ソウが目を覚ますと、手足は大の字に広げられて、手首足首には鉄の輪が嵌められていた。  つまりは、捕まっていたのである。 「やぁ、お目覚めかな?」  そんな彼を覗き込んだのは、色のない髪と金色の瞳を持った女性だった。  それ以外の外見を観察する余裕は、今のソウにはなかった。 「こ……これは……!?うおああああーーーー!?!?」 「うんうん、驚いてくれるとやり甲斐があるねぇ」 「ああああーーーー!!!」 この場を支配しているのは女性だが、音に関しては完全にソウの独壇場であった。 「改造されるーーーーー!!!!改造されちまうよーーー!!脳改造される前に逃げないとーーーー!!!」 「おー、この反応する人は初めて見たかもしれないなぁ」 「あっ、そうだ!緊急コマンド!急速装着(エマージェンシーアームド)!」 「な、なんだい!?」  とはいえ、四肢を封じられようとも、強引に変身する術が彼にはあった。  瞬時にして全身は白い鎧に“置き換えられ”て、一気に拘束を粉砕することができた。 「よっと。で、何が目的でこんなことしたんだい、お嬢さん?」 「流石にそれは格好がつかないよ……?」  飛びあがって拳を構え、先程の騒ぎようから一変して余裕を取り戻したソウ。  だが、どう頑張ろうとも、今の彼はクールさとは対極の状況であった。 「私はサルフェ。キミのことは兄さん……ラーガンから聞いていてね?」 「団長から……ってことは、話はちゃんと行ってたみたいだ。というか、妹さんだったの?あなたに魔術を教わりに来たんだけど……」 「うん。そのテストみたいなもので、ちょっと魔術をかけてみたんだ。眠っちゃうやつを、ドアの前にね?」  ここまでの行動と言葉で、ソウは既に嫌というほど理解したが、彼女は相当に捻くれた人物のようだ。  誠実と真面目が服を着たような団長とは正反対だ。 「そしたら簡単に寝ちゃったから……その間にちょっと脳内の解析を……ね、低壌(ひくづち)ソウくん?」 「こっちに来てから苗字は名乗ったことないぞ!?」 「あんなことやこんなことまで、キミが死ぬ前から死んだ後もバッチリさ!」 「いくら団長の妹でもそりゃあねーよーーーー!!!」 「はっはっはっ、口外は絶対にしないさ。何せ、私の話を聞く者はいないからねぇ」 「それは、どういう……?」 色々と言いたいことだらけではあるが、話が進まない。 引っかかったところに逐一突っ込みをいれながら、会話を進める他にないとソウも半分諦め気味であった。 一応、彼女から話を聞く為に来訪したのだから、要求は最後に呑ませよう、と 「うん、それじゃあシームレスに魔術の講義だ。この世には、3種類の人間がいる。まず、『魔具を使って魔術を操ることができる人間』……これが殆どだね。大体9割だ」 「三種類なのに、そんなに偏るのか?」 「そうさ。そこから1割よりちょっと少ないのが……『魔具を使っても魔術を扱うことのできない人間』。私の兄さ」 「そういえば、団長は特になんか放ったりはしていなかったような……いや、あの身体能力は素だったのか!?」 「すごいよねぇ、はっきり言ってハンデだし、一般的に落ちこぼれとして扱われるのにさ」  鎧の姿に変身していようと、団長の身体能力には目を見張るものがあった。  ソウは跳躍力や筋力に魔術で強化をかけていたのかと考えていたが、まさかの解答である。 「私の兄がなんでそこまで強くなったのか……その理由は、私が残りの『魔具なしで魔術を扱うことのできる人間』だからさ」 「あんたが魔術に長けてるのに、なんで団長が強くなる必要が?」 「考えてもみなよ。魔術を扱うのには魔具が必要なのが普通。プライベートなら、魔具は外しておくこともできる。……だというのにさ」 「…………」  その先を言いたくなさそうなサルフェの顔は、憂いを帯びたものになった。  釣られて、ソウの表情も硬くなる。  間違いなく、異端。  そして類稀なる希少性から、理解は得難いのだろう。  成程、話をしてくれる者がいない理由は、ここで納得できた。 「魔女だ、魔女だ、って石を投げられたものさ。そんな私を守るために鍛えて、鍛えて、鍛えぬいて……全部叩きのめそうとしたのが兄さんだ」 「団長……」 「それでも結局偏見は変わらなかったから、この街に移り住んできたわけなんだけどね。落ちこぼれと魔女の兄妹は、親からも愛されなかったよ」 「サルフェ……」 「結局、ここでも魔女扱いだったけどね。