M・スペクトラム 中盤 > ふふ……私達も呼んでくれるんだね。BBさん、優しいなぁ。 えーそう?私あの人なんか苦手かも。からかってくるし。 それはちょっとわかる…… でしょー?いろはちゃんも嫌なものは嫌って言いなよ。 そうだね……私達は、とっくに終わってる。カルデアの人たちは本当によくしてくれたよね。だから最後まで応援したい。手助けをしたい。 ……消えることになっても? みこともわかってるよね? まぁね。いい夢だったと思うよ。 だよね…ほんとに、とってもいい夢だった…… ティアマトさんが青春を求めに行ったのは私たちのせいじゃないってことにしておきたいけどね…… えー、みことが夢小説読ませたのに? それはそれ!っていうかいろはちゃんの夢空間のせいでしょ?付属の制服も用意してたじゃん! ええい真面目にやれんのか!? 仮にも世話になっている組織の最終決戦だぞ!覚悟に応えてやろうとかそういう気持ちは… あるよ? あるある。 ……あるんなら早く来るんだな。乃公はガラにもなく張り切っているんだ。おい御園なにをしている、早くしろ。 えっわたしこれだけなの? えっと…えっと…が、がんばるのー!!                  ……ねえ、マリス・カルデアス。「それ/サービス終了」ならとっくに済んでるんだ。だから私達には脅しにならないよ。 あとほら、滅びますぞーなんて叫ばれてもさ?私達、とっくに自分で滅ぼして来たからね! (1拍の後、二人で笑いあう) (……ねえ、帆奈ちゃん。私さ、これから正義の味方ごっこしてくるよ。これさ、案外楽しいんだ──) (……消えるための、終わるための戦いが、ほんとうの未来を守るための戦いになる。……二度目だね) ビースト■ マテリアル 1/ 魔術世界とは異なる法則の幹、あるいは女神の知らないレコード。 そこにしか存在しない/できない魔法少女だったもの、これが環いろはである。 妹の病気を治す願いをしたことから、「巻き戻し」の魔法を使う。 これはこちらの世界法則の魔術では結果はともかくプロセスを再現することが叶わないまさしく魔法である。 魔法少女としてはクロスボウを武器として扱うが、獣と化した彼女にとっては単なる射出口の一つに過ぎない。 ……たった一人の妹を追い求め、仲間に恵まれ、失うことを繰り返しながら、やがてすべてに向けて手を伸ばした彼女は、最後の最後で致命的なミスをして、すべてを取りこぼした。それでも残るものはあり、繋がる過去があったが…過去にすべてを送った彼女にも待ち受ける未来があった。 降り立った樹の齎す法則は、最後に残った最強の人類である彼女が世界を滅ぼす意思を持ったことで彼女自身を獣へと成り果てさせたが、中身を必要としない樹は内部に入力する情報を持たず、号を持たぬ獣と化すはずであったのだ。 中身を失った獣の形をした無の人形となり、以前の行動をひたすら繰り返すだけのレコードとなる…… 生まれ出た獣の気配を感じ取った異なるソラの母はそれを哀れみ、手を取った。……知らない星の嘆きを聞きつけて、誰かの子の叫びを聞きつけて。それが自らの胎より出でたものではあらずとも、ただただ哀れに思い──自らすら内に収めるその運命力、因果に身を委ねることにした。 只人からこの世の法則へと至るはずだった彼女には、それくらいの器があったのだ。 ──もっと平たく言うのなら、お母さんは手がかからない子だからこそ、たくさん応援してあげたいのです。 2/ 筋力:A+ 耐久:EX 敏捷:B  魔力:EX 幸運:E  宝具;EX 基本的にはティアマトと当人のいいとこどりだが、幸運は低い。 魔力パラメータは値に収まらないEXではなく、測定結果が異なるEX。感情エネルギーはこちらのソラの魔力ではない。 ただしあくまでメインは環いろはであるため、出産を経験したことがない彼女は「百獣母胎」を使用することができない。 身長/体重:156cm~7400万km2・?kg その気になれば泥でティアマト並みの身長を持つことが可能。 体重は虚数属性を持たないため「中の人たち」の重さがそのまま当人の体重に乗る。 非公開なのは当人が恥ずかしいからではなく体重が虚数で測定不能のティアマト以外の2人のプライバシーを守っている。 ……現在の姿のナーサリーの体重は公開されているため、具体的な数値を出すと瀬奈みことの体重がバレるのでそこを守っており、それは彼女の体重値が身長に対して軽すぎることを指摘させないためである。 それはそれとして自分の体重は言いたがらない。女の子だもんね。 3/ 【クラススキル】 〇獣の権能:A 母体から生まれたものすべてに作用する対人類スキル。 ビーストの基本スキルだが、このスキルを彼女は使用したがらない。 〇殺戮技巧(魔法少女):A++ 魔法少女属性を持つものの生命を速やかに終わらせるためのスキル。 対象が非常に狭い分出力が高く、対象が苦しむことはない。 〇単独顕現:- このスキルは鏡の魔女だったものによって移植されたため、保有しない。 