巫女として。 神社の宣伝や、日々のお勤め。 そういう様子を皆に知らせる為に、SNSを始めたんです。 日々の様子や、神社に居る小鳥等、色んな事を投稿して、 「おみくじ」や「御守り」の案内、「絵馬」の柄。 そういう情報や、そして‥‥私の日常も投稿していました。 そんなある日。 ある晴れた日に、巫女服を綺麗に洗って干していると。 白い布が風に揺れている様子が、なんだか綺麗で。 「服も綺麗に洗えて、風も気持ちいいですね。 今日は良い日になりそうです」 そう、洗濯ものの写真を投稿。 その時は、気が付きませんでしたが‥‥これが、第一歩でした。 一週間後に、自分の投稿の反応を見ていると。 気が付いちゃいけない事に気が付いて、ふと胸がひやりとしたんです。 「‥‥あれ?」 画面をよく見て、気が付きました。 端のほうに、細長い白い布。 洗った巫女装束と一緒に干していた‥‥ふんどし。 解いて干していれば、ただの白い布。 見ようによっては、何の変哲もない晒し布。 そう、頭では分かっているのに、心臓の音が急に大きくなって‥‥ 「だ、大丈夫‥‥ですよね‥‥?」 コメント欄を何度も更新して確認して。 通知も、じっと見つめて。 ――誰にも、何も言われていない。 その事実に、ほっと息が漏れました。 胸に手を当てて、静かに深呼吸。 「‥‥よかったぁ」 きっと、皆さんは清められた布の一枚としか思わなかったのでしょう。 そう、そうに決まっています。 結局、あの投稿は消しませんでした。 わざわざ消すのも不自然だから、投稿はそのまま。 消してしまったら、かえって「何かありました」と言っているようで‥‥それも不自然ですから。 それでも、胸のどきどきは止まりませんでした。 いつも通り。 何事もなかったかのように、翌日も、その翌日も、淡々とお務めの投稿を続けました。 ‥‥でも。 夜になると、どうしても思い出してしまうんです。 布が、風に揺れていたあの写真。 「ただの白い布」 そう何度も自分に言い聞かせているのに、胸の奥がきゅっと縮こまる。 布団に入って、目を閉じるけど、気付かれるかも、と思ってドキドキが止まらない。 「‥‥本当に、大丈夫、ですよね‥‥?」 誰も気にしていない。 誰も指摘していない。 それは、分かっているはずなのに。 通知が鳴るたび、心臓が跳ねて。 画面を確認して、違う内容であれば、そっと息を吐く。 ‥‥それを、毎晩。 最初は、確かに怖かったんです。 誰かに気付かれるんじゃないか、清楚な巫女として見られなくなるんじゃないかって。 だから毎晩、胸がざわついて、落ち着かなくて。 日を経つごとに、そのざわめきが、別の色になって。 「‥‥今日も、大丈夫だった‥‥」 そう思った瞬間、胸の奥が、きゅっと熱を持つんです。 怖いはずなのに、なぜか息が浅くなって、鼓動が速くなる。 誰も知らない。 誰にも指摘されていない。 秘密を抱えている事のドキドキ。 布団の中で、指先が落ち着かなくなって。 胸を抑えて落ち着こうとしても、心だけが、そわそわと逸れてしまう。 自分を戒めるのに、”もしも”を考えて止まらない。 あの時から、胸の奥に残った熱は消えるどころか、静かに形を持ちはじめました。 怖い、いけない、と思う気持ちは確かにあるのに。 だから―― 今度は、偶然ではありませんでした。 ただ、解いた褌を解いた白い布。 折り目も、結び目もなく、ただ細長く伸ばしたまま。 自室の写真に、さりげなく写り込ませる。 畳の上。 灯りは控えめで、生活感のある床。 そこに、解いたままの白い布を、そっと置きました。 整えすぎないように。 でも、乱雑にもならないように。 ‥‥自分でやっておきながら、 喉が鳴って、指先が震えて。 その日の夜は、眠れませんでした。 結局、何も起きませんでした。 それが、いけなかったんだと思います。 胸を撫で下ろすはずだったのに、 「大丈夫だった」という事実が、私の中で別の意味を持ち始めてしまって。 ――ここまでしても、何も起きない。 ――じゃあ、もう少しだけなら‥‥。 気が付けば、どんどんエスカレートして。 一線を越えた、そう言える事をした日の事は、忘れられない。 一日の務めを終えた後。 自室に戻って、一息つく。 静かな部屋。