ここはギルドの最深部、腕利き揃いのギルド登録者の中でも、さらにごく一部の許されし者しか訪れることの許されないスペース。 「大丈夫かな、ユイリア…」 「皆さん、私の後ろに。イザベラさんはいつでも援護射撃できる準備を」  そこに漆黒の勇者イザベラ、偽勇者ユイリア、♰天逆の魔戦士♰アズライール(ハナコ)、スパーデ・ディ・レンハートの4人の女性が恐る恐る足を進める。 「おっきな扉…」 「開けますよ。皆さん、心の準備を」  途轍もない威圧感を与える、黒く、鈍く輝く、いかめしい門扉。まるでお前たちにここを通る勇気はあるかと問いかけているようであった。  ユイリアが片手で扉を押し──表情を僅かに歪め、両手で押し始める。鈍い音を立ててゆっくりと扉が開いた。 「いったい、我らを招き入れるとはどんな意図か。ギルドの頂点に立つ者よ…!」 「いつでも臨戦態勢に入れるよう、気を抜くなよハナコ」 「ハナコゆーな!」  そこにあるのは大きな長テーブル。その向こう側に一人の女性が座っていた。 「待っていたわ。ようこそS級冒険者のみが使用できるこの会議室に。歓迎するわ、貴女達を」  彼女こそ、ギルド最高戦力の一人、S級の冒険者ネーサ・マオ。4人を招き入れた主催者であった。 「どうしたの?今日はホールケーキの日よ」  一緒にケーキを食べましょう、と笑みを作るネーサに4人は益々警戒心を露にする。 「…貴女にここに招待される理由がわかりません」  4人を代表してユイリアが発言をする。面白いという風にネーサが笑みを深めた。  ネーサが指を鳴らすと、ユイリアたちの背後の扉がゆっくりと閉まっていく。完全に扉が閉まるとゆっくりとネーサは立ち上がった。ただそれだけの動作なのに、彼女から発せられているオーラが、一気に膨れ上がったのを肌でユイリアたちは感じた。  招待客たちは一斉に身構える。一人ずつゆっくりと顔を見渡すネーサ。誰かがごくりと唾を飲む音が聞こえた。 「貴女たち全員、殿方に恋をしているでしょ?」 「「「「なっ!」」」」  4人全員が同時に息を飲んだ。 「あら。その反応は本当に全員図星なのね。カマをかけただけだけど。ついでに言うと、貴女たちの恋する相手って普段身近にいる人よね?」  もはや4人は声を出すこともできない。完全に場のペースをネーサに握られていた。  ちなみに『全部知ってますよ』という態度をとっているネーサだが、ネーサ自身では殆ど彼女たちの恋路に気づいてはいない。彼女の情報源は殆どあなたによるものであったことを付言しておく。  4人も歴戦の強者。動揺を一瞬で抑え、即座に態勢を立て直したのは流石であった。  キッとネーサを睨み、やられっぱなしではいられないと各々が反撃に転じる。 「わ、私はクリストとは大切な仲間ってだけで…」 「まさか、マーリンの事を言ってるのですか」 「べ、別にギルとはなんとも…」 「まだ、ヤン=デホムとはそういう関係までは…」  …立て直した? 「へえ、聖盾のクリスト、魔術師マーリン、サーヴァイン・ヴァーズギルトね。3人ともPTの仲間に恋してるのね。素敵よ。…あとスパーデさん。ヤン=デホムというのは貴女がカルガモのヒナのように後を追いかけてる、精悍な剣士のことかしら?」 「あううっ…」 「図ったのですか!?」 「しまった…!」 「くっ」  4人は戦慄した。これがS級。戦闘力だけでなく洞察力、駆け引きでも完全にネーサ一人に圧倒されていた。 「もし一緒に食べてくれるのなら、私の恋の成功体験を教えてあげてもいいわよ。仲間から、男女の関係に発展した成功の秘訣を…」 「「「いただきます」」」 「うん、素直でよろしい」 (オトーを始めとする私の周りの子っていつまでたっても男の影は見えないから、恋する女性同士の恋バナの機会ってなかなかないのよね。ワクワクしてきたわ!)  ルンルン気分でネーサはホールケーキを切り分けていく。スパーデを除く3人は素早く配置された席に座り、お行儀よくケーキを切り分けるネーサを待っている。 「…馬鹿馬鹿しい。私は帰るぞ」  一瞬足が前に出かけたが、レンハートの誇りにかけて誘惑に一人屈しなかったスパーデが、ネーサに背を向ける。 「あら、残念ね。貴女と話が合いそうな特別ゲストを呼んだのだけど」  ネーサが指を鳴らすと、再び入り口の扉が開き、一人の妙齢の女性が入室してきた。  下半身が少々際どいレオタードの、鞭を獲物としている女性。一目で彼女が只者ではないことが全員に伝わった。 「あたしはウァリトヒロイ王国の少将、モネー・トシガイさ。以後よろしく頼むよ」 「ちなみに彼女は二十歳差の年下の男性と結婚したわ。貴女にも有益な話が得られると思ったけど。残ね」 「ありがたく頂戴いたします」  気づけば、いつのまにかシレッとスパーデが澄ました顔で椅子に座っていた。その変わり身の早さにハナコが吹き出す。 「…なんだ?」 「べっつにー」 「あっはははは!若いねえ!だけどその積極さ嫌いじゃないよ!全く、だぁりんのアプローチを思い出すよ」  愉快気に笑いながらモネーも席に着く。  こうして、ネーサ、イザベラ、ユイリア、ハナコ、スパーデ、モネーの6人による何とも奇妙な女子会が始まった。