幕間 「はいはーい、じゃあ今日は特別編。 “All-Exスーツのメーカー事情”について、軽く講義しようか」 部室の片隅。 整備用タブレットをいじりながら、良先輩が、私のスーツと学校備品の機体を交互に見て言った。 「雛芽のスーツ、ちゃんと“いいとこの子”だからね? これ」 「‥‥え、そ、そうなんですか?」 「うんうん。All-Exスーツの世界って、実はだいたい4社で回ってるのよ」 そう言って、タブレットにロゴが並ぶ。 1:アルノームカンパニー(Alnorm Company) 「まずは最大手!  All-Exスーツの生産数で言えば、ここがダントツ」 「競技用にも力入れてて、  安価・扱いやすい・癖が少ないで有名なのが《マルチストライカー》シリーズ。」 ‥‥あ。 模擬戦で舞夏先輩が着てた奴だ。 「どこの学校の備品のスーツも、大体これだね」 「それから――」 私のスーツを見る。 「雛芽の《ハープライト》も、ここ」 「そうなんですね‥‥」 「うん。  扱いやすい“優等生スーツ”のマルチストライカーシリーズと、を作る会社だけど、  高級コンセプト機の二本柱だね」 「全体的にバランス重視で、尖りは少ないけど、完成度は高い。“困ったらアルノーム”って感じのメーカーだね」 選手やその専用機、という点で見た事はあったけれど、企業にまで注目していなかったから、少し新鮮。 2:バークテック(Barktech) 「次。作業用スーツの大手。つまり“現場主義”」 少し自信げに告げる良先輩。 「とにかく」  良先輩は自分のスーツを軽く叩く。 「頑丈・堅実・信頼性重視」 「壊れない。調子が狂わない。挙動が素直。派手さはないけど、“裏切らない”」 「だから」 千紗先輩の方をちらっと見て。 「私とか、千紗みたいな“堅実派”は、ここを選ぶことが多い」 「デザインは‥‥まあ‥‥」 少しだけ苦笑い。 「“無骨”って言われるね。いやでも、そういう所がいいってのはあると思うんだよね、うん」 3:ミカガオ重工 「ここは、他とちょっと毛色が違うんだよね」 少しワクワクしたような顔で語る良先輩。 「もともとカスタムパーツ屋だった会社で、 “じゃあ自分たちでスーツ作った方がよくない?”ってなったタイプ、最大の売りは――」 指を一本立てる。 「拡張性」 「フレーム構造から“いじる前提”で作ってる。 オプションパーツも沢山あるから、オリジナリティ出したい人向け」 楽しそうに語る様子は、良先輩がメカニックとして弄りがいがある、と言外に行っているようだ。 「サポートも細かいし、“自分だけの一機”を作り込みたい選手には人気かな。蒔田先輩の《桜鳳嵐月》は、ここ」 「自分好みを突き詰めるタイプの人は、だいたいここに行く」 4:キューゲンリヒト(Kügelnlicht) 「で、最後‥‥一番の問題児」 「舞夏先輩の‥‥」 「部長のファンなら知ってるか。もともとレース用スーツ屋で、競技用としても入って来たんだけど‥‥」 「速い。軽い。精巧。‥‥そして、高い」 「性能もデザインも、ほぼ芸術品。憧れてる子は多いと思うよ、うん。」 少し肩をすくめて。 「ただし、“芸術品”って呼ばれるのは、  一発もらったら終わりな繊細さの揶揄でもある訳で‥‥」 「繊細。ピーキー。整備も大変。  これを本番で扱える選手は、かなり限られてるって感じ」 「だからこそ」 ニヤりと笑う笑みは、自慢げで。 「部長みたいに使いこなせる人は、それだけで実力の証だね」 色々聞いてみると、中々奥が深そうで。 「まあ、どの会社が良い悪いって話じゃない。大事なのは、“自分に合ってるか”と、“使いこなせてるか”」 そして、にこやかに私を見て。 「雛芽の《ハープライト》はいい機体だよ。素直で良い子。ここからカスタムしたりもあるだろうけど、まずはスーツに慣れてあげる事だね」 そう言われて、改めて気合を入れた。