ガリガリガリガリ。 俺が自分の部屋でゲームしている中、鉛筆削りの音が反響するように響く。 「あっ」 その音で後ろから迫ってくる敵の音を聞き逃し、俺の操作しているキャラはやられてしまった。 「おい東雲!やる時言えよ!」 「別にいいじゃないですか」 「よくないって、俺に呼びかけるくらい手間でもないだろ」 俺の部屋の机を使い、中学の教科書を開いて勉強している妹の東雲に俺は呼びかけた。 机の上を見ると、授業の範囲を赤線や図を使って綺麗にまとめたノートが置かれている。勤勉な事にもう中学の宿題は終わっているのか横のファイルに収納済みだ。 「宿題サボってゲームしてる兄とは違って勉強してますから、むしろこっちに配慮してもらえませんか?」 「俺は追い込み型だからいいんだよ。てか、ここ俺の部屋でお前が使ってるの俺の机だろ...」 「私はちょっと人の目線と音がある方が勉強できるんですよ」 俺の文句に対して、微笑で憎まれ口をたたく東雲。 なんでか分からんが、東雲は勉強する時はよく俺の部屋を利用する。 てか、人の目が欲しいなら学校とか図書館とかあんだろ。 「あっ...くそ負けた」 「また同じところでやられてるじゃないですか、下手ですね」 「うるへえ、7割くらいボスの体力削ってたろ...見てろよ次は勝つ」 しばらくゲームしていると東雲の勉強は終わったのか、キャスター付き椅子のムキとは逆向きに座り、背もたれに首と腕と髪を乗せて、俺のゲーム風景をニヤニヤと見ている。 「...見てましたけどそのアイテム今の動きの時に使うと思いますよ」 「えっマジ?次やってみるわ」 使い道のないものだと思っていたが、ボス戦で使うのかこれ。 「ホントだわ、これでいけんじゃね?」 「さっき無しでだいぶやれてましたしね」 東雲のヤツは目ざといというか、細かいことに気が回るよなあ。 というわけで次のボス戦は苦戦することなく勝利した。 いやまあ...アイテムのこと知った後一回凡ミスでゲームオーバーになったが。 「おっし、楽勝」 「苦戦してましたけどね、結構」 「難しいボスだったんだよ今のは」 難関ボスに勝利を収めたが東雲の言葉でしょげる。 勝った時くらいほめてくれてもいいだろ。 「道は...こっちか」 ボスを倒すと、暗い西洋風の街道が開けたので進む。 「そういや前やってた格闘ゲームどうしたんですか」 「あれ飽きたんだよ全クリした」 「ネット対戦ゲームに全クリなんてあるんですか?」 「最高ランクまで行った」 「全国一位になるまでが全クリですよ」 「俺に何求めてるんだよ...」 無茶ぶりが過ぎるだろそれは。 「しの~!?そっちの部屋いるー?ごはーん!」 階段の下から、母ちゃんの晩御飯の支度が出来たことを伝える大声が。 東雲の所在を確かめるように言ったのは、1階の東雲の部屋にいなかったからだろうな。 「「はーい」」 俺たちはその声に反応して声を同時に返した。 ゲームの電源を切ってドタドタと階段を下り玄関前を通って居間へ。 正方形のテーブルに乗った晩御飯からいい匂いがしてくる。味噌汁、ごはん、キャベツ多めのサラダ、肉じゃがと...何だろうこれ、火を通したイカがそのシルエットのまま輪切りにされてる。 「なにこれ?」 「なにこれとは何よ、前言ってたじゃないレシピ本覗いて食べてみたいって。イカの姿焼きよ。」 「私はイカよりタコの方が好きですけどね」 「黙って食べなさい」 「はいはーい」 レーブルの上のよく分からないイカ料理に兄妹で二人で興味を持った。 よく分かんないけど...海鮮のいい匂いがしてうまそう。 「「いただきまーす」」 食前の挨拶を済ませると、早速イカリングのように輪切りにされたイカを大きい器から直接箸で口に運ぶ。 ん、マヨネーズと醤油で味付けしてるのか?イカの味わいとマヨ醤油のしょっぱさが俺にはちょうど良くてうまい。 「うん、おいしいわ」 「そう?作った甲斐あったかも」 さっき失礼な感じだったから、一応褒めておく。今度も作って欲しいし。 母ちゃんは淡白な反応だけど、笑みがこぼれていて内心かなり嬉しそうだ。 「ちょっとしょっぱいですね」 「黙って食べなさい」 東雲のやつにはどうやら味付けが濃かったようで。 同じ飯を食ってる兄妹なのに味覚が違うの不思議だよな。 チャポン 「はぁ~...」 「じじむさいですね」 「ほっとけ」 先に風呂場で身体を洗った俺は、浴槽に入ってた東雲と入れ替わりで浸かる。 