「ん…あれ…寝てしまってたか…」 仕事上がりに雫と約束していたライブBDの鑑賞会に来て、一通り見終わった後に感想戦をして…そのまま年を越してしまったのか。 こたつの暖かさはやっぱりこの時期にはよくないな…心地よすぎてすっかり寝入っていたらしい。 「あ、起きた?  こたつ、ぬくぬくして眠くなるけど、あんまり身体によくない、かも」 雫の声が聞こえた。せっかくの時間だったのに寝てしまうとは…。 「ああ、すまない、気持ちよくてつい…」 ん、んん…? 「?どうかした?」 「え、いや…」 目の錯覚か…?眼鏡をずらして目元をマッサージして…もう一度雫を見る。 …気のせいとかじゃない! 「…なんか、頭の上に…」 「あたま?」 雫が頭に手をやって、 「ん…?」 『それ』の存在に気が付いたらしい。 「何か、ある…?」 「耳だな…多分、馬の…?」 「…何で?」 「いや、俺に聞かれても…」 よく見ると、尻尾も生えてるじゃないか。 「んん…どおりで、なんかもぞもぞすると思った」 むしろ何で気付かなかったんだ…。 「はっ!」 何か思い至ったことがあるのだろうか? 「今年の干支…」 「ああ、午年…。って、だからって急に耳と尻尾は生えないだろ!?」 「それはそう」 結局、原因はわからずか…。 「でも、なんだろう…なんだか妙に馴染むような…?」 「そうなのか?」 「うん…不思議」 う〜ん、それにしても… 「もふもふしてて、なんだか可愛らしいな」 「っ!?か、かわ…あ、ありがとう、ございます」   雫がもじもじし始めると、その動きに合わせて尻尾も揺れた。 う?ん、滑らかに動く尻尾につい視線が引き付けられる。 「え、えっと…」 「ん?どうしたんだ?」 「その…よかったら、触ってみる?」 思わぬ提案。 「え、いいのか…?」 「う、うん。そんなにじっと見るくらい気になるなら…」 うわ、俺、そんなに見てたのか…? でも、気になるのは間違いないしな…。 「じ、じゃあ、ちょっとだけ…」 「ん…いいよ。どうぞ」 雫の尻尾をそっと撫でてみる。 おお、結構サラサラしてて…指の間から流れるようにするっと落ちて 「んん…っ」 「し、雫?大丈夫か?」 「う、うん。思ったより、くすぐったかった…。  でも、大丈夫。続けて、いいよ」 「あ、ああ…ありがとう…それじゃ、もうちょっとだけ…」 何度か往復するように、ゆっくりと撫でていく。 「ん…触り方、優しくて…気持ちいい、かも。ちょっと、慣れてきた?」 「そ、そうか?」 なんか、雫の顔が段々と紅潮していっているような…。 「…なんか、こっちの耳も、ざわざわしてきた…」 雫の言葉に合わせたかのように、頭の上にある方の耳がぴくぴくと揺れた。 「こっちも、触って…」 「あ、ああ…」 雫の声に浮かされたように…そっと手を伸ばす。 指先が微かに触れた時、 「っっっ…!」 声にならない声、というやつだろうか。 ぶるっと震えた雫から、慌てて手を離した。 「だ、大丈夫か!?」 「う、うん…なんか、ビリビリして…すごかった…」 これ以上は良くないことが起こる。そう直感した俺は、どうにか雫から少し離れて座り直した。 何かを訴えかけるような視線には、気付かないふりをした。 「そ、それにしても、不思議なこともあったもんだなぁ」 わざとらしいくらいの大き目な声で、話題をそらした。…他の部屋までは聞こえてないといいんだが…。 「ん…何でだろう」 微かに潤んだ瞳からは目をそらし、改めてこの状況について考える。 「考えようによっては、新しい魅力を売り出すチャンスかもしれないぞ」 「なるほど…馬の耳と尻尾が生えてるアイドル。斬新…!」 「だろう?例えば、ダンスの時も耳と尻尾が揺れたりして、また見え方も違ってくるかもしれないしな」 尻尾を靡かせて、元気いっぱいにぴょいぴょい飛び跳ねて踊る雫をイメージしてみた。 うん。これはこれで、新しい魅力の発見になるんじゃないだろうか。 「…結構行けるかもしれないな」 「おお…牧野さんが本気の顔になってる…」 おっと、つい仕事モードになってしまったな。さすがにもう遅いし、そろそろ帰らないと。 「今後のこともあるし、明日また話をしようか」 「ん、そうだね…。(今日、ちゃんと寝られるかな…)」 「ん?何か言ったか?」 「な、何でもない…それじゃ、外まで送る」 「ああ、よろしく頼むよ」 それから、雫に案内してもらっていつも通り寮の外まで出て解散となったのだが…翌日に打ち合わせが開催されることは無かった。 『なんか寝て起きたら無くなってた』 んだそうだ。 まあ、何事もなかったということでそれはそれでよかったんだが…。 ちょっと惜しかったのは事実ではあったが、休みが明けたらまた忙しい日々が始まり、しばらくしたらすっかりこの日の出来事のことなんて忘れてしまったのだった。 終わり。