それを年季の入ったブロンズ像か何かにしか見えなかった――注連縄の外からはなおのこと。 黒い鏡面のような肌の上には、人々の吐く息の粒が白々とほのめいている。 じっ、とそれは立っていた。毛先さえ震わせず、本当の彫刻のように。 数百キロもの質量を備えたその身体は、ちらほら降る雪の中に、静かに四つ足で立っていた。 一方で、その巨躯に相対する少女は、決して背丈も低くない――いや、発育の点で見るならば、 十二分に大きなその胸は、彼女の肉体の成熟性を示していた――のに、 酷く小さく、軽く、今にも壊れそうな姿にも見えてしまうのであった。 参拝客は、微動だにせぬ青黒の巨体を期待に満ちた目でちらちらと伺うとともに、 それ以上の下卑た感情を込めた視線で、赤と白に包まれた少女を見た――より正確には、 凹凸の現れにくい巫女装束越しにさえ見える、彼女の裸体を想像して、内心に嗤った。 少女と、馬。その取り合わせは、背中に乗るだとか舞を舞わせるだとかの平和なものではなく、 彼女が己の胎にて、歳神の宿るべき器を作り一年の息災を祈るためにある。 半ばたてがみに隠れた黒い瞳は、どこを見ているか判然としない。 御午様が少しも動こうとしないことに、少女は内心に焦りを覚えた――だからといって、 自身の体重の八倍、九倍はあろうかという筋肉の塊がその細腕でどうにかなるわけもない。 自然に浮いた汗を手で拭い、ふぅ、と一息つきながら長い黒髪をばさりと風に踊らせる。 おお、と幾人かがどよめいた――あれだけの別嬪を、馬なんぞに――との失礼な言葉も。 少女はそれらの声を聞き流し、目をつぶる――覚悟を決めるために。 脳裏には知己の顔が浮かんでは消えたが、彼らを守るために身を捧げたのは自分なのだ。 そのままの勢いで、胸元をはだけ、柔らかな、白い肌を馬の目の前に広げると、 先程まで動かなかったのが嘘のように、黒い巨像は頭をぐいっと動かして、彼女を見る。 石畳の上を蹄の打つ硬い音が跳ねる――かこん、かこん、という軽いものではない。 一歩ごとに、地が揺れるような錯覚を与えるような重たいものである。 やはり観客の声はどよめいて、いよいよ見せ物の始まったことを境内に告げるのだった。 するとどこから来たのか、ぞろぞろと――それこそ地域一帯の――人々が、歩み寄ってくる。 縄一本で区切られた内は、外とはまるで別世界のように――雪の一粒さえも降りてこない。 参拝客の口からは白い霧が間断なく昇っているというのに、少女の肌からは湯気さえも上がり、 その熱気に炙られた雌の香りが、巨大な雄の嗅覚を強く刺激するのである。 鼻先を谷間に近づけて直に匂いを嗅ぎ――瞳でじろじろと少女を値踏みし、 やがて馬は、満たされた人間のするように歯茎を向いて一笑いすると、その胸を舐めた。 不意に現れた赤い塊は、でろんと重たげに乳房の上を跳ねて唾液をまぶし、口の中に戻る。 たったそれだけで――その大きさ、太さに、自身との種の違いを思い知らされて、 少女の身体は、がたがたと震え出すのだった――だが指先は健気に、衣服を解く。 谷間に沿って垂れていく唾液のてかりが、胸元が開くにつれてより顕となっていく。 少女は馬の背に掛けられた鞍、その鐙に腕を絡めるようにして両手を吊り上げ、 自ら、馬の身体の下にぶら下がるような格好を取った――当然、袴も脱ぎ捨てて、 未通の穴を、馬畜生にくれてやるために脚ごと大きく開いている。 挿入前にその性器の大きさを確認しなかったのは、ひとえに恐怖のためであろう。 子を宿すためには、先端さえ自身の握り拳に匹敵するそれを一定の深さまで咥えることになる。 しかし処女の身でそれを成せるのか――いや成さねばならぬのだが――と考え出すと、 そもそも、物理的に自分の肉体が耐えられるのか、ということを考えざるを得ない。 人間の性器すら受け入れたことのない乙女が、獣の性器で破壊される己を想像するなど。 彼女がしっかりと自分の胴体に身を固定したのを確かめると、馬は高らかにいなないた。 冷たい冬の空気の中に、一層その声は高く――どこまでも響き渡る。 そして、彼の下腹部からにょろりと伸びてきたそれは、見る見るうちに膨れ上がって、 少女の股の間に挟まり――彼女の三本目の足かと見紛うほどにまで伸びてきた。 そして、彼女の両腿にぺちんぺちんと打ち当てながら、ゆっくりと歩き始める。 すぐにでも挿入の始まるかと歯を噛み締めていた少女は、その揺れにひどく驚いた。 直前になって、自分が御午様に拒絶されたのかと思ったほどであった。 しかし、彼の性器らしき、何か太く硬く、熱いものが腿を何度も叩いている。 その陽気なリズムは、むしろ彼女に一層の恐怖と困惑を与えるのだった。 馬は少女をぶら下げながら、自分たちを見つめる参拝者たちの前に、その身体を見せつける。 お前たちが犠牲にするのはこの女だ、よく見ておけ――とでも言いたげに。 