​>なにか明るいお話して。 琥珀色の液体が、クリスタルグラスの中でゆらりと揺れる。 深夜の。窓の外には荒涼とした汚染地帯の夜が広がっているが、この小さな空間だけは、米酒の香りに満たされていた。 「あんた…一人で毒を煽る趣味がある訳? 」 静寂を裂いたのは、氷の刃のように冷たく、けれどどこか甘く湿度を含んだ声だった。 振り返れば、そこにはマキアートが立っていた。月光を吸い込んだ髪が、薄暗い部屋の中で幻惑的な光を放っている。彼女は音もなく歩み寄ると、私の隣、かろうじて触れ合わない程度の距離に腰を下ろした。 彼女の手には、いつの間にか持ち出した空のグラスが握られている。 「……私にも…それ、飲ませて」 細くしなやかな指先が、私のグラスの縁をなぞる。熱を帯びた視線が私を射抜き、逃げ場を奪う。 私は黙って、彼女のグラスに琥珀の雫を注いだ。 ​「珍しいな。君が晩酌に付き合ってくれるなんて」 ​問いかけると、マキアートはグラスを口元へ運び、一口、喉を鳴らして飲み干した。白い首筋が艶やかに波打つ。彼女はふっと視線を落とし、火照った頬を隠すように髪を耳にかけた。 ​「……たまには、こういう日があってもいいでしょう? あんたを一人にしておくと、どこか遠くへ消えてしまいそうだから……」 ​その声は、普段の冷徹な狙撃手からは想像もつかないほど、脆く、情熱を孕んでいた。 ​時が経つのを忘れるほど、私たちは言葉を重ね、酒を重ねた。 アルコールが彼女の警戒心を溶かしたのか、マキアートの瞳は潤み、吐息は熱を帯びていく。 時が経つのを忘れるほど、私たちは言葉を重ね、酒を重ねた。 アルコールが彼女の警戒心を溶かしたのか、マキアートの瞳は潤み、吐息は熱を帯びていく。 ​「……悪酔いしたかも……」 ​不意に、重力に逆らえなくなったかのように彼女の体がこちらへ傾く。柔らかな重み。漂ってくるのは、火薬の匂いを上書きするような、彼女自身の甘い体温の香りだ。 私は彼女を支え、自らの膝の上にその頭を導いた。いわゆる膝枕だ。 ​「……暖かいわね……心地良いかも…」 ​マキアートは私の太腿に頬を埋め、陶酔しきった表情で目を細める。私はその髪を指で梳き、彼女のうなじの柔らかな肌に触れた。彼女は身悶えするように小さく吐息をつき、私の服をぎゅっと掴む。 ​その密やかな情熱が最高潮に達しようとした、その時だった。   ​「……あら?随分と楽しそうな夜会ね」 ​冷ややかな、けれど激情を押し殺したような声が入り口から響く。 そこに立っていたのは、クルカイだった。彼女の瞳には、明らかな動揺と、燃えるような嫉妬の炎が宿っている。 ​修羅場か。私がそう身構えた瞬間だった。 ​私の膝の上で、酔いどれたマキアートがゆっくりと顔を上げた。 彼女の頬は真っ赤に染まり、視線も定まっていない。しかし、クルカイと目が合った瞬間――。 ​マキアートは、その艶然とした唇を三日月のように歪めた。 勝利を確信した女の、残酷なまでに美しい笑み。 彼女はわざとらしく私の腕を抱きしめ、クルカイを見せつけるように、勝ち誇った瞳で笑ったのだ。 ​夜の静寂の中で、女たちの無言の火花が、ウイスキーの香りよりも濃く、激しく散った。 続かない