目が覚めると、まだ周囲は暗かった。 デジタルワールドではリアルワールドと同じ様に季節によって日の長さが変わる。 冬至から程ないクリスマスの早朝、朝陽はまだ室内に入ってこられないでいるようだ。 一糸纏わぬ自身の裸体、そのさして膨らんでいない乳房にまるですがりつくように抱きつく腕に浅野ヒバリは気づいた。 同衾している湯楽木晴久だ。小さなうめき声が少年の口から寝息とともに漏れ出している。 どうやらまだ寝ぼけているようだ。無理もない。 人間の、それもまだ齢十に達して程ない少年が、一晩の間にあれだけの回数射精したのだ。 途中でコンドームが尽き、中断することも考えた。 しかし、少年の年齢に比して逞しい屹立を目の前にして。 あるいは、少女の止め処無く蜜で潤う谷底に触れて。 互いに自身が止まることも、相手を止めることもできなくなっていた。 『晴久の赤ちゃんだったら、産んだって……』 『俺も、ヒバリとの赤ン坊だったら、一緒に……』 うっかりそう口に出してしまってはもう後の祭り、あとはただの雄と雌である。 数日前に生理が終わったばかりであり、いわゆる安全日なことがせめてもの救いであった。 しかし、生理中の間おあずけを食らっていた男女の性欲は一気に爆発することとなった。 覚えている行為の最後は、横臥しているヒバリの背後から晴久が抱きつくようにして挿入し、そのまま最奥で果てたことだった。 おそらくそのすぐ後に二人とも体力と疲労の限界に達し、眠ってしまったのだろう。 萎まっておそらく最先端以外が皮に包まれた晴久の分身は、いまだヒバリの中にあった。 根元まで密着したそれは、注ぎ込んだ生命の原液を一滴も無駄にさせまいとするかのごとく膣口を塞いでいた。 その様子に、行為の激しさとは異なる優しさや愛おしさ、あるいは充足感や多幸感を満たされ、ヒバリは動くことなくそのままの姿勢で少年を堪能していた。 不意に膣内に異変を感じた。柔らかかった海綿体が、硬度と体積を増しながら膣壁を押しのけはじめたのだ。 晴久はまだ覚醒した様子を見せていない。となるとこれが噂に聞く『朝勃ち』というやつであろうか。 なにかちょっと儲かったような嬉しい気持ちで、ヒバリは腰をくねらせた。 やっていることはセックスと言うよりも晴久を使ったオナニーであるのだが、罪悪感は感じられない。 腰を使って前後させつつ力を入れて締めていると、うめき語が連続するようになってきた。 やがて乳房の両手指が何度か動き、寝息が止まった。 「ん……あれ……?」 「あっ、起きちゃった。」まるで悪びれる様子もなく言うヒバリに、晴久が状況を理解するのに十秒近い時間を要した。 「あ、ヒバリ……おはよ……っておい!」 「あはは、ゴメンゴメン。でもさ、俺に入れたまま眠っちまったり、さらに朝勃ち?しちゃう晴久だって悪いんだぜ。」 「言ったな!それじゃこうだ!」小悪魔めいたヒバリに、晴久が逆襲を開始する。 晴久が腰を動かし、すっかり膨張して頭を出した先端でヒバリのGスポットを擦り上げて奥まで突き刺す。 突き立てた牙が何度も秘肉を抉り、彼の左手が少女の左乳房と乳首を掴んで摘む。 右手はヒバリの頬を捉えて、その唇が晴久のそれに寄せられる。強引な口づけは、さながら肉食獣が獲物を食い漁るかの如しであった。 乳房、膣、唇、そして至近距離の晴久の熱を帯びた瞳。それらの連携攻撃に、ヒバリの内の雌はあっけなく陥落する。 括約筋の蠕動は、ささやか反撃となって晴久の男根を縛り上げて復活した精液を放出させる。それがトドメとなった。 膣奥に、子宮口にわずか数グラムの精液が叩きつけられる。物理的な重量はわずかしかないその一撃はヒバリを絶頂の淵へと叩き落とす。 