郊外に住めるだけマシなもんだけど。あ、そうそう。 『魔具なしで魔術を扱うことのできる人間』は、大昔に滅ぼされた魔族の血を引いている……なんて話も、あったりするね」 「…………」 サルフェの捻くれた性格は、こういった経験のせいなのだろうか。 ソウは感情移入しやすいところがあるが、早くも彼女を憐れむ心が湧いていた。 「で、キミは魔女からのお話をもっと聞きたいと思うかい?」 「ああ……頼む……」 「ふっふっふっ、同情は要らないよ?これはこれで出来ることも色々あるからね。まぁ、解析した思考パターンから、そう言うのも読めてたけど」 「おまえーっ!」  訂正。  やはりサルフェは、性格が、悪い。  そんな喜劇があったりもしたが、サルフェの指導そのものは兄の頼みなのもあってか、まともなものだった。 「まず、キミに魔術の適性があるかだねぇ。ないならないで、『ソレ』が強そうではあるけどさ。とりあえず、それを右手に嵌めてごらん?」 「これか?」 「そう、その赤いやつ。嵌めてググっと力を入れてみるんだ」 「こうっ……んぎぎ……か……?」 「火属性は適正なし、だね」 「火、ダメなんすか」 火といえば、ポピュラーで極めて王道な属性である……と、ソウは考える。 彼自信、火を操る赤いヒーローのスーツを着て演技した経験もあったから。 その適性がない、というのは少々悲しいことであった。 「じゃあ、次は青いやつ」 「水かな?」 「せいかーい」  以降は水、土、風、雷……とサルフェの部屋にあるあらゆる魔具を試したものの、成果はなし。 「サルフェ、俺、もしかして……魔術適正なし?」 「まぁまぁ、最後の一つを試そうじゃないか」 「あと二つじゃなくて?あの黒いやつ」 「あれは……ダメだよ。さぁ白い魔具を嵌めるんだ」 「はぁぁぁぁぁ……!」  黒い魔具が気になりながらも、ソウが右手に嵌めた白い魔具は、光り輝いた。 「おっ!やったぞ!!これ何属性なんだ!?」 「レア中のレア、光属性さ!おめでとう!」 「やっふー!これはこれでヒーローらしいな!」  右手を解き、二人とも笑顔の状態で、講義は続く。 「で、光属性って何ができる属性なんだ?」 「光属性は、言ってしまえば『生』の属性。攻撃に転用することもできなくはないけど、基本的に生命力を補うことのできる魔術が中心だね」 「そっかー。そっかー」 「嬉しいのが隠せていないね?私もレアなものを見られて嬉しいよ。人命救助なんかにも向いているからね」 「俺のやりたいこと、見抜いてるわけだ?」 「そういうこと。それと、あれを使わずに済んだのも幸いだねぇ」  サルフェの視線が向いたのは、結局使われなかった黒い魔具。 「これは……闇属性の適正が見られる魔具だね。光とは逆に、死をもたらす。危ないから、使わないに越したことはないよ」 「……」  ソウからすると、それも必要になる時が来るかもしれないから、試したくはあった。  しかし、サルフェがそこまで忌避するということは、相応の理由があるのだろう……とも考える。  ソウがアクションのプロフェッショナルなら、サルフェは魔術のプロフェッショナル。  先達の言う事を素直に聞くのが大切なのは、前世の社会で学んだことだった。 「じゃあ、最後に。『その鎧』固有の魔術、見せておくれよ」 「『願いを叶える力』のことか……?」 「そうそう、頼むよー!見たいんだ!内容はなんでもいいからさ!」 「じゃあ使うか。Wish to the Star!」 ソウが叫ぶや否や、彼の身体が縮んでいき、子供ほどの大きさになった。 「こうやって、自分に対する事象ならなんでも出来るのがこの鎧だ。ちょっ、おい!?」  それを見たサルフェは、彼の身体をペタペタと触り始めた。  興奮が隠せないらしい。 「これは星属性!『願い』の魔力だよ!!!伝説上でしか存在し得ないと考えられていた魔術さ!」 「ねがいのまりょく?」 「人は願う時、空を見上げて星に願うのさ。それを受け止め、叶えるのが星の魔力。今後のキミは、光と星の二つを上手く扱えるようにならないとね」 「そうだな、色々ありがたいし、これからもよろしく」 「ところでこれを作ったのってっ……あっ……え……へへ……だれ……?」  涎を垂らし、興味津々で制作者を訪ねるサルフェに対し、唯一地上に残った女神トレアであるとは、少々言い難かった。