」 「見事だフレイ!この宝の売値の半額は取り決め通りお前のものだ」 報酬の振り分けはメンバーの貢献度によって定められる。だからミッションへの士気が高い。 「クロウ、今回のスポンサーのPRの台本だ。直ぐに打ち合わせに入るぞ」 「ヒヒヒ…、そりゃ大変だ。勿論スポンサー料はしっかり取ったろうね」 受けた仕事は全力で取り組む。だから彼等には次々と依頼が舞い込む。 「アリシア、PTの期限日が近いが、更新を望むなら雇用内容の確認を頼む」 「わかった。契約書を確認するから少し時間をちょうだい」 契約によってメンバーの規律は常に守られている。 このように、彼らは数々の実績を上げてきた。ある意味、最もプロフェッショナル。それがドアンPTなのだ。 【組立家具の日】 新居に家具を運び込む。といっても大きなベッドや棚を、大の大人数人がかりで持ち上げて運ぶわけではない。 「ハルナ、板取ってくれ」「ん、」 組立家具を家に運び入れた後、私とマーリンは手際よく組み立てていく。 安上がりだしこっちの方が達成感あっていいだろ、とはアイツの言葉だが前者が大半だろう。 まあ、自分も同感だが。 「よし、次はチェストだな」 どうしてこいつとこんなことになったのか、手を動かしながらふと考える。あれは私がマーリンと爆弾作りをしてた時だ。 『俺たち結婚しねえ?』『…え?』 と、ロマンもヘッタクレもない告白をマーリンがした。正直今思えば腹が立つが、気づけば頷いてしまった自分もどうかしてた。 その時のアイツのニヤケ顔は今でも鮮明に覚えてる。 「次はベッドか…」「ん~?もっと雰囲気あるのが良かったか?」「馬鹿!」 なんでコイツなんだろうと今更ながら思う。変に情はあるけど品はないし、崖っ淵補正は凄いし一緒にいて飽きないけど小悪党だし。 「これで終わり?」「ああ。あ~疲れたな!ハルナ飯くれ!」 うっさい、と返して苦無の代わりに握り飯を投げる。 ホント、どうしてこんなヤツに惚れたんだか。 【きれいな髪のいいツヤの日】 (ヘアケアなんて、汚れを落とせればそれで良かった。アイツに出会うまでは) ジーニャは、一人化粧品売り場の前で述懐する。 「紅白って縁起がいいってよく言われるよな」 ラーバルと馬乗りの帰り道の途中、アイツがそう口にしたことがあった。 「俺の髪と、ジーニャの髪が、並ぶと紅白だから縁起よさそうって、以前言われたんだ」 照れながら話すラーバルの姿は、満更でもなさそうに見えた。 「…って、アタシは何考えてんだ!」 リンスを手に考え込んでいたジーニャが、我に返って頭を抱える。 「アタシは立派な軍人になる。化粧なんか必要ないんだ」 そう呟くジーニャの脳裏に、ラーバルの顔が浮かび上がる。 アイツのガキっぽい笑み、ふとした瞬間に見せる聡明な目、そして、燃える炎のように赤い髪…。 無意識にジーニャは自分の髪を触る。ラーバルと対照的な自分の白髪。 今まで気にしたこともなかったが、ガサツな洗い方で済ましてたアタシの髪をアイツはどう思ってたんだろうか?と、疑問が湧いては渦巻いていく。 「うぐぐぐぐ………!」 10分近い葛藤の後、陛下や軍の評判のためという大義名分を掲げ、ヘアケアセットを購入する少女の姿があった。 【いい肉の日】 リャックボーが2枚のステーキ肉の乗った皿を、テーブル席で待機していたバリスタの前に持ってきた。 「食べてみてくれ。2枚の違いに気づくかい?」 まず右側の皿の、続いて左側の皿のステーキを口にする。直後、バリスタの表情に僅かな変化が見られた。 「わかったようだな」 「はい、左側のステーキの方が若干柔らかいです。それに香りも…」 「正解!では原因はわかるか?」 その言葉にバリスタは顎に手を当てて考え込む。 「肉質」「残念、生産地や部位に違いはない」「では、香辛料…」「味付けは同じだ」 お手上げだと手を挙げるバリスタに、リャックボーは笑ってコーヒーカップを持ってきた。それを見たバリスタがまさか、と声をあげる。 「そのまさかだ。左側の肉は1時間コーヒーに漬けていたものだ」 「ええ!?」驚愕でバリスタが素頓狂な声を上げ、慌てて口を閉じる。 「でも、何故…?」 「コーヒーの成分が肉を柔らかくしてるんだろう。それ以上は専門家に聞いてくれ」 「曖昧ですね」と口を尖らせるバリスタの様子に、思わずリャックボーも笑い声をあげる。 翌日から、コーヒーを利用した料理を熱心に研究するバリスタの姿があったという。