「お待たせー!いやー、一人にしちゃってごめんね、他のコ撒くので大変でさー」 俺がそちらを向くより先に、扉越しに高くキンキンした声が響く。 扉の開く音、やや乱暴に閉められる音、そんなものを圧倒する存在感、“カワイさ”―― 言葉の一つ一つは、確かにこちらを労るような文句に満ち溢れている。 それだというのに――彼女の瞳は俺を映していながら、俺のことを見てはいない。 「辛かったよねー。キューに、言いたいことあるなら全部、教えてよ」 にこにこ笑いながら、少女は俺に不在時の間に起きたこと――誰がいつ来て、何をしたか―― そんなことを問いかけてくる。背筋にぞわぞわと、これ以上にない嫌な汗が浮かんで垂れる。 言葉を探す時間が一秒伸びるごとに――彼女の機嫌はみるみる悪くなっていく。 笑顔のまま、眉だけかぴくぴくと動いて、肉食獣が獲物を見るかのように、揺れるのだ。 何度も何度も言葉を喉に詰まらせながら、俺は必死に他の四人にされたことを話す。 聞いている間も、彼女の笑顔は変わらず、大変だね、と相槌を投げ掛けてはくれる。 が、そこには会話は成立していない。酷く生理的に不愉快な槌の音だけが響く。 肯定も、否定も、同情も――俺が直前に吐いた言葉に、ことごとく合っていないのだ。 根本的に俺の話そのものを聞いておらず、心底、何もかもをも下らないと思っている―― そんな感情が、手元のスマホから離れない視線からもよくわかる。 「でもキューはたった一人の、キミの味方だよ。そうだよね?」 俺の話が終わったことだけを鋭敏に察知した少女は、またにこやかな笑みを強くする。 ずい、と俺のすぐ近くに近づき――透明なポンチョの中の、しなやかな身体の線を見せつける。 幼げな顔とは裏腹の、思った以上に“ある”胸を――意識的に、俺の鼻先に見せつける。 ここで俺が喜びながらも困惑するような素振りを彼女の前で演じて見せなければどうなるか? 「キューって優しいよねー…それに、かわいいし、ファンにもついつい愛されちゃうんだ」 手の中には、いつの間にかあの鋭い針がある。先端は、部屋にあった俺の歯に当てられて、 くるくる回りながら――すとん、と実に容易く、紐の通りそうなぐらいの穴が空く。 彼女の目は笑っていない。返事如何で、次の穴がどこになるか―― 唾を一塊飲む猶予だけが、俺に与えられていた。