最初に出会い、自分の正体が知られない間に捕縛を試みたが失敗し、バロッコから居なくなった時は名残惜しいけどそういうものだ。それで終わるはずの出会いだった。にも関わらず日野勇太はどういう訳か、バロッコに……ファヨンの前にまた現れた。自分とラフレシモン達で作り上げたこの【貪食の森】でパートナーともはぐれ迷った彼を、保護の名目で拠点まで連れてきた。いま彼が頼れるのは、自分達だけ。再会と同時に運命が手中に入る奇跡と思い込みたい偶然にファヨンは、それでも一旦は冷徹に、この先のことを考え始める。 「カタログ」に登録を入れた鬼塚光も、バロッコにいる。森に潜ませた部下から、彼女は自身と勇太のパートナーと共に運良く森を抜け、片桐達に救援を求めたと報告を受けた。明日には彼を助けに森に踏み込むだろう。 何もおかしい事はない、仲間を助けに向かうという当然の行動。ファヨンには日野勇太と鬼塚光がどんな関係で、どう歩んできたかは分からない。少なくとも、ただの友達や仲間ではないとだけは想像出来る。 つまり何もしなければ、彼は自分の元からまた消える。 疲れと安心から、貸し与えた自分のベッドで眠る勇太を、ファヨンは奥に濁りを残した目で微笑み、彼の赤い髪に手を触れ、優しく撫でる。 ふわりとした柔らかい手触りに、自分が使っているシャンプーと同じ、僅かに残った石鹸の香り。恐怖と不安が心の内の大半を覆ったままだと言うのに、助けて貰ってばかりじゃいけないと笑って調理を買って出る気立ての良さ、流石に無理しないでとノヘモンが嗜めた時に、お願いしますと受け入れる素直さ、それから袋麺を啜った後の一度は安堵した表情、今は眠りで瞑っている日光の様な暖かさのある橙色の瞳が、彼の多くの表情を明るく照らすようにすら見えていた。 可愛げがあり、明るい、優しい、甲斐甲斐しい。あの時に彼が作ったきっとどこででも作られているカレーの味がファヨンの舌に蘇ったと同時に、心の奥底に張った根に、暗く濁った感情の水が吸い込まれ、脳へと送り届けられていく。 ずっと、弟が欲しかった。可愛げがあって、他愛のない話を聞いてくれて、苦しい時でも一緒にいてくれるような、家族が。きっとそうなってくれる存在が、目の前に居る。そして何もしなければまた、居なくなる。 私はこの子と一緒に居たい、絶対に誰にも渡さない。取り返しにくる奴らを、本来の目的のためにも排除する。 寝息を立てる勇太から視線を外し、ファヨンは与えられた純真の紋章を見つめ、淀み切った【純真】な願いと果たすべき目的が線になったことを胸に刻みつけると、勇太の頬に手を触れ、ソファーに体を預け、自分も眠った。