視界の端に小さな影がチラついた気がして、思わず槍先に力を込める。 この路地裏に、怪しげな噂が流れていることは知っていた。 不審者か、或いは魔物の類か。 何かが、足元から‥‥滑り込んだ。 イメージしていた脅威より数段小さなそれへの反応が遅れる。 「っ!」 槍の穂先が空を切る。 その瞬間にはもう遅い。 脚を伝って、確かな質量が這い上がってくる感触。 冷たくもなく、妙に生き物らしい、細かく動く感触が脚を伝って―― 「な、ちょっと待て‥‥!」 思わず声が漏れる。視界では何も見えないのに、感触だけがやけに鮮明だ。 膝を越え、太腿へ。くすぐったさと、ぞわりとした嫌な予感が背筋を走る。 そして、股間でぴたりと止まった。 「‥‥は?」 信じられない場所に、確かな“重み”。小さな何かが、しがみついている。ぎゅ、と。逃がすまいとするみたいに。 一瞬、思考が止まる。 情けない声を漏らしつつ、息を詰める。 もしこれが“危険な生物”なら、この状況はあまりにも危険すぎる。 「‥‥っ、この!」 槍を捨て、股間に手を伸ばして“何か”を振り払おうとする。 「――っ、ぐ‥‥!」 鋭い痛みが、布越しに突き抜けた。 一瞬で理解する。これは“噛みつき”じゃない。刺して、繋がっている。しかも場所が最悪だ。 「や、めろ!」 歯を食いしばる。反射的に引き剥がす衝動を、必死に押し殺す。 この何かとは違うが、マダニに噛まれれば引き抜いてはならない、そういう知識を思い出す。 今ここで力任せに外せば――間違いなく損傷になる。 例えるなら、細い針が深く刺さったまま、それを無理に引き抜くようなもの。 しかも、よりによって血流の多いこの部位で。 「ぐ、ぅう‥‥!」 食いしばった歯の間から、呻き声が漏れる。 股間のそれに刺さった針は、そのまま緩やかに、管‥‥尿道まで をも進んでくる。 「っ、は‥‥!」 痛みと、恐怖とで脚が震える。 針は少しずつ深くなる。 「この、このっ!」 引き抜こうとして、思いとどまった。 今ここで強引に引き抜けばどうなるか。その想像に背筋が凍る。 もしこれが“危険な生物”なら――いや、そうでなくとも、だ。 こんな場所で“何か”を外せばどうなるか。 「ぐ‥‥」 痛みと恐怖で、息が詰まる。 声を上げそうになって、必死で堪える。 異物が、奥へ奥へと進んでいく。 尿道を辿り、最終的に狙うのは‥‥睾丸。 「う、うぁあああ..っ」 針は進む。少しずつ、確実に。 情けない悲鳴じみた絶叫も、誰にも届かない。 どうにか進む事も出来ないまま、歯を食いしばり身体を強張らせて堪えるしかない。 そうしているうちにも、“それ”は奥を目指し続ける。 「っぐ、ぅうう‥‥!」 不意に走る、奇妙な感覚。 痛みではなく、鋭さもない。ただ、くすぐったいような違和感が、奥からじわりと広がる。そして、違和感が広がっていくのと同じ速度で、異物が奥へ奥へと入り込んでいく。 「‥‥っ、う!」 逃れようのない感覚が、腹の底からこみ上げてくる。 頭と本能が警鐘を鳴らす。これは、不味い。 「っ、ぐぁあああ!!」 歯を食いしばっていたはずなのに、それでも叫びが漏れた。 鈍く、しかし深く‥‥内側から殴られたような衝撃。 反射的に膝が折れ、その場に崩れ落ちる。 逃げ出そうと立とうとした意志はあった。 前へ進もうともした。 けれど――身体が、それを許さない。 「く‥‥そ‥‥」 手は地面に付き、支えにして立ち上がるために使うつもりだたた。 それなのに、ただ、痛みに耐えきれず股間を押さえるだけ。 足も同じだ。 踏み出すためではなく、耐えるために内股に閉じてしまう。「ぐ、ぅうう…….」 食いしばった歯の隙間から、声が漏れる。 頬を脂汗が伝い、顎の先からぽたりと落ちた。 じわじわ。じんじんと。 針は入り込み続ける。時折止まり、再び進み始めるの繰り返し。 恐ろしい感覚を感じながらなのに、突然。 びゅくっ♡びゅるる♡ 土壇場で、雄としての役割が果たせないかという無駄打ち。 