「失礼します」 言葉の尻尾を、重たい扉の音が踏み潰す――ぬるりと、影が入り込んでくる。 儚げな横顔、たなびく袖は、幽霊とも見間違いそうなほどに美しい。 だが俺は、その黄と緑の髪が左右に分かれて振れるのを見て、動悸が止まらなかった。 音もなげに、彼女は俺の転がっているすぐ近くまで歩み寄ると、 小首を傾げる風にして、じっと、こちらの様子を伺うのだった。 袖の中に隠された小さく、細く、人形のような手。苦労の重みを知らぬ指。 人肌の熱を感じさせない、冷たささえ錯覚させる五本の氷が、俺の身体の上をなぞる。 触れられたところから、びりびりと電流が走り――視界が、白と黒とに激しく点滅した。 大の男が、少女に撫でられただけで呻くのはあまりに情けないと思いつつも―― その指のある箇所が、ようやく血の止まったばかりの生々しい傷の上であるとなれば、 涙をこぼさずに目端を濡らしたぐらいで留めているのを、褒めてほしいぐらいだった。 DJがスクラッチをするような気軽さで、彼女の指は俺の身体のあちこちから音を引き出す。 「あら、ここと、ここにも…お可哀想に」 指はふと止まり、泣きぼくろを称えた垂れ目が、俺を憐れむように歪む。 気遣ってくれているのか?そうではないことを、俺の身体は覚えている。 こうして彼女の手が止まったときの方が、生傷を撫でられているときよりずっと怖い。 俺の視線は、彼女の可憐な顔よりも、細い腰、絞られて強調された胸よりも―― その一番上の、動物の口内を思わせる赤いバイザーの裏側、針のような飾りだけだ。 「それでお返事は――いつくださいますの?」 口元はあくまで柔らかく、尽きぬ微笑みを称えている――だが、それが一層恐ろしいのだ。 彼女の求める答え。君が一番だよ、と第三者の俺が肯定した、という事実。 それを引き出すために――彼女ら五人は、寄ってたかって、俺のことをいたぶり、愛でる。 彼女はただ、その始まるまでに少し時間がかかる、というだけに他ならなかった。 どう答えればいいか――脳内が答えを求めて高速でフル回転している間も、針は動く。 右へ、振り切れるほど速く、表情を少しずつ嗜虐的なものへと変えながら。 俺の胸板の上にある指が、みしみしと重たい音を立てて肋骨への圧を強めていく――