〇単独行動:A+ アーチャー適性により獲得している。 〇対魔力:E 魔術世界の魔力とは法則が異なり、獣でありながら最低限の防備しか持たない。 〇巻き戻し:EX 対象となる物体・空間・概念をはじまりへと戻す魔法。 この魔法の出力は当人の魔力に依存するものであるが、獣と化した彼女の使える範囲はただの魔法少女であったころから見て大幅に拡大している。 その気になれば育った空想樹を種子へと戻すことも可能であり、消費した魔力すらも元に戻してしまう、魔術や獣とは関係しない反則スキル。 これと永久機関・少女帝国を用いて神浜を初期状態へと戻し続けた。 ──押し付けられた歴史なんて、1ページ目に戻しちゃえばいいのだわ。だってそれ、ほんとうじゃないものね。 〇移植:EX 自身が抱えている感情・人格・スキル等を移植できる魔法。 鏡の魔女であった瀬奈みことの魔法であり、これもまた魔術や獣と関係しない反則スキル。 その気になれば獣だけが持ち得るクラススキルすら誰かに付与することが可能。 感情を植え付けることで暗示のように扱うことも可能な他、思い込ませることで特定の事柄を忘れさせるなど使い道も幅広い。 ──ま、使いこなしてたのは私より帆奈ちゃんの方だけどね。 〇生命の海:EX ティアマトから貸し与えられた権能。これに浸かったものの能力を奪い取り、自身の眷属とすることができる。 普段はこれの保有によりビーストⅡとしての立場を守り、廻忌の獣を名乗ってカタチを保っているが、彼女の本来の号は異なる。 〇機械音痴:A 当人のスキル。機械から強いデバフを受ける…というわけではなく、当人がうまく扱うことができなくなる。 別にいるだけで誤作動を起こさせたりはしないが、機械に強いサーヴァントからはあっちで座ってなさいと言われることうけあい。 中の人達はこのスキルの影響は受けず、絵本や夢小説の電子書籍を読むことができる。 スキル登録されてしまったせいで人だったころより機械に弱い。 〇ネガ・ジェネシス:E+ 現在の進化論、地球創世の予測をことごとく覆す概念結界。 ということになっている。 ビーストⅡが持つネガスキルだが、これはティアマトの物を間借りしてプリテンダー:瀬奈みことのクラススキルで偽装しているに過ぎず、大した効果を発揮しない。 4/ ──かつてとある宇宙で少女が神になった時、傍らにいた少女はその奇跡の対価として新たなる能力を得た。                            ……だから彼女もそうなった。滅ぶべき世界に新たなる「神/空想樹」が現れた時、消えるはずの世界が繋ぎ止められた奇跡の対価として、彼女は願いに相応しい力を得た。 ──みんなも、世界も、悪夢で終わらせたくなんかない。 かくして、誰よりも優しい獣は産声を上げた。 〇ネガ・マギカ:A ビーストが保有するネガスキルの一つ。 魔法少女を殺すためのスキル。 即ち終わらない悪夢に囚われた魔法少女を解放して永眠らせるためのスキルである。 魔法少女に救済を齎し、その願いを肯定し、手を差し伸べる円環の理に対して、 魔法少女を救う為殺し、その願いを否定し、ただ終わらせるためのスキルであり、 この獣の反理とは人理に反するという意味ではなく、魔法少女の神たる救済の理に反する者であるという意味である。 魔法少女が持つあらゆるバフとデバフ・状態変化を無効化して初期状態に戻し、ソウルジェムに対する必中と即死効果を付与する、魔法少女に対する絶対殺害権。 この権能により、彼女は魔法少女すべてに沈黙を齎すものとなった。 このスキルはインキュベーターとの契約によって成立した魔法少女を殺害するためのものであり、そうではない魔法少女に対しては機能しない。 以上の本性を以て彼女のクラスは決定された。 ビーストⅡなぞ偽りの名。 其は滅ぼさねばならない世界に産声を上げた、 人類史を支える願いを終わらせる大災害。 その名をビーストⅣ。 人類悪の一つ、『沈黙』の理を持つ獣である。 ……このスキルにより、妹を殺したみことに対する殺意は当然元が魔法少女である以上強く働いており、なんと呼び捨てになるくらいには当たりが強くなっている。 ただそれ以上にその願いで救い、その手で取り戻した妹を守りきれなかった後悔と自責の念のほうが強い。 5/ 最愛の妹たちと家族であるみかづき荘のメンバーを失った彼女は、あらゆるものに手を差し伸べられるほどの慈悲と優しさを失っている。 獣の権能は願いに相応しい責務を果たせと彼女の精神を蝕み、そして短絡的な殺害による解放を求めさせる。 ……ティアマトは当初、この衝動に対する防御として、巻き戻しの魔法に目をつけて、性質の近い形の権能を与え精神への悪影響を防ごうと考えた。 ……ナーサリー・ライムは、自身の宝具と巻き戻しの魔法によって、精神を元の状態にリセットし続けることで彼女の心を守らんとした。 ……瀬奈みことは特に何もしなかった。する必要がない、と考えた。 