見てかぐや 彩葉が月人に勝ちそうだよ 彩葉が双剣を振るう度にデスを表す桜のエフェクトが舞い、月モチーフの残機が減っていく。 彩葉を纏うエフェクト…あれはチートだ。それもオーバーバフなんてチャチな物じゃない。もっと高度で月の技術も混ざった、間違いなくかぐやが作った本物のチート。…かぐやは、そこまでして月に帰りたくなかったんだね。 彩葉が投げたブーメランが纏めて月人達を桜に変える。 月人は情報生命体だ。故にルールに強く縛られる。これで彩葉が勝ってしまえばかぐやを連れ帰る事は出来ないだろう。 そうすれば彩葉とかぐやはずっと地上で一緒に暮らしてハッピーエンド… …じゃあ月見ヤチヨ(かぐや)は?月に戻り、8000年をかけて輪廻を巡ってきたはずの私は、どうなる?そのハッピーエンドに 私はいるの? 怖い、だから、今だけは、願ってしまう。 この世界の神様みたいな私の願いは、そのまま事象となる。 彩葉が翔け、その軌跡には桜のエフェクトだけが残される。月はあと一つしか残っていなかった。 彩葉の事を見たくなかった。 「これで…!」 月人の最後の残機。かぐやに託されたチート。この力で月人を追い返し一緒にハッピーエンド、それが目の前まで来た瞬間だった。 「え?」 私の身体が、青いエフェクトと共に消失していく。これはデスじゃない、強制ログアウトだ。 なんで、いや、このツクヨミで強制ログアウトなんてそんな事を出来るのは一人だ、振り返る、お互いに目が合った。 「ヤチヨ…!?」 かぐやがいなくなって、それからずっとずっと泣いて、あの事を考える。 ヤチヨ。少し考えれば分かる。彼女は月人の事を知っていた。コラボライブの時の彼女を見れば明らかで、それを隠していて、卒業ライブには協力してもKASSENには出てくれなくて。つまりは元から月人側の存在で… 「最初から…無かったんだ、ハッピーエンドなんて」 ─この世で頼れるんは自分一人や言うたよな? もう忘れてしもたん? せやったら─ そうだ、誰かに頼ろうとしたのが間違いだったんだ。 あれからずっと待ち続けても、ツクヨミに彩葉がログインしてくることも、ヤチヨの配信に彩葉が来ることも無かった。 きっと恨んで、怒っているんだろうな。 私は、謝りたくて、何より私が「かぐや」なんだって言いたいのに、怖くて、ずっと彼女を待つ事しか出来なかった。 ねえかぐや、貴方だったら (ゴメン彩葉!実はヤチヨってかぐやだったんだけど色々あって、あの時はかぐやを月に帰さなきゃいけなくてさ…ねえ聞いてくれる?) なんてあけすけに言えるのかな。 それが出来ない私は、もうかぐやじゃ無くなっちゃったのかな。 「ヤチヨ、お前それでいいのか?」 そう正面で私を見つめるFUSHIは、いつもよりずっと顰めっ面だった。 「…ヤチヨは、8000年でかぐやじゃ無くなっちゃったんだよ」 「ばかたれ」 そう言うとFUSHIは私をじっと見つめる。その目が赤く光る。 そうして見えるのは街中のカメラからの映像、そして映るのは彩葉だ。 彼女はかぐやと会う前よりずっと完璧な女子高生で…ずっと酷く見えた。 「それだけ待って、こんな終わりでいい訳ないだろ!」 …そうだ、約束したんだ、”自分でハッピーエンドにする”って、”そんで彩葉も連れていく”って もしかしたらメリバとかビターになるかもしれないけど、でも 「私だって、彩葉とやりたい事いっぱいある」 彩葉とまた歌いたかった、もっと話したかった、遊びたかった、もっと夢中にさせたかった、だから! 今日も一日の戦いを終え、家に帰る。 「……」 ただいま、なんて言えば返ってこない返事に寂しくなるだけだ。リビングもキッチンも見るだけ寂しくなるだけで、私は真っ直ぐに自分の部屋に戻る。 部屋は何も無くなった。キーボードも変な置物も…捨てられはしなかったけど仕舞った。ヤチヨの神棚も同じだ。映えなんて、何も無い部屋。 「…明日の予習しなきゃ」 いつも通り参考書を開こうとしたその時、ノートPCが独りでに立ち上がる。 「え…?」 そこに映っていたのはヤチヨだった。 「あんた…!どの面下げて!」 怒りが溢れる。あれからずっと、避け続けた顔。かぐやを奪ったその顔を、もう見たくもなかったのに、 「…彩葉、少しお話させて」 でもその顔はいつも笑ってるヤチヨとは思えないくらい真剣で、泣きそうで、その綺麗な顔を見て、何故だか花火大会のかぐやを思い出した。 泣きながら「ずっと一緒にいたい」って言ってくれたかぐやと。 それから久々にログインしたツクヨミで、ヤチヨの話を聞いた。ヤチヨが月に帰り、それからまた地上にまた来ようとして事故って8000年前に来たかぐやだって事、そしてあの時、その輪廻が壊れることが怖くて私を強制ログアウトしたこと。 「ごめんね彩葉」 ヤチヨが顔を伏せる。 「あのまま彩葉のかぐやが地上に残れば、ハッピーエンドだったのに、私はおばあちゃんになって、臆病になっちゃったんだ」 全然意味が分からなかった。ヤチヨが、かぐやで、8000年もずっと待ってて、それで 「それじゃあ…私のかぐやは?」 「今も貴方の歌を待ってる、私と同じように」 全然理解が出来なかったし、それに私はまだ怒っていた、でも分かった。 ずっとヤチヨは、待っててくれたんだ、私とやりたい事がいっぱいあったから、だから怖かったんだ。それは、あの時帰りたくないって言ってくれたかぐやと一緒なんだって。 「彩葉、もし許されないなら私は-」 「ヤチヨ!」 自分でも信じられないくらい大声が出た。だってその先の言葉なんて必要無かったから。 「あんたの考えてる事なんて、わかってるつーの」 だから 「私の知らない、8000年あったこと全部聞かせてよ」