「貴方はなぜそんな平然としていられんですか」  苦々しげに問いかけるクリストの様子を如何にも面白げに笑いながら、マーリンは反問する。 「逆に聞くぜ、なんでお前はそんなに一々苛立ってんだ?まるで理解できねえ」 「なんですって…」  つかつかと歩み寄ると、マーリンは馴れ馴れしくクリストの肩に手を置く。クリストが不快気に手を払いのけながら睨みつけると、二人の間に緊迫とした空気が流れた。 「お前が勇者と偽ることで誰が損してんだって聞いてんだよ」 「…本物の、勇者様であるイザベラ様に決まってるでしょう」  くっくっくっ、とマーリンの口から如何にも可笑しいとばかりにくぐもった笑い声が漏れる。 「面白いよなあ。"本人がなんも不満に思ってねえ"のによぉ!」 「黙れ!」  耐え切れなくなったクリストがマーリンのローブの襟首を掴む。 「僕が本来あの方が得るはずだった功績を不当に集めている!これが罪でなくてなんという!」 「ほう?その罪はどこが裁くってんだ!誰も訴えてない罪をよ!」  マーリンの言葉に電撃に打たれたかのように、クリストの体が硬直した。 「ものほんの勇者様はおまえのおかげでスムーズに活動ができるとホクホク顔!民はお前をアイドルのように言ってる!魔物はお前を勇者と誤認してイザベラへの注意が削がれる!」  なにがいけないんだと嗤う詐欺師。もはやそれ以上彼の言葉を聞き続けることがクリストはできなかった。 「うるさい…うるさい、うるさいうるさいうるさい!!…嘘を吐くのは悪いことだ!嘘で利益を得るのは許されないことだ!!虚飾の栄誉になんの価値がある!真の功績も知られないイザベラ様を見ながらどうして平然としていられるっ!!」 「………」  マーリンは岩のように押し黙って答えない。ただ、彼の目に複雑な色が宿っていた。その色は、若しかしたら後悔と呼べるものだったかもしれない。しかし、マーリンも、クリストも今それを気づける余裕はなかった。 「僕は……誤解され、軽んじられたイザベラ様を見て嘯いていられるほど、強くはない……」 「………」  手を膝につけて息を荒げているクリストをマーリンは黙って見つめる。 「なんか言ってくださいよ…」  クリストが頭を上げると、そこには初めから誰もいなかったかのようにマーリンの姿は消え去っていた。 ”悪かったな”  虚空から彼の小さな声が聞こえた気がした。  ふと今日はエイプリルフールだったことに気づく。 「誰も傷つかない、嘘を言ってもいい日、か……」  嘘とはなんなのか、自分にとって、あの者にとって、真実とは、虚偽とはなんなのか。  幾ら考えても、今のクリストに応えは出せなかった。 ********************  草原で寝そべっていたマーリンの隣にハルナが座ると話しかけた。 「エイプリルフールなんだってね今日は」  ふん、と鼻で笑ったマーリンを気にせずにハルナ言葉を続ける。 「この日は嘘をついてもいい日なんだって」 「それはすげえ」  平然とした顔で答えたマーリンがむくりと起き上がるとハルナと向き合ってすわった。 「んで、お前は俺に嘘を吐きに来たのかい?」  ハルナは黙り込んだ。暫く黙り込んでいたハルナが、ため息を吐くと弱々しく続きを話し出した。 「教えてよマーリン。四六時中嘘をついている私たちってこの日はどう過ごせばいいの?」  マーリン俯いて動けなくなったハルナをじっと見つめている。 (とうとうまいっちまったか)  マーリンは心中ため息をついた。  人間サイドから見た魔王軍の悪行。ボルボレオとユイリアの善性。一向に頼りのない師。どれもハルナの心を削るには十分だった。  果たして自分はどうだ?目の前のハルナを冷静に観察できるほど心は落ち着いている。ひょっとしてマーリンという男は外道なのか? (悪党には違いねえ)  マーリンは己を嘲った。