外の音は遠く、灯りは柔らかく落ち着いています。 ‥‥そして、褌を外しました。 両手で、そっと端を持ち上げて。 布の重みを確かめるように、左右に広げる。 幸いにも汚れはなく、白は相変わらず白で。 何の装飾も、主張もない。 解いてしまえば、ただの布。 広げて、内側をカメラに向けて、撮影。 「あはっ」 思わず笑いが漏れました。 自分の褌を広げて、カメラに写して、撮影。 なんて事をしているんだろうって、自分でも思います。 こんな所を誰かに知られたら、もう巫女ではいられない。 そんなスリルが、背筋を駆け上っていきました。 でも、同時に思うんです。 (誰も見ていない) (誰にも気付かれていない) (大丈夫なはず) (だから、大丈夫) 恐怖は、もう薄れていました。 むしろ、じんわりと興奮がこみ上げてくる。 投稿のボタンを押した、その瞬間。 胸の奥が、すっと静まりました。 妙な落ち着き。 同時に感じたのは、甘い熱でした。 もう、止めようがありませんでした。 結局、何も指摘されず。 だから、続けても大丈夫だと思って。 毎日褌を外す、その瞬間。 布の重みが手に伝わると、胸の奥が、静かに緊張します。 そして、恥ずかしいその様子を写真に撮って、投稿。 その行為が、続ける度に私の中の何かを確実に壊していく。 でも、もう引き返せない。 毎日の投稿が、日課になったある日。 季節が、確かに変わってきました。 朝の境内に立つだけで、空気が重たく感じられるようになって。 お務めの最中も、額や背中に、じんわりと汗がにじむ程。 その日の白い布は、少しだけ重くて。 触れると、指先に、ほんのりと湿り気が伝わる。 ‥‥以前なら、 すぐに洗濯に回して、深く考えることもなかったはずなのに。 私は変わらず、それを両手で広げて、顔の前に掲げました。 見た目は、相変わらず、ただの布。 だけど、投稿前に写真を見ると。 季節のせいかそこに「今日一日」の名残が、確かに残っている。 今までの「ただの布」という言い訳が、 急に心許なくなって。 投稿前の指先に、無意識に力が入ります。 それでもSNSを閉じることは、ありませんでした。 暑さとは別の熱で身体が熱い。 ‥‥この布は、ただの布。 だから大丈夫。 そう、自分に言い聞かせて。 そして、私はまた一つ、一線を踏み越えました。 バレないから大丈夫。 時折、毎日掲げてるこの布何なんですか、と質問されるけど、ひみつだと誤魔化す。 もう、特別な行為じゃなくなった。 だけど、興奮は色あせなくて。 投稿するのは、決まって深夜。 誰もが決まった時間に褌をほどいて。 カメラに写して、撮影。 その行為自体には慣れてしまったけど、そのはずなのに。 胸の奥の熱は、毎日、確かに灯る。 大きく燃え上がるわけではないのに、燻る事も消えることもない、小さな炎。 そこに、ひんやりとした感覚が吹き込んで来たのは。 知り合いの名前での、フォロー通知が見えた瞬間。 ドキリと心臓が跳ねて。 恐る恐る、そのアカウントを開きます。 ただ同じ名前じゃなくて、話してる内容から、あの人だと分かる。 喉の奥がきゅっと締まって、息苦しくなってきます。 「今までだってバレなかったし大丈夫」と自分に言い聞かせて。 それでも、心臓の音がうるさくて。 もう、何も考えられなくなってしまって。 それでも、日課は辞められなくて。 そうして、冬が過ぎて春が近づいたある日。 季節外れの、やたらと暑かった日の事。 いつものように、褌をほどいて、カメラに写して撮影。 ドキドキするけど、もう慣れた行為。 汗の染みも、止める理由にはならなくて。 だけど。 翌日、あの知り合いが神社にやって来た。 普段通りに振舞いながら、全身の血が一気に巡って、顔が熱くなって。 もう大丈夫だったはずのドキドキが、また戻ってきて。 昨日から続く暑さのせいか、汗がなかなか引かなくて。 バレたから、ここに来たんじゃないか。 そう思いながらも、今までどおり明るく丁寧に振る舞って。 ‥‥何も言われなかった。 褌をほどいている写真も、投稿した写真にも触れず。 だけど。 言われなかっただけで、バレちゃっているんじゃないだろうか。 そう思ったその日の写真を、投稿する指がいつもよりずっと重くて。 ドキドキは、もう最高潮だった。