今そういう状態でないと分かりながらも、作り変えられる前に、 オスの精を放てなくなる前に放ち、何とか遺伝子を繋げようとする必死の抵抗。 情けない感触に、屈辱感と自己嫌悪が湧いてくる。 悶え、のたうち回り、何度も気を失う。 痛みと別に、射精の快感を感じ、それが逆に恐ろしい。 その一晩は、人生で一番長く、永遠にすら感じられた。 最初に取り付いていた“それ”の気配は、もう外にはない。 完全に内側に、身体の一部のように沈み込んでいる。 下腹部を触れても分からない。 けれど、内側に確かに“いる”。 ふらつく足で医者に向かったけれど、もう手遅れ、 この“何か”は、俺の身体を完全に作り変えてしまったと。 そして、それを自覚するのは、数か月した後だった。 胸元に手を当てると以前には無かった重みと柔らかさ。 呼吸に合わせて、わずかに揺れる感覚がある。 筋肉も少し落ち、代わりに脂肪が付き始めた。 睾丸では、もう精子は作られていない。 代わりに、女性ホルモンとフェロモンをどんどんと分泌。 身体つきを変化させると同時に、小さくなった陰茎からフェロモン混じりの粘っこい汁を漏らし、雄を誘う為の臭いを撒き散らすようになった。 まだ、女性化しただけなら、戦士として戦い続ける道もあったかもしれない。 だけど‥‥それも出来なかった。 戦いの場に立つと、咄嗟にお腹を守ってしまう。 お腹の中に潜んだそれに、母性のような物を抱いてしまうせいで、 危険な場所に立つ事を、身体が拒否する。 そして、それだけじゃなくて‥‥ お腹の中のそれは、”雄”を徹底的に破壊しようとしてくる。 それは、肉体面だけじゃない。 精神面でも、トドメを刺そうとしてきた。 命令のような本能のような、言いようの無い衝動に突き動かされ、裏路地にふらふらと入ってしまう。 そこで通りがかった男性に、媚びるような声で。 「え、えっと‥‥その‥‥だ、抱いてくれませんか?」 情けなく、恥ずかしい言葉を口にする。 ‥‥少し驚いた後、男性は下卑た笑みを浮かべる。 「へえ、でもお前、男だろ?」 「お、お願いします!気持ちよくしますからっ‥‥」 男を誘う、甘ったるい声。 自分でも吐き気がするような声だけど、何故か止まってくれない。 「あー‥‥まあ、割とイケる見た目か、ほら、来いよ」 そんな様子に何かを察したのか、男性は呆れたように小さく肩を竦めた後、手招きをする。 そして、誘われるがままに。男性へと歩み寄ってしまう。 「お、お願いします‥‥」 少し屈んで、男性の股間に顔を近づける。 ズボン越しに、男性器の膨らみを鼻先で感じると、勝手に身体がうずいて発情し始めてしまう。 それを意識した途端、腹の奥からじくじくと熱い何かが滲んでくるような感覚。 「は‥‥っ、すぅぅうううう♡♡♡」 腹の内側がきゅーっと切なくなる。 その疼きを解消させようと、自然と男性の股間に鼻先をグリグリと押し付けてしまう。 「勝手に気持ちよくならないで、ほら」 「あっ‥‥ご、ごめんなさいぃ♡」 思わず口から漏れた謝罪の言葉。 ズボンを降ろし、男性器を露出させる。 その臭いに、頭がクラクラする。 雄のフェロモンがむわっと立ち上り、それを嗅ぐだけで身体が発情し始めてしまう。 「はーっ♡はーっ♡」 自然と呼吸が荒くなって、腰がへこ♡へこ♡と動いてしまう。 そして、男性のモノにゆっくりと顔を近づける。 「ん、ちゅ♡ちゅっ♡」 啄むように一度、二度、三度‥‥何度も唇を重ねた所で、男性のモノはギンギンに勃起する。 その太い竿を舌先で舐め上げながら、ゆっくりと口の中へ収めていく。 「っ、うぉ‥‥」 男性が小さく呻くのを聞いて嬉しくなる。 そのまま口をすぼめて頭を前後に動かし始める。 「んっ♡じゅぷ♡じゅぽっ♡♡」 口の中で唾液と我慢汁が混ざり合う。 思っている程変な味がする訳じゃない、その辺の肌とそこまで変わらないような味。 だけど、男としての自覚がガリガリと削れていくのを感じる。 