詐欺師が悪党でなくてなんだ?安っぽいヒューマニズムなんてとうの昔に捨てた筈ではないか。 『貴方はなぜそんなに平然としていられるのですか』  昨年の今日、忌々しい男が自分に問いかけた言葉がふと蘇った。 「そうだな…じゃあ、嘘つきにしかできない嘘をついてみるか」  えっ、と衰弱した目を見開いてハルナがこっちを振り向く。 「まあ、見ててな」  立ち上がったマーリンは二、三歩前に進み仁王立ちする。晴天を見上げながら勢いよく息を吸うと、全力で叫んだ。 「俺のっ名前はっ、ジャックだぁぁぁぁっ!!!!」 「さ、お前も叫んでみろ!気分いいぞ」 「マーリン、でも私」 「構わねえ!エイプリルフールだ!それに俺たちの他に誰もいねえよ」  ジャックの言葉にハルナも周りを見渡す。彼の他にあるのは草原と木々、そして青空だけ。そう思うとハルナの体は衝動的に立ち上がっていた。 「私は、カゲツ」 「もっと大きな声で!」 「私はっカゲツ!」 「もっと!」  ハルナはこれでもかというくらい息を吸い込んだ。 「私の名前は、カゲツだぁぁぁぁ!!」 「どうだった、エイプリルフールてのは」 「マーリン、これゼッタイ間違ってるよ」 「うっ」 「でも…、ありがと、ジャック」  青空を見上げながら言ったカゲツの感謝の言葉が、小さく、だがはっきりとジャックの耳に届いた。わずかだが。彼女の自分の本名を言ったことにジャックの鼓動が高鳴った。 (今度クリストに会ったら、酒の一杯くらいは奢ってやっか)  本当の自分を知ってもらえる、というのも意外と悪くないかもしれない。カゲツと並んで空を見上げながらジャックはそう思い始めていた。 ********************  薄暗い洞窟の奥深くに審判の勇者イザベルがいた。許されない罪と業を背負いし彼女は銅像のように体育座りのまま固まっていたが、ふと何かを思い出したかのようにもぞもぞと動き出した。  蝋燭の火を頼りに荷物袋を漁るとカレンダーを取り出す。彼女の視線はカレンダーの日付に注いだ。 「そういえば、今日はエイプリルフールだっけ…」  渇いた笑い声を上げるとイザベルは目を瞑る。思い返すのは幸せだった頃の記憶。まだ手が汚れていない己と、己自身の手で壊した家族との幸せな日々の記憶。 「お姉ちゃんとは。エイプリルフールに嘘を言い合ったなあ…どっちが嫌いかって言い合ったっけ」  結末は両方とも嘘でも嫌いと言われたことがショックで泣いてしまって引き分けに終わってしまった。母親に姉妹まとめて抱きしめられて、泣きながらお互い謝った。  もう、二度と戻らない。自分が壊した幸せな時間。 「エイプリルフールだから、嘘つくねお姉ちゃん」  イザベルは姿勢を崩すと、手を組んで目を瞑った。まるで神に祈るかのように。 「お姉ちゃん、私はお姉ちゃんに会いたいです。会いたくないなんて言い聞かせてるけどホントは会いたいです」 「お父さんお母さんごめんなさい。墓参りしたいです。貴方たちは来てほしくないかもしれないけど、それでも謝りたいです」 「神様、死にたいのに死ねない私をお許しください。生きるのは辛いのに。死ぬのはもっと怖いです」  懺悔のように言葉を連ねていたイザベルの瞳から涙がこぼれる。一体何様だ自分は。何の資格あって救いを求められる。 「嘘です、全部嘘、嘘。嘘!!私は許しなんか求めてません!そんな資格があるものか!!」  洞窟に少女の渇いた笑い声が響き渡る。エイプリルフールという日付でなければ、嘘という鎧を着なければ救いを求める声も出せない、哀れな女の笑い声は、いつしか嗚咽に代わっていた。 ******************** 「マリアン」 「ボーリャック、呼んで悪かったね」  秘密の会合場所で会いたいという印を見つけ、指定された時刻に何ごとかと訪れたボーリャックは何ごともなさそうなマリアンの様子に困惑した。 