それは未だ生まれ得ぬ命の重さか、はたまた互いの愛の重さか。ソフトノーズ弾のようなひしゃげた重い衝撃が頭の天辺まで貫く。 快楽に耐えきれず口づけしきれなくなったヒバリの見開いた目に、同様に射精の快楽にあえぐ晴久の両の瞳が映る。 その焦点は像を結ばず、しかし物理的ではない、互いの奥底のなにかに合わせられているようだった。 余韻にしばらく浸っていた二人だったが、先に復活したのは体力に優る晴久の方だった。 ヒバリの片脚を抱えあげると大きく開かせてその間に入り込み、彼女を仰向けにさせる。 ぐったりとしたその胴体の上、うなじに腕を差し込みまわすとその上に彼の顔が覆いかぶさる。 一度の射精程度では勢いを失わなかった分身を抜かないまま、キスを再開する。その刺激でヒバリの方もようやく意識を取り戻す。 抽挿はゆるやかに、ゆっくりと胸と腹の皮膚の密着する感触と、互いの口腔内を味わい合う。 晴久の乳首はヒバリの乳房の下側でわずかに自己主張をし、一方でヒバリの乳首は吸う者を求めるように晴久の鎖骨の下を撫で上げる。 徐々に荒くなっていく鼻息と共に、二人のボルテージが再上昇を開始する。 ヒバリの後頭部を支えていた両手が下がっていき、背中をしっかりと抱きかかえた。 晴久は自分の体ごとヒバリを抱え起こす。 ヒバリの陰裂に晴久の体重が載っていたのが、今度は晴久の根元にヒバリの体重が掛けられた。 晴久のペニス、そしてヒバリのクリトリスにさっきまでとは違うベクトルの刺激が加えられる。 晴久が細かく腰を上下させ、それに合わせてヒバリも体を上下させる。二人の愛の共同作業だ。 自身の体重による圧迫刺激と上下運動の擦過刺激を交互に受け、陰核とそこから与えられるヒバリの快感がはちきれそうになる。 乳首も口も性行為の添え物で、性交の主役は性器だと、そう叫ぶかのような快楽信号が膣と陰核、それに陰茎からそれぞれの持ち主に突きつけられる。 十数回の射精とアクメを経ても尚、それらへの耐性を持ち得ずむしろ弱くなっていく二人。 いや、互いに行為への経験値が増したことで快感が増え、彼ら自身の慣れのペースを大きく上回っているのだ。 やればやるほど気持ちよくなっていく、その事実に幼い二人が抗えるはずもない。 下腹部の、鼠径部の、男性器の、女性器の、すべての皮膚が湿度を増し、結合部は潤滑状態で往復を続ける。 上下運動は次第に激しくなっていき、互いの息遣いもどんどん荒くなっていく。互いの名前以外の言葉をまとも発することもままならない。 「ヒバリ、い、いくぞっ!」 「晴久、きてっ!」名前以外でようやく出た言葉。その直後に、双方の最後の堰が決壊した。 陰核主体の快楽信号に導かれヒバリの脳が晴久と気持ちよさで占められ、それがトリガーとなって膣括約筋が収縮する。 連動して肛門と膣口がきつく締められ、晴久との繋がりを手放すまいとするかのように絞り上げる。 その刺激で限界を突破、晴久の鈴口から白濁した遺伝子の塊が放出される。 膣を越えてその先の内蔵を押し上げんばかりに深々と突き刺さっているために、かえって勢いを失って叩きつけるような射精ではない。 しかしそれはヒバリの一番奥で沁みわたり、暖かさを彼女にもたらした。互いの指が相手の背中をぎゅっと抱き掴む。 実際には一分にも満たない、しかし二人には永遠にも等しいような幸福な射精と絶頂。 それ故に、なにより余韻を味わいたくて。晴久とヒバリはしばらくの間そのままの状態で抱き合い続けた。 「コンドームないと、すっげーいっぱい出る気がするぜ……」 「昨日から俺の中にあんだけ出して、俺が男でもニンシンしちゃいそうだよ。」 「……へへっ。」 「……ふふっ。」 余韻に浸りながら、少しずつ言葉をかわす。