この星における「愛玩動物」の定義は極めて緩い――自己申告とほぼ同義である。 “それ”が愛玩動物として扱われる限りにおいて、他者も、そのことを疑ったりしてはならない。 たとえそれが、住民に限りなく近い生態や思考、混血すら可能な繁殖形態を持っていても、 少なくとも“飼い主”がその責任を持って飼う限り、あらゆる自由が担保される。 ――ゆえにこの文化は、銀河中から、“商品”を招き寄せる結果となった。 事実上の奴隷取引と揶揄されても、“鳥獣店”はあちこちに点在し、減る気配もない。 近隣の星系にて大規模な“仕入れ”が行われた際――その新たな商品の中には、 たまたま恒星間旅行中だった、ある銀河連邦高官の子息も含まれていた。 一度売り飛ばされれば、足取りは掴めなくなるだろう。いや、それだけならまだ望みはある。 どこかで粗雑な扱いを受け――生命を落とすか、はたまた、重篤な後遺症でも残れば。 そうなってからでは遅い、と、彼女は潜入捜査の任務を受けたのである――商品として。 地球人種で、鳥人族の遺伝子が組み込まれていて、今では絶滅した生物兵器の遺伝子と、 それを天敵とする、危険な在来生物――それに食われたありとあらゆる生命体―― 検品の最中、店員たちは驚いた。あまりに貴重――唯一といっていいほど珍しい、 膨大な種類の遺伝子型を取り込んだ個体。しかも単なる合成獣、というわけではなく、 容姿が極端に整っている、若い、雌。目安としての評価額すら付けられないぐらいの逸品だ。 どんな生物との交配も可能であろう――いやいや、そもそも、妾として囲う価値すらある。 流れる金髪と、目の醒める碧い瞳、透き通った白い肌――それを見るだけで、 宇宙のどこにこれだけの上物がいたのか、と驚くほどのものであった。 事実、彼女の競りは史上最高額を易々と更新した――それも当然である。 世に二人とない存在、この時を逃せば宇宙の終わりまで待っても手に入る機会は訪れない。 もしそこに、銀河最強の賞金稼ぎ、という素性が知れていたらどうなったろうか―― 更に桁が二つ三つは上がるか、もしくは警戒されて、市場を放り出されただろうか? ただ少なくとも、彼女の第一の目的である市場への潜入、売買の実態の把握は成った。 後は商品の保管場所を探し、そこで件の少年を見つけるだけ――というところで、 女の意識は途絶え、気が付けば、小さな檻の中に閉じ込められて運ばれる最中だった。 不自然な意識の途絶。仕事柄、まず与えられた飲食物への薬物混入を疑う――否。 次に、注射や瘴気――これも否。商品価値を下げるような毒は使うまい。 ならば――と、首輪に指を当てる。ぷつん、と意識が飛ぶ。同じ失神を二度繰り返し、 彼女はこの首輪と、気絶中に体内に埋め込まれた小さな金属が原因だと思い至った。 そう判断できたのは、それ以外の衣服を身に纏うことを許されていなかったからであり、 また、普段なら念ずるだけで装着できる、重金属の鎧を展開することすらできなかったからだ。 彼女はその大きな乳房も、むっちりした腿、肉付きのいい尻もそのままさらけ出して、 紐の結わえ付けられた、一見ちゃちな首輪一つを、犬のように引かれている。 見れば街には、同じ色の紐と首輪を付けられたどこぞの星系出身者が、 一糸纏わぬ姿のままに、衆目に晒され、尊厳を奪われながら歩いている。 彼らは皆――暗い表情をしていた。相互に助けを求め合う気力すらないようだった。 若い女の個体は、当然のように腹を膨らませ――あるいは懐に赤子を抱いていた。 無論、赤子も裸で、母親と同じ色の首輪を付けられているのである。 飼い主が自らの所有物をどう扱ったとて、周囲の人間は何も構いはしない。 それどころか、新たに産まれた個体を――譲ってくれとさえ言う。 彼女の飼い主は、自分の競り落とした女を、見せつけるように街に連れ出す。 服を着ていてさえ、老若男女の視線を集めるような女だ――それが全裸に首輪一つ、 明らかに場違いな風に歩かされているのだから、注目の度合いも相当なものだ。 そして首輪の紐をぱしんと打ち鳴らし、彼女に合図をする――ここで、用を足せ、と。 同じように、獣として扱われるうちに精神が擦り減って壊れてしまったような“仲間”たちを、 女は散歩の途中に散々見てきた――中には、真っ黒に染まった乳首と臨月大の胎のまま、 生ごみ置き場に、死んだように捨てられている成れの果てさえも。 星の悪習への怒りは未だ強く彼女の中に燃えてはいたものの、いざこうして大勢の前で、 犬畜生と同じような取り扱いをされると――心の膜が、少しずつ、剥がされていく。 これが毎日毎夜、終わることなく続いたなら――自分は、一体どうなるのだろう? 幸運だったのは、飼い主には彼女を直に抱こうという気がないらしいことだった。 それもそうかもしれない――同じような外見の女を見繕うなら、遺伝子操作と整形で一発だ。 