「なにがあった」 「なにもないさ、ただ、今日はエイプリルフールだろ」 「…は?」  ボーリャックは呆れ、次に怒りが沸いてきた。危険を顧みず急遽会合場所に訪れたというのに、その目的がエイプリルフールとは。何を考えてるのかボーリャックは目の前のアンデットが信じられなかった。 「もっと詳しく言え、もしくだらん理由だったら、お前でも許せん」 「おお、怖い怖い」  全く答えてなさそうなマリアンだったが、ボーリャックの顔の険しさに表情を改めると口を開いた。 「おまえ、寝れてる」 「は?それとこれとは」 「答えろ。寝れてる?」 「………」  沈黙が答えと判断したマリアンはため息を吐いた。 「近頃のお前は余裕がなさすぎるように見えて甚だ心もとないよ。まあ、敵地のど真ん中だからしかたないけどさ」 「それとエイプリルフールが、どんな関りを持つ」  まだわかんないのか、とマリアンが盛大に肩をすくめた。そしてニコッと笑うと両腕を上げながら口を開いた。 「今日はエイプリルフール。どんな嘘でも言っていいんだ。たとえ、『普段のお前なら絶対に口に出すことも許されない』と己を戒めてることでも嘘なら」  ボーリャックが目を見開く。そのために目の前のアンデットの聖女は自分を呼んだのか。危険を顧みず、死者になってもなお聖女として心の摩耗しかけている俺のために。  ボーリャックが一歩一歩マリアンの方に足を進める。 「俺はつくづく感じるがとんでもない人格者だ」 「そうだね」  マリアンの目の前の位置まで足を進めるとボーリャックが立ち止まった。 「俺は強いな。皆死んだのに心は全然痛まない。俺が弱くてごめんなんて全然思ってない。難民にも、聖騎士の生き残りにも」 「酷いこと言うなあ。でも許すよ」  ボーリャックが膝を付く。神に許しをこうかのように。 「俺のいた軍と戦って死んだ人間の兵士を見ても俺は何とも思わなかった」  ボーリャックが床に膝を付いた。ガチャリとボーリャックの鎧が二人しかいない空間に響いた。 「魔王軍に対抗する人間の兵士を、お、お、俺は……斬った!!勿論何とも思わなかったさ!!」 「あの時、仕方がなかったとお前は言ったじゃないか」 「ああ!もう全身傷だらけで、周囲をエビルソード軍に囲まれ、死ぬのは時間の問題だった!でも、それでも一人でも多くの仲間を救おうとして剣を振るい続けたあの者は真の勇士だった!」  ボーリャックの言葉は、最早絶叫へと変わっていた。その彼の叫びを静かにマリアンは受け続ける。 「お前はその兵を救ったんだ。他のエビルソード軍の手にかかったら更なる苦痛と絶望の中で死ぬことになったかもしれなかった」 「結果論だ!俺がもっと…もっと力と知恵があれば、あの者を斬らずに命を救えたかもしれなかった!」 「ボーリャック」  ボーリャックの言葉が止んだ。彼がマリアンに頭を抱きしめられていることに気づいたのは数秒後のことだった。 「『御霊もまた同じように、弱いわたしたちを助けて下さる。なぜなら、わたしたちはどう祈ったらよいかわからないが、御霊みずから、言葉にあらわせない切なるうめきをもって、わたしたちのためにとりなして下さるからである』……今日はゆっくりと心を休めよう。大丈夫、マリアンさんがお前の側にいてあげるよ」 ******************** 『会いたい』というラーバルにとって見慣れた筆跡のメモ。それを見た時ラーバルの心臓は早鐘のごとく波打った。  慌ててサンク・マスグラード帝国の訓練生寮を飛び出したラーバルは、馬を駆り目的地へと一目散に向かう。  彼の後を追う一人の白髪の少女の存在にも気づかないまま。  目的地の雪山を訪れたラーバルの前に、一人のフードを被った男が現れた。