「(―――何でこんなことになってしまったのか…)」 ステージ上に設けられたまるでバラエティ番組のようなセットに座らされているサンク=マスグラード帝国のレストロイカ帝がそこにいた。 事の起こりはいつまで経っても結婚も世継ぎも作らないくせに配下の者には気ぶりまくる彼に業を煮やした同国の参謀クァン=ヴェイクロードの指揮により、王家親衛隊と治安維持部隊が起こした蜂起事件による。 必死に逃げ回る彼はヴェイクロードが雇った冒険者PTの手に寄って拘束され、彼を慕う乙女とメリアとセターの待つ■■■■しないと出れない部屋にぶち込まれる寸前こう言い放った。 「正妃も娶らずこのような過程で出来た子供に何の正当性があるというのか? むしろ逆臣どもがそこらで拾った子供を連れて来て皇帝の隠し子ですと宣う混乱の原因となるだけであろう! 諸君!頭を冷やせ!」 兵たちに動揺が起こる。よし!このまま押し切るぞ! 「じゃあ皆わかってくれたということで、終わり!閉廷!以上!解散!」 このまま逃げ切れると思った瞬間、ヴェイクロードが切り返してきた。 「つまり正妃を立てれば陛下は世継ぎ作りに問題はないということですね?」 「だから何度も言っておるであろう。私のような者が誰かに愛される資格はないし、政略結婚のために誰かに犠牲を強いるつもりもない。だが帝国の正妃を立てるにはそれなりの家格というものがある。あーこれは詰みだなー!無理ゲーだなー!これで話は終わるぞ」 「つまり陛下を愛してくれる釣り合う家格の令嬢がいれば良いというわけですね。ちょうどいい案件があります」 ヴェイクロードはス魔ホを取り出すとどこかに電話をかけている。 「あーもしもし我聞ちゃん? 例の話、陛下のOK取れたから進めといて。会場はウチで準備しとくから」 「レンハート王家と話がまとまりました。家格に関してはつり合いは取れているかと思います。それに陛下もかの国については並々ならぬご厚情がおありでしょうから申し分ないお相手かと思います」 「確かにユーリン王は我が兄のような男ではあるが、その娘たちにはろくに面識もないぞ。そんな者といきなり会わされて結婚話を強いられるのは、私が一番避けたい構図だ」 「ですから相互理解を深めるためにお見合いをするのでしょ。安心してくださいこのヴェイクロードがしかと場を盛り上げて差し上げます…」 「(いやそういうのではなく…)」 「実はこれはかの国の方から来た案件でありまして。ユーリン王は子弟たちを自由に育てていたのですが、年頃になった娘たちが悪い虫に引っかかっているのが悩みの種とかで…」 「(だからって何で俺が…)」 *  *  *  *  * この直後ホットラインでユーリン王に連絡を取るが、出会い頭から『娘はやらんぞー!』とブチ切れられ全く会話にならなかった。 数分経ち彼にこれはお断りの電話なんですよと弁解すると、今度は『ウチの娘のどこが気に食わないんじゃー!』とまたブチ切れられた。 再度数分経つとようやく彼も落ち着いたのかまともに話ができた。 要約すると娘が謎の覆面レスラーや自分のストーカーや陸に上がったダメ人間だのとフラグが立ってしまっており、先行きを不安視したためコイツならまぁいいだろという男に任せたいとのことであった。 ギリギリライン扱いなのが不本意ではあるが、ダメならダメでしょうがないという言質が取れたのは僥倖であった。 何があっても最終的にごめんなさいすれば良いだけなのである…。 *  *  *  *  * 皇都広場に設けられた特設会場に大勢の民衆が押しかけている。 民たちが見つめる先にはステージが設営されており、数脚の椅子と机のような物が置かれている。 そしてステージの正面には『帝国の将来はいかに!マスグラVSレンハート フィーリングカップル1対5』と書かれた看板が設置されている。 もはや何のイベントなのか正直分からなくなっている…。 「さぁ始まりましたこのビッグイベント! 我らのレストロイカ陛下にレンハートの姫君5名とお見合いをしてもらいます。お妃様の座をゲットするのはどの方なのでしょうか! 司会進行はクァン=ヴェイクロードが務めさせてもらいます」 司会お前かよ! 確かに場を盛り上げるって言ってたけどさぁ…。 ヴェイクロードの指示でレンハート姉妹5人が入ってくる。 