誰しもに手を差し伸べられない、と獣は思う。それほどの天使性は残されていないのだ。 誰しもに優しくなんてしてあげられない、と獣は思う。この期に及んで魔法少女を利用しようとするインキュベーターを許そうとは思わなかった。 けれど、私が優しくしたかった人に優しいままの私でいたいと獣は思う。 本来ビーストⅣは動物や自然に該当する存在であり、自然現象によって生み出されるものであるが、神浜…そしてレコードが存在する宇宙においては魔法少女たる女神は第一法則であり、即ち魔法少女は世界を支える自然現象そのものである。そして他の自然の生き物が全て死亡し人形に置き換えられた今、彼女こそが唯一残った自然な生物として条件を満たした。 獣の位が世界から与えられる物ならば、この絶対殺害権はもうどうにもならないから世界ごと殺してほしいという叫びだったのだろう。 そして当然、獣の本能程度に環いろはが屈することもなかった。どうにもならないとも思わなかった。彼女はそれをよしとしなかった。それだけの話である。 ──絶対殺害権は終ぞ行使されず、その手は優しく魔法少女の悪夢を払い、誰もに優しい夢を見せて、そしてそのまま世界は柔らかく解かれていった。 ただ消えるだけだったはずの終わりは、消えゆく人々への救いになって、ただ消え行くだけだったはずの世界は、これからを歩む世界の助けとなった。 6/                          空想の根は落ちた。この空想樹に与えられた最初の異聞作成方針は統制/集権によるハッピーエバーアフター……独善的な滅亡路線である。 即ち大本となる樹はかの空想樹メイオール・エタニティであり、この樹の種子が降り立ったのは、この樹が異聞の中でも珍しく秘匿され、目に映ることなく、そして汚染もされていなかったからである。 空想樹メイオールの種子は神浜という土地に降り立ち、やがて行き詰まる理想による滅亡路線を歩み出した。 鏡の魔女により人類が虐殺されたこの土地で、そして自らがいた世界と同じく魂という人の中身を法則として持つこの世界で、メイオールの種子はそれを吸い上げ、そしてこの世界の霊長と管理システムを支配下に置くべく、無軌道に暴れ回る魔女を飲み込み、霊長の管理システムを飲み込み、咲くのをやめた桜を飲み込み、魔法少女から放たれ続ける未知のエネルギー…穢れを飲み込み続けた。 獣の妹が失われ、桜は咲くことができなくなってしまった。桜はただただ終わろうとしたが、空想樹はそれを許さない。滅ぶのは世界丸ごとでなくてはならない。まだ枯れてはならない。 …支配し、滅亡させるためには人民と文明が必要である。そのカタチとなったのは鏡の魔女に…そして魔女が呑み込まれた後は空想樹によって虐殺された人々の魂であり、この土地の持つ歴史である。しかし魂はあれどカタチとなることに慣れていなかった人々は、この樹に読み取られた表面的な情報だけを再現され各所に配置され、そして獣による巻き戻しの度にそれを摩耗させていく。 中身を必要としないという理念に沿った行動の度、作り上げんとする楽園はそもそも機能しようとしなかった。 メイオールの種子は外側から書き換えるのをまず断念。内部銀河で世界の辿った歴史の演算を開始し、捻じ曲げ、都合よくリライトした後に外部へ出力することで上書きを図ることにした。これは自身と結びついてしまった桜を歴史から消し去る目的もあった。 もはやメイオールの異聞作成方針から外れ、「この世界を滅亡させるための存続と置換」を主目的とし歴史を作り出す樹は、自身をこれから訪れる正しい歴史の体現…「カノン/正典」と称することにした。こうして空想樹カノンは誕生した。 ここで空想樹は起点へと立ち返った。誰に統制/集権すべきか?私自らだ。……私が王となればいい。私をどう定義するか?消してしまうこの桜を乗っ取ればいい。 こうして元となった誰かの表面だけをなぞる人形達の王、逢良かのんが空想銀河の中に生まれた。 この樹が女神の管理するソラを離れ自らが生まれた白紙地球上へと帰還したのは、人理を詐称するなにものかの手によるものであり、このレコードの強奪こそが女神の逆鱗に触れ、使者が送り込まれることになる。 ……結局カノンは空想樹であることからも、その方法が独善であることからも、中身を必要としないことからも逃れることはできなかった。逢良かのんは最後まで、自らの傍にいる人形に規定以上の動作をさせることはできず、そこが魂を自分のカタチにすることに慣れている魔法少女の幽霊たちにとって付け入る隙となり、叛逆が始まったのである。 それでも、どんなに手を取りあっていても、最後を迎える世界にははじまりはない。 それでも、どうか、どうか。手にはたった一つだけ、安らかな眠りという夢を握って。 そして魔法少女への救済の羽根が舞い降りた時、その手で魔法少女達を殺して終わらせなくてよくなったときに、彼女のすべきことは世界の滅亡だけになって、だから──ワガママを言おうと、そう思った。