男が無言でフードを取ると、ラーバルの足元が思わずよろめいた。 「ラーバル」 「あに、うえ…」  ラーバル・ディ・レンハートの顔が悲しみに歪む。彼の目の前にいる青年の姿は形こそ異形となれど、まさしく何年も探し求めた、憧れの存在であり、目標でもあった長兄、コージン・ディ・レンハートだった。 「すまん、ずっと正体を隠してて」 「うすうす気づいていた。気づきたくなかったけど」 「そうか…」  兄妹が口を噤み、重い沈黙が流れる。耐え切れなくなったのはラーバルだった。 「どうして、今俺に正体を見せようと思った」 「うむ」  コージンがラーバルの前に進み出る。そして腕を伸ばせば届くような位置で立ち止まると、徐に片膝をついた。 「兄上!?」 「ラーバル…いえ、ラーバル・ディ・レンハート殿下」  口調の変わった兄の姿に衝撃を隠せないラーバルと対照的に、淡々とした様子でコージンは言葉を紡ぐ。 「私はこの国、サンク・マスグラード帝国で殿下の活動を見てまいりました」 「愚兄、コージンめはレンハートの子息の中で、王の素質に最も優れているのは」  コージンは一旦言葉を区切りラーバルの目をしかと見つめた。 「貴方を置いて他ならないと思っておりました」 「この国で訓練生として活躍する姿を見て益々予測は確信へと至りました。この国は長年の悪政で疲弊し、人心は廃れています。高貴な者への反感も潜在的に持っている国。その中で殿下は人望を集め」  コージンはちらりと視線をラーバルから逸らす。その先には木の陰に隠れて心配げに様子を伺うジーニャの姿があった。 「レストロイカ帝の信頼も勝ち取りました。……それに対して長兄コージンめは第一王子という重責を忘れ長期間国を離れた挙句、人外の身に堕ち、その挙句に」  コージンの顔が初めて苦渋に歪んだ。そのような兄の顔ラーバルが見たのはを初めてだった。 「護るべきレンハートを襲撃し、数多の人を傷つけました。もう私に戻ることは許されない。神が、父上が許しても私が私を許せない」 「黙れ!!」  突如のラーバルの𠮟責に、コージンの体がビクッと震えた。 「黙って聞いていれば良くも我が兄を散々に侮辱してくれたものだ。兄を騙る不審者よ」  ラーバルの目は怒りに燃えていた。そしてその中にある悲しみをコージンははっきりと見た。 「王国の最重要課題である王位継承についてベラベラと語った挙句、我が兄コージン・ディ・レンハートを良くもまあ誹謗を重ねたものだ!身を慎め!下郎!」 「…は」  恐れ入ったように俯くコージンを荒い息をしながら見つめる。長い沈黙が場を支配した。 「……今日は、エイプリルフールであるゆえ、先程の不敬は戯言としておく」 「本物のコージンにあったら伝えておけ、『お前も人の子なら、せめて親に直と顔を合わせて、わが身の不始末について頭を下げよ。それもできぬ親不孝者に合わせる顔などない』と」  平伏するコージンの体が小さく震えている。尊敬していた長兄の、変わり果てた姿をこれ以上見ていることに耐えられなくなったラーバルは踵を返す。  ラーバルの背後から小さく、泣きじゃくる声が聞こえた。 「…ラーバル」 「ジーニャ…」 「家の恥を見せちまった」  頭を下げるラーバルにジーニャが駆け寄り、ギュッと強く抱きしめる。 「頑張ったな、ラーバル」  びくっとラーバルの体が震え、それは次第に嗚咽に、やがて号泣へと変わっていった。 ********************  同じPTに所属しているアリシアとフレイが、報酬を受け取ると2人連れ添って銀行に足を運ぶようになったのはいつからだったか。  報酬の分け前を貰ったときの喜びというより安堵の様な表情。