何も惑星帯一つ買えるような金額をかけずとも、娼館を探せば素体はいくらでもいよう。 ただ、実際に抱かれてしまえば、やがて胎に子が宿り――一層、調査がし辛くなる。 恥をかかされているだけで済んでいるのは、まだましかもしれない――と、女は思った。 それが彼の優しさなどでないことは――すぐに知れる。 男は彼女を使っての商売を始めたのだ――単なる見世物、ではない。 子宮を使っての、他の愛玩動物達と掛け合わせての、新たな商品の製造。 檻の中に入ってきたのは――彼女と同じ地球人種の、まだ年端もいかない雄の個体であった。 そしてその顔には見覚えがある。そのために、わざわざこの星に来たのだから。 けれど相手の方は、自分を助けに来た存在が同じく愛玩動物の立場に落ちているとは知らない。 そもそも――少年は脳を物理的に弄られて、繁殖以外のことを考えられなくさせられている。 ただの小さな雄の獣。勃起し続ける性器を雌の膣肉の中に押し込むためだけに生きている猿。 自分のつがいとしてあてがわれた雌を、ひたすら孕ませるためだけに生命を燃焼させる蟲―― 静止の言葉は効かなかった。手で押しのけることも適わなかった。足で蹴り飛ばすなど言語道断。 そもそも、暴れようとした時点で彼女の意識は飼い主によって強制的に落とされる。 それを回避したとして、交尾のために自身の全筋力と生命を惜しみなく使う獣相手に、 傷付けることなく無力化するのは、限りなく困難な仕事である―― 結果的にあっさりと彼女の膣口には、細くも硬く反り返った性器が突き立てられることになった。 それは性交というより、まさに交尾――種付けのためだけの行為であった。 雄は乱暴に腰を振り、より奥、より深くに己の性器を届かせようとする。 当然、雌を孕ませる確率を少しでも上げようという本能の訴えかけである。 女はまた――自分の膣肉をめちゃくちゃに掘り返すこの少年を引き剥がせない。 強引すぎる性交は、痛みさえ伴うのに――身体は防衛反応として愛液を分泌し、 雄を奥に誘い込んでしまう。彼の種を、少しでも奥に受け――孕みやすくするために。 女体の味など知るわけもなかった、若く有能で銀河の将来を担うはずの頭脳は、 鼻血を噴き出すほどの興奮の中、血管をぶちぶち千切られて急速に駄目になっていく。 ただ彼は――雄としての本懐を果たすためだけに、眼の前の雌に腰を振るのだった。 その相手が、かつて憧れ、会いたがっていた銀河の守り手だと知る由もなく―― 女は胎の中が、少年の吐いた精によってたぽたぽしてくることに、不快感を覚えた。 彼の生命が、ただ無情に擦り減らされていくことへの反感と――そうしてあてがわれた自分が、 みすみす孕まされてしまうであろうことを予想して、である。 だが気合を入れたところで、どれだけ拒絶したところで――卵子の膜は思い通りにはならない。 ぷつり、と透明体を突き破る精子のあることを、意志の力ではどうにもできない。 見事に孕んだ彼女は――しかし、受精したにもかかわらず、少年との性交を続けさせられていた。 次の商品は、この雄とこの雌が交わって産まれたものなのだと示すために。 他の雄の介入する余地なく、この雄と雌の遺伝子を引いているのだとの血統書のために―― 檻の外で何人もの仕入れ業者たちが、自分の孕み腹を指差して予約を入れているのを、 その予約待ちが、もう両手の指の数でも足りなくなっているのを――反吐が出る思いで、見る。 胎の中で日々大きくなるその存在感は――このような連中の欲のためだけに、 産まれた瞬間から、まともに愛されず育てられるのであろうとの諦念が口からこぼれる。 赤子の頭を掴まれ、引きずり出されて――女は、やめてくれ、と言おうとした。 しかしその言葉は声にはならなかった――この一年のうちに、声帯を除去されたからである。 飲ませる相手はおらずとも、母乳は垂れる。その母乳もまた商品として搾られて、 別の商品の産んだ“幼体”を育てるための餌として、顔も知らない赤子の喉を通る。 彼女に種付けた少年は――一年間興奮させられ続けたことによって人相が変わり、 写真の中の、あどけない表情はどこにも残っていなかった――分泌物によって、 体毛は濃くなり、筋肉だけがちぐはぐに発達し、しかし頭髪だけは薄くなり。 その姿は、次第に、本当の猿のようになっていく――生命と引き換えに。 逆に女の身体と言えば、妊娠と出産――再度の種付け、終わることのない交尾によって、 むちむちと脂肪を乗せ――より雌臭く、淫猥に育っていく。眼の前の、雄を誘う身体へと。 腋から垂れ流される臭い、甘ったるい母乳の滴、柔らかな雌肉の掴み心地―― 自分の身体にのしかかってくるつがいの性器が、より固くなっていくのを、 女はどこか破滅的な悦びとともに理解していた――己の肉体が破壊し尽くされ、 ただ孕み、産むだけの何かに成り果てていく未来予想図と共に。