男性の手が俺の頭を掴み、奥までねじ込んで来る。 吐き気による反射か、自尊心の破壊からか、自然と涙が頬を伝い始めた。 「んぐっ♡んっ♡お゛っ♡」 不意に男性が腰を動かし始め、喉奥に亀頭をぶつけてくる。 苦しいはずなのに、それが心地良いと思ってしまう。 お腹の中が熱くなるのを感じる。 そうして、白濁を受け止める頃には、もう僅かながらあった抵抗も砕け散っていた。 「げほっ♡ごほ‥‥♡」 咳き込みながらも、男性器から口を離さない。 尿道に残った分を吸い上げるようにして、残った精液を飲み込んでいく。 「んふーっ♡ふーっ♡」 ようやく口から離すと、そのまま地面にへたり込んだ。 自分の股間が湿っているのを感じる。 ズボンを脱いでみると、下着に恥ずかしい染みが出来ていた。 作り変えられた睾丸が分泌する、雌としてのフェロモン混じりの汁を漏らし続けるそれは、 常に柔らかく上を向き、雌臭を漂わせて雄を誘う器官へと成り果てていた。 壁に手をつき、お尻を男性に向ける。 そして、誘うようにフリフリといやらしく振ってしまう。 「はぁっ♡はーっ♡はーっ♡」 胸と違いまだ尻には脂肪が付ききっていないせいで、 尻たぶは薄く、肛門は隠れずに丸見えになってしまう。 男に腰を掴まれ、尻に男性器の熱さを感じる。 その感触だけで、軽く達しそうになる程興奮してしまう。 「んぉおおっ♡♡♡」 一気に根元まで挿入され、獣のような声を上げてしまう。 お腹の中がきゅんきゅんする感覚と共に潮がぴゅっと噴き出し、 地面と壁に点々と染みを作った。 「はーっ♡はぁーっ♡」 荒く息を吐きながら、お腹に手を当てる。 お腹の中まで完全に作り変えられ、もう男じゃなくて雌なんだという自覚が湧いて来る。 それに合わせるように、男性器からは精液の代わりに雌汁が垂れ流されてしまう。 お腹の中の子に促された、雄としての自分にトドメを刺す為の儀式。 「んぉお゛っ♡♡♡」 それだけでなく、今後の自分の立場をより明確にする為の、“教育”。 「お゛っ♡んぉおっ♡」 何度も腰を打ち付けられる度に、頭の中が真っ白になっていく。 「んぉっ♡ほぉっ♡お゛ーっ♡♡」 入れて数度の動きだけで簡単に絶頂する雌の身体と違い、体内を往復する肉杭は、まだまだ満足していない。 それどころか、より激しく動き始める始末。 その刺激でまた絶頂し、そしてまたすぐに次の絶頂を迎える。 もはや獣じみた嬌声を上げながら、ただ快楽を受け入れる事しか出来ない。 やがて、男性の動きが更に激しくなる。 「お゛ーっ♡イグッ♡♡イギますぅうう♡♡♡♡」 どぴゅっと勢い良く熱い液体が腸内へ吐き出されるのを感じる。 それと同時に、俺もまた深い絶頂を迎えていた。 「あ‥‥はぁ‥‥♡」 蕩けた笑みを浮かべる俺の顔を、男性は精液の付いた手で撫でてくる。 それにも反応して軽くイッてしまう程敏感になった身体を、優しく抱き寄せながら囁くように言った。 「よーし、それじゃあ続きは向こうでしようか?」 指さされた先には、安っぽいホテルがあった。 もう抵抗感など欠片もなく、小さく頷き男性に手を引かれて歩き出すのだった。 それから一月後、路地裏で、 パンパンと肉がぶつかり合う音が響く。 下腹部はぼっこりと膨らみ、妊娠しているようだ。 その腹に手を当て、夢中で腰を振る。 「おっ♡おぉっ♡♡♡」 雄なら誰でも股を開き、肛門に男性器を受け入れる、 そうしなければ生きていけない身体に作り変えられてしまった。 「おほっ♡んぉおお♡♡♡」 びゅーっと勢いよく精液を注がれると同時に達する。 そうして、男が去り、路地裏に残され、気絶するように地面に倒れ込む。 お腹の中で寄生した物から何かが吐き出され、肛門の奥で蠢く。 そして‥‥尻穴から汚い破裂音を響かせながら、腸内で育てられたそれがひり出されていく。 その一つ一つを産んでいく度に絶頂を迎え、潮吹きを繰り返す。 排泄にも似た”出産”。 気の狂いそうな叫びと快感の中、 完全に”女”になる事を受け入れてしまった。