銀行を後にするときの憂いを感じさせる顔、報酬を少しでも増やすため自分の活躍の場を必死に求める顔、いつしかフレイとアリシアは、互いの姿に己の姿を重ね合わせるようになっていた。  今日、2人はいつもの送金を終え宿への帰り道を歩いていた。そこまでは普通の、2人の新しいルーティンの光景。だが、その日は少し違った。 「ちょっと公園寄ってこっか」  アリシアの発言にフレイは無言で頷く。女性は苦手なフレイだったが、アリシアにはある程度の信頼を抱いていた。恐らく、それは同族を見つけた時に感じる親近感のようなものだったのだろう。  夕焼けで赤色に変わる景色を、フレイとアリシアはベンチに座りながら眺めている。意図を聞こうとしてフレイがアリシアの横顔を見た、その時だった。 「エイプリルフールって知ってる?」  戸惑いながらもフレイは頷く。 「今日は嘘をついても許される日、だからフレイに酷い嘘を言おうと思う」  言い終えたアリシアがフレイの方を向く。薄い笑顔の彼女の顔がフレイには能面のように見えた。 「私には妹がいます。妹は大病を患っていて、何年も病院に入院しています。治療法は見つかってません」  フレイは息を呑んだ。構わずにアリシアは言葉を続ける。 「妹にはそれはそれは高い入院費がかかります。ですが私にとっては大切な妹。なので私は武器を取って金を稼ぎます。例え非人情と言われても、銭ゲバと罵られても」 「もし、フレイがしくじって命の危機に陥っても私は君を助けない。私の命の方が大切だから」 「───だから、私のためにとかそういう事を考えるのは絶対にしないでね」  話し終えると酷い嘘でしょ?っとアリシアがベロを出した。その姿がフレイには涙を堪えてるように見えた。 (──そっか、アリシアは僕のために)  フレイは全てを察した。アリシアは、フレイと線引きを図ろうとしている。恐らくはただのPTの仲間という関係に、情が混ざることを恐れて。  アリシアはフレイのために命を懸けることはできない。護るべき命があるからだ。  だが、それはフレイも同じこと。フレイはアリシアの目をしかと直視して口を開いた。 「僕も、アリシアに酷い嘘を言う」 「えっ」 「一人だけ勝手に話して線引きしようとするのはフェアじゃないよ。アリシアがそうするなら。僕も同じことをする権利がある」 「…うん」  そっと目を伏せるアリシアを見るフレイの胸に不思議な痛みが走る。フレイにはこの痛みの名が頭に浮かんだが、瞬時にそれを振り払った。  フレイはアリシアの手に自分の手を重ねる。 「僕は4児の父です」  ビクッとアリシアの手が震えた。 「フレイ、君の年齢は」 「見た目通り。正真正銘の人間だよ」  震えるアリシアの手にフレイがもう片方の手を重ね合わせる。 「これまで、4人の女に僕の身体を貪られた。自分の意の存在しないまま、僕は父親になった。……今、教会に僕の子供たちが預けられている。その子たちのためにも、僕は稼がなきゃいけない」 「なんで…なんで君が働くの!そいつらが養えばいいでしょ!!」  フレイはアリシアの悲鳴のような訴えに小さく首を横に振った。 「そいつらの手で育てられた子がどうなるかなんて想像もしたくない……。それに、どんなに親が疎ましくても」 「生まれてきた子は僕の血を分けた子供だから」  震える身体で、青ざめた顔で、でも必死に笑顔を作るフレイに、アリシアが言える言葉は何もなかった。小さく震える彼を抱きしめて安心させられたらどんなにいいだろうか。だが、フレイの過去を知ったアリシアにそれは無理な選択だった。 「だから僕は生きなきゃいけない。3人の子の命が僕の肩に乗ってるから。だから、だから…」  アリシアの瞳から、滂沱のごとく溢れる涙をフレイは指で拭う。 「僕はアリシアが死にかけても絶対に助けないから。だからアリシアは僕のために無理をするようなことは絶対にやめて」