先頭に最も年長であるメロが入る。幼い頃に見たきりだがシュガー王妃と似た面影が血の繋がりを感じさせる…。 恥ずかしそうに入ってくるツインテールの少女、刀を携えた武人然した少女、幼女、複葉機…。 一体どうなってんだあの王家…。 全員が席に着くとヴェイクロードが進行をする。 「始まりましたフィーリングカップル1対5。まずは質問コーナーから入って行きましょう。最初は陛下から姫君たちへの質問!『好みの男性のタイプは?』」 そんな質問一回も出した覚えはないんだが…。 「何事にも動じない泰然自若な方でしょうか…。できれば正体不明のミステリアスな方だと良いです」 「頼りがいのある落ち着いた大人の人で、本当の私をちゃんと見てくれる人かな…」 「私よりも剣の強い男!それは最低条件だ!」 「海の男…」 「人間の体には興味ありません! 強化と進化を自分の体で表現できる人です!」 「ご回答ありがとうございます。いやー中にはこれ陛下?って回答もありましたね。続きましては姫君たちから陛下への質問をお願いします!」 「民の求心力を上げるための試みは何かありますか? 例えばアイドル活動に興味はありませんか?」 「素直に言えない時の気持ちを分かってもらえるにはどうしたらいいんですか?」 「陛下の剣の強さはいかほどだ? ぜひお手合わせしてもらいたい!」 「船の操縦できますか?」 「改造するなら陸海空どれがいいですか? 私のおすすめは空です!」 こんなアホな質問にも答えなきゃならないのか…。段々頭が真っ白になってきて、とにかく早く終われこの時間と願うだけであった。 *  *  *  *  * 「―――さぁ質問コーナーに続いてミニゲームコーナーも大いに盛り上がりました。お互いの距離も大分近づいてきたかと思います! いよいよ最後となりましたが見事カップル成立なるんでしょうか! 机に付いているスイッチを押してください!」 アホか、こんなもん押さなきゃいいだけだろ…。 「ちなみに押さないとランダムで動作しますのでお気をつけください」 なんじゃそれ!せめてごめんなさい言える魔ねるとん方式にしろ! 「(ククク…逃げようとするなんて想定内ですよ陛下。すでに矢印は一番似合いそうなメロ王女に行くように仕込み済ですぞ…)」 クソ…矢印が到達してしまう…。もはやこれまでかと思った時、舞台の下から机を突き破って一人の男が現れた。 「望まぬ政略結婚を阻止する男!レンハートマッホーリーナイッ!」(BGM:例のテーマ) 俺からの矢印が到達しそうになり顔を曇らせていたメロの顔に安堵と喜びの表情が浮かぶ。 心なしか少し紅潮してるような…。あれが好みの人なの?!ちょっと引くわー。 不審者を取り押さえようと配備されていた治安維持部隊が動く。 しかし覆面の不審者は異常に強く、取り押さえるどころか全員をボコボコにしている。 舞台上の俺の元に息を切らせながらラーバルがやって来て、そして土下座をする。 「申し訳ありません! 俺に付き纏っていた覆面野郎がこんなことを!」 彼の悲痛な叫びに頭は逆に冷静になってきた。 よくよく考えるとこの状況、俺にとっては有利ではないか…。 俺は大きく拍手をしてこの場の空気を収める。 「矢印が到達しないので今回は不成立ということだな。だがそれではこの集まった民の皆も退屈だろうから、アトラクションとしてヒーローショーを披露させてもらった。演者はレンハートマンホーリーナイトと治安維持部隊。それでは会場の皆々は大きな拍手で送り出してやってくれ…」 トォー!という叫びと共に会場から脱兎のように逃げて行く覆面男。 治安維持部隊の連中がそれを追いかけて行くが、観衆はこれもショーの一環だろうと特に気にも留めなかった。 呆然としているヴェイクロードに声をかける。 「国を思う気持ちはありがたいが、望まぬ者に無理強いを求めるのはよせ。俺に世継ぎがいなくても後継に関してはすでにプランはあるから安心しろ…」 レンハート姉妹たちに面倒ごとに巻き込んですまないと謝罪をする。皆気にしてはいないと言ってくれる。 彼女たちを退場させようとした時、ツインテールの少女が気恥ずかしそうに小声で俺に囁いた。 「私…陛下にスイッチ押したんですよ…」 この言葉は幸いヴェイクロードには聞かれていなかった。 よし!このままスルーしよう!