間抜けなファンファーレ音と共に、スマホに映し出されたのは――ハンナちゃんの画像だった。 「な、なんで……なんでわたくしなんですの!? こんなの、嘘……」 「嘘ではありません。えー、では桜羽エマを殺した魔女として、遠野ハンナの処刑を決定します」 「違う、違いますの! わたくしじゃない! わたくしじゃありませんの!!」 必死に抵抗するもハンナちゃんはなれはてによって処刑台へと送られていく。 世界がスローモーションになっていく。皆がその処刑に注目している間、おじさんは気づいてしまった。 ただ一人、処刑に対して一切の興味を示さない子が、おじさんを見ている。 全て終わったぞ。 満足気に、やり遂げたように、アンアンちゃんはおじさんに微笑みかけた。 ―――――――――――――――――――――― 『ミリア、今日はどの映画を見る?』 「え? ああ、うん。そうだね……」 処刑が終わって数日、今日もおじさんとアンアンちゃんは娯楽室で映画を見ていた。 あの後、皆はバラバラになった。 当たり前なのかもしれない。だって、友達が友達を殺す事件が起きたんだから。 もう、誰も信用できない。そんな疑心暗鬼がおじさん達の中で蔓延っていた。 ただ一つ例外があるとしたら、それはおじさんとアンアンちゃんの関係だった。 おじさん達だけは、あの後もずっと二人で行動を共にして、毎日、毎日、映画を見る日々だった。 殺人事件なんてなかったかのように、人が死んだなんてなかったかのように。 「ひゃあっ!」 『ミリア、驚きすぎだ』 そんな状況でも、映画を見れば感情は湧いてしまうもので、ホラー映画のパニックシーンが映し出されるとつい声が上がってしまう。 それをアンアンちゃんが突っ込みなんて入れたりして、友達と見る映画はとても楽しくて―― 「……ねえ、アンアンちゃん。聞きたいことがあるんだけど、いい?」 けれど心のささくれは無くならなくて、ついアンアンちゃんに聞いてしまう。 「エマちゃんを殺したのって……アンアンちゃん……なの?」 それを聞くとアンアンちゃんは目を丸くして、しかし次の瞬間にはむふーと笑みを浮かべる。 『そうだ、わがはいが桜羽エマを殺した』 全身に衝撃が走るようだった。 おじさん達は無関係の子を冤罪で処刑した。 そして真の魔女は今、自分の膝の上に座っている。 アンアンちゃんの動機は分かっている。その口で自分で言ってたから。 おじさん達はここから出たくないのに、エマちゃんが出ようと騒いだから。 レイアちゃんを死に追い詰めたのはエマちゃんだと思ってるから。 「でも、だからって、本当に……」 『ミリアも嬉しいだろう?』 「は、あ?」 アンアンちゃんの言葉の意味が、一瞬理解できない。 人が死んでおじさんが喜ぶ? なんで、そうなるの。 『これでもうここから出なくて済む。わがはい達はずっと一緒だ!』 曇りない笑顔を見せるアンアンちゃんは、人を殺した魔女とは思えなかった。 友達と一緒にいたいから人を殺すなんて、そんなの絶対おかしいよ! そう口にしようとするも喉に何かがつっかえたまま、出てこない。 正しいはずの言葉がなぜか口から出てこない。 『と、言いたいところだが、まだ邪魔者がいる』 「邪魔者……?」 『黒部ナノカと、紫藤アリサ』 『ナノカはミリアの命を狙っている。殺さなければミリアが殺されてしまう』 『そして、気球は壊したがアリサがいたらまた気球は作り直せてしまう。それでは意味が無い』 「待って……待って! アンアンちゃん、そんなことしなくても……!」 二人も話せばわかってくれる、そう言おうとして思いとどまる。 話してくれればわかる……本当に? やめてって言っても、嫌だって言っても、人は止まらない。 そのことをおじさんはよく知ってしまっている。 先生ならもしかしたら出来るかもしれない。けど、おじさんは―― 『大丈夫だ。既に二人を排除する計画をわがはいは練って……ミリア?』 頭の中で嫌な想像がぐるぐる巡り体が震えてくる。 すると、アンアンちゃんが心配したように私の頭をその胸に抱きかかえてくる。 『大丈夫だ、ミリア。安心しろ、ミリアが心配することなんて何もない』 「ミリアを虐める奴は、わがはいが殺してみせる。絶対に」 決意に満ちた声。ここでアンアンちゃんを止めなければまた誰かを殺す。 説得は難しい、なら、アンアンちゃんをここで殺せば……。 娯楽室の中を見回す。映写機に椅子に大したものは無いけど、これで殴打すればそれでも人は死ぬ。 例えおじさんが魔女として死刑になっても、ここでアンアンちゃんを止める。 きっと、先生なら、いや、先生は人を殺してまで止めようなんて本当にする? わからない、わからない。おじさんはどうしたら……! そんな時、丁度映画が終わりエンドロールが流れ始める。 『映画が終わってしまったな。ミリア、次の映画を見よう』 『ミリアはどの映画が見たい? わがはいは次はもっと楽しいのがいい』 アンアンちゃんがおじさんの膝から降りると、次の映画を探す。 本数だけ充実した映画はまだまだ、まだまだ、沢山あった。 『まだまだ楽しめそうだな、ミリア!』 「……うん、そうだね。アンアンちゃん」 映画を吟味するアンアンちゃんに合わせていつも通り同調した笑みが浮かんでしまう。 そして私は何も出来ないまま、時が過ぎていく。 全てを、アンアンちゃんに任せて。 先生、ごめんなさい。 私は、先生みたいになることは出来ませんでした。 BAD END