完全に二人だけの世界に没入していた。 それ故に、近づいてくる気配にも足音にも気づけなかった。 「おい晴久!おせーぞ何やってん………!?!」 「……イブキ!?」 「イブキ君!?」 部屋のドアを開けて、爽やかそうなスラッとした少年が入ろうとして立ち止まった。武蔵野イブキというパンゴルモンのテイマーである。 「あっ……ああっ……イブキ……君……」表情の固まったイブキと目が合い、ヒバリの顔が一瞬で真っ赤になる。 「あっ……やべっ……そう言えば約束してたっけ……」一方で首だけで振り向いた晴久の顔は蒼白だ。 見れば、ドアのところでハニモンが立て札を掲げながら必死にアピールをしている。 どうやらイブキが入ってこないように止めようとしたのだが、喋らないためにうまく行かなかったようだ。 さらに離れたところから、ドクグモンがこちらを見ていた。こちらは妙に楽しそうなニヤついた様子だ。 「……………しゅっ、集合時間、もう過ぎてるからな!い、急げよ!」 まるで捨て台詞のようにそう言うと、イブキは顔を赤らめながら逃げるように部屋から飛び出していった。 「晴久くんと、浅野さんが、裸で抱き合ってた?」 「そうなんだよユーマ!あいつら……あいつら……」次にイブキが向かったのは、同じく集合時間に遅れている白頭ユーマの部屋であった。 「あいつら、男同士で裸で抱き合ってたんだ!おかしくない!?」 晴久の背中に隠されて、ヒバリの胸や結合部が見えていなかった彼は、ヒバリが女であることをまだ知らずにいた。 「……そういうことを言うのは良くないですよ、武蔵野さん。」ユーマがメガネのフレームをクイッと上げる。 「そうですね、LGBT……同性愛というものについて、武蔵野さんにも手短に説明しましょう。」 「……カラダとココロで性別が違ったり、同じ性別の相手を好きになったり、そういうことがあるんだ。」 「噂だと人間とデジモンという異種族相手でも恋愛することがあると聞きます。」ほんの数分の説明で、イブキはある程度まで理解した。 しかし感情ではまだ整理しきれないものが残っている。年齢とか、状況とか、そういう場合なのだろうか。そう言うとユーマは即座に答えた。 「このデジタルワールドには危険がいっぱいです。いつどうなるかわからないからこそ、後悔だけはしたくない、そう思う人もいます。」 「!……そっか、そうだな。」 「帰ることを諦めたわけじゃないですけど、何かをやり残したまま終わりたくはないですからね。」 「わかったよ、ありがとう。……でも、ユーマは全く驚いてなかったな?もしかして二人がそういう関係だって気づいてたのか?」 「あの二人だけでお風呂に一緒に入ることが多いので、もしかしたらとは思ってました。確証はなかったですけど。」 「そうだったのか……でも男同士で、って『入れる』場所ないのにどうやるんだ?」納得と同時に浮かんだ疑問をふと口に出す。 「ああそれはお尻の穴を使うんですよ。最初は抵抗がありますけど慣れるとクセにな……るらしいですよ。」 「ひえー……」想像できない、という感じで無意識に自身の尻を手で隠すイブキは、ユーマの表情が一瞬変化したことに気が付かなかった。 ユーマが集合時間に遅れた理由が、朝まで神恵レミと睦み合っていたからということも。 ロップモン助手の入れ知恵で互いの肛門にまで手を出したことも。 レミの腟内で果てる度に、レミの指で前立腺を責められて再勃起からの再挿入を何度となく繰り返されたことも。 レミに指を入れるとただでさえきつい腟内が更に強く締まって今までにない快感が得られたことも。 そうして合体してるところに、先程の教訓から部屋に入る前にイブキがノックしたので、慌てて服を着たことも。 