うちの風呂場は狭いから、交互に洗わんと体同士でつまる。 もう、中学生と高校生の体格だしなあ。 既に俺は体を洗ったのだからある程度浸かったら風呂から上がってもいいのだが、東雲の事は待ってやる。 東雲のヤツは体洗う時間が長くて長湯になるが仕方ない。 ...時々思うけど、普通の兄妹ってこれくらいの歳になったら一緒に入るの嫌がるもんじゃないか? “兄妹”どころか“兄弟”でも。 惰性で一緒に入るのを続けてるけどさ。 「なあ、もう俺コーコーセーデビューしたしさ、風呂って俺たちくらいの歳になったら一緒に入るのって恥ずかしくなったりしないか?」 「別に。なんでそんなこと聞くんですか?」 やべ、東雲が反応が変に短くて質問を聞き返すときは不機嫌になった時だ。 「あーー...すまん何でもない、いやもう入るには風呂場狭く感じないかって」 「全然。」 全然かあ...。 火に油だったかもな今の。 シャー シャワーの音が静かに響く。 丁寧にボディソープが付けられた東雲の細い体をお湯が過ぎ去っていく。 うーん、沈黙が気まずい。 「...久々に髪を洗ってくれませんか?」 「え?あ、ああ」 え...!?流石に俺達でも今の歳でお互いの体洗ったことなんて全然ないぞ...? 気まずい雰囲気を引きずってなんとなく了承してしまったけど。 昔は確かに東雲の体を洗ってやったことはある。ただしそれは小学校にあがる前の話だ。 目に泡が入って痛いからってシャンプーハットを被せてやるようなレベルで幼かった頃の。 よく分からんが...乗り掛かった舟だ、久々にやってやる。 「頭の上通るぞ?」 「はい」 ううっ、やっぱり二人だと狭いな、東雲の身体小さいから何とかはなったが。身をよじり東雲の隣の棚上シャンプーをプッシュする。 友達から聞く話だと女の子はシャンプーもこだわって家族と別にするやつが多いそうだが、東雲も俺も家族共通のシャンプーだ。体は丁寧に洗うのに意外とそういうの無いよなあ。 家族じゃ母ちゃんの方がそういうの選んでるくらいだ。 「髪...触って大丈夫か?」 「触らないと洗えないと思いますが」 「そういうのじゃなくて...その、俺がお前の頭を触っていいのかなって」 「それくらい気にすることでもないですよ、家族ですから」 「そうか...」 存分に手同士で泡立ててから、そっと東雲の髪に触る。 毛量が多いので、少し掻き分ける形になりながら奥へと泡を付けていく。 「雑ですね」 「悪かったな雑で」 こっちは初めてなんだよ、こんな毛量を扱うのは。 洗ってやってた小っちゃい頃はもっと── 「そういやお前、幼稚園の頃は髪伸ばしてなかったよな?いつの間にか伸びてたけど伸ばした理由とかあるのか?」 「ありますよ」 会話をしながら長い髪に泡がいきわたる様、櫛をすくように泡を付ける。 「あるのか、どんな理由よ」 「子供の頃、髪の長いアニメキャラに憧れまして、その時に髪を伸ばすことを決意しました。まあ、伸びたころにはそのキャラへの気持ちとかはもう無くなってましたけどね」 案外そんな理由だったんだな。 確かに子供の頃はグッズとかたくさん集めてたな。あの頃の俺は正義のヒロインのやられ役としてよく魔法のステッキで叩かれていた。 もう、そのオモチャに関しては押し入れ行きどころか母親が捨ててしまったが。 「あこがれが無くなったって...。その割には今も髪ロングだよな?長い髪の管理めんどくさいって聞くが」 「別にいいじゃないですか、あくまで切っ掛けはそれというだけです」 「そういうもんか」 「そういうものですよ」 俺が東雲と風呂に一緒に入ってることのように惰性で続けてることなのかな。 いや、東雲のヤツには何かこだわりがありそうだったが。 「よし、こんなもんか?」 他愛のない会話の間に、東雲の髪全てに泡を行きわたらせた。 正面の鏡の曇りを軽くふいて確認するが問題はなさそうだ。 「流すぞー」 「どうぞ」 髪の上からシャワーを落とす。 泡落としの細かい部分は自分でやるようで、さっと髪を流すように手を動かしていた。 「これでいいか?」 「っふう、久々にしては上出来だと思いますよ」 「どこから目線なんだ」 なんでいちいち上から目線なんだ。 褒めてるのやら、けなしているのやら。 「妹...いえ女の子としての意見ですよ」 「はぁ、まあ俺は床屋じゃないし、女の髪洗う機会なんてもうないと思うけどな」 「またお願いするので安心してください」 「マジ?」 またやんの?これ。