人々の視線は――好奇心と、罪悪感と、色々のものが混ざっているようだった。 けれど一様に、彼女の身体がこれから無残に穿ち抉られるのを助けようともしていない。 ゆっくりと闊歩しながら、馬は愚かな人々の顔をじろじろ見て回っている。 そして――少女の視線のびくついた先、いくらか若いような青年たちの目の前、真正面に、 彼女の胸の谷間が来るように、身体の位置を調整して、止まった。 許されるなら、友人たちのその前で痴態を晒すことを少女は嫌がったろう。 だが馬はこの場所こそが良い、と決めたように、そこから一歩も動かない。 再びのいななきと共に――ずん、と痛々しい音が観客の耳に届く。 肉槍が、少女の膣口を強引に押し開いて中に入ろうとする音だ。 目を見開き、歯を噛み締めて肉が裂かれ骨が開かれる痛みに耐える――しかし、 物理的に巨大なものを、そんなに簡単に奥まで飲み込むことは不可能な話なのだ。 それを、馬は彼女の身体が前後に揺さぶられるように自身の胴体を振って無理やり果たし、 強引に、中へ、奥へと突き入れていくのである――彼女の悲鳴を無視して。 既に暗くなった境内は、多くの篝火によって煌々と照らされていた。 中でも、馬の黒い肌はよりはっきりと火の光を吸い込んで水面のように輝き、 少女の白い肌は、その汗の一粒さえも余さずに、参拝客の目の前で輝いている。 悲鳴はやがてうめき声へ、さらに声とも言えない細い呼吸へと、次第に力を失っていく。 馬はただ淡々と胴を振るい、今や先端を完全に咥え込んだ彼女を激しく揺さぶる。 そして――どぽん、と爆ぜる音の聞こえたかと思うような勢いで、 少女の胎内に、畜生の精を容赦なく垂れ流していくのであった。 太すぎる性器が蓋のようになって、簡単には彼女の膣口から精液はこぼれない。 しかし射精後も揺さぶられているうちに、潤滑油代わりとなった精液のぬめりによって、 すぽん、と先端が抜けると――胎内に溜め込まれた精が、ぼとぼとと落ちるのだった。 人々は、無垢なる乙女が御午様の仔を孕むための儀が無事に済んだことに拍手をし、 ぐったりとして、長い黒髪を地面に這わせている彼女の哀れな姿を写真に撮った。 これから彼女のお勤めは、年明けまで続くというのに――無責任に、無関心に。 彼らの顔には、先ほど浮かんでいたような僅かばかりの罪悪感は、とうになかった。 力尽きている少女は改めて御午様の胴に固定し直しされ、彼と同じ厩舎で一年を過ごすのだ。 雪が解け、花が咲き、葉が茂り、枯れ、落ち、また白化粧が全てを覆い隠す。 人々は少女のことを思い出したように、暮れの境内に、またぞろぞろと詰めかける。 やはりそこには、青黒の巨大なブロンズ像が、肌から湯気を昇らせながら立っている。 じっ、と黒い瞳で参拝客たちを舐め回しているのも、一年前と全く同じだ。 ただ、彼の胴には既に、あの少女が固定されたままでぶら下がっていた。 解け、擦り切れた巫女装束の残骸を身体に巻き付けたまま、黒い髪を長く垂れさせて。 いや、黒いのは髪ばかりではない。一年前には桜色であった乳首も、また。 そして角度的に一部の参拝客からしか見えないが、陰唇の色も、である。 最初の種付けから一年間、彼女はこうしてこの馬に繋がれ続け、交尾し通しであった。 先端を咥え込むので精一杯であった、浅く狭い膣道は日々の拡張工事によって、 長い性器の半ばまでを、やすやすと飲み込めるほどになってしまっている。 それだけの交尾回数によって、すっかり少女の性器は淫水焼けしていたのだ。 彼女の役目は、その行為の中で無事に果たされ――大きく実った臨月胎は、 馬の胴体に吊るされている現状であってさえ、ともすれば臍が地面に擦れそうに大きい。 彼女は自分の足で歩けるのか――と、人々が忘れかけた良心を一瞬取り戻すほどに。 その胎の大きさを度外視したとしても、強引に割り開かれ続けた股間は拡がってしまって、 不格好ながに股にならざるを得ない身体になっているのであるが。 冷たい空気を割るように、馬がいなないた――それを合図に、彼の胴は前後に揺れ、 その振動によって、少女の身体もまた、前後にゆさゆさ、たぷんたぷんと揺れる。 より大きさと重さを増した乳房が激しく跳ねて先端から白い滴を縄の外にも飛ばす。 だがより迫力ある胎の動きに、人々は言葉を忘れて見入るのであった。 人間の子ではありえない大きさ、彼女を犯し、種付けた馬の遺伝を想像させる。 それが、地面に擦れるか擦れないかの距離をぐおんぐおんと振れるのだ、驚かずにいられまい。 そして臨月の身をそれだけ激しく犯されていても――少女の喉からこぼれるのは、 一年前とは随分と違う、艶のある、色っぽい雌の喘ぎ声である。 この馬に心身ともに捧げ尽くした――そんな感情の籠もった、媚びた貌である。 捧胎の仕上がりが例年になく良いことに、人々はもうすぐの予定日のことを想った。 彼女のひり出す新たな御午様が――自分たちの村に、幸を授けてくれるであろう、と。