月ストとリズノワの合同ライブから一夜明け、ようやく事務所の中に漂っていた緊張感も落ち着いた。 事務所内でも昨日のライブの感想戦で盛り上がっている。昨日のパフォーマンスを見せられたら無理もないよな。 俺の所にもひっきりなしに感想を言いに来てくれるのは嬉しくもあり、仕事中だから少し困ったりもあり。 まあ、俺も今日は仕事のテンションではないというのはあるが…。三枝さんに見つかったらお小言をいただきそうだ。 「…あれ、そういえば…」 いつもであれば真っ先に感想を言いに来そうな雫が、今日に限ってまだ来ていないな。 チケットを取ったと言っていたから、現地には行っていたはずだが…。 「おは…ござ…」 「!?び、びっくりした…おはよう、雫。すごい掠れ声だな…」 「ん…きの、さけ、すぎ…」 困ったな。何を言ってるのか全然わからない。 「ちょ、まっ…」 そう言うと、鞄をなにやらゴソゴソ…。 取り出したのは、タブレットか。 『昨日叫びすぎて、声が出ない』 それはまあ、見ればわかるが。 『最初から最後まで、激熱!座る余裕もなくて、脚もガクガク…』 「そ、そうか…楽しめたようでよかった」 『うん。怜ちゃんの誕生日プレゼントも兼ねて2枚確保して、一緒に行ってきた。  怜ちゃんも声ガラガラになるくらい盛り上がってたし、今日は疲れ切っててまだ寝てると思う』 『あ、昨日の怜ちゃん、バチバチに決まってて超ギャルって感じで、めちゃくちゃ可愛かった。後で写真送る。  ステージの芽衣ちゃんが気付いてくれて、すごいファンサもらってた。うらやましい…』 『帰りに一緒にラーメン食べてきた。ちゅるちゅる』 ああ、なるほど。確かに怜の姿もまだ見ていなかった。 元々朝が弱いし、昨日の今日ならゆっくり休んでもらって、プレゼントは会った時に渡すとしようか。 『会場が暗転してリズノワがステージに出てきて、莉央さんが「すべてをぶつけるよ!」って言った瞬間、もう叫んでた。  「魚おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」ってくらい』 「その変換は合ってるのか誤字なのか判断に迷うな…」 『間違ってない。私はこう叫んでた』 「そ、そうか…」 まあ、挨拶の時にいつもやってるからな…。 『可愛いとカッコいいの詰め合わせ、最高だった…お盆とお正月的な感じで』 「独特な表現だな…」 『あ、そうだ!可愛いと言えば、あのこころちゃんのソロ曲!  何あれすごかった!いつ配信されますか今日ですか!明日ですか!』 「あー…あれな。今各所と調整中だからもう少々お待ちください」 『そっか…早く音源入手して鬼リピしたい…待ってる』 ちょっと残念そうで、でも本当に楽しみにしてるんだなとわかる。これは調整を頑張らないとな。 『あとは、やっぱり渚ちゃんはさすがというか、すごい。あざといの天才!完全に私の幼馴染だった』 「まだ披露した回数自体は少ないけど、毎回好評だな」 雫は星見市出身じゃない、というかそもそもあれはゲーム内の渚なんだが…。まあ、突っ込むのは野暮というものだろう。 …って、あれ?楽しそうにしていた雫の動きが急に止まったぞ。 「どうしたんだ?」 『指が疲れてきた…。無限に語りたいことがあるのに、もどかしい。  それに、ちゃんとおしゃべりしたいから、また今度、時間取ってくれる?』 「なるほど、そういうことか。いいよ」 『よかった。ちゃんと声出るようになったら、絶対最低8時間はおしゃべりしたい』 いつもと変わらないな? 『名残惜しいけど、お仕事行かなくちゃ』 「ああ。昨日の今日で疲れてるところすまないな…。絶対に時間は作るから、また話してくれ」 『うん。それじゃ、行ってくる』 雫は軽くお辞儀をして部屋を出ていった。 あれだけ楽しんでくれたのなら、出演した側のみんなも本望だろう。 さて、曲配信もだけど、次のライブのことも考えないとな…。 終わり。