だから実は今も奥の布団の中にレミが隠れて息を潜めていることも。 そしてこれは本人たちも気がついてないのだが、暗がりの中で慌てて服を着たために互いの下着を取り違えており、ユーマがレミのショーツを、レミがユーマのブリーフを穿いていることも。 イブキに知られる訳にはいかなかった。 晴久とヒバリが富士見温泉旅館の正面玄関の前に出ると、すでに他の全員が揃っていた。 「おっせーぞ晴久!何してたんだよ!」 「悪ィちょっとウンコが止まらなくってよー。」誰かの言葉に笑って答える晴久。 「同部屋でつきあわされる俺の身にもなってくれよ。」まるで不満そうに口をとがらせるヒバリ。 (うまく誤魔化してんなー……俺もあいつらに協力してやんないとな。)感心そうにその様子を眺めるイブキ。 「それじゃ出発するぞ―!」年長者の掛け声とともに三々五々に歩き出し、子供たちの間隔が開く。 そのタイミングでイブキはヒバリと晴久に話しかけた。二人は指先が触れ合うぐらいの距離を保っている。 「さっきは悪かったな、二人とも。」 「「!!」」周りに聞こえないような小声のイブキに対し、二人はかろうじて声を上げるのを抑え込む。 「大丈夫、みんなには秘密にしておくから……俺だって、無用なトラブルはゴメンだしな。」 イブキの言葉に、ヒバリは不安から無意識に晴久の手を握る。晴久もまた、その不安を受け止め、また自身の不安を打ち消すように握り返す。 「お前らが男同士で恋人だっていうの、嫌がる子や気持ち悪く思う子もいるだろうからな。俺は……びっくりしたけど、そういうの、人それぞれだもんな。」 「「!?!?」」女だということがバレなかった安心感と、それを超える「裸を見られても男だと思われている」という衝撃に、ヒバリの情緒はグチャグチャになった。 肝心な場所が晴久に隠されて見えなかったのがその理由なのだが、それを知る由もないこと、そして裸を見ても気づかれなかったのが晴久に続いて二人目であるというのが衝撃を一層強くさせた。 一方で晴久はと言うと、自分もかつてヒバリとお風呂に入っても気づかなかったクチであり、何も言うことができずにただ怒り混じりに強く握られる手の痛みに黙って耐えるしかなかった。 「二人とも俺の大事な友だちだからな、秘密はなんとしても守るし困ったことがあったら相談にのるぜ!……男同士どころか、恋愛のこととかも俺良く分かってないけどな。」 少し気恥ずかしそうなイブキのさわやかなはにかみに、二人はもはや言葉が出ない。 「じゃあな、がんばれよ、応援してるぜ!」そう言って一行の先頭部に向かって小走りで去っていくイブキを晴久とヒバリは手を握ったまま眺めていた。 一行はこれから近くにある セイントモールの支店のひとつに向かい、クリスマスセールの買い出しをする。 富士見温泉でリフレッシュし温泉で疲れを癒やした一行は、買い出しと補給の後に次の冒険へと向かうのだ。 途中どこかで新年のお祝いもするだろうし、逆に余計に疲れた者が何人かいるようだが、それはそれとして。 ヒバリは膣内に晴久の射精十数発分の精液を残したままであり、いつ外に垂れ出てくるかわからない。 ユーマとレミも今頃になってようやく互いの下着を取り違えていることに気がつき、いつバレるかと冷や汗をかいている。 その状況で、ヒバリは他の仲間に勘付かれないように生理用品を調達し、晴久やユーマたちもコンドームを手に入れなければならない。 ドクグモンとロップモン助手は、そんなささやかなピンチに苦しむ彼らの眺めて楽しみながらも見守っている。 本当にマズい事態になったら、助けに入るつもりではあるのだ。 不安げなハニモンとペンモンが殿となって、